第11話 聖器、山河錐(さんがすい)
<あらすじ>
恋人が処刑されたことで暴君と化した桑賛(サン・ザン)は処刑に関わった者を次々に殺し、最後には自分も周囲に裏切られてしまう。
こうして山河錐(さんがすい)と共に氷柱に閉じ込められた桑賛。
地星(ちせい)人の燭九(ジュージウ)は山河錐を奪うために汪徴(ワン・ジェン)をおびき出したのだった。
趙雲瀾は黒枹使の感情的な言葉に瞠目します。
「あの日から、彼は変わった」と呟く汪徴。
「助けてくれ、私は無実だ」と言う男に、「黙れ!兵器を密造し謀反を企んだ罪だ。この決定に納得しようがしまいが刑は覆らぬ」と箱に入った紙を見せる桑賛。「死刑だ。執行せよ」。格蘭を殺すことを推進した男が隣でにやついているのを見遣る桑賛。
後日、その男も桑賛によって毒殺されます。「桑賛、毒を盛ったのか」と苦しむ男に、「俺はもともと奴隷だった。忍耐強さではお前に負けない」と見下す桑賛。「ろくな死に方はしないぞ」「覚悟の上だ。格蘭が殺されたあの日から、俺は残忍に生きると決めた。報いは受ける」「格蘭を殺したのは天意であり、先祖の願いだ。さもなくば瀚噶族に不幸が訪れていただろう。格蘭と共に葬ってやる」。男が呪詛の言葉を吐くと同時に、天幕の外から武装した男たちが駆け込んできます。
「私も反撃の準備をしておいた」と言う男の首に刃を当てる桑賛。「お前は許されざる罪を犯した。死を覚悟しろ」と言う男の部下に、「偉そうに」と言うなり毒に苦しんでいる男の首を掻き切る桑賛。桑賛は「かかってこい」と臨戦体制に入りますが、「調子に乗るな。あの女を埋めた場所が焼かれてもいいのか?」と言われた瞬間、目の色を変えます。
「やめろ!どけ!全員ここから離れろ!格蘭に触れるな!行け!」と狂ったように周囲を威嚇する桑賛。「観念しろ、罪人 桑賛よ。お前を奴隷に降格する」と言う男に、桑賛は高笑いします。「いいだろう。奴隷の烙印から逃れることが俺の願いだった。叶ったと思ったが今悟ったよ。瀚噶族は滅びる運命だ。誰も救われはしない」。その瞬間、桑賛が片手に持っていた山河錘が光りだします。
「今日ここで俺たちは全員滅びるんだ!」「光を放ったぞ!逃げろ!」。割れていく地面。「桑賛やめて!桑賛!」その瞬間、桑賛はエナジー体になった格蘭を見つけます。「ずっと…そばにいたのか?」と呆然とつぶやく桑賛。山河錘は光り続けます。「桑賛、だめよ!」と叫ぶ汪徴の声が響く中、山河錘は氷柱となり、記憶を失った格蘭は趙雲瀾たちに拾われたのでした。
「許して桑賛、記憶を失ったせいで戻るのが遅くなった」と涙する汪徴。「どうだ?」と趙雲瀾が黒枹使に尋ねると、「調べた情報と合致する」と答えが返ってきます。「そうか」と言うなり趙雲瀾は汪徴を縛る黒い縄を解こうとしますが、全く緩まないどころか弾き飛ばされてしまいます。黒枹使に支えられる趙雲瀾。その瞬間、長髪の男・燭九が黒枹使に襲いかかります。
「燭九、一連の事件の黒幕はお前だな」「昔仲間を裏切った黒枹使が俺を黒幕扱いとはな」。黒枹使の放った攻撃が燭九に軌道を変えさせられ、氷柱に直撃。燭九は笑いながらその亀裂をこじ開けます。
「今の姿ではバリアを通れない」と黒枹使が内心呟くと、亀裂から桑賛が現れ燭九に攻撃。しかし逆に捕らえられ、力を吸い取られていきます。
「俺に構うな!行け!あああ!!!」消えていく桑賛のエナジー体の残りを手に巻き付け、絶叫する汪徴。
黒枹使は再度燭九と戦い始めます。燭九の心臓を狙い、銃で撃つ趙雲瀾。燭九は一瞬怯みますが、開いていく氷柱の裂け目を見つめてにやつきます。黒枹使は氷柱の裂け目から山河錘を取り出します。顔を見合わせる趙雲瀾と黒枹使。その瞬間、燭九は慌てて消え去ります。
「また逃げられた」と悔しげな趙雲瀾。「100年ぶりに会えたのに…黒枹使様、肉体から剥がされ散らばったエナジー体を山河錘の力で再び集めることはできますか?黒枹使様なら何とかできるはずです!」。跪く汪徴と黒枹使を交互に見る趙雲瀾。黒枹使は山河錘を見つめ、桑賛に肉体を与えてやります。
洞窟の外では未だに楚恕之・郭長城が幽獣と戦い続けていました。しかし郭長城は楚恕之に攻撃を当てたりと楚恕之を激怒させてばかり。
「これで長命時計と山河錘が手に入った。何もかも黒枹使様のおかげだ」と芝居掛かった口調で言う趙雲瀾に、楚恕之は「燭九はなぜ俺たちをここにおびきよせたんだ?」と疑問を呈します。
「山河錘を得るため君たちの力を利用しようとしたんだ。手の込んだ策だ。きっと協力者がいる。それに聖器は地星人に操れるものではない。奴の背後には…私の憶測に過ぎない。今話すのは時期尚早だ」と答える黒枹使。
「所長、その人は…」と郭長城が恐る恐る桑賛を見て尋ねると、趙雲瀾は「紹介しよう。彼の名は桑賛。新しく特調所で働く文献管理員だ」と高らかに宣言。汪徴と桑賛は顔を見合わせます。「二人の愛の深さに心から感動しました」と趙雲瀾の手を握る郭長城に、黒枹使も「命を顧みず愛する人を守ろうとした」と同意します。
「黒兄さんにも愛する人が?」とふざける趙雲瀾を睨みつける楚恕之。
趙雲瀾は「特調所は困っている者を見捨てはしない。だが汪徴をほったらかしにし、彼女を悲しませ泣かせた罪は重い。食事と住居つきで雇ってやるが、給料はなしだ。どうする?」と提案。戸惑いながらも汪徴と顔を見合わせ、笑顔の桑賛。
趙雲瀾は「2人は日光に当たれない。夜になったら出よう。黒兄さん、意義はないか?」と尋ねますが、そこに黒枹使は既にいませんでした。
招待所では祝紅が眠っており、趙雲瀾に起こされます。「みんなはどこだ?」「部屋で寝てるわ。汪徴の毒がまだ効いてるみたい」「沈巍は?」「沈巍?」と、祝紅は朦朧としています。
「大丈夫か?」と趙雲瀾が眉を寄せると、2階から「所長!戻ったのか?」と沈巍が明るく声をかけます。趙雲瀾は祝紅の戸惑った様子から、沈巍への疑念を深めます。
その晩、招待所では宴会が開かれました。
「思う存分飲んでくださいよ、遠慮せずに。さあ乾杯を」と酒を差し出す村長に、「私は水で」と断る沈巍。趙雲瀾は快く杯を受け取ったため、「約束通り祝勝会を開けましたね。所長の凱旋祝いです。私から乾杯を。もう一杯どうです」と村長に並々と酒を注がれ続けます。体調の悪そうな趙雲瀾を気遣い、沈巍は趙雲瀾の手から酒が注がれた杯を奪い取ります。
「お世話になり感謝しています。私からもお礼に一杯」とぐいと酒を一気飲みする沈巍に、「いつの間に酒を」と慌てる趙雲瀾。
「すばらしい、見事だ。食事もどうぞ」と村長は沈巍に食事を勧めますが、沈巍は酒を飲み干した途端、無言で机に突っ伏して気絶してしまいます。
「平気ですか?」と焦る村長に、「ご心配なく、部屋で休ませてきます」と彼を担いで部屋に戻る趙雲瀾。祝紅は趙雲瀾が沈巍を抱えていく様子を胡乱げに見つめています。
沈巍に点滴を打つ趙雲瀾。「正直、どうしてだが沈教授を見てると懐かしい気がする」「そうですね」「古い友人かも」と話した記憶を反芻していると、彼に貸していたジャンパーから妙な臭いを嗅ぎつけ、思わず笑ってしまいます。
翌朝、沈巍は「先に戻る 趙雲瀾」というメモを枕元に見つけます。ジャンパーの臭いを嗅いで、何かに気づく沈巍。
祝紅に催眠にかけられた時、「眠るのは君だ。催眠術は蛇術の秘技だが駆使する者には高い能力が必要だ。未熟な者が操れば逆に術に操られる。むやみに扱うのは危険だ」と沈巍は逆に祝紅に催眠をかけ返していました。
「わ、わかったわ。使わないわ」「もう一つ、趙雲瀾が無事に戻るまで沈巍は放っておけ」「沈巍?それは誰…」「いい子だ」。こうして彼女を眠らせた沈巍は、1人で氷柱のある洞窟へと向かいました。
そこには幽獣が待ち受けていましたが、沈巍は手から煙を出し、刀に変形させます。「掟を破り、大胆にも禁地から逃げ出すとは、その罪は見過ごせぬ」。幽獣を一刀両断した瞬間、その血しぶきがジャンパーに飛び散り、沈巍は焦ります。
しかしその直後、趙雲瀾の危険を察知したため慌てて黒枹使の姿に変身。趙雲瀾に「追うな 戻れ」と紙を飛ばし、それでも彼が引かなかったためやむを得ず彼の前に飛び出たのでした。
幽獣の血はかなり臭うと趙雲瀾が言っていたことを思い出し、正体を隠し通せるかどうかと沈巍は頭を痛めます。
「教授、目が覚めましたか?驚きましたよ。お酒一杯で倒れちゃうなんて」と部屋に入ってくる佳佳。「趙兄さんたちは先に」と言う男子学生に微笑みながら、「私たちも帰ろう」と沈巍は促します。
郭長城はまた日記を書いていました。「桑賛さんが加わったが、みんなの悩みは尽きない。副所長はラブラブな徴さんたちをひがみ、紅さんはため息ばかりだ。僕は楚さんに疎まれて、静さんの部屋に逃げてる。静さんは僕が注文した人形を隠しもってた。副所長はゲスな奴だと言うけど、かわいい人形なんだし何が問題なんだ?(※郭長城は注文した人形に問題があることは分かっていますが、ラブドールの用途を理解していません)人形の件で僕は今月減給だ。ついてない」。
その頃、とある研究所で水槽を研究員たちが取り囲んでいました。
所長の「始めろ」と合図と共にカウントダウンが始まります。「3、2、1、スタート」。
魚が1匹入った水槽を取り囲むようにスピーカーが置かれており、研究員たちは音波を送り続けます。魚の動きが異常に速くなり、水は沸騰。最後に風船が割れるような音がして、魚は霧のように死滅します。
「所長、成功です!」と喜ぶ研究員に、「みんなご苦労だった。談嘯、片付けを。意、ついに父さんの研究が成功したぞ。お祝いに一曲弾いてくれ」と所長は娘に近づきながら話しかけます。「さすがですね、所長の娘さんは優秀だ。本当だな。これで口さえ利けたら」と言う研究員を睨みつけるもう一人の研究者。
「弾いてくれ」と所長が再度強請ったため彼女はヴァイオリンを掲げますが、「だめです」と談嘯は強い口調で彼女を制止します。
「成功のお祝いにと気遣ってくれたのに」「まったくだ、普段は無口なくせに!調子に乗るなよ」と怒る2人の研究員たち。
「まあいい、揉めるな」と所長は研究者たちを宥めますが、「談嘯、自分が一番の古株だから今日の成功は全て自分の功績だとでも思ってるのか」と笑顔で脅します。「まさか」と困惑する彼に、「ならいいがな、君には感謝している。だが談嘯、君は今日でクビだ」と突然解雇を告げます。
「そんな」「聞こえなかったのか。早く出ていけ」。所長の娘・意を見つめる談嘯。
「何をしてる」「出ていけよ」と罵倒する研究員たちに、「ここで争うな。喧嘩なら外でやれ」と冷たい視線を向ける所長。意は研究員たちに無理やり連れ出される談嘯を見つめます。
所長は意に向き直ると、「放っておけばいい。弾いて」と再度頼みます。
「ああそうなんだ、大きな成果だよ。今度会って話そう。じゃあ」と所長は電話を切った後、意を車に乗せますが研究所に財布を忘れたことに気づき、車内に意を残していきます。そこに、研究員たちにタコ殴りにされた談嘯が戻ってきます。
パソコンを叩いていた研究員が所長に気づくと、所長は「財布を取りに。おつかれ」とだけ言って去ろうとしますが、突然音波が研究所全体に鳴り響きます。苦しむ研究員2人と所長。水槽のガラスは割れ、部屋中の物がひっくり返ります。
「いい気味だ。覚悟はいいか?」と響き渡る声。「誰なんだ!?」と混乱した所長が叫ぶと、「お前を懲らしめる」と声は返します。
「出てこい!」と所長は耳を押さえながら叫んだ瞬間、目を見開きます。「なぜお前が!?来るな!やめろ!」。
再び音波が鳴り始めます。「俺は生きてる価値がない!うわああ!早く死んだほうがいいんだ!」。所長は絶叫します。
ところ変わって、特調所。「招待状を見なかった?黄麟奇と李佳琪が結婚式を挙げるって」と言う汪徴に、大慶が「そんな物、何に使う?成金たちの政略結婚だろ?特調所に何の関係が?」と半目で尋ねます。「勉強のために使いたいのよ。彼に黄麟奇の「麟」の字を教えるの」と笑顔の汪徴と桑賛。
祝紅はそれを鼻で笑った後、「ねえ、聖器の原理は分かった?」と林静に尋ねます。
「長命時計はDNAレベルで分泌物を共有、山河錘は肉体を量子化しエナジー体を保存。全て科学で説明可能だ」と言う彼に、「余計に混乱してきた」と顔を顰めて言う祝紅。
「当然だ。蛇族の脳みそは小さいからな」と林静が皮肉を言うので、祝紅はバキバキと手の骨を鳴らします。林静は小さく悲鳴をあげた後、「だけど変だと思わないか?科学的な奇怪なのに科学の申し子である俺に操れないなんてな」と慌てて言いますが、「つまり科学の申し子に欠陥があるってことね」と侮蔑の表情で返されしょんぼり。
祝紅は「郭はどこ?またトイレ?」と訝しげに部屋を見回します。
その頃、郭長城はトイレの個室にこもっていました。「まいったな、内蔵まで出てきそうだ。僕は役立たずだ。敵とはまともに戦えず、今度は腹を下して足手まといに。所長みたいになりたいな。楚さんにも憧れる。普段は冷酷ででかいアイスバーみたいだけどいざという時は本当に頼りになる」と独り言を言っていると、なんとトイレに紙がないことに気づきます。
「紙がない!携帯も置いてきた!どうしよう!」と叫ぶ彼の個室の足元の隙間からメモが差し出されます。ありがたくそれで拭こうとすると、それはなんと郭の日記の1ページでした。
郭長城は「誰だ!?」と狼狽して叫びますが、実は横の個室に楚が入っており、郭長城の日記を読んでいたのでした。
楚恕之は「でかいアイスバー」とだけ答え、郭長城は気まずげにそのメモで尻を拭くのでした。
「楚もトイレ?」と言う祝紅に、「2人共ずっと腹を下してる。汪徴、瀚噶族の食事ってすごいな。下剤効果があって減量できる」と林静は笑います。
「勉強中よ。邪魔しないで。2人の体調不良と引き換えに聖器を得られた」と祝紅は言いますが、林静は「もう1人いる。所長だよ。上の空で様子がおかしい。気合を入れてやるか」とぼやきます。そこで大慶が「僕が行くよ」と立ち上がります。
趙雲瀾は沈巍と黒枹使との記憶を反芻していました。
血は出ているのに傷痕がなかった。「この世の中には不可解なことが多いようだ」と言うと微笑していた。屋上から落ちたはずなのに怪我ひとつしていなかった。「じゃあこれはどう処分する?」と長命時計の使い道を黒枹使に尋ねると、「李茜は?」と返され、「地下だけじゃ飽き足らず、地上まで干渉するか?」と皮肉で返した。生気を吸い取る力を持つはずの王一珂に首を絞められていたのに無事だった、張若楠が一命を取り留めた時、沈巍は彼女の肩を掴んでいた。「俺たちも地星人も同じ人間だ、救ってやってくれ」と趙雲瀾が懇願した時、呉を生き返らせた。「君の求めに応じられない時もある。だが周囲に危険が迫れば絶対に傍観しないし隠し事もしない」と沈巍が言ったこと。「危険 追うな 戻れ」という紙を無視すると、「私の忠告を無視すべきではない」と黒枹使が怒ったこと。「私が出張の間、何を効いても龍城から出るな」と沈巍が予言めいたことを言ったこと。「趙所長、前にも”聖器を多用するな”と。闇の力が体を蝕む」「黒兄さん、俺の知り合いに似てるよ」と会話したこと。「そんな言葉を君から聞くとは、ましてや君が地星人を思いやる日が来るとはね」と沈巍が言ったこと。
大慶は「悩み事か?暇なら猫砂の交換を」と趙雲瀾のデスクに腰掛けると、趙雲瀾は「お前に質問だが、黒枹使はどんな奴だと思う?」と尋ねます。
「いい質問だ。俺は長生きしてきたからな。奇怪な人物や事件のことは大体分かる。だが黒枹使だけは別だ。つまりこの事実は何を意味する?」「お前が無駄に長生きってことだ」「黒枹使と親しくするのは危険ってことだ。兄さんと呼んで懐くなんて身の程知らずだ」と大慶は呆れます。
「こんな可能性は?黒枹使は人間の姿をして地上で普通に暮らしてる」と言う趙雲瀾に、大慶は半目になります。
「そんな馬鹿な話が?地界には摂政官や地君もいるが、黒枹使は地星人を支配する権力者だ。そんな大物が何のために地上で暮らす?恋人のため?」と言うと、「恋人がいるようには見えない」と返す趙雲瀾。「何を想像してる!戻ってから沈教授とは連絡を?」と大慶が尋ねると、趙雲瀾は渋い顔をします。
とその時、汪徴が2人の前に現れ、「また新しい事件です」と告げます。
「大慶と林静、楚は俺と一緒に。集団自殺だそうだ。祝紅は郭ちゃんを連れて叔父さんに聖器の話を聞いてこい」と趙雲瀾は早速出勤。
祝紅と郭長城はじめじめした森の中に来ていました。
「紅さん、叔父さんはなぜこんな森の中に?」と怯える郭長城に、「私達は蛇族よ。じめじめした場所を好むの。何よ。怖くなってきた?」と鼻で笑う祝紅。
すると落ち葉に足を滑らせた郭長城は転んでしまい、祝紅を見失います。「紅さん?紅さん!」。森中に響く蛇のシャーという威嚇音に怯え、失神する郭長城。
現場に着いた趙雲瀾は、「3人とも手首を切り自殺か。同じ研究所の中で一晩に3人も?」と呟きます。
「これを。争った形跡はなく、自殺で間違いない。でも闇の力の痕跡が残ってた」と遺体の写真を見せる林静。
「自殺を強いられた?」と趙雲瀾が仮説を立てると、大慶が「地星人の中には人間を操る力を持つ者がいる。でも力が働いた引き金は何だ?」と返します。
「研究所の同僚や遺族に怪しい人物は?」と趙雲瀾が尋ねると、楚恕之が部屋に入ってきて「失踪者が2人いる。1人は鄭意、死亡した鄭所長の義理の娘だ。口が利けず、母は鄭と再婚後に死亡。もう1人は談嘯。昨日解雇された研究員だ」と談嘯の資料を差し出します。
「談嘯には動機があるな。父親を殺した後、娘を誘拐したとか?現場に遺された闇の力を辿り、行方不明の2人を捜してくれ」と指示する趙雲瀾。
すると林静が「鄭所長は亡くなる前、特殊な相手に電話をかけてる」と言い出します。
「特殊な相手?猫に電話したとでも?」と趙雲瀾が笑うと、「呼んだ?」と顔を出す大慶。「相手は固定電話だ。今どき固定電話なんて特殊だろ?」と林静が言うので、「かけてみろ」と趙雲瀾は電話をかけさせます。
電話をかけると、声が響きます。「もしもし、沈巍です」。チッ、と趙雲瀾は舌打ちし、爆笑。驚く林静。
祝紅の叔父は「やっと会いに来てくれたか」と2人を歓迎します。
「大丈夫だった?蛇族の縄張りよ。誰も襲わない」と言う祝紅ですが、郭長城は緊張で体を固くしながら「平気です。てっきり怪物が現れたかと…」と言います。それを聞き咎め、「何だと?」と立ち上がる蛇族の若者たち。
「はは、気の強い女と優男か。理想的なカップルだな」と笑う叔父に、「叔父さん、勝手な想像しないでよ。私がこんな子供と?」と怒る祝紅。
「蛇族が集団で変異した時、お前は脱皮の時期でな。変異が不完全になった。特調所にお前を任せたのは経験を積ませるためだ。お前の父が…」と叔父が昔話を始めると、祝紅は遮るように「叔父さん。もう昔の話よ」とピシャリと言います。
「今日は所長に頼まれて話を聞きに来たの。山河錘のことを?」と祝紅が言った途端、叔父の表情が一変。「山河錘?どこでそんな話を?」「叔父さん、隠さないで教えてよ」「まさかあの聖器が今特調所に?」と話していると、郭長城が「もうひとつ長命時計も…」と笑顔で割り込んできます。
祝紅は額に青筋を立てながら、「ん゛ん゛!」と咳払い。郭長城はやってしまったという表情で首をすくめます。
「はは…正直な同僚のようだな。信頼できる。入手したなら分かるだろう」と言う叔父に、「叔父さん、あの聖器は何のために使うの?」と尋ねる祝紅。
「それは私も…詳しくは知らん。久しぶりに戻ったんだ。仕事は忘れて酒でも飲め。二人に酒を。さあ飲もう」と叔父は酒を差し出します。
相当強い酒のようで、郭長城は一口飲んで大騒ぎ。「馬鹿ね。無理しなくていいの。叔父さん私から乾杯を」と祝紅は杯を一気に干します。
「相変わらずだな。子供の頃からよく飲んだ。強い酒も次々と飲み干す」「もういいわ、話を戻しましょ」と祝紅が言った途端、叔父は「悪いがその酒を飲んだお前は…」と呟き、彼女は机に突っ伏します。
「紅さん!?」と郭長城は祝紅を庇うように背に腕を回します。頭をおさえ、息を荒くする祝紅。
「酒に何を!?僕は何ともないのに!」と青ざめる郭長城に、祝紅は「これは雄黄酒よ。蛇族にだけ効果が…叔父さん、いつの間に親族でも油断できない仲に?」と叔父を睨みつけます。
第12話 音波の威力
<あらすじ>
山河錐(さんがすい)のことを調べていた祝紅(ジュー・ホン)と郭長城(グオ・チャンチョン)を祝紅の叔父が監禁してしまう。
その頃、趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は集団自殺の謎を追っていた。
死んだ鄭(ジョン)所長の知人である沈巍(シェン・ウェイ)は、彼が自殺するはずはないと言い切る。
祝紅の叔父は「全てはお前のためだ。帰らずここに残れ。聖器は隕石の力を吸収して作られたものだと聞いている。悪人に利用されればまた戦争が勃発するだろう」と祝紅を説得しようとしますが、彼女は「特調所の任務は聖器を悪から守ることよ」と聞きません。
「守りきれるものか。多くの者が狙っている。紅よ。蛇族が生き残ったのは掟を守ったからだ。危ない者には関わるな。若造、今回の件には協力できないと所長に伝えてくれ」「駄目よ。私は特調所と運命を共にするの」。
頑なな彼女を支えながら「紅さん、帰りましょう」と言う郭長城に、祝紅の叔父は「諦めないなら2人残れ」と蛇族の若者たちに捕まえさせようとします。郭長城は立ち上がると電流棒を手にし、「頼むから来ないでくれ、怪我をさせてしまう。仲良くやりましょう。このままだと僕も感電しそうで…」と言うがいなや即感電し、2人は仲良く気絶してしまいます。
“俺は桑賛 格蘭 愛してる”とペンで拙い文字を書く桑賛。隣でそれを愛おしげに見つめながら、「桑賛、部屋に罠を仕掛けて遊ぶのはよして。今は狩りなんてする時代じゃないの」と汪徴はたしなめます。
「君の言うことは何でも聞くよ」と縋るように言う桑賛に、「馬鹿ね」と笑う汪徴。桑賛の腕に自分の両腕を絡ませ、「こんな夢を何万回も見てきたわ」と目を瞑り、2人は抱きしめ合います。
龍城大学の沈巍の教授室。沈巍は「鄭所長は大学の先輩で、専攻は音響学。水中の音の伝播が専門で、研究上交流があった。昨夜11時に電話で脱イオン水内における音波の伝播に成功したと聞いた」と説明します。
「沈教授は体が丈夫だな」と全く関係ないことを言う趙雲瀾を無視し、話を続けます。「彼は自殺じゃない。野心にあふれた学者だったし、音波の研究に情熱を注いでいた。だから何かに惑わされたとしか考えられない」「沈教授は酒が飲めなくて、電子機器とも縁遠い。まるで生きた化石だ。今思えば第六感ってのは有用だ」。
沈巍は「何の話を?」と顔を顰めます。「真実を教えてくれ」「音波は私の専門外だ。私に解決は難しい」「その話じゃないだろ!」「趙所長はまだ私に疑いを?」「今は違う。謎なんだ。変な話だよ。長命時計に山河錘、2人で多くを経験した。でも今は見えない。真のあんたが」「人は時に考えすぎて混乱することもある。私は不運なだけのただの人間だ。なぜか妙な案件にいつも巻き込まれて、困惑している」。
珍しく真剣な口調で趙雲瀾は沈巍に詰め寄りますが、沈巍が何も言う気配がないことを感じ、ため息をつきます。「そうか。もういい。電話する」。
汪徴と桑賛が抱き合っていると、特調所に趙雲瀾から電話が入ります。「俺だ。ドラ猫たちは?」「まだ戻って来てません」。とその時、汪徴が突然何者かに背後から攻撃され、床に倒れ込みます。「格蘭!!」と叫び、駆け寄る桑賛。桑賛の声を聞き、焦る趙雲瀾。
「汪徴!?もしもし!?」「どうした?」「問題が」「私も行く」。趙雲瀾は真剣な表情で沈巍の同行を即座に許します。
その頃、特調所の扉が突然勝手に開き、音波が入り込みます。桑賛は違和感を感じますが、「格蘭!格蘭!」と彼女の目を覚まさせることに精一杯でした。
いつの間にか特調所に入り込んだ談嘯は両手から音波を出すと山河錐を盗もうとしていました。しかしそこに桑賛が駆けつけます。彼の音波に攻撃されながらも、部屋に仕掛けておいた罠を使い、彼を攻撃。
談嘯が山河錘を取り落した時、趙雲瀾がなんとかキャッチします。しかしその瞬間、彼の脳裏に祝紅が森で倒れている映像や氷柱などの映像が一気に流れこみ、失神。彼を抱き起こした沈巍は手から煙を放ち、談嘯を弾き飛ばします。
「趙雲瀾、しっかり」と沈巍が声をかけますが、彼は目を覚ましません。
大慶が猫の声でにじりよると、やっと趙雲瀾は目を覚まします。
「ほら、効果抜群だろ?」とにやける大慶に、「大丈夫か?」と心配そうな沈巍。「問題ない。楚は?」とか趙雲瀾が尋ねると、林静が「紅たちが遅いから見に行った」と即答します。
そこに汪徴が現れ、「音波です。あの地星人は音波で空間に振動を。急なことで防御できませんでした」と事件について説明します。「林静のバリアも三流品だな」と笑う大慶に、「音波がバリアの磁界に干渉したのかも。測定器も壊されて闇の力も測れてない」と渋い顔の林静。
「ということは…ドラ猫、あの地星人は音波で空間に干渉でき、人の心も操れる、一石二鳥の能力だな?昨今の地星人の能力はコスパがいい。顔を2つ持てる」と趙雲瀾は沈巍を見ながら嘲笑します。大慶はなぜ沈巍にそんなことを言うのかと訝しげです。
「能力の変異の過程や程度は多種多様だ。地星人の進化が人間と同じ程度なら、複合的な能力も考えられる」と飄々と返す沈巍に、大慶は「僕を挟んで目で会話するのはやめろ。愚か者の気分だ!」と怒ります。
「諸君!地星人が俺たちの心を操れないよう、脳波のデータを取って対策を練る。実験台になる奴は?人間限定で」と言う林静。沈巍の正体を知りたい趙雲瀾は頭が痛いフリをして、「頭は痛いが俺がやるよ」と手をあげます。沈巍はしばらく趙雲瀾を見つめると、「私がやろう」と立候補。林静は「ありがたい」と喜びます。
祝紅の叔父は彼女を柱に縛りつけた状態で懸命に説得を続けていました。「紅よ、まだお冠か?全部お前を思ってのことだ。お前は昔から鼻っ柱が強かった。お前を娘同様に思い甘やかしてきたが、今回ばかりは譲れん。蛇族はずっと中立を保ってきた。人類や地星人とは別の種族だ。人間と地星人の争いに関わる必要などない。だが万が一お前に危険が迫ればこの命を懸けてお前を守ろう」。
しかし突然祝紅が泣き出したため、叔父は彼女の顔を覗き込みます。「紅よ。どうした?」。しかしその瞬間、後退ります。
「なぜお前が!?」柱にくくりつけられ泣いていたのは、祝紅に変装させられた郭長城だったのです。
「今の話…感動しました」と泣く郭長城に、「紅は!?」と尋ねる叔父。祝紅は影から飛び出し彼を羽交い締めにすると、「優しさは嬉しいけど、私にも事情があるの!悪いけど飲んで。外の門番たちは私のファンだから逃してくれた。私がモテるって忘れたの?」と雄黄酒を無理やり飲ませます。
「紅よ、お前ってやつは…」と酩酊する叔父。「紅さん逃げてください!」と慌てる郭長城に、祝紅は「安心して、後で迎えに来る」と言い残して家を飛び出します。
蛇族の男2人と対峙する祝紅。男たちは祝紅からあからさまに目を逸らすと、「今日は見事な夜空だな」「満天の星だ。美しい」「ほらあれを見ろ」と見逃してくれます。
沈巍の脳波を測定、終了しました。
沈巍がなかなか目を覚まさないので、「沈巍、沈教授」と声をかけながら趙雲瀾はキスしそうなほどよ近さで彼の顔を眺め回します。ゆっくりと目を開けた沈巍は「何を?」と冷静に尋ねます。「か、顔にホコリがついてた」と笑う趙雲瀾。
林静に「起きても?」と尋ねた後、「頭痛は?」と趙雲瀾を労わる沈巍。「そう言われるとまだ痛む。波があるらしいな」とわざとらしく笑う彼を呆れたように見て、「仕事がある、帰るよ」と沈巍はさっさと帰っていきます。
