Guilt | Pleasure「FATHER FIGURE」を読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人におすすめなのかなど、ネタバレ感想とともにご紹介します。
登場人物とあらすじ
<あらすじ>
警察官であるガブリエルは、ある男を監禁する計画を立てていた。
男のために職場を変え、家を引っ越した。男に脅迫状を送り、差出人不明の脅迫状に困惑する「相談に乗る」と近づいて…そして、真冬のある夜、監禁計画を実行した。
ガブリエルが男と過ごした1週間、一体何が起こったのか?
大人気BLコミック「In These Words」シリーズ(全4巻)の受け、精神分析医の浅野先生が手がけた過去の事件、という体で話が進められます。
「In These Words」シリーズの番外編小説なので、コミックを読んでいると「浅野先生ってこんな風に仕事をするんだな…」と理解が深まって面白いです。でも、本作単体でも読めます。
こんな人におすすめ
- ノワール小説が好き😈
- 生々しいミステリー・サスペンスものが好き🕵️♂️
- ガチ近親相姦ものが好き👨👩👦👦
ネタバレ感想
いきなり感想を書いてもわかりにくいので、まずお話全体をざっとネタバレ込みで説明します。
主人公のガブリエルは殺人犯です。終始、ガブリエル視点で話が進みます。
ガブリエルは、物心ついた時から父親がいませんでした。母子家庭だったのですが、母親はかなり暴力的で、ガブリエルは母親の虐待に耐えながら育ちました。
そして大人になったガブリエルは、父を探すようになります。そして、見つけるのです。海軍兵である息子を一人持ち、妻に先立たれた男。それが自分の父でした。
彼はガブリエルの母のことも、ガブリエルのことも覚えていないようでした。
父のそばにいたくて、ガブリエルは父の家の近くに職場が変わるよう異動願いを出します。家も、父の家が見える位置のアパートに引っ越します。
ガブリエルは脅迫状を父に送り、父が不安がっているのにつけこんで「相談に乗ってあげる」と親しくなっていきます。そして、ある夜彼を襲い、森の奥の小屋に監禁するのでした。
ガブリエルの母は、ガブリエルを妊娠したことを父に知らせていませんでした。なので、父はガブリエルの存在を全く知りませんでした。
頼むからこんな手段で私に愛せと迫らないでくれ、外に出してくれと父は懇願しますが、ガブリエルは決して首を縦に振りません。
「外に出たら、あなたは知らない人たちのものになってしまう。ここにいればずっと自分の父親でいてくれるから、外には出せない。
自分はあなたとずっとここにいたい。それさえあればいい。」
父は死んだ妻との結婚指輪を大事にはめていましたが、それが気に入らず、ガブリエルは無理やり指輪をもぎとります。父の指から肉がもがれ、日に日に化膿がひどくなり、手指を切り落とすしかない状態になっていきます。
そして、父が「外に出してくれ」と暴れるたびに、父の首を締める、殴る、犯す…を繰り返すガブリエル。徐々に父は憔悴していきます。
そして監禁から数日たったある日、父はガブリエルに反旗を翻します。ガブリエルのすきを突いて彼を殴り、車を奪取し、逃げようとするのです。しかし、ガブリエルに逆に激しく殴り倒され、犯されます。
脱出に失敗した父は、みるみるうちに生きる気力をなくしていきました。そして父の指がもう腐りきってしまう頃、ガブリエルが父に毒薬を差し出します。
ガブリエルは職場で、自分が父を誘拐した事件の容疑者に浮上していることを知り、「もう逃げられない」と悟ったからです。ガブリエルは、もう逃げられないから死んでくれと父に泣きながら頼みます。
父はガブリエルに最期のお願いとして、ガブリエルにもぎとられた指輪を返してほしいと頼み、指輪をはめ、苦しみにのたうちながら死にます。
ガブリエルは死んだ父を助手席に乗せ、泣きながら車を走らせ、警察に出頭します。
これはかなりさらっと書いていますが、本編はめっちゃくちゃエグいです。父を殴る、犯すシーンはしんどすぎて吐き気がしました。
一番怖かったのは、ガブリエルと父との会話。
父はものすごくまっとうに「こんなやり方では君を心からは愛せない。暴力を振るわないでほしい。監禁しないでほしい。」と論理的に説明するんですけど、ガブリエルの理論が意味不明すぎるんですよ。
自分の考えが受け入れられなければ殴るし犯すし…俺の考えを受け入れるか、死か、みたいな会話なのがおぞましかったです。殺人犯と会話するのってこんな感じなんだろうなと思いました。
あと、ガブリエルが自分に暴力を振るった母を監禁し暴行するのではなく、父を標的にするところがリアルだなあと思いました。
ガブリエルにとって母は限りなく憎くも、同じだけ恐ろしい存在なんだと思うんです。ガブリエルの心は幼い頃のままなので。
どれだけガブリエルが肉体的にも社会的にも、母をひねりつぶせるくらいの力を持つようになったとしても、彼は母を殺せないでしょう。
ではその母への暴力的な愛憎はどこに向かったかというと、彼のそばにいてくれなかった父へ向かったのだと思います。
母には直接怒りも恋しさもぶつけられないので、父にぶつけるしかない。そして、父にすべての欲をぶつけた結果、あらゆる形の暴力になった。
ガブリエルの行動は、一貫して「大人の頭脳と肉体を手に入れた子供」のものでした。自分勝手で、残虐で、甘えていて…あまりにも哀れでした。
読後は、かなり苦々しい気持ちになります。
平凡に生きていたのに、突然ガブリエルから地獄に突き落とされた父の最期があまりにもかわいそうで胸が塞がります。
めちゃくちゃ泣きました。めちゃくちゃ泣いたし、父の死亡シーンを読んであまりにつらすぎて、しばらくその先が読めなかったです。
人を嬲り楽しむ人間の思考回路を見続けることは、正直言って相当しんどい…でも、ここまで歪むほどガブリエルは幼少期に想像を絶する孤独と暴力の中にいたんだろうなと鬱々とした気持ちにさせられます。
明日は我が身に降りかかるかもしれない、生々しい絶望を感じさせられる作品です。
まとめ
父の愛を求めて監禁し、暴力を振るい、殺す。
延々と描かれる性暴力描写がおぞましく、失われた命に涙が止まりませんでした。「赦す」ことを考えさせられる作品です。
父がガブリエルのそばにいなかったこと、守ってくれなかったこと、愛してくれなかったことを「赦す」。ガブリエルが父に振るった暴力を「赦す」。
ガブリエルは何ひとつ父を赦せなかったから、殺してしまった。
父親が最期に猛毒を躊躇なく飲んだシーン、息子が父親の死体とドライブしながら泣くシーンは、特に父とガブリエルの「赦す」気持ちを表現するシーンとして印象的です。
これほど、恐怖と悲しみに震えながら泣いたのは初めてかもしれません。
心臓が弱い人にはおすすめできないけれど、犯罪者の心理描写がここまで丁寧にされたM/Mロマンス(BL)小説はめずらしいと思います。
ぜひ本作で、洗練されたサスペンス、心理描写の面白さを体感してほしいです。