ファンタジーBL小説の傑作と名高い、中庭みかな先生「きんいろの祝祭」を読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人におすすめなのかなど、ネタバレ感想とともにご紹介します。
登場人物とあらすじ
小国の寡黙な武人×契る主に幸福を与える「きんいろ」だが、出来損ない のお話。
<あらすじ>
金色の瞳を持つ「きんいろ」は、契る主にのみ瞳を許してその国を豊かにし、災厄から守る存在。
イルファは自分が”できそこないのきんいろ”と知っていたが、そんな彼も花嫁として辺境の小国へ遣わされることに。
しかし、頑なな心を解いていくイルファがやがて愛し愛されたのは、契るべき王ではなく王の忠実なる侍従―優しく生真面目なカヤで…!?
こんな人におすすめ
- 不憫な受けが幸せになっていく姿が見たい👀
- 情景・心理描写力の高い小説が読みたい📚
- 感動で号泣させられたい😭
ネタバレ感想
きんいろの祝祭
主に幸福をもたらすという、金色の瞳を持つ稀少な少年「きんいろ」の一人であるイルファは、ガロという小国の王に嫁ぐことになります。「きんいろ」の中でも特殊な生い立ちゆえに厄介者扱いされるイルファを、ガロ国王シャニは冷やかに迎え入れます。対して、従者のカヤはイルファを不器用ながら心から歓迎してくれて…。
「きんいろの祝祭」の面白いポイントは、三つありますが、そのうちの一つは「ファンタジー調でありながら、生々しい政治闘争が丁寧に描かれており、その塩梅が絶妙である」という点です。
まず、本作の世界には、主に幸福をもたらすとされる金色の瞳を持つ「きんいろ」という稀少な少年たちがいます。彼らは国境を超えて「寺院」という機関に幼い頃に集められ、「きんいろ」としての英才教育を施されます。そして、寺院はあらゆる権力者たちに莫大な代償と引き換えに「きんいろ」を与える権利を持っているのですが、特にその「きんいろ」をたくさん所持しているのが「帝国」です。帝国は周辺国を次々と支配下に置き、影響力を日に日に強めています。そんな帝国の支配に対抗せんとしているのが、辺鄙な小国の「ガロ」。フローラ石という七色に輝く貴重な宝石を財源としており、フローラ石が七色に輝くのは、ガロ国を守っていると言われる伝説の竜の夢が反映されているからだとか。
帝国はガロを支配下に置くことで、貴重なフローラ石を我がものにしようと企んでいますが、ガロはそれに抵抗するための唯一の策として「きんいろ」を利用することにします。
「きんいろ」を統括する寺院は、唯一、帝国の支配を一切受けない機関です。それゆえに、ガロは自国に「きんいろ」を祀り、その「きんいろ」にフローラ石の所有権は自分にあると宣言してもらうことで、結果的に「フローラ石の所有権に口を出すことは、寺院に対して反旗を翻すことと同意」という構図を作ることで、帝国への支配に抵抗を示すのです。
「きんいろ」のもたらす幸福を多額の金で売買する寺院も、何人「きんいろ」を囲っても飽き足らない強欲な帝国も、帝国の支配から逃れるために「きんいろ」を買ったガロも、それぞれに政治的な思惑があり、互いに牽制し合っています。その一触即発なピリついた緊張感がたまらないのです。
そうした生々しい政治闘争を描きながらも、物語には「”きんいろ”を所有することで主は幸福を約束される」「フローラ石が七色に輝くのは、ガロを守る白い竜の夢が反映されているから」とか、ファンタジーな要素もたっぷり含まれています。「きんいろ」から幸福を与えられた主にはどんな証が与えられるのか、白い竜には他にどんな力があるのか…そういったことも物語の中で存分に解き明かされるので、ぜひ楽しみに読んでほしいです。
次に挙げたいのが、「全編にわたり、色彩描写が心を抉られるほど美しい」という点です。
色をテーマにした作品は珍しくないものの、本作の色彩描写はずば抜けて美しいです。BL小説を何百冊と読んできましたが、これは間違いなく断言できます。
中庭みかな先生の言葉選びにはどこか透明感があって、色を表すときにもその力が遺憾無く発揮されているんですよね。中庭みかな先生は、読者の心が洗われるような文章を書かれるんです。書き手の痛々しいほどの純真さ、まるで少年・少女のまま時を止めているような無垢な眼差しを感じます。だから、同じ色を描写するのでも、唯一無二の個性がはっきりと感じ取れるんです。
本作では重要なシーンで色がとても大切な役割を果たすことが多く、だからこそ色の描写が特別美しいことが求められます。これから重要なシーンが来るぞ、と思うと、読者も期待して読むので、必要とされる描写力のハードルは自然と上がるのですが、本作は驚くことにそれを軽々と超えてきてくれます。
特に最後の一文は、号泣してしまうほどの美しさでした。一つ一つの言葉は何の変哲もないはずなのに、中庭みかな先生の手にかかると、不思議なくらいその言葉たちがまっさらに輝き始めるんです。そのピュアな輝きに、読者は心を灼かれます。
この感動は「きんいろの祝祭」でしか得られない、同じ感動を得たいのならばこの作品を読むしかない。そうはっきりと思わされるほど、中庭みかな先生の描く色とりどりの世界は美しいのです。
