中庭みかな先生「きんいろの祝祭」の同人誌、「名も無きぎんいろ」を読みました!
本編である「きんいろの祝祭」のネタバレ感想はこちら⬇️
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
引用:名も無きぎんいろ | トルタンタタ<サークル> | 中庭みかな | 無料コミック試し読み | BLレビューサイトちるちる
ガロ国王補佐・国王代理×ディメル領の前領主の「きんいろ」 のお話。
<あらすじ>
商業誌化前の「きんいろの祝祭」続編。
主を失った「きんいろ」ラーサは、シャニという青年に彼の祖国に連れられて行く。
そこでラーサは自分がつくられた「きんいろ」だと知り…。
こんな人におすすめ
- 「きんいろの祝祭」の世界観が好き🌏
- 「きんいろ」になりたいと望む者の気持ちを考えてみたい💭
- シャニが真剣に恋する姿を見たい👀
ネタバレ感想
名も無きぎんいろ
ディメル領領主に仕える「きんいろ」のラーサは、主が亡くなるとともに、理由も分からぬまま寺院の地下に幽閉されます。一刻も早く帰らなければ、愛するディメルが帝国に吸収されてしまう!と焦るラーサは、突然シャニと名乗る男に寺院から連れ出されて…。
なぜラーサはディメルの「きんいろ」なのに、視力があるのか。目の覆いもなしに人を見ても平気なのか。それが分からず、「きんいろ」には自分の知らない別のルールがあるのだろうかと訝しみながら読んでいました。
まさか、ラーサが「作られた”きんいろ”」だったなんて思いもしませんでした…!
たしかに、この世界での「きんいろ」の貴重さを思うと、人工的に作られた「きんいろ」を人身売買する輩が出てきてもおかしくないですよね。
ただ、胸が締めつけられたのが、一生寺院の地下に幽閉される予定だったラーサをイルファが救ったにも関わらず、ラーサはディメルの主を思うがゆえに
- たとえ瞳の色が金色でなくとも、心はれっきとした”きんいろ”だったと思いたいのに。
- おれはこんなところ来たくなかった!助けてほしくなどなかった。そのまま”ディメルのラーサ”として死ねたならその方がずっと良かった!
- ずっと祈り続けた。頭と目が痛いのも我慢して、食べるのも寝るのも惜しんで、ずっと主の病が言えるように祈り続けたのに。あんなもの何の意味もなかったのだ。ラーサは”きんいろ”ではなかったのだから。
と、イルファが自分を助けたことを詰り、そのまま死にたかったと訴えたことです。
これは辛かった…。イルファは寺院の元従者に襲われた件で寺院に借りがあったのに、寺院の医師からラーサの話を聞いて、彼を救うためにカヤにわがままを言い、その借りを返してしまったんです。寺院はただでさえイルファを「きんいろ」らしく扱わないカヤ、ひいてはガロ国への不信感を抱いているのに、ラーサを引き取れば、さらに対立する構図は強まってしまいます。それでもカヤは、イルファの願いを叶えてくれました。イルファも、ラーサが本当の「きんいろ」ではないことを最初から察していて、だからこそ、「きんいろ」ではないのに「きんいろ」と同じように苦しい目には遭わせたくないと、彼を救いたい一心で、目から色ガラスを取り出してくれました。
でも、それら全てが、ラーサにとっては無意味だった。むしろ、余計なお世話だった。
色ガラスを目に無理に入れられているせいで頭と目がひび割れるように痛んでも、ラーサは「ディメルのラーサ」のまま死にたかった…。
ラーサがどれほどディメルを、亡き主を愛していたかが伝わってきます。主とともに死にたいと思うほど、ラーサは自分が「きんいろ」であることに誇りを持ち、その力を主のために使おうと一生懸命だったのだと…。
ラーサはこうも吐露します。
- 俺はイルファ様のようになりたかった。あんな風に生まれて、みんなを…関わる人を本当に祝福できる存在になりたかった。
- あんな偽物の、作り物ではなくて、ほんとうの。すべての人に美しいと認められ、みんなを幸せにできる存在でありたかった。
- そうすればディメル様も助けられたかもしれないのに。
ラーサが本物の「きんいろ」ではないことを、ディメルの城の人々は気づいていたのかもしれません。だからこそ、彼らはラーサに冷たく当たっていたのかも。でも、主だけはラーサを「きんいろ」だと信じていました。
