キム・フィールディング「犬晴れのクリスマス」を読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
<あらすじ>
引っ越してきた街でひとりきりのクリスマスを過ごしていた心理学教授のショーンは車で轢きかけた野良犬にアンナと名づけ引き取ることに。
そんなアンナが、「彼」との素敵な出会いを導いてくれた――。
こんな人におすすめ
- 犬が好き🐶
- 自分に自信のない主人公に共感する💓
- クリスマスには大人も特別なプレゼントがほしい🎁
ネタバレ感想
プロローグ
心理学部教授のショーン・デイリーは、半年前にこの街に引っ越してきました。年々出てくる腹を食い止めるため、今日こそはジムに…と気乗りしないまま車で向かっていたところ、車道に突然現れた迷い犬を轢きかけてしまいます。慌てた犬を確認すると、無事ではありましたが衰弱している様子。すぐさま病院へ連れて行きますが、犬は捜されている形跡はなく…犬好きのショーンはその子にアンナと名付けてともに暮らすことにします。
しばらくたったある日、アンナもショーンとの生活に慣れてきて、二人は散歩を満喫していました。その時、アンナが突然走り出し、ショーンは凍った道に足を取られて転倒。アンナはなんと近くに寄って来ていた黒い熊のような犬・ローラにじゃれつきはじめます。ローラの飼い主はなんとショーンと同じ大学に勤める技術部部長。不思議な縁で、二人は毎日散歩を一緒にする仲にまでなります。
もとは幸せな家庭で愛されて育ったアンナでしたが、その家族が引っ越しするにあたって彼女を他の家庭に譲渡し、そこの家庭でアンナはひどい虐待を受けていました。食事だけはもらえても、外に繋がれ、誰にも気に留めてもらえない。寂しさのあまり家出してしまったアンナの気持ちが痛いほどよく分かります。むしろよく耐えずに逃げたと褒めてあげたいです。
アンナは偶然出会ったショーンに拾われ、愛を注がれ、「心に決めた。持てる力すべてを使ってでもこの人間を 自分と同じくらい幸せにしてあげようと」と心の中で思うのですが、この健気さに涙が溢れます。
アンナは無邪気にローラと犬同士のじゃれあいを楽しんだり、ショーンの食事やおやつのおこぼれをもらおうとおねだりしたりと犬らしい天真爛漫さもあるのですが、ショーンがオースティンへの恋心を自覚したにも関わらず勇気が出ずにモダモダしているのを見て、わざとブレーカーを全部落としてオースティンを呼び出させたりと、驚くべき叡智を発揮することがあります。
それはひとえに、アンナがショーンを幸せにしたいと願ったからこそできた奇跡なのだと思います。
アンナは人間と共に暮らしてきたので人間のことをよく知っている…と思いきや時々ズレた解釈をしていることがあり、それもまた愛おしいポイントです。
ショーンのことを自分の飼い主ではなく、アンナの方が主人だと認識していたり。ショーンがオースティンと付き合い始めると、二人とその家族は「アンナの群れの一員」なのだと認識していたり。さらには、ショーンがアンナとしつけ教室に通って修了書をもらった時も「ショーンのしつけが成功した」と喜んでいたり。人間側の認識とはちょっと違うアンナの考えがかわいくて、大好きだよ〜と頬擦りしたくなります。
アンナのことばかり語ってしまいましたが、ショーンとオースティンの恋についても話さなくてはいけません。
ショーンもオースティンも、バツイチ子持ち独身同士。二人ともゲイであることをカミングアウトしています。
ショーンはオースティンに出会った時から彼のハンサムさに一目惚れしており、オースティンはアンナとローラを通してショーンと交流するうちに徐々に彼に惹かれていったようです。二人とも大学の終身雇用職という共通点があるので、同じ悩みを抱えているところも仲を深める要因になったようです。
安定した職を大学で得るために、ポスドク 非常勤講師 客員講師とあらゆる仕事を転々としてきたショーンは、二、三年起きに転職・引っ越しするせいで、固定の友人というものがほとわどいません。そのせいで、オースティンという素晴らしい友人を失うのは嫌だと恋愛に踏み出すのを躊躇してしまうのですが…そこで後押ししてくれたのがアンナでした。
アンナが「ローラに会いたい」と無邪気におねだりするおかげで、それを口実にオースティンに会いに行ったり、一緒に食事をするお誘いができたのです。
アンナという心強い助っ人のおかげで、ショーンの恋は成就しました。ショーンがアンナと出会ったのは奇跡ですが、もしかしたら孤独な二人に愛を与えたいと願う神様が必然的に引き合わせてくれたのかもしれません。
エピローグ
夏の湿気にぐったりしているローラとアンナを横目に、ショーンはオースティンとの結婚式の計画を何度も何度もチェックしています。オースティンの息子・コナーはアンナにこっそりと「うちのパパたちはかわいいジジイだね」と惚気るほど。
そんな中、アンナは庭で片目の腫れた汚い子猫を見つけます。子猫をそっと甘噛みで持ち上げると、アンナは心の中で言うのでした。「ほらーすぐにパパたちもそう言ってくれるよ いい子だって。そしたらここがおうちになるよ。そして幸せになれる 私たちみたいにね」と。
ショーンとオースティンの結婚式というだけで幸せいっぱいなのに、なんとそこに子猫まで!アンナは早速心の中で子猫を「ちいちゃな妹」と呼んでおり、アンナの群れにまた新たな一員が追加されたのだと嬉しくなってしまいました。
ショーンとオースティンが子猫の育児に右往左往するのを想像してにやにやしてしまいました。アンナとローラ、ショーンとオースティン、そして子猫の5人家族。ずっとずっと賑やかに幸せに暮らして欲しいです。
まとめ
ショーン・デイリーは大学教授の職に就くため、半年前に中西部のとある街に引っ越してきました。そこで出会ったのは、今にも車に轢かれそうになっていた不幸な捨て犬・アンナ。孤独な二人はともに暮らすようになりますが、ある日二人の散歩中に大きな熊のような犬に出会って…?
犬好きとしては、アンナの賢さとかわいさ、愛情深さに熱弁を振るわずにはいられません!
ショーンに拾われるまでは、一度は優しい家族に愛されたものの、その後譲渡された家では外に追い出され、あまりの寂しさに脱走。それからは街中でのけ者扱いされ、物を投げつけられることも。食べ物も水もなく死にかけていたところをショーンに拾われます。
最初はショーンに「いい子」なところを見せようと頑張りすぎるほど頑張ってしまうものの、徐々に落ち着いて、ショーンのためにいたずらをしたり、ショーンの前で気ままに振る舞うことができるように。
アンナのこの変化の過程を知るだけでも涙が出てきて、読んで良かったと思わざるを得ません。不幸な犬が、優しい男と出会って幸せになる。これだけでも素晴らしい物語だと思いませんか?
もちろんBL作品なので男×男のロマンス要素もあります。内気なショーンがお茶目なオースティンに惹かれ、同じバツイチ子持ちでありながら独身で孤独という境遇に共感し合い、恋心を感じていく様子は、まるで初恋のように甘酸っぱくて…読みながらニヤニヤが止まりません。明確な濡れ場はなくキスシーンだけですが、それもまたこのハートフルな物語にぴったりの展開ではないかなと思います。
アンナが起こしたクリスマスの奇跡、そして芽生えたご主人たちの恋。クリスマスなど寒い時期に部屋でぬくぬくと温まりながらじっくり読みたい、愛と優しさに溢れた素晴らしい一冊です📚✨