山田袋「とろける恋人」のあらすじ・感想・レビュー・試し読み|人ならざる者たちの、いびつな”愛”の讃歌

コミック

不思議生物を愛しの先輩に変身させてセックス!これって幸せ!?山田袋先生「とろける恋人」を読みました!

登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨

登場人物とあらすじ


先輩を追うストーカー×先輩に変身できる不思議生物 のお話。

<あらすじ>
景介のもとに突然現れた、姿かたちを自由に変えられる”謎のブヨブヨ”。
それを”リク”と名付け、「大好きな先輩」に変身させては抱く毎日。
でも、景介の望みはやっぱり「本物の先輩」で…。

 

こんな人におすすめ

  • 人外BLが好き👻
  • 行間を読ませる、余白の多い作品が好き💭
  • 才能の原石に触れたい💎

 

本作をもっとよく知るための小ネタ

①山田先生「『とろける恋人』は「獣人」みたいに一言で表せられるような名称の付いてないものと人間との話を描きたいと思ったところから描き始めました。『天国の底』は一番最初の掲載だったのでこれから先何を描いても怖気づかないよう一番照れくさいものを描こうと思い「天使」、『noisy jungle』は人外側がマジョリティの世界の人外ものを描こうということで近未来が舞台の「アンドロイド」、『サーカスも夜半過ぎには』は構想からかなり形が変わり、結果オーソドックスな「獣人」ものになりました」。

引用:山田袋先生インタビュー 2018/04/06 作家インタビュー|BL情報サイト ちるちる

②山田先生「当て馬や重要な脇役は、『サーカス~』に所謂モブおじさん的なのは出ますが、当て馬然とした当て馬はいないかもしれないです。損しがちな人たちに幸せになってほしいという気持ちがBL描く時の原動力なので、メインのキャラクターを当て馬気質にしがちです」。

引用:山田袋先生インタビュー 2018/04/06 作家インタビュー|BL情報サイト ちるちる

③山田先生「『サーカス~』はネームから下書きの間で受け攻め両方にビジュアル変更があったり、取り寄せた背景資料の映像が古くてよく見えなかったりとかなりバタバタしながら描いたので苦労しました。単行本収録の方では加筆修正していますので、配信で読んだという方も良かったら収録版も読んでみて下さい。もしバタバタで描いたどう見てもこれは違うということが一目で分かる馬車の絵が見てみたいという方がいたらマージナルの配信版を見てみて下さい」。

引用:山田袋先生インタビュー 2018/04/06 作家インタビュー|BL情報サイト ちるちる

 

ネタバレ感想

とろける恋人

高校時代に好きだった先輩のストーカーをし続ける男・景介×その男の家に台風で飛び込んできた謎のブヨブヨな生き物・リク のお話です。

小林景介は高校時代に片想いしていた先輩のストーカーをしています。たまたま台風の時にベランダに飛び込んできたブヨブヨを処分しようとしたところ、それが先輩に化けられたので家に置くことに(先輩と同じ名前のリクと名付けました)。

作中で明言はされていませんが、どうやら景介は高校時代に先輩への好意がバレてしまい、机にいたずら書きをされたり、ゴミを入れられたりとイジメを受けていたようです。
それでも先輩への好意を止められず、とうとう先輩の家に空き巣に入ろうとする景介ですが、なんと先輩の姿をしたリクが外を歩いているではありませんか。慌てて呼び止めると、なんとそれは本物の先輩。しかも先輩は妻子持ちで、高校時代のイジメもすっかり忘れている様子。

落ち込む景介をリクが慰めてくれるのですが、この時のリクのセリフがいいんです。
「景介は先輩の俺といる時は嬉しそうだけど、同じくらい悲しそうなのがずうっと悔しいねん」「俺からしたら景介悲しませるやつの方が謎の生き物やわ」と。最後に「ブヨブヨでいいよ」と元の姿に戻ったリクを景介が抱きしめるのがまた胸熱。景介がリクと幸せに暮らしていけたらいいな。

それにしても、先輩は高校時代、景介に一体何をしたんでしょうね…。

 

天国の底

死者の魂をあの世へ導く天使・シルベーヌ×殺し屋・江崎 のお話です。

江崎はヤクザに脅されて怯えながら殺人を繰り返しており、天使のシルベーヌは、推測ですが、死者の魂をあの世へ導くのに効率がいいので江崎に付き従っているようです。

江崎は「快楽なんて溺れたやつから死んでいく」という独自の思想を持っており、あらゆる欲を無視した淡白な日々を送っています。シルベーヌは享楽主義なので、自分は江崎を好きだと前置きした上で「気持ちよくなるのは怖くないですよ」と強引にセックスに誘います。
江崎はシルベーヌに犯されるも、翌日はまた淡々と殺しの依頼を処理します。しかしそこで突然シルベーヌに殴られ瀕死に。「これで全部終わるけど死ぬのは怖いな」とつぶやき目をつぶる江崎ですが、なぜか翼が真っ黒に変わった(もともと真っ白だった)シルベーヌが江崎を見逃したようで、「逃げるのは怖いけど証明してくれるんだろ?」と言いながら二人で電車に乗ってどこかへ向かいます。

