安芸まくら先生「明日も愛してる」を読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
自称ハウスキーパー×13分間しか記憶が保てない、前向性健忘のアラフォー男 のお話。
<あらすじ>
朝、櫂は、見知らぬ部屋で目が覚めた。
戸惑っているとツダと名乗る男に、自分は櫂の「ハウスキーパー」だと告げられる。
しかし櫂はツダを知らないし、ましてや世話になった覚えもなく…。
こんな人におすすめ
- 悲恋が好き
- 記憶喪失ものが好き
- 濃厚エロはあればあるほど良い
ネタバレ感想
何でもないたった1日が恐ろしいほどドラマチック
主人公の櫂(受け)は前向性健忘症で、13分間しか記憶が保てません。さらに言えば、17年前の学生時代で記憶は止まっており、年を経るごとに18年前、19年前…と覚えていられる記憶はどんどん少なくなっていくのです。
それをファイルに書き記しておき逐一確認しては、自分が何者なのか、今どんな状態なのかを確認するのが櫂の日常です。
そんな彼の隣にはツダ(攻め)という自称ホームキーパーがいます。彼は甲斐甲斐しく世話をしてくれるのですが、櫂は時に彼を誘拐犯だと勘違いして脱走したり、時に子供返りして彼にじゃれついたりと忙しない様子です。
この作品ではツダと櫂の何でもない1日の様子が綴られているのですが、櫂が13分しか記憶が保てないのでありとあらゆる事件が起きます。
たった1日でこれほどの情報量を処理しなくてはならないのか…と、もし自分がツダの立場だったらと思うと気が遠くなります。
まるでジェットコースターのように人格がコロコロ変わる櫂とツダの物語はとてもドラマチックで、同一人物たちが紡ぐ物語とはとても思えません。
1組のカップルの話しか読んでいないはずなのに、いろんな年齢、立場のカプの物語を読んだような、すさまじい重量感があります。
安易なお涙ちょうだい話にしないストイックさに感動
私が本作を読んで一番感動したのは、「分かりやすいお涙ちょうだい話」を落とし所にしなかった点です。
最後の最後まで、櫂の病気は回復しません。一瞬だけ昔の…ツダと恋に落ちた頃の櫂に戻りますが、櫂はすぐに元の、前後不覚の病人に逆戻りしてしまうんです。
これは特に最近のBL小説にありがちなのですが、攻めや受けが病気のリアルタッチな作品でも、ラストにとんでもないV字回復を果たしてハッピーエンド、というものをよく目にします。
それはそれで「辛いことから解放されて良かったね」と素直に感動できるのですが、リアルタッチで物語を描くのならば、そんなできもしないようなおとぎ話で読者をぬか喜びさせるのは逆に酷なようにも思うのです。
そして、うがった見方をするならば、「五体満足で心身共に健康でなければ幸せではない」という価値観を押し付けられているようにも感じるのです。
創作物の中までも辛い思いをしたくないという読者の気持ちも分かりますが、私はあくまでこの「病気は治らないし悪化する」「攻めは”受けの病気が治る”という救われ方はしない」という形での、2人なりの幸せを見つけていく終わり方にとても好感を持ちました。読者に、現実に、とても誠実だと思ったんです。
ツダはこれからもっと辛くなると思います。自分のことを忘れる時間が増えて、心底愛している人に心も体も傷つけられるでしょう。けれどきっと彼は櫂から離れないのだと思います。病が進行してもあなたのそばにいたい、それが自分らしい生き方だからと言いきるツダに、私は号泣しました。
タイトル「明日も愛してる」だけで泣かされる
本のタイトルにはいろんな役割があります。ラノベのように作品の要約をする長々としたものもあれば、注釈的に作品を表したものもあります。
読了後、本作のタイトルを見て思ったのは、ツダの愛そのものを表した言葉ということでした。
ツダはきっと櫂が自分を何度忘れても「明日も愛してる」と心から言える…その揺るぎない確信が、読者の涙腺を崩壊させます…。
淡々と看護の様子を描き、そしてその集大成の想いをタイトルに表す…なんと美しい本の構成なのかと感嘆します。
まとめ
付き合い始めて9年。13分毎に17年前まで記憶が遡ってしまう櫂(受け)と、彼を一途に愛し看護し続けるツダ(攻め)。
ツダがどれだけ愛しても、櫂は彼を覚えていられません。ツダは時に誘拐犯と疑われて櫂に殴られたり、嫌いだと別れを告げられたり、無意識とはいえ櫂から悪逆の限りを尽くされます。それでもツダは櫂のそばにいる自分こそ本当の自分だからと彼のそばを離れません。
よくぞ正気を保ったまま櫂を愛せる…とツダの強靭な精神力と深い愛に感動します🤦♀️
真綿でぎりぎりと首を絞められていくような…甘く切ない読後感の名作です😭✨