‪愛犬家、号泣必至!イーライ・イーストン「月への吠えかた教えます 」(ネタバレ感想)

小説

イーライ・イーストン先生「月への吠えかた教えます 」のネタバレ感想です。

本作はシリーズもので、第1弾です。第2弾は、「ヒトの世界の歩きかた」。こちらは元軍用犬×DEAの捜査官のお話です。

生き物、特に犬を愛する全ての腐女子に読んでほしい一冊です!!

‬あらすじ‪

メインカップルは

人付き合いがヘタな保安官(犬 兼 人間)
× 共同経営者に騙され一文無しの植物研究者(人間)

この作品を知るためにまず知っておくべきことは「飼い主と深い絆で結ばれた結果、人間に変身できるようになった犬たち(通称「クイック」)」が暮らす地域が舞台だ、ということです。

飼い主と深い絆で結ばれた犬の中には「種火」が生まれ、訓練すると人間に変化できるようになります。

さて、それを踏まえて、攻めと受けの説明をします。

攻めのランスは4代目のクイック(ひいおじいちゃんに種火が宿り、代々受け継がれてきた)で、自分の住む町と住人たちを何より愛しています。

受けのティムは、都会で植物の種の研究をしていたけれど、共同経営者に騙され、全ての権利を奪われ迫害され、友人が持つボロボロの小屋に身を寄せています。

ストーリーを簡単に説明すると、街の新参者はくまなくチェックするランスは、ある日、新しい住人のティムからマリファナの臭いがすることに気づきます。

まさかマリファナの育成をしにこの街にやってきたのかと警戒心をあらわにするランスでしたが、ティムを調べるほどいろんな気持ちが湧いてきて…というお話です。

ランスはとにかく人付き合いが不器用で…ティムもかなり挙動不審なんですが、2人の第一印象の悪さといったら最低最悪!😂

最後はこみ上げる幸福感で泣いてしまうくらいの大団円なのですが、ぜひこの正反対なようで似た者同士な2人の凸凹の恋愛を見届けてほしいです。

 

読むほど、犬の愛が沁みる

ランスはティムを知るほど、「群れの一員」として大事にしてやりたいと心を砕くようになります。

不器用ながらも、ティムを嫌いなんじゃない、害したいわけじゃないとひ弱なティムを懸命にそばで守ろうとする姿がまさに忠犬そのもので、涙があふれます。

きっと犬を一度でも飼ったことのある人は、犬の、彼らの優しさを思い出して泣いてしまうはずです。

普段は愛らしいばかりで、時に悪戯っ子で、可愛いばかりなのに、危険な時には身を挺して家族を守ろうとする勇敢さを持つ…そんな彼らの愛を、ページをめくるたびランスの言動からひしひしと感じて、泣けてしまうんです。

 

クイックと人間の葛藤

この物語は、基本的にランス視点で進みます。

ランスは犬に変身している時はティムに心から懐いているんですが、いざ番になりたいかというと怖気づいてしまいます。

それは、ランスが「クイックは人間よりも優劣な種だ」という偏見を持っているから。クイックとは、種火を持った人間のことですね。ランスのような人々のことです。

ランスはクイックに関して、犬と人間、二つの本能を持つ「選ばれた種族」という意識が強いのです。

だから、どれだけ犬化した自分がティムを欲していても、下等種である人間と番になるなんて…という意識がなかなか消えないんですね。

犬は人間以上にはっきりとしたヒエラルキーの中で生きているので、ある意味当然の感覚なのかな?と思ったりしました。

でも読みながら、ティムは根っからのいい子だし、友人も味方も家族もおらずひとりぼっちで寂しそうだし、本当はすぐにでもランスには偏見を乗り越え、ティムと結ばれてほしいのですが🤦‍♀️

 

