マリー・セクストン「コーダ」シリーズのネタバレ感想|オープンリー・ゲイの生きにくさをリアルに描く

小説

マリー・セクストン「コーダ」シリーズを読みました!

登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨

登場人物とあらすじ


親との確執に苦しむ警察官×オープンゲイの金物屋店員 のお話。

<あらすじ>
コロラドの小さな町コーダで親の店を継いで働くジャレドは、オープンリーゲイであることでトラブルをおこさないように静かに暮らしながら、自分はこのままひとりで生きていくのだろうと思っていた。
しかし警官のマットが新しく街に越してきて、ジャレドとほとんど一瞬で気が合った。
同じ時間を過ごすうち、ジャレドは自分たちが友人としての一線を越えようとしているのを感じるが、彼はストレートで…。

 

こんな人におすすめ

  • アメリカの田舎の閉鎖的な人間関係と広大な景色の美しさを楽しみたい🌵
  • ゲイだと自覚するまでの過程を見つめたい👀
  • ゲイ差別の描写に耐えられる✊♥️

 

ネタバレ感想

ロング・ゲイン ~君へと続く道~ コーダシリーズ(1)

アメリカはコーダという田舎町に住む、金物屋の従業員 ジャレド・トーマスは、売り出し中のジープに試乗してみたいという新米警察官 マット・リチャーズに声をかけられます。マットはその日以来なぜかやけにジャレドに絡むようになってきて…。

最初は、マットがあまりにも彼がヘテロすぎるゆえに(周りに同性愛者の友人がいなかったとか、彼が好き好んでヘテロの友人としか付き合わなかったとか)、ジャレドとの距離感がバグってるんだと思いました。もしくは、マットは無性愛者で、それゆえにずっと孤独だったからこそ、同じく田舎町で相手がおらず孤独を持て余していたジャレドと「寂しさ」という共通項で共鳴しあって仲良くしているだけなのだと。実際、マットはジャレドに「俺はストレートだ」「アプローチされても困る」という風なことを言っていましたしね。

しかし、ジャレドの家族がいたたまれなくなるくらいに親しげにマットがジャレドに触れる様子を見て、「あれ?マットってもしかして…?」とここで初めて違和感に気づきました。実際、マットも「お前に触れたい それだけだ」なんて情熱的なことを言ってくれて…💕

ただ、それ以降はマットが長年信じてきた自分の性的指向に折り合いをつけられずに自暴自棄になったり、ジャレドが町に住むヘテロフォビアたちに攻撃されるのを恐れてマットと恋人として出歩くのを避けたせいで大喧嘩になったりと二人の間で大小のいざこざがあり、しかも最後の最後にはマットの一番の「非」理解者である父のジョセフとの対決もあり…と、もう波瀾万丈でした。

マットを生涯にわたって否定し続けてきた(マットが警官になることも、女性と恋愛をしないことも、子供を作らないことも、ゲイであることも全てを否定し続けてきた)ジョセフ。ジャレドに対しても初対面で「おかま野郎」と罵ったりと最悪最低なジジイでしたが、アメリカ人は家族を大事にするので、マットは父とは意見が合わないと思いながらもなんだかんだ死ぬまでそばにいてあげるのかな…と見守っていましたが、よもや「縁を切る」という決断に踏み切るとは思ってもみませんでした。ジャレドは自分のせいでと悔やんでいましたが、「お前のせいで家族を無くしたんじゃない。お前のおかげで家族ができたんだ」と慰めるマットの優しさに泣いてしまいそうでした😭 これからジャレドの家族が一丸となってあなたを愛するからね!!とマットを抱きしめたくなりました😭

コーダという田舎町でゲイが生きていくには、たくさんの偏見の目や声に晒されることを覚悟しなければなりません。それでも、二人は自分たちを偽りたくないと家族にも同僚にも本当の自分を見せて、何を言われようと毅然と立ち向かっていて、その姿がめちゃくちゃかっこよかったです。
どんな卑劣な声にも挫けず、いくら心の中では挫けそうになっても耐えて、涼しい顔で実力をもって彼らをねじふせたり、受け流してやったりする…それはいくら「そうでありたい」と思ってもなかなかできないことだと思います。自分を傷つけられたら感情的になってしまうものだと思うから。それでも、自分と恋人を守るために胸を張る覚悟、決意…その強さ、眩さに、胸を打たれました。

