人気作家肉包不吃肉(ロウバオブーチーロウ)先生、日本初上陸!連載を追っていた読者を阿鼻叫喚の渦に巻き込んだ、陰謀うずまくスペクタルサスペンスBLが早くも邦訳化!!肉包不吃肉先生「病案本 Case File Compendium」シリーズを読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
<あらすじ>
巨大製薬会社の御曹司である19歳の賀予(ハーユー)は、世界に4人しか患者がいない特殊な精神病を患っている。
彼が幼少の頃、賀予専属の医師として賀家に雇われていたのは13歳年上の謝清呈(シエチンチョン)。
謝清呈の妹、謝雪(シエシュエ)が滬州(こしゅう)大学芸術学部で教鞭をとることを知り、賀予は中国に戻り、滬州大学に入学した。
こんな人におすすめ
- 犬猿の仲なケンカップルが好き💥
- 一回り以上の歳の差カプに萌える↕️
- 中国BLに興味がある🇨🇳
ネタバレ感想
病案本 Case File Compendium 1
巨大製薬会社の御曹司である賀予は、元主治医である謝清呈の妹・謝雪に片想い中。彼女にどうにかアプローチしようと試みるも、なぜかそのたびに殺人事件に巻き込まれ…!?
1巻では成康精神病院での梁季成主任による10数年間に亘る、患者・江蘭佩へのレイプ事件をきっかけに殺人および無理心中が発生。さらにそこから派生して、「W、Z、L、ハンカチ落とし殺人ゲーム」が沪州大学で発生。滬大経営のホテルで王剣慷という男が江蘭佩を思わせる赤いヒールを履かされた状態で殺されます。
たまたま謝清呈も賀予も一連の事件に巻き込まれてしまうのですが、どうやら交通事故に見せかけて殺された謝清呈の両親の事件にもこれらの事件は関わりがあるようです。2巻でどこまで謎解きがされるのか楽しみです!
また、1巻で注目すべきポイントは、賀予の特異な精神病についてです。
賀予は世界に4件しか発症例のない「精神的エボラ」精神病(他人と自分に対して激しい破壊衝動を持ち、精神疾病を患う者限定で誘導・麻痺の作用がある”血蠱”という能力を発揮する)に罹患しています。
成康精神病院では江蘭佩の無理心中に巻き込まれた精神病患者たちを自分の血を嗅がせることで統率し、生き延びさせることに成功します。
本作を読んでいると「精神病患者は檻に入れて出てこられないようにしないといけない」というのが中国の一般的な感覚だと感じられるので、精神病患者当事者や親族に精神病患者がおられる方は辛い気持ちになるかもしれません。
賀予が精神病を理由に実の両親から放置されていたり、「普通」を必死に装い続けても謝清呈からはいつまでも「患者」扱いされ、いつまで経っても人並みに社会生活を送っていることを認めてもらえていない状態は、見ているだけで本当に辛いです。
2巻では賀予が少しでも辛い思いをすることがないようにと願うばかりです。
あとは、謝清呈も賀予もヘテロを自認しており、過激なゲイフォビア(同性愛差別主義者)なのですが、本作はBL作品なので二人のキスシーンがあります。
片想い中の謝雪が自分の天敵である衛冬恒というガラの悪い御曹司に片想いしている(どうやら察するに二人は付き合っているかもしれない?)と知ってしまった賀予は、傷心のあまり薬を酒で大量服薬。酩酊状態になった彼は謝清呈を謝雪だと思い込んで、泣きながらキスしてしまうのです。
二人ともお互いに恋愛の意味での興味が全くなく、むしろ読めば読むほどお互いを煽りあって喧嘩しているので、いつか二人が付き合う日が来るのか…?と首を傾げてしまいます。
中国では同性愛者は「家族にとって最大の恥」と言われているそうで、2025年現在も国内ではLGBTQ+の団体関係者や同性愛者は警察から事情聴取を受けたり投獄されたりと過酷な状況が続いています。
本作はBL作品ながら、いや、だからこそ、その中国国内での同性愛者への厳しい差別の目をまざまざと描いています。コメディタッチゆえに「同性愛者は人間扱いしなくていい」「同性愛者は差別すべき対象だ」というヘテロ男女の傲慢が伝わってきて、吐き気を感じます。