林静はパソコンを叩き、「壊れてないぞ」と不思議そうに言います。「教授が卑猥な妄想を?」と趙雲瀾がふざけると、「俺が駆使してるのは科学だ。頭の中は見えないよ。でも変なんだ」と林静は首を傾げます。
「何が?」「教授の脳波には少しも動きが見られない。まるで死んでるみたいだ」。趙雲瀾は一瞬目を見張りますが、にやにやと笑い始めます。
特調所を出た沈巍はネックレスを取り出し、そっとペンダントヘッドの橙色の玉を握りしめます。「彼に言うべきか?言えば、危険にさらすかも」。
談嘯は鄭意を人質にされ、燭九に殴られていました。「俺が自分で特調所のバリアを破れたらお前など使うものか!お使いもできないポンコツめ!」「次は成功させる」「最後のチャンスだ」。燭九は鄭意を椅子に縛りつけていた縄を解くと、彼女に耳打ちします。
「今回は助手と行け」「駄目だ!この子はここにいるのが一番いい」「はは!今のお前たちに選択肢があるか?」「……この子を治せるか?」「約束は守るさ」「山河錘を持ってきたらな」「その時は2人で駆け落ちするといい」「やめろ、邪な考えはない。妹みたいに思ってるんだ」。
談嘯はかつて恋人を亡くし涙に暮れた経験があり、鄭意は彼女にそっくりなのでした。
「この子に平穏な日々を与えたい。あれを手に入れることであんたにどんな得が?」「お前って奴は青二才だな。利にならなくとも人は害するものだ。ふふ」。燭九は談嘯の頬を馬鹿にするようにぺちぺちと叩き、去ります。怒りに拳を震わせる談嘯。
その頃、趙雲瀾は「何のために来たんだ?」と沈巍と黒枹使の絵をノートにかいて考え込んでいました。ため息をつき、絵にぐしゃぐしやとデタラメな線を描きます。
祝紅は叔父のもとから逃げ出すと、村の外でスマホを取り出しますが電波がありません。
談嘯と鄭意は木の影から出てくると、「あんたを待ってた」と祝紅に話しかけます。「誰?」と振り返った彼女を洗脳します。
特調所では趙雲瀾が林静に龍城全域を対象に闇の力が発生していないか確認させていました。「その後、談嘯は能力を使ったか?」「ずっと見張ってるよ。こいつは賢い。あれから…あっ!見つけたぞ!」「どこだ?」。「祝紅の家の近くだ!」と叫ぶ大慶。
その頃、祝紅を助けに駆けつけた楚恕之と操られた祝紅が肉弾戦を繰り広げます。慌てて駆けつけた林静が彼女に鎮静剤を打ち、特調所に連れ帰ります。彼らを遠くから見ていた鄭意と談嘯を見つけた趙雲瀾は「おい、見飽きたころか?」と声をかけます。「燭…」「助けにくると約束を?奴に”信じるな”」とは言われなかったか?」。趙雲瀾に追い詰められ、談嘯は「降参だ…」と呟きます。
その頃、ロッカールームのような場所でスーツの中年男が青年の首を絞めます。「何のために!?」「来世で分かるさ」。燭九は青年から何かを吸い取ると、持っていた瓶の中に詰めます。
「周社長、供給が遅れがちなようだ」「あなたの要望が厳しすぎるせいだ。元気で体力のある若者だろ?1人ずつ厳選して提供する必要がある。こいつには何人か仲間がいるんだ。合格ならまた差し出そう」「人間じゃあんたが一番の有望株だ。よろしくな」「こちらこそ」。
2人の会話をドアの隙間から青い服の何者かが聞いており、燭九はその気配に気付きますか、追うことはできませんでした。
特調所では林静が祝紅を横たわらせ、「闇の力は消えてる。心拍数から見ても洗脳は解けたな。あとはいつ起きるかだ」と楚恕之に説明します。
「長城は?」「確かに、地星人のそばにもいなかった。紅の親戚のところか?」「おい、慌ててどこへ?」「急がないと蛇のデザートにされる」「ボスに指示を仰げよ」「考えは同じだ」。急いで特調所を出て行く楚恕之に、「郭ちゃんにご執心か?」と林静は肩をすくめます。
祝紅の叔父はやっと目を覚まします。「蛇ともあろうものが人間風情のようだ…あの父にしてこの娘ありだな…」と言い、再度気を失う叔父。郭長城はしばられたじょうたいでああわあわと体を動かします。
鄭意をベッドに横たわらせ、大慶が彼女のつけているマスクに触れようとした瞬間、談嘯は「触るな」と叫びます。
「さあ、話してくれ。彼らに解雇され暴力を受けたから犯人を殺したのか?」と尋ねる趙雲瀾に、談嘯は「死んだのは自業自得だ」と吐き捨てます。「その子はなぜ誘拐した?」「誘拐なんかしてない。守っただけだ」。
大慶が鄭意の服の袖を少し捲ると、彼女の体には真新しい打擲の痕がびっしりと刻まれています。
趙雲瀾は絶句し、「教えてくれ。その傷は誰がつけた?」と談嘯に尋ねます。「他でもない、あの最低の父親だ。俺が研究所に入ったのは研究を進めるためだ。それなのに、命じられるのは雑用ばかり。でも良かった。もし雑用係にならなければ秘密には気づかなかった。”養父の私に恥をかかせるな!遊ぶことは許さん!” 鄭意の養父だった鄭所長は、他の子とは違うからと彼女を常習的に虐待していた。鄭所長にとってバイオリンだけが自慢できる鄭意の特技だった。だがこの子には苦痛の代名詞だったんだ。その日から鄭所長が仕事している間、家に潜り込んだ。会うたびに心が痛んだよ。見るに堪えない傷が増えていたから」。
鄭所長に思いきり鞭で打たれ、痛みに号泣しながらもバイオリンを弾き続けることを強要される鄭意の姿を、談嘯はこっそりと見つめていました。鄭意のバイオリンを奏でる横顔は、まさに亡き恋人にそっくりでした。
談嘯は鄭意の傷の手当てをしようと試みます。怯える彼女に、「大丈夫、怖がらなくていい。俺は味方だ。傷の手当をしてもいいか?」と手を差し出す談嘯。鄭意は恐る恐る彼の手の上に自分の手を乗せます。
傷口に消毒液をつけると身をすくませる彼女に、「大丈夫、ふーふーすれば傷まない。ふー、ふー…」と声をかけていると、鄭所長の怒号が屋敷に響き渡ります。「意!いるんだろ!さぼりか!何をしてた?次に怠けたらどうなるか教えてやる!」。鞭でひとしきり彼女を打ち終わると、部屋の外から「所長」と研究員たちの声がかけられます。
所長が「入れ」と声をかけると、こそこそと研究員2人が入室します。「さすがお上手ですね」「教育が行き届いてる」「どうか僕らにも厳しい指導を!」「食らいついていきます」。鄭所長の虐待を知りながらも、彼にごまをする研究員2人。談嘯は彼らへの憎しみに瞳を燃やしていました。
「つまり動機は、自分の研究成果を横取りされたからじゃない。その子のためか」と言う趙雲瀾に、「鄭所長は俺のしてたことに気づいてたんだ。解雇されれば俺はもう二度とこの子を守れない。俺は慎重にことを進めて来たが、ここで終わりだな」と談嘯は肩をがくりと落とします。
「お嬢ちゃん、話は本当か?」と趙雲瀾が尋ねると、鄭意はこくりと頷きます。
「感動ものだ。だが悪いな。罪を犯した者を捕まえるのが俺の仕事だ」「分かってる。俺が去った後、この子を頼むよ」「安心しろ」。趙雲瀾と談嘯が話していると、突然黒枹使が現れます。
「久しぶり」と意地悪い笑みを浮かべる趙雲瀾を一瞥し、黒枹使は「罪を犯せば罰を受ける。この者は私が連れていく」と談嘯を連れ去ります。連れ去られる直前、談嘯は鄭意に寂しげに微笑んでいました。
「黒枹使と喧嘩でも?いつもは少しは話すだろ」と訝しむ大慶に、「理由は想像がつく」と他人事の趙雲瀾。
鄭意は談嘯を探して泣き始めます。「お嬢ちゃん、頼むから泣くなよ…。おい、お前、ちょっと来い」と趙雲瀾は大慶を病室の外に連れ出すと、猫に変身させます。「この猫、うちのマスコットなんだ。気にいるようなら数日間貸そう、ドラ猫、頑張ってくれ」。大慶を嬉しそうに撫でる鄭意。大慶は大人しく彼女の腕の中に収まっています。
座りながら寝る林静を叩き起こす趙雲瀾。「仕事中に居眠りか、減給だ」「どうかしたのか?」「なんだか簡単すぎる。談嘯はあっさり逮捕に応じた。安堵の表情で」「地星人が人間界で隠れるのは大変だ。力を使えば痕跡が残る。俺たちも見張ってるしな。気弱な地星人が何かをきっかけに暴走しても不思議はない」「…何をきっかけに暴走する?」。
趙雲瀾は林静の言葉に違和感を覚えます。
「触るな!」「音波がバリアの磁界に干渉したのかも」「測定器も破壊されて闇の力も測れてない」「昨夜11時に電話で聞いた。音波の伝播に成功したと」「あの地星人は音波で空間に干渉でき、人の心も操れる。一石二鳥の能力だな」「他の子と違うからと虐待してた!」ー趙雲瀾の脳裏に、談嘯や林静、沈巍の言葉が蘇ります。
「ボス、どうした?」と訝しげな林静に、「科学だ。能力じゃない。談嘯は人間だ」と趙雲瀾は断言します。
談嘯は黒枹使にある場所に連れてこられていました。「ここが地界ですか?」「違う」。
突然彼の首を絞めあげる黒枹使。苦しみもがいた談嘯のポケットから、基板のようなものがこぼれ落ちます。
「談嘯は音波を空間に伝播させただけ。奴の研究そのものだ。でも鄭所長も紅も奴に洗脳されて…音波で心が惑わされた時、その場にいた者がもう1人いる。奴が身を挺して庇ってるそいつが、暴走して人を殺した地星人だ!」と叫ぶ趙雲瀾。
「いい気味だ。覚悟はいいか?」
犯行の日、研究所で鄭所長の前に出てきたのは鄭意でした。「なぜお前が?来るな!やめろ!」と叫ぶ彼に、「終わりよ。生きてる価値はない」と洗脳の言葉を吐く鄭意。「俺は早く死んだ方がいいんだ!」と発狂し、自殺する鄭所長。
それを見ていた燭九は「すばらしい、期待どおりだ!聖器を奪えるのはお前以外にいない」と手を叩きます。「誰なの?見たわね」と敵意を剥き出しにする鄭意に、「誤解するな、俺は同胞だ。お前と取引するためにきた」と笑う燭九。
「やはりな。私を含め全ての者をあざむいていた」と基板を見て呟く黒枹使。「黒枹使様、見逃してくれ。あの子の罪は俺が償う」と跪き懇願する談嘯に、黒枹使は「罪は己で償うもの。お前は姿を隠していろ」と彼を眠らせます。
祝紅が目覚めました。「あの子は危険よ」と、祝紅は鄭意に洗脳された時のことを反芻します。大慶に電話する趙雲瀾ですが、彼は出ません。「駄目だ出ない。病院へ急ごう」「私も行く」。趙雲瀾・林静・祝紅の3人で龍城第一病院へ向かいます。
病室に着くと、やはりベッドに鄭意はいませんでした。
その頃、大慶は鄭意に操られて特調所に入り込みます。彼女に言われるがまま長命時計と山河錘をカプセルから取り出し、手渡します。鄭意は燭九に「明日談嘯は結婚式に出る。お宝と交換に談嘯に会わせてやろう」と脅されていました。「談嘯お兄ちゃん」と呟く鄭意。
翌日開催されたのは、黄麟奇と李佳琪の結婚式。「お越しの皆様、ご静粛に。本日は私の大事な娘である佳琪と、黄グループ会長代理である黄麟奇君の結婚式です。本日はお越し下さりありがとうございます。どうか楽しんでください。2人を祝福するとともに、皆様にも大きな感謝を」とスピーチをする李氏。
李佳琪は着飾った女友達たちと部屋で談笑していました。
「大げさなんだから」「いいお父様ね」「素敵な挨拶だわ」「ねえ、そういえば…」。
そこで突然李佳琪の電話が鳴ります。「もしもし?」「佳琪、外を見てくれ」「何?」。
バルコニーから外を見ると、庭に黄麟奇が佇んで彼女を見上げていました。
「ただ会いたかっただけさ」「式の前に会うのは不吉なのよ」「顔も見られたし戻って」。李佳琪が嬉しそうに彼を見つめ部屋に戻っていくのを、黄麟奇は微笑みながら見ていました。
「準備は?ご安心を。万全です」「声が大きい!世界中に聞こえる」と、謎の男2人が密談しています。
李氏は「高部長、お越しでしたか」「なんとも光栄です」「おめでとう」「感謝します、さあこちらへ。どうぞ」と特調所の上位組織である海星艦の部長、高氏を歓待します。
先ほどの謎の男は、脱いだスーツのジャケットの下にカメラを隠し持っており、高部長と李氏の会話を撮影していました。
「高部長、先日の事件では特調所のお世話に。病床の黄会長に代わり、礼を」「特調所もそちらの管轄だったんですね」「李さん、あなたは龍城の若者の模範となる経営者だ。法を犯さない限り、海星艦も全力で支持しますよ」「心強いお言葉です」。握手する2人にカメラを向けながら、男は「明日の記事に決まりだな。権力と金の結びつきか、俺がおいしく調理してやるよ」とにやけます。
会場の警備員が「もしもし、見ない顔だ。招待状は?」と男に尋ねます。しかし男は堂々としたもので、「怖いもの知らずだな。俺を誰だと?高部長の私服警備員だ。君を捕まえられるぞ」と脅し、警備員は「それは失礼いたしました」と尻尾を巻いて逃げていきます。
その頃、特調所から出てきた大慶はいまだ洗脳状態から解けていないままふらふらと歩いていました。
懇意にしている青果屋の親父が「大慶さん、果実はどう?」と笑顔で声をかけてくれます。
しかし、大慶の後ろで「困った子だわ、泣きわめいてばかり。このままだと捨てちゃうわよ!」と母親が泣き喚く子供。叱りつけていました。「このままだと捨てるぞ」「捨てるぞ」という言葉が、大慶の脳内でわんわんと響き渡ります。
「うわあああ!!!!」と叫びながら、大慶は青果屋の店先にあった果物や野菜を全て薙ぎ倒してしまいます。
「おい、何するんだ。どうかしてる!誰かいないのか!」と悲鳴を上げ、慌てて店のシャッターを閉める親父。大慶は興奮して、親父に襲い掛かろうとします。
鄭意がずっと所長の虐待に耐えてたのが意外でした。能力があるなら早々に殺して他の養父を探せばよかったのでは…と思ったのですが、地星人の能力を使わないようにとギリギリまで我慢していたのでしょうね…。
祝紅は蛇族の中で超甘やかされてて可愛いすぎましたw
桑賛の狩りの仕掛け、有用でしたね!!桑賛と汪徴、仲良しで嬉しいなあ。
沈巍が「脳波が乱れない、死人みたい」と林静に言われてたのが気になります。どういうこと?沈巍ってもしかして身体は既に死んでるとか…?
海星艦(特調所の上位組織)と黄グループ癒着のスクープ、燭九が仕組んだのならやり方回りくどすぎませんか?🤔
沈巍が懸命に「真実を言えば趙雲瀾を危険に巻き込む」と隠してるのに、趙雲瀾が沈巍を嘲笑し若干馬鹿にしてる感あって辛いです。沈巍はお前のこと愛してるんや、守りたいんや…だから地上におるんや…。
第13話 洗脳
<あらすじ>
黄麟奇(ホアン・リンチー)と李佳琪(リー・ジアチー)の結婚式の日がやってくる。
ところが鄭意(ジョン・イー)が発する音波に洗脳され、列席者は互いに襲い合ってしまう。
そこにやって来た沈巍(シェン・ウェイ)は何とかその場を収拾するが、趙雲瀾(チャオ・ユンラン)はまたもや事件現場に現れた沈巍のことを怪しむ。
錯乱する大慶を小魚で手なづけ、正気に戻した李さん。怯える青果屋の王さんに「弁償する」と平謝りの趙雲瀾。「また狙われた」とため息をつく祝紅に、「副所長は単純だからいいけど、所長が狙われたら相当やばいぞ」と林静は不安がります。
趙雲瀾に入電。「汪徴から連絡だ。鄭意が聖器を持って黄家へ」「なんですって?大変よ。嫌な予感がする」と趙雲瀾と祝紅は慌てます。
「なぜここに?僕は子供と遊んでたはず」とぼんやりしている大慶に、林静が「答えは手の中に…」とふざけますが、「黄家に急ぐぞ」と趙雲瀾に尻を叩かれます。
「ご臨席くださいました皆様、只今より新郎 黄麟奇と新婦 李佳琪の結婚式を執り行います。それでは花嫁を盛大な拍手でお迎えください。では愛を込めて指輪の交換を」と司会のアナウンスが響きます。
黄麟奇は彼女の手を握ると、「佳琪、指輪交換の前にサプライズがあるんだ」と指を鳴らします。
「心から愛する佳琪へ、直接君に言えなくてボイスメッセージにしたよ。僕は君に会ってひと目で恋に落ちた。嫌われていると思って言い出せなかったけど、あの事件のおかげで黄身も僕を好きだと知った。ついにこの日を迎えることができたね」。李佳琪がメッセージを聞きながら微笑んでいると、突然会場に大音量の音波が流れます。「これは何?」と李佳琪は耳を押さえて苦しみ、倒れます。
そこに現れた鄭意は「談嘯お兄ちゃん?どこにいるの?返事をして!」と会場中をきょろきょろと見回し、探し回ります。黄麟奇は音波で錯乱し、李佳琪を絞殺しようとします。他の列席者たちも互いに襲い合い、地獄の様相に。
そこに現れた沈巍が鄭意を止めようとしますが、燭九が彼女を瞬間移動させ、自分のそばに侍らせます。
「お前の仕業か」「他にここにいる理由があるとでも」「警告だ。一般人を巻き込むな」「驚いたよ。(鄭意の力が)ここまでの威力とは」と話す沈巍と燭九。
紛れ込んだパパラッチは苦しみながらも隠し持ったカメラで3人の姿を撮影します。
「特調所がどう解決するか見ものだな。行くぞ」と消える燭九と鄭意。乱闘の中、沈巍は手に力を込め力を使い、何とかその場を収拾します。
そこに駆けつけた特調所一行。趙雲瀾は沈巍を見つけるや否や、怒りを露わに「現れると思ったよ。なぜ毎回事件の現場にいるのか…」と詰め寄りますが、近くに上司を見つけて慌ててゴマを擦ります。
「高部長!式にいらしていたんですか!?」「趙所長、いい時にきたな。知り合いか?」「その…一度会ったことがあるだけです。高部長、名誉にかけて保証します。沈教授は事件とは無関係です」。趙雲瀾は沈巍を自分の背に隠そうとしますが、高部長に押しのけられます。
「関係があるかどうかは見ればすぐ分かる。在野の逸材ですな。教授のおかげで助かりました。感謝します」と高部長は洗脳を解除した沈巍にお礼を言います。
すると趙雲瀾は突然調子に乗り、「高部長、実は特調所のさらなる発展に向け、彼を顧問にと。貴重な人材は逃しません」と胸を張ります。しかし高部長の気分が悪そうだったため、彼の杖代わりになります。「大丈夫ですか?中で休憩を。気をつけて」「ひどい日だな」とぼやきながら移動する2人。
その後ろで、パパラッチは「大スクープだ!こいつは逃さないぞ」とほくそ笑んでいました。
「大丈夫?怪我はない?」と黄麟奇は李佳琪を助け起こします。しかしそばで彼女の父は死んでいました。「死者が1名。亡くなるなんて」と沈鬱な表情を浮かべる林静。父の遺体にすがりつく李佳琪。沈巍は苦々しい表情を浮かべます。
部屋のソファーに座りぼんやりする趙雲瀾。大慶は走り込んでくると、「客は緊急搬送された。高部長から解決を急げと」と報告します。趙雲瀾は頷き、彼を追い払います。そこに現れる沈巍。
「どうした?」「その…迷惑だったか?」「迷惑をかけるならいっそ一生俺を振り回してくれ。とはいえ最近手強い敵ばかりだ。特調所の戦力じゃ対抗できない。俺は執着しないほうだ。だがあんたのことは必ずはっきりさせる。ふん、今のところは翻弄されてばかりだが」。
沈巍は見つめてくる趙雲瀾から目を逸らします。
「私に他意はない。ただ…」「偶然いただけ。だろ?偶然が多すぎる。今日も現場にいた。高部長が言ってたよ。あんた一人で騒ぎをおさめたと。たった一人で?説明してくれ」「私は…常に体を鍛えてる」「は!もっとましな言い訳をしろよ。一体あんたは…」。話しながらどんどん怒りが込み上げてきたのか、大声で沈巍に詰め寄る趙雲瀾。しかし趙雲瀾に電話が入り、彼はため息を零します。
「なんだ?」「ボス、見つけたよ」「分かった」。大慶からの報告に簡素に返事をすると、趙雲瀾は無言でその場を立ち去ります。
街角で発狂しているパパラッチを宥める林静と大慶。「落ち着いて、大丈夫だよ」と大慶が何度言っても、男は奇声をあげ続けます。趙雲瀾と沈巍の2人がパパラッチのもとへ着くと、ちょうど林静が彼に鎮静剤を打ったところでした。
パパラッチは落ち着きを取り戻すと、「あんたたちは?俺をどうする気だ?」と怯え出します。趙雲瀾は呆れて「助けてやったんだ」と返答。
「俺は結婚式に参列していた」「式のあとどこへ?」「たしか…」と趙雲瀾に尋問され、回想するパパラッチ。
パパラッチは会場を抜け出した後、妙な会話を聞きつけます。
「いつから俺に指示する身分になった?あの方に認められたいなら俺の後にしろ」と鴉に向かって話す燭九と鄭意をチラ見したため、咄嗟にその怪しい光景をカメラで写そうとしたのです。
しかし燭九はパパラッチの影でその存在に気づき、瞬間移動。「やあ。満足か?鄭意、いい子だ。声を聞かせてやれ。そうすればお兄ちゃんに会える」とパパラッチに鄭意の声を聞かせて発狂させます。
「本当なんだ。信じてくれ。俺は正気だ」と縋りつくパパラッチに、「大丈夫、分かってるよ」「君の話を信じる」「コーヒーでもどう?調書を作成したら返すよ」と林静と大慶は彼を抱き起こしつつ、特調所に向かわせます。
「話が本当なら燭九の後ろに黒幕がいる。次の手を打たないと。楚と郭ちゃんは動かせないし、人手が足りない」と、明らかに沈巍の手伝いを期待した口ぶりの趙雲瀾に、沈巍は「大学に戻る。夜は実験の予定だ。失礼する」と端的に返し、身を翻します。彼の背を見つめる趙雲瀾。
「嘘つき、お兄ちゃんはどこ?」と燭九を詰る鄭意。すると突然鴉が人間の女に変身して降り立ちます。
「鴉青、コソコソと俺についてくるな」と彼女を睨む燭九。
「計画は大丈夫?鴉族抜きで山河錘は発見できなかった。長命時計もね。任務遂行の責任者なら山河錘を奪われた非は認めて。私は命に従い動いているだけ」「臆病な亜獣族の助けなど不要だ。スパイ以外に使い道はない」「覚えておきなさい。いつか亜獣族に謝罪してもらう」。口喧嘩をする2人に、「やめて」と鄭意は力を使います。
彼女の力に押される燭九と鴉青。「談嘯に合わせないぞ!」「この子は制御できない時限爆弾よ」「スリルが好きなんだ。目的のためなら負傷など恐れない」「馬鹿な男」「あの方のためにもっと食材がいる」「お前が口を出すな」。口汚く罵り合い、鴉青は鴉に姿を変えて飛び立ちます。
「お兄ちゃんは?会いたいの。捜しに行きたい」と再度訴える鄭意。「うるさい!談嘯が何だ!居場所を知るのは俺だけ。遭いたいなら一緒に来い!」と彼女を引っ張っていく燭九。
楚恕之は郭長城を取り戻すため、単身で蛇族の村に向かいます。彼の姿を見て、「紅さんの同僚だぞ」「失点を挽回するチャンスだ」と噂する蛇族の男たち。しかし彼らが振り返るとそこには楚恕之が立っており、即失神させられてしまいます。
柱に縛られていた郭長城を早々に見つけた楚恕之は、近くにいた祝紅の叔父に「解放しろ」と凄み、さっさと縄を解いて家から連れ出します。
談嘯はどこか研究所らしき場所に来ていました。
すると隣でバチン!と凄まじい打擲音が響きます。「いいか!お前など殴り殺せるんだ」と鄭意に凄む鄭所長から彼女を庇い、「この子に何をする」と憤慨する談嘯。しかし、鄭所長は「お前か、許さんぞ。今すぐ俺の命を返せ。生き返らせろ」と詰め寄ってきます。
「俺のせいじゃない」と怯える鄭所長に、さらに2人の研究員たちが「お前が僕たちを殺した」「命は命で贖え」と迫ってきます。「僕じゃない!」と悲鳴をあげる談嘯に、鄭意は寂しそうな表情で「私に近づきすぎだわ。忘れたの?私は怪物よ」と告げます。
鄭所長、研究員たち、鄭意の声がわんわんと脳内で反響し、発狂しそうになったその時、談嘯ははっと目を覚まします。
「鄭意は!?」と大声を出した途端、部屋に入ってきた趙雲瀾と目が合います。
郭長城は楚恕之にぐいぐいと手を引かれていました。「楚さん」「役立たずめ!お前の話を聞く気はない。ボスとの約束だから助けにきた。黙れ」「だから誤解ですって。蛇族は味方です!」。楚恕之はやっと郭長城の方を振り返ります。
郭長城は柱にくくりつけられながら、祝紅の叔父と話をしていました。
「叔父さん、紅さんはもう大人ですよ。それなのに口うるさくしすぎでは?」「確かに年頃の娘を引き止めてはいかんな」。席を立ち、郭長城に酒を飲ませる叔父。
「おいしい!」と笑顔で叫ぶ郭長城。「だろ?うまい酒と温かい家の何が不満だ?まったくあいつは父親そっくりだ。人間好きでな。都会へ飛び出していき恋だの愛だのと言っていたが、最後はあの子を残して命を落とした。父親と同じ轍を踏んでほしくない」と叔父は沈鬱な表情で告げます。
「安心してください。僕たちが守ります」「でまかせをいうな。龍城に特調所が設置されたのは前から知ってる」「悪事を働いた地星人をとらえるための機関です。所在地は光明路4番地で…」「もういい、いちいち説明するな。言ってみろ。特調所など地星人の歴史に比べればちっぽけな存在だ。地星人とどう戦う?」「僕たちには信念があります。自分が犠牲になっても大切な人を守る。所長、副所長、楚さん、紅さん、新入りの桑賛さんも。彼らの覚悟は僕の憧れです。僕は小心者だけど分かってるんです。逃げてばかりではだめだって。避けられない危険には誰かが立ち向かわないと。もし僕が紅さんなら同じ道を選ぶ」「見かけによらずしっかりした若者だな。心に響いたぞ」「縄を解いてもらえますか?」。そうして、叔父は縄を解いてくれたのでした。
「早とちりですよ。戦う必要なんてなかったんです」と言う郭長城に、額に青筋を立てる楚恕之。「思い出したが、無傷で連れ戻せとは言われなかった。腕か足、欠けてもいい方を選べ」と言う彼に郭長城が悲鳴を上げた瞬間、楚恕之に電話が入ります。「楚だ。任務完了。無傷だ」と言う彼と共に、郭長城は特調所に戻ります。
沈巍がある建物に入ろうとしていると、「待って、黒枹使」と呼び止められます。「迎春?なぜここに」と驚く沈巍。「あなたが追う相手と結託してる亜獣族人がいる。情報を流してるわ」「知っている。現場現場にいつも鴉の姿があった。鴉族の長老、鴉青か」「以前の彼女とは別人よ。長老の身でなぜ悪事に加担するのか…このままではあなたも危険よ」「退く資格はない」。沈巍が全く耳を貸さないため、迎春は頬を膨らまします。
「談嘯?」と声をかけながら沈巍は彼を隠している部屋に入りますが、そこでは趙雲瀾がバイオリンをひいていました。驚く沈巍。「奴は特調所へ送ったよ。教授、まだ言い逃れする気か?談嘯が連行される姿は特調所の全員が見てる。それがなぜここへ?黒枹使からあんたが談嘯を奪えるわけがないよな」。
黙ったままの沈巍に、趙雲瀾が近づきます。
「談嘯が人間だと分かっていれば鄭意を誘い出せたし、式の悲劇も防げた。俺たちは友達だよな」と言う趙雲瀾に目を見張る沈巍。
沈巍は重い口を開きます。「鄭意を救えると思った。穏便に処理できると…だから、隠したのは君たちを…君を、守りたくて」。
その言葉に趙雲瀾が笑います。「それに…」と沈巍が続けようとした途端、部屋中に音波が鳴り響きます。苦しみもがく趙雲瀾。「趙雲瀾!?」と彼の元に沈巍が走ろうとした瞬間、燭九が現れ、趙雲瀾が操られます。
「もう少し見たかったが残念だ」と皮肉げに笑う燭九。「解放しろ。たかが人間を一人殺して何になる?」「人間は全て俺の敵だ。それにこいつは大物だからな。さあ歩け」。
燭九は趙雲瀾に自分で首を絞めさせます。燭九を捕らえようと近づいていた沈巍は歩みを止めます。
「自分で首を絞めさせる」とニヤつく燭九に、「(趙雲瀾と自分が)代わろう。不足か?」と黒枹使に変身し、尋ねる沈巍。
燭九は気色ばみ、「趙雲瀾はお前の何なんだ?」と尋ねます。
「談嘯お兄ちゃんに会いたいの」と繰り返す鄭意。黒枹使が手から刀を出し一閃しますが、「こいつは使えるから離さない。黒枹使よ、その姿が地上であとどれだけもつかな?ははは、また会おう」と言い残し、燭九と鄭意は消え去ります。
建物から出てきた沈巍に、迎春は「あなたは敵を追って、鴉青は私が」と伝えます。迎春は光の粒になって消えますが、沈巍は力を使おうとした瞬間、力尽きてひざまずいてしまいます。「雲瀾、趙雲瀾」と苦悶の表情を浮かべながら焦る沈巍。
「青姉さん、青姉さん待って」と迎春は鴉青を追いかけます。
「なぜ邪魔を?」「分かってるの?中立を守る限り地星人は亜獣族に手を出さないわ」「過去に縛られては復興をはたせない」「青姉さん、変わった」「気づいただけ。一族の未来を人間などに託すものか。鴉族、花族、蛇族の長老は同位よ。互いに不干渉のはず。なのに命令する気?」「花族の長老としてではなく、幼馴染の妹分として話してるの」。
