「晴人と、一緒に生きていきたい」ーー心温まる純愛BL、白野ほなみ先生「もう少しだけ、そばにいて」を読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
<あらすじ>
小説家の晴人とサラリーマンの晃は、 大学時代からの恋人同士で同棲中。
数年前の事故以来、 晴人は車椅子生活になったけど、 大好きな人と一緒に暮らす毎日にささやかな幸せを感じていた。
でも、誰よりも晃のことを想うからこそ、 晴人には『小さな秘密』があって……。
こんな人におすすめ
- 生きること、死ぬことについて再考したい🤔
- 一度でも「死にたい」と思ったことがある💭
- 愛することと犠牲について考えたい💕
ネタバレ感想
プロローグ
大学時代の交通事故で半身不髄になった小説家の石月晴人。恋人の日野晃は仕事も順調で、ラブラブなデートも欠かさない満ち足りた日々を送っていた…はずでした。
留年までしてしまうほどの旅行好きだった晃は、晴人が事故に遭ったのをきっかけに、きっぱりと旅行を辞めてしまい、さらには「パートナーシップ宣誓ができる街に引っ越そう。俺がローンで支払うから」と言い出します。独立自尊の晴人は喜ぶどころか、自分のせいで晃に何もかもを諦めさせていると自己嫌悪し、別れを選ぼうとします。
しかし、晃は晴人がスイスの尊厳死を認める協会への入会申請書を提出していることを知っていたので、それほど思い詰めている晴人を一人にするわけにはいかないと躍起になります。
ここで考えさせられたのが、晴人の死に関する発言。晴人は「尊厳死」を自分も選べると知った時に、「胸を占めたのは圧倒的な安堵だった これはお守りみたいなものなんだ これがあったから(死なないように)踏みとどまれた」と言うんですね。事故に遭ってもどうにか生き延びた時に、両親から「こうやって生きてられることに感謝しないと」「これから生きていくのは義務だからね」と言い聞かせられるんです。周りがどうにか晴人を生かそうとしている中、晴人の心はずっと置いてけぼりなんです。
事故後の人生は自分の人生だとずっと思えないまま、日々だけは過ぎていく。生きなければならない使命感に押しつぶされそうになっていた晴人を助けるのが、「死んでもいい」「死ぬ時は自分で選べる」という選択肢だったんですね。
いつでも死ねると思うからこそ、最後にあれをしようこれをしようと思える。「死にたい」と思っていても、「死ななかった」今日は、「生きたい」日だったのだと晴人は思うようになっていくんです。
私はうつ病を患ったことがあり、かつて「死にたい」と何度も主治医に訴えたことがあります。何度も自傷行為を重ねては、生きているだけで辛いから楽にさせてほしいと本気で願っていました。でも、たしかに主治医に話を聞いてもらって、薬でどうにか苦しみを鈍化させて、そんな日々を繰り返した先に、今日があります。
あの時死んでいたら知ることができなかった、本作のように心動かされる作品や、美味しい食べ物との出会いが今日までの間にいくつもありました。
そう思うと、「死ななかった」のは心の奥底では「生きたかった」のかもしれないと思えます。
自分の体が思い通りに動かせなくなることは、いつ自分の身に起こるか分かりません。歳をとってからかもしれないし、明日事故に遭うかもしれないし、数年後に病気を患うかもしれません。
だからこそ、「生きる」ことを考えるのならば、同じくらい「死ぬ」ことも考えることで心が楽になると思うし、何かをできないこと、できなくなったこと、それだけを悲観して苦しむのではなくて、今自分が何をしたいか、何をできるのかを考えて生きたいと思いました。
エピローグ
人生の最期を迎える晴人と晃のお話です。
エピローグでは、晴人が書き続けてきたエッセイ「まどろみながら君と」の最終章の冒頭という導入から始まります。
晃と一緒に世界中を旅したことをエッセイに綴ってきて、それが多くの人に愛されて嬉しいと書きながらも、「もうエッセイを完成させることができない」、ジュネーブに着いた今は「体力の限界かうとうとする時間が増えた」とも書いています。
