マッケンジー・リー「美徳と悪徳を知る紳士のためのガイドブック」を読みました!
このクィア/ヒストリカル小説を読めば、あなたの人生に何が欠けていたかに気づくだろう”
―――――〈ティーン・ヴォーグ〉誌
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
黒人の血を引く受けの親友×英国伯爵のバイセクシャルな放蕩息子 のお話。
<あらすじ>
伯爵の長男で紳士の振る舞いをすべき身でありながら、酒や煙草、美男美女との戯れに明け暮れる放蕩息子モンティ。
実は親友のパーシーを密かに想っているが、爵位を継ぐ前に一年間、その親友と共に欧州を巡る周遊旅行に出ることになった。
父親の監視の目を逃れ、ますます派手に遊ぶ彼は、ベルサイユ宮殿で開かれたパーティでちょっとした諍いから小物入れを盗んだのだが、この出来事が思わぬ大事件に発展し、追われるはめになり……!
こんな人におすすめ
- 18世紀のヨーロッパの歴史に興味がある🇫🇷🇬🇧✨
- 女性蔑視、人種差別、同性愛嫌悪…現代でも論争となる話題について今一度考えたい💭
- 若さゆえの苦しみ、悩み…自分も「あの頃」に戻って青春を楽しみたい!!✊✨
本作をもっとよく知るための小ネタ
①NY公共図書館ベストブック選出、米公共ラジオ局ベストブック選出、NYタイムズ・ベストセラーと名だたる名誉を総ナメにした話題作。
②続編が2冊出て完結して(和訳はまだされていない)いますが、続編はスピンオフで、脇役のフェリシティが主人公です。3作目はモンティの弟(通称ゴブリン)が主人公となり、モンティたちもほんの少し登場するとか?
③映像化が既に決まっているそうで、HBO&Berlanti Productions(ワーナー・ブラザーズ傘下のアメリカ有料ケーブルテレビ放送局)に映画権が買われたことまでは2024年7月現在分かっています。
ネタバレ感想
①当時のヨーロッパの街並みや貴族のいでたち、暮らしの雰囲気がリアルに伝わってきて面白い!!
18世紀には主にイギリスの貴族の子女たちがグランドツアーという名目でヨーロッパを周遊した…という事実は世界史で習ったことがありましたが、それは単に言葉を学んだだけでした。彼らがツアー中に何をして過ごしていたのか、彼らの楽しみは何だったのか、旅を終えた彼らを待っているのはどんな日々かなどは全く想像もしませんでした。だからこそ、本作を読むことで、まるで自分も当時のグランドツアーに参加しているような気分になれて、心から感動しました!
昼は錬金術に関する学術講演を聴きに行ったり、朗読会や音楽会に参加したり。夜には男女ともにおしろいを塗りたくり、カツラをつけて、フリルたっぷりのドレスで美を競い合いつつ、誰に取り入っておくべきかを計算し、媚を売る。それが毎日毎日続く。
そして、その旅が終われば、地元の領地に縛り付けられ、一生そこで生きていく。
自由を求める若者からすれば、なんと退屈な旅でしょうか。主人公のモンティは旅の間のお目付け役であるロックウッドの目を盗んで、たびたび酒を飲んでみたり、酒場に繰り出したりします。酒場の大衆的、退廃的な雰囲気と宮殿でのきらびやかな舞踏会との差も面白く、ワクワクします💃🕺🍻✨
②情景の表現がすごく綺麗。詩的でうっとりする🥺✨
「金色の光が鎖のように連なって、見えない海岸線を飾っている。」p36
「パリという街だって、まるで冷酷な恋人だ。不潔極まりない場所に、可能とは思えないほどおおぜいの人が詰め込まれていて、本当に信じられないほど交通量が多い。」p42
「シャンデリアが水面に映る陽光のように輝く。」p218
「上空では雲が激しく渦巻いて流れ、血のように広がっていった。」p404
など、本作ではたびたび抒情的な表現が出てきます。パリという街を「まるで冷酷な恋人」と表現するなんて…なんて素敵なんでしょう。自分では絶対に思いつきません。
また、雲が激しく渦巻き流れていく様子を「血のよう」と表現するのも、おどろおどろしさ、これから何か不穏なことが起こりそうな予感を感じさせてドキドキしますよね。
情景の表現がとてもロマンチックで、キャラクターがどう動くか、何を話すかだけではなく、地の文だけでも読んでいて楽しくなります。
③当時は差別対象であった黒人の血を持つ親友・パーシーへの一途な愛に大号泣😭
18世紀、ほとんどの黒人は奴隷でした。中にはパーシーのように黒人の血を持ちながらも貴族として一流の教育を受けた者たちもいましたが、多くの場合は客人が来た時に一緒に食事をさせてもらえなかったり、特に身分の高い人の場合は白人とは結婚できなかったり、差別は根強かったようです。
けれど、本作の主人公モンティは違います。モンティは酒ばかり飲んでいるし、言わなくていいことを言ってしまうし、無鉄砲だし、下半身は緩いし、どうしようもない人間ですが、その心はずっと一途にパーシーだけを愛し続けていました。
しかし、同性愛が悪魔の所業だと思われていた当時、パーシーにその想いを告げることはとても難しかったのです。それでも、モンティはパーシーを愛し続けます。彼のために少しでも良い人間になりたい、彼の苦しみを取り除きたいと奮闘します。その姿を見ていると、とてつもなくモンティが愛おしくなるのです。
「きみが病気だろうとかまわないし、ぼくがすべてを捨てなきゃならなくてもかまわない。きみにはそれだけの価値があるから。きみにはそれだけの価値があるよ、だってきみはすばらしいんだから。すばらしくて、魅力的で、才能にあふれてて、優しくて、善良で、ぼくはただ……愛してるんだ、パーシー。きみを、ものすごく愛してる」p385
「ぼくたちはどちらも、壊れものではない。ぼくたちは、ひびは入ったけれど漆と金箔で修繕された陶器で、何ひとつ欠けることなく、お互いにとって完全なのだ。完全で、価値があり、心から愛されている。」p386
パーシーにこんなふうに真っ直ぐに愛を伝えられるモンティを、愛さずにはいられません。モンティは人を肌の色ではなく、心で愛している。そして、世間の誤った常識などに惑わされない強さを持っている。
モンティのような、真っ直ぐな心を持ち続けたいと思わされます。
まとめ
貴族師弟のグランドツアー中に起こる、大冒険譚。史実を絡めつつ、恋に悩み、将来に惑い、諦め、苦しみ…と当時の青年・淑女の人生を鮮烈に描き出した作品です。
序盤は主人公モンティがだいぶヤンチャをしでかしてくれて、「ああもうなんでそんなことするの!?」「じっとしてられないの!?」と、彼の妹・フェリシティや家庭教師のロックウッドに同情していましたが、物語が進むほどに、モンティの成長や、彼が恋するパーシーとのもどかしくも楽しい恋愛関係や、フェリシティとの兄妹の絆の深まり、モンティに暴力的に振る舞う父へのトラウマの克服など、人間関係や心情の変化に共感し始め、最後にはこれ以上ないほどに登場人物たち全員を愛していました。
最後まで面白さが止まることをしらないどころか、ページを捲るほどに面白さが増していくという凄すぎる作品です。
歴史モノが好き、M/Mロマンス小説が好き、イギリスやヨーロッパの文化が好きという方にぜひおすすめしたい、名作BL小説です!