BL史に残る大人気シリーズ「春を抱いていた」のスピンオフ作品、OVA「冬の蝉」を観ました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
<あらすじ>
時は幕末、徳川の幕臣・秋月景一郎と長州藩士・草加十馬は出会った瞬間、激しく惹かれあう。
しかし、徳川と長州は敵と味方に分かれ、戦争へとなだれ込んで行く。
そのとき草加は英国留学の話を持ちかけられ、秋月のいる幕府と戦いたくがないがためにその話に飛びつくが…?
こんな人におすすめ
- 身分違いの恋に号泣したい😭
- 美人歳上受けが大型わんこ系攻めにほだされる展開が好き🐶
- 歴史、特に日本史が好き⚔
ネタバレ感想
第一巻〜江戸恋唄〜
明治二年 三月二十五日 早朝 岩手県沖、宮古湾の新政府軍艦隊・ストーンウォール号は近づいてくるアメリカの船に停船要請を送っていました。しかし船は一向に止まることなく、船員は「アボルダージュ!(接舷攻撃)」と叫びながら新政府軍艦隊に激突。これは後に宮古湾海戦と呼ばれました。
青森県 新政府軍司令部では、相沢正之進が総参謀の黒田了介に旧幕府軍の卑怯さを怒鳴り立てていました。草加十馬はアボルダージュは立派な作戦であると反論しますが、旧幕府軍人の遺体を調べていたことを相沢に指摘・非難されます。
草加は成功率の低い作戦を決行しようとした勇気ある日本人に敬意を感じているだけだとはぐらかし、長州陸軍は津軽海峡を渡り上陸作戦を決行する予定だと黒田に告げます。黒田は了承。草加は山々を見つめながら、「この向こうにあの人がいる。生きてさえ、生きてさえいてくれたなら」と願うようにひとりごちます。
箱館五稜郭 幕府軍本拠地では、頭に怪我を負った秋月景一郎が暖炉のそばで匂い袋を見つめて物思いに耽っていました。
約260年間続いた徳川政府の幕臣たちは北に居場所を追われ、独立国「蝦夷共和国」を作っていました。陸軍奉行・大鳥圭介が秋月のもとを訪れ、アボルダージュの失敗を伝えに来ます。
新政府軍は独立国を認めず、七千以上の陸兵が青森と岩手で激戦を繰り広げています。旧幕府軍に残された道は、降伏か玉砕覚悟の総力戦かのどちらか。秋月は武士らしく最期まで戦うと宣言します。
大鳥は明日、洋式歩兵大隊を率いて鷲の木(函館の東)に向かって出陣すると言い、秋月もそれに着いていくと返します。
大鳥は秋月の身分ならば公方(将軍)たちと駿河へ行けたはずなのに、戦に身を投じて後悔していないかと問います。
秋月はもう覚悟は決めたと言いながらも、草加と出会ったのはこんな炎の中だった…と思い返します。
同じ頃、草加も七年前の冬、品川宿の御殿山で秋月に出会った時のことを思い出していました。
文久二年 品川 御殿山、草加は長州の高杉晋作らが「英国大使館焼き討ち」を計画していると知り止めようとします。
草加は日本は開国すべきであり、その時に内政が乱れていては意味がないと相沢に訴えます。しかし伊藤博文たちは焼き玉を用意して行った、もう誰も止められないと相沢は首を横に振ります。
炎に包まれた大使館を前に、長州藩の仕業とわかったらどんな責めを負うか…と草加は苦悶します。
逃げ遅れた草加と相沢が町方に追われたその時、彼は秋月と出会います。
宿敵であるはずの幕臣・秋月は「これだけの大事を引き起こすからにはただの浪人ではあるまい。今は、国を乱してる余裕はない。開国に向けて外国と対等でいるためにはな」そう言って草加を逃がすのでした。自分と同じ言葉を口にする秋月に草加は心震わせます。
それから数年後、草加は英語の教本を手に入れるため、中浜塾へ赴きます。攘夷派の長州の人間を入れれば諍いの元になると門前払いされ、自分は開国派なんだ、廊下から聞かせてくれるだけでもいいからと草加は食い下がります。そんな時、偶然秋月が通り掛かります。
長州藩の武士と直参の旗本(父親は町奉行)ら宿敵同士の二人ですが、「今後日本が開国しない選択をすることは不可能。海外の文明を知り、知識と富を蓄え、国力を増強させなければならない。だから英語を学ばなければならない」という考え方は全く同じでした。
塾で学んだことはどうせ復習するから、よかったら一緒に勉強しないかと秋月に誘われ、大喜びの草加。
しかし、京の町は攘夷派の浪士を取り締まる新撰組が活躍するなど混乱を極めていました。