想像するに、シルベーヌは堕天使となり、江崎は電車で地獄に向かうところなのかな。それとも、殺したように見せかけて江崎は生きていて、二人で現世を逃避行するのかな。
いずれにせよ、二人で幸せハッピーエンド!というよりは、二人でいればどんな地獄でも幸せだよね(メリバ)という印象でした。
余白がたくさんあり、いろんな解釈ができそうな終わり方なので、自分以外の人の意見をぜひ聞いてみたい作品です。

 

サーカスも夜半過ぎには

血を嫌う猛獣使い・ヤン×サーカスに売られた(?)貧乏な子供・ルーチェ のお話です。

サーカスに売られた(?)ルーチェはまるで家族のように優しく接してくれる団長を「父さん」と呼び、慕います。同部屋は猛獣使いのヤン。無口な男ですが、夜になると部屋に帰ってきます。ルーチェは自分の実家は貧乏で、明け方まで一人で馬車の荷下ろしの仕事をしていて誰かと寝たことがないからヤンが一緒に寝てくれて嬉しいと大はしゃぎ。ヤンも微笑ましくルーチェを見守ります。
そんな中でルーチェはヤンが棲家を追われた獣人であることに気づき(偶然団員が血を流してしまい、それを嗅ぎつけたヤンが獣に変身してしまう)、お互いに団長にも秘密を貫き辛い時は助け合おうと約束します。

しかし幸せな日々は長くは続かず、ルーチェはある日団長にレイプされます。その後もたびたび暴力を振るわれては犯され、ルーチェの心はずたずたに引き裂かれていきます。ヤンに助けを求めようとしますが、ヤンは団長は自分を息子同座に扱ってくれたからとルーチェの叫びから耳を塞ぎます。

心身ともに限界を迎えたルーチェは、ヤンが家族の形見だと言っていた鋭利な腕輪で自分の腕を刺し貫き、そのままヤンが出し物をしている舞台へと上がります。血の匂いを嗅いだヤンは獣に変身してしまい、団長が「あいつを毛皮にすれば金になる」と大喜びするのを聞きながら「どうして…」とルーチェを涙ながらに見つめます。

最後はルーチェとヤンが仲直りしてどこかの家で幸せそうにセックスをしてお話は終わったのですが…この唐突な終わり方も何か深い意味があるのでは?と感じてしまいます。(山田先生の作風的に、余韻を感じさせる終わり方が多いので、見たままの展開ではない気がする…)

私の想像ですが…リアルに考えるなら、衆人環視の公演中、ヤンがサーカスや人間から逃げ切れるはずがないと思うんですよね。たとえヤンが逃げ切れたとしても、ルーチェはヤンと同じスピードで逃げられないはずです(人間なので)。
なので、そもそも教会で懺悔していたのもヤンとルーチェの夢(願望)かも。実際はヤンは毛皮にされるために殺されるのを檻の中で待っていて、自傷したルーチェは団長にとって「無垢」な存在じゃないので価値がなくなって、サーカスから追い出されて野垂れ死にそうになっているのかも。それで、二人がそれぞれ「あの時、ヤンに/ルーチェに こう言えばよかった」と夢を見て、夢の中でだけは二人はお互いに許し合って、愛し合ったのかもしれません。現実の体はもう死んでいるのに。

 

noisy jungle

会社員のアンドロイド・ユメオ×アンドロイドに飼育される人間・ポチ のお話です。

アンドロイドが人間に代わって世界を牛耳るようになり、人間は知能の低いペットとして飼育されるようになった世界。危険な行動をとれば、勝手に警告が出る仕様になっています。

アンドロイドのユメオは、人間のペット・ポチを飼っていることをひた隠しにしています。人間を飼うこと自体は違法でもなんでもないのですが、ユメオはポチとセックスしているので後ろ暗さを感じているようです。
アンドロイドに生殖機能は不要なのですが、「なぜ人間がアンドロイドに性欲というコミュニケーション能力を搭載したか」「人間は種族を超えて我々を愛そうとしたのかもしれない」という議論をテレビで流し見しながらユメオがポチとセックス(なぜか警告は出ない)する様子は、とても倒錯的でした。