ラーサは唯一、自分を愛してくれる主が、自分を「きんいろ」だと信じてくれるから、「きんいろ」でいたかったんですね。そして、自分が本物の「きんいろ」ではなかったから、主を助けられなかったのだと悔やんでいる。そのもどかしさ、後悔が、イルファへの「死ねた方がずっと良かった」という言葉に含まれていました。
でも、最後にラーサは「きんいろ」が必ずしも万能な存在ではないことをカヤに知らされます。「きんいろ」は体が弱く、短命なのです。少しでも長く生きながらえさせるためには、「しゃべらず動かず自分の意思を持たない人形になる」寺院からの薬を飲ませる必要があります。しかしカヤはイルファに人間らしく過ごしてほしいという思いから、薬を飲ませていません。ただ、同時にイルファを失う恐怖にも、ずっと怯え続けていたんです。
本物の「きんいろ」はいつまでも少女のように愛らしく可憐である、とイルファはよく語りますよね。イルファ自身も比較的華奢な体格です。長い間、寺院で成長を抑え込まれてきたせいでわずかしか食事が食べられないのに、主の幸福のために力を尽くさなくてはいけないので、きっと普通の人間では抱えきれないほどの大きな負担を「きんいろ」たちは負っているのだと思います。でも、「きんいろ」が短命なんて、本当は信じたくありませんでした。カヤが天寿をまっとうするまで、イルファにそばにいてほしい…。これまで辛い思いをしてきたからこそ、イルファには一分一秒でも長く幸せでいてほしいのに。
ラーサが、病で亡くした主や、かつての自分のように「偽りのきんいろ」、そして自分を救ってくれたイルファのために医術を学びたいと言ってくれたのは、本当に嬉しかったです。
ラーサはずっとディメルこそが自分の故郷だと思っていて、ディメルが帝国に吸収されてからは「どこにも自分の居場所はない」と絶望していました。だから、その願いを聞いた時に、やっとガロを自分の居場所と定めて、「ディメルのきんいろ」以外にやりたいことができたのだなとホッとしたんです。
ただ、ラーサの恋のお相手がシャニ、というのはかなり驚きでした!でも、人見知りで神経質そうなラーサの心を癒せるのは、どんなことにも楽観的かつ明るく笑い飛ばしてくれるようなシャニくらいかもとも思いました。性格の凸凹がぴったり合う二人、というイメージです。シャニはラーサの倍くらいの年齢とのことなので、ラーサが大人になるまでのんびり気持ちを育んでほしいな。
あと、ラーサが大好きだった、主との思い出の花・山茶花。(表紙にも載っていますね)
小さなラーサの手に収まる山茶花の花を思い浮かべると、ラーサがこれまで長い時間をかけて、どれほどの愛を重ねて、主と接してきたかが感じられます。 山茶花の花を手折ることさえ躊躇する優しい主の愛に包まれて、ラーサはずっと幸せだっただろうな。
ガロの山茶花はディメルの山茶花とは少し形が違うけれど、ラーサがガロの山茶花も大好きになってくれたら嬉しいです。
祝祭のあと
カヤに頼み込んでラーサをガロに迎え入れたイルファでしたが、ラーサから有無を言わさず金色の瞳を奪ったことで彼を傷つけてしまったと反省します。しかし、イルファに真実を教えられたことをきっかけに、ラーサは自分の「ぎんいろ」の瞳を受け入れ、新たな夢に向かって歩き出していました。
ラーサのこの言葉が好きです。
おれは決めたのです。一番大切な人を救えなかったから、これからは誰かがそんな思いをする前に、少しでも助けになれるように。
ラーサの「一番大切な人」は、ディメルの主でしょう。本編でシャニが「誰にだって大事な人がいる。それをなくすことが哀しいことだって、みんな知ってるんだろう。」と言っていたので、ラーサの発言はそれを受けてのもののように感じました。
ラーサはガロに来てから、国民に深く愛されているイルファを泉に置き去りにして帰ってきた時でさえ、誰からも責められませんでした。目に覆いをかけた奇妙な出立ちでも、子どもたちは誰もラーサの悪口を言ったり、のけものにしたりもしませんでした。
ラーサはガロで「大切な人を亡くした」ことに寄り添ってもらった経験が、とても嬉しかったのかもしれません。(故郷のディメルでは、主が亡くなるとすぐに身一つで城を追い出されましたし、城では主に反抗する者を告げ口したりしていたせいか嫌われていたと語っていたので)