反幕府勢力の復活による治安の悪化を防ぐために京都見廻組を新設するようだと話す秋月に、草加は開国を主張していた長井雅楽が失脚し、代わりに桂小五郎(木戸孝允)ら攘夷派が長州藩を取り仕切ることになり戦々恐々としていると苦悶の表情を浮かべながら話します。
草加は秋月から英語を学ぶも、彼の芳しい香りと端正な顔に思わずうっとりと見入ってしまい、慌てます。
庶民の生活を送ったことがない秋月に付き合い、茶屋へ行く草加。二人で過ごしていると血生臭い政のことなんて忘れてかけがえない時間を過ごしていると感じられると話す草加に、自分もだと返す秋月。
長州と幕府が微妙な関係になってきたため、勉強場所を変えようと提案する秋月。静かな河川敷で勉強をし、意見をぶつけ合い、将来を語り合う二人。
しかしある日、相沢に自室を探られ「我ら長州藩は攘夷の先駆け。英語なぞにかぶれるな」と苦言を呈されます。「お前らは何も分かっていない!権力闘争に明け暮れているだけだ!」と激昂する草加。
後日、待ち合わせ場所で居眠りをする秋月に見惚れる草加。
「いつかお前も海外に行くといい」と朗らかに言う秋月に、そんなことを公に言うのは…と草加は慌てますが、秋月は「お前だから言うんだ」と飄々としています。
秋月は「徳川だけで日本を支えるのは難しい、このままでは清のように列強の食い物になってしまう…一刻も早く大政奉還して諸藩一致の政府を作っていくべきだと思う」と話します。草加は秋月の主張を聞きながら、「なんて人間として美しいのだろう」と聞き惚れます。
お礼がしたいと言う草加に、盛り場に行きたいと返す秋月。そんなことでいいのかと拍子抜けしながらも、江戸で一番の盛り場である両国へ向かいます。
お殿様と呼ばれる家柄ゆえに小さな頃からお供がどこにもついて回るのが鬱陶しく、世間の常識を知らないのだと明け透けに話す秋月。
見せ物小屋で驚いたり、絵草紙店で春画を見て赤面したりと初体験尽くしの一日を過ごします。
茶屋に入った草加と秋月はお互いに許嫁がいると話しますが、秋月は顔も見たことがない相手を愛せるのか不安だと話します。草加はその瞬間に自分の想いが恋なのだと気付きます。
茶屋を出たところで草加は相沢と鉢合わせしてしまい、秋月と自分は本来交わるはずのない人間なのだと気付かされてしまいます。
「生きていてほしい…
生きてさえいてくれれはわ
その願いはかなった
その願いだけは…」
第二巻〜蝦夷戦記〜
草加は秋月との逢引きを相沢に見られてから、秋月とは会わないようにしていました。
相沢たち長州藩の武士たちは徳川幕府の開国か攘夷なのか煮え切らない態度に苛立ちを感じており、倒幕・攘夷の機運一色に。
草加は秋月がまだあの河原で自分を待っているのではと胸を痛めます。
自宅に帰った草加は相沢の密告により、長州藩の仲間たちに「近頃幕臣とおうちょるらしいの」「まさかおまん、幕府の密偵ではあるまいな」と詰め寄られます。草加は「目の前のことに囚われ、血を流すことばかり考えるお前らなんかに秋月さんを悪く言う資格なんてない」と一喝しますが、袋叩きに遭います。
おもむろに現れた長州藩の家老である表番頭格 周布政之介から御楯組とやり合ったことを話に出され、草加は脱藩する覚悟だと告げます。しかし浪人が開国と叫んでも虚しいだけ、密かにロンドンに行ってみないかと誘われます。もう既に何人も藩の中から行っていると聞かされ、草加は土下座して行きたいと願い出ます。
季節は過ぎ、秋月はまだ河原で草加を待ち続けていました。
草加が突然現れ、「イギリスに行く」「俺は卑怯者だ。これ以上幕府と長州の関係が悪くなったら秋月さんと戦わなきゃいけなくなるかもしれない。それが嫌だから行くんだ」「俺は男のあんたが好きだ。唇を吸いたいと思う。俺は明日にはいなくなる身だ、一晩身体を預けてくれないか」と怒涛の告白をします。
秋月は静かに「帰るまで待っててくれと言えないのか」と言い、草加と唇を合わせ、彼を抱きしめます。
夕暮れの河原で抱きしめ合う二人。秋月に身体中にあるあざを指摘され、草加は暴力で問題を解決することは恥ずかしいことだと考えているから、藩の連中と喧嘩になるとすぐ好き放題殴られるのだと恥ずかしそうに話します。
秋月は自分が草加に惹かれたのは、自分の命が懸かった場面でも力以外で解決しようと模索する目が印象的だったからだと話します。
