ドラマCD「愛の裁きを受けろ!」を聴きました。
ドラマCD「愛の裁きを受けろ!」は、樋口美沙緒先生原作の人気BL小説シリーズ「ムシシリーズ」の第3巻を音声化した作品です。ムシシリーズの中でも特に「泣ける」「感動した」と、強く心動かされた人の多い作品で有名ですね。
主役カップルを演じる興津和幸さんと斉藤壮馬さんも実力派声優さんということもあり、発売当時から現在まで、長く高い評価を得ています。
以下、登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
ロウクラス嫌いの暇を持て余した金持ちハイクラス大4(演:興津和幸さん)×30歳まで生きられない短命かつ病弱な聾者の大1(演:斉藤壮馬さん) のお話。
<あらすじ>
タランチュラ出身でハイクラス種屈指の名家に生まれた七雲陶也は、空虚な毎日を送っている大学生。
退屈を紛らわすためのクラブ通いにもうんざりしていたある日、陶也はロウクラス種の郁と出会う。
カイコガという起源種のせいで口がきけず体も弱い郁は、陶也のことを好きなのだという。
原作小説「愛の裁きを受けろ!」について
原作「愛の裁きを受けろ!」は、樋口美沙緒先生が書かれたBL小説です。
本作は、「ムシシリーズ」という、絶滅しかけた人類が節足動物と融合した社会で起きる物語がつづられた、(基本的には)1巻完結の作品シリーズのうちの3巻目です。
原作小説に関する詳しいネタバレ感想は、こちら⬇️
こんな人におすすめ
- 樋口美沙緒先生、ムシシリーズのファンだ🦋
- 死生観と愛について今一度再考したい💕
- 生まれて、生きてきたことに何の意味があるのか?と考えてみたい💭
ムシシリーズのドラマCDについて
ムシシリーズのドラマCDは全作品が音源化されているわけではありません。
原作シリーズは2025年8月時点で10巻まで刊行済みですが、ドラマCDになったのは全6作品のみです。
原作第1巻「愛の巣へ落ちろ!」〜第5巻の「愛の本能に従え!」までは刊行順に音源化されていますが、それ以降は、なぜか第9巻の「愛の夜明けを待て!」だけが音源化されています。(理由は謎です)
本作は原作同様、3番目に音源化されました。
本作中の主要な登場キャラクターたち(澄也、兜、篤郎)は、ドラマCD第1作目「愛の巣へ落ちろ!」とドラマCD第4作目「愛の罠にはまれ!」で主役として登場するので、本作を聴いて気になった方は、ぜひその2作品もチェックしてみてくださいね。
本作をもっとよく知るための小ネタ
①今作のおすすめポイントや、印象に残ったシーンを教えてください!
斉藤壮馬さん まずストーリーと、各々がもがきながらも生きているというところを聴いていただきたいなと思います。
郁くんとしてはラストに向けて陶也さんとお互いの想いが同じ方向へ向いていく過程は、興津さんと一緒にやらせていただいて、実際僕自身もグッと来て、泣くところは何ならちょっと本当に泣いていて、次のモノローグはちょっと鼻声になっているみたいな感じでやっておりますので、そういった部分もぜひ聴いていただきたいです。
引用:愛の裁きを受けろ!キャストインタビュー | フィフスアベニュー ブログ
②今作のおすすめポイントや、印象に残ったシーンを教えてください!