迎春の懇願するような眼差しを見つめ、手を震わせる鴉青。しかし顔を背けます。
「手遅れよ」と言い残し、空へ飛び立つヤーチ。「なぜそこまで?」と迎春は辛そうに呟きます。
「花族と鴉族め、共倒れしろ。うるさい鴉など消えてしまえばいい。さて、お前たちをどうするかな」と燭九は隠れ家で独り言を呟きます。
「談嘯お兄ちゃんに会いたい」「談嘯はこいつ(趙雲瀾)が隠した。おそらく特調所だ。先にお宝を2つとも俺に預けないか?それから考えよう」とニヤつく燭九に、鄭意は首を振って拒否。「俺たちは特徴所に入れない」と悲痛な声を上げる燭九ですが、「待てよ。こいつがいたな」と趙雲瀾を見下ろしてにやつきます。
特調所では郭長城が「お茶をいれましょうか?音楽でも?」と談嘯に気を遣いますが、郭長城が流した音楽がたまたまバイオリンの音色だったため、談嘯は「鄭意、あの子はどうしてる?」と青ざめ取り乱します。
「無事ですよ、ご安心を」と言う郭長城に、「俺をここに閉じ込める意味は?」と尋ねる談嘯。「何も聞いて無くて分かりません」と言う郭長城の前に、祝紅が「交代するからあんたは戻っていいわ」と現れます。
「でも紅さんは?」「休むわけないでしょ、特調所と運命を共にする覚悟よ。林静と副所長は鄭意を探索中だし」「なんだって?探索中?鄭意はどこに?教えてくれ、あの子は?どこだ!女の子の独り歩きは危険なんだぞ!鄭意を返してくれ!」。
祝紅に掴みかかりそうになった談嘯は、彼女に手刀を食らわされ失神。「片付けといて」と祝紅は彼を一瞥します。
林静と大慶は装置を使いながら街中で鄭意を探していました。
「使えないな。人が多いから電波干渉が起きてる」「…あの子、鄭意だ!」「たしかか?」「猫の視野は広いんだ」「でも猫の目の錘体細胞は二種類だけだろ」「愚か者め」。林静に毒を吐きながら、大慶は少女に駆け寄ります。
すると隣にいた男は慌てて逃げ去ります。
「確認を、その子は?」「どうしたの?」と林静と大慶が少女の顔を覗き込むと、鄭意ではありませんでしたが男に誘拐されかけていたようでした。「ママがいない」と泣く少女。
すると周囲の人々が当然集まってきます。「何かあったの?」「誘拐か?」。「違います!誤解ですよ!やめてください!乱暴しないで」「海星艦だ、操作中だ!」と林静と大慶が慌てて特調所の身分証明書を見せると、人々は「早く言えよ」と興味を失ったように去っていきます。
「ママとはぐれたの」と繰り返す少女をどうしたものかと大慶が見つめていると、林静が趙雲瀾に少女の処遇を尋ねようと電話をかけます。しかし電話には誰も出ません。「この子を送って戻ろう」と肩を落とす2人。
楚恕之は燭九の根城を突き止めますが、そこには誰もいません。しかし後ろから何者かの気配が。「誰だ?」。するとなぜか沈巍が現れます。「沈教授?なぜここに」と問う楚恕之の言葉を無視し、沈巍は「いないのか。残る場所は一つ」と言います。ハッと気づいた楚恕之は「やられた」と呟きます。
その頃、特調所に趙雲瀾・燭九・鄭意が現れます。
祝紅は「趙雲瀾、どうしたの?なぜ彼らと?」と席を蹴って立ち上がりますか、趙雲瀾は祝紅を見ません。「趙雲瀾!説明してよ!」と彼女が叫んだ瞬間、燭九がにやつきながら「殺せ」と命じます。銃を取り出し、祝紅に向ける趙雲瀾。「嘘よね?」と顔を引き攣らせる彼女に、躊躇いなく発砲。
その後、趙雲瀾は鄭意を談嘯に会わせます。「鄭意、怪我は?心配したよ。よかった。そばにいるからね」と鄭意を抱き締める談嘯。
沈巍は特調所に足を踏み入れた瞬間、祝紅が倒れていることに気づきます。「祝紅、祝紅」と肩を叩きますが、彼女は動きません。部屋の奥を睨む沈巍。そこには趙雲瀾が立っていました。対峙する2人。
「趙雲瀾、祝紅を殺すなんて。奴の言いなりか?目を覚ませ!君と知り合って短いが、親友だと思ってた」と彼の胸ぐらを掴む沈巍。しかし趙雲瀾はすぐさま沈巍を突き飛ばし、銃を構えます。趙雲瀾の後ろからは、燭九と鄭意と談嘯が悠々と歩いてきます。
驚愕する沈巍。「お前はそうでも、こいつには敵だ」と笑う燭九に、「燭九、誤ったな、ここは力が制限される。不利だぞ」と言う沈巍。
「は!俺は見物さ。”親友”に任せるよ、お前たちが殺し合う姿はさぞ面白いだろうな。ははは!殺れ」。燭九に命じられた瞬間に発砲する趙雲瀾。倒れる沈巍。
「さあ、渡してもらおうか」と燭九は鄭意に手を差し出します。鄭意が談嘯を見上げると、彼が頷いたため、彼女は聖器を渡そうとします…が、沈巍はおもむろに立ち上がり、趙雲瀾は銃を構えて振り返ります。鄭意をとっさに人質にする燭九。「その子を殺さないでくれ!」と談嘯が悲痛に叫びます。
「迂闊だな」と笑う趙雲瀾に、「ありえない!鄭意の力が効かないだと?」と困惑する燭九。「能力は魔法じゃないぜ。科学で分析できる力なら当然科学で対処できる。つまりだな」と耳栓を外す趙雲瀾。「うちの匿名希望の技術者が半日前、これを発明した。音波対策の小道具だ。今度こそ報酬を出さないと」と笑います。そして隣にいる沈巍を見遣り「ひと目で見抜くとは、祝紅より頭が回るな」とにやつきます。
実は沈巍は特調所に入ってすぐに倒れている祝紅を見た時、銃が彼女の首元を掠っただけだということに気づいていました。そこから趙雲瀾が洗脳されていないことを見抜き、彼の胸ぐらをつかんだ時、小声で「銃を抜け」と囁き、趙雲瀾はウインクでOKサインを出したのでした。
「祝紅は?」「彼女なら無事だ」「最初からふりを?」「でなきゃ(沈巍は自分が黒枹使だと)ばらしてくれないだろ?」と無邪気に笑う趙雲瀾。
第14話 教授の正体
<あらすじ>
洗脳されているフリをしていた趙雲瀾(チャオ・ユンラン)。
だが、惜しくも燭九(ジュージウ)を取り逃がしてしまう。
沈巍(シェン・ウェイ)と2人きりになった趙雲瀾は彼の正体に気づいたことを告げる。
沈巍はもう取り繕うことはないとばかりに手から長刀を出し燭九に襲いかかりますが、彼は窓から逃亡。鴉青の助けを借りて逃げ出します。
「逃げ足が速いな」と趙雲瀾は悔しげですが、聖器はどうにか保守できました。落ちている山河錘を趙雲瀾が持った途端、また突然光り始め、彼の脳裏にさまざまな映像が流れ込みます。苦しむ彼に困惑する沈巍。そしてまた趙雲瀾は失神します。
うなされていた趙雲瀾は、「崑崙!」と叫び飛び起きます。大慶は「流石だな、一人で聖器を取り戻した」と喜び、祝紅は「私を銃で撃つなんていい度胸ね」と睨みつけます。
趙雲瀾がなぜ皆立ったままなのかと疑問に思いながら首を回すと、そこには黒枹使が立っていました。「なぜ黒枹を…」と言う趙雲瀾の言葉を、黒枹使は遮ります。
「やはり善人には天の加護がある」と厳かに言う彼に笑いを堪えきれない趙雲瀾。
「黒兄さん久しぶりだな」と皮肉っぽく言うと、「事件はこれで解決した。鄭意は数々の罪を貸した。地界で審判を受けさせる」と黒枹使は淡々と告げます。
郭長城は「黒枹使様、どうか情けを」と懇願しますが、楚恕之は「静かに。話の続きを利け」と彼を睨みつけます。「特別扱いは許されぬ。情けで例外を作れば掟の意味がない」と黒枹使は言います。
ため息をつく趙雲瀾。「所長、不満そうだな」と言う大慶に、「いいや、黒兄さんの本音が読めないだけだ」と言う趙雲瀾。
黒枹使が手を差し出すと、鄭意は従順に彼の手を取ります。突然腹の辺りをおさえ、鄭意のもとから飛び退く談嘯。
談嘯と鄭意は、鄭所長のいない間に2人だけでこっそり料理をした楽しい思い出をを反芻します。微笑みながら鄭意は黒枹使と共に消えます。
鬱憤晴らしとばかりに趙雲瀾が特調所から抜け出すと、外の人ごみの中には談嘯と鄭意が手を握り合い、笑顔で手を振っていました。黒枹使は見逃してくれたのです。
趙雲瀾はバイクで沈巍の家へ遊びに行きます。沈巍は彼と目を合わせませんが、趙雲瀾はもても楽しげです。
「黒枹使はやはり情け深い人だ。表面上は無慈悲で冷静沈着だが、本当は世話焼きで情にもろいんだろ?複雑だな」「何の話だ?」「黒兄さん、まだ芝居を?俺の記憶を消さない限りごまかせないぞ」「…消してほしいか?」。黒枹使と沈巍の秘密を暴いたと満足げな趙雲瀾に、沈巍は笑顔で圧をかけます。ひくりと顔を引き攣らせる趙雲瀾。
「まあいい、正体を隠すため嘘を重ねてきた。疲れたよ」「だろうな、俺は今まで黒兄さんに失礼な態度もとった。だが過去のことは水に流そう。友人だろ?」。調子良く語る趙雲瀾を、沈巍はじっと見つめます。
「そうだ。ずっと友人だよ。昔からね」「ずっと?…実は気になってた。「ずっと」っていつからだ?」。沈巍は苦しげに趙雲瀾を見つめます。
沈巍は自分の前世を思い出していました。
「感謝する」と言う沈巍に、前世の趙雲瀾は「何を」と不思議そうな顔をします。「君は私を理解しようとしてくれる。こうして話を聞いてくれる人は初めてだ」「そうか。もしいつか俺が姿を消しても恨むなよ。忘れるな。必ずまた会える」。前世の趙雲瀾はそう言って沈巍に微笑んだのです。
唇を噛む沈巍。「それは…教えられない」。
「じゃあ質問を変える。なぜ正体を隠してまで俺を助けてくれた?話したくないなら構わない。だがずっと秘密にされていて俺は傷ついた。黙っていれば俺が納得するとでも?」と趙雲瀾は沈巍を脅します。「では、どうすれば?」と困惑する沈巍に、趙雲瀾は「1つ、頼みがある」とにやつきます。
その晩、郭長城はまた日記を書いていました。「所長が帰り道に談嘯と鄭意を見たそうだ。黒枹使様は慈悲深い方らしい。実の兄弟ではないけど2人は助け合ってる。いつまでもお互いを思いやり、幸せに暮らしてほしい」。
その頃、燭九は根城で趙雲瀾に撃たれた傷痕を治癒していました。「急所は外れたようだけど、エネルギーは奪われた。しばらく行動は控えるべきね」と淡々と言う鴉青。
「人間ごときに傷を負わされるとはな。恥だ。この上ない屈辱だ!」と憤慨する燭九。「情報を探ってくるわ。失敗続きであの方に何と報告するのかよく考えておくのね」と齧っていた林檎を将棋盤の上に置いて去る鴉青の背中を見遣り、燭九は近くに積まれていた荷物を蹴り飛ばします。「この恨み、必ず晴らしてやる!」。
起床した趙雲瀾は、タイヤで作った簡易ベッドに大慶が眠っているのを見て、「ドラネ猫、ちゃんと寝床で眠ったのか」と微笑みます。
郭長城が特調所へ出勤していると、王さんから声をかけられます。「忙しそうですね」「郭さん、いいところへきた!この前、大慶さんが暴れて植木鉢も看板も壊れたんです。看板を書き直したいが、俺は字が下手くそだ。悪いけど代わりに書いてくれ。頼むよ」。懇願され、郭長城は困りつつも引き受けます。
王さんから渡された筆はとても美しく、郭長城は思わず「王さん、美しい筆ですね」と目を見張ります。「うちの家宝だよ。普段は大事に飾ってある。これで書けば商売繁盛さ。さあこれを使って」と硯を出してくる王さん。
この時、特調所の実験室に置かれた聖器が光っていましたが、居眠りしている林静は「何か光ったような気が…?」と言いつつも二度寝してしまいます。
「仕事なんて普通は渋々行くのに、郭さんは楽しそうだな」「いい職場なんです。優秀な人ばかりだしみんな僕に優しい。特に所長は常にやる気にあふれてる。僕の憧れです」と輝く笑顔で言う郭に、少し引き気味の王さん。「そうだな、続きを」と郭に看板を書くよう促します。特調所ではまた聖器が光っていました。
沈巍が部屋を出ると、ちょうど趙雲瀾も部屋を出るところでした。「準備はいいか?」「行こう」と廊下を歩き出す2人。
沈巍を助手席に乗せ、趙雲瀾は鼻歌を歌いながら車を飛ばします。「ごきげんだな。いいことでも?」「別に何も。鄭意の案件を報告するだけだ、早く済ませてさっさと帰ろう。海星艦の奴らは無駄話が多い。特に偉そうな高部長はな。結婚式であんたは大活躍した。だから興味を持って”今日一緒に来い”と」。
沈巍はため息をつきます。「失望させるかもな。私は平凡な…」「平凡な何だ?平凡な腕利きか?それとも地界の大物?」。
揶揄う趙雲瀾を沈巍は睨みつけます。「…他人には私の正体は秘密に」「任せろ、分かってる。特調所の奴らはあんたの前でさんざん怠けてきた、正体を知れば退職しかねない」「彼らは私を恐れ、私も彼らになじめない。聖器が悪用される危険さえなければ戻ってこなかった」「その口ぶりじゃ、昔地上で何か嫌な思いを?」。沈巍は無言を貫きます。
「よし、話題を変えよう。俺に正体を明かしたのは俺が唯一分かり会える相手だからか?」沈巍はふざける趙雲瀾に呆れます。
「次はあんたが質問を」と言う趙雲瀾に、「少し黙っていよう」と怒りを堪える沈巍。しかし少しの時間も経たないうちに、趙雲瀾が鼻歌を歌い始めます。「歌はいいだろ?」と言う彼に、沈巍は思わず笑ってしまうのでした。
2人は龍城海星艦に到着。建物の前で待っていたのは、郭英。「趙所長、副部長の郭英だ」とにこやかに挨拶する穏やかな紳士に、「これは”叔父様”。郭ちゃんの」と沈巍に目配せする趙雲瀾。「どうも、沈です」「沈教授。どうぞ」。
厳重なチェックをくぐり抜けて、3人は重厚な部屋へ向かいます。
「こちらへ」「どうも」「感謝を」と、案内してくれた郭英を見送る2人。「行ってくる」と足を踏み出した趙雲瀾を呼び止める沈巍。
「頼まれてた始末書だ」「助かる。これがあれば特調所の誠実さが伝わる」と趙雲瀾は嬉々として始末書を見ますが、呆れたように笑います。沈巍が「何か?」と怪訝な表情で尋ねると、「筆で書いたのか?」と趙雲瀾が笑います。「ボールペンは慣れていなくて…」と沈巍が言い淀むと、「いいんだ。詠むのは高部長だ。俺の字は知らないしバレないさ」と趙雲瀾はあっけらかんと言い放ちます。
「俺がこんなきれいな字で立派な文章を書いたらおふくろが墓の中で驚く」「笑えないぞ」。ふざける趙雲瀾を見送る沈巍。
海星艦の一室、巨大な骨や四肢をもがれたマネキンのホルマリン漬けのようなものが並んでおり、白衣を着た男たちが実験に勤しんでいます。
「何が問題だと思う?」「分からない」と白衣を着た老人たちが話し合っていると、突然エラー音が部屋中に鳴り響きます。
「どうした?」「実験に失敗を」「…できの悪いやつらだ!何度失敗すればすむ?私の教え子だったらクビにしているぞ!お前達もだ!」「沈巍がいてくれたら…心強いのだが」「もういいだろ、沈巍の話はするな!彼と私達は志が違う。実験のことは秘密だぞ」。老人たちは若い男たちを叱り飛ばし、肩を落とします。
高部長の部屋の前に監視カメラがつけられていることを見つけた沈巍。そっと死角に隠れ、力を解放します。手のひらから黒い煙を出し、あたりを探る沈巍。
すると、趙雲瀾がひょこりと部屋の中から顔を出します。「沈教授、部長が呼んでる」「分かった」。
沈巍が部屋に入ると同時に、「まったく、お前は気が短いな」と老人たちが近くの扉から出てきます。
「高部長」「沈教授、特徴所に加わってくださるとは本当に光栄ですよ。沈教授、所長はどんな誘い文句を?」。高部長に尋ねられ、沈巍は趙雲瀾との会話を思い出します。
「一つ頼みがある。お願いだ。龍城大学生物工学科の教授であり黒様でもある沈巍同志、俺のために特徴所へ!」
ふざけた態度に怒り、勢いよく椅子を立ち上がりかけた沈巍の腕を掴む趙雲瀾。表情を失う沈巍。
「ふざけて悪かったよ。人間の助けがほしくて地上へ来たんだろ?だったら俺と手を組もう。2人でならどんな困難も解決できる。世界の平和と安定を守れると思わないか?」。
その言葉に、沈巍の怒りはいつの間にかおさまっていました。
「俺の魅力に惹かれたんでしょう」とふざける趙雲瀾に、「お調子者め」と毒づく高部長。席を勧められ、趙雲瀾と沈巍はソファーに腰掛けます。
「早速だが仕事の話を。まずはあの始末書だ。実によく書けていた。所長は伝統文化にも造詣が深いようだな」。高部長の高評価に、ひっそり笑う沈巍。
「始末書なのに情のこもった素晴らしい内容だった、さすが心慈さんの息子だ」と言われ、趙雲瀾の顔色が悪くなります。
「父とお知り合いで?」「ああ、昔から知っている。私が手本とする先輩だよ。先日、星督局に異動し局長になられた」。
沈巍が「星督局とは?」と口を挟むと、高部長は「ご存じないことも多いはず。星督局は龍城の最高指導部で、特調所もその管轄下にある。直接関わることはないでしょう」と説明します。それを聞きながら、手を握りしめる趙雲瀾。
「また出世したのか」と呟く彼に、高部長は「どうした?親父さんから聞いてないのか?」と不思議そうに尋ねます。「口数の少ない人なんです」と愛想笑いをする趙雲瀾に、「困った人だな。家でも厳格なのか」と笑う高部長。沈巍は趙雲瀾がどこか沈んだ様子であることに気づき、心配します。
「部長、何か大事な話があるのでは?」と沈巍が促すと、高部長は「そうだった。先日の結婚式でのことなんだが、カメラを持つ怪しい男を見なかったか?」と尋ねてきます。
趙雲瀾と沈巍はパパラッチの男を思い出していました。
「確かに見ました」「やはりそうか。男の名前は叢波。君たちに興味を持っているようだ。今朝彼が挑発的な手紙を送ってきた。”特徴所の正体を暴く”と」
「そんな挑発には慣れっこでは?」「いや、奴は侮れん。特調所の機密性と独立を守るためにも、十分に注意するように」「地星人ですか?」「地星人よりも恐ろしい!秘密を嗅ぎつけゴシップ記事をネットに書く。龍城で最も悪名高い男だ。奴に嗅ぎつけられたらどんな秘密も暴かれる」。例えば…と高部長は叢波の過去の所業を話し始めます。
俳優はレースカーテンを閉めると、「例の場面を練習しよう」とソファに座る女優に言います。「誰も見てない?」「大丈夫だ」。しかし窓の外にはカメラが。
「君が倒れて僕が家に送るシーンから…」と2人が演技の練習に夢中になり、いざホテルから出ようとした途端、記者たちが群がります。
「どんなご関係で!?」「なぜ長時間密室に二人きりで?」「この写真は?」と矢継ぎ早に聞かれ困惑する2人。「芝居の稽古です。その他はノーコメントで」と立ち去りますが、「お願いです説明を」と記者たちは金魚の糞のようについていきます。ホテルの従業員に化けていた叢波はそれを観てほくそ笑みます。
さらに、と高部長は続けます。「半年前、張氏グループの株価が暴落し、大勢の株主が損をした。あの騒動も奴の記事に端を発している」。
「張社長、いいお酒があるんです。どうぞお試しを」「それは悪いね」「今後ともお力添えを」。張社長の商談相手が差し出した箱の中には、ぎっしりと札束が詰められていました。叢波はウエイターになりすまし、密談の様子をで撮影。即ネットに流し、張氏グループの株価はみるみるうちに大暴落しました。
「なるほど。だが他にまともな仕事はないのか?盗撮で秘密を暴き荒稼ぎとはな」「ただの盗撮なら特徴所の脅威にはならないかと」「問題は他にもあるんだ。奴はハッキングにも長けている。手強い相手だ。特徴所の仕事が暴かれたら世界中がパニックになる」。高部長が叢波を脅威と認識していることを感じ取った趙雲瀾は、「部長、全力をつくし危機を乗り越えます」と真摯に応えます。
「いらっしゃい、果物が安いよ」と店先で客を呼び込む王さん。彼の妻は身重です。よろよろと荷物を持って店先に出ようとする彼女を制して、「重いものは運ぶな」と心配します。「平気よ」「座ってろ」と彼女の身を案じる王さん。客に「自由に選んで」と愛想よく声をかけるのも忘れません。
「汗が出てる」「大丈夫だ」「私は大丈夫。仕事に戻って」といちゃつく2人。「20元です。どうも。またどうぞ」と逆を見送る王さん。「まったく、また服を汚して」「荷物を運ぶ時に昨日怪我を」と仲睦まじく2人は話し続けます。
叢波は配達員に化けて荷物を特調所に届けます。祝紅は荷物を受け取ると、「先日私をかばって怪我をした人は?もう大丈夫?」と尋ねます。「ええもう元気です。回復しました」「そうよかったわ。あら。彼とは違う会社では?」「え!?き、奇遇ですね。うちの同僚も女を助けて怪我を。人助けは大事です」。叢波は祝紅に話を合わせたはずが、ボロが出そうになり慌てます。
しかしちょうど祝紅に趙雲瀾から電話が。「もしもし?待っててかけ直すわ」と彼女が電話を取った隙に、叢波は荷物をその場に置いて去ります。訝しげに荷物と叢波の背中を見つめる祝紅。
「叢波とやらは燭九と関係があると思うか?」「接触した感じ、仲間ではなさそうだ」「つまり探偵ごっこに酔いしれる痛い奴か?」。趙雲瀾と沈巍は淡々と話します。
そこに郭英が現れ、「所長、お待ちを」と呼び止めます。「夜お暇かな?よければ食事でも」「もちろん、副部長のお誘いだ。沈教授も」。突然趙雲瀾に肩を叩かれ眉を顰めるも、「分かった」と快諾する沈巍。
「一緒でも?」「もちろん、では夜に」。郭英はにこやかに去っていきます。
祝紅が受け取った荷物を開けると、そこにはお菓子の詰め合わせとともに盗聴器が仕込まれていました。
「どうかしたか?」「思ったとおりだ。警戒しててよかった。危なかったな」と話す大慶と林静に、祝紅は「何なの?」と顔を顰めます。「ボスからだ」と林静がスマホをスピーカー状態にすると、「盗聴器に注意だ。怠けず働けよ。テキパキとな」と趙雲瀾の声が聞こえてきます。
「予知能力ね」「所長すごい」「本題に戻ろう。これどうしようか?」と話し合う3人。
自宅でにやつきながら盗聴している叢波。「今日の私たちの任務は…」と祝紅が言った後、突然音が聞こえなくなったため最大音量にします。その瞬間、イヤホンから凄まじい音量の音楽が流れてきて、叢波は飛び上がります。特調所では一同が大笑いしていました。叢波は「極秘部門の秘密1、悪趣味な低俗音楽」とメモ。
その頃、楚恕之は郭長城と体術の稽古をしていました。少しずつ電気棒を使いこなせる様になってきた郭長城。「どうです?」と輝く目で楚恕之に尋ねる郭長城に、「俺に指一本触れてない。だがお前にしてはよくやってる。悪くない」と簡素に答える楚恕之。「感謝します!もっと稽古します!」と元気よく答える郭長城に、電話が入ります。
「はい、叔父さん。今日の夜?分かった」と、郭長城は少し不安げです。「用事ができたので先に帰っても?」と眉を下げて尋ねる彼に、「いいぞ」と応えてやる楚恕之。自分の操る糸を握り、先ほどの練習内容を反芻する楚恕之。そこに叢波のドローンが現れます。異変を感じ取った楚は糸で瞬時に撃墜。
「極秘部門の秘密2、怪しい技でドローンを破壊」とメモする叢波。「全員得体が知れない。でもそのほうが挑戦しがいがある」とにやつきます。
「お恥ずかしいかぎりだ。甥の仕事について全く把握できておらず、今朝本人から聞いて知った。入所できたのは所長のおかげだ」と言う郭英に、「特徴所に来たのはあなたの指示では?」と不思議がる趙雲瀾。しかし話が進まなさそうなので、「失礼、どうぞ話しの続きを」と促します。
「では単刀直入に言うのでお許しを。甥の性格はよく分かる。事件の調査には向いていないし、重責を担える器ではない」と断言する郭英に、郭長城は「僕はできるよ!」と反論しますが、郭英は彼を手で制します。
「私はこう考えている。甥を特徴所から異動させ、危険の少ない仕事をさせたい」「僕の意見も聞いてよ!異動なんて嫌だ!」「お前のためなんだぞ!特調所の仕事は危険だ。毎日怪物と戦い続ける!」。
その瞬間、談嘯は思わず箸を落とし、郭英は口をつぐみます。
「郭ちゃん、確かにそうだ。叔父さんと2人でちゃんと話し合え。副部長、俺たちはお先に失礼します」と早々に席を立つ趙雲瀾。「所長、すみません」と謝る郭英に、「叔父さん!」と郭長城が悲痛に叫びます。
車に乗りこむ趙雲瀾と沈巍。
「郭くんが心配か?」「そうじゃない、1つ不可解なことが」「入所のいきさつ?」「そうだ。郭英がコネを使い甥を就職させたとばかり。だが甥を危険な目に遭わせたくないといってた。郭英でないなら、誰が何のためにあいつを?まあいい、考えても仕方ない」。車を走らせながら、趙雲瀾はもやもやと考えます。
「確かに僕は頼りない男だけど、特調所の仲間は僕を助けてくれるんだ。足手まといなのに嫌な顔をせず仕事や技を教えてくれるし、危ない時は助けてくれる。特調所のみんなが勇気と自信を与えてくれた。自分の価値に気づき、目標も持てた。特調所を離れたくない!」と叫ぶ郭長城。郭英はそんな甥を見て、しばらく黙った後、静かに甥のワイングラスに自分のグラスを打ちつけ乾杯します。
郭長城の表情が一気に明るくなります。
「叔父さん、食べて」と料理をよそう郭長城に、「お前も食べろ」と苦笑する郭英。
「私も1つ気になることが。さっき君の父親の話になった。どういうことだ」「今度話すよ。それより二次会でもどうだ」「二次会って?」「黒兄さん、人生を楽しめよ。場所を変え、仕切り直すってことだ。さっきの食事会は息苦しすぎたし、あんたを正式にみんなに紹介したい」。趙雲瀾は自分の父親の話をしたくないようで誤魔化しながら、沈巍を二次会に誘います。
その晩、大慶は街で猫たちをはべらせていました。
「何度も言ってるだろ、生ゴミは漁るな。猫は食物連鎖の頂点にいる。品格と誇りを持てば、人間は僕らにひれ伏す。1つ質問だ。崑崙って名を聞いたことが?僕は猫界の覇者だが、野良猫に無視されてる。なぜ猫語が話せない?」と猫たちに話しかける大慶。
それを物陰から撮影しつつ、「極秘部門の秘密3、真夜中に妄言。猫を虐待する変人か?」とメモする叢波。
彼の背後から楚恕之が現れ、彼の首を掴みます。「貸せ」と彼のスマホを奪うと、大慶の写真を消します。「命が惜しければ二度と妙な真似はするな」と忠告し、彼にスマホを押し付けて去る楚恕之。しばらく怯えていた叢波ですが、彼は鼻を鳴らすと2台目のスマホを取り出します。
「ネタが増えたぞ。「極秘部門の秘密4、粗暴な男。暴力で脅迫」」。「どれも新鮮味にかけるな、もっとネタを探ろう」と呟く叢波。
特調所では二次会と称して、沈巍の歓迎会が開かれていました。
「遅刻したら罰として3杯。串3本でも」と騒ぐ大慶に、「俺は食わん」と酒をかっくらう楚恕之。気まずげな祝紅に「どうした?」と尋ねる林静。「別に…教授にこんな粗末なつまみを?インテリ様よ」と苦虫を噛み潰したような表情をする祝紅。「それがなんだ。自分たちを卑下する必要はないだろ」と林静は反論します。
「よし、みんな腹も膨れただろうし、次の任務と連絡事項を伝える。1つ、燭九を捕らえること。引き続き健闘してくれ。2つ、最近妙な男がこそこそ嗅ぎ回ってる。秘密を握られないよう注意するように。そして3つ、正式発表だ。なんと沈教授が特徴所の名誉特別顧問に就任された!拍手で歓迎を」と趙雲瀾が言うと、沈巍は立ち上がって一礼。メンバーからは拍手が起こります。しかしどうにも複雑そうな表情の祝紅。
趙雲瀾は沈巍に肩を回して、「なあ黒兄さん、これから俺たちは家族も同然だ。そうだ用事があれば俺のところへ」と馴れ馴れしく話しかけていました。
「用事とは?」とクールに返す沈巍に、「そうだな、今日は特徴所に正式加入した初めての夜だろ?興奮して眠れなくなるかも」とふざける趙雲瀾を冷たい目で見る沈巍。「じゃあな、早く休め」と扉の前で2人は別れます。2人を撮影していた叢波は何かに気づきます。
撮影した沈巍の横顔を見つめながら、「どこかで見た顔だな。…結婚式で活躍したヒーローか?なぜ特調所の奴と?ふん、新しいネタはあんたに決まりだ」とにやけます。
めちゃくちゃ最高だったのが、「俺の記憶を消さない限り(あんたが黒枹使であることは)ごまかせないぞ」とふんぞりかえってニヤつく趙雲瀾に、「消してほしいか?」ってすっごい優しい笑顔で見返す沈巍のシーン。趙雲瀾が気まずげで、蛇に睨まれた蛙感あって笑ってしまいますw 沈巍の笑顔美しすぎィ!!