秋月は「お前と離れている間も冷めないほどの火照りを、炎を俺にくれ」と草加に囁き、草加は「俺の全てを秋月さんに刻みつけるよ」と口淫、挿入します。河原の草叢で、二人は何度も口付けあいます。
夜になり、秋月は「こんな時代でなければ俺たちももっと一緒にいられたのかもしれない」と感傷的になりますが、草加は「身分や藩にとらわれない時代がきっと来る」と力強く言い、秋月を見つめます。
数年後 ロンドンで草加は秋月の写真を見つめながら彼に手紙を書いていました。草加は渡英して4年、これから日本が諸外国と対等に戦うために必要な知識…政治、法律、文化などあらゆることを学んでいます。秋月に会いたいという気持ちは日に火に膨らみます。
草加の願いは「西洋で学んだ知識を持ち帰り、新しい日本を作る」ことでしたが、日本は怒涛の勢いで倒幕へと突き進み、慶応三年十月十四日には大政奉還が行われ、続く慶応四年一月三日の鳥羽伏見の戦いを皮切りに、四月十一日には江戸城無血開城、、五月十五日には上野戦争…と戊辰戦争は激しさを増していきました。
秋月は秋月家の家督を譲る、三河以来の直参旗本、公方を守る武の家である秋月家の当主として何があってもと徳川家をお守りしろと父親に言われていました。
草加は戊辰戦争勃発の知らせを受け、急ぎ日本に帰国。そこで見たものは、秋月との最悪の状況でした。
明治二年函館郊外では、函館に立て籠った旧幕府軍を新政府軍が猛攻。旧幕府軍は度重なる降伏勧告を受け入れようとはせず、玉砕覚悟の徹底抗戦を貫いていました。草加にできることは、一刻も早く戦を終わらせ、秋月を死という形であったとしても戦場から救い出すことだけでした。
秋月の臣下はほぼ全滅状態でしたが、新政府軍の本陣に切り込みをかけるという決死作戦に参加し、新政府軍の放つ大量の砲弾を受け、左脚を失っていました。
草加はどこでも一番に戦場に赴き、秋月の姿を探していました。相沢は幕臣にこだわる理由は秋月の骸を探しているからだと気付いていました。草加は秋月よ生きていてくれと必死で願いながら戦場を駆け回りますが、彼は見つかりません。
秋月は瀕死の状態で切腹を試みます。草加を思い出していると、なんとそこに秋月を探していた草加本人が現れます。武士の名誉は必ず守るからどうか軍門に下ってくれと乞う草加でしたが、秋月は「もういいんだ。最後にお前に会えただけで…」と虫の息で返事をします。
秋月に介錯を頼まれる草加。進歩的な考えだったはずの秋月がどうしてこんな負けるのが分かりきった戦いに加わったのかと草加は手当てをしながら叫びます。秋月は「夢を見たんだ。俺たち幕臣も新しい世の中を作り、お前を待ちたかった」と返しますが、その時、新政府軍の歩兵が来てしまいます。
敵兵を手当てしているのかと尋ねられ、草加は秋月に目をつぶっていてくれと頼みます。一思いに殺してくれるのかと穏やかに目を閉じる秋月。しかし草加は歩兵を殺すのでした。
草加は歩兵から味方負傷兵の目印布を奪い、「絶対にあなたを守ってみせる」と秋月に括りつけますが、秋月はそんな激情を見せる草加に戦きます。
「こんな冬の時代でも、
お前と共に生きた時間は、
嘘ではないのだからー」
第三巻〜東京悲話〜
明治四年一月、江戸が東京と改まって四年、旧幕府軍の降伏により戊辰戦争が終結し二年の歳月が経とうとしていました。
旧幕府軍は幹部から従軍した医師に至るまで悉く投獄されました。戊辰戦争では旧勢力を一掃し近代日本が始まるはずでしたが、過去を引きずる者もいました。
外務大夫である草加は豪邸に一人住まいながら、離れで秋月を囲い、危険なものはなるべく彼の周囲に置かないようにして手当てを続けていました。
戦場で秋月に会った草加は彼を負傷兵と偽り、助け出すことに成功していました。しかし、秋月は何度も自殺を繰り返します。草加の乳母・いと以外は誰もその存在をようにして、草加は世間から彼を守っていました。
兵部省陸軍局では、相沢が幕臣狩りへの執念を見込まれて行方不明の部下を探す命を受けます。
その頃、草加は秋月から「仲間が苦しんでいるのに自分だけのうのうと生きてはいられない、殺してくれ」と頼まれていました。草加は「一緒にいたいと言ってくれたのは秋月さんじゃないか!」と詰りますが、秋月は静かに涙を流すだけです。生きていることを実感できるくらい感じてくれと激しく秋月を抱く草加。秋月は壊れてしまいそうな自分を感じていました。