二人はそんな同性愛への周囲と自身の中にある偏見と差別を乗り越えて付き合うことができるのか?注視したいと思います。
病案本 Case File Compendium 2
W、Z、L、ハンカチ落とし殺人ゲームの最後の標的と思われる盧玉珠に命懸けで接触する謝清呈と賀予のコンビ。しかし、「組織」を束ねる段は、賀予が謝清呈を見限るように彼のとある動画を全世界に向けて発信します。賀予は謝清呈に長年騙され続けていたことを知り、激昂し…。
謝清呈の両親・謝平と周木英を事故に見せかけて殺した「組織」が仕組んだであろう、「W、Z、L、ハンカチ落とし殺人ゲーム」は、実は「組織」の忠実な僕であった盧玉珠の自害という形で幕を閉じました。謝雪を成人まで育て上げるという目標を達成した謝清呈にとって、両親の仇を討つことは唯一の生きる目的でした。しかしそれが叶わなかったことで、彼はひどく落胆します。
賀予はなんだかんだと尊敬している謝清呈に、ハッカーとして手を貸してやりますが、その正体は「組織」のトップである段には筒抜け。賀予が謝清呈に愛想を尽かすように、部下である呂芝書から聞いた二人の関係を踏まえて、謝清呈が精神病患者にひどい偏見を持っていると分かる動画を「W、Z、L、ハンカチ落とし殺人ゲーム」の現場で強制公開します。
賀予は謝清呈だけが真摯に自分と向き合い寄り添ってくれていたこと、謝雪が特別に自分にだけ優しくしてくれていたことが、謝清呈曰く「賀予の精神病による妄想」であり、同時期に起きた精神病患者による医師殺害事件を受けて、いつか起きるかもしれない賀予からの加害を恐れて主治医の職を辞したことを理解します。
賀予は人生で唯一の理解者だと思っていた謝清呈の裏切りに絶望し、彼を貶めるために強姦します。しかしその刺激に目が眩んだ賀予は、ハメ撮りをネタに謝清呈をその後何度も犯すのでした。
…というわけで、1巻から引き続いていた「W、Z、L、ハンカチ落とし殺人ゲーム」はあっさりと幕引き。2巻は8割方、賀予による謝清呈へのレイプ描写(とそれに至る賀予の心理描写)と謝清呈から賀予への罵倒が占めています。「組織」による事件の進展を求める方は、1巻からいきなり3巻以降に飛んでしまってもいいかもしれません。
中国では同性愛が「恥」と思われていることは1巻時点でも分かっていたことですが、2巻でも洗脳レベルに謝清呈と賀予のゲイフォビアっぷりが繰り返されます。謝清呈は賀予を「畜生以下」と罵り続け、賀予は「僕はゲイじゃない。欲しいのはあんた(謝清呈)だけだから」とストレートを主張し続けます。家父長制や有害な男らしさに忌避感がある方は、かなり忍耐の必要な巻かもしれません。
著者自身が「今の市場のメインって「甘くて、スカッとして、テンポが早い」なんですが、私は「辛くて、悩んだりもだもだして、テンポが遅い」ものが好きなんです。」と語っているので、事件も恋模様もかなり遅々とした歩みになりそうな予感です。
まとめ
中華BLあるある「些細なことだと軽視されていた事件を紐解くと、実は巨悪に繋がっていた」「強くて美しくてかわいそうな受け」が見事に揃った、人気長編BLファンタジーです。
ちなみに、電子書籍版には挿絵はなしなので、買う際は要注意です。yoco先生の美麗挿絵をお求めの方は必ず紙版を買ってください!
攻めも受けもかなり過激なゲイフォビア(さらに二人を包む社会全体もゲイフォビア)という、BLを描く上では地獄のような設定になっているので、同性愛への偏見や差別を見るのが辛い方は回れ右をした方が良さそうです。むしろそういった差別意識を持っている人にこそ性的指向をきちんと見つめ直してほしいし、己の浅はかな過去の言動を後悔してほしい!という方は大丈夫そう😂👍
まだまだ原作は連載中だそうなので、そんなゲイフォビアの二人は本当にくっつくのか…今後の展開と結末に期待ですね!