平川大輔さん 我々は喋るのが仕事なのですけれども、その我々が喋ることができない人を演じるということで、台本を読んでいた時に、壮馬くんがどんな風に演じるんだろうなって思っていました。現場に伺わせていただいて実際に聴くと、色々と研究をされて来たのだろうなというのがすごく伝わってきました。
言葉が上手く出てこなくても伝えることができると思える、素晴らしいお芝居だったので、そういった部分は聴きどころじゃないかと感じました。
引用:愛の裁きを受けろ!キャストインタビュー | フィフスアベニュー ブログ
③「生きること・死ぬこと」をテーマに背負った子を、どう表現して、作品の本質を演じきるかというところまで、役者さんが下りてきてくださるだろうか……という不安が、原作者としてはありました。私は作品を作る時、一年以上、『愛の裁きを受けろ!』に関しては、およそ三年かけてそのテーマを練って、作品の本質的なところに下りていっているので、作家の感覚からすると、そんな短期間に本質が掴めるんだろうかっていう不安はあるものなんです。
引用:『愛の裁きを受けろ!』収録レポートみたいな感想(興津和幸さん×斉藤壮馬さん//平川大輔さん・松岡禎丞さん)|樋口美沙緒
ネタバレ感想
①陶也の「郁と付き合う前」と「郁と別れた後」の変化っぷりがすごい
郁と付き合う前の陶也は、原作では「孤独(だけど、本人はそれに気づいていない)」「人生に膿んでいる」という雰囲気をさまざまな表現から感じましたが、声優さんはそれを声だけで表現しなくてはいけないわけで…できるのかな?と疑いながら聴き始めました。
原作もドラマCDも、七雲家で開催されたパーティーで、酔った陶也とハイクラスの参加者に襲われそうになっていた郁が出会うところから始まるのですが、ここの陶也の声の演技がまさに理想そのもので…!「原作で読んだ通りだ!!」って思いました。
「幸福の紛いものならたくさん持ってる」と陶也がくだを巻くくだりなんか特に良くて、本物の幸福は持っていないという物悲しさ、紛い物なら持ってるという自嘲、自分は一生本物の幸せなんて手に入れられないんだという諦めがないまぜになった感情を、たった一言のセリフで、言い方一つで表現していて、こ、これがプロ…とドギマギさせられます。
それに、郁と別れた後の、紳士的で朗らかな陶也の演技も素晴らしいです。
原作では、陶也は郁がそばにいない間も、善行を重ねればそれが巡り巡って郁を幸せにするはずだと信じて生きていました。郁という存在に出会わせてもらったお礼を、神様に善行という形で返し続けているのだと。自分ではなく郁に少しでも幸せなことが起こるようにと、陶也は祈るように生活していたんです。
ドラマCDの、郁と別れた後の陶也からは、原作と全く同じ感覚を受けました。
クライアント(だけど、ロウクラスだからそんなに金払いがいいわけではない)八百屋さんにも優しく接するとか、愛する郁を傷つけて殺したいほど憎んでいる篤郎にさえ感情的にならずに接するとか、そういう陶也の言葉一つ一つから、甘やかで優しい声音の底にある、郁への溢れんばかりの愛と、近く訪れるであろう郁の死へ覚悟が感じられます。
郁と別れて4年間、そして4年後の陶也は、ただ話し方が優しくなっただけではなくて、明らかに「郁に出会えて、生まれた時からの孤独から抜け出した」「郁への溢れる愛の中で生きている」「自分と郁はおたがいに出会うために生まれてきた」のだという彼の郁への思いが、全ての言動に滲んでいて、その深い愛の鱗片をセリフから感じるたびに、震えるほどに感動させられます😭
②郁の「陶也と付き合えない理由」に涙止まらず
郁のセリフ・独白の中で一番好きなのが、再会した陶也を愛しているものの「付き合えない」と突き放すシーンです。
「いつかは陶也さんは俺が死ぬのを待つようになります!」と叫ぶ郁。郁は声が出せないので、原作では唇の動きを陶也が読み取っていましたが、ドラマCDでは斉藤壮馬さんの叫び声で聴けたのが感無量でした。
それに、この叫び方が凄まじかった。まるで血を吐くような、喉の奥から搾り出したような叫び声でした。もう何十年と…それこそ、生まれてからずっとこう思わない日はなかったというような、ずっしりと重くて、窒息しそうなほど苦しい悲鳴。