草加邸を尋ねた相沢は、女中の態度がおかしいことに気づき、庭を散策していると離れで抱き合っている秋月を見つけてしまいます。
四年前、京都祇園で相沢は幕府の刺客からちかこという馴染みの遊女を斬られたことをずっと恨みに思っていました。
相沢は草加の留守を狙い、秋月のいる離れへ忍び込みます。相沢は草加が殺した行方不明の歩兵は自分の上司の部下だと言い、「明日朝から陸軍の探りが草加の屋敷に入ることになっている。これ以上草加の首を絞めたくなければ自害しろ」と小刀を渡して去っていきます。
草加は陸軍局で部下の行方について詰問されていましたが、知らぬ存ぜぬを通していました。しかし東京ではもう秋月を守りきれないと悟り、遠くへ身を隠させようと考えます。
秋月は草加との最後の思い出に、「体の奥に火をつけてくれ。永遠に消えないほどの…」と抱いてくれるよう頼みます。草加は無邪気に秋月の笑顔を見て喜び、出会った頃に戻ったようだと激しく彼を抱きます。
しかし翌朝、相沢による強制捜査が草加の屋敷に入ります。戦犯を匿っていると密告があったと言う相沢。禁門の政変、第一・第二長州征伐、四国艦隊下関砲撃事件…それらの地獄を知らないにも関わらず、大政奉還後に帰国してやれ洋行帰りだとちやほやされ出世したにも関わらず戦犯を匿っている草加が明治政府の要人に名を連ねているのが、相沢は許せなかったのです。
草加はお前たちと維新は戦っていないが、俺は俺の維新を戦っていると相沢を突き飛ばし、叫びます。大義がどうあれ、お前たちはお前たちの都合のいいように政府を作り、俺はあの人と歩ける世の中を作れるように生きてきた、維新とはそういうことだろうと言われ、気圧される相沢。
血相を変えて離れに飛び込んだ草加は、秋月の置き手紙を見つけます。
秋月は自分の生死がかかった場面でも刀に手をかけなかった草加を愛したのに、彼を自分が変えてしまったことをずっと疎んでいた。お前だけを責めて申し訳なかった。これまで死ねなかったのは自分の弱さだ。と綴っていました。
草加邸の広大な庭を、自殺用の小刀を持ち這って進む秋月。大木の根元にたどり着くと、「草加、すまん」とだけ呟き、涙を溢して自害します。
草加が秋月を見つけたときには、既に秋月は事切れた後でした。秋月を抱き、何度も名前を呼ぶ草加。彼の亡骸の上で咽び泣いてしまいます。そして秋月が首に下げている匂い袋を見つけ、中を見ると蝉の抜け殻の残骸が入っていることを確認します。
「俺たちもこんな時代でなければ一緒にいられたかもしれないな」「身分や藩が関係なくなる時代まで眠っていたい」と語り合ったあの河原で見つけた、あの蝉の抜け殻でした。
草加はおもむろに笑い、この蝉のように自分もまた秋月と出会えるまで眠り続けていようと決め、秋月を見つめ、彼を片手に抱きしめながら自害します。
降りしきる雪の中、相沢は血まみれで重なり合う二人の亡骸を見つけます。
箱館戦争総参謀 黒田了介などの尽力で捕らえられた幕臣達に恩赦が出されたのは、これより僅か一年後でした。
いつかの夏の暑い日、二人の死んだ木から蝉が空高く飛び立っていきます。
まとめ
素晴らしい物語でした……今、全三巻を見終えて、余韻に浸っています。
スピンオフ作品とは思えないほど作り込まれたキャラクター、ストーリー、作画etc、感動しました。
男と男が出会ってエッチをしてハッピーエンドなのがBLの売れ筋という現代において、これほど「国」や「生き方」について真正面から視聴者に問いかける哲学的なBL作品はなかなかありません。
どんな国を作りたいか、時代を作りたいか、生き方をしたいか…二人の理想のために、二人の愛のためにもがいた男たちがいた。そして彼らは愛のために死ざるを得なかった…。
草加(攻め)も秋月(受け)も最期まで互いへの深い愛が感じられて、なおさら死という選択しか彼らに残されていなかったことに絶望します。
しかし、ただ絶望的なだけではありません。観賞後、喪失感や悲しみで涙が溢れますが、二人が彼らの想いを全うして死ねたのだというどこか充足感のようなものも感じます。
あまりにも愛と希望に溢れた二人でした。生き様を見せてくれてありがとう、どうか次に生まれ変わるときは身分も藩も関係なく愛し合える時代にとただただ強く思います。
一人でも多くの人に観てほしい、BL史に残る名作アニメです。