水壬楓子「ディール」のネタバレ感想|虐待サバイバーたちの恋と愛

小説

水壬楓子先生「ディール」を読みました!

登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨

登場人物とあらすじ


虐待サバイバーのボディーガード×義父・義兄による性的虐待被害者の大学生 のお話。

<あらすじ>
人材派遣会社『エスコート』で秘書を務める19歳の律は、ボディガード部門のトップ・ガードである延清と暮らしている。
しかし、数えきれないほど抱かれていても、延清は「恋人」ではなく、「飼い主」だった。
出会いは九ヵ月前。公園の片隅、見知らぬ男たちに襲われていた律を、身体を取引材料として延清が気まぐれに助けた日から、二人の関係は始まり―。

 

こんな人におすすめ

  • 腕っぷしの強い攻めが好き💪
  • 虐待被害者など、過酷な過去を持ったカプが好き🤕
  • 割れ鍋に綴じ蓋な凸凹カプが好き🍲

 

ネタバレ感想

①愛を知らない攻めの成長に母性爆発

ネグレクト、虐待

攻め・延清は6歳の時に母親から無理心中を迫られ、カッターで首を切り付けられたという過去を持っています。彼の母は別れた父の幻影を追い続け、いつしか狂ってしまいました。

ゆえに、延清は「無償の愛」を知りません。愛されることにも愛することにも期待せず、情欲が目の前を通り過ぎれば男でも女でも抱いて発散するといった淡々とした生き方をしています。

一方、受け・律は貧乏で苦労してきた母の再婚相手と連れ子に性的虐待を繰り返されていますが、母は金銭的余裕を手放したくないために見て見ぬふりをしています。たしかに母に愛された記憶はあるはずなのに、律が傷つけられてもよそよそしい態度の彼女に深く悲しむ律。

そんな2人が偶然出会い、律は一目で延清の底なし沼のような孤独を感じとります。自分と似た孤独、けれどどこまでも惹かれてやまない気持ちに動揺しながらも、律は延清を愛し抜くことを決めるのです。律は延清に献身的に尽くし、延清にどんな対応をされようとも無償の愛を態度で表し続けます。

延清は律の身体や心を酷く傷つけます。それは律の愛を試しているようでもあり、延清本人がなによりも自分の感情がぶれることに怯えているようでした。

どれだけ多くの美人に言い寄られようと、仕事が有能だとちやほやされようと、延清は顔色ひとつ変えないのに、徐々に律を誰かに取られやしないかと不安がり始めるのです。

完璧な育児などありませんが、2人の両親はあまりに酷すぎました。2人の歪んだ愛の形は、共に過ごすうちにぴたりとはまるようになっていきます。変わっていく延清の荒々しさ、切なさ、愛おしさ、全てが愛おしいのです。

 

②攻め・受けどちらもの母親の不遇さに涙

延清の母は狂う前、「あの人、足首だけは褒めてくれたの」と嬉しそうに延清に語っていました。

律の母は義父と再婚したことで、生活が楽になり笑顔を見せるようになりました。

2人の女性たちが息子を傷つけたことは許されることではありません。しかし彼女たちの人生は波瀾万丈で、全く同情の余地がないかと問われれば決してそうではないと思うのです。

愛した人の言葉を宝物のように反芻する、少女のように無垢な母。これで息子も人並みに育てられると安心した優しい母。彼女たちは自分の腹を痛めて産んだ息子を傷つけてしまうほど追い詰められていました。

彼女たちをどうして誰も救えなかったのか。手を差し伸べなかったのか。胸が痛いです。

 

③意外と小悪魔な受けにニンマリ

延清と律がまだ正式に想いを交わす前、律は延清に「あなたがナンパするところを見たい」とねだります。

クラブで女性を引っ掛けていざVIPルームへ向かう時、延清は律に先に帰れと厄介払いしますが、律はふと思いついたように「帰りに僕が誰かにひっかけられてもいい?」と延清に囁くのです。慌てて律を追いかけ、「今晩はお前が相手しろよ」と憮然と言う延清。

このお話だけで、律と延清の関係性がわかるというものですw

延清は自分が律を飼っていると思っているけれど、実は律に主導権を握られてるのは延清の方なんですよね。忍耐強く、何をされても延清への愛を諦めない健気な律ですが、こうして意外にも延清を振り回すこともあり、似た者同士というか、まったくお似合いカップルだなあとニヤニヤしてしまいます。

 

まとめ

本作は全6巻「エスコート」シリーズのうちの第2巻。各巻1カップルに焦点を当てているので、単巻でもきちんと世界観を理解して読み込めます。

本作のカプはどちらもが虐待サバイバー。受け・律は現在進行形で義兄から性的虐待を受けています。

親子関係の歪さは本人の生き方の歪さにも繋がります。無償の愛を知らない攻め・延清は試すように律を傷つけたり愛したりとまるでDVのような言動を取ります。

しかし律は分かっているのです。そんな言動を取っている彼自身が一番、愛に飢え、もがき、苦しんでいると。律もそんな延清を愛したい、受け入れたいと懸命に食らいつきます。延清はそんなふうにずっと変わらぬ愛を注ぎ続ける律に少しずつ心を開いていくのです。

猫のように気まぐれな攻めと懐の深い飼い主の受けカプの、痛々しく切なくも甘やかな恋物語でした😭❤️

苦難を乗り越え愛を成就させるカプがお好きな方々に、ぜひとも読んでいただきたい名作です!!

ディール
作者:水壬楓子
人材派遣会社『エスコート』で秘書を務める19歳の律は、ボディガード部門のトップ・ガードである延清と暮らしている。しかし、数えきれないほど抱かれていても、延清は「恋人」ではなく、「飼い主」だった。出会いは九ヵ月前。公園の片隅、見知らぬ男たちに襲われていた律を、身体を取引材料として延清が気まぐれに助けた日から、二人の関係は始まり―。

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