第15話 暴かれた秘密
<あらすじ>
叢波(ツォン・ボー)に秘密を知られてしまった沈巍(シェン・ウェイ)。
趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は林静(リン・ジン)に叢波のパソコンを初期化させてしまう。慌てる叢波。
叢波は教授室の監視カメラに潜入。「なぜ最初から隠しカメラがある?誰の仕業だ?」と訝しみつつも映像をチェックします。
沈巍は「いいレポートだった」と学生にレポートを返却。「では失礼します」「ああ」。
彼が退室すると同時に沈巍は窓の外の白い煙に鋭い目を向け、右手の掌から一瞬で刀を取り出します。「これは…マジか?」と叢波は映像に見入ります。
「黒枹使様、ご報告があります」「さっさと本題に入れ」「燭九とあの方との関係は不明。聖器を狙う理由も謎です」「燭九の経歴や能力くらいは分かるはず」「摂政官様が地君冊で調べるとのことです」「老人には頼らない。3日ほどやる。地君冊を持ってこい。自分で調べる」。沈巍が会話を終えると、煙は自然と消えます。
後日、特調所で叢波は趙雲瀾に「どうぞ」と沈巍の映像を見せていました。「恐れ入ったよ。俺もついてない。自分の仕込んだカメラで苦境に追い込まれるとはな。はっ!言えよ。欲しいのは金か名声か?」と鼻で笑って叢波を見る趙雲瀾。
叢波はプライドを刺激されたのか、突然声を荒げます。「俺を何だと思ってる?」「公務執行を妨害する暇人だ」「公の務めなんだからクリアであるべきだろ?俺は世間に真相を伝える義務がある」「お前の言う真相が事実がどうか考えたことは?」「俺は告発を続けて10年。自分の手で撮影した写真や動画ばかりだ。捏造だと?名利は必要ない。俺の知る事実を世に広めたいだけだ。俺が公表するか?あんたが公表するか?3日以内に連絡をくれ。待ってる」「ストップ。連絡先は?」。
その時、趙雲瀾のスマホになぜか叢波から着信が入ります。「やり手だろ?」とにやつきながら去っていく叢波の背中を見て、笑う趙雲瀾。
趙雲瀾の私室にて。「すまない」「悪かった」と趙雲瀾と沈巍は同時に謝ります。驚く2人。
沈巍は目を伏せながら言葉を続けます。「私は電子機器に疎い。気が緩んでいたせいでやつに秘密を握られてしまった」「あんたは悪くない。俺のせいだ。俺が隠しカメラを仕込まなければ奴に利用されなかった」「この件はできる限り早く解決しよう。また燭九が現れる日が来る。同時に対処はできない」「それはもちろんだが、今、林静に調べさせてることがある、ある方法がびびっとひらめいてね。うまくいけば対処に困るどころか一挙両得だ」。にやりと笑う趙雲瀾を見て、不思議そうな沈巍。
その頃、叢波は自宅のパソコンから特調所内部の監視カメラに潜入していました。「見つけたぞ、特徴所。俺が化けの皮をはがしてやる」と息巻いた瞬間、パソコンがブルースクリーンに。「なんだ?制御できない!」と慌ててリカバリーします。
「罠からは逃れたな。努力が無駄骨になる寸前だった」と作業を再開しようとした瞬間、データが全削除されていきます。
絶望に吠える叢波。特調所では林静が「あとはよろしく頼むよ」とキーボードを叩いていました。叢波のスマホに「お前の好きにはさせない」とメッセージが届き、「くそっ!」とスマホを放り投げます。
そこに訪問客が。扉を開けると、そこには趙雲瀾と沈巍が立っていました。険しい表情の沈巍に対して、「招き入れてくれないのか?」と飄々と言う趙雲瀾。
部屋を見回し、その徹底的な設備を鼻で笑う趙雲瀾。怒り心頭の叢波は、「あんたたちの仕業だろ?秘密を握ったからか?」と趙雲瀾を怒鳴りつけます。「おい、行政機関のサーバに侵入するのは違法だ」「侵入だと?証拠は?」「なら俺たちの秘密にも証拠は?」「俺は龍城の告発者として世間に事実を広める義務がある。芸能人に経営者、公的人物の本当の側面、リアルな部分をな」。唾を飛ばし叫ぶ叢波に、沈巍が「落ち着いて。これを」とスマホを渡します。
その画面を見た瞬間、叢波の顔色が青ざめます。「ありえない、嘘だ。フェイクだろ!?」「全て真実だし、お前の写真もフェイクじゃない。撮影した時の角度の問題だ。お前は一部の情景を切り取ったにすぎない」。
叢波が告発した芸能人の熱愛写真。
あの時、2人は台詞の練習をしていまた。目を瞬かせて痛そうにする女優。「どうした?」「まつげが目に」「動くな…取れたよ、ここまで稽古しよう」。俳優は女優と密会してキスしていたのではなく、彼女のまつげを取ってあげ、台詞の稽古をしていただけでした。
「それから、張社長の件、お前は早とちりし、判断を誤った」と言う趙雲瀾。
叢波が告発した、張社長が金の菓子を受け取ったという写真。
「力添えを」と言われ札束を差し出されたものの、張社長は「すまない、実力主義で正面から向き合っていこう。これは受け取れないよ」と断っていました。
「この報道は張社長以外にも多くの人を傷つけた」と趙雲瀾は言います。「彼の会社は倒産寸前で人員を削減し、解雇された人たちは無職になた。君の報道は誤解を広め、真実をねじまげた。君が動いたのは世のためではない。他人の生活を盗み見たいという欲と承認欲求のためだ」と沈巍が淡々と告げると、叢波は真っ青になります。「悪かった、俺は」。
「確かにお前の報じた内容は歪曲されていて真実ではない。だがお前の技術は一流だ。その腕をまっとうな道で使う気は?俺たちを手伝って罪滅ぼししろ」と趙雲瀾は封を切っていない棒付きキャンディーを叢波に差し出します。
叢波は震える腕でキャンディーを受け取ります。俯く叢波を見つめる沈巍。
燭九は将棋盤に駒を叩きつけて苛立っていました。
「いるんだろ?尾行が趣味に?」「暇な亜獣族に睨まれてるの。慎重に動かないとね」「なら羽をしまって巣で寝てろ」「忘れた?やるべきことを。あの方の命令は…」「口を挟むな。ぐっ…」。燭九は趙雲瀾に撃たれた腕がまだ酷く痛みます。
「共にあの方のために働く仲間だけど、先に忠告しておくわ。私に尻拭いを期待しないことね」「驚いたよ。亜獣族も本心を語ることがあるんだな。お前ら雑魚たちは騒ぎ立てるだけが能かと」「ふん、せいぜい頑張るのね」。鴉青はカツカツとヒールを鳴らしながら去ります。
「この傷を知られるとは…俺は万人の上に立つ存在だ。こんな傷で倒れるものか!趙雲瀾、この恨みは1000倍、1万倍にして返す!」と燭九は瞳に憎しみの炎を燃やします。
趙雲瀾の家では、趙雲瀾が水の入ったグラスで沈巍と祝杯をあげていました。
「酒が飲みたい」と文句を言いつつも嬉しそうな趙雲瀾。「解決して良かった」と顔を綻ばせる沈巍。
「これで安心だ。”災い転じて福となす”だな。叢波のあの情報収集能力は使えそうだ。そういえば黒兄さん、気になるんだがあんたの特殊能力は?」。突然の質問に目を丸くする沈巍。
「なぜ?」「普通の地星人が持つ能力は1つだが、あんたは戦闘からドアの開閉までこなす。いわば全能だ」。その言葉に笑う沈巍。
「私の能力も1つだけ。「学習」だよ。見た能力を使えるんだ。原則無限に覚えられる。だが人間界では鎮魂令に制約され、闇の力を十分には発揮できない。全能なんて過大評価だ」「ふうん?まるでゲームの中のラスボスだな」。
その言葉に微笑む沈巍。心の中で、(だが強さには代償が伴う)と呟きます。
「黒兄さん、今回の件だけど、俺という優秀な男の力であんたの秘密が世に広まらずに済んだ、たっぷり俺にお礼してよ」「お礼?」。訝しげな沈巍。
「俺の家は大慶に散らかされて汚い。とても見てられないだろ?」と言われ、沈巍は部屋を片付けてほしいのだと理解します。沈巍が座っていたソファーから立ち上がり片付け始めると、趙雲瀾は沈巍が座っていた場所にすぐさま寝転がり、「今日から俺は幸せな毎日を過ごせるな」と笑顔になります。
郭長城はまた日記を書いていました。
「事実は僕らの思い込みとは違っていた。きっと叢波も最初の頃は秘密の共有を望んでただけ。でも彼の誤った方法と偏見で事実は歪曲され、多くの人が傷ついた。所長は”結果も過程も大切だ”と。特調所が秘密を隠すことも人々を守るための方法なんだ」。
聖器に近づき、ガラスケースの蓋を持ち上げる趙雲瀾。長命時計に触ろうとしたその瞬間、沈巍が俊敏に彼の腕を掴み止めます。
「さすがは黒兄さん、隠し事はできない」「ならなぜ心配させる?前にも言ったはずだ!聖器に近づけば闇の力が…」「体を蝕む、だろ?」「分かっているなら無茶するな!趙雲瀾、命は尊いんだ」「あんたが言ったんだろ!燭九の後ろにいる黒幕が聖器を狙っていて、世界を滅ぼす戦争を起こすと。聖器は俺が触れた時だけ共鳴を起こす。俺が無茶しないでどう残りを見つける?」。焦るように言葉を紡ぐ趙雲瀾に、沈巍は言い聞かせるように言葉を返します。
「ここに聖器は2つある。残りを手に入れようと燭九たちは必死だ。奴らの入手を待ち、黒幕を倒せば聖器は全て揃う」。
「賢いな、さすがは教授だ。いつも全局を見通し、的確な策略を立てる。よし、行こう、夜食を奢る」「言っておくが酒は飲まない」「酒?飲まなくていい。ちょうど明日は賓客が来る」「誰だ?」「お楽しみだ、行こう」。突然ふざけた調子になった趙雲瀾を怪しみ、顔をしかめる沈巍。
特調所のソファーで泥酔する祝紅。大慶と郭長城が傍らに立ち、心配します。
「最近紅さんはやたらお酒に付き合わせます。一体何があったんです?」と不安げな郭長城に、「見て分からないのか?人を想うも…いやガキには難しい。大人の事情だよ」と返す大慶。
祝紅は突然酒瓶から口を離すと、「大慶、所長と長いでしょ。詳しいわよね。理解者だもの。教えてちょうだい。彼に尽くしてるのに、私の何がだめなの?」とクダを巻きます。
「君は最高だ!変わり種だが落ち着く」とフォローしますが、祝紅が大慶の手を強く握るので「痛いぞ」と悲鳴をあげます。
「私は…彼に尽くしてる。決めた。直接聞くわ。止めないで」とスマホを探す祝紅。大慶は制止しようとしますが、祝紅は聞きません。「電話する。携帯は?」と言い、探し当てるとすぐにスマホを耳に当てます。「趙雲瀾、教えてよ、私の何がだめなの?私のどこが悪いのか教えてよ、私のどこが…趙雲瀾…趙雲瀾…」。祝紅はそのままソファで寝落ちてしまいます。
翌朝、郭長城が特調所へ向かっていると老人が道路のど真ん中で街の風景を見渡していました。老人がトラックに轢かれそうになり、慌てて駆け寄る郭長城。
「大丈夫ですか?気をつけて!立てますか?」と老人を助け起こす郭長城。トラックの運転手も「おじいさん、お怪我は?」と心配げです。老人は「地上の車は怖いよ。私が相手でよかったな」と妙なことを言います。運転手が「急ぎの配達があるので何かあれば携帯へ」と言うと、「気にするな、どうせ死なない。もう行っていいぞ」と運転手にひらひらと手を振ります。郭長城は老人が心配のようで、「座って休みましょう」と近くの椅子に彼を座らせます。
「本当に平気ですか?病院に行かなくても?」「心配はいらない、年寄りだが体はぴんぴんしてる」「じゃあ遅刻しそうなのでこれで失礼します、気をつけて、危険ですから」。
郭長城は走って特調所へ向かいます。しかし彼の目の前になぜか先ほどの老人がまた現れます。
「あれ?なぜここに?」「道に迷ってしまってな」「帰宅途中で?」「この地に私の家はない、どこにもな。久しぶりに日光に当たった」「お気の毒に。お子さんは?きっと事情があるんですよ。仕事が多忙とか」「子供などいない、この老人は生涯孤独な運命なのさ」「お気の毒に」「なら私と運命を共にしてくれ」「え?」「君は心根の優しい人間のようだ。道案内をしてくれ。人と会うんだがどう行けばいいか」「僕も遅刻しそうなんです」。郭長城は老人の身の上話を聞きつつも遅刻しそうだと焦っていました。しかし、老人はどうにも離してくれそうにありません。
「…分かりました、行き先の住所は?」と根負けして郭長城が尋ねると、「光明路4番地だ」と真顔で言う老人。それは特調所の従者です。驚愕する郭長城。
特調所では楚恕之がちょうと玄関から出てきたところでした。「楚さんすみません」と謝る郭長城に、「偉くなったな、遅刻できる身分に?」と見下す楚恕之。
「理由があるんです。あの人が」と老人を指差すと、老人は「楚じゃないか、久しぶりだな」と笑います。「貴様!!」と楚恕之は一瞬にして激怒。老人の首を締め上げます。「何をするんです!」と腕を外そうとする郭長城の腕を払い除け、「どけ!殺されにきたのか?」とにやにや笑う老人に凄む楚恕之。
その時、趙雲瀾が特調所から出てきます。「何してるんだ!人前だぞ頭を冷やせ」と楚恕之を叱る趙雲瀾。
老人は「鎮魂令主、登場が遅いですよ」と笑います。「摂政官殿、お待ちしてました」とにこやかに対応する趙雲瀾。楚恕之はその横で憎悪の表情を隠しません。
特調所に入ると、摂政官は部屋を見回します。「美しい明かりだ。地界にはない」と楽しげな摂政官。「何の用で地上に呼んだ?いつぶりだ?」と訝しむ大慶に、「呼んでない。向こうが俺に会いたいと」と返す趙雲瀾。
汪徴は摂政官に水を持っていきますが、心底嫌そうな表情ですぐに持ち場に戻ります。「わあ、美しい娘だ、地界にはいない」とセクハラ紛いのことを堂々と言う摂政官。
「あれが摂政官?黒枹使と地君に次ぐ権力者でしょ?」と祝紅は呆れたように呟きます。
摂政官は「鎮魂令主、今回は私から頼み事がありましてな。助けてもらえるか?地君冊をご存知で?」と趙雲瀾に話しかけます。
その瞬間、「それが?」と沈巍が登場。「黒…」と駆け寄る摂政官に、趙雲瀾は「おっと、俺から紹介させてくれ!彼は特調所の特別顧問で生物工学の専門家、沈巍教授だ」と摂政官に黒枹使のことは言うなと無言の圧をかけます。
「何とも聞き慣れないが、顧問か。地界にはない肩書きだ」と笑う摂政官。沈巍は厳しい表情を崩しません。「行こう。十分所内は見学しただろ?部屋に入って話そう」という趙雲瀾の言葉を皮切りに、趙雲瀾・沈巍・摂政官は奥の部屋に入っていきます。
ずっと憎悪の表情を崩さない楚恕之に、郭長城は「楚さん、摂政官様に何か恨みでも…」と尋ねます。大慶は「楚はもともと地星人だろ?当時…」と説明しようとしますが、楚恕之に睨まれて口をつぐみます。
「摂政官は何を話に来たんだ?俺たちが油を売ってると文句を?」と首を傾げる林静に、「油を売ってる?」と不思議そうな桑賛。「サボる、の意味よ」と汪徴が教えると、「それなら確かにそうだ」と桑賛が笑ったため、「ばか」と思わず汪徴は笑ってしまいます。
「黒枹使様、おいでとはご存じなかったゆえ、ご挨拶が遅れました」と怯えるように拱手する摂政官。
「知っていたら私の身分を口になど」「令主は地界の友と考えておりましたゆえ隠さずとも良いかと」「安心しろ、令主はお前の片棒を担がない」。沈巍は摂政官の言い訳を全て突き放します。
「もういい。地界では位の差があっても特調所にくればみんな家族だ。さあ座って話そう。頭を上げろ」と摂政官に言う趙雲瀾。
2人が椅子に移動しようとした時、摂政官が「これから話す私の罪をどうかご容赦ください」と言い出します。
「用もなく私に隠れて令主を訪ねてくるはずがない。地君冊がどうした?」と沈巍が尋ねます。「その…地君冊を紛失しました」「紛失した!?」。趙雲瀾は思わず笑い声をあげます。
「地君冊は地星人の記録をとじた冊子で、地君が批准し摂政官が保管する。個人の能力や背景などが記されたものだ。近頃は地星人が人間界で暴れている。特に燭九は問題だ。ゆえに地君冊が必要だった。それなのに紛失しただと!?」。珍しく激怒する沈巍。
「不徳の致すところ、老いゆえ記憶もおぼろげですが、おそらく地君冊は以前に逃亡した丁頓が持ち去ったものと推察します。在り処は不明です」と言う摂政官。
「丁頓は人間界で死に、屍は地界に持ち帰った!死者に責任を押し付けるつもりか?」と事実で詰める沈巍に、目線を彷徨わせ「まさか滅相もない」と身をすくめる摂政官。
「そこまでだ、2人とも肩の力を抜けよ」と趙雲瀾が仲裁しようとしますが、沈巍は「情けは無用だ!法を犯し、どう地界を収める!?」とさらに激怒します。しかしその瞬間、趙雲瀾が笑い始めたため、怒りを抑えて「笑うことが?」と尋ねます。
「なんでもない、急に沈巍教授から黒兄さんになるからちょっと混乱しただけだ」とにやつく趙雲瀾。
趙雲瀾たちの話を聞こうと林静が「おかしい、俺のウルトラ盗聴器が反応しない」とぼやくと、「無駄だよ、お前の盗聴器はボスが売り飛ばしてた」と大慶が返します。「嘘だろ?」と悲痛な声をあげる林静。そこに電話がかかっめきます。
「地君冊は地界にあると思われます。地界にきて共に捜していただきたく」「他に方法が?」。淡々と会話する沈巍と摂政官。
部屋の扉をノックされ、沈巍は「あちらへ」と摂政官を椅子に座らせます。入室する大慶。
「何だ?」「上層部から電話が」と趙雲瀾の耳元で大慶が報告すると、「こそこそ話すな!堂々と言え。摂政官は地界からの客で、沈巍教授は俺たちの同僚だ。心から信頼していい」と趙雲瀾は叱りつけます。
大慶は憮然としつつも「今から勤務態度を見に監査にくると」と言います。「今から?海星艦は先日来たろ」「海星艦じゃない、星督局だ」。その言葉に凍りつく趙雲瀾。「安心しろ、趙局長が…局長が自分で来ることはないはずだ」「いつ来ると?」「午後だ」「生憎だな、俺は摂政官と地界へ宝を捜しに行く」。趙雲瀾の言葉に目を見張る沈巍。一方、摂政官は満面の笑みになります。
「何!?」「御恩にどう報いれば良いか…」。沈巍は激しく狼狽しています。「駄目だ。私だけでいい、君は残れ」「沈巍教授、敵を知らずしてどう勝つ?急の弱点を知るには地君冊が必要だ。俺も絶対に地界にいく」。
椅子を蹴る勢いで立ち上がる沈巍。「趙雲瀾、君は「危険」の意味を?聖器も地界も闇の力の塊だ。闇の力が君の体を侵食すれば死の危険も」「危険な場所に部下は行かせられない。それにあんたがいれば安心だろ?違うか?決まりだ」「…弁えた行動を」「もちろん」。
特調所のメンバーは総出で室内を掃除し始めます。桑賛は資料を運んでいる途中で床にぶちまけてしまいますが、汪徴は「どじね」と一緒に書類を拾ってやり、2人は仲睦まじい様子です。祝紅はそれを見つめて微笑みます。
「ねえ、行き先は地界よ?なぜ沈巍教授と?」と疑問を呈する祝紅に、「教授は研究のためじゃないか?現地調査だろ」と返す林静。そこにまた電話がかかってきます。
「沈巍教授ってすごいですよね、普通の教授とは違う」と目を輝かせる郭長城。
汪徴が「監査員が到着するわ」と大声をあげます。「奇襲かよ!」「ボスは外出中だ。万事休すか。解散なら夢の猫ハウスもご破産だ」と頭を抱える林静と大慶。
「誰かを所長の席に座らせるしかないわ。みんなで敵をあざむくの」「無理ね、上の人はここにいる全員と顔見知りよ」と話し合う祝紅と汪徴。
「そうか?全員じゃない」と言う楚恕之。「面識のない人が?」と郭長城が不思議そうに尋ねると、「そこにいる」とメンバー全員が郭長城を指差します。「僕ですか!?」。
公園にある岩の前に来た趙雲瀾・沈巍・摂政官。「私と摂政官だけが鎮魂令の特例で、両世界の往来を許されている」と言う沈巍。「ここに門が?」と不思議がる趙雲瀾に、「目を閉じて世界の共有を」と沈巍は彼の肩に自分の手を置きます。趙雲瀾は目を閉じると歓声をあげます。「驚いた、これがあんたの見てる世界か。いくらなんでも暗すぎる。これは結構…居心地悪いな」と彼が言うと、沈巍は手を離します。
「闇と光の力がぶつかる、たった1つの通路だ」「あんたたち2人だけがこの門を通じて両世界を往来できるんだろ?逃亡してきた地星人はどこから?」。訝しむ趙雲瀾に、「それについては…まだ調査中でしてな」と慌てて言葉を濁す摂政官。
その時、沈巍が「怪しい気配がする」と周囲を見回します。「黒枹使様、先を急ぎましょう」と沈巍をせっつく摂政官。
沈巍は趙雲瀾に向き直り、「趙雲瀾、君と行くのが果たして正しいのか」と呟きます。「行動あるのみさ」「覚悟しておけ」「何の覚悟だ?」。沈巍は手のひらから黒い煙を出し、空間に透明な扉を開きます。
「そんなにあっさり!?どう入れば?」と慌てる趙雲瀾をよそに、摂政官、沈巍がとびらに入っていきます。慌てて彼らの後を追う趙雲瀾。
その様子を、木の陰から髭面の男がにやりと笑いながら見送っていました。
扉に入った途端、趙雲瀾は一気に幼少期の記憶を反芻します。「私の仕事は理解してるだろ?なぜ職場に子供を?」「卒業式に出る時間もない。あなたに合いたがってたのよ」と父に食らいつく母。思わず「母さん」と言葉が漏れます。
「私は用事があるから一緒に帰れ」と母に命じる父を、幼い趙雲瀾は部屋の外からじっと見つめていました。「趙雲瀾、趙雲瀾」と黒枹使に肩をゆすられ、趙雲瀾は自分が呆然と立ち尽くしていたことに気づきます。
「着いたぞ」「そうか、ここが地界か?普通の街と変わらない。当たり前か、地星人も人だしな。美的センスも似てる」「地星人も人とは何とも嬉しい言葉で…」。趙雲瀾に媚を売る摂政官に、「機嫌取りがすぎるぞ」と突き放す黒枹使。
そこに黒枹使の部下たちがやってきます。「黒枹使様、お戻りとは存じませんでした、お許しを」。黒枹使が手を横に向けると、彼らは「はっ」とだけ答えて去っていきます。
「カリスマだな」と笑う趙雲瀾。「令主、こちらへ」と摂政官が2人を引導します。
趙雲瀾たちが地界に行く様子を見ていた髭の男に燭九が接触します。
「唯一のチャンスだと知っていよう」「こんな手段を…」「手段は関係ない。重要なのは結果だ。言わなくても分かるだろ?野良犬みたいに放浪し続けるか、計画をなしとげ堂々と日光の下で生きるか。思い出せ。地上に来た理由を。俺には分かる、教えなくてもお前は正解を選ぶと」。燭九に言われ、覚悟を決める男。手を握りしめると、「分かった、試してみよう」と承諾します。
地界を歩きながら、黒枹使はぎくしゃくしている趙雲瀾に話しかけます。「心配は無用だ。能力の覚醒時期は人によって違う。普通の地星人は己の能力に気づいていない」「そうか、怖くはないが何かこう…いいんだ、何でもない」。
摂政官は立ち止まると、「令主、この大通りの突き当りが我らの地君殿です」と笑顔で示します。
「しかしどの建物も同じようなデザインだな。空が暗い、午前だろ?」「ご存じないですか?地界は海星の地核に存在しているので、光はめったに得られない資源なのです」「幸い、地星人に光は必須ではない。それから地星人は暗闇で生きているために時間の概念はない。昼と夜の概念もだ」と、摂政官の説明に補足する黒枹使。
所長に変装させられる郭長城。「これで大丈夫ですか?」と不安そうな郭長城に、「大丈夫よ、早く所長室へ。正面から顔は見せないで」「最善の策は監査員を所長室に行かせないことよ。尽力するわ」「早く行け」と、汪徴・祝紅・楚恕之はせっつきます。「分かりました…」と不安そうに所長室に入っていく郭長城。
「副所長、現れたか?」「見張ってる」と林静と大慶は特調所の内外で連絡を取り合っていました。
黒塗りの高級車が特調所の近くに到着。「来たぞ、星督局の車だ。手玉に取ってやるよ!切るぞ」と意気込む大慶。各人のデスクに着席するメンバーたち。
「どうも副所長の…」と車のドアを開けながら挨拶した瞬間、硬直する大慶。
「所長だったらどんな振る舞いをするだろう?」と、郭長城はいつも持ち歩いているメモを取り出します。
「”趙所長語録 冷静沈着に、キャンディー1本で緊張は解ける、2本あればなおよし”。なるほど…所長、私物を漁る気はないんですが、戻られた時に必ず謝罪します」と、所長のデスクから飴を取り出す郭長城。しかし「何の意味が!?」と自分の行動の無意味さに頭を抱えます。しかし飴と共にマスクが入っていることに気付きます。
祝紅は星督局の職員を出迎えると、「ようこそ、私がご案内します。これが特徴所の基本精神です」と、先ほど汪徴が貼ったばかりのポスターを見せます。
「あいつも体裁だけは整えるように?外面は結構だ」と言う男に、笑顔が消える祝紅。大慶がそんな祝紅に何かを耳打ちします。
第16話 地君冊の行方
<あらすじ>
趙雲瀾(チャオ・ユンラン)の趙心慈で星督(せいとく)局長の趙心慈(チャオ・シンツー)が監査にやってくるが、趙雲瀾は「地君冊(地君冊)」を捜すために沈巍(シェン・ウェイ)と地界に行った後だった。
勝手に持ち場を離れた趙雲瀾に怒りをあらわにする趙局長。
しかも龍城(ロンチョン)公園で事件が発生し、趙局長が臨時で指揮を執ることに。
監査に現れたのは星督局局長である趙雲瀾の父・趙心慈でした。
林静は「こちらへ。僕の実験室です。押収品もここに。これが光子観測機で事件解決に役立ってます。あのベッドは実験用です。僕の研究の成果はここで生まれました」と逐一発明品を紹介して回ります。
聖器を見る趙心慈。「こ、これは私物です!コレクターなので」と聖器を背中に隠す林静。「僕の発明を見てください。これは闇の力を感知できます。感度がいいんですよ。問題は見逃しません。試してみましょう」と電源を入れると、なぜか趙心慈に反応を示す感知器。林静は気まずげに笑い、「あはは、壊れたようです」と取り繕いますが、趙心慈は「君たちの仕事は分かった。所長に会わせてくれ」とため息をつきます。
所長室に着くと、趙心慈は「趙雲瀾」と呼びかけながら近づきます。「趙雲瀾」ともう一度呼びますが、趙雲瀾に化けた郭長城は咳き込みます。顔を見ようとする趙心慈に「近づくな。酷い風邪をひいてる。移すから来るな」と牽制する郭長城。「本当に?郭長城、5月10日生まれ O型 両親は事故で他界 叔趙心慈は海星艦の郭英副部長 叔母の干金蘭は婦女連合会の主任 君は3ヶ月前に特調所に来た。そうだね?」とすらすらと個人情報を言われ、郭長城は思わずマスクを外して振り返ります。
「あなたは誰です?」「星督局の局長 趙心慈。ここの前任の所長だ。趙雲瀾の父親でもある」。郭長城が立ち上がると、所長室の中を見ようと集まっていたメンバーたちは霧散します。
普段郭長城の取っているメモがメンバー全員の前で趙心慈に見られます。怒られ態勢のメンバーたち。「これが”趙所長語録”か?」と呆れたように言う趙心慈に、「脚色してますが」「そうです、ボスは…冗談一つ言わない真面目な人間として有名です、仕事以外の話は全くしません!」と庇う大慶と林静。汪徴と祝紅は思わず笑ってしまいます。
「庇う必要はない。息子のことは分かる。こういうふざけたセリフは奴しか言えない」と言い、趙心慈はメモを机に叩きつけます。
大慶が「局長」と彼の言動を制止しようとすると、「もういい、本題に入ろう。雲瀾は?」と趙心慈は苛立ったように尋ねます。「それと、沈巍という顧問が最近加わったそうだが、今どこだ?」と問われ、「大学です」と答える祝紅。
「時間割は見た。今日は講義も研究活動もないはずだ。雲瀾と一緒に出かけたか?」と追求され、目をそらすメンバーたち。大慶が一歩前に進み、「僕が報告を」と言います。
禍々しい像が並ぶ地君殿。趙雲瀾は物珍しげにあたりを見回します。「摂政官様、黒枹使様、地君様が今月の予定表を準備してお待ちです。供の者はここに入れません」と出迎えた男が進言。「彼は供ではなく私の友人だ」と黒枹使は答えますが、「決まりです、黒枹使様も例外ではありません」と言われこめかみに青筋を立てる黒枹使。
摂政官は「事を荒立てず仲良くやりましょうよ」と仲裁しようとしますが、「丁頓の後任か?いい度胸だ」と黒枹使の怒りは収まりません。
しかし趙雲瀾が「やめとけ、あんたは権力をかさに着る人じゃない。俺と摂政官で探しに行くから、自分の用事をやれ」と割り入ったため、怒りをやっと収めます。
「地界の状況は複雑だ。気をつけろ」と心配する黒枹使。「心配ない、行くぞ」と摂政官を連れて街へ消えていく趙雲瀾。
「というわけさ」と大慶がこれまでの話をまとめると、「分かった、この責任は君たちではなく雲瀾にある。部下の使い方を分かってない。所長が持ち場を離れるなど言語道断だ!事件が起きたら誰が指揮を執る?」と趙心慈は怒ります。「起きないですよ」と林静が笑った瞬間に電話が鳴り、メンバーは硬直。
汪徴が電話に出ます。「分かったわ。龍城公園で事件発生です!」。「ええ〜」とメンバーたちから声があがり、大慶は首を振ります。
趙雲瀾と摂政官は街を歩いていました。「地君冊を無くした時、ここを通ったような…いや、あそこかな?いやあ、情けない頭だ」とへらへら笑う摂政官を見ながら、思わずあくびが出る趙雲瀾。
特調所の一行が事件現場の公園へ行くと、そこら一面の大木たちが薙ぎ倒されていました。趙心慈が「説明を頼む」と警備員の男に話しかけます。警備員は燭九といた髭面の男です。
「私は包(ぱお)といいます。食べる「包子」の包で、私はここで警備員をしてます」と拙い言葉遣いの彼に思わず笑ってしまう祝紅。「郭長城ちゃんみたいな話し方だ」と郭長城を揶揄う林静に、「緊張した時だけです」と頬を膨らませる郭長城。
それを見咎めた趙心慈は、「先に言っておく。大慶以外は新しいメンバーで私との仕事は初めてだが、今は緊急時だ。私が臨時で特調所の所長に戻った以上、君たちは私の部下だ。効率を上げるため私の命令に従ってくれ。いいな?包さん、状況を説明してくれ」とメンバーたちに厳しい言葉をかけます。
包は回想を始めます。警備員仲間と2人で林の中を歩いていると、仲間が「用を足してくる」と包のもとから一瞬離れました。
その瞬間、地面が盛り上がり、木が倒れ始めたのです。仲間は木の下敷きになり、「助けてくれ!誰かいないか!頼む!」と叫び声をあげていました。
「目が覚めたらこうなっていたんです」と俯いて言う彼の表情を見ようと顔を覗き込む趙心慈。包は慌てて顔を背けると、「びっくりしました。本当に怖かった」と繰り返します。
郭長城は包を気遣い、「大丈夫ですか?」と彼の背を撫でます。「ありがとう」とお礼を言う包に、「あの子が慰めることもあるのね」と物珍しげに言う祝紅。
趙心慈は包の背に手を当てると、「さあ、こっちへ。緊張するな、思い出してほしい。他になにか見なかったか?」と更に質問。しかし包は「私はもう全部話しましたよ。他は見てません」としか言いません。「分かった、帰っていい」と言われた瞬間、包は逃げるように去っていきます。
「帰すのか?」と訝しげな大慶。趙心慈は「分担を決めよう。まず郭長城と楚恕之の2人は怪我をした警備員の家族に話を聞け。祝祝紅は責任者に頼んで監視カメラを見て来い。林静はここの土壌の質を調べろ。大慶、この辺の野良猫から話を聞いてこい」と指示。
