さとむら緑先生「魔法のない国の王子」を読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
<あらすじ>
パンフレットで見た絵に妙に心惹かれ、展覧会を訪れた御園静の前に現れたのは、その絵に描かれていた男……中世風の衣装を纏った、美しい王子様だった。
自称ヨアヒム王子は突然静に愛を告げ、自分たちは前世で恋人同士だった、再会できるのを絵の中でずっと待っていた、などと意味不明の主張をする。
静は怯えて逃げ出したが、ヨアヒムは家までついてきてしまい…。
こんな人におすすめ
- 愛する人の生まれ変わりや輪廻転生…という展開に胸キュンする♻️✨️
- 身分差の悲恋に感動したい↕️
- いっぱい泣いて、いっぱいほっこり甘々を堪能したい😭♥️
ネタバレ感想
①意地を張り続けて愛を告げられなかった前世。記憶を失っても、今度こそ…。
ヨアヒムは、静の前世はイリヤという義弟で、自分たちは恋人として愛し合っていたのだと懸命に説明します。そして静にも自分を好きになってほしいと努力しますが、親族以外の人間に好意を抱いたことのない静は、ヨアヒムに一貫して冷たく当たります。彼の唯一の肉親である祖母の佐英がどれだけヨアヒムに心を開いても、静はただただ不機嫌に黙りこくったり、ヨアヒムが理解できない科学の力を使って「余計なことは言うな、するな」と脅したりするばかりです。
しかし静がそんなふうに頑なな態度を崩さないのにも理由がありました。社交性がなく友人がいないせいで、家族以外の人間との付き合い方がそもそも分からなかったのです。(そのせいで、祖母の思いを繋ぎたいと彼女の経営していた喫茶店を継いだものの、客をしらけさせたり、不快にさせたりして足を遠のかせ、赤字にしてしまっていました)
他人に好意を向けられたことがない静はどう反応していいか分からず黙りこくったり、怒ったりすることしかできないのです。
はじめはそんな静も好きだと鷹揚に受け入れてくれていたヨアヒムですが、日が経つほどに彼の体調はどんどん悪くなっていきます。それはヨアヒムが絵に入る時に魔女と交わした約束のせいでした。
魔女は「生まれ変わったイリヤに愛されなければ、お前の魂は乗り越えただけの時間に飲み込まれて押しつぶされて消える」と言い、ヨアヒムは「イリヤから愛されなければ生きている意味などない」と思い、覚悟して絵の中に入ったのでした。
つまり、ヨアヒムは静に愛されなければそのうち死ぬのです。
いつも元気に愛を伝えてくれていたヨアヒムがどんどん弱っていく姿を見て、ようやく静は自分の過ちに気づきます。
それと同時に、過去の記憶も思い出すのです。イリヤの母・イリスはヨアヒムの父・バルディアに母国を滅ぼされ、さらに夫を殺されてしまいます。最終的にイリスはバルディアの後妻として嫁ぎますが、彼女の心には常に母国と元夫を殺された憎しみが宿っていました。バルディアを籠絡することができなかったイリスは、イリヤにヨアヒムを誘惑するように命じ、さらにはヨアヒムを暗殺してイリヤが王位を握るようにと指示します。
しかしイリヤが彼女の思うように動かないため、イリスは豪を煮やして、イリスの名を騙り「国を捨てて二人で自由に生きよう」とヨアヒムを呼び出します。まんまと呼び出されたヨアヒムは殺されますが、それにいち早く気づいたイリヤは彼を蘇生させるよう魔女に頼み、代わりに命を落としたのです。
イリヤは意地を張ったせいで生前ヨアヒムに愛を伝えることができず、ヨアヒムへの贖罪の気持ちを抱きながら死んでいきました。
そして現代でそれを思い出した静はこうつぶやくのです。
「意地を張っていたせいで伝えることができなかった 許してもらえなくてもいい もう一度会いたい 彼に相応しい人間になって そして あなたが好きだと 今度こそ伝えたかった」と。
ヨアヒムは過去も今もずっと変わらず、イリヤが、静が好きだと、愛していると、伝え続けてくれていました。しかしイリヤも静も無愛想で、それに応えられず…イリヤは無念を抱えて死にましたが、静にはまだ時間があります。ヨアヒムに残された時間はもうあとわずかとはいえ、愛を伝えることはできます。
生まれ変わってやっとヨアヒムに素直な気持ちを静が伝えられてよかった…(そしてヨアヒムへの報われて良かったという気持ち)と、安堵と喜びで涙が溢れました。
②愛に応えてもらえずとも、健気に一途に死ぬまで愛を伝え続けるヨアヒムの献身に涙
ヨアヒムは何の見返りも求めず、ただただ静に愛を伝え続けていました。
静が人手が足りないと言えば、王子様であるにも関わらず、下々の民へコーヒーを持っていく仕事を買ってであり。またある時は、静が店が潰れそうでお金が足りないと言えば、先祖代々伝わる宝石のたくさんついた高価そうな剣や馬具を売ってはどうかともちかけたり、見よう見まねでバイトを始めてみたり。
ヨアヒムは現代でもその容姿端麗さと気さくさで老若男女に愛されており、ただ「愛してくれる」者を見つけるならば、容易かったはずです。(それは彼の生きていた500年前でも同じことを言えますが)
