須和雪里先生「サミア」(CITRUS NOVELS)を読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
<あらすじ>
ごく普通の高校生・友則が出会った謎の美形外国人は、なんと宇宙からやってきたエイリアン。
「殺してくれ」と頼んでくる彼に困惑しつつも “サミア”と名付けて一緒に暮らすうち、辛い運命に苦しむサミアを好きになってしまう友則。
ある嵐の夜、「体が見たい」と言われた友則は―。
こんな人におすすめ
- 人外BLが好き👽
- 予想外の展開に度肝を抜かれたい😳
- BL史に残る名著を読みたい📖
ネタバレ感想
本作は、表題作「サミア」に加えて、「いつか地球が海になる日」「ミルク」「ミルクのその後」の全4編が収録されています。
以下、各話の感想を書いていきます。
あまりに好きすぎてうまく言葉が出てこないのですが、頑張って言語化していきます…!!!😭💦
サミア
アホな高校三年生男子×母星で重い犯罪を犯したため不老不死という罪を与えられ、数千年間も、唯一自分を殺せる力を持った攻めを探し続けていたエイリアン のお話です。
序盤は、主人公・友則と彼の親友・貴志がエイリアンである受けを馬鹿にするんです。エイリアンは何にでも姿を変えられると聞いて面白半分で「じゃあ本来の姿に戻ってみてよ」と言って、その姿が醜悪だと散々前もってエイリアンが言ってくれていたのに、いざ見ると腰を抜かして「あんなの早く殺した方がいい」と話し合ったり。
特に貴志は友則に淡い恋心を抱いているようで、友則がエイリアンに「サミア」と名付けたり、サミアと長い時間過ごすことで心を寄せていくさまに苛立ち、サミアや友則に暴言を吐きます。
数千年間孤独に生き続けることも、自分とは全く違う種族のもとに来ることも、殺してほしいと頼みに来ることも、どれもが想像を絶するほどの苦しみだと思います。なのにどうしてこの男子高校生たちはこんなにもサミアを傷つけて平気なのかと、私は貴志と友則が大嫌いでした。サミアを苦しめるくらいなら友則、早く殺してくれと思っていました。
けれど、中盤から流れが変わってきます。友則がサミアの過酷な半生を聞いたり、無邪気に共に生活を楽しむうちに恋心を抱き始めたのです。
友則はサミアにこれまで彼が辿ってきた人生について尋ねます。サミアは何千年間も宇宙船の中でたった一人ぼっちでした。暗闇の中を進み続け、やっと地球に降り立ち、自分の唯一の死刑執行人である友則を見つけたのです。
以下、私の大好きなサミアの言葉を抜粋します。
「友則、私はね、友則を知る以前から、友則に恋していたよ。友則がこの世に存在する以前から、友則のことだけを愛していたよ。あんまり長いこと思っていたので、もう恋とか愛と言う言葉では追いつかないほど。」
自分が生まれる遥か前から、サミアはずっと友則のことだけを想い続けていました。それを知った友則は、ただただサミアへの憐憫と愛で心がいっぱいになるのです。
けれど、二人の別れは唐突に訪れます。サミアと心も身体も愛し合った後から、友則の中にあるサミアを殺せる能力が急速に衰え始めたのです。サミアは早く自分を殺すよう懇願します。友則は嫌がります。だって友則はサミアのことを愛しているのです。
「俺の命をお前にやるよ。だって、そうだろう?俺がお前にしてやれること、お前を殺してやることだけなんて、そんなの悲しいよ。たったそれだけだなんて、悲しい。」
そう言う友則に、サミアは必死で縋ります。
「寂しくてもいい、私のために友則が死ぬと言うなら、私は死なない。このままどこかに行って、宇宙の終わりまで1人で生きる。」
誰よりも孤独の苦しみを知っているサミア。宇宙の終わりまで生きるのはどれほど途方もない絶望でしょうか。それなのに、友則が死ぬのはそれよりも耐えられないとサミアは言うのです。サミアの友則への愛がどれほど深いか…この言葉だけで痛いほど分かります。
サミアは友則を愛するからこそ彼に生きてほしい。友則はサミアを愛するからこそ、彼を一人で死なせたくない。二人は残りわずかな二人で過ごせる時間を大切に大切に過ごしますが、別れの日は来てしまいます。サミアは言います。
「ずっとずっと死にたいと思って生きてきたのに、それなのに、最後の最後に生きたいと思ってる。友則と一緒に生きて、友則が死ぬその時まで。」
これまでずっと友則に「殺してほしい」としか頼まなかったサミアが初めて、友則と生きたいと思っていると、最期の最期に告白するのです。友則は涙します。
これを読みながら、私も胸が張り裂けそうでした。サミアはどんな想いでこの言葉を吐露したのでしょうか。死にたいと思っていたのは紛れもない事実です。けれど、友則が自分のために死ぬくらいなら自分は不老不死を受け入れると言い切るほど友則のことが好きで、一緒に生き続けたいとも願っていて…でも、「共に生きたい」と「殺してほしい」を両立させることはできないのです。
共に生きたくても、サミアの数千年かけた願いを叶えるなら今すぐ彼を殺すしかない。でも、愛する人を手にかけたい人なんているはずがありません。友則はサミアに殺してくれと乞われて、どれほど辛かったろう…。
サミアに本来の姿に戻ってもらい、友則は彼を愛おしげに見つめます。「ひとりぼっちになんかさせない、もう二度と」そう決意して、
「愛してるよ、俺のサミア」
とつぶやき、彼を殺します。
友則はすぐにサミアに自分の命を譲るつもりでした。納屋にある錐で自分の頚椎を突き、自殺するつもりだったのです。けれど、友則が自殺するよりもずっと速く、サミアは幻のように友則の腕の中から掻き消えてしまいます。
友則は絶望し、どうしてサミアに自分の命をあげられなかったのかと泣き叫びます。
自分しか殺すことができないエイリアンの最初で最後の恋の相手が自分だった、それは一体どんな気持ちなのでしょう。不老不死の彼が「君が生まれるよりずっと前から君のことを愛していた、恋や愛という言葉では表せないくらいの気持ちだ」と言う…その言葉の重さは一体どれほどでしょうか。
また、やっと唯一無二の、自分だけの死刑執行人に出会えたのに、いざ死期が近づくとこの人ともっと生きたいと願ってしまう苦しみ、しかし彼に殺してもらえなければ自分は彼なしで永遠に生き続けることになってしまう、だから殺してもらわなければならない…気が遠くなるほど長い間孤独に耐え愛し続けてきた人とたった数ヶ月間で永遠に離別しなくてはならない、それはどれほど苦しく…痛みに満ちたものだったろうと胸が張り裂けそうになります。
二人が共に幸せに生き続けられる選択肢は最初からありませんでした。幸せとは何なのか?幸せな人生とは何なのか?