大慶は「猫語なんて分からない!」と趙心慈に耳打ちしますが、「何を言ってる。私がいた頃、猫語で手柄を立てただろ」と呆れたように言う趙心慈。大慶は困り果てます。
「とにかく手がかりを集めてくれ」と言われ、困惑するメンバーたち。
「小さな手がかりはさほど役に立たないのでは?ボスは先に仮説を立ててましたよ」と言う林静を祝紅が横からどつきます。
「十分な証拠もないのに何が仮説だ。今後は雲瀾のように功を焦って無闇に動かないように」と苦々しく言う趙心慈。「そのとおりだな、各自の仕事をやろう」と仲を取り持とうとする大慶。「事件の性質がある程度はっきりするまで、私は特調所で報告を待つ」と帰っていく彼に不満を募らせる一同。
摂政官は迷っているようで、いちいち場所を指定しながら道を進んでいきます。「こちらです」と彼に道を示された先で、「助けて!誰か来てよ!」と女の叫び声が。
「ここにもゲスがいるな」と趙雲瀾は現場に走ります。そこでは1人の女をゴロツキほ青年2人が取り囲んでいました。
「地君冊を捜すほうが大事です。それに地星人の能力が覚醒したら、令主の身に危険が及びます」と言う摂政官ににやりとする趙雲瀾。「心配ない。危険なのは俺じゃないからな」と摂政官をゴロツキたちの方へ突き飛ばす趙雲瀾。悲鳴をあげて青年たちのもとに倒れ込む摂政官。
「何だ、おっさんは出てくるな」と鼻じらむ青年たちに「助けてくれえ!」と悲鳴をあげる摂政官。「何だ、情けない奴だな。あんたたち新入りか、このおっさんは…」と趙雲瀾が彼の身分を明かそうとすると、「ひどい伝染病にかかってる」と摂政官は嘘をつきます。
趙雲瀾が仕方なく青年たちを殴って蹴散らそうとすると、青年たちは趙雲瀾を見た瞬間、途端に眩しそうに目に腕で隠します。訝しむ趙雲瀾。
「怪我は?」と女に尋ねると、「すごいわね、恩返しに何でもするわよ」と言われ、「その必要はない、俺は恩返しを求めない善人なんだよ」と趙雲瀾は去ろうとします。しかし、「待って、恩返しをしろって母さんに言われてるの。それができないなら死んだほうがマシよ」と懸命に言い縋る女。
「勝手にしろ」となおも趙雲瀾が無視すると、「放っておくんですか?」となぜか摂政官が口を挟んできます。
「1つ、この2人は若くて体格もいいくせにあっさり倒れた。2つ、あんたを押したらあいつが驚いた顔をした。3つ、あの2人のペンダントはお揃いだ。この状況で罠じゃないと言われても誰が信じるか。猿芝居に付き合ってる暇はない」と言う趙雲瀾。
「待ちなさいよ!」と叫ぶ女。「すばらしい、さすがだ。令主は若いのに洞察力がある。大したもんだな」とごまをする摂政官に、趙雲瀾は顔を顰めます。「黒枹使が言ったとおりだ。機嫌をとってないで道を探せ!今どこだ?」。「えー、聞いてきます。ちょっと待っててください」とどこかへ走り出す摂政官。趙雲瀾は彼を引き止めようとしますが、時すでに遅し。ため息をついて立ち尽くします。
林静と祝紅は、公園の責任者に話を聞いていました。「ですから公園の管理や従業員の規則は全て条例に従ってるんです。私達の責任ではありません」と何も話す気がなさそうな彼に、「ご協力どうも、なにかあれば連絡を」とため息をつく祝紅。「またたらし回しね、これじゃ調査は無理よ」「見るからに非協力的な奴だった…そうだ!考えがある」「何?」「君は催眠術が使えるだろ?あいつの本音を聞き出してくれ。大丈夫、内緒にしておく。ボスには言わない」「駄目よ、もう使わない。私には合わないの」「長い間練習してマスターしたのに?」「不思議だけど、催眠術を使うと悪いことが起きそうな気がするの」「相手が実直で素直な人だったらこんな苦労しないのに。郭ちゃんが羨ましい」。林静と祝紅はぼやきます。
その頃、大慶は野良猫たちを小魚で釣っていました。「お前達、怪しい奴を見なかったか?猫同士だろ?僕のメンツを立ててくれ!」と頼みますが、彼らは何も答えてはくれません。
「駄目だ。僕が猫語を?何も思い出せない。物忘れが増えてる。ボスの野郎、いつ帰ってくるんだ、危ない地界に飛び込むなんてどうかしてる!」と匙を投げる大慶。
「ちょっとお兄さん、なんとかしてよ!うちの人は少ない給料で懸命に働いてたのに、治療で老後の生活費も使い果たしたの!」と老婆に服を引きちぎられんばかりに縋りつかれる郭長城。
「金は天下の回りもの、気を落とさないで。ご主人が助かってよかった。当時の話を聞きたいんですが」と言う郭長城に、「話を聞くですって?何を言ってるの!まだ昏睡状態なのよ!あんたたち良心がないの!?それにあのお金は私が苦労して一生かけてためてきたの!絶対犯人に償わせて!」と叫ぶ老婆。楚恕之は呆れます。
地界では趙雲瀾がスマホを見て時間を確認します。
どこからか「趙雲瀾」と呼ぶ声が聞こえ、声に導かれるように何かの遺跡らしき場所へ向かう趙雲瀾。
「聞こえるか?」と言う声の合間に、空からは雷鳴がと轟きます。目の前には鎖で縛られた、裂け目の中から青白い光をを放つ塔があります。(桑賛が閉じ込められていた氷柱と似ています)
「ここだ、こっちへ来い。趙雲瀾、君は自分の心の声を聞くべきだ」「これは新しいトリックか?お粗末すぎるだろ」「君は虚勢を張って不安を隠している。だが君は自分自身を騙せないはずだ。人の世にいても人の心が理解できない。自分の行為が何のためかも分かっていないだろう。その行いが正しいかどうかすら分からないはずだ」「お前は誰だ」「私は君の魂であり君の欲望だ。私は私地自身であるだけでなく、君の心でもあるのだ。私はみんなの心だ。君に教えてあげよう…」。吸い込まれるように塔に近づく趙雲瀾。
すると突然後ろから「あそこよ!」「いたぞ」と先程の3人組が来ます。
「待て!芝居が好きなら役者になれよ。何の用だ」「どこから来たのよ。地星人じゃないわね?」「とんでもない、俺たちは同胞だよ。心を開いて話し合い、共存すべきだろ」「グダグダぬかすな、俺に難しいことを言っても無駄だ」「さっきお前は令主と呼ばれてたが、令主なんて聞いたことがない」「説明すると長くなるんだが、実はな、俺が5歳のときに…5歳だよ」と言いながら趙雲瀾は青年に近づき股間を蹴り上げますが、彼はびくともしません。
「あはは!下半身が石に変わる能力が役に立つとはね」「誤解だ、何かの間違いさ、黒枹使ってやつは俺の友達なんだ」「どう思う?」「それが何だ」「黒枹使は裏切り者だから、その友人も逆賊よ」。3人はじりじりと趙雲瀾に迫ってきます。
「あっ!黒枹使だ!」と彼方を指差し、全速力で逃げ出す趙雲瀾。「追いかけろ」「待て」「捕まえろ」「どこだ」と彼らの声が響く街中をめちゃくちゃに逃げる趙雲瀾。趙雲瀾を見失った彼らは「近道を」「行こう」とどこかへ走り出します。
地君殿では、黒枹使が「地界の幸せは、日夜政務に励む地君のおかげだ」と呟きます。
「黒枹使様、何か御用で?」と尋ねる丁頓の後任に、「丁頓の記録を見たい」と言う黒枹使。しかし、「半月前に破棄しました。地君様のご命令です」とにべもなく言われ、眉間に皺が寄ります。「なぜ事前に私に知らせない?」「地君殿の統治者は地君様です。我らは命に従ったまで」と言われ、「他の記録は?」と尋ねる黒枹使。「書庫へご案内します」と丁頓の後任は慇懃無礼に礼をします。
走り回った趙雲瀾は酒場に行き着きます。入り口で吐いていた酔っぱらいから仮面を奪い、店内に紛れ込む趙雲瀾。バーテンから酒をもらうと、世間話を始めます。
バーテンから「その仮面、さっきいた客と同じものだ」と言われ、「偶然だな」と笑う趙雲瀾。「今日は仮面パーティーか?」「何?」「仮面パーティーは地上で流行してるんだよ。地界も流行を楽しむべきだと思わないか?」とちぐはぐな会話をしてしまう趙雲瀾。
趙心慈は特調所の図書館にいました。本を整理中の桑賛。「君のように落ち着いた若者は珍しい。なぜここにいる?」と尋ねる趙心慈に、桑賛は笑顔で「僕の愛する大事な人がここにいます」とたどたどしく返します。
「私もそうだ。息子のお陰だな。落ち着いて本を読みながら”獲物”を待つのは久しぶりだ」と笑う趙心慈。
そこに大慶から電話が入ります。「局長!全員揃ったよ」「分かった」。「古代秘聞録」と背表紙に書かれた本を棚に戻す趙心慈。桑賛は彼が本のページをめくっていたのは左手だったのに、入館記録にサインを求めたときは右手だったことを思い出し、両利きなのかと不思議に思います。
地界では例の3人組はまだ所長を追っていました。酒場を見つけた3人は、「中だ」「行くぞ」と店内に突撃。「どけ」「邪魔よ」「よく見ろ」と人を張り倒しながら店内を進みます。「また来た。最近の若い連中ときたら」とぼやくバーテンに、「学校の教育が悪いんだ」「”がっこう”ってなんだよ?」「ただの冗談さ」。また会話が噛み合わないバーテンと趙雲瀾。
しかしその時、青年が突き飛ばした男に床に落ちていた空き瓶が割れて刺さり、流血する大怪我を負います。「痛いよ!」と叫ぶ男の声に、思わず立ち上がる趙雲瀾。
「病院に運ばないのか?」とバーテンに言いますが、「”びょういん”って何だ?お前本当に地星人かよ」と怪しまれます。「戯言だよ」とふざけようとしますが、仮面を外されてしまいます。更にそこに「俺の仮面を盗みやがって!」と先ほど入り口で泥酔していた男が乱入。
「海星人の泥棒よ!」「捕まえろ!」「逃げられないぞ」と店内の人々は口々に叫びます。「話せば分かる」と後ずさる趙雲瀾。
しかしその瞬間、豚の仮面をつけた男が「行こう」と趙雲瀾の腕を掴み、瞬間移動しました。仮面を外すと、彼は以前事件で命を助けた呉でした。「あんたは確か…」「お久しぶりです」「監獄行きを免れたのか」「黒枹使様を手伝っています。暁君の減刑を約束してくださったので。所長はいつこちらに?」「来たばかりだ。あいつのせいで…しまった。摂政官を置いてきた」「なんと!摂政官と一緒だったのですか。奴は評判が悪いんですよ」「そうなのか?人畜無害に見えるが」「愚かそうに見えても、実は古狸で、敵に回すと怖いという噂ですよ」「面白そうだな…じゃあ沈…黒枹使は奴をどう評価してる?」「特に何も聞いていません」「だから呉さん、黒枹使の人を見る目を信じろ。古狸でもうまく利用すれば、獲物が得られる」。「さすがです」と笑う呉。
そこににやつきながら「令主」と摂政官が現れます。呉さんは明らかに嫌な表情をし、顔を背けます。「ずっと捜してたんですよ、はは」と笑う摂政官。
郭長城のメモ「最近発生した事件」を見ながら、趙心慈はメンバーを前に「始めるぞ」と口火を切ります。
「現時点で何か成果はあったか?」と尋ねますが、全員無言。「特には…何も」と言う大慶。
「それが普通だ。どの事件も最初は何の糸口もないものだ。だからこそ我々は粘り強く取り組み、綿密な策を練る。どうした?やる気がないようだが、私のやり方にまだ慣れないか?」と言う趙心慈に、楚恕之は「局長が我々のやり方になれないのでは?」と提言します。
その瞬間、趙心慈が激怒。「君たちのこれまでのやり方は間違ってる!恣意的で散漫、事件と証拠の関係が曖昧だ!」。「僕たちは今何をすればいいですか?」と尋ねる林静。
「今から大事な話をする。信頼できる内通者の情報から判断して、息子はリーダーとしての役割を果たしていない。そこで君たちに彼の罷免を提案する」。驚愕するメンバーたち。
「父親でもそんなの通らないわよ!」と叫ぶ祝紅。「君たちの中で1人でも賛同者がいたら、私が正しいということだ。いなければ提案を撤回しよう。今から1人ずつ面談を行う。深刻に考えるな。大慶」。最初に大慶が面談に呼ばれます。
「何様のつもりよ!威張りくさって」と怒る祝紅。「ボスのクビを喜ばないのか?」とにやつく林静に、「私が喜ぶはずないでしょ!」と殴ります。楚恕之は珍しくにやつきながらその様を見ています。「個人の感情とは別問題よ!こんなときに何を言ってるの」と憤慨する祝紅。
郭長城の視線に気づき、「なぜ俺を見る」と憮然と言う楚恕之。「楚恕之さんは所長に対していつも横柄ですよね。所長を…う、裏切らないでくださいよ」と言う彼に、「馬鹿か!余計なお世話だ」と怒る楚恕之。
摂政官は腰をやったようで、趙雲瀾はふらつく彼を支えながら地君殿に戻ります。「気をつけて」「どうもありがとう」。摂政官はきょろきょろと辺りを見回します。呉さんは終始険しい表情を崩しません。
「どうした?あんたも昔地君殿にいたとか。戻ってきた感想は?」と言う趙雲瀾に、「懐かしさより不快さが勝ります。高齢で足腰が言うことを聞かず迷惑をかけました」と淡々と言う呉。「摂政官様」と駆け寄ってくる丁頓の後任にウインクし、「平気だ」と言いながら密かに何かを命じる摂政官。
「あんたは休んでくれ。地君冊は俺が捜す。ところで地君冊はどんなものだ?」「それは…表紙が黒い革の冊子かな。これくらいの大きさかな、いやこれくらいかも。あれ?」。要領を得ない摂政官に呆れる趙雲瀾。「もういい、黒枹使は?」と丁頓の後任に趙雲瀾が尋ねますが、「行き違いでしょう」と冷たく言われます。突き当たりの格子窓の奥に人影が見え、思わず目を凝らす趙雲瀾。しかし地君冊を探すため、呉と共に地君殿に背を向け歩き出します。
趙雲瀾が地君殿を出た途端、突然ぴんと腰を伸ばす摂政官。「私も年をとった。そろそろのんびりするか。きつい仕事は若い者にやってもらおう」とにやつく彼に、無言で頭を下げる丁頓の後任。
趙心慈との面談は郭長城が最後です。「君が最後だ。結果を知りたいか?」と言われ、現所長更迭賛成・反対の署名一覧を見せられます。反対に全員の名前が書かれていました。
「他の連中は頭が固い。だが君は彼らとは違う。正しい判断が出来るし、将来性もある。聞いたところでは雲瀾は気が荒く、君に恥をかかせたと」「僕を思ってのことです」「ここの連中は古参の大慶以外、身の程知らずか重責に耐えられないかだ。君だけが経歴に傷もなく家柄もいい。雲瀾が失職すれば…分かるね?」「分かります、いえ、分かりません。今の何が悪いんですか?」。
突然机から銃を取り出し、郭長城に向ける趙心慈。「どうだ?よく考えろ」と言う彼に、郭長城は慄きます。「局長!あなたたちは親子なんでしょ?なぜそこまで?僕は親子喧嘩もできないのに!」と悲痛に叫ぶ郭長城。しばらくの沈黙の後、趙心慈は銃を机の中にしまいます。「分かった、合格だ。君たちがいれば息子は安心だな。行きなさい」。
郭長城が部屋を出ようとした瞬間、なぜか趙心慈が瞬間移動し、郭長城の目の前にいました。しかし趙心慈の目は赤く、いつもの彼とは違います。
「長城、君は私が選んだ伏兵だ。魔王の闇の力に対抗するには、君の正しい力が必要だ。だから自分が信じる路をとことん信じなさい」と洗脳するように言われ、言葉を失う郭長城。
「いいか?例えるなら君はマイナスの電極で、ボスも同じ負の電極なんだよ。いつも一緒で親しく見えても、実は二人共変わり者で、互いに反発しあう。君が2つの電極の関係を変えない限り無理なんだ」と祝紅に話す林静。
一瞬納得しかけるも、祝紅は「私たちはそんな関係じゃない!」と叫びます。「俺だけでなく、楚恕之ですらお見通しだと思うよ。だよな?」と林静は楚恕之に同意を求めますが、楚恕之はぼんやりしています。
「あの子は所長を裏切ると思う?」と祝紅が不安そうに言い、楚恕之は「馬鹿言うな、あいつはそんな奴じゃない。ただ1つ気になることがある。燭九は最近鳴りを潜めてるが、何を考えてるのか。それにこの事件との関係も気になる」と噛み付くように言います。
「ボスは気まぐれだと思ってたが、実は俺たちの心の支えだったんだな」と言う林静に笑う祝紅。「奇想天外な推測もいつも正しかった」「あの親父さんも何か引っかかる」と話す楚恕之と林静。
そこに大慶が現れ、「お前達、特に林は怠け者だ。事件に動きがあったよ」と告げます。祝紅の「行きましょ」という言葉で、走りだす5人。
事件現場では地面に大きな亀裂が入っていました。「怪我人がいないといいが」と言う楚恕之の傍で、闇の力を測る林静。
「何か奇妙なことは?」「なかったです」「私も見てません」「怪しい奴は?」「見てないわよ」。祝紅と大慶が周囲の人々から情報を集めようとしますが目ぼしい目撃談はありません。
「反応した!闇の力の痕跡だ。待てよ、当たってる」と言う林静。「何の話だ」と眉を顰める大慶に、「局長から公園の土壌調査を頼まれてた。犯人の能力が分かってたんだよ。土質の変更だ」と言う林静。
祝紅へ電話が入ります。「もしもし、この前事情を聞かれた者です。変化があったのでご報告を」「早く言って」「第一発見者の包がいなくなったんです」。「しまった!」と驚愕する祝紅。
建物の影から特調所の建物を見つめる燭九と包。
「建物の破壊方法を複数考えたが、どれも違う。こんな所で暴れても仕方ない。広い世界に飛び出して外部の力を借り、全て破壊すべきだ。お前の力はちょうど俺の役に立つ」「この建物を壊しさえすれば、地星人は誰にはばかることなく地上で生活できると?」「そのとおり」。戸惑いながらも包は燭九に言いくるめられます。
摂政官と丁頓の後任と燭九は絶対繋がってると思うんですが、もしや地君が黒幕…?😨
黒枹使を裏切り者と言ってた地星人のゴロツキの言葉が気になります。なぜ裏切り者?
趙雲瀾の父・趙心慈からなぜか闇の力が検出されたわけですが、郭長城に言った「魔王の闇の力に対抗するには、君の正しい力が必要」の意味が謎です?魔王って?趙心慈は何者?鎮魂令主とは?
第17話 父子の葛藤
<あらすじ>
燭九(ジュージウ)は、かつて趙(チャオ)局長に妻を殺された包老三(バオ・ラオサン)をそそのかし、特調所のビルを破壊させようとする。
そこに現れた趙局長は包を撃ち殺してしまう。
包を見捨てて逃げた燭九をなじる鴉青(ヤーチン)。
「無実の人間を巻き込みたくない」と言う包老三に、「無実?思い出せ、最愛の妻がどう死んだのか」と燭九は囁きます。
逃げる包老三に銃を構える趙心慈。「能力で建物を破壊し、盗みを働いたな」「もう何日も飢えてる。たったこれだけだ!」「それなら許されると?制裁を下す」「頼む、生きるためだったんだ」「例外はない」。
彼の腕の中にあるのは少しの食糧だけです。それなのに…と包老三は憤慨し趙心慈を睨みつけ、能力を放ちます。
それと同時に趙心慈は発砲。彼の能力をすり抜け、銃弾は一直線に包老三へ向かいます。驚き硬直する包ですが、彼に当たる直前、彼の妻が咄嗟に前に飛び出します。銃弾は彼女に命中し、即死。
「目を覚ませ!死ぬな!嘘だろ!」。妻を抱きしめ、泣きじゃくる包老三。
「特調所のせいで妻は地上で死に、お前は地界に戻された。お前は地界から逃れてきた身だ。また捕まれば二度と逃げられないぞ。特調所がある限り地星人はここで穏やかに暮らせない!」「どうすればいい?」「特調所を壊し、奴らを始末しろ。そうすれば敵も討てるし、ここで堂々と暮らせるようになる」「従おう」「お前に能力を使わせてみたが、何か問題は?」「安心しろ。公園と道路で試してみたが、ここの土壌なら俺の能力が及ぶ」「それでは、よろしく頼む。必要な時は助けに来よう」。包老三の肩を叩くと、笑って去る燭九。包老三は全力で能力を使い、特調所の建物にヒビを入れます。
沈巍は酒場へ来ていました。「すまない、髭のある男を見たか?口にキャンディーを含んでいたかも」とバーテンに尋ねます。「あいつだな、友達か?あいつは…」「死んだ!俺の拳でぶっ壊した!あの野郎、俺の仮面を盗んだ。なぜ捜してる?どんな関係だ?言えよ!早く!吐け!どんな関係だ?」。仮面を盗まれた酔っ払いの男が突然沈巍に絡んできます。
しかし男に感化されたのか、周囲の人々も「吐け!」と騒ぎ始めます。沈巍は黒枹使に変身。しかし、「随分大胆な奴だな。黒枹使様のフリをすると地君殿行きだぞ。モノマネ野郎め」「偽物だ!」と人々は四方八方から黒枹使に向かって一斉に食べ物を投げつけます。「嘘つくんじゃねえ」と口々に言う彼らに堪忍袋の緒が切れた黒枹使。片手で店中の明かりを一気に消します。
「黒枹使様!」と全員が拱手。「まさか…本物か?」と怯えるバーテン。「答えろ。彼はどこへ?」と黒枹使が眼力強く見つめると、「どこかは分かりませんが、3人の若者に追われていました」と言い、何か耳打ちします。
特調所に駆けつける一同。大慶が「林静と郭ちゃんは隠れてろ!猫こそ食物連鎖の頂点だ!」と叫ぶと、祝紅は「平衡感覚なら蛇よ!」と走り出します。
「特調所は全滅だ!これで堂々と地上で生きられる!」と笑いながら包老三が特調所を壊そうと力を込めていると、楚恕之に糸で腕を縛られてしまいます。しかし能力を使い、地割れを起こし逃走。
さらに特調所から出てきた李を人質に取ります。「燭九!来てくれ!助けてくれると言っただろ!約束を破るのか!」と包老三は叫びますが彼は包老三を無視して去ります。
李の首を絞めながら、「いいから騒ぐな!怪我するぞ」と凄む包老三。しかし「やめろ」と声が響き、特調所の中からまた銃を構えて趙心慈が現れます。妻を殺されたあの瞬間を思い出す包老三。
「またお前か」と吐き捨てる趙心慈に、「妻よ、敵を討ってやる!」と包老三は銃を奪おうとします。解放された李に駆け寄る一同。もがきながら「離せ」と趙心慈が叫んだ瞬間、銃声が鳴り響きます。趙心慈は包老三を銃殺したのです。一同が言葉を失う中、「能力で破壊行為を働き、人を傷つけた。鎮魂令の掟どおり、死で贖いを」と言う趙心慈。
街中を走り続ける趙雲瀾と呉。しかし、「変だぞ。ここはさっきも通った。これじゃ地君冊は見つからない」と趙雲瀾は違和感に途方に暮れます。「所長、申し訳ない。お力になれず。黒枹使様のところへ戻りますか?」と尋ねる呉。
趙雲瀾は沈巍と連絡を取ろうとスマホを出しますが、「圏外だし連絡手段もない。情報を取り扱うような場所は?」と困り果てて尋ねます。呉が「噂では鎮北街に情報を買える場所が。しかしそこに行くには何度も瞬間移動する必要があります。所長には…」と言うと、「それしかない。人生挑戦あるのみだ。困難なほどより価値がある」と食いつく趙雲瀾。呉は苦笑し、「そうですか。しっかり捕まって」と彼を肩に掴まらせ、瞬間移動します。
趙雲瀾を襲っていた3人組は沈巍に追い詰められます。「彼を見失ってから…」「やめろ、詫びて何になる?黒枹使さん、何を聞かれても答えは同じだ」と揉める青年たちを見下ろし、「早く言え。さもなくば」と刀を出す黒枹使。「黒枹使様、僕も捜します。ご容赦を」と土下座するリーダー格の青年。
「クズめ、失敗しやがって。つまらん能力に時間を費やした」と、根城で舌打ちする燭九。「助けなかったの?同胞でしょ」と咎める鴉青に、「人間にも勝てない地星人は俺の同胞ではない」と吐き捨てます。「救えない人ね」「あの方が俺の立場で俺を使っていても同じ選択をするさ」「私があの方に従うのは亜獣族のためよ。やり方までは認めてない。あの方に大事な局面で捨てられても恨まない?」「恨まない。永遠にな、あの方のおかげで俺は心の声が聞けた」。燭九はうっとりと回想します。
「肝に銘じろ、俺が隊長だ。ここでは俺の指示に従え」「はい隊長」「名前は?」「燭九です!燭龍の燭に九陰の九!黒様や先輩のように功績を立てます!」「気概がある。名前負けしないよう精進するように。だが言っておく。今は能力も覚醒してないゴミだ。夢ばかり見ず、地に足をつけ目の前の仕事をやれ」。地君殿に配属された燭九は黒枹使のようになりたいと夢に胸を膨らませていました。
そんなある日、燭九は朽ちた遺跡跡に足を伸ばします。「若者よ、来い。何を迷っている。心の声を聞き逃すな。私にはお前の欲望が見える。大英雄になり地界を再興するのがお前の夢だ」と、趙雲瀾に話しかけたあの塔が燭九にも語りかけます。
「そのとおり!黒枹使様が憧れだ!」「黒枹使?奴は裏切り者だ。なぜ地星人は暗闇の世界に追いやられている?黒枹使の仕業だ」「黒枹使様が?」「あいつは非情な裏切り者だ」「非情?裏切り者?」「お前は選ばれし者だ。私が地界の大英雄にしてやろう。覚悟を決められるならな」。
「お前は地星人の本質を永遠に理解できない!生き延びるのは死を恐れぬ者のみ。苦境に陥るほど燃える性なんだ」と鴉青に向かってにやつく燭九。
何度かの瞬間移動後、趙雲瀾はぶらつきます。「所長、大丈夫ですか?」「ああ、思い切りかっ飛ばしてくれたな。気分が悪いのは闇の力に触れすぎたせいだ。着いたのか?」「近いかと」「あと一息だ」「はい」。
すると今度は突然呉が立ちくらみを起こします。「おい、大丈夫か?」「もう無理です。瞬間移動は100歩が限界だ。今日は打ち止めです。続けるほどの体力がない…」「大丈夫だ、能力を使わなくても脚がある。歩こう」「ええ」。
「そうだ、燭九という地星人の特殊能力も瞬間移動だ。するりと逃げるから俺たちも困ってる」と趙雲瀾が言うと、呉は「この力を使う時には発動するための媒体が必要です。私の場合は酸素です」と説明します。「媒体?」。
趙雲瀾は洞窟で燭九と戦った時のことを思い出します。彼は洞窟に唯一開いていた光の差し込む穴に向かって能力を使っていました。
「燭九の媒体は光か!暗い部屋に閉じ込めたら能力は使えない。袋の鼠ってわけだ!いや、でも相手も賢い…暗い部屋へどう呼び込む?」とぶつぶつ趙雲瀾が呟いていると、呉が「所長、これを」と看板を指さします。
そこには「事情通」の文字が。呉が扉を叩きます。
「今回の件は何とか片付いた。よくやったぞ」と言う趙心慈に、祝紅は「なぜ?黒枹使様に引き渡せたはず。それなのに撃ち殺す必要が?」と刺々しく反論します。
趙心慈は家族3人の写真を待ち受けにしているスマホを見遣ります。「やめよう、監査はこれにて終了だ。皆のお陰で事件は解決した。さすがは特調所の所員だ。雲瀾にも勝手な行動は慎むよう忠告を。私はいつでもあいつを罷免できる。ではこれで」と言うと、さっさと帰っていく趙心慈。
大慶は彼を追いかけます。「大慶、雲瀾に返しておいてくれ。弾を使った詫びも伝えろ」と彼に銃を手渡す趙心慈。
「親子だろ?たった一発だ」「まったく。猫のくせに口うるさく言うな」「いや言わせてもらう。包老三の件だが、本当に殺そうと思ってたのか?」。大慶は探るように尋ねます。趙心慈と揉み合っていた際、趙心慈ではなく包老三の指が引き金にかかったように大慶には見えていました。
その時、趙心慈に電話が入ります。家族睦まじい写真の待ち受け画面を見てしまう大慶。趙心慈は電話を無視すると、「目まで衰えたのか」と皮肉だけ言い残して去ります。
呉が叩いた扉の向こうから、にやついた表情の黒いマスクの男が現れます。
「どうも」と呉が挨拶すると、「情報は金と引き換えだ。500元」と男はにやつきながら言います。呉がポケットマネーを貸してくれ、「悪いな、あとで返すよ」と謝る趙雲瀾。いやらしい笑みを浮かべながら趙雲瀾の手を撫でつつ金をうけとる男。
「事情通なのに変わったやり方だな。占い師みたいだ」「悩みが見えた。結婚か?」「俺は生まれながらの人でなしだ。結婚なんか望んでない」「家庭の話か?」「結婚相手もいないのにどう悩めと?邪魔したな」。当てが外れたと席を立ち上がった瞬間、「なら地君冊のことか?」と男は言い当てます。
ゆっくり振り返り、もう一度席に着く趙雲瀾。「在り処を?」「もちろんだ。だがそれを話すにはこの額じゃ足りない」「ますます占い師みたいだ。いくらほしい?」「金じゃだめだ……命をよこせ!!」。趙雲瀾の右腕に、鋭い金属が突き立てられます。
咄嗟に趙雲瀾を席から突き飛ばした呉は、「大丈夫ですか!?」 と彼を抱き起こします。
マスクを自らむしり取ったその男は、地上で燭九に殺されたはずの丁頓でした。趙雲瀾が息も絶え絶えに彼の顔を見て驚くと、「生きてて驚いたか?地君冊の在り処は来世で知れ!」ととどめを刺そうと飛び掛かります。
しかしその瞬間、空間に穴を開けて沈巍が登場し、即座に丁頓に攻撃。丁頓は吹き飛び、近くの壁に叩きつけられます。
「趙雲瀾、しっかり!」「所長…!何か手は!?」と趙雲瀾を取り囲む沈巍と呉に、丁頓は「聖器のために死ね」と血を吐きながらにやつきます。
「なぜ地君冊を?」「知りたけりゃ自分で捜すといい。この世からは消えたけどな」と笑う彼の目線を辿ると、そこには器の中で燃え滓になった地君冊がありました。意識を失ったのか死んだのか、がくりと地面に頭を落とす丁頓。
「趙雲瀾、起きろ!」と彼の顔に力を注ぎ込む沈巍。趙雲瀾は「母さん」とうわごとを言います。
「雲瀾、こっちへおいで」「母さん!」。幼い趙雲瀾はなぜかあの妙な塔のある遺跡で母と抱き合っていました。しかし突然母が消えます。「母さん、どこ?なぜ隠れるの?」「雲瀾、早く自分の本心に気づきなさい」。響き渡る母の声に怯える幼い趙雲瀾。はっと飛び起きると、そこは特調所のソファーでした。
「ほらな、やっぱり夢だった」と独り言を言いながら周りを見回します。「俺は戻ってきたのか?沈巍は?」「一緒に帰ってきて、家に戻りました」。林静は「インテリのくせに頼もしいよな。地界を見ても冷静とは」と口を挟みます。趙雲瀾はソファーから飛び起きると、厳しい表情でどこかへ向かいます。
趙心慈は花束を墓石の前に飾ります。墓石には「沈渓」と名前が彫られています。黙祷する趙心慈。「また仲間を殺めたか。いつまで続ける気だ?10年前の再演だな。血で血を洗えば問題の解決に繋がると?」「私の使命だ。宿命でもある」と、もう1人の影の自分と話す趙心慈。
「あなたに会いたがってたのよ」「今はこの事件の大事な時だ。仕方ないだろ?」「あなたのことが分からなくなってきたわ」「もうよせ、喧嘩したくない。私の仕事は理解してるだろ?謝るよ。寂しい思いをさせてる。でも民衆を守るのが私の仕事だ。私は用事があるから一緒に帰れ」。喧嘩をする両親を、寂しそうに壁の向こうからそっと見つめている雲瀾。趙心慈は息子から目を逸らします。
「母さんを離せ!」と叫びながら飛び出す趙雲瀾を部下に止めさせる趙心慈。犯人に捕まった妻を見ながら、趙心慈は冷静に銃を構えます。「先に奥さんを助けろ」と指示する部下に、「駄目だ、奴は9人の命を奪った地星人だ。見逃せない。妻は私を理解してくれる。雲瀾を連れて行け」と止める趙心慈。
「お前がその気なら道連れにしてやる!」と犯人が叫んだ途端、「雲瀾!」という沈渓の絶叫が響き渡ります。趙雲瀾が「母さん!」と叫んだ瞬間、犯人は自爆。「母さん!!母さん!!」。呆然とする趙心慈。沈渓のコートがゆっくりと空から落ちてきます。
趙雲瀾は母の墓に何度も礼をします。その様を見ている趙心慈を無視して1人でどこかへ歩いていきます。「雲瀾、どこへ?」と問う趙心慈を睨みつける趙雲瀾。「おい!戻って来い!」と趙心慈が叫んでも、彼が歩みを止めることはありませんでした。
