絵津鼓「メロンの味」上・下 のネタバレ感想|生きるために生きられないあなたへ。優しく心を包む名シリーズ

コミック

絵津鼓先生「メロンの味」上・下を読みました!

登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨

登場人物とあらすじ


大ヒットしたバンドの天才少年(10年以上スランプ中)×親と不仲なゲイのライブハウス店員 のお話。

<あらすじ>
ライブハウスで働く中城と常連客の木内、ふたりの同居は急だった。
木内は同棲していた彼女と別れたばかりでしばしの寝床を探していたとのこと。
自分はゲイだと明かして断ろうとする中城だが、「いいよ!」と言い切られてしまい…。

 

こんな人におすすめ

  • 絵津鼓先生のファンだ!💪❤️
  • 日常系の淡々としたBLが好き👬
  • 線の細い、おしゃれな絵柄の漫画が好き📖

 

ネタバレ感想

メロンの味 上

木内さんの「このメロン味(メロンソーダの味)って偽物だよね?偽物だけどメロン味って定着してるよね?うらやましい」の真意がすごく気になります。

①中学時代に神童だと言われて爆発的に売れた歌手、②10年以上スランプで何も生み出せていない という大きな秘密をもとに考えるに、偽物でも皆に認められるようなものを作り出せる、生み出せることが羨ましいということでしょうか?🤔💭
会社の前で待たされている少年を気にしている様子なのも、気になります。少年時代に何かあったのかな…。

中城くんの名前、「親」なのは本当に…あまりに皮肉で…言葉が出てきませんでした。「親にもなれないのに」っていう本人の言葉がトゲのように心に刺さります。不仲な親との関係性を浮き彫りにするような自分の名前を嫌いだと思う気持ち、分かります。

恋人と別れた後の中城くんの「恋人とか親とか なんで俺は普通に愛されたい相手ばっかりこんな風になるんだろ…」って独り言、心に悲しくこだまして、中城くんの孤独が響きました。
誰もが死ぬまで抱えている葛藤のような気がします。辛いね…。

メロンの味 上
作者:絵津鼓
ライブハウスで働く中城と常連客の木内、ふたりの同居は急だった。木内は同棲していた彼女と別れたばかりでしばしの寝床を探していたとのこと。自分はゲイだと明かして断ろうとする中城だが、「いいよ!」と言い切られてしまい…。

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メロンの味 下

木内さんの「本当は死んじゃいたいんだ 毎日何かにイライラして これさえ満たされてたら、ってところがいつも欠けてる 全部がグレーに見えて 頭では分かっていても 生きるために生きられない」がものすごく分かって、なんでこんなにぴったりな言葉を絵津鼓先生は分かるんだろう…と涙がボロボロ溢れました。(私も現在進行形でうつ病の治療中です)

何も知らない中城くんだから一緒にいて心地よかったと嘯いていたけれど、中城くんがただ一緒にいてくれる人だから木内さんは心地よかったんですよね。

2人が抱き合っているシーンは木内さんと中城くんの魂が溶けて一つになるのが透けて見えるようで、どうしようもなく胸が締め付けられました。

木内さんの「俺の夢は15歳で音楽の道は絶たれたんだと諦めること」という言葉が、読後ずっと脳内をぐるぐるしています。
好きなはずの音楽で何も浮かんでこない、生み出せない苦しみ…。私も何かを生み出していないと自分自身が無価値に感じることがあって、木内さんに自分自身をつい投影してしまいます。木内さんの苦しみが、じわじわと心臓を侵していくような気持ちになります。

「やりたいこととかやりたい仕事とかない」と言う中城くんが唯一持っていた「家族を持ちたい(愛情を注ぎたい)。犬が飼いたい」という夢、木内さんと叶えられそうですごく幸せです。2人どうかずっと幸せでいて…。

メロンの味 下
作者:絵津鼓
ふたりで一緒のベッドに寝ることも日常の一部になった中城と木内だが、まだ木内には中城に言わないでいることがあった。難航する木内の部屋探しを横目に見ながら、中城は「ずっとウチに居れば?」と言いたくても言えなかった。木内が本音を出せるような相手には自分はなれていないと感じたから…。

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まとめ

これは、生きるために生きられない人(木内さん)と愛してほしい人(親や恋人)に愛されないのに何のために生きているか分からないと思いながら日々を過ごす人(中城くん)が出会い、生きる意味を見つける物語です。

この世界に生きている人のどれくらいが、「生きる意味」について考えているでしょうか。「生きるために生きられない」と苦しんでいるでしょうか。

私は木内さん、中城くんどちらの気持ちもすごく共感できて、「どうして人生ってこんなに馬鹿みたいに長くて、幸せな時は短くて、苦しいばっかりなんだろう」と読みながらつらくてたまりませんでした。

でも読んでいくうちに、木内さんがただそばにいてくれる中城くんを「好きだなあ」とただ愛おしく思い、中城くんも、さまざまな熱さをうちに秘めた木内さんを慈しみ、2人が寄り添っているのが当然になっていくのが本当に素敵だと感じ始めました。

最後、木内さんが中城くんに家族になろうと提案するシーンは涙が止まらなくて、「生きていたら、生きる意味が唐突に分かるような…こんな幸せな瞬間が訪れるのかもしれない」と希望を感じさせられました。

今、生きているのが辛い人。生きている意味が分からない人。どうして誰も自分を殺してくれないのかと苦しくてたまらない人。そんな人に、読んでほしい本です。

使い古された言葉だけど、読み終えた時、あなたは1人じゃないんだと、木内さんがあなたの背中を抱きしめてくれているような気持ちになるはずです。

「死ぬのにはまだ早い、もう少し生きてみてもいいんじゃないか?」そんなふうに、人生の風通しを少し良くしてくれるような、そんな清々しいお話でした。