ゲイフォビアたちの偏見にも負けず、強く愛し合うマットとジャレド。二人の物語をずっと読んでいたいです。

ロング・ゲイン ~君へと続く道~ コーダシリーズ(1)
作者:マリー・セクストン(著),RURU(イラスト),一瀬麻利 (翻訳)
コロラドの小さな町コーダで親の店を継いで働くジャレドは、オープンリーゲイであることでトラブルをおこさないように静かに暮らしながら、自分はこのままひとりで生きていくのだろうと思っていた。 しかし警官のマットが新しく街に越してきて、ジャレドとほとんど一瞬で気が合った。 同じ時間を過ごすうち、ジャレドは自分たちが友人としての一線を越えようとしているのを感じるが、彼はストレートで…。

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恋人までのA to Z コーダシリーズ(2)

アーバダにあるビデオレンタルショップ「AtoZ」の経営者 ザック・ミッチェルは、映画好きの常連客 アンジェロ・グリーを従業員として雇います。ザックは新しいビルオーナーのトム・サンダーソンとセフレ関係になるものの、心は晴れず…。

まずはザックについて。ザックは自分のセクシャリティに気づいてからというもの、いつも男漁りをして過ごしていました。大学時代、元彼のジョナサンとは真面目に付き合いましたが、結局は真剣に将来を考えずに男遊びばかりしているザックは愛想を尽かされてしまいます。それからというもの、ザックは「まるで救命ボートで波間を漂いながら嵐が来て海の藻屑となるのを虚しく待っている」ようなぼんやりとした10年間を過ごします。
ザックはアンジェロに出会ってから、自分があまりにも人の機微に鈍感であることや、将来について考えようとしなかったこと、本気で誰かを愛したことがなかったことに気づきます。映画などかけらも興味のないザックでしたが、アンジェロの熱意に押されて徐々に仕事に関しても、人を愛することに関しても情熱を注ぐようになっていくさまに成長を感じます。

次に、アンジェロについて。6〜7歳で母に捨てられて以来、里親の元を転々として16歳で独り立ちした孤児ゆえに、人に愛されることに慣れていません。はみ出しものの彼を「寝る相手」ではなく「友達」として扱ってくれる唯一の人がザックだったことから、彼に好意を寄せるようになっていきます。
それまで欲求を満たすためのセックスしかしたことがなく、真面目に付き合ったことがないアンジェロ。ザックと出会ってから、アンジェロは初めて、人と愛し合うことについて考えさせられていきます。長い間孤独であったせいで、アンジェロはなかなかザックとともに過ごしたり、素直に彼を愛することができずにいました。それでも、ザックが辛抱強く待ってくれ、アンジェロのことを彼が本気で愛していると確認することで、少しずつ心を開いていきます。
自分を捨てた母 ニータに会いに来られた時も、最初はクィアに理解がなく、今更現れた母に激怒しましたが、ザックに愛され満たされ、さらに親友の(コーダシリーズ(1)の攻め役である)マットから必ずしも母を許さなくていいのだとアドバイスを受けたことで、彼女と話せるようになっていきます。
アンジェロの心に巣食う孤独という名の根深い苦しみや欺瞞…それらをザックの愛が少しずつ溶かしていくさまには胸を打たれます。また、ニータへの荒れ狂う怒りと悲しみを飼い慣らし、彼女を許そうと努力し、母を幸せにしたいと願う姿は、あまりにも健気で…読みながら涙が溢れました。

ザックもアンジェロも、それぞれが大なり小なり問題を抱えていました。自分の人生はもうどうしようもないと諦めて、どこか不貞腐れていました。でもそんな二人が出会うことで、互いの良い点を見出し、磨き、幸福に変えていけたことが、本当に素晴らしいことだと思うのです。それこそ、愛の力ゆえだと思います。
「愛の力」というと抽象的だけれど、愛する人のために何かしたいとか、愛する人とこんな未来を見たいとか、そういう些細な前向きなきっかけの積み重ねが、人生を良い方向へと変えていくのだとしみじみと感じました。

恋人までのA to Z コーダシリーズ(2)
作者:著:マリー・セクストン , 訳:一瀬麻利 , イラスト:RURU
元カレの置いていった、いつも不機嫌な猫と暮らすザックは、ビデオレンタルショップ「AtoZ」の経営に苦戦するかたわら、新しいビルのオーナー・トムとの虚しい恋に悩んでいた。そんなある日、ザックはクビにしたバイトの代わりに映画好きの客、アンジェロを雇い入れる。他人を信用せず、誰も愛したこともないアンジェロだったが、ザックの部屋で映画を観ながら、二人は次第に心を通わせていく。

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デザートにはストロベリィ コーダシリーズ(3)

有名ソフトウェア会社のシニアリエゾン・アカウントディレクターであることに矜持を持つ会計士のジョナサン・ケッチャーは、友人であるジャレドの紹介で、大富豪のコール・ニコラス・フェントン・ダベンポート三世とデートをすることに。しかし、コールは仰々しいほどに「いかにもゲイっぽい」言動をして、初対面のジョナサンを困惑・激怒させます。とはいえ、しばらくセックスがご無沙汰なジョナサンはコールと一夜だけでも楽しもうとしますが…。