「未来は若者のもの。雲瀾のやり方が時代相応なのかもな」と沈渓の墓の前で内心呟く趙心慈。
「丁頓の件は?」「釈然としない部分は残るが、ここまでだ。地界の秩序を保つため目をつぶることも必要だ。でも一連の出来事を繋げるのはやはり聖器だろう。燭九たちの仕業だ。ガードを鉄壁にする必要がある」。花束を抱きながら沈渓の墓に向かう沈巍と趙雲瀾。
墓石の前に花束を見つけ、憎悪に燃える瞳で辺りを見回す趙雲瀾。持ってきた花束をスペースを開けて置き、置かれていた花束を忌々しく見つめます。
「知っているか、私を裏切り者と呼ぶ地星人がいると。私が人間のために聖器を捜しているというが、それは違う。私の目的は再び戦争を起こさないこと。それだけだ」と言う沈巍。「そうか。聖器の資料を探そう。また今度、その昔話を始めから聞かせてくれ」と儚げに笑う趙雲瀾。すぐに立ち去る趙雲瀾に続く沈巍。
郭長城が日記を書いています。「遺伝子は不思議だ。所長と父親の性格は正反対。更に不思議なのは親子なのに他人のようなことだ。2人に何か事情があるのだろう。包老三の事件は悲しい結末だったが、嬉しい出来事もあった。みんな肝心な時は団結して所長の味方になった」。
地君殿では、摂政官が「せわしなく現れ、せわしなく去る。ここ数年、黒枹使様と接触する時間は減る一方」と呟くと、丁頓の後任は「丁頓の件について何かお気づきなのでは?」と返します。「証拠なく黒枹使様が私を裁くことはない。私も善意でしたこと。丁頓とは師弟関係だが、死から救ってやったのに再び罪を犯すとは思ってもみなかった」と飄々と告げます。
そこにあのチンピラ3人組連行されてきます。「お連れしました」「なぜ俺たちを捕まえる?」「あの時の老人じゃ?摂政官だったの?」「首を絞めたことは反省しています!」「摂政官様、彼女はまだ若いんです。お許しを」。懇願する青年たちと女。
「立つがよい。私も忍びない。君たちは未来を担う大黒柱だ。だがなぜ地界を裏切った?」「裏切る?ただのチンピラなのに何かの誤解です」。リーダー格の青年は困惑します。しかしもう1人の青年は吐き捨てるように言います。
「言うだけ無駄だ。噂どおりだな。摂政官は恨み深く、白をも黒にする。俺たちはおしまいだな」。
摂政官は表情を変えると、「愚か者たちめ。つまみだせ、全員処刑だ。ああ血は苦手だから感電死させろ。地君様の裁断を仰いでも?」と、格子の向こうに声をかけます。
地君は震える指でベルを鳴らします。
「命は下った。処刑を」「早く連行しろ」「ほら早く歩け」。「これで大団円ですな。地界の聖和と安定が守られるのですから」とにんまり笑う摂政官。
特調所の図書室で、所長は桑賛に言います。「待て。もう一度言うぞ、聖器に関する本を持ってきてくれ。分かったか?必要なのは”聖なる器”に関する本だ」「ぜ、全部その本です」「桑賛先輩、字は読めるか?」「全部、その本です」「こんなに?」。
ため息をつきつつ、本を読み始める趙雲瀾。「…つまらない本は性に合わない。沈巍が来てからにするよ」「分かりました」。
するとたまたま「古代秘聞録」が目に入り、趙雲瀾はそれを手に取ります。「こんな古典、あったか?」「おかしい、今までこの本はなかったです」「…仕事に戻れ」。
本を読み始め、眉を顰める趙雲瀾。「”大荒山主、その名はー崑崙”。桑賛、部外者は来たか?」と尋ねますが、桑賛は首を捻っています。「もういい、この本は寝る前にでも詠むよ」「どうしてその本を?」「男前の直感かな。さてと、招かざれる客がきたぞ」と、図書館から地下へ棒を伝って降りる趙雲瀾。
「招かざれる客だと?情報があればすぐに来いと言っただろ」と皮肉げに笑う叢波。
「やっぱり凄腕のようだな。もう何か収穫が?」と言う趙雲瀾の前に、写真の束が出されます。
「地下闘技場だろ?荒くれ者が戦って金を稼ぎ、暇な観客がそれを見て騒ぐ。どれだけの若者が再起不能になったか。何度も逮捕者が出たが、まだ戦ってる奴らが?」「事情を知ってるなら話は早いな。水くらい出せ」「俺たちはお前みたいに暇じゃない。さっさと話せ。賓客のつもりか?」。趙雲瀾が叢波を睨みつけると、彼は焦って椅子に座り話し始めます。
「分かったよ。俺の知る限り、ここは怪しい匂いがする。俺は女装して…」「待て、お前が女装しただと?ホラーか?」「そこに注目するな!とにかく中に潜り込んだんだ。見てくれ。俺がこの手でカメラに収めた」。
2枚の写真を見て驚愕する趙雲瀾。「闇の力?」。
龍城大学で、学長と話す沈巍。「沈教授、最近いいことでもあったのか?顔に書いてある。授業もテンポがいい」「果たして吉か、それとも凶か。答えは未知数です」と穏やかに笑う沈巍。「上層部からの通達を見たよ。意外だった。周教授や欧陽教授に続き、君まで重要部門に入るとは」「顧問はただの兼任です。研究には響きません」。
学長は何かを堪えるように手を握りしめます。それに気づいた沈巍は、「遠慮せず話してください」と促します。
「沈教授、気持ちは分かる。だが私としては教育の質を保ちたい。できれば選んでくれないか。顧問かそれとも教授か」「そうですか。では残念ですが…」「おじいちゃん!沈教授」「おじいちゃん?2人は…」。
飛び込んできた佳佳の言葉に驚く沈巍。
「言ってあるだろう?校内では学長と呼べ」「すみません。沈教授の授業は最高です。学生に大人気なんですよ。私も辞めてほしくない」「全く…いいだろう。結論は沈教授に委ねよう」。
佳佳と散歩する沈巍。「佳佳、隠し事がうまいな、気づかなかった。学長の孫なのか」「はい。おじいちゃんは厳しくて、校内では学長と呼べと言われています。でも気が動転して間違いを。聞こえちゃったんです。大学をやめる気ですか?沈教授は学生たちに愛されてます。教授がどちらにも在籍してくれたら、みんなが幸せになれます!」。
「黒兄さん、聞いてるか?黒兄さん!」。
ぼんやりしていた沈巍は、趙雲瀾の声ではっと我にかえります。
「だから…その、郭くんを地下競技場に調査に行かせて、楚も心配で同行したのだろう?たしかに最高のコンビかもしれないな」。微笑む沈巍。
「驚きだよ。入所したての頃、楚は郭ちゃんを究極に嫌ってた。それなのに今じゃ特調所の中で誰よりも面倒を見てる。楚は弟子を溺愛しすぎだと思わないか?」と頬を膨らませる趙雲瀾を見て沈巍は笑います。(友情という愛の形かもな)と内心呟きながら。趙雲瀾はどこか心配そうです。
地下競技場着いた楚恕之と郭長城。郭長城は不良にぶつかり、「どこ見てる」と凄まれます。「すみません、わざとでは。大丈夫ですか?」とぶつかった肩を触ろうとすると、不良は郭長城にメンチを切ります。しかし楚恕之が割り入ると、男たちはあっさり逃げていきます。「良い子は通用しない。俺に隠れてろ」と郭長城に忠告する楚恕之。競技場内を歩いていると、黒いマスクをつけた男が楚恕之を見て笑っています。
「何を笑ってる?」と楚恕之が怪訝に尋ねると、「あんた強そうだな。あいつ(郭長城)はビギナーか?カスを連れてくるな。相当やばい場所だぞ」とマスクの男は挑発してきます。睨み合う2人。「こいつは俺が守る。心配無用だ」と言う楚恕之。郭長城は楚恕之のマントの端を掴み続けています。
マスクの男は鼻で笑い去っていきますが、楚恕之は彼の去っていく背中を見つめています。「どうしました?」と尋ねる郭長城に、「さっきの奴だが…」と口を開く楚恕之。
趙雲瀾が趙心慈と顔を合わせたがらない、彼の上昇志向を嫌っている理由は、趙心慈が仕事に没頭・地界人に対し弾圧的な言動を取り続けたことで地界人たちに必要以上に恨まれ、結果、お母さん(妻)が人質に取られたのに趙心慈は「俺の仕事を分かってくれるはず」と手をこまねいて彼女を見殺しにしたからだったんですね…。お母さん…。
趙心慈は後悔している様子ですが、言動がいまだに支配的なので趙雲瀾には伝わっていない感じがします。
第18話 競技場の覇者
<あらすじ>
地下競技場を怪しむ趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は楚恕之(チュー・シュージー)と郭長城(グオ・チャンチョン)を潜入させる。
楚恕之はチャンピオンの野火(イエフオ)を挑発し対戦に持ち込む。
勝手な行動に腹を立てながらも心配で対戦を見に行く趙雲瀾。
楚恕之はマスクの男を追いかけようとしますが、中央のリングで戦いが始まった途端、勢いよく集まってきた観客に押され、2人はリングの周囲に張り巡らされたフェンスに押し付けられてしまいます。
「試合開始!ファイト!」「殴れ!いいぞ!」。あちこちから声が飛ぶ中、郭長城が「短髪の男の方が優勢ですよね」と隣の楚恕之に話しかけます。すると「なんだと!?」と近くの男が激昂し、喧嘩を買った近くの男と乱闘になります。
楚恕之と郭長城はフェンスから離れますが、凄まじい喧騒の中、郭長城は「どっちが地星人ですか!?」と楚恕之の耳元で大声で尋ねますが、楚恕之は無表情で郭長城の耳元に口を寄せると、「聞こえてるよ!!」と大声で返し、郭長城は目を回します。
郭長城は林静が発明した闇の力測定器を振りますが、全くの無反応。「反応しませんね」と言う郭長城に、「するはずない。2人とも人間だ。また出直そう」と楚恕之は淡々と言います。「そんな、明日も来るんですか?」と泣き声を上げる郭長城。
今回のバトルの勝利者が「チャンピオンは?」と審判に尋ねます。「彼に挑戦できるのは1ヶ月に1度だけだ」と答えられるも、納得できない様子。
「野火!毎日見てるんだろ!男なら姿をみせて正々堂々と勝負しろ!」と彼は叫びますが、審判は「彼の闘争心を煽るのは難しい」と首を振ります。
それを聞いた楚恕之は良いことを思いつきます。「つまり闘争心を煽ればいいのか、もしくは観客を盛り上げればチャンピオンが姿を見せる可能性も」「あの人も相当強いんでしょうね」「試してみよう」「何をするんです!?降りてください!!」。
楚恕之が突然リングに上がります。「俺がお前の相手になる」「危ないですよ!飛び入り参加はルール違反ですよね!?」。郭長城は慌てて審判に尋ねますが、「リングに上がった者は戦うしかない。勝つことだけがルールだ」と言われてしまいます。「チャンピオンと戦うのは俺だ」と相手を見下ろす楚恕之に「生意気な」と歯軋りする勝利者の男。
マスクの男はその様子をずっと部屋の隅から眺めていました。
郭長城は楚恕之を心配します。しかし楚恕之はあっさりと勝利者の男をKO。
「新たな勇士の誕生だ!」と叫ぶ審判に、「チャンピオンに挑戦できるか?俺に挑戦する資格は?」と楚恕之が挑戦的に競技場を見回しながら言うと、「ある」と言いながらマスクの男が現れます。
「あんたか」「受けて立とう。お手並み拝見だ。本当に他人を守れる力があるのかどうかを。俺に勝てばベルトを渡す」とチャンピオンベルトを掲げるマスクの男。盛り上がる観客。
「公平を期すため双方休憩を。1時間後に戦いの火蓋は来られる!」と審判は叫びます。
「楚に自ら戦えとは指示してないぞ!言い訳はいい、もし失敗したら二度と顔を見せるな!」。電話の先に激怒する趙雲瀾に驚く沈巍。「楚は無茶をする癖がある。俺という上司も眼中にない!」「…君も同類では?」ほんのり笑う沈巍。
「忘れてたよ。あんたは楚が崇拝する存在だったな。昔 楚は罪を犯し摂政官に処罰されたが、あんたの情けで特調所に配属された。あんた以外に服従するはずない」「…正直に言う。彼を入所させたのは内偵にするためだった」。真っ直ぐな目で趙雲瀾を見つめる沈巍。
「はは!それくらい想像はつく。だが一匹狼の楚は内偵に向いてないし、黒兄さんは人格者だから俺を陥れるはずがない。だから目をつぶってきた」「ではこの件は水に流してくれるのか?」「この件?元から何もない。だが楽しみだな。あんたの正体を知った時、楚がどんな反応をするか」。心底楽しげに笑う趙雲瀾。
控室で両手をテーピングする楚恕之。そこに先ほど楚恕之に負けた男が、入ってきます。
「あんたが俺より強いのは分かった。お願いがある。奴を痛い目に遭わせてくれ」「恨みでも?」「あいつは人間の顔をした獣だ。新入りに優しく接しながら、その芽を潰そうとする」。
マスクの男は、控え室にいた男に「炭酸は体に悪い。控えめにしろよ。これを」と、自分が持ってきた水筒を差し出します。
「弟はあいつに騙された。そして…」。
「小傑!小傑!遅くなってすまない、小傑!目を開けてくれ、俺が悪かった。目を開けてくれ…」。弟はリングの上で死んでおり、兄は彼の亡骸を抱きしめて泣きます。
「弟は自殺したんだ。無力な兄の気持ちがわかるか?俺は…」。涙する小傑の兄。
「その話が本当なら、俺が恨みを晴らしてやる」と無表情に立ち上がる楚恕之。
「ほら早くしろ、どちらが勝つか賭けようぜ」「俺の予想を信じろ」「野火が勝つに決まってる、あいつは無敵だ」「いくらだ?100元賭ける」。観客たちが騒ぐ中、控え室から郭長城を伴って出てきた楚恕之は「ここで待て、気をつけろ」と背後の郭長城に忠告します。「楚さん」と郭長城が楚のタンクトップの裾を不安げに掴みます。珍しく笑顔を見せ、郭長城を勇気づける楚恕之。
楚恕之の背中を見送っていた郭長城は、観客たちの賭けに巻き込まれます。
「ぼけっとするな!来いよ!」「賭けろと?」「みんな賭けてる。挑戦者と野火、どっちが勝つと?」「…挑戦者だ」「本気か?100元からだぞ」「本気だよ」。
持っていた100元を取られますが、郭長城はそれを取り返し、1元を差し出します。「1元?冗談だろ」と笑う観客たち。すると試合開始のベルが鳴り響きます。「試合が始まるぞ、行こう」。観客たちは一斉にリングに駆け寄ります。
審判の「試合開始、ファイト!」の掛け声と共に、リングに鍵が掛けられます。早速闇の力を使う野火。楚恕之は彼の手から出た炎に目を見張ります。「野火の名の由来が?」と笑う野火に、「なるほどな」と笑い返す楚恕之。
落ち着かない趙雲瀾を見つめる沈巍。「誤解するな、楚を心配してるわけじゃない、だが郭ちゃんは非力だからな。それに2人は俺の部下でもある。見に行くのは当然だろ?」「言い訳はいい。そういうところが趙雲瀾たる所以だな」。沈巍は微笑みます。「この性格は長所なのか、それとも短所なのか」と歌うように言う趙雲瀾。
野火に押され気味の楚恕之。「楚さんもう帰りましょう」と半泣きの郭長城の横で、「立ち上がれ!弟の恨みを晴らすと約束しただろ!諦めるな!」と小傑の兄が叫びます。その瞬間、目を見開き、野火を睨みつける楚恕之。楚恕之が繰り出したパンチで野火のマスクが外れると、野火の顎にはおぞましい火傷の痕が広がっていました。そこから徐々に野火が楚恕之に押され気味になっていきます。
すると、「俺たちが賭けに負ける!奴に勝たせるな!」と、野火に賭けていた観客たちが暴徒化。リングの鍵を破壊し、次々なだれ込みます。そこに現れた趙雲瀾と沈巍。「静かにしろ!」と趙雲瀾が天井に向けて発砲します。しかしその隙に野火は姿を消してしまいました。
「逃げられた」と言う楚恕之に、趙雲瀾は「ここの社長を探せ」と郭長城に命じます。
「人間に弾が当たってたら闇の銃だとバレてたな」と舌を出す趙雲瀾。沈巍は嫌な予感を感じます。
「地下競技場は来る者拒まずだが、こんな騒ぎになるとは」「来る者は拒まずだが、出ていく者は?この記録を見ると、大勢の若者が試合後に姿を消している」「みんな家族にも疎まれる不良少年だ。素行が悪くすぐに喧嘩を。どこかで死体が見つかったとして、私に何の責任が?」「口を慎め」「少し言い過ぎた。仲良くしよう」「お断りだ」。社長の周は消えた若者たちの行方は知らないとシラを切り、趙雲瀾は疑念を強めます。
郭長城が小傑の兄を連れてきます。「この方も当事者です。以前野火に…」と説明する郭長城に、「分かってる」と話を遮る趙雲瀾。「どこから来た?」「何だって?」「早く家に帰るんだな。忠告だ。諦めろ。あんたは奴に敵わない」。趙雲瀾が彼の目を見てはっきり言いますが、小傑の兄は諦められないようで「失礼する」とだけ言ってその場を去ります。沈巍に目を遣る趙雲瀾。
野火がバイクに乗ろうとすると、「帰るのか?」と小傑の兄がバックミラーに映ります。
「悪いがお前のことは記憶にない」「俺は覚えてる。2年間お前を倒すことだけを考えてきた」「2年間?何の話をしてる?」「とぼける気か?小傑はお前を慕っていたのに、お前は期待だけさせて絶望に突き落とした」「小傑?」。
「野火さん、俺に勝たせてください」と控室で野火に跪く小傑。野火は慌てて彼を立たせます。「何の真似だ」「野火さんは連勝してる。1度くらい負けたって平気でしょう?でも俺は…賞金がないと困るんです」
「正気なのか?」「野火さんは新入りに親切にしてくれる。傷を怖がる人もいるけど、俺は平気です。あなたは優しい。野火さん、このとおりです」。再度膝をつく小傑をまた抱き起こす野火。呆れたように控室を去る野火を、小傑は承諾してもらえたと勘違いし、輝く笑顔で見送ります。
その後の試合では、野火が当然のように勝利します。「野火の勝利だ!タイトル防衛に成功!」と審判が彼の手を取り、天に突き上げます。野火コールの中、彼はリングを下ります。
小傑が全身打撲痕だらけで暗い顔をして帰ろうとしていると、チンピラたちがバットを片手に「小傑、お前競技場期待の星なんだろ?賞金は?猶予はやったぞ」とにやつきながら近づいてきます。「もう少し待ってくれ」と懇願する彼に、「ふざけるな、やれ」と複数人で殴る蹴るの暴行を加えるチンピラたち。
それを見た野火は1人で彼らを全員殴り散らし、「失せろ」と吠えます。
「悪かった、こんな事情があったのか。俺はただ…」と言う野火の手を振り払う小傑。「謝罪は受け入れる。でも俺は一生あんたを許さない…」。小傑はじっとりとした目で野火を睨みあげます。
小傑のことを思い出した野火。
「なるほどな、眉の辺りが似てる。あいつは俺に負けた。勝利は自分の力で掴み取るものだろ?つまり、弟の敵を討ちにきたのか」。「弟の苦悩も知らないくせに…。小傑はお前が殺したんだ。金を稼ぐために小傑は競技場に行った。だがお前に裏切られ希望を失ったんだ。何もかも遺書に書いてあった!」と小傑の兄は叫びます。
遺書にはこう書かれていました。「兄さん、俺は役立たずだ。兄さんは家族のために働き交通事故に。俺は借金まで作って家族に迷惑をかけた。あわせる顔がないよ。だから先に逝く。この手紙を読む頃、情けない弟はもうこの世にはいない」。
「復讐のために俺は必死で治療を、受け回復した」「ふん、そんな事情があったとは知らなかったよ。今あんたがぴんぴんしてると知って、弟は天国で喜んでるさ」「挑発する気か?今日こそ敵を討つ」「小傑の件は残念だ。だがその実力で俺に勝てるとでも?」。
野火は小傑の兄を挑発し、殴り合います。しかし勝機がないと分かった途端、小傑の兄は懐からガソリン入りの瓶とライターを取り出します。
「勝てないなら道連れにして死ぬ!その顔と同じように体も焼いてやる!」「ふふふ…この顔は誰に焼かれたと?自分で焼いたんだよ!自分の火でな!」。その言葉にぞっとする小傑の兄。「お前は何者なんだ?」。
野火は手から炎を出し、小傑の兄の肩に闇の力を思いきりぶち当てます。
しかしその瞬間、黒枹使が登場し、2人の間に割り込みます。小傑の兄に「早く行け」と言うと、彼は不服そうにしながらもその場から逃げ出します。彼が見えなくなったのを確認し、黒枹使は沈巍に変身。
「黒枹使様のお出ましとは光栄だよ」「理由は何であろうと罪は償え」「悪いな、まだやることがある」。野火はバイクで逃走。沈巍は後ろから来た趙雲瀾の車で彼を追跡します。分かれ道で追跡を逃れる野火。どっちへ行ったのかと立ち往生する趙雲瀾と沈巍の後ろから車が到着します。中から出てきたのは、大慶と林静。
「時間外勤務だ、残業代をくれよ。あと、楚からベルトを預かった。”すぐに所長の後を追え”とさ。万事休すって感じだね。俺の力が必要だろ?」と軽口を叩く林静に、「無駄口をたたくな、この男を探せ」と不機嫌に言う趙雲瀾。「任せて」と言う大慶。
「見つかるか?」と眉を顰める沈巍に、「安心しろ、林静はガラクタばかり発明してるが、闇の力には詳しい」と言う趙雲瀾。「沈教授の前だ、もっと褒めてよ」と拗ねる林静に、「黙って働け」と喝を入れる趙雲瀾。林静と大慶はチャンピオンベルトから闇の力を検出します。
「なぜか野火は、左ではなく右の道を選んだようだ」と呟く沈巍。「見つかった!ボスこれを。おかしいな、左の道を1キロ進んだところに別の闇の力が。右側の闇の力は間違いなく野火だ。左側の方は奴のアジトかも」と言う林静。「二手に別れよう。2人は左へ、俺たちは右に」「分かった」。
林静たちは謎の豪邸に到着。趙雲瀾たちは倉庫街に捨て置かれた野火のバイクを見つけます。
「随分と大きな家だな。本当にここか?一人でこんな家に?」と訝しげな大慶に、「科学は人を裏切らない。絶対ここだ」と自信満々の林静。「しかし広い家だな、猫も飼い放題だ」と呟く大慶に吹き出す林静。すると、「やはりここが奴の家だな」と小傑の兄が茂みから現れ、林静たちは驚きます。
倉庫内を慎重に進む趙雲瀾と沈巍。2人の背後から突然野火が現れ襲いかかりますが、沈巍があっさり近くのドラム缶に彼を縄で縛り上げます。野火は近くにあるプロパンガスに自分の炎を引火させようとしますが、沈巍は素早くガスを無効化させ、手から出した刃を首に突きつけます。
野火は悔しげにしていましたが、「俺の負けだ。あんたと戦えて嬉しかったよ」と負けを認めます。「燭九との仲は?」と尋ねる沈巍に、「燭九とは?」と不思議そうに尋ねる野火。「知らないのか?なら良かった。話は特調所で聞かせてもらう」と言う趙雲瀾に、「待て、連行される前に1つ頼みがある」と野火は懇願します。
林静たち3人は豪邸の中をゆっくりと進んでいました。2階の奥の部屋にそっと入った途端、少年2人に突然殴りかかられます。
「あの2人(楚恕之と郭長城)が客を外へ」と周社長に報告するスタッフ。「好きにさせておけ、お前も帰れ。門を閉めろよ」「はい」。疲れたように控室の椅子に座る周社長。
不気味な空気を感じ取り、「誰だ!」と周社長が叫ぶと、燭九が現れます。
「奴らに見つかった。もう終わりだ。取引は中止しよう」「あんたの長所は何だ?金のためなら恥も良心も捨てるところだろ?今更怖気づくとはな、心から失望したよ」「ではどうしろと?恥や良心は捨てられても命は別だろ!」。周社長は必死で燭九に言い縋ります。
燭九は周社長の手の中のキーに目線を移します。「遠隔操作で火を。死体を焼いて証拠を消せばいい」と笑う燭九に、顔色を失う周社長。
そこに間の悪いことに先ほどのスタッフが入室してしまいます。「誰だ!?」と叫ぶスタッフに笑う燭九。
「人間ってのは余計なことにクビを突っ込む」「待て!こいつは私の仲間で…」。周社長が言い終える前に、燭九はスタッフを即死させてしまいます。
「悪いな、つい先に手が出てしまった。俺を責めないよな?」「も、もちろん責めるわけない」「人間は強者には逆らえぬ愚かな生き物だ。よく考えてみればこのまま生かしておく価値はないかな」。燭九は周社長ににじり寄ります。「燭九さん、どうか命だけは…!」と懇願する周社長ですが、燭九はあっさり彼を殺害。しかし趙雲瀾に撃たれた傷が痛むようで、患部を握りしめ呻きます。「恨まないでくれ。俺はせっかちなんだ」と笑う燭九。
するとそこで突然郭長城が控室の扉をノックします。「中に誰かいますか?」。楚恕之と郭長城が入室すると、そこには周社長とスタッフの死体が。密室のはずなのにと驚愕する2人。
趙雲瀾たちは大慶たちの後を追い、豪邸に到着します。「罠にはまったな」と苦々しく言う趙雲瀾。そこに電話が入ります。
「もしもし、何だと?周社長が殺されてる?ちゃんと仕事をしろ!もう知らん!」。電話先に怒鳴りつける趙雲瀾。沈巍はバルコニー辺りを見て、違和感を感じ目を凝らします。「どうした?」「嫌な予感が」。
その会話の直後、沈巍が見ていたバルコニーから少年たちが顔を出します。「おい!火兄貴を解放し、車を用意しろ!さもなくば仲間を殺す!」。
「やはりな」「おい、お前たち2人、ガキはおとなしく勉強してろ!」。趙雲瀾が少年たちに叫びます。
その頃、林静・大慶・小傑の兄は縄で縛られソファーにぎゅうぎゅうに座らされていました。林静がくねくねと体を動かすので大慶が「何してる」と顔を顰めると、「物を取りたい。手伝え、ポケットだ」と林静が指示します。
「過ちを犯してもやり直せばいい」と説得しようとする沈巍に、「まさかまた同情心が芽生えたか?この前知ったが、地界には学校がないんだな」と口を挟む趙雲瀾。
怒りを堪えるように、「何度も提案しているが、地界は状況が複雑で認可されない」と言う沈巍。「相手の身になって提案するのが大事だ。今度説得する時は俺を助っ人に」「今度だって?前回連れて行き大変なことになった。必要がない限り二度と行くな」。いつの間にか趙雲瀾と沈巍の口喧嘩になっています。
大慶が探し当てた物を見て、「それだ」と言う林静。「これはなんだ?」「しー!最新の発明だよ。1km以内の声が聞ける。外の様子が分かるぞ」「また妙なものを」「いいから俺の耳につけてくれ」。大慶は渋々林静の耳に補聴器のようなものをつけてやります。
「必要があれば地界に行っていいのか」「駄目だ」「いいだろ」「駄目だと言ってる」。押し問答状態の趙雲瀾と沈巍。
「おい!聞いてるのか!」と叫ぶ少年たちに、「無視してるわけじゃない。話し合ってたんだ。こうしよう。ひとまずこいつの意見を聞いてみるか」と、趙雲瀾は車から野火を解放します。
「火兄貴、無事ですか!」と安堵し叫ぶ彼らに、「もうやめろ、俺は地界へ行き罪を償う。俺のようにはなるな。この2人を信じろ」と言う野火。しかし、「2人に脅迫されてるんですね?そう言わされてるのでは?」と少年たちは全く信じていません。
「すまない、俺の指導不足だ。大目に見てくれ」「構わないが、あいつらとはどんな関係だ?」。野火と趙雲瀾がそう話した途端、少年たちが揃って「命の恩人だよ」と叫びます。
ある日の地下競技場で勝利した少年。
「また新たな英雄が誕生したぞ!」という観客の声援の中、「最高だった」と仲間の少年たちに背中を叩かれ、「いつか野火さんも倒します」と彼は意気込みます。「いいぞ」と顔を綻ばせる野火。
そこに周社長が現れます。「素晴らしい、思ったとおりだ。お前は野火の次に実力がある。そうだろ?」と笑う彼に、野火は「次はお前たちの番だ。頑張れよ」と今日の勝利者である少年の後ろにいる数人の少年たちに声をかけます。
周社長は「ちょっと話がある」と勝利者の少年の背に手を回し、少年は「先に帰ってろ」と仲間たちに告げます。
野火が少年の後に続いて控室に入ろうとすると、部屋の中から「周社長、何を…」「来世で分かるさ」と恐ろしい会話が聞こえます。そっと扉の隙間から中を見ると、周社長は燭九から金を貰う代わりに少年のエネルギーを吸わせ、それを瓶の中に入れさせていました。
「こいつには何人か仲間がいるんだ。合格ならまた差し出そう」という言葉に、野火の後ろからついてきた少年たちを慌てて散らせ、自分も姿を隠します。
「やはり燭九が関与していたか」と言う沈巍に、趙雲瀾は「それから?」と野火に話の続きを促します。
「奴は怪物だ。若者たちを救わねばと思った。家へ帰らせたり他の街に行かせたりしたが、あいつらは今も俺のそばに」。
「この金をやる。何か仕事を探せ、ほら」と野火は賞金の一部を差し出しますが、少年たちは金をそっとつき返します。
「兄貴は恩人です。ずっとそばにいる。将来ましな仕事を見つけたら、必ず恩を返します」とバルコニーから叫ぶ少年たち。
「若者の数が減り、社長が疑われ始めた。それで方法を変え、新入りが目をつけられる前に俺が倒すようにしたんだ。特殊能力で新人を打ちのめした。タイトル防衛のおかげで観客が増え、社長は俺を解雇しなかった」と野火は自分の不可解な行動の理由を説明します。
「なんてことだ、つまり奴は小傑を救おうとしたのか…」と呆然とする小傑の兄。その声が大きく、大慶は「静かに」と注意します。
すると、「おい、うるさいぞ、耳に何を?」と少年が目ざとく気づいてしまいます。
「別に何でもない」「どけ」と揉み合う少年と大慶たち。
「話は以上だ。俺を連行するんだろ?あの2人は無実だ。許してやってくれ」と頼む野火ですが、少年たちは「兄貴大丈夫だ、こっちには人質がいる!」と叫びます。
「まだ分からないのか?ガキはおとなしく勉強してろ!俺たちが何の手もうたずここで無駄話してると?」と怒鳴る趙雲瀾。
少年たちが気づいた時には、楚恕之と郭長城が室内に入り込んでいました。楚恕之が鮮やかに少年たちを糸で縛り上げ、郭長城が暴れる彼らにすぐさま電流を流し大人しくさせます。「楚さん!」と嬉しそうに振り向く郭長城に、「ふむ、悪くない」と褒める楚恕之。
「言い残したことは?」と野火に尋ねる沈巍に、「黒枹使は掟を厳格に守る。例外はない。素直に従うよ」と静かに言う野火。
「そうとは限らない。鄭意という…」と言いかけた趙雲瀾を遮るように、「地界には地界の掟がある。正体を隠し地上で生きていけたのに、お前は若者たちを救うために特殊能力を使った。人を守ろうとしたことは情状酌量に値する。寛大に処置しよう。早く龍城を離れろ。燭九に見つかる前にな」と沈巍は言い渡します。
「仲間たちは?」と尋ねる野火に、「安心しろ。俺たちが世話する。楚、郭ちゃん、2人を安全な場所へ。重要な任務だ。粗相があれば年末のボーナスはない」と笑う趙雲瀾。
楚恕之はチャンピオンベルトを野火に返します。「過去は忘れてやり直せ」「なぜベルトを返す?」「俺はお前に勝ったが、お前は大勢の命を救った。ベルトを持つにふさわしい」「ありがとう、羨ましいよ。地上で自由に生きてる」「そうだな、残念ながら上司が高慢で困るよ」。楚恕之は皮肉げに笑います。趙雲瀾は「楚、彼(小傑の兄)も一緒に」と、彼の世話もするよう命じます。
燭九たちは趙雲瀾たちの様子を遠くから眺めていました。「どうやら俺の計画どおりだ、実に気分がいい」と呟く燭九ですが、突然激しく咳き込みます。
「喜ぶのはまだ早い。ボスの3つの命令は?1つ 聖器の収集、2つ 若く新鮮な人間を見つける、3つ…」と数え上げる鴉青に、「黙れ!傷はどんどん深くなってる。もう時間がない。そろそろ本気で仕掛けねばな」と独りごちる燭九。
野火が誤って顔を焼いてしまった理由が気になります。幼い頃に火の加減が分からなくて、とか?