最後に挙げたいのが、「どうでもいい存在と誰からも足蹴にされていた不憫な受けが、攻めの溺愛に救われていく」という点です。
イルファは他の「きんいろ」たちとは違う生育環境を辿って「寺院」に入った少年です。それゆえに寺院は彼を「きずもの」扱いし、イルファの芯の強さや逞しい生命力を削ごうと躍起になっていました。十数年も「きんいろとしての教育」を施しても己を曲げないイルファを、寺院は次第に厄介者扱いするようになっていきます。
しかし、「きんいろ」は寺院の貴重な商品ゆえに、街に放り出したり、悪辣な金持ちに売り捌いたりなどして見捨てることはありませんでした。それでも、「きんいろ」として売られる妙齢になっても、イルファだけは生殺しのまま寺院に捨て置かれていました。
そんな時に「きんいろ」を買いたいと申し出てきたのが、ガロでした。ガロは自給自足の小国ゆえに、正当な「きんいろ」を買うための莫大な金額を支払うことは困難でした。しかし、きずもののイルファであれば、厄介払いもできるし、ある程度格安で譲っても構わない…と寺院は考えたのです。
お前は要らない存在だ、取るに足りない存在だ、死んでくれた方がどれほど良いか、でも死なれては体裁が悪いから寺院とは関係ないところで死んでくれ、ただしこれまで育ててくれた寺院への金銭的な見返りのあるところで死んでくれ…寺院からイルファにぶつけられる嫌悪と冷笑、無関心さは凄まじいものでした。
それゆえにイルファは、寺院に入れられてから幸せだと感じたことが一度もなく、「なぜ自分は金色の瞳など持って産まれてしまったのか」と辛く思い、幸せなど感じたことのない自分が本当に誰かを幸せにできるのかと疑問を抱いて生きていました。
そして、イルファは嫁ぎ先のガロでカヤと出会うのです。
カヤはイルファを一目見た時から忠誠を誓い、イルファにガロを好きになってほしいと真心を込めて献身します。ガロの国民たちは、美しく優しいイルファにそれだけでも好意を抱いていましたが、なによりカヤがイルファを一心に慈しむ姿を見て、カヤを愛し信頼しているからこそ、よりイルファを愛したい、大切にしたいと、と限りない優しさをもって接してくれるようになります。
カヤは美しいものが好きです。けれど、他の「きんいろ」には見向きもしません。寺院では育ちすぎて不恰好だ、男臭くて汚らわしいと罵られたイルファこそ、体の大きな自分にはぴったりで、イルファの寂しげな佇まいも芯の強さも限りない優しさも何もかもが美しくて心惹かれるのだと、「イルファはおれだけのきんいろ」なのだと、嬉しそうに何度も言います。
カヤとガロの国民たちからイルファへの、一途で、健気で、温かな愛。それが長年傷つけられてきたイルファの心を癒しているのを見るたびに、私は泣かずにはおれません。
えいえんの青
ガロに嫁いだイルファ。カヤにはこれ以上ないほど愛される日々ですが、彼が跡継ぎをどうやって作ろうと考えているのか、イルファは日に日に不安が増して…。
ガロで過ごすのにも随分慣れたイルファの様子が見られて嬉しい短編でした。「きんいろ」は屋敷の奥深くに大切に閉じ込められているべきという寺院の考えとは正反対に、イルファは国民に祝福を求められれば誰にでもどこにでも会いに行く(例えば、産まれた赤ちゃんを祝福してほしいとか)、というのが彼らしくてくすぐったい気持ちになりました。
カヤの跡継ぎ問題は不安の種でしたが、たしかにこれほどイルファにぞっこんなカヤが、後継のためにイルファ以外を妻に娶り、子作りをするというのは想像できないですよね。ガロの王選びの方法を聞いて、ホッとしました。
一番好きなセリフは、「イルファの金の瞳はカヤに捧げた。そしてこの人の深い青い瞳もまた永遠にイルファだけのもの。その熱情が互いの身を鎖で繋ぐように結びつけている。それは痛みをもたらすほどの幸福だった。」。
「きんいろ」の主になると、その瞳の中に金色の光が宿るのですが、これを本編でイルファは「僕たちきんいろは、光を失う代償に、主の瞳に小さなかけらとなって迎え入れられるのです。」と説明していました。
主の瞳に小さなかけらとなって…という表現も童話めいていて素敵でしたが、お互いの瞳の中に永遠にお互いがいることを「痛みをもたらすほどの幸福」と感じるイルファがたまらなく愛おしくて…。
主への祝福の代償として「きんいろ」の両眼が光を失うのはあまりにもむごいことですが、選択肢が与えられたにも関わらず、ガロとカヤの幸福ために自ら光を失ったイルファの勇気は確かに心に響くものがあります。
ひかりは甘く蜜のいろ
毎日鉱山へ行き、国民とともに汗を流すカヤ。しかし、イルファから「明日は、誰も山には近づけないで」とお告げをもらい、急遽休みを取ることに。さて何をしようかと悩むカヤでしたが…。
イルファのお告げは彼自身も覚えていないのが不思議で神秘的ですよね。「きんいろ」は主に祝福や幸運をもたらすと言われているけれど、それって巫女みたいな?存在ってことなのかなと思いました。神の信託を受けて伝えられる存在、みたいな。ただ、その特殊な能力が自分のためではなく他者のために使われるにも関わらず、視力を奪われるのは「きんいろ」自身というのがなんとも苦悩の深い設定です…。
全然休まなくて平気そうな、体力無尽蔵人間のカヤですが、イルファにおねだりされちゃあ休まないわけにはいくまい!!