友則とサミアが出会ったこと、二人が過ごしたかけがえない時間、交わした言葉…それらが何度も頭をよぎっては、涙が溢れます。
いつか地球が海になる日
陽キャのイケメン同級生×「男性の耐える泣き顔に性的に興奮する」という特殊性癖の男子高校生 のお話。
「いつか地球が海になる日」、このタイトルからなんとなくSFものを想像された方も多いのではないでしょうか。この壮大なタイトル、実は凄まじい仕掛けがされています。
なぜ受けの七宮は特殊性癖を抱えることになったのか?コミカルな文体で進んでいく物語。読み進めていくと、終盤で予想もしなかった事実が発覚します。
私は基本的にネタバレ感想を読んで興味を持っていただけたら、ぜひ購入して読んでほしい、というスタンスでブログを書いているのですが、本作だけはどうしてもネタバレをしたくありません。
事実が明らかになった時の、自分の心に走った稲妻のような激しい衝撃。はっとタイトルを見て、「これを指していたのか」と驚くと同時にとめどなく溢れ出した滂沱の涙。あの唯一無二のアハ体験は、ネタバレなしに読まなければ感じることはできません。
最後に、本作で私の一番好きな一文をご紹介します。
世界中の男の人がみんな泣いたら、僕も泣ける
さて、これは一体誰の言葉なのか?攻めの仁科か、はたまた七宮か、七宮の幼馴染で同級生の武藤か。そして、一体どんなシチュエーションで発されたものなのか?
どうか、期待を胸に読んでみてほしいです。
ミルク
アホでスケベなヤンキー×攻めに片想いする一途なゲイの優等生 のお話。
めちゃくちゃ面白かったですww 「サミア」「いつか地球が海になる日」が連続してシリアスなテイストの物語だったので、突拍子もない設定と底抜けに明るいアホエロなラブコメに癒されました😂
ある日バイクの事故で植物人間になった(多分。本人に記憶はない)攻めの宮城は、受けの瀧又が飼う老齢のハムスターに生霊として取り憑いてしまいます。
この時点で相当予想外の設定・展開で笑ってしまうのですが、ここから宮城がどうにか自分の中身は人間なのだと瀧又に分かってもらおうと奮闘します。
その中で、瀧又が宮城に片想いしていることを知ったり、瀧又が宮城を想ってアナニーしていることを知ったりもしてしまい…w
最後は文句なしの圧倒的ハピエンです。「サミア」「いつか地球が海になる日」でいっぱい泣いて、本作でニコニコ&大笑いしてほしいです😂
ミルクの後で
「ミルク」の番外編です。
実は宮城が植物人間になったのは瀧又が告白してきたことに驚いて後退りしてしまい、階段から転げ落ちたから…だったのですが、好きな人がもう生き返らないのではと瀧又は悲観し、自殺しようとするんです。しかしハムスターの宮城の支えがあり、どうにか瀧又は思いとどまります。
その時のことを思い出しながら、二人は互いの思いを話します。その中で宮城が言う
自分が一番自分の命を過小評価していることもある
は、瀧又だけでなく読者もどきりとさせられます。基本的にアホで短慮で下ネタ大好きな宮城ですが、時折こうしてずばりと核心を突くんですよね。
須話先生作品は他の物語でもそうですが、ラブコメだと思ってぼーっと読んでいると、こうして突然心に刃を突き立てられるような言葉が差し込まれて、ハッとさせられます。このスリル感、文才、たまりません。
とはいえ、両想い確定後の二人の話なので、終始ラブラブです。秀才だけど天然ボケな瀧又にやきもきする宮城がとてもかわいいです🐹❤️
まとめ
「サミア」、これほど胸を打つ人外BLに出会ったのは生まれて初めてです。
本作は1993年出版という随分古い作品だからか電子書籍になっておらず、現在手に入れられる方法は中古本を買うのみ。中古に抵抗がある方もおられるとは思いますが、BLをお好きな方はどうか、どうかこの作品を一度は読んでほしいです。
これほど読者を絶望と感動の渦に巻き込む作品は、これまで出会ったことがありません。
また、「いつか地球が海になる日」も、シリアスな題材を軽妙な文体と切り口で描き、多幸感溢れるラストに昇華した神々しい作品です。
どちらも唯一無二の素晴らしい名作でした。BLを愛する全ての方に読んでいただきたいご本です。一生かけて推します。