摂政官が腹黒狸なのは分かったんですが、それ以外にもまだ地君との関係や燭九との繋がり、燭九や趙雲瀾を唆した謎の塔の存在が気になっていますり
燭九たちがボスに命じられている3つ目の事柄は何だ?
郭があざとかわいい&楚が爆イケすぎて、楚郭妄想が捗りました…☺️❤️
第19話 絶体絶命
<あらすじ>
野火(イエフオ)を慕う若者たちを燭九(ジュージウ)から守る任務を受けた楚恕之(チュー・シュージー)と郭長城(グオ・チャンチョン)だが、用意周到な燭九に捕まってしまう。
絶体絶命の楚恕之たち。
趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は危険を承知で聖器を手に取る。
「兄貴は無事だよな?」と確認する少年に、「もちろん」と笑顔で答える郭長城。「約束するか?」と不安げな彼に、「絶対だ。所長は必ず約束は守る。みんなの身の安全は保証するよ」と念を押します。
すると突然車が原因不明で止まってしまいます。「見てくる。車内で待て」と楚恕之が車外に出た瞬間、燭九が現れ、楚恕之に殴りかかります。
「やっと表に出てきたか」「速さなら俺が地界で一番だ。力で劣ってもお前には捕まらない」「俺を倒せるとでも?」と燭九の挑発を楚恕之が鼻で笑うと、楚恕之を心配した郭長城が車から出てきてしまいます。
「楚さん!」「危険だ、戻れ!」。楚恕之が一瞬車に振り返った瞬間、燭九が彼の腹に闇の力を込めた蹴りを入れます。
燭九の攻撃によろめき、楚恕之は車のボンネットに縋りつきます。楚恕之と少年たちを守ろうと郭長城は電流棒を振り翳し、「手を引け!」と燭九に立ち向かいます。
燭九は郭長城とその背後にいる少年たちを闇の力で吹き飛ばします。
「新鮮な餌が手に入ってあの方も喜ぶ」とにやける燭九は、口から血を流す小傑の兄を見て、しゃがみ込みます。「見た顔だな。波比じゃないか!はは、もう少し骨のあるやつかと思ったが、ここまで軟弱とは。あの小傑の兄じゃ仕方ないか」と笑う燭九。
「俺の弟を?」「知ってるさ、「”大好きな兄さん、この手紙を読む頃、情けない弟はこの世にはいない”」「なぜ遺書の内容を?」「結局クズの弟はお前を救えなかった。”合わせる顔がないよ、だから先に逝く”」「なぜ知っている!?」「決まってるだろ。読んだからさ」。
小傑はリングの上で遺書を書いていました。傷だらけの顔で、競技場を見回します。「やっぱり考え直そう」と遺書を破ろうとした途端、「待て。死なないのか?」と燭九がにやけながら近づいてきます。
「誰だ?」「人間が俺を何と呼ぶのか知る必要はない」。小傑に手をかざし、燭九はあっさりと彼を殺します。「力を吸収しようと思ったが、傷だらけで大して栄養もなさそうだ」。小傑の遺体の下に遺書を挟む燭九。
「死を望んだから叶えてやった。俺は見物しただけ、あとで奴の胸の上に掌印を押してやったよ」「お前が殺したくせに!」「簡単な実験だ、確かめたかった。人間の憎悪がいつまで続くのか」「腐った悪魔め!」。
波比は燭九の脚にしがみつき、燭九は彼を闇の力で殺そうとします。しかしそこに野火が登場。「龍城を出たはずなのになぜ?」と言う郭長城に、野火は「仲間の無事を見届けるために戻った、奴を倒さないと安心できない」と返します。
野火を見て目を細める燭九。「後で殺す予定だったが、自ら命を捨てに来たか。そのうち現れると思っていた。ちょうどよかった。お前達をまとめて片付けてやる」。
波比は「野火、誤解してた。お願いだ。弟の敵をとってくれ」と野火に懇願します。
燭九に戦いを挑む野火。楚恕之の力が戻り、彼を糸で拘束。野火が燭九を殴打します。殴られた燭九は「動くな。周社長は馬鹿じゃない。お前達の復讐を予想して商品に細工を施した。俺が使わせてもらうがな!」と掌に隠していたスイッチを入れます。野火は慌ててリュックを放り投げますが、大爆発。燭九以外の全員が失神してしまいます。
聖器を前に趙雲瀾は考え込んでいます。聖器がおもむろに光りだしたため、ふと沈巍の忠告を思い出すも、危険を承知でそれを手に取ると、「燭九へ導いてくれ」と願います。その瞬間、脳内にまた映像が流れ込み、趙雲瀾はその場で失神します。
趙雲瀾が辺りを見回すと、実験室のような場所で、凍った楚恕之・郭長城・野火の遺体が台の上に乗せられていました。「目を覚ませ!」と趙雲瀾が焦って楚恕之の頬を叩くと、楚恕之はカッと目を見開き、趙雲瀾の首を絞めます。「これは始まりだ。ははは…!」と笑う楚恕之に、「お前は…」と苦しみながら声をあげる趙雲瀾。
趙雲瀾が目を覚ますと、目の前には沈巍が。「どうも最近すぐぶっ倒れる。ヤバいよな」と趙雲瀾が笑うと、彼の頬には血がついていました。沈巍は珍しく激怒し、無言で彼の胸ぐらを掴みあげ睨みつけます。怒りを抑えられないとばかりに近くの鉄鋼を握りしめ、息を整える沈巍。しばらくした後、懐からハンカチを出し、趙雲瀾の鼻に力任せにそれを押し付けます。
「(聖器を)触ったのか?」「燭九を捜すのに聖器を使えないか運を試しただけだ。全く役に立たなかった」。沈巍は呆れます。
「具合は?」「何ともない。でも夢を見た。夢の中で、楚と郭ちゃん、それに野火が死んでた」「死んだ?」。眉をひそめて尋ねる沈巍。
「それは…ただの夢じゃない。以前、地君殿で大量の資料を読んだ。闇の力が人間に与える影響についてだ。闇の力に感染したあるケースでは、時間軸を混同する症状が現れた。時間の流れとは異なる情景を見聞きしていた。過去あるいは未来を。君が見たのは予知夢かも」と沈巍は淡々と告げます。
「今日から中秋節だ」と楽しげな林静に、「最近忙しくて節句どころじゃない」と膨れる大慶。「確かに。燭九を捕まえるまでお祭りはお預けか」と林静は肩を落とします。
趙雲瀾と沈巍が特調所の部屋の奥から険しい表情で出てきます。
「鼻血が出てる」と言う祝紅に、「楚たちが出て何時間経つ?」と趙雲瀾が尋ねます。「6時間ほど。大した距離じゃないのに遅いな」と言う林静に、「電話しろ」と趙雲瀾が言いますが、「圏外だった」と大慶が即答。
その時、汪徴が「匿名のメールを受信しました」と声をあげます。
汪徴のパソコンの前に集まる一同。メールには動画が添付されていました。
趙雲瀾が見た夢と同じ部屋の中で、楚恕之と郭長城と野火が縛られています。「趙所長、沈教授、ここがどこか分かるかな?要求を言う。3人を助けたいなら長命時計と山河錐を俺に渡せ。人質かお宝か選ぶがいい。時間がないぞ。今日中に回答しろ」と燭九は言い、動画は切れます。
「どうする?」と不安げな大慶に、「聖器は渡せない。だが人質を助けなくては。燭九を捕らえれば監禁場所が分かる」と言う沈巍。「沈教授、簡単に言いますけど、こいつは捕まえるのは一苦労だ。どうやって?」と言う林静に、「方法は1つだ」と趙雲瀾は告げます。
郭長城はどうにか林静に持たされた小型カメラを起動させ、部屋の情報を特調所に伝えようとしていました。しかし郭長城の明らかに妙な動きに燭九はにやつきます。
「何も持ってないぞ!」と叫ぶ郭長城をひっくり返すと、彼の手からカメラがこぼれ落ちます。「場所を教えようとしたな?無駄だよ。ここに似た実験室など龍城に山程ある。選択肢は与えた。さて所長はどうするかな?」と燭九はにやつきながら、カメラを踏み潰します。
「1分間?」と繰り返す大慶。「あとは奴を1人にする必要があるな。そのために…」と言う趙雲瀾に、「私が行く。人を借りたい」と沈巍は祝紅を見つめます。「私?」と驚く祝紅と大慶。
「さすが炎の能力者だ。あれだけの爆発で直撃を受けながらまだ生きているとは」と、大火傷に呻く野火のそばにしゃがみ込む燭九。郭長城は「このままじゃ死んでしまう!手当しないと!救急箱ぐらいあるだろ!?」と悲鳴をあげます。
「俺は人殺しが専門だぞ?無理な相談だ」「頼むから手当させてくれ。僕ならできる」「縄を解かせるのが狙いか?なら代わりににお前が死ね」と、燭九は郭長城に詰め寄ります。
「…いいとも」と覚悟を決めた表情で燭九を睨みつける郭長城。「こいつ…聖人ぶるな!これでもか?」と郭長城の首を絞める燭九。
そこに、「苦しませたいんだろ?簡単に死なせてはつまらないぞ。生かして地獄を味あわせたらどうだ?」と楚恕之が淡々と口を挟みます。
それを聞き、燭九は笑います。「確かにそのとおりだな!地界の禁忌を破った楚恕之だけのことはある!」。郭長城の縄は解かれます。「おい、処置しろ!早くやれ」と郭長城に命じる燭九。郭長城は燭九を睨みつけながらも、急いで手足の縄を解き、野火の手当てに取り掛かります。
沈巍と歩道を歩きながら、祝紅は笑います。「どうした?」「久々の趙雲瀾の任務で組む相手があなたなんて。…私って滑稽?」「いいや」「いいのよ、私が彼を好きなのはバレバレだもの。あの人が分からない。気づいてるくせに知らぬフリをしてる。はあ…」。ため息をつく彼女に、沈巍はアドバイスをします。
「愛情のことはよく分からないが、生物工学的に言えば、最短で3日、長くて3年で恋愛事のホルモンは分泌が止まる。気持ちが変わるかもしれない」「長くて3年か。短すぎるわ。変わらない感情も存在するのかしら?あなたと趙雲瀾の友情みたいに?」。当てこするような言い方に、笑う沈巍。「かもな」と返すと、祝紅は早足で沈巍より先を歩き出します。
郭長城の手当てに苦しむ野火。燭九は楚恕之のそばに座り込みます。「お前は危険だから縄は解かない。ところで、あの方のために俺と一緒に働く来はないか?」と、燭九は楚恕之の肩に手を回します。
「”あの方”?」「俺には分かる。お前の本心が見えるんだ。連中を信頼してない。どうだ。俺と共に海星人を討ち、黒枹使を倒すんだ。地星人が団結し、新しい世界を築く。光明の時代をな」。高らかに演説する燭九を前に、大笑いする楚。燭九もそれに釣られて笑います。
郭長城は怯えきり「楚さん、駄目です!」と叫びますが、「哀れな奴め!世迷い言を言うな、馬鹿な男だ!」と楚恕之は燭九に吐き捨てます。「黙れ」と燭九が楚恕之の頬を掌で打ちますが、「ははは!効かないな!」と挑発。「殺してやるぞ」と燭九が殺気を漲らせたため、郭長城が救急箱を持ち、燭九を攻撃しようとします。睨み合う燭九と楚恕之。
そこに燭九宛に電話がかかってきます。
電話は特調所にいる趙雲瀾からでした。
「応じよう。聖器を渡そう」「よし、だが特調所に俺は入れない」「交換場所はあとで連絡する」。
通話を終えると、「仕事だ。いい子で留守番してろ」と部屋を出る燭九。
「そうだ、ここは実験室だと言ったが、正式には”絶対零度実験室”だ。室内の温度は徐々に低下する。お前達が凍りつくまでな」と彼は笑います。「悪党め!最初から殺す気か!」と叫ぶ郭長城に、「当たり前だろ。苦労知らずの坊っちゃんめ、その甘さに吐き気がする。楽しくやってろ」と燭九は笑ってドアを閉めます。
その瞬間から、室内に冷風が吹き始めます。
「早く縄を解け!急ぐんだ!」と楚恕之に命じられ、慌てて楚恕之と野火の縄を解く郭長城。
「零度くらい平気ですよ、龍城の冬は氷点下になるし」と空元気を出す郭長城に、野火は「気温じゃない。熱力学の絶対零度だ。摂氏マイナス273度だよ」と青ざめた顔で告げます。郭長城は驚愕。「もうだめかもな、終わった」とぽつりと呟く野火。
蛇族の青年が「長老、客です」と祝紅の叔父を呼びにきます。「食事時に訪ねてくるとは」と叔父がぶつくさ言っていると、沈巍が現れます。
「あんたは黒…」「特調所の顧問の沈巍です」。食い気味に言う沈巍に、「今日は何のご用件かな?」と尋ねる叔父。
「長老、こいつは何なんです?」と訝しげな青年に、「黙っていろ」と叔父は渋い顔をします。
「すでにお聞き及びでしょう。特調所は聖器を狙う者と戦いの最中にいる。烏賊の長老が敵に加担しています。同じ長老として彼女の動きを押さえていただきたい。数時間でいい。それで戦局が決します」「言うは易しだ。蛇族は中立を貫いてきた。人間たちの戦いには関与しない」。頑なな叔父に、「そう言われると思って同僚と来ました」と沈巍が言うと、彼の背後から祝紅が現れます。
「祝紅か…」「叔父さん、冷たいわね。私も特調所の一員よ」「お前という奴は…私を困らせてでも上司を助ける気だな」「叔父さん、お願いよ」。叔父の腕に手を絡め、上目遣いで甘える祝紅。
「烏賊の恨みを飼うのは控えるべきでは…」と口を挟む青年を、「口を出すな」と叱る叔父。その瞬間、青年がハッとして「花の香りだ」と呟きます。
空間から光の粒と共に現れる迎春。
「蛇族ったら進歩がないわね、度胸もない」と怒る迎春に、「花族めが、何を言うか」と睨む叔父。「族長の座は長年空位で何事も三長老で決めてきた。不干渉にはお前も賛成だったろ」「何が三長老よ、鴉青のことは知っているはず。早く彼女の目を覚まさせないと」。
言い合う2人に、「叔父さん」と祝紅がダメ押しのように縋り、沈巍も無言で叔父を見つめます。叔父は狼狽え、しばらく目線を彷徨わせると「分かった」とだけ口にします。
実験室の外で激しく咳き込む燭九。鴉青は「趙雲瀾は悪知恵が働く。私なら考え直すわ」と燭九の行動に疑問を呈しますが、「お前と違って俺は実行する。お前など情報を伝えるだけで何もできない」と燭九は嘲り笑います。
「以前特調所で助けた恩を忘れたの?」と鴉青は睨みつけますが、「俺は何度もしくじったりしない。それに時間がない」と燭九は覚悟を決めたように言います。
「分かったわ、亜獣族の会議があるの」「行けよ」「でも」「俺のことは構うな。覚えておけ、俺はあの方に選ばれた幸運な男だ」。自信満々の燭九に、鴉青は「その運が続くよう祈るわ」とため息をつき、烏に変化すると飛び去ります。
実験室の中で震える野火と郭長城。「楚さん、もうマイナス10度に達してます」とパネルを見て報告する郭長城に、「まずい、なにか手を打たないと」と焦る楚恕之。
「ついてないぜ、なぜ俺がこんなことを」と文句を言う叢波に、「”龍城最強の告発者”だろ?優れた能力には責任が伴うんだ」と嘯く林静。「でもさ、特調所は星督局や海星艦の管轄だろ?大事なのに上の許可は取ったのか?」と真っ当な指摘をする叢波に、「あー多分…取ってるはずだ」と目を逸らす林静。「おい」「大丈夫だ!俺たちにはボスがいる」。林静はやれと顎で指示し、叢波はため息をつきながらもキーボードを叩きます。
郭長城は表示温度が下がっていくパネルを見ながら、「楚さん、これってどうすれば消せますかね」と尋ねます。「だめだ、それを触るな。部屋の中をよく探せ」と叱りつける楚恕之。
「できた」「すごいな」「いいのか?こんなことをして。多くの市民に影響が出る。今日から祝日だぞ」「…いいんだ!これも龍城の安全を守るためさ。許される、きっとな」。林静に背中を押され、最後の仕上げとキーを押そうとした叢波を「待った!」と林静が止めます。「今度は何だよ」と呆れる叢波。
しかし林静にもう一度やってくれと促され、いよいよキーを押し込みます。パソコンの画面を流れていく文字たち。叢波は林を見遣ります。「あとは夜を待つだけだ」と呟く林静。
「楚さん、あの、ここにボタンが。上に「停止」って書いてある」と、郭長城がパネルの上にある箱の中にある空調の停止スイッチを見つけます。
「スイッチだ!」と楚恕之が歓喜の声をあげた瞬間、「スイッチ!!」となぜか喜び箱の蓋を閉じてしまう郭長城。楚恕之は箱をもう一度開けようとしますが、どうしても開きません。「もう開かないぞ!」と激怒する楚恕之。
鴉青は蛇族の長老である、祝紅の叔父の家を訪ねてきます。
「何の真似?」「青姉さん、やっぱり来てくれたのね!」「ゆっくりしていけ、酒を飲もう」「よそ者と手を組み、私と争う気?」「よそ者と通じ、面倒を起こしたのはあんただ」「お願い、手を引いて。令主と黒枹使は万全の構えよ。勝負はついてる」。
迎春にメンチを切る鴉青を片手で制する叔父。「我らの厚意を無にするのか?節句を祝おう」と言う叔父に、ため息をつく鴉青。
楚恕之・郭長城・野火は霜が下りた実験室の隅で寄り添っていました。
自分も眠りそうになりながらも、「寝るな、目を開けろ。眠ったら二度と目覚めない。しっかりしろ」と弱々しい声で野火に声をかけ続ける郭長城。「これしか方法がなさそうだ」と野火は両手を握りしめ力を込めます。
「野火さん、駄目です、自分を燃やすなんて絶対しないで…」。野火は懸命に炎を燃やそうとしますが、体力が尽き、火は消えてしまいます。「すまない、これ以上は無理だ」と謝る野火に、「力は温存しろ、逃げる時に必要だ」と静かに告げる楚恕之。
燭九は趙雲瀾が指定した聖器の受け渡し場所に向かうため、町中を颯爽と歩いていました。趙雲瀾・沈巍・祝紅はある建物の屋上に集まります。林静は時間を気にして、腕時計を何度も確認してはうろうろと歩き回ります。
沈巍は長命時計と山河錐を両手に持つと、目を閉じ、力を込めます。その瞬間、聖器から光が溢れ、夜空に謎の形を映します。
燭九はそれを見つけ、にやりと笑います。
「楚さん、なんだか熱いんです。体がほてる、暑い」と身悶える郭長城に、 「長城、幻覚だ。体温中枢機能が麻痺している」と冷静に告げる楚恕之。
「楚さん、燭九が言ってた。地界の禁忌を破ったと…何があったんですか?」と息も絶え絶えに尋ねる郭長城に、「今は考えるな、ここを出たら教えてやる」と諭す楚恕之。
「僕は多分、もう駄目です」「馬鹿を言うな、俺たちは助かる」。楚恕之は朦朧としながらも懸命に郭長城の手を擦り、息を吐きかけ、体温を分け与えようとします。
「楚さん、僕は特調所に入れて本当に嬉しかった。楚さんと知り合えてよかった。弟みたいにかわいがってくれたし、僕を助けて守ってくれた。本当に…ありがとう…」と、郭長城は必死に言うと、目を閉じてしまいます。
「長城、しっかりしろ!お前を弟と同じ目には…長城?長城?目を覚ませ!!」。郭長城の顔を覗き込み、彼の頬を叩く楚恕之。
楚恕之は下はタンクトップ1枚しか着ていないにも関わらず、コートを脱ぎ郭長城に着せます。
「長城、これを着るんだ。 長城、眠るなよ、助かるからな」と、動かない郭長城に呼びかけ続ける楚恕之。ストールを羽織ると、自分のコートでぐるぐる巻きにした郭長城を抱き込みます。冷たい郭長城の頬に自分の頬をすり寄せ、「大丈夫だ」と必死で郭長城に言い続ける楚恕之。
燭九が趙雲瀾たちのいる屋上に現れます。
「趙所長、沈教授、久しぶり」と挨拶する燭九の前で、沈巍は祝紅が口を開けていた袋に聖器をしまいます。
「取引は?」と訝しむ燭九。「今日はあんたの顔を見に来ただけさ」と飄々と答える趙雲瀾。
「何だと?お前たちなどに俺は捕まらない」「そうだな、ところで今日は何の日だか知ってるか?中秋節だ。俺たちが戦い始めて半年は経つ。決着をつけようぜ」「俺に聖器を渡すなら約束する。全て終わりにしよう」「はは!今カタをつける」「逮捕する気か?やってみろ」。全力で逃げ去る燭九。
趙雲瀾が「今だ!」と言うと、林静が「叢波!」と叫びます。その瞬間、龍城全体の光が消え、真っ暗に。「黒兄さん」と趙雲瀾が呼びかけると、沈巍は力を使い、暗闇の中で燭九がどこにいるのかを見つけ出します。掌から刀を取り出すと、彼の胸を斬りつけます。
「よし、ここまで引き止めれば十分だろう」と言う叔父に、「はめられた?」と顔色を変え立ち上がる鴉青。「この借りはきっと返す」と睨みつけ足音荒く去っていく鴉青の背中を悲しげに見つめる迎春。「見ろ、今夜の空は格別に暗いようだ」と言う叔父につられ、迎春も真っ暗な夜空を見上げます。
沈巍に斬りつけられ屋上に伏せる燭九。「俺の負けだ、やるじゃないか!」と笑う彼に、「当然だろ。あんた何様だ?あんたのために龍城を1分間停電させた」と手錠をかけます。燭九は手錠に力を込めて外そうとしますが、闇の力は手錠で無力化されてしまうようです。
「はは、負け犬の俺に何を言えと?無念だ。お前を倒したかった」と沈巍を睨みあげる燭九に、「分からない。なぜそれほどまでに私を憎む?」と沈巍は眉を顰めます。
「ふん、俺を覚えているか?」と普段は隠している右の前髪をかきあげ、沈巍に見せつけます。燭九の素顔を見て、沈巍は表情を険しくします。
己の命を賭けてでも楚恕之と郭長城を助けようとする野火の底無しの勇気に泣くし、郭長城を抱きしめて「死ぬな」と叫ぶ楚恕之の取り乱した姿に涙が止まらんです。
楚恕之は地界で何の禁忌を犯したの?どう弟を失ったの?