「本当はゲイだとしても人前ではストレートっぽい言動をすべき/ゲイらしい言動をするのは恥ずかしいことだ」「男は仕事をしてバリバリ稼がなければいけない/仕事をせずに養ってもらうのは怠慢だ」といった、自分の中での凝り固まった価値観を鎧にして、完璧な人生を歩んでいるつもりのジョナサン。しかし、そんな彼の澄ました顔は、コールのどぎつい「ゲイっぽい」言動に簡単にぶち壊されてしまいます😂
部屋に二人きりでいる時はそうでもないのに、外に出た途端に(ジョナサンに言わせれば)「女々しい」「華美」「芝居がかった」言動を繰り返すコール。
最初は自分を煽るためにコールがふざけているのかと激怒してばかりのジョナサンでしたが、コールと時間を共有するほど、コールが有り余る金と見目麗しいセックスフレンドたちには恵まれながらも、無償の愛だけは持っていないことに気づいていきます。そして、彼がゲイであることを見せつけるように傲慢に振る舞うのは、周りにそれを求められているから。彼はゲイらしさという鎧をつけることで、弱気な自分を見せまいと強がっていたのだと感じるようになっていきます。

最初は「有害な男らしさ」に固執し、コールとは気楽なセフレでいられることを大喜びしていたジョナサンが、徐々にコールの優しさやちゃめっ気を知っていくほどに、自分のプライドがいかに無価値なものであるかを知っていくさまは、まるで自分の心の殻が剥がれ落ちていくような、ハッとさせられる体験でした。ジョナサン視点で物語を読んでいると、たしかに、コールがなぜジョナサンをいちいち怒らせるのか分からなかったんです。でも、本当はジョナサンがありのままに生きようとするコールに対して、勝手に「自尊心を傷つけられた」と怒っていただけだったんですね。

また、「誰も本当の自分を愛さない」と頭から思い込み、相手の望む姿であろうとふざけてばかりいたコールですが、くそ真面目に、一直線に、自分に向かってくるジョナサンに接するうちに、彼の愚直すぎるところや歪ながらも家族愛を保とうとするいじらしさに惹かれていきます。特定の相手は作らないという自分のルールを捻じ曲げてまで、ジョナサンと離れたくないと涙する姿はあまりにもいたいけで、もらい泣きしてしまいました。

そして名脇役だったのが、ジョナサンの父・ジョージ。最初は「家族は大きくなっていくべきだ」と、息子がゲイであることを知りながらも無理やり独身女性を紹介しようとしたりといらぬことばかりする嫌な男でしたが、ジョナサンがコールにくびったけなのを早々に見抜き、最愛の亡き妻のレシピ集をコールにプレゼントしたり、ジョナサンがコールに振られた時に「(自分がコールを)なぜ好きだったかというとな。お前を幸せにしてくれたからだ」とジョナサンを慰めたりと、コールと過ごす時間が増えるほどにゲイへの差別的な言動が減っていき、それを幸せそうにしている姿がとても素敵でした。

「こうでなければならない」と頭でっかちになんでも決めてしまわずに、「そもそも自分の人生で一番重視すべきことはなんなのか?それは重視する価値があることなのか?」「愛する人との時間以上に大切なものはない」と立ち止まって考えることの大切さを教えてくれる作品でした。

デザートにはストロベリィ コーダシリーズ(3)
作者:著:マリー・セクストン , 訳:一瀬麻利 , イラスト:RURU
ジョナサンとコールの最初のデートは惨憺たるものだった。忙しすぎる営業マン・ジョナサンの携帯はずっと鳴りっぱなしで、お互いの話もろくにできずに終わってしまう。なのにコールはジョナサンに興味をそそられ、二度目のチャンスが与えられる。

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まとめ

マットとジャレドがコーダで偶然出会ったことから始まった、壮大な「コーダ」シリーズ。
2巻では、音楽フェスで意気投合したことで、アーバダから引っ越してきたレンタルビデオ店店長のザックと従業員アンジェロの恋物語が展開され、3巻ではザックの元彼である会計士のジョナサンと、ジャレドの元セフレである大富豪のコールとの大バトルが展開されます。

どの巻でも、生まれ育った環境が全く違う二人が、何度も衝突を繰り返しながら、それでも相手を愛おしく、かけがえなく思い、時には譲歩したり、時には頑固になったりしながら、関係を深めていくさまが丁寧に描かれていました。
両者の心の変化を丁寧に描いているので、まるで自分が二人のそばにいて何もかもを逐一見守っているかのような、生々しい臨場感を体感できます。

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