凪良ゆう「おやすみなさい、また明日」のあらすじ・感想・レビュー・試し読み|俺はもう誰とも恋愛はしない

小説

今日の大切な想い出も、明日覚えているとは限らない…記憶障害の青年と臆病な作家の純愛!!凪良ゆう先生「おやすみなさい、また明日」を読みました!

登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨

登場人物とあらすじ


訳ありな何でも屋×売れない小説家 のお話。

<あらすじ>
仄かに恋情を抱いた男から、衝撃の告白をされた小説家のつぐみ。
十年来の恋人に振られ傷ついたつぐみを下宿に置いてくれた朔太郎は、つぐみの作品を大好きだという一番の理解者。
なのにどうして…?

 

こんな人におすすめ

  • 日常系BLが読みたい📅
  • 純文学が好き📚
  • 「忘れる」ことの苦しみと喜びについて考えたい💭

 

本作をもっとよく知るための小ネタ

①ちるちるBLアワード2018のBLCD部門で「おやすみなさい、また明日」が6位に。奇しくも、凪良ゆう先生デビュー10年目の節目に当たる年だった。

②韓国版、台湾版、ベトナム版も発行されている。

③2019年 ちるちる不朽の名作BL小説100選 大人の恋 部門1位を獲得。

 

ネタバレ感想

おやすみなさい、また明日

27歳で「新波」新人賞でデビューした売れない小説家の遠藤告美(受け)は、10年間付き合った同棲相手の伸二(攻め)から「子どもがほしいから」と急に別れを切り出されます。茫然自失になりながらも、偶然知り合った何でも屋の荒野朔太郎(攻め)が切り盛りする古びたアパートに入居することになりますが…。

本作の良さは、まずはなんといっても「凪良節」の効いた地の文でしょう。読めば読むほど、白湯のようにさらさらと体に言葉が染み込んでくるような、不思議な感覚に襲われます。ページをめくるほどに主人公・つぐみの細やかな心の動きが伝わってきて、自分の体の細胞一つ一つに彼の思いが広がっていきます。それはとてもあたたかくて、やさしくて、言葉の一つ一つが自分の心と体を喜ばせていくのが手に取るように分かるほどです。
「読むデトックス」「読むヒーリング」と言えばいいのか、日々のストレスや疲れでイライラしていた自分が、いつの間にか浄化されているのを感じます。
どんな作家の文章にも個性がありますが、凪良ゆう先生の文章は、あまり強い言葉や思想や性癖の偏りがなく、するすると読者が飲み込める、すごくフラットで読みやすいという個性があるなと感じました。

また、本作の良さとして挙げなくてはいけないのは、「忘れる」ことの捉え方です。
朔太郎は過去の事故で記憶障害を患っていますが、いつまでの記憶をどれくらいで忘れてしまうのか、彼自身も理解できていません。それゆえに対策が難しく、「忘れる」ことで人間関係をぎくしゃくさせてしまい、前職を追われたという心の傷を負っています。
「忘れる」ことに怯えるがあまり、過去の人間関係を断ち、孤独に生きることを決めて、メモ魔になっていた朔太郎。しかし、つぐみから「ひとつなくしたらまたひとつ足せばいい」「みんなそばにいるから。みんな朔太郎さんを愛してるから」と支えられ、徐々に「忘れても大丈夫だ」とつぐみと周囲の愛に身を委ねられるようになっていきます。
朔太郎はまだ27歳と若いからこそ「忘れる」ことへのショックが余計に大きかったのだと思いますが、どんな人はいずれは必ず認知症…とまではいかずとも、歳をとるにつれて忘れることが増えていきます。そういう意味で、朔太郎の「忘れる」ことへの恐怖は、人間誰しもが経験するであろうことであり、他人事ではないなととても共感を持って読むことができました。
本作を読みながら「忘れる」ことで一番怖いのは何なのか?と考えていく中で、朔太郎も直面したことですが、仕事を失うことよりも何よりも、自分が「忘れる」せいで愛する人を無邪気に傷つけてしまうことが怖いのだと気付かされました。けれど、「忘れてもまた思い出を重ねればいい」「忘れてもあなたを見捨てないよ」と言ってくれる人がそばにいてくれたら、どんなに心強いでしょう。
「忘れる」ことに始まり、人生には自分ではどうしようもないことが降りかかることがあります。それに苦しめられている時に、その問題の原因自体を取り除こうと必死になるのも悪いことではないけれど、それが永続的に続くもので、自分の努力ではどうしようもないものならば、どうやって自分の心と体と折り合いをつけるのか。そして、それによって愛する人を大なり小なり苦しめることになるのならば、愛する人とどのように対処したらよいのか。本作は「忘れる」ことだけではなく、人の身に降りかかるどうしようもないことへの捉え方を教えてくれる作品だと思いました。

 

スイート・リトル・ライフ

78歳の朔太郎が思い出す、自分の半生とそれに伴走してくれた86歳までのつぐみのお話です。

正直言って、「スイート・リトル・ライフ」にはかなり驚きました。まさか、27歳と35歳の二人の話から、一気に78歳と86歳の二人の話に飛ぶなんて。

でも、この驚きは「嬉しい驚き」でした。つぐみは伸二と10年も付き合ったのに、「子どもがほしい」という今更すぎる理由で別れを切り出されたじゃないですか。なので、「おやすみなさい、また明日」ではつぐみと朔太郎は両想いになって話を終えたけれど、その幸せっていつまで続くんだろう?と心の奥底では不安だったんです。
だからこそ、つぐみが天寿を全うするまで朔太郎と寄り添い続けたこと、朔太郎がいくら物忘れがひどくなっても、「朔太郎さんのこと」を何度も何度も読み返してはつぐみを思い出して、つぐみを愛しく思っていることが言葉の端々から伝わってきて、二人は最期まで愛し合っていたんだと分かって、本当に嬉しかったんです。
二人の幸せのために別れを選択することも時には大事なことだとは分かっています。それでも、50年という長い時間を寄り添い続けるのって、お互いに生半可な愛では到底乗り越えられないと思うんです。いろんな障害を乗り越えて愛し抜いた二人は強いし、凄いと感動してしまいます。

 

まとめ

売れない小説家の遠藤告美は、10年付き合った恋人の伸二から「子どもが欲しいから」と突然別れを切り出されます。慌てて転居先を探していると、偶然出会った何でも屋の荒野朔太郎が、自分の経営するアパートを紹介してくれ…。

体に優しく染み渡る、切なくもあたたかい恋愛物語でした。人を愛することの喜び、自分ではどうしようもない問題への捉え方を、じんわりと教えてもらえます。
「BL小説」と一言で言っても、これほど多様な作品があるのだと驚かされた一冊でした。作品としてとても器が大きくて、日々の些細なことに苦しめられている自分を丸ごと肯定してもらえたような読後感です。

凪良ゆう先生作品が気になっている方、BL小説の新境地を見たい方、日々のストレスや疲れで擦り切れそうになっている方、あたたかな愛で包み込んで欲しい方…そんなあなたに読んでいただきたい、素敵な一冊です。

おやすみなさい、また明日
作者:凪良ゆう
仄かに恋情を抱いた男から、衝撃の告白をされた小説家のつぐみ。十年来の恋人に振られ傷ついたつぐみを下宿に置いてくれた朔太郎は、つぐみの作品を大好きだという一番の理解者。なのにどうして…?

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