南寝「午後の光線」のあらすじ・感想・レビュー・試し読み|”痛み”を介し、熱を帯びた彼らの鮮烈な物語

コミック

ふたりのほの暗い青春に、光は差すのか――、南寝先生「午後の光線」を読みました!

登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨

登場人物とあらすじ


グロテスクなものに性的興奮を覚える中学生×家庭環境に苦悩する中学生 クラスメート同士 のお話。

<あらすじ>
母親と、その恋人が取り巻く家庭環境に苦悩する淀井。
トラウマにより、グロテスクなものに性的興奮を覚えてしまう村瀬。
ある日、村瀬が苛烈ないじめに遭っているのを目撃した淀井は、激昂し止めに入る。

 

こんな人におすすめ

  • 生と死の境が曖昧な作品に惹かれる🫀
  • 死への漠然とした憧れがある☠️
  • 中学生たちの儚くきらめく青春を見つめたい🏫

 

本作をもっとよく知るための小ネタ

①村瀬と淀井の家族構成


②淀井はモテるタイプかについて


③淀井の写真写りについて

 

ネタバレ感想

①轢死体に興奮する、いじめられっ子の村瀬(攻め)

誰とも話さず、いつも口を半開きにしている村瀬はクラスメートたちから遠巻きにされていました。
しかし、カエルの解剖の時間に村瀬が勃起しているのを見たクラスメートの淀井は、「うわ、すげーちんこ勃ってる」と思わず口にしてしまい、それがきっかけで村瀬はいじめっ子の江森に標的にされるようになってしまいます。鳩の死骸を顔に押し付けられたり、弁当をひっくり返してゴミにされたり…。
そんな中で、淀井が村瀬に「俺のせいなのに止められなくてごめん」と謝ったことをきっかけに、二人の距離は近づいていきます。

村瀬の「轢死体に興奮する」という性質を知った淀井は、村瀬が自分のことを好いていることを知り、「俺で全部上書きすればいい」と村瀬とこすりっこやセックスをし続けます。
それまでは人が電車に轢かれて死ぬ夢を見ては寝ながらゲロを吐きつつ勃起していた村瀬でしたが、徐々に夢の内容が淀井との美しい思い出ばかりに変わっていきます。

村瀬が轢死体に興奮し、そういった写真ばかりを集めるようになったのは、中学1年生の時に目の前で人が電車に飛び込み自殺したのを見たのがきっかけでした。溢れる嫌悪感は確かにあるのに、なぜかそれが興奮に変わっていくのです。心と体がちぐはぐで毎日居心地が悪いと思いつつも、どれだけ心療内科に行こうと解決はされないままでした。
しかし淀井との交流で変化してきた村瀬は、主治医から、「君の性的衝動は過度なストレスによる発作的なものかもしれない。根底に死への憧れがあったから心の逃げ道にしていたのかも」と言われます。

硯遼先生「MADK」では臓物に興奮する男子高校生が主人公でしたが、そういったグロいものに惹かれる主人公という設定は久々に見ましたし、何より中学生という幼い年齢設定に驚きを隠せませんでした。たった13年ほどの人生で、何が彼に「轢死体に興奮する」という性癖を植えつけたのかと強烈に惹きつけられました。
村瀬が轢死体に興奮し始めたのは、目の前で人が跳ねられるところを見たことがきっかけでしたが、最初はあまりにも手に余る恐怖を、脳が性欲と勘違いしたのかと思ったんです。でも、実際はうっすらとずっと人に嫌われている村瀬が抱いていた「死への憧れ」が目の前で具現化されたことで、彼は心のどこかで「こうなりたい」もしくは「大事な人がこうなるのを見たい」と思うようになっていたのかもしれません。
ただ、淀井が「轢死体に興奮するという性癖を俺で上書きすればいい」と体を差し出したのは意外でした。淀井は自分の体を大事にしていないというか、村瀬が喜んでくれるならそれでいいと無邪気に思っていて、村瀬の方がよほど淀井の体を心配しているんですよね。淀井のあの自分の体のことにさえ無頓着なあの態度は、両親に大事に育てられた村瀬にはいまいち理解できないかもしれません。愛する唯一の家族である母から遠ざけられ、自分は誰からも求められていないという感覚が長年続くと、淀井のように「自分を求めてくれているから」というだけで、命さえも他人のために差し出そうと思うようになるのかも。

 

②男好きの母に苦しめられる、孤独な淀井(受け)