ただ、かつてラーサがイルファと言い合いになった時にイルファが何を考えていたのか、カヤに何を語ったのかはずっと気になっていました。本作ではその答え合わせがされています。
イルファは足を怪我したまま動けないでいたところを、カヤに見つけられます。
その時に、ラーサにひどいことをしてしまったとこのように語るのです。
- たとえ命と引き換えにしようとも、僕が”ハトラのイルファ”であることを、誰にも奪われたくない。世界からあなたが失われたなら、たとえどんなに優しい言葉をかけてもらっても、それを受け入れることなどできない。
- イルファにとって、カヤは世界の全てと同等の価値のある最上の主だった。もしそれを失い、イルファ一人が取り残されたなら。
- ラーサを責めないでください。僕は彼の悲しみと戸惑いに寄り添えなかった。この足の怪我はその罰だ。
イルファは、ラーサが「ディメルのラーサ」として死にたかったと言ったことを、自分の身に置き換えて、強く共感していました。だからこそ、ラーサが自分を放り出して帰ってしまっても、怒れなかった。
イルファは普段とても穏やかな性格ですし、愛するカヤとの触れ合いも、いつもカヤの方から熱心に仕掛けているイメージで、心にあまり大きな波風のない人なのだろうというイメージがありました。
けれど、思っていたよりも、ずっとイルファは情熱的でした。カヤがいなかったなら…と感情をあらわにする姿に、カヤへの深く強い愛を痛感させられました。
最後に、武者修行目的でガロを旅立つラーサのために、シャニがフローラ石を掘り出してプレゼントしようと考えているのがかわいらしかったです。シャニって大人びているけれど、心は子どもみたいに無邪気でロマンチストですよね。石を受け取ったラーサはどんな顔をするのでしょう。真っ赤になるのかな。想像するだけで楽しくなります。
まとめ
ディメル領の主に仕える「きんいろ」のラーサは、主が病死すると同時に、寺院の地下へと幽閉されてしまいます。一刻も早く戻らなければ、主の愛するディメルが帝国に食われてしまう!焦るラーサの前に「助けてやる」と現れたのは、シャニと名乗る謎の男で…。
「きんいろの祝祭」で名脇役だった、ガロ国王・カヤの幼馴染かつ国王代理のシャニの恋物語です。
とはいえ、シャニの恋のお相手・ラーサがお話の主役。ラーサは、ディメル領の領主の「きんいろ」なのになぜか目が見えたり、主以外の人を覆いなしで見ても瞳を奪われないという謎の体質を持っている様子。読み進めるほど、その謎の理由が紐解かれていきます。
さらに、「きんいろ」についてさまざまな新情報が出てくるので、シャニが好きな方だけでなく、本編の世界観をより深く理解したい方にもおすすめの一冊です。
「きんいろ」が貴重な存在だからこそ起こる、さまざまな事件。人の強欲さやあさましさ、卑小さがまざまざと描かれると同時に、同じくらい、人の優しさ、あたたかさ、強さが描かれていて、何度自分の生きている世界に絶望しようとも、それでもやはり「生きたい」と思わせてくれる希望に満ちたお話でした。
あなたも、「きんいろの祝祭」の世界にもっとどっぷりと浸かってみませんか?
「きんいろの祝祭」の他同人誌情報
煌夜
2016/12/30発行の同人誌「煌夜」には、本編後のカヤとイルファの番外編が収録されています。
カヤが生家から手紙をもらったのをきっかけに、帝都に向かうお話です。
世界はきんいろ
引用:世界はきんいろ | トルタンタタ<サークル> | 中庭みかな | 無料コミック試し読み | BLレビューサイトちるちる
2016/03/21発行の同人誌「世界はきんいろ」には、本編後のほのぼの日常短編が4本収録されています。
商業誌化前の「きんいろの祝祭」の続編短編集です。
ネタバレ感想はこちら⬇️
夜ときんいろ
2018/03/04発行の同人誌「夜ときんいろ」には、既刊同人誌「煌夜」の再録を含め、短編4本が収録されています。
「新婚さんの夜」をテーマにした短編集です。
Sucre glace
2024/09/23発行の同人誌「Sucre glace」には、書店特典SS、無配ペーパーSS、書き下ろしSS2本が掲載されています。
それぞれ、イルファの身の回りの世話をする従者ジアのお話、イルファがカヤの子を産む夢を見るお話、子羊デートをするお話、冬支度をするガロの国民たちのお話です。