それでも、ヨアヒムはあえて無愛想で何を考えているのか分からないイリヤを、静を選びました。
たとえ自分の死期が迫っているのを感じて、うまく体を動かすことさえできなくなった時も「誰か他にお前を楽にしてやれる者が現れるといいのだが。それを祈るのはやめておこう。嫉妬してしまいそうだ。最後に顔を見ることができてよかったが、できれば私のことは忘れてほしい」「お前が好きだった。いや、好きだ、イリヤ。私の小鳥、そして静。お前が忘れてしまっても、永遠に愛しているよ」と、自分に愛を返してくれない静を責めませんでした。
静が自分を愛してさえくれれば死ぬことはないと知っていながらも、愛を強要したり、自分の哀れむように懇願するようなことは決してしませんでした。
静を、イリヤを、愛しているからこそ、何も強いたくない。ただありのまま生きている彼を愛したいし、愛されたいのだというヨアヒムのピュアな愛を感じるたび、何度も泣かされます。
③心も体も頑強なヨアヒムが、唯一こぼした「弱み」
ヨアヒムは500年前時点では剣の鍛錬を欠かさず行っていたからか体は頑強ですし、王としての教育を受けてきたからか、ちょっとやそっとの問題が起きても心が揺らぐことはありません。
喫茶店の隣家がぼや騒ぎに巻き込まれた時も冷静に火の中から佐英とお隣さんを救出しましたし、静が悪い知人に騙されて薬漬けにさせられそうになった時も颯爽と現場に乗り込んで知人を説き伏せ、退治してくれました。
しかしそんなヨアヒムも、一度だけ静の前で弱みを見せることがありました。
それは静がヨアヒムの死期を悟り、ようやく好意を打ち明けた時のことです。ヨアヒムは静に、こう告白するのです。
「五百年以上よく耐えたと褒めてくれ」「こちらにきてから少し臆病になったようだ。知らない男と思われるのも、お前に嫌われるのも、私はとても怖いよ、静」「もう二度と私を置いて行ったりしないでくれ。そばにいて一緒に生きてほしい。愛している。愛しているよ、静…」
ヨアヒムはそれまで一度も静に何かを要求することはありませんでした。ただ、いつも愛していると伝えるだけ。
でもこの時のヨアヒムは違いました。500年も耐えるのは怖かった、もう静に知らない男だと思われたり嫌われたくない、そばにいてほしい。心身ともに屈強なヨアヒムがこぼすからこそ、破壊力のある言葉でした。ヨアヒムが本当に静に嫌われたり、静と離れることを心から恐れているのだと伝わってきて…胸が苦しくなります。
500年間絵の中で眠っていた時も、ヨアヒムはずっと不安だったのだと、改めて分かると、よく頑張ったねと静ごと抱きしめたくなります。
まとめ
絵の中で500年間眠り続けていた王子様(とその愛馬)・ヨアヒムと、彼の愛した義弟の生まれ変わりである喫茶店「みその」の後継ぎ・静のお話です。
愛する人・イリヤとともに生きるという願いを叶えるために、ヨアヒムは魔法で絵の中で長い眠りについていました。その間、ヨアヒムはどれほど不安だったでしょう。何度も何度もイリヤの夢を見ては「ヨアヒム」と呼んでもらえることだけを希望にして…。
そして絵から出てこられたとしても、自分を出してくれたイリヤの生まれ変わりが一体いつの時代を生きているのか、その人がまた自分に恋してくれるかは賭けでしかありません。自分の常識が全く通じない時代に飛ばされたり、イリヤとは例えば外見だけが同じで中身は全くの別人と恋をする可能性だってあったはずです。
そんな想像をするだけで私は恐ろしくて、「どんなに好きな人と一緒に生きるためでもそんな選択は到底できない」と嫌になるのに、ヨアヒムはその恐怖心を飛び越えて、絵の中に入っていったのです。
そして実際、自分が生きた世界より500年も後の世界で生き直すことになってしまいますし、イリヤの生まれ変わりは確かに面影はあるものの、自分を「知らない男」だと激しく拒絶します。
愛した人のために不安や恐怖、苦しみを乗り越えて生き直しているのに、そんな状況ならば心が折れてしまいそうです。
それでもヨアヒムはめげません。静に愛を伝え続け、彼の愛するもの、場所をただひたすらに守り続けます。
どんなに拒絶されても、冷たい言動を取られても、邪魔者扱いされても、優しさと愛を静に与え続けるヨアヒムの献身的な愛情は、あまりにも自己犠牲的で、優しくて、寛大で、こんなことはとても真似できないと感動してしまいます。
ヨアヒムの愛を受け入れられるまで随分時間のかかった静でしたが、喫茶「みその」と彼自身に襲いかかるさまざまな試練をヨアヒムとともに乗り越えていくうちに、徐々に彼への好意は増し、前世の記憶を取り戻した時には彼への愛は確固たるものになっていました。
それまで親族以外の誰も愛したことのなかった静が、恐る恐るヨアヒムを愛し返す姿は、まるで生まれたてのヒナが親によちよちとついてまわる姿を見ているような、少しの不安と溢れる可憐さに満ちていて、ただただ愛おしくて抱きしめたくなります。
攻めの海のように広く深くあたたかな愛に抱きしめられたい、そんな愛に抱きしめられている不器用な受けを見つめたい、何もかも完璧な攻めに拙く愛を返そうと頑張る受けに涙したい…そんな人におすすめの一冊です📚✨