5歳の頃に父親を事故で亡くした淀井は、母・真里子と二人きりで暮らしています。しかし真里子は夫を亡くしてから男漁りが激しくなり、家の中も片付けず、淀井に弁当を作ってやることもせず、日がな男とセックスすることに明け暮れています。そんな中で、淀井は真里子から「新しいお父さん」として哲郎という彼氏を紹介されます。

淀井は父を亡くした母が塞ぎ込んでいるのを見るのがつらく、自分が父の代わりになろうと、父が母にしていたことをやろうとします。お金を稼いだり、一緒に寝たり。しかし、真里子から「一人にして」と拒絶されるうちに、淀井は孤独を内に飼うようになっていきます。

淀井は村瀬が自分を好いてくれるからという理由だけ(自分が村瀬を好きかどうかはわからない)で、村瀬と毎日セックスをしたり、「本当は俺の体が弾けるところを見たいんだよな?」と電車に撥ねられようと線路に侵入しようとしたりします。
村瀬はそんな淀井に「もっと自分のことを大切にしてほしい」と頼み、「俺が淀井のぶんまで淀井を大切にする」と決意したりするのですが、淀井はなかなかその「自分を大切にする」という感覚がよく理解できていなかったように思います。
自分に起こる、自分が起こしたすべてのことに関して無関心というか、その結果自分の命が失われてもなんとも思わないというか。

真里子は確かにある意味で淀井を蔑ろにはしていましたが、完全に無関心という訳ではありませんでした。淀井がクラスで暴力事件を起こした時も、学校にきちんと顔を出して相手の親に謝ったり、淀井にこんなことはするなと叱ったりもしていました。だからこそ、淀井がこれほどまでに自分の命や体を軽んじることが不思議でした。真里子に必要とされていることは、淀井も心のどこかで分かっているだろうに…と。
もしかしたら、淀井の「自分を大事にしよう」と思う気持ちの源泉は、淀井の父が彼自身の命と共に奪っていってしまったのかもしれません。誰かに必要ではないことをしてもらえることが愛されていると感じる理由ならば、真里子は淀井に与えられていなかったと思います。父が死に、それをきっかけに真里子の心が一度死んだ時に、淀井の心は自分を大切にすることを忘れたのかもしれません。

 

③あっけないラストだからこそ、考えさせられる余地がある

ラストはあまりにもあっけなく、作中の村瀬たちとともに置いてけぼりにされたような、「後は自分の頭で考えてね」と突き放されたような爽快な読後感でした。
ラストについてはぜひ本編で確認してほしいです。このネタバレをするのは、本作の最大の楽しみを奪うような気がするので…。

作中で、淀井が抜けた乳歯を村瀬の目の前で森の木の根元に埋めるというシーンがあるのですが、読んでいる時は「なぜ急に乳歯の話?」と面食らったんです。けれど、それがラストに繋がってくるとは思いもせず…良い伏線(?)でした。

そもそも、轢死体に興奮するという村瀬の性癖からして本作はぶっ飛んでいて、その強烈なパンチを頭で浴びせられていただけに、「生半可な終わり方では読後感が微妙になるだろうな」と勝手に危惧していたんです。ハードルを高くして待ち構えていた読者の我々に、見えないところから足を払うようなこの終わり方は、また別の驚きを与えられて感動しました。
グロテスクなもの、暴力的なこと、というのは、視覚的にすごくインパクトが強くて衝撃も強いのですが、こういう影響の残し方もあるのかと勉強させられた感じです。

 

まとめ

轢死体に興奮する中学生の村瀬は、カエルの解剖中に勃起していることをクラスメートたちに知られてしまい、いじめられるようになります。それを助けてくれたのは、勃起を指摘した張本人である淀井。淀井は嫌われ者の村瀬に平気で絡んでくるのですが…。

まるで夏の陽の光のように強烈にまぶしく、なのに一瞬で瞬いて消えてしまう…そんな儚い青春の恋のお話でした。
その恋の記憶は色濃く心と体に焼き付いているのに、実体は跡形もない…という感じです。

グロテスクな題材を用いながらも、限りなく詩的で美しく、論理的で整然とした本作はあまりにも素晴らしく、唯一無二だと言えるでしょう。
中学生たちの束の間の恋を、じっくりと見つめてほしいです。

午後の光線
作者:南寝
母親と、その恋人が取り巻く家庭環境に苦悩する淀井。トラウマにより、グロテスクなものに性的興奮を覚えてしまう村瀬。ある日、村瀬が苛烈ないじめに遭っているのを目撃した淀井は、激昂し止めに入る。

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