ランスの中の犬との戦い

ランスの中の「犬」は、人間のランスよりもずっと人懐っこいです。

ティムに優しく撫でられ、愛され、相棒のように慈しまれ、ティムと一緒にいたくてたまらないと叫んでいます。

それが、作品の端々に現れていて、可愛らしくてたまらないんです。

ランスは人間への偏見や、威圧的な外見・言動から、人とあまり触れ合わずに生きているし、そういうものを必要としていません…が、彼の中の犬は違うのです。

そのギャップが可愛らしくて、そしてその犬の部分に人間のランスがひきづられているのがわかって可愛くて、ランスを愛さずにはいられないなあとしみじみ思うのです。

 

愛さずにはいられない、ティム

身寄りのないティム。友人もいない、ひとりぼっちのティム。

ティムはすごくすごく純粋で優しい青年です。植物の種と、その植物を見せて喜んでくれる人のことだけを考えている純真無垢な青年。

でも、彼の幼少期もその後の人生も暗く辛いことの連続でした。幼少期は父に虐待され身体中があざだらけ、ガリガリに痩せ細り、ティムが愛する「植物を育てること」はずっと馬鹿にされ続けていました。

青年になってからも、大切なビジネスパートナーだと思っていた相手に、何年もかけ沢山の労力を注ぎ込んで生み出した新種の種のあらゆる権利を奪われ、一文無しにされ会社を追い出されました。

それでも、ティムはどうにか未来を見ようと懸命に生きています。

雑草さえ生えなさそうなガチガチの土を耕し、また新しい植物を育てて売って、食べていけたらとたった1人で努力しています。

 

誰も頼れない、寂しい、植物なんて誰も見向きもしない、植物オタクなだけの自分がビジネスをしてもうまくいくわけない…そんなふうに馬鹿にされても、心折れながらも、前を向こうと自分を奮起させるティムは健気で、「世界一幸せになって」と応援したくなります。

 

大好きなセリフ・シーン

「彼の大事な人間が幸せなのだ。ランスの犬は有頂天だった」とティムの周りを走り回る犬化したランス

このシーンはじんときました。大事な人間が幸せだと嬉しい!と走り回る犬、容易に想像ができますよね。

犬は大事な人の幸せを共有できる。

お互いに言葉は分からなくても、心が伝わるんだ。犬ってなんてすごいのだろう、優しくて賢くて素敵な生き物だなあとしみじみ思うのでした。

 

悪徳共同経営者、マーシャルに居場所を突き止められ、改めて脅され、父親に虐待された悪夢に苦しむティムを犬のランスがなだめるシーン

この直前の、ティムがすっかり気落ちして「大好きだよ、チャンス」と犬のランス(犬のランスは、ティムに「チャンス」という名前をつけられています)を撫でるシーンでは号泣しました。

悪夢に苦しむティム、彼がどれほど精神的に追い詰められていたのかを痛感して、「なんでもいいからティムに成功させてあげたい」とランスが苦悩する気持ちが痛いほど分かりました。

ティムを、暴力的な父親やひどい共同経営者という恐ろしい悪魔たちから救えたらいいのに。それがランスにできたらいいのに。ティムの素朴で純粋な愛情に涙があふれます。

 

「じつにさり気なかったよ、母さん。両目の中に孫が踊ってるのが見えるくらい

イーライ・イーストンのユーモアセンスが好きすぎる!これには爆笑しました。

すぐ何にでも首を突っ込みたがる、ランスのお節介ママがランスと美しいお姉さんを引き合わせた時のランスの言葉。ママの目の中で孫が踊ってる姿が想像できますw

 

私も昔はマリファナ煙草をやったもんよ。セックスの前にいい感じにゆるむのよ
「母さん!」

ママwwwwww この流れはお腹を抱えて笑いました。

ママのこの華麗な会話の交わし方、好きすぎる。

マリファナ煙草とかセックスの前にゆるむとか息子の前で言うママ、日本のBLじゃなかなかお目にかかれませんw

 

「ティムに好きになって欲しかった、ランスを」

号泣しました。

ランスの中の犬はティムと会えて嬉しくて飛び跳ねている、でもランスはティムに好かれていない…チャンスであればティムのそばにいられるのに。

どうかランスを拒否しないでと不器用にティムに近寄るランスが可愛くて愛おしくて、涙が出ます。

 

