ファンタジーBL小説の傑作「きんいろの祝祭」と、「きんいろの祝祭」同人誌「名も無きぎんいろ」のその後を追った短編集、「世界はきんいろ」を読みました!
本編である「きんいろの祝祭」のネタバレ感想はこちら⬇️
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
引用:世界はきんいろ | トルタンタタ<サークル> | 中庭みかな | 無料コミック試し読み | BLレビューサイトちるちる
ガロ国王×ガロに嫁いだ「きずもの」の「きんいろ」 のお話。
<あらすじ>
商業誌化前の「きんいろの祝祭」の続編短編集。
「きんいろの祝祭」「名も無きぎんいろ」 本編後のほのぼの日常短編4話収録。
こんな人におすすめ
- 「きんいろの祝祭」の世界をもっと知りたい🌍
- 結婚後のラブラブなカヤとイルファの日常をそっと見たい💕
- 「名も無きぎんいろ」後の、シャニとラーサの恋の進展を知りたい💭
ネタバレ感想
王の青色(I)
帝都に赴いたシャニは、カヤとイルファの結婚祝いに美しい婦人用の下着を贈ります。イルファに着せてみればとアドバイスするシャニでしたが…。
シャニがカヤに贈ったのは、青く美しい薄絹の婦人用の下着。と、帝都の「きんいろ」にも献上される青い瓶の果実酒と、焼き菓子。後半は真っ当な贈り物ですが、前半は…。
カヤの瞳は濃い青ですし、初めてイルファに会った時にカヤは濃い青の制服を臣下たちと揃いであつらえて「この制服を着ている者は”きんいろ”を守る」と説明していたし、ガロでは、青=カヤの色なんですよね。
自分の色をまとうイルファを想像して不埒な衝動に駆られながらも、「裾が短すぎる」「足が出るから冷えてしまう」「風邪を引かせたくないから春まで待とう」と生真面目な根気強さを見せるカヤがかわいいです。
カヤは、自分の欲よりもイルファの体のことを当然のように優先して心配していて、本当にイルファを大事にしているんだなあと感慨深いですね。
けものの花痕
寺院に送られるまでの間、城の地下牢に幽閉されたナハド。シャニがイルファとカヤが契ったことを報告すると、ナハドは「あいつには俺の痕が残っている」「あれの肌に最初に痕を残したのは俺だ」と自慢します。シャニはイルファの体にナハドの残した痕が残っているのか確認しようとしますが…。
本編に、ナハドがイルファの体を乱暴に洗う描写がありましたが、ここに繋がってくるとは…!最高の伏線です。
ナハドは、血も透けてしまうようなイルファの柔肌に爪を立て続け、右肩に小さな花の痕をつけたと自慢します。イルファに最初に痕を残したのは自分だし、あの痕は一生残るだろうと言うのです。
ナハドはイルファを「できそこない」と馬鹿にしますが、その一方で、「きんいろ」を自分だけのものにしたいという欲のためにイルファに激しい執着心も抱いているんですよね。
シャニはそんなナハドの言動を見て、「瞳さえあれば、あとは何がどうでも構わない。(ナハドはイルファが)ナハドのことを憎んでいても、たとえ愛していたとしても、どうでもいいのだ。それはある意味、究極の執着のようにも思えた」と語っています。
DV夫は一般的になかなか離婚に応じてくれないものらしく、それは「立場が下の者(妻)に意見されることは、彼のプライドが許さないから」「認知が歪んでいるため、自分が加害者であることを理解できない(そのため、妻を再教育しなければならないと思う)から」とよく聞きます。
ナハドは自分が加害者であることは理解できているようなので、イルファという立場が下のものの意見などはどうでもいい、ただ、みんなが乞う金色の瞳が欲しかった…という感じでしょうか。
ナハドは普通の「きんいろ」に対しては他の寺院の職員と同じく丁寧な対応のようなので、「きんいろ」は欲しいけれど、その中でも自分より立場の低そうな「きんいろ」をずっと探していたのかもしれません。その意味で、イルファはナハドにとっては理想的な「きんいろ」だったのでしょう。
しかし、そもそもナハドはなぜそこまで「きんいろ」を欲したのか…理由を聞いてみたいです。
ナハドの言う「花の傷痕」は、本当にイルファの体に残っているのか?シャニが確認するシーンでは緊張でドキドキが止まらなかったです。
「けものに噛まれたのですね」「愛しい獣です」の会話はあまりにも艶っぽくて、別の意味でドキドキさせられました。
ナハドのつけた花の痕がもしも消えない傷になっていたら…と不安になりましたが、考えてみれば、そんなものをカヤが見逃すはずがないんですよね。
「まるで肉を削ぎ取り、抉り取ろうとでもしたようだ。それはほとんど傷痕といってもよかった。心ないものによって、いくつも傷を持ったイルファのことをあれだけ愛おしみ、いたわり、大切に触れていた男であったはずなのに。」とシャニは形容していましたが、普段は温厚なカヤの、イルファに関してのみ発揮される意外な激情にはときめかされまくりです。
カヤという獣に無惨にも食いちぎられた、ナハドの残した花。ナハドは生涯、イルファに残した、今はなき花の痕に満足しながら死んでいくのでしょう。醜く哀れな、ナハドの独占欲のお話でした。
凍星とすみれ
