永井三郎先生「スメルズ ライク グリーン スピリット」シリーズを読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
<あらすじ>
ド田舎の学生・三島は“ホモっぽい”からという理由で同級生からイジメられていた。
実際に男性が好きな三島は抵抗もせず、隠れてする女装だけが心の拠り所だった。
ある日、三島が屋上にいると、以前なくした口紅を持ったイジメグループのリーダー・桐野が口紅を自らの唇に塗ろうとしているところを目撃して…。
こんな人におすすめ
- 「幸せな人生」とは何かを立ち止まって考えたい🛣
- 親子愛、恋愛について考えたい👨👩👦
- ゲイとして生きる苦悩の一部を体感したい💭
ネタバレ感想
スメルズ ライク グリーン スピリット SIDE-A
女装が趣味の三島はオカマっぽいからという理由でイジメられていましたが、なんとイジメの主犯格である桐野も女装に興味があったことが判明します。
2人が住むド田舎では母親が水商売をしているというだけで白い目でみられるような閉鎖的な土地なので、アウティングなどできるはずもありません。
桐野は女っぽく自由に生きている(ように見える)三島を羨んでいじめていたのでした。
女装、男性が好きだという共通点で繋がり、友情を固くしていく2人の様子が、時々笑いも挟みつつ軽妙に描かれます。
個性溢れる絵柄と性癖に悩む少年たちの日々の疾走感が絶妙で、名作の香りが漂います。
スメルズ ライク グリーン スピリット SIDE-B
アウティングに苦しむ三島と桐野の友情は高校卒業と共に消え、三島を、かつて片想いした少年に面影を重ねて襲った教師は蒸発。
次々に起こる生々しい事件、揺さぶられる価値観に吐きそうでした。
桐野母が「親として貴方の幸せを考えたら同性愛を応援できない」と泣くシーンは胸糞悪すぎて本を床に叩きつけそうになりました。子を所有物と思っていて、泣けばこの優しい子(桐野)を支配できると無意識下で思ってるのが最悪ですよね。「親として」「あなたの幸せを考えて」などという偽善的な言葉で子を支配し、自身の理想的な幸福を実現させるための駒にする親は多いもの…桐野母の言動は嫌になるほどリアルだな、と感じました。
柳田先生と桐野の幸福を願ってやみません…。
深潭回廊(1)
三島を襲った、高校教師の柳田先生のお話。教え子にレイプ未遂をした柳田は浮浪者となり、「山田」と名乗って別の町で死んだように暮らしていました。顔がいいので女性からの援助もあり、どうにか生きている山田に近づく中学生の渚。渚を抱いて明るさを取り戻す山田ですが…。
山田は自分の性癖を変えてしまった初恋相手、南條を恨んでいます。そして、教え子だった三島も、自分自身も。恨んでいると言いながらも、もう南條の顔を思い出せない山田。どうでもいいから忘れたのではなく、子どもしか愛せない罪悪感や「もう一度最初から人生をやり直したい」という後悔ゆえに全ての記憶を封印した結果、忘れ去ってしまったのかもしれません。
それでも、また子どもに欲情してしまう山田。渚に受け入れてもらって幸せ、でも、そのままがいいとは山田も思っていません。渚はどうやら村の人とも関係を持っているようにも見えるし…妙に性に対して無邪気なところが、逆に恐ろしさを感じます。
深潭回廊(2)
村の男たちに性の対象として見られ、父親の親友に犯され続ける渚。狭い村の中で、社会的にも肉体的にも非力ゆえに逃げることもできず、男たちに搾取され続ける渚の瞳が、ずっと脳裏に焼き付いています。「おじさんはセックスなしでも俺といれる?」「俺をここから連れ出して」という渚の言葉に、誰が泣かずにいられるでしょうか…。
村の外からきた山田ならもしかしたら…と渚は希望を抱いたのでしょう。しかし、山田は南條が書いた少年2人の冒険譚を見つけ、物思いにふけってしまいます。その目には、もう渚は映っていません。冒険譚に描かれている少年は、柳田と南條なのでしょうか。
深潭回廊(3)
渚が貸してくれた本で、かつて恋焦がれた南條の死を知った山田。山田はかつての自分の自己中心さに気づき、自死を選ぼうとします。しかし、島で大人の男たちに「ウリ」をし続ける渚を前にし、思いとどまり、渚を知ろうと動き出します。「自分が一番不幸でかわいそう」だった山田が、自分ではなく渚に興味を矢印を向けられたことが大きな一歩でした。
島の男たちは、渚という一人の少年ではなく、「娼婦の息子」というレッテルを貼って「犯してもいい存在」なのだとみんなで自分たちに言い聞かせています。渚は「娼婦の息子だから」、淫乱で男を欲しているんだ、と。本当は賢くて、人の気持ちを察せる繊細な子なのに、父親からは逃れられないからと中卒で働く気でいる渚を見ていると辛いです。
深潭回廊(4)
本巻はまるまる全部渚の回想録です。
9歳の時に大人の男から性暴力を受けるも、その後もさまざまな大人の男たちから性暴力を受け続け、渚は「暴力を受けるたびに1000円をもらう」という形で自分の心を守ろうとします。なかったことにしたいと普段は無邪気に同級生に溶け込む渚に、つけあがる加害者たち。大人の男たちへの怒りで頭がおかしくなりそうでした。
渚や幼い子どもたちに性的欲求を抱いてしまうという罪を償い、楽になりたい山田。一方、性暴力を受けたことを認めれば心が崩壊してしまいそうな渚。
深潭回廊(5)
渚、9歳の誕生日の最悪な思い出。男たちにレイプされても父親を頼れない理由が明らかになります。渚から秘密を打ち明けられた山田は「一緒にいられる道を考えよう」「ありがとう」と一言。山田、変わりましたね。その時の渚の笑顔のまぶしさよ…。山田の一挙一動に希望をまた持ってくれる、そんな渚のわずかな子どもらしい無邪気さに涙が溢れます。
しかし、渚を見送った後、山田は再び闇に囚われ、渚には命の危険が…。山田!!渚を守ってくれよ!!!お前しかいないんだよ!!!
描き下ろしの夢野と三島のおバカ話に、ほっとさせられます。
まとめ
読後、言葉が見つかりません。
圧倒的な世界観と喜怒哀楽のどれもが混じった大きな感情に飲み込まれて、一筋涙がツーッと流れて…。
SIDE-Bのラスト、かつて「桃源郷に行きたい」と叫んだ桐野少年は、楽しげな母親と家族の声をBGMに、最後に死んだ魚のような光のない瞳で空を見上げていました。
彼は空を飛ぶ鳥に何を見たのでしょうか。三島の母は三島自身の幸せを応援してくれたけれど、桐野は桐野だけが幸せになることを許さない母親の呪いにかかったまま死んでいくのだろうなと胸が苦しくなりました。
ペド教師・柳田のスピンオフである「深潭回廊」シリーズもまた、ド田舎の狭いコミュニティーの中で苦しむ少年が主人公です。
被害者意識ばかり強く自分中心だった柳田が、生まれて初めて他人のために立ち上がろうとします。そして、「娼婦の子だから」と父親にさえ性暴力を肯定されて生きてこさせられた中学生の渚がこれまでどれだけの苦しみを味わってきたかを考えると、涙が溢れて止まらくなります。渚は島の外から来た山田だけを信じています。山田、どうか渚をお願いね…。
「スメルズ ライク グリーン スピリット」は、BL史に残る、最高の名シリーズです😭✨