最後に晴人が晃に「準備はいいか?」と笑顔で尋ね、「僕らの物語は悲劇だろうか?僕はそうじゃないって信じてる」と締められています。
ジュネーブに来た、しかもエッセイの続きが書けないということは、私は、晴人は最後に尊厳死を選んだのかなと思いました。晃と世界中を周るという夢を叶えて、小説家としても代表作ができるくらい頑張って、もうこれで幕を引いていいと思ったのかなと…。
死を選んだにしろ、生きることを選んだにしろ、晴人が晃とともに生きたい人生を生ききったのだと感じられるラストで、こんな風に私も人生を締めくくりたいと前向きに思わされました。
電子限定描き下ろし
晃に「俺の髪型はどれが好き?」と聞かれる晴人のお話です。
大学時代は長髪だった晃。超短髪にしたのは、晴人が事故で入院した後の初めての面会時だったのですが、晃がその時に旅行の計画も何もかもを投げ捨てて晴人のために就職し、「一緒に住もう」と言ったので、その時の髪型だけはトラウマのようです。
晴人の両親はゲイフォビアゆえに晃が息子に会うことを許さなかったので、晃は髪を切った時に「晴人が目を覚ました時もう外野にされるのはごめんなんで」と二人の共通の知り合いである芝先輩にこぼしていたんですが…私もその時の瞳孔の開ききった、覚悟を決めた晃の表情を思い出すと、何とも言えない気持ちになります。
もし自分が晴人だったら、自由な生き方を自分のために諦めてくれてありがとうなんてとても思えないし、自分のせいで彼の未来を奪ったのだと絶望すると思います。だからこそ晴人の苦しみが(少なくとも頭では…)理解できるし、トラウマになってしまいそうです。
普段はクールな晴人ですが、「全部晃だから(好き)」と答える姿がかわいくて、晃と一緒に晴人を抱きしめたくなっちゃいました😭
まとめ
大学時代に遭った交通事故の後遺症で、半身不随になった小説家・石月晴人。彼の恋人である日野晃は献身的に晴人の世話をし、仲良く同棲生活を送っているものの、二人の間に見えない深い溝があって…。
たなと先生「PERFECT FIT」シリーズなど、障害者が主役カップルになる作品はBLジャンルでもだんだん増えてきました。
しかし、どうしてもBLは「恋愛」かつ「性的な関係」を前提としたジャンルがゆえに、障害自体や障害者自身が抱えるあらゆる苦しみについての描写の浅さが指摘されることもありました。
ただ、本作は半身不髄の主人公のリアルな毎日(痺れをおさめるために起床後はしばらく座ったままでいる、排泄補助のために坐薬を入れて2〜3時間かけて排泄する…など)を丁寧に描いており、ただ「生きる」ことが、体の一部が動かないことでどれほど困難になるのかを生々しく描いてくれています。
自分の身の回りに車椅子ユーザーがいないため、描かれたことがどこまで真に迫っているのか、真に迫ることだけが良いことなのかは分かりませんが、それでも、障害者を感動の物語のために消費するのではなく、障害者側の目線から物語を描こうとしている真摯な作品だと感じました。
ただ、本作の最も素晴らしいポイントは、別のところにあると思っています。
それは、「自由を選べない立場になった時の生き方」を考えさせてくれるところです。
歳をとったり、病気になったり、事故に遭ったりして、もし自分の体や脳が自由に動かせなくなったら。その時、私たちは「自分の人生を生きている」と充実感を持って断言できるでしょうか?
健康に生きている今だからこそ、もし自分が、そして自分の大切な人がそんな立場に立った時に、何ができるか。
そう考えるためのきっかけをくれる作品だと思います。
生きることは、死ぬことを考えることでもあります。明日を死なないで生き延びるために、自分は何をして過ごしたいか。自分と真正面から向き合って考えたいです。
生きること、死ぬことを改めて考えたい方。一度でも「死にたい」と思ったことがある方。自分の幸せのために誰かを犠牲にしていると感じたことがある方。逆に、誰かの幸せのために自分が犠牲になっていると感じたことがある方。
そんなあなたにぜひ読んでほしい一冊です📚✨