ホームズとワトソンの関係に新たな光を投げかけた、ホームズパスティーシュの傑作、ファン待望の復刊!ローズ・ピアシー「わが愛しのホームズ」を読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
シャーロック・ホームズとワトソンがもし恋仲だったら… のお話。
<あらすじ>
ベーカー街221Bの下宿で、シャーロック・ホームズとともに暮らすワトソン博士は、ホームズに対する秘めた想いを抱えたまま毎日を過ごしていた。
そんなある日、美しい夫人がホームズの元を訪れ、同居女性の不可解な言動について調べてほしいと告げる。
事件の解明が進む中で、ワトソンは自分とホームズの関係に向き合うこととなる―。
こんな人におすすめ
- シャーロック・ホームズシリーズが好き🕵️
- ホームズとワトソンの関係について妄想したい💭
- 同性愛(特にゲイ)が違法だった時代のお話を読みたい📚
本作をもっとよく知るための小ネタ
①本作は「パスティーシュ」と呼ばれる、先行作品の模倣作。いわば公式二次創作のような作品です。
特に、シャーロック・ホームズシリーズに関しては、「ホームズ・パスティーシュ」という言葉があり、シャーロック・ホームズを原作とした小説や作品で、ホームズの物語やキャラクターを模倣・パロディ・再解釈した作品を指します。
「ホームズ・パスティーシュ」作品の例としては、本作の他にも、アンソニー・ホロヴィッツ「シャーロック・ホームズ 絹の家」や、ミシェル・バークビイ「ミセス・ハドスンとメアリー・ワトソンの事件簿」シリーズなど、ホームズの物語を再解釈した作品もあれば、ワトスン博士やアイリーン・アドラーなど、ホームズの物語で脇を固めるキャラクターを主人公にした作品、シャーロック・ホームズが香港で活躍する話など設定を変えた作品、ハドスン夫人がホームズとワトソンの好物を記録したレシピ本作品などもあります。
ネタバレ感想
極秘捜査
ホームズとワトソンのもとに、ミス・ダーシーという依頼人が訪れました。彼女は、天涯孤独なはずの同居人 マリア・カークパトリックが「すぐ帰れ 助け要る 母」という電報を受け取って以来、行方不明になっているのだと訴えます。謎多きマリアの言動を推理するホームズですが…。
まさか依頼人のミス・ダーシーが犯人だとは!
マリアの隠し子 モーリス・カークパトリック、ひた隠しにされている彼の父 ロバート・カーステアズ。そしてロバートを脅して金を巻き上げようと企む謎の高級娼婦Q.B(女王蜂)。マリアから繋がる関係性の糸を少しずつ辿るうちに、ミス・ダーシーに行き着いた時には驚きで思わずため息が漏れたほどです。
ミス・ダーシー(レズビアン?)に、ゲイのワトソンが自分の性的指向と片想い相手であるホームズの相談を逐一しに行っていたのも皮肉な展開でした。
ワトソンもまさか天下の恐喝女王に自ら弱みを打ち明けに行っていたとは思わなかったのでしょうが、それにしても彼はすぐに人を信じてしまう!まったく、人が良すぎます。
ホームズが「ミス・ダーシーを信じるな」と警告していたにも関わらず、わざわざ当てつけのように彼女のもとを訪ねているのも、彼の救いようのない頑固さを感じますね。
ただ、ホームズはワトソンと同居するくらいですから、彼のそんなところも好きなのだろうなあと痴話喧嘩を見ているような気分になりました。
最後の事件
事件を通してモリアーティを追い詰めたホームズでしたが、その代償として彼とその部下たちに命を狙われることに。ワトソンの身も危ないと感じたホームズは、彼をマイリンゲンの小さな村へと逃避行をするのですが…。
メアリとワトソンの関係が「友情結婚」という捉え方になっていて、「あくまで二人はお互いの恋愛事情には口を出さないというルール」(結婚してからもワトソンは男遊びを続けていた)というオープンリレーションシップを築いてた…という解釈は面白かったです。結局、その男遊びのせいでホームズには「自分との恋愛を捨てて世間体のために結婚し、肉欲を満たすために遊び回っている」と冷たい視線を送られることになるのですが…。
ホームズ亡き後のワトソンの憔悴・混乱っぷりは、実は原作を読んでいないのでなんとも言えないのですが、とても胸が苦しかったです。自分のせいでホームズを死に追いやってしまったと後悔するワトソンが切なくて…。
最後にフランスで二人が落ち合い、ワトソンがホームズにしがみつくようにして一つのベッドで眠るのも感慨深かったです。キスもセックスもない、一番近づいたとしても添い寝の関係。そんなプラトニックな二人だからこそ、求め合う気持ちの強さをより感じさせられる…同性愛者(特にゲイ)に対して窮屈な時代背景もあり、特にそう感じさせられました。
「また一緒に住んでくれないか」と、あのツンデレなホームズに言わせるのもすごい!ホームズは本当にワトソンを求め、愛していたんだなあ(本作の中では)としみじみと感じさせられます。
まとめ
シャーロックホームズシリーズといえば、世界中の誰もが知っている名作ミステリー。
特に、ホームズとワトソンの関係については、長い間さまざまな憶測が飛び交ってきました。
本作は、そんな中で「ワトソンをバカにするホームズの言動は、実はすべてワトソンの注意を自分に向けるためのものであり、自分が彼にとって必要な人間であるということを確認するための手段だった」という考察のもと描かれています。
ホームズへの報われない愛と社会常識との板挟みに苦悩するワトソン。
19世紀後半のイギリスに生きる同性愛者(特にゲイ)の生々しい苦悩が、文章からひしひしと伝わってきます。
心が求めるのはホームズ。でも彼はワトソンの気持ちに気づいているはずなのに気づいていないフリをしていて、とめどない肉欲を他の男で発散することしかできないワトソン。しかしそうして肉欲を発散させることさえ、法で禁じられてしまい、常に告発に怯えながら、でも封じることのできない想いと欲にせき立てられながら生きている…。
もしホームズが、ワトソンが、ゲイだったなら。二人が愛し合っていたのなら。
甘美な妄想にどっぷりと浸れる一冊です。