寺院を辞した医師のもとで修行をしているラーサは、冬の間だけガロに戻ってきました。シャニに自分の一番好きな酒を贈るラーサですが、シャニの微妙な反応が気になって…。
ラーサがガロに戻ると聞いて、時間も知らされていないのに朝一番からずっといの一番に待っていたシャニ。ラーサのことを心から大事に思っていることが伝わってきます。シャニがラーサを「おかえり」と抱きしめるシーンでは思わず泣いてしまいそうでした。
ラーサのお師匠さんが、ガロに冬の間だけ戻ることについて相談を受けた時に「行っておいで。あの国はお前の故郷になるだろうから」というのも好きです。ラーサがガロを故郷だと当然のように思えるようになるといいな。
でもその後に、ラーサから「自分が一番好きな味」と良い酒を贈られると、微妙な反応。何がシャニの心に引っかかったのだろうと不思議だったのですが…まさか「自分が酒の味や楽しさを教えたかったのに」という嫉妬だったとは😂シャニの心を見透かすイルファはすごいなあとしみじみ。
王の青色(II)
シャニから贈られた美しい婦人用の下着を、いつイルファに着せたものかと悩むカヤ。
そんな中、イルファはガロの国民に倣ってフローラ石を研磨する作業に励みますが、なかなかうまくいかず…。
向こうが透けるほど薄い絹布の婦人用下着を着せるのは、春になってから…と思っていたカヤ。(イルファに風邪を引かせないように)しかし、暖炉がついている冬の間の方が暖かいのでは?と思い、イルファに着てもらおうとしますが…。
なんとイルファはカヤが着るのかと勘違いしてしまい、大赤面。カヤはイルファを心のどこかで女扱いしていた自分を嫌悪してしまいます。
シャニもまさか、自分の贈り物のせいで二人の関係が拗れることになるとは思いもしなかったでしょう😂
最後はシャニのアドバイスでイルファが着てみてカヤに披露することになるのですが、その後二人はどうなったのやら。
王の青色(I)で「ガロの鉱夫は冬の間、フローラ石を削って磨き上げる」という描写がありましたが、結婚式でカヤからフローラ石を贈られたこともあり、イルファもフローラ石磨きに挑戦し始めたようです。
それにしても、イルファがフローラ石を削った時にできた沢山の破片が、まさか「竜の鱗」という特別なものだったとは!
イルファは失敗作だと思っていたようですが、本来は人為的に作れず、数年に一度見つかるほどの貴重なものなのですね。やはりイルファは竜の加護を受けているのではないかと思えます。
ただ、貴重なものだと知ってなお、それでがっぽがっぽ稼ごう!ではなく、竜に悪いことをした…と泉に石を返そうと考えるカヤとイルファの謙虚さにも心動かされます。「竜の鱗」一枚で、城の城壁をすべて新しくできるほどの価値があるというのは…凄まじいですよね。
あと、イルファがお手本にしていた、花と鳥が描かれたフローラ石は、カヤがプレゼントしたものなのかな?イルファにはガロで人間らしくのびのびと生きてほしいと願うカヤの願いが込められたような図案で、素敵だなあと嬉しくなってしまいました。
まとめ
「きんいろの祝祭」本編後のカヤとイルファ、「名も無きぎんいろ」後のシャニとラーサのお話でした。
雪に閉ざされたガロの冬を体感できる一冊で、しんしんと降り積もる雪、日に日に緊張感を増していく冷たい空気、たっぷりの薪で暖められた部屋の中で寄り添う夫夫やカップルたちの仲睦まじさがしみじみと伝わってきます。
ナハドの話だけが異色で、「きんいろ」への貪欲な執着心が読み手にも伝わってきて、その薄気味悪さに背筋が泡立ちました。ナハドが一体何を考えていたのかは本編でも気になるポイントだったので、こうしてナハドのその後を知られたのは嬉しかったです。
お互いをいつも信じて、慈しみ、支え合うカヤとイルファの姿はこの世の何よりも尊く思えますし、普段は軽口を叩き合いながらも真心で接し合うシャニとラーサの姿は微笑ましく、ガロが慈愛に溢れた場所であることを再確認させられます。
「きんいろの祝祭」の世界をまだまだ楽しみたいよー!という方に、ぜひとも読んでいただきたい一冊です。
「きんいろの祝祭」の他同人誌情報
名も無きぎんいろ
引用:名も無きぎんいろ | トルタンタタ<サークル> | 中庭みかな | 無料コミック試し読み | BLレビューサイトちるちる
2015/10/18発行の同人誌「名も無きぎんいろ」には、商業誌化前の「きんいろの祝祭」続編2本が収録されています。
人の手で作られた「きんいろ」のお話です。
ネタバレ感想はこちら⬇️
煌夜
2016/12/30発行の同人誌「煌夜」には、本編後のカヤとイルファの番外編が収録されています。
カヤが生家から手紙をもらったのをきっかけに、帝都に向かうお話です。
夜ときんいろ
2018/03/04発行の同人誌「夜ときんいろ」には、既刊同人誌「煌夜」の再録を含め、短編4本が収録されています。
「新婚さんの夜」をテーマにした短編集です。
Sucre glace
2024/09/23発行の同人誌「Sucre glace」には、書店特典SS、無配ペーパーSS、書き下ろしSS2本が掲載されています。
それぞれ、イルファの身の回りの世話をする従者ジアのお話、イルファがカヤの子を産む夢を見るお話、子羊デートをするお話、冬支度をするガロの国民たちのお話です。
ネタバレ感想はこちら⬇️