本当は誰よりも自分の死を恐れている郁は、自分を愛してくれる人々が「もうあの子が死ぬかもしれないと不安にならなくていいんだね」と、自分が死んだ後にホッとするのが嫌だった…特に愛する陶也にそう思われるのが嫌だったから付き合えないのだと吐き出します。
郁が陶也に付き合えない理由をそう話すのを聴きながら、私は知らぬ間に郁の声を「斉藤壮馬さん」として認識していないことに驚きました。完全に「郁」の叫びとして聴いていたんです。「郁が、叫んでる」と感じた時、私は涙が止まりませんでした。斉藤壮馬さんに郁が、郁に斉藤壮馬さんが乗り移ったような、完全に二人は一人として、生きていました。そう思わせるほど、斉藤壮馬さんの語る郁の言葉には人生の厚みと重み、深みがあり、彼以外では郁の人生を表せなかったのではと感じます。
③ドラマCDでは原作とは違う視点からも楽しめる
私は原作の大ファンゆえに、ドラマCDにはさほど期待していませんでした。普段からそんなに音楽を聴く方ではありませんし、結局は原作が最高だしな…という気持ちだったんです。
特に、「愛の裁きを受けろ!」は郁が聾者なこともあり、音声化は難しいと思っていたし、健常者が聾者の方の真似をしても、さほど真に迫った演技・作品はできないような気がしていました。
でも、実際にドラマCDを聴いてみて、聴く前に自分が持っていた批判的な考え方や偏見が、どんなに狭い視野で考えられたものかを反省しました。
まず、音声化されたことで一番良かったと感じたのは、「登場キャラクターたちへの共感度・感情移入度が、小説を読んだ場合よりも高くなる」ことです。
私が原作小説を読んだ時は、兜や篤郎といった主役カプ以外のキャラクターたちは、ただ主役カプたちの間に波乱を起こしたり、仲を繋いだりする「装置」としてしか認識していませんでした。なので、当然それぞれのキャラに思い入れなどありませんでした。
でも、音声化されたことで、周辺キャラクターたちが「存在する」ことがよりはっきりと感じられるようになり、それぞれのキャラクターが何を考えてその行動をしたのか、その言葉を発したのかをよく考えられるようになったんです。
声優さんたちが繊細な演技をしてくださるので、篤郎については「なぜ郁にそこまでの反発や加害を加えなければ彼は生きていけなかったのか」を、兜については「いつも飄々として”いい人”っぽいけれど、腹の底では一体何を考えているのか」を考えては、「このシーンではきっと彼はこう考えていたのだろう」と原作への理解を深められました。
また、聾者である郁の演技についても、独白という形でセリフを読み上げるシーンが多かったのですが、その独白シーンでの声の演技が感激するほど丁寧で…起源種がカイコガゆえに、少しずつ体の機能が衰え、死に至ってゆく過去と未来を噛み締める諦めや、それでも今できることを頑張りたいという健気な明るさが、声から透けて感じられるんですよね。聾者としての人生の積み重ねが見える声の演技というか…。衝撃でした。
それに、声を出す時の演技も真剣そのもので、 「聾者当事者が演じていないのに、真に迫った作品ができるわけがない」というのは暴論だと反省しました。
ドラマCD化されたからこそ、原作をより深く理解できるし、ドラマCDならではの演出も面白く、愛する「愛の裁きを受けろ!」の世界をいろんな角度から楽しむことができました。
まとめ
興津和幸さんの、色っぽく、芯の強い、愛に生きる陶也の演技。
斉藤壮馬さんの、今にも吹き飛びそうに繊細なのに、頑固で、孤独に苦しむ郁の演技。
どちらもが唯一無二に素晴らしく、このお二人でなければ陶也と郁の恋は、これほど完璧に再現できなかったと感じさせられました。
脇を固める兜(平川大輔さん)と篤郎(松岡禎丞さん)の丁寧かつ感情の溢れる演技も光り、登場キャラクター全員が、陶也と郁が固く愛し合うにいたるまでの物語を全力で作り上げてくださっていました。
各人が「愛の裁きを受けろ!」という物語のパズルのピースというよりは、それぞれの熱の入った演技のおかげで、相乗効果が生まれて、物語がどんどんよくなっていくような…ストーリーは変わらなくても、そこにこもった熱量はこれ以上ないほど高まっている感じがしました。
「愛の裁きを受けろ!」が、ドラマCD化されて、本当に嬉しいです。
聴くたびに大泣きしてしまうけれど、聴いた後のこの幸せな気持ちは何ものにも代え難いですね。
たくさんの人に、この感動を味わってほしいです。