ペットを犯すこと自体には不快感はある(ペットは主人の支配下にあるのだから、セックスを迫られたら逃げ場がないという意味で虐待なのではと思う)のですが、ポチが人間の形をしているので、二人が両想いのように錯覚してしまうんですよね…。
ポチは「好き」という言葉もわからないほどなので、犬や猫よりも知能的には低いと思います。そんな対象に性欲処理の相手になれと強いるのはどうかと思うのですが…。
うーん、人間がアンドロイドに種族を超えて愛し会いたいからと性欲の機能をつけたのだから、その子孫である人間がその後始末をしなければならないという論理もあるかもしれないし、いやそんなのは子孫がやるのではなく当人たちの問題だろうという気持ちもあり…うーん、どう考えたらいいのか分からないです。ペットを恋愛対象とすることについて今一度深く考えたいです。

 

描き下ろし「とろける恋人」後日談

先輩のことを吹っ切ろうと、壁に貼った先輩の写真を捨てる景介 のお話です。

先輩の写真を捨てながら、リクをどう呼ぼうか考える景介。外見も先輩とは違うものにした方がいいと提案するものの、リクは「景介って先輩のことリクって呼ばんやろ リクって俺だけの名前やねん。リクって呼ばれてる時はちゃんと俺やったから 今まで嬉しかったの捨てたないねん だからリクのままがいい」と拗ねたように言います。

景介はこっそり一番お気に入りの先輩の写真をポケットに滑り込ませるのですが、リクにはあっさりバレてしまい、「先輩のこと忘れるまでこの顔でいる それでええやろ?」と言われ、ならそれで…と頷きます。
流れでセックスし、事後に幸せそうに眠るリクの顔を見つめながら、景介は残しておいた先輩の写真をひっそり捨てるのでした。

いや〜〜エモい。先輩の名前はリクなんですが、景介は妄想の中でさえも先輩を名前呼びすることができず、ブヨブヨのことだけをリクと呼んでいたんですね。
ブヨブヨの方も、リクを自分だけの名前だと認識していて、先輩に対して嫉妬心を抱いているのがかわいいです。うーん、たまらん。
最後にリクの寝顔を見て写真を捨てるのもいいですよね。体を重ねて愛を確かめ合ったことで、先輩ではなくリクへのより深い愛情を自分の中で感じたんだろうな。今後の二人の幸せでいてくれそうな、明るい予感を残す終わり方で、とても好きでした。

 

「とろける恋人」本編より少し前

先輩が冷奴を食べていたので、真似して冷奴を食べる景介とそれにちょっかいを出すリク のお話です。

先輩の真似をして冷奴を食べる…というのは、本編でも景介は先輩の真似をしてドリアとオレンジジュースを食べていたので、そんなに驚きはありませんでした。

問題はその後で、リクが冷奴に興味を示して「一口ちょうだい」と勝手にちょっともらって食べちゃうんですが、リクはなんと消化器官がないんですね。なので、「返す」とぐちゃぐちゃになった冷奴をそのまま体内から取り出して景介に見せて嫌がられるんですが…消化器官がないって衝撃的じゃないですか?リクはどうやって生きてるんでしょうか?植物みたいに光合成してるのか?ブヨブヨの球体が本来の体なのだとしたら、先輩の体に似せるために体を変えるためのエネルギーは何から得ているのでしょう。リクの生態は謎が深まるばかりです。

 

まとめ

山田袋先生作品初読みでした。
表題作「とろける恋人」はたまたまTwitter(X)で試し読みが流れてきて、読んだらめちゃくちゃ面白かったので、即購入したのです。

実際本編を読んでみても、試し読みで感じた「才能の原石だ!」という体にビビッとくる電撃のようなものはそのままで、嬉しすぎて踊りだしたくなってしまいました。
読めば読むほど山田先生作品独特の味わい(各キャラの言動の”間”や言い回し、コマの中での絵の余白、行間を読ませるような展開)の旨みを感じられるんですよね。くあ〜〜天才だ!!!!と脳汁がぶしゃぶしゃ出てくるのを体感できました。最高です。山田先生を発掘してくださった編集者の方に感謝したいし、このテーマでこういう展開の漫画を描こうと考え実現してくださった山田先生に五体投地したいです。

本作に収録されている他の作品も「もしかしたらこう解釈できるかも」「この表現はこういう意味かも」といろいろ考えさせてくれるものだらけで、読めば読むほど山田先生の作った未知のジャングルの奥地へと誘い込まれていくような感覚でした。どの作品も読者によってさまざま捉え方が変わりそうで、いろんな方の感想を聞いてみたいです。

物語の余白や余韻を楽しみたい方、人外BLが好きな方、恋心と性愛について今一度考えたい方、輝く才能の原石に触れたい方、BLを愛するすべての人に読んでほしい作品です。

とろける恋人
作者:山田袋
景介のもとに突然現れた、姿かたちを自由に変えられる”謎のブヨブヨ”。それを”リク”と名付け、「大好きな先輩」に変身させては抱く毎日。でも、景介の望みはやっぱり「本物の先輩」で…。

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