「時々で構わないから」というイルファの控えめすぎるお願いがかわいらしくて、いるファに全力で駆け寄って抱きしめたくなりました。
それに、城に手習いに来ている子どもたちが、イルファの手紙の代筆をしたいと争ってるのがかわいすぎましたね。子犬たちがお父さん・お母さん犬にじゃれついているみたい!
話は戻りますが、「えいえんの青」で、カヤはイルファ以外を娶ることはこれまでもこれからも一切ない、跡継ぎはみんなでふさわしい者を選ぶと断言していましたよね。ガロには二人の大切な子どもたち(カヤとイルファの二人がこよなく愛し、そして二人を愛している子どもたち)がこうしてたくさんいるのだと分かって、ガロの未来は明るいはずだと嬉しくなりましたし、彼らがイルファの祈りのもとで健やかに育ってくれるようにとイルファとともに願いたくなりました。
まとめ
契りを交わした主に幸福を与えられるという稀少な少年「きんいろ」の一人であるイルファは、辺鄙な小国ガロの王に嫁ぐことになります。ガロ国王シャニの冷ややかな態度に対して、従者のカヤはイルファを心から歓迎してくれて…。
仕える主に祝福をもたらす、特別な少年「きんいろ」。
彼らをめぐり国と国が対立したり、欺きあったり、巨額の金が動いたりと、読み進めるほどに人々の黒い欲望が露わになり、ドキドキハラハラさせられます。
また、「きんいろ」という特別な存在でありながら、「きずもの」として長年侮蔑の対象になっていた主人公のイルファが、ガロという小国に嫁いだ後、国王や国民たちにどのように受け入れられていくのか、イルファ自身の気持ちはどう変化していくのかも見どころです。
そして何より本作の推しポイントは、「色彩描写の美しさ」!
中庭みかな先生独特の言葉選びで表現される、透明感あふれる極彩色のガロの景色には圧倒されます。文字を追っているはずが、まるで映画のように目の前にその光景が見える錯覚を覚えるほどです。
唯一無二の個性あふれる言葉選びをする作家さんの作品が読みたい方、心洗われるような美しい作品が読みたい方、感動で号泣したい方、不憫受けが溺愛攻めに救われ変わっていく姿を見たい方…読者の幅広いニーズに応えられる、ファンタジーBLの傑作です。
あなたも「きんいろの祝祭」で、色の海に溺れてみませんか?🎨✨
「きんいろの祝祭」の同人誌情報
名も無きぎんいろ
引用:名も無きぎんいろ | トルタンタタ<サークル> | 中庭みかな | 無料コミック試し読み | BLレビューサイトちるちる
2015/10/18発行の同人誌「名も無きぎんいろ」には、商業誌化前の「きんいろの祝祭」続編2本が収録されています。
人の手で作られた「きんいろ」のお話です。
ネタバレ感想はこちら⬇️
煌夜
2016/12/30発行の同人誌「煌夜」には、本編後のカヤとイルファの番外編が収録されています。
カヤが生家から手紙をもらったのをきっかけに、帝都に向かうお話です。
世界はきんいろ
引用:世界はきんいろ | トルタンタタ<サークル> | 中庭みかな | 無料コミック試し読み | BLレビューサイトちるちる
2016/03/21発行の同人誌「世界はきんいろ」には、本編後のほのぼの日常短編が4本収録されています。
商業誌化前の「きんいろの祝祭」の続編短編集です。
ネタバレ感想はこちら⬇️
夜ときんいろ
2018/03/04発行の同人誌「夜ときんいろ」には、既刊同人誌「煌夜」の再録を含め、短編4本が収録されています。
「新婚さんの夜」をテーマにした短編集です。
Sucre glace
2024/09/23発行の同人誌「Sucre glace」には、書店特典SS、無配ペーパーSS、書き下ろしSS2本が掲載されています。
それぞれ、イルファの身の回りの世話をする従者ジアのお話、イルファがカヤの子を産む夢を見るお話、子羊デートをするお話、冬支度をするガロの国民たちのお話です。
ネタバレ感想はこちら⬇️