ティムの家が襲撃され、ランスとランスママがすべてを告白したシーン

ティムの痛々しさ、打ちひしがれた様子に胸が張り裂けそうでした。

その直前までランスとあんなに甘い時間を過ごしていたこと、それにティムがどれほど喜んでいたか…ひとりぼっちのティムがどれだけ苗を大事にしていて、ランスのことも愛したいと思い始めていたか…ランスの傷ついた様子にも胸が痛んだけれど、それ以上に、心を開こうとした矢先にすべてを剥ぎ取られたティムの絶望を思うと何も言葉が出ませんでした。ただただ涙しか出ない。

ティムにとって温室の植物はただの植物じゃなかった。夢そのものだった。

希望だった。それをランスは最後のひとかけらまで打ち抜き踏みにじったんだ…と、悔しさ、ランスへの怒りで涙が抑えきれなかったです。

 

ローマンによる、事件当日の追跡報告

素晴らしかったです。非の打ち所がない、完璧な追跡。

ティムをズダボロにしたランスは許せないけれど、ローマンに対する上司としてのランスの言動は素晴らしかった。

マッドクリークの町にやってきた時には所在なさげだったローマンが、群れの一員として誇らしげなのが微笑ましく、可愛らしく、嬉しいです。

 

ランスがティムに弁明し、犬に豹変するシーン

ランスがどれほどティムに許されたいと必死なのか、犬の本能が剥き出しになるくらいティムを愛しているのだと伝わってきて、胸が苦しくて…ただただ泣いてしまいました。

ティムごめんなさい、嫌わないで、大好き…そんな声が必死なランスから聞こえてくるようでした。

ランスがティムにしでかしたことは酷いことだけれど、胸が痛くて仕方がなかったです。

 

チャンスは君に恋をしたんだ。俺も君に恋をした。

犬化を止められず、遠吠えをしながら必死で言葉を紡ぐランスに泣きました。そしてチャンスを受け入れたティム。言葉はいらなかった。熱い涙がこぼれて、感動しかなかったです。

ランスの罪がなくなるわけではないけれど、ランスの愛の言葉、すべての真実の前にやっとティムが解放された気がしました。

よかった。ただただ安堵で心が凪いで…ほっとしました。

 

「んん?俺のだ」

ティムと恋人になって2週間、ランスがティムを抱き上げて言った言葉。

人狼ごっこを楽しんだり、じゃれあっている2人がかわいいです。俺のだ、ってシンプルな言葉が逆に愛をストレートに感じて赤面します。いいなあ、素敵です。

 

「ジェイムズがいた頃は、すべてに意味があった。目的があった。今じゃ、自分が何なのかもわからない……」

ローマンが、DEAの隊員をジェイムズと見間違えて前線に飛び出した後の言葉。いかついローマンが、小さな迷子の子犬に見えました。

どうやって生きたらいいか分からない。ジェイムズに会いたいという思いだけがローマンを生かしているみたいに見えました。

ローマンの深い絶望、悲しみがこの一言に凝縮されていて…声をあげて泣きました。

どうしてジェイムズは先に逝ってしまったの。どうしてローマンを置いていってしまったの。

ローマンがかわいそうで、どうしたら幸せにしてあげられるんだろうと、何度読んでも涙が溢れます。

 

本文中の雑学

  • パピープレイ

ランスが母親に、ティムの家に通うランスのことを「パピープレイ」と言われて激怒する場面があります。日本語訳の「犬とご主人様ごっこ」では、なぜランスがそんなにキレたかわからない方もいるでしょう。

パピープレイとは、以下記事のようにゲイ、特にBDSMを愛する一部の人に愛されるわんわんプレイのことを指すそうです。

ランスの性嗜好は別として、いきなり母親からこんなハードプレイの名前が出てきたら仰天しますね…w

 

  • サミュエルアダムスの缶

ランスが群れの集会に持っていった缶、サミュエルアダムス。

何だろうと調べてみたら、ビールの銘柄でした。アメリカ人の「飲みたいビール」1位の栄誉に輝いたとか!飲んでみたいです。

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  • スパイス入りのピーナツバターサイダーのでかい鍋

ピーナツバターはわかるけど、サイダー!?鍋!?と思って、peanuts butter ciderで調べてみたけれど、ヒットしたのはpeanuts butter apple cider のレシピのみ。

でもこのレシピを読んでわかりました。

煮込み料理か何かかな?と思っていたのですが、スパイスたっぷりの甘いりんこジュースなんですね!

美味しそうです。作ってみたいな。

 

  • “破壊的絶望なんてイチコロ”キャセロール

キャセロールって何?と調べてみたら、肉や野菜を煮込んだ鍋料理のことだそう。

ごった煮って感じかな?グラタンにも似ていて、おいしそうです。

 

  • ブロウジョブ

フェラチオのこと。

 

  • 「キャリー」でプロムに出かけた主人公がバケツいっぱいの血を浴びせられた瞬間のような

1976年公開のホラー映画「キャリー」のとあるシーンのこと。

以下はネタバレ記事です。鮮烈すぎて怖いです…豚の血って…。

 

  • スパイダーマンのシーンのもっとずっといいバージョン

スパイダーマンの、あの「雨の中の逆さまキス」のもっといいバージョン、って意味のようです(多分)。

 

  • ジリス並みの熱心さ

ジリスは北アメリカに生息するリスのことだそうです。日本ではリスって動物園でくらいしかお目にかからないけど…かわいいですね🐿

 

  • トワイライトシリーズを全部燃やしてやる→「ジェイコブ派」

映画「トワイライト」シリーズは、人間の女子高生と美しいヴァンパイアの青年との禁断の恋物語です。

ティムがセックス中に首を噛んでと言ったりしたので、この発言につながったのかな?

ジェイコブは狼族の青年で、アメリカのティーンの間では、「エドワード派」「ジェイコブ派」に分かれて盛り上がったそう。

ティムがジェイコブ派なのは、ランスが犬だからかな。外見も、ランスはどちらかというとジェイコブに似てるけれど😆

 

  • 忠誠の拳をあげる

右手を左胸の上に置くなら分かるけれど、拳をあげるというのがイマイチ分からず…🤔

拳をこつんと突き合わせるイメージでの誓い方ってことかな?

 

  • HBOチャンネル

アメリカの有料チャンネル。マーシャルのおこぼれで観ていたというのが切ない…。今ティムが幸せで本当に良かった。

 

  • ジェイン・エア

1847年刊の恋愛小説。かなり古い恋愛小説なのに、ランスとティムがすぐに「ジェイン・エアの一節か!」と分かるのがすごい。

アメリカではそれくらい有名な作品なんですね。

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  • ペストジェノベーゼ

バジリコ(バジル)を粉砕したソースで作るパスタのこと。

調べてみたら、加熱すると鮮やかな緑色が失われるので調理器具を冷やしたりしてなるべく冷たく作るのがコツだとか。ほほ〜勉強になるなあ🍳

 

読み終えた感想

最高!!!!

すがすがしい、素晴らしい小説だった!!

素晴らしい読後感です!特に最後の、マーシャルくんをこてんぱんにするくだり!胸がスッとしました!

狐を追うボーダーコリーの勢いでリリーが追いかけて行ったときには笑っちゃった😂

犬の愛、人の愛、そして情熱的なセックス。絶望の中でもわずかな希望と夢を捨てずにもがいたティムを愛おしく思います。

マッドクリークの町に住むすべての人が幸福でありますように!!!

読後、犬と家族と植物がより愛おしくなる名作です🐶✨‬

月への吠えかた教えます 「月吠え」シリーズ
作者:イーライ・イーストン
人生に挫折したティムは新種のバラをつくることで負け犬人生をやり直そうと、ひとりマッドクリークにやってきた。ところがその街は、人間に変身できる能力を持つ、特別な犬たちが暮らす犬たちの楽園だったのだ。よそ者にも優しいその街で、保安官・ランスはティムがマリファナ栽培に関わっているのではないかと疑っていた。

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