あと鴉青は亜獣族の長老たちに割と甘くて憎めないですねw 仲間意識があるのかなあ。
燭九と黒枹使との因縁も気になります。
第20話 天柱の封印
<あらすじ>
燭九(ジュージウ)と対峙する沈巍(シェン・ウェイ)。
若き日に邪悪な天柱の罪人に心酔した燭九は、黒袍使(こくほうし)から罰を受けたことを根に持ち報復の日を待っていた。
だがそんな燭九もついに捕らえられ、楚恕之(チュー・シュージー)と郭長城(グオ・チャンチョン)も無事に助け出される。
右の前髪をかき上げた燭九の右目横には、切ったような傷跡がありました。
地君殿の一角で上司から蹴り飛ばされる燭九。「答えろ!言え、陰で何をこそこそ動いている?」「いえ、僕は…隊長、誤解です」「まあお前なぞに何もできまい」「…質問です。黒枹使様は地界のその…裏切り者だと」「無礼者!黒枹使様をお前ごときが侮辱するなど許さん!英雄になりたいだと?このゴミめ、失せろ!早く!」。上司に罵倒され燭九は悔しげに去りながら、「証明してやる。俺が正しいことを」と言い放ちます。
天柱の前にまた来た燭九。「いるか?」「若者よ、来ると思っていた」「どう動く?」「お前を地界の英雄にしてやろう。覚悟を決められるならな」。
後日、街の片隅で隊長の首を刃物で掻っ切る燭九。「思い知れ!ははは!見下して楽しかったか?特殊能力がなんだ、俺ごときに殺される」「燭九、言っておこう。お前は自分の能力を覚醒させられないただのゴミだ」。
上司に言い放たれた途端、燭九は激昂。「俺は必ずやこの地界の英雄になる!」と叫び、彼の腹部に刃物を勢いよく刺し、とどめを刺します。
しかしそこに街の人間が通りかかります。「誰かを刺してるぞ!」「人殺しだ!待て!」「逃げるな!止まれ!」。
燭九が逃げた先には黒枹使が立っていました。「黒枹使」「殺人を?」「自業自得だろ!暴力をふるい虐げてきた奴だぞ!黒枹使なら分かるはずだ」「お前は人を殺めた。私と地君殿へ」「俺は聞いたんだ。黒枹使のせいで地星人が地上で生活できなくなったと」「1万年前の戦争で民は苦しんだ。平和は手に入れがたきもの。我らは地界にいるべき種族だ。お前に何が分かる?」「地界人の裏切り者め!」。
黒枹使に飛びかかる燭九。「”強かりし者、衰えるも死せず”。天柱の罪人に惑わされたようだな。奴に利用される前に、悪の火種はこの手で消す」と呟くと、黒枹使は刃をひらめき、彼の右のこめかみを刀で切り裂きます。
祝紅が「沈教授は…」と訝しげに言うと、「楚と郭ちゃんを助けてからだ。燭九は?」と趙雲瀾が尋ねます。「蘇生する兆しが見える」と言う祝紅。
沈巍九の腹に力をあてる沈巍。「傷が深い。そう長くは持たないだろう」と言う沈巍。「まだ尋問が」と祝紅が言うと、「林静がいてもこの命は救えないだろうな」と趙雲瀾は呟きます。
「ボスが責任を取ってくれるはずだろ?」と半泣きの林静を横目に、「マジで最悪だよ。”龍城の告発者”に汚名を着せるとは」とふてくされる叢波。「真面目に!私語は慎め!早く書け!」と役所で始末書を書かされる2人。
特調所の実験台の上で拘束され、意識は朦朧としながらももがく燭九。それを見て、祝紅は別室へ走っていきます。
「黒枹使には必ず代償を払わせてやる」「私のために働くと誓うか?それならば私があの者に代償を払わせよう」「従うよ」。燭九は天柱の前で跪きます。「今日からあなたが俺の主だ。奴に報復してくれるなら俺の全てをあなたに捧ぐ」。天柱から笑い声が響き渡ります。
燭九は「俺の全てをあなたに捧ぐ」とうわ言を言っていました。沈巍は彼を痛ましげに見つめます。
戻ってきた祝紅の手には注射器が握られていました。「何してる?」と尋ねる趙雲瀾に、「”薬毒同源”という言葉がある。この毒は体力を回復させ命を引き伸ばしてくれる」と簡単に説明。早速彼の心臓に注射を打つと、すぐに燭九の表情が安らかになります。
「毒の複製を?」と尋ねる趙雲瀾に、「昔、蛇族の医者が残したものよ。面白いから持っておいたの」と言う祝紅。「面白いって言葉を誤解してるようだ」と笑う趙雲瀾。「君の功績は大きい」と沈巍は祝紅に微笑みかけ、讃えます。「燭九と戦う2人を見ていたら、私も力になりたくて」と、趙雲瀾を見つめる祝紅。
「楚と郭ちゃんはどこに…」と、燭九から送られてきた動画を見直す趙雲瀾たち特調所メンバー。「俺が九なら見つけにくい場所を選ぶ」と言う彼に、桑賛が「静かに、何か爆発してる」と言います。「これは爆竹の音よ」と呆れる祝紅に、「いや、龍城市街は爆竹禁止だ。爆竹の音が聞こえるなら郊外だろう」と趙雲瀾は沈巍を見ます。「場所ごとに時間の指定がある。楚くんが失踪し、メールを受信、昨日午後3時から5時の間の話だ」と言う沈巍。「汪徴、その間爆竹の使えた場所を調べろ。祝紅、今は使ってない郊外の実験室を探せ」と指示する趙雲瀾。
楚恕之はふと目を覚まします。「おい長城、目を覚ますんだ。寝るな長城!ほら起きろ!」と彼の頬を叩いていると、郭長城が目を覚まします。「気づいたか、よかった」と楚恕之がほっと息をつくと、「僕は…死んだんですか?ここは天国?それとも地獄?どういうことです?」と郭長城はぼんやりと尋ねます。冷風を吹き出していた設備が止まっているのを見て、楚恕之は「停電だ。助かった」と呟きます。
始末書を書く林静と叢波のもとに高級そうなスーツを着こなした大慶が「失礼」と現れます。「あなたは?」と尋ねる職員の男に、「こんにちは、星督局の者です」と偽の身分証明書を見せる大慶。「局長の指示です。あなたは仕事を。2人は僕が引き取ります」と微笑みます。
その頃、趙雲瀾と沈巍が実験室を特定し突入。「全員無事だ」と楚恕之はぐったりしながら趙雲瀾に報告します。沈巍は野火と郭長城に力を注ぎ込みます。野火が目を開け、沈巍は彼を支え起こしてやります。
「郭ちゃん!郭ちゃん!」と趙雲瀾は郭長城の頬を叩いた後、彼の頸動脈に指を当て、「大丈夫だ。葬式は派手にやってやる」と呟きます。
「冗談を。分かっているはずだ」と呆れる沈巍に、にやつく趙雲瀾。「まったく、腹が減って気絶とは情けない」と彼が言うと、楚恕之が寝転がっている郭長城の背中を蹴ります。蹴られてやっと目を覚ます郭長城。
「叔父さん?中秋節のごちそうは?」と寝ぼける郭長城に、趙雲瀾と沈巍はため息をつきます。「あとは林静たちだけだな」と言う沈巍に、「心配するな。あの老猫は演技派だ。無駄に長く生きてない」と笑う趙雲瀾。「おい、ごちそうの時間だ」と楚恕之は郭長城を叩き起こします。
電話を思いきり叩きつける高部長。「ふざけるな!1人捕まえるだけでなぜこんな騒ぎを?星督局の局員を騙り仲間をつれだすとは!モラルの欠片もない!」。そこに郭英が入室してきます。
「部長」「諦めろ、甥たちを庇いに来たのだろうが今回ばかりは許さん」「違います、お客様が」「誰も通すな!言い訳無用だ」。高部長は怒り心頭ですが、「どうした?私にも会わないと?」と趙心慈が入ってきたため、慌てて態度を変えます。
「趙さん!どうも、座ってください」とぺこぺこしだす高部長に、「ごゆっくり」と微笑む郭英。「どうぞ」と高部長がソファーに座るよう勧めると、趙心慈は早速口を開きます。
「高よ、責める気はないがお前は意識が低すぎるぞ。燭九を甘く見るな。何年も龍城に潜伏し、多くの事件を操った元凶だ。特調所の行いは未来を担っている。私が責任を持つ」「雲瀾のことは私も認めています。だが奔放で奇策ばかり講じる。そこがあなたとは違いますよ」「そのとおりだ、頑固者だしな」「そうですね、でも雲瀾を信じています。それに今は規律正しい沈教授がそばにいるので、無茶はしないかと」「燭九の件は早めにカタをつけろ」「それでは今夜雲瀾と沈教授に事件の報告をさせましょう」「いいだろう、そうだ、今日は実験部門の成果を見に来た」。実験部門の話が出た途端、高部長の表情が変わります。
実験部門を案内する欧陽教授は、「趙局長、あちらにも」と実験結果を見せます。
「これが3ヶ月の成果か?」と渋い顔をする趙心慈。教授は目を彷徨わせるも、「局長、実験は段階を踏むべきです。焦りは禁物かと」と返します。「民衆を守るためだ。一刻を争う。欧陽教授、分かるだろう。私達がどんな聞きに直面しているか。だからとにかく急いでくれ」と言い、その場を去ろうとした瞬間、趙心慈の目の色が突然変わります。
「急いでいても着実に進めなければ災いは途切れない」と言った後、趙心慈は別人格を収めようと体を震わせます。
「すまない、冗談だ」と言う趙心慈に、「局長、わかりました」と頭を下げる欧陽教授。「頼んだぞ」と行った瞬間、趙心慈は立ちくらみを起こします。
慌てる高部長に、「大丈夫、ただの発作だ」と弁明。「病院で見てもらいますか?」「必要ない…おとなしくしてろ」。最後は自分に言い聞かせるように呟き、趙心慈は実験部門から出て行きます。
特調所のメンバーは酒、果物などを机に並べ、中秋節を祝うパーティーの準備をしていました。「餃子をどうぞ、できたてですよ」と微笑む李さん。
「楚さん、野火さんは大丈夫ですか?」と気にする郭長城に、「安心しろ、病院に連れていった」と楚恕之はすぐに返答します。果物をつまみ食いする大慶。
「ボスも器がでかい。大事件の翌日に宴会を?」と言う林静に、「中秋節が祝えて幸せだろ?仕方なく猫様も付き合ってやる」と偉そうに返す大慶。「つきあう?」と郭長城が首を傾げると、「いつものことだ。酒を」と楚恕之が言います。
汪徴は桑賛にあーん♡と食べ物を食べさせてやっています。「家族ってこんな感じかな」と心の中でつぶやき、嬉しそうな郭長城。
そこに趙雲瀾と沈巍が到着します。「よし、みんな座れ!凶悪犯が起きる前に食っとけ。今のうちだぞ。おい、手を止めろそこの2人。上司が話してる最中だ」。にやにや笑う大慶と林静。
「では心してきこう」と沈巍が厳かに言うと、場が静まり返ります。趙雲瀾は「じゃあスピーチを始める…」と言いますが、空気の重さに耐えきれず、「やめだ!食え!」と笑います。
趙雲瀾は小声で沈巍に耳打ちします。「聖器が見せるのは予知夢と言ったが、ただの悪夢だったようだ」。沈巍も同じく小声で返します。「運よく未来を変えられただけだ。次はどうか」。
電話が特調所に鳴り響きます。「本来と違う未来を得れば代償を払うことになる」と険しい顔で趙雲瀾を見つめる沈巍。
「おい、何の内緒話を?」と大慶が口を挟むと、「ただの雑談だ。沈教授から話があるらしい、聞こう」と趙雲瀾は話題を逸らします。趙雲瀾をきっかけにメンバー全員から拍手をされ、焦る沈巍。
「…所長の話では、食べ足りなければどんどん奢ると」と沈巍が言うと「太っ腹だな」と大慶が嬉しそうに笑います。
「残念ですが、海星艦が所長と教授をお呼びです。もう迎えが来ています」と困ったような表情で言う汪徴。
趙雲瀾、沈巍、祝紅、大慶が2人を見送りに外に出ます。「燭九が起きたら尋問を。時間がない。全て吐かせろ」と言う趙雲瀾に、「分かった」と大慶が返事をします。
趙雲瀾が車に乗り込もうとした瞬間、突然頭痛とテレパシーが所長を襲います。「趙雲瀾」と呼ばれ、あたりを見回す趙雲瀾。しかしすぐに頭痛は治ったため、そのまま車に乗り込みます。
走り去る車を見つめる祝紅を大慶がこづき、「見過ぎだ、戻ろう」と誘います。
2人きりの車内で、「祝紅の気持ちを?」と尋ねる沈巍。「知ってるが、応えられない。だから早く諦めさせたい」「彼女は若い。大人に見えても未熟だ」「未熟だからこそ俺も嘘はつけない。俺は人を愛せない。それは受け入れてるよ。試すだけ無駄だ」。沈巍は言葉に迷い、黙ります。
地界から天柱が燭九に呼びかけます。「燭九、燭九、燭九…」。そのたびに、燭九は意識がないながらも台の上でもがきます。
地界では呉が天柱を見に来ていました。「黒枹使様がお前を見張れと。悪巧みはよせ!」と叫びますが、天柱からは何も返事はありません。
すると燭九が突然目覚めます。そこに郭長城が出くわし、「燭九が目覚めました!!」と大声で叫びます。燭九は台の上で笑います。「完敗ってわけか」。
郭長城は恐れる様子もなく燭九に近づくと、「水を飲まないか?餃子も持ってくるよ」と楽しげに言います。「気は確かか?」と怪訝に言う燭九に、「多分」と不思議そうに答える郭長城。
「俺は特調所の天敵だぞ?お前も俺を罵ってた。なのに水だと?何を企んでる?」「特に何も。生きるためには食べ物と水が必要でしょ?それに今のあなたと僕は平等だ」「平等?笑わせるな。俺は堂々たる地星人だ。人間と平等だと?ありえない」。
そこに楚恕之が現れ、燭九の腹に一発拳を叩き込み、顔を歪めた燭九の顔を片手で掴みます。「気分はどうだ?」と尋ねる楚恕之に、「人生で一番の快感を覚えてるよ」と挑発的に返す燭九。「何よりだ。最後の幸せを噛み締めろ。長城!連れてこい」と楚恕之は別室へ足音荒く向かいます。
郭長城を見つめる燭九は、「待て、用を足したい」と真顔で言います。郭長城は迷いながらも彼の拘束を外し、了承します。
突然はっと車の外を見る趙雲瀾。沈巍は彼の奇行に不安がりますが、彼は「何でもない」とだけ言って目をつぶります。趙雲瀾を不安げに見つめる沈巍。
趙雲瀾は郭長城が失神し、燭九が聖器を前に舌なめずりする夢を見て飛び起きます。「大丈夫か?」と尋ねる沈巍をよそに、「車を停めろ!先に行け、俺は戻る」と言う趙雲瀾。「君の見る幻は…私も行く」と沈巍は言いますが、「上に顔が立たないだろ?あんたが行けば問題ない」と趙雲瀾は沈巍の膝を叩き、珍しく穏やかに微笑みます。「…用心しろ」と不安げな沈巍に、「大丈夫だ」と言って車を降り、手を振る趙雲瀾。
特調所内のトイレにて。郭長城は燭九の手錠と電気棒を持って、彼が用を足し終えるのを待っていました。
「へなちょこのお前が特調所の所員だと?人手不足か?」「君は口を開けば人間の話ばかりだ。変だよ。本当は人間が羨ましいんじゃ?」。燭九は笑います。
「ふざけるな。人間など低劣だ」「人間も悪くない。生きていれば希望はある」「死が目前なら?」「使命を全うする」。郭長城のその言葉を聞いた瞬間、にやりと笑う燭九。郭長城は彼に手錠をかけようとしますが、指で手錠をかけるのを阻止されます。驚く郭長城に、「まさかこの俺が無垢な坊やに素直に従うとでも?」と言い、彼を壁に押し付け、電流棒で彼の首を絞めます。
タクシーが捕まらず、急いで電話をする趙雲瀾。「燭九が目を…」と報告しようとする祝紅に、「聖器をどこかに移せ!すぐにだ!」と叫ぶ趙雲瀾。しかし突然電話が切れてしまい、全力で特調所へ走ります。
よろけながらも郭長城を失神させ、トイレから出てくる燭九。あちこち部屋を見て、聖器を探し回ります。しかしどこにも聖器はありません。
「趙雲瀾、黒枹使、ここまで見抜いていたか」と燭九が呟くと、部屋の入り口には楚恕之、林静、大慶の3人が立ち塞がっています。「悪あがきはやめろ。お前は薬の力で生き永らえてる。特調所のバリアの中では長くは保たないぞ」「言えよ。黒幕はだれだ?」と林静と大慶が言うと、「黒幕?使命が。あの方を召喚せねば。少し時間が必要だ」と燭九は熱に浮かされたように呟き、郭長城の電流棒に闇の力を流し込みます。
楚恕之が「長城」と目を見張ると、燭九は闇の力をまとった電流棒を3人に投げつけ、開いていた窓から逃亡。燭九はよろめきながら逃げ、路地裏に座り込みます。彼は小瓶を懐から取り出し、にやけます。
「光明か、俺は待てなかった。主よ、最後に我がエネルギーであなたを召喚しよう。人間共に罰を。この世界を滅ぼしてくれ」と願います。蓋を開けると、彼の体は煙になり、瓶の中に吸い込まれていきます。どこからか現れた鴉青はそれを回収し、蓋を閉めます。「燭九、安らかに」と瓶を握りしめる鴉青。
その頃、地界では天柱が光り、周囲の地面が揺れ始めます。摂政官と丁頓の後任が物陰からそれを見つめています。
天柱から抜け出てきた男は呉に向かって「失敬」と言うと、飛び去ります。
「長生きして得することは、新たな局面に立ち会えることだ」と言う摂政官に、「でもまだ天柱の封印が解けきっていません。我らも力添えを?」と尋ねる丁頓の後任。「青臭いな。焦って立場を明らかにするでない」。にやにやと天柱を見つめる摂政官。
タクシーに乗っていた祝紅は、目の前で所長が倒れそうになりながら走っているのを見つけ、「止めて!」と叫びます。
タクシーを降りてきた祝紅は「所長!携帯は?」と尋ねますが、趙雲瀾は真っ先に「聖器は?」と勢い込んで尋ねます。
「持って飛び出してきた。置き場所が分からずあなたを捜してたの」と袋を差し出す祝紅。長命時計を持った途端、また目眩を起こす趙雲瀾。突然鴉青が現れます。
「ほらな、このお宝に触れると幻覚が見える」と笑う趙雲瀾に、祝紅は「幻覚じゃない、本物よ」と顔を引き攣らせます。
「趙令主、あなたを待つ方が」と鴉青は趙雲瀾を見つめます。
鴉青の案内で祝紅とともに聖器を持って森へ来た趙雲瀾。「ここに」と鴉青が礼をして下がると、そこには目元だけを隠すような仮面を被った長髪の男が呻いていました。男は青白い光に包まれており、実体がないように見えます。
「ああ、楽になった。趙所長、初対面だな。自己紹介をしよう。夜尊と申す」と楽しげに拱手する夜尊。 趙雲瀾は手を振ります。
「燭九と鴉青を従えているのがこの私だ。地界から赴いてきたのは、君とじっくり話す機会を設けたくてな」「俺と話す?ならまずはその仮面を外してくれ。黒幕であるあんたがなぜうちの黒枹使の真似を?反応に困るよ」。
夜尊は微笑みます。「人間が苦悩するのは、欲望に対して動かないからだ。人間を苦悩から開放する術とは何か?彼らから欲望を除き、希望を与えることなく安住させることだ。人間が地星人にしたようにな」「つまりあんたは地星人のために動いていると?」。
急に近寄ってきた夜尊に身構える趙雲瀾。
「ヒマワリは太陽に抗えず、川の流れは海に吸い込まれる。趙所長、地星人が地上に戻ることも自然の摂理だと思わないか?」。
趙雲瀾は肩をすくめ、「思わないね。あんたは光のためといい同胞を利用し世を乱した。自分が地上に戻るためだけに人間や地星人を殺したんだ!」と声を荒げます。
夜尊は趙雲瀾の背後に瞬間移動します。
「令主ともあろう者がかくも浅はかとは。は、驚かせてくれる。我ら地星人と人間は全く違う種族らしい。君たちは魚や肉を食すとき、命の重みを考えはしないようだ」「そうとも言える。なら燭九を吸収し、何を感じた?奴は地星人であり忠実な部下だっただろ」「いかにも、燭九は忠臣だった。だからこそ分かる。なぜ私に身を捧げたのか。そうすることで己の血が私の中に流れるからだ。光明の中で永遠に」。
「何の冗談?」と吐き捨てる祝紅に、鴉青が刃物を投げつけます。趙雲瀾が祝紅を守るように抱き込んだため、事なきを得ます。彼女の耳元で「聖器を」と言う趙雲瀾。趙雲瀾は祝紅から長命時計を貰います。
「もっともらしい理屈を並べれば命を犠牲にしていい理由になるとでも?」「所長、君は賢いと思っていた。そう出るなら話は終わりだ」。夜尊が突然巨大化します。
「所長、危ないわ」と、趙雲瀾の腕を掴む祝紅。その瞬間、夜尊が趙雲瀾に攻撃し、彼は片腕でとっさに身を守ります。
その頃、海星艦では出迎えた郭英が「沈教授、趙所長は?なぜお一人で?」と沈巍に尋ねていました。「彼は…」と言いかけた途端、嫌な気配を感じる沈巍。「しまった」と呟くやいなや、走り出します。
長命時計のお陰で夜尊の攻撃を防いだ趙雲瀾。「勘が当たってた。あんたが傑物なら小指でも俺たちを殺せるはずだ。だが燭九を慌てて吸収していた。あんたは地上で姿を保てないんだろ?エネルギーが不安定だからだ。理由はこれ、聖器だ」。悔しげに長命時計に手を伸ばす夜尊。
「聖器は闇の力の磁場に対する保護膜を作る。特調所のバリアの原理さ。知識ってのは使えるもんだな」「私に聖器を寄越せ。渡せばすぐに去る」「そうか、持ってけ」。襲って来ようとする夜尊と鴉青に長命時計をかざす趙雲瀾。
夜尊の目が爛々と輝きます。長命時計が彼の引力に持っていかれそうになり、「所長!」と祝紅が叫びます。
「長く持つほど体が蝕まれるぞ」と笑う夜尊を、趙雲瀾は睨みつけます。
「所長、大人しく聖器を渡せ。無知な人間共のためになぜかくも苦しむ必要が?」「苦しむ?喜んでやってる」。2人は睨み合います。「しっかり」と祝紅は趙雲瀾に叫び近づこうとしますが、長命時計のバリアに弾かれてしまいます。趙雲瀾はとうとう膝をついてしまいました。
「人間を見くびるな。俺たちにも無限の可能性がある!」「愚か者め、勝ち目はない」。顔に黒いひび割れが入る趙雲瀾。
「ある男なら勝てる。そいつがもうすぐ現れるぞ」と趙雲瀾はにやりと笑います。その瞬間、夜尊と趙雲瀾の間を沈巍が一刀両断。全員吹き飛ばされます。失神する趙雲瀾。
「趙雲瀾、無事か?」と沈巍が叫び、祝紅は「所長、しっかりして」と駆け寄ります。趙雲瀾は口から流血していました。
「時が流れても相変わらずだな」と微笑む夜尊に、「黙れ、今すぐ消えろ」と刀を構える沈巍。睨み合う2人。沈巍は刀で斬りかかりますが、夜尊は煙のように消えてしまいます。同時に鴉青も烏に変化し、飛び去ってしまいました。
地界では夜尊がまた天柱の中に戻っていました。「みたことか、ゆっくりと大局は見通さねばならぬ」と摂政官はにんまりと笑います。
「所長起きて」と叫ぶ祝紅のもとに凄まじい速さで駆け寄る沈巍。
「雲瀾!」と名を叫びながら彼の手から長命時計をはずし、力を与える沈巍。「所長!」と叫ぶ祝紅に、「沈巍は…?」と小さく尋ねる趙雲瀾。沈巍はすぐに趙雲瀾の手を握ります。
「ここだ」「夜尊は?」「安心しろ。しばらくは人間界に来られないだろう」。
ほっとしたように笑う趙雲瀾に安心する2人。祝紅は涙を拭います。
「さすがあんただ、でもなんだか妙なんだ。夜尊の声に聞き覚えがある…」と呟く趙雲瀾に、動揺し目を逸らす沈巍。
「今は何も考えるな。私が家に送ろう」と沈巍が言うと、「また停電か?目の前が真っ暗だ」と言う趙雲瀾。沈巍と祝紅は絶句します。
「なぜ黙ってる?」と不思議そうな趙雲瀾の目の前に手をかざす沈巍。目を何度も擦る彼の手を押しとどめます。呆然とする趙雲瀾。
夜尊の召喚を導いたのは摂政官だと判明!!
しかし夜尊は黒枹使に顔も声も似ているような?🤔
祝紅の想いに応えられない、俺は人を愛せないと趙雲瀾が言いきった理由が気になる。なぜ人を愛せない…?
夜尊との戦闘・失神後、第一声が「沈巍は…?」だったのに大歓喜しました😭そして即手を握り安心させる沈巍😭愛や…😭
第21話 失われた視力
<あらすじ>
聖器にむしばまれて視力を失ってしまった趙雲瀾(チャオ・ユンラン)。
だが診察を受けても目には何の異常もなかった。
沈巍(シェン・ウェイ)は趙雲瀾のことが心配で講義もうわの空。
特調所のメンバー一同が神妙な顔をする中、趙雲瀾はがつがつ火鍋を食べます。
「よし、職場での団らんは終了。もう解散していいぞ。それぞれの楽しい中秋節をすごしてくれ。仕事の話はまた今度だ。行こう」と、言いたいことを言って沈巍の腕を掴み、先導してもらう趙雲瀾。
呆然としている祝紅に、「祝紅、あの夜何があった?お前の様子は変だし、なぜ教授も一緒に戻ってきた」と楚恕之は問い詰めます。「分かった、教えるわ。教授には別の顔があったの」と話し始める祝紅。
病院で目の診察を受ける趙雲瀾。「さあ立って、座って」と甲斐甲斐しく趙雲瀾の先導をする沈巍。「目の具合は?」と医師に尋ねる沈巍。
「角膜や網膜、水晶体、視神経も調べたけど、何の異常もない。失明した原因は不明よ」と言う医師に、「つまり治療方法がない?」と半笑いの趙雲瀾。
「私を頼ってくるなんて、彼が心配でたまらないのね」と微笑む医師に、「(沈巍と)知り合いで?」と趙雲瀾は尋ねます。「大学の同期だ」と答える沈巍。「ほお。見えなくても分かる。どうせ渋い顔をしてるんだろ。善人には天の助けがある。死にはしない」とふざける趙雲瀾ですが、「そういう問題では…」と沈巍は渋い顔。
その時、趙雲瀾のアラームが鳴ります。「時間だぞ」「何の?」「10時から大学の講義だろ?」。沈巍はハッとし、それを見た医者は笑います。
「今日は休む」と頑なな沈巍に、「必要ない、大慶が来る」と断る趙雲瀾。「講義の後 迎えに来るよ」と趙雲瀾に念を押して、「成先生あとは頼む。ありがとう」と去っていく沈巍。
祝紅が叔父の家と一緒に写したセルフィーなどをスマホで見る林静。「家族団らんが何だよ。一人のほうが気楽だ。科学者は孤独なものさ」といじけています。
郭長城は叔父・叔母・楚恕之の4人で麻雀をしています。「自分の家だと思ってくつろいでくれ」「長城の面倒を見てくれているとか。お礼がしたくて呼んだの。中秋節に一人では寂しいでしょう?」と言う叔父夫婦。
楚恕之は無言で淡々と牌を揃えます。「かわいらしい人形だね、若者はこういう人形を…”フィギュア”と呼ぶ」と笑い、郭英が楚恕之の人形に触れようとした瞬間、楚恕之はがしりとその手を掴みます。
「人に触らせたことはない」と睨め付ける楚恕之に、「叔父さんに悪意はありません!」と慌てる郭長城。「知ってる」と端的に返す楚恕之に、「続けましょう、ほらあなたも」と助け舟を出す叔母。郭英は「ああそうだな」とほっと笑うも、どこかぎこちない表情です。
「また俺の菓子を盗み食いしてるだろ?」と言う趙雲瀾に、「俺は大慶様だぞ?盗み食いじゃない。堂々と食ってる。ジャンクフードは控えろよ、目に悪い」と言う大慶。
「それもそうだな」と言いながら蹴ろうとする趙雲瀾に、「こっちだ」と菓子の袋をゆすって音を鳴らし蹴られまいとします。
大慶は「そうだ、みんなが録音してくれた」と懐からボイスレコーダーを出します。
「まさに才子短命というやつだ。ボスは永遠に俺たちの心にいる」という林静の声が響き渡り、「絵本代わりに寝る前に聞けとでも?俺が死ぬ物語か?」と趙雲瀾はうんざりします。笑う大慶。
「林静はお調子者だしね。まだあるよ」「所長、今から…ギャグを言います。昔 山が…」「おい待て、郭ちゃんがギャグ?それだけでも笑える。次だ」「次は…祝紅だ。ものすごく心配してある本を朗読してくれた」。
「”天地開闢により世が混乱に陥った時、黒枹を身にまとった者がこう叫んだ” ”天禄は途絶える”」
祝紅の朗読内容を聞き、趙雲瀾は顔色を変えます。「何の本だ?なぜ黒兄さんの話が?」「”古代秘聞録”さ。昔話だよ」「じゃあ本に載っている話は実際の出来事か?」「少しは脚色もあると思う。一万年前の話だしね。そういえばおぼろげな記憶だけど大事件があったような…」「今何と?」「だから大事件が…」「違う紅の声だ、巻き戻せ!」。
「”北西に傾く天を四柱が支える、封印時に崑崙は言った。”突然石が苔むし、急に水が凍り 木が枯れ 鉱石が金になる。これは全て不可能だ。せいきにより、天と地は守られる。封印の続く限り世の平穏は守られるだろう””」
「聞こえたか?」「聖器が世界の平和を維持してた?」「もう一つ、崑崙の名前も黒枹使と同列に語られ、聖器を封印し世を救った人物だぞ。なぜ黒兄さんは崑崙のことを語らない?」。訝しむ趙雲瀾に、大慶は頭を抑えます。
「崑崙…またこの名前だ」「ドラ猫、どうかしたか」。頭痛に呻き出す大慶。「おい、落ち着け。リラックスして横になれ」と趙雲瀾は慌て出します。そこに成先生が現れます。
「趙さん、手続きは済んだわ。彼も具合が?」「ではこのマヌケの診察も頼みます」「ええ、でも私は神経科の医師よ。治せない病気もある」「先生ならきっと治せる」「分かったわ」「沈巍を待たずに一人で帰るの?脚はあるし一人で歩ける」「目が見えないのに?」「真に進むべき道は心で見る。では失礼」。ふざけながらサングラスを掛けた趙雲瀾は、踵を返します。
「要するにRNAポリメラーゼに対して…」「教授、また書き間違えてますよ」「ああ…」。心ここに在らずといった様子で黒板の誤字を消す沈巍。
「沈教授、何か悩み事でもあるのかな」「そうね、様子が変だわ」とざわめく生徒の声を聞き取り、沈巍は動揺します。「助かったよ、では続いて…」と言いかけた途端、チャイムが鳴ります。
「今日はここまで。よい休暇を。では」と慌てて荷物をまとめ、教室を出ていく沈巍。
趙雲瀾は手すりを道標に病院内を歩いていました。しかし角でうっかり転んでしまい、趙心慈に支えられます。「どうも」と笑うと、「雲瀾」と呼ばれ、趙雲瀾は瞬時に父の手を振りほどきます。
電気屋で1人ぼーっとしていた林静は、派手な女が機器をいじっているのを見て一目惚れします。彼女をじっと見つめていたので、「ちょっと」と訝しげに声をかけられます。「どうも」とへらへら声をかけると、「何か?」と眉間に皺を寄せて返されます。彼女がいじっていた機材を見て、「最新の機材だね」と話を続けると、「ええ、でも音は普通よ」と言われ、驚く林静。
「まさか」と林静が言いますが、「聞いてて」と女が機器のつまみを回した途端、つまみの間に電気が流れます。その光景を驚き見つめる林静に、「何か?」と不思議そうに尋ねる店員。「普通だったでしょ?」と林の肩を叩き、ギターを持って去っていく女。
林静は機械を壊したので(壊したのは女ですが)買い取ろうと、「どうもすみません」と店員に謝りながら金を出そうとすると、女の譜面が置かれっぱなしなのに気づきます。
女を慌てて追いかける林静。「私は壊してない。弁償しないわよ」と言う彼女に、「そうじゃない、楽譜を」と渡します。「ありがとう」と言われ、「沙雅?」と尋ねる林静。なぜ自分の名前をと顔を上げた彼女に、「ここに描いてあった」と楽譜の隅を指差す林静。「またね」と笑顔で去っていく林静を見送り、女は微笑みます。しかし怯えるようにハッと上空を見つめると、そこには鴉青がおり彼女を見つめていました。
趙心慈に家まで送ってもらう趙雲瀾。植え込みを足で蹴りながら、歩道を探します。
「待て、なぜ失明を?」「目薬の期限が切れてた」「ふざけるのはやめろ。沈巍とは距離を置け」「なぜ知ってる?」「当然だろ。公的には私はお前の上司だし、プライベートでは…」「交友関係にまで口を出すな」「彼の正体は知ってるだろ。面倒に巻き込まれるだけだ」「正体が何であれ、奴は俺によくしてくれる。あいつは信頼できる友人だ。普段は多くを語らなくてもいざという時には必ず手を貸してくれる」。
頑なな趙雲瀾に呆れる趙心慈。
「目に見えるものは真実だと?」「あいにく俺は何も見えない。心で通じ合えば目で見る必要はない」父を肩でどつくと門にも激突してしまい、痛がる趙雲瀾。
「人間には執着すべきでない4つの事柄がある。1つ目は永遠、2つ目は是非、3つ目は善悪、4つ目は生死だ」「あんたには似合わないセリフだな」「執着は時に美徳に欠ける。永遠にこだわれば損得を気にして道を見失いやすい。是非に固執するのは無駄なことだ。実際この世界に「絶対」など存在しない。善悪にこだわれば小さな過ちすら許せず傲慢な人間になってしまう。そして強引に世の中を変えようとする。生死に個室すれば視野が狭くなる。そして一生2番手止まりになるだろう。だから何事も深く悩み思案する必要はない。思い煩うなど無駄だ。覚悟を決めたなら是非を問わずに行動しろ。そうすれば進むべき道が見えてくるぞ」「妙だな。性格というより人が変わった。他人が親父になりすまし、からかいに?今日は今までで一番無駄話が多いな」「そうさ、だから疲れた。もう言わん。ここまで送れば十分だよ。気をつけろよ」「ひどい親だな。1人で怪談を上れと?」「必要ない。私の息子だからな」。
あまりに全てが趙心慈らしくない言動で、趙雲瀾は複雑な表情を浮かべます。
口笛を吹きながら部屋に向かう趙雲瀾。しかし自分の部屋に近づいた途端、車の事故、趙心慈がぐったりと流血している映像が脳内に流れ込みます。
そこに近隣に澄む女が「趙さん、どうしたの?」と声をかけてくれます。「下まで案内してくれ」「分かったわ、こっちよ」。
2人は外に出ます。「どうしたの?慌てないで」「近くで交通事故が?」「いいえ、起きてないわ」。
しかしまた事故の映像が脳内に流れ、女の手を離れ趙雲瀾は車道に飛び出してしまいます。「趙さん危ない!」と女が叫んだ瞬間、沈巍が全力で彼を歩道に引き込み、車にぶつかるすんでのところで彼を救います。
「どうも」とへらへら笑う趙雲瀾に、「危ないだろ!!」と大声で激怒する沈巍。趙雲瀾は「戻ったのか、来るのが遅いぞ。あの男が送ってくれたけどな」と飄々としています。「無茶をするな」と怒る沈巍に、「俺を待たせたくせに」とふくれる趙雲瀾。痴話喧嘩しながら沈巍に腕を引かれていく趙雲瀾を、女は困惑しながら見送ります。
「俺の人柄は分かるよな?誠実で家事も進んでこなす」と蛇族の青年がアピールするのを見ながら、祝紅は「叔父さん、何の真似?」と冷たい表情を浮かべます。青年たちは寂しそうな表情をしますが、叔父に追い払われます。
「お前もいい年だろう、結婚を考えたらどうだ。私達蛇の寿命は短い。私が死んだあと、お前一人では孤独で…」「孤独で結構よ」「生意気な口を!分かっている。愛する所長のために薬を探しに?」「もういいわ、帰る」「亜獣の市場を見て帰れ」「市場?3年に1度の?」「せっかくの機会だ。所長も呼んでやれ。お宝も売っているし、目を治す薬が見つかるかもしれん。考えておけ」。叔父の言葉に、ふむとうなずく祝紅。
沈巍は甲斐甲斐しく趙雲瀾を導きます。「さあ座って」と彼をベッドに座らせ、荷物を整頓しにその場を離れます。しかし沈巍が目を離した数秒の間に、趙雲瀾は手探りで進みながら何かを探し始めます。梟の置物にぶつかり、大きな音を立ててそれが落ち、沈巍が驚いて振り返ります。
「大人しくしてろ、なぜ平気でいられる?君は昔…」と怒る沈巍に、「昔って?」と尋ねる趙雲瀾。
「…なんでもない」「妙だな、何を隠してる?」。沈巍は目を伏せ、「食事を作るよ」と話を逸らします。「安心しろ、自分でできる」「そんなに動き回られて安心できるとでも?」「闇の力で頭をやられたせいで動いてないと落ち着かない。沈教授、沈様お許しを〜」。
ふざけた趙雲瀾が手を闇雲に動かすと、ベッドサイドのチェストの上にあった物がばらばらと落ち、趙雲瀾は気まずげに身を縮めます。
「何を捜している?」と尋ねる沈巍に、「ここに置いてあった”古代秘聞録”という本だ。どこかで見たか?」と答える趙雲瀾。沈巍の動きが止まります。
「いや」と否定する沈巍に「これを聞いてくれ」と趙雲瀾はボイスレコーダーを取り出し、祝紅の音声を流します。沈巍は信じられないという表情で、咄嗟にそれを取り上げます。
「何をする!?」と声をあげる趙雲瀾ですが、沈巍は必死で音声を消そうと闇雲にボタンを押し捲ります。沈巍はボイスレコーダーを自分のスラックスのポケットにしまってしまいます。
趙雲瀾に電話が。沈巍は「電話だぞ」と取るよう促します。「もしもし、何だ祝紅か、休暇中なのに俺のために朗読を…亜獣族の市場?」。沈巍は目を見開きます。「亜獣族の市場?そこに行けば目を治せるかも」と言う沈巍に、「分かった、今すぐ行く。中秋節なのに休めないな」と笑う趙雲瀾。「俺を恨むなよ。行こう」「ああ」。趙雲瀾は沈巍の腕を掴み、早速2人で外出します。
郭長城は牌が揃いそうなことに喜びを隠せません。「三筒が出れば勝てるのに」と呟く叔母。郭長城は「これを出そうかな」と三筒を出します。「やった三筒が出たわ!」と叔母が喜んだ瞬間、「上がり、金をよこせ」と楚恕之は郭長城に片手を出します。呆然とする叔母。「遊びだろ、楽しめ」と引き攣った笑顔の叔父。郭長城は横目で楚恕之を見て、顔をむーっと不服そうに歪めます。
大慶は病院で不安げに震えていました。
「気分はどう?」「やっぱり思い出せない」「まだ若いのに重度の記憶障害とはね」「若くみえるけどもう年寄りなんだ」「話を聞く限り、人生の大半の記憶を失っていて、改善も見られないのね。解離性健忘は自己の存在さえ忘れてしまう。この状態が続けば危険だわ」「成先生、治りますか?」「臨床的には薬物治療か催眠療法が試せるわ。効果があるかはどれだけ切実に記憶を取り戻したいかによるわ」「切実だよ。絶対思い出さなきゃ。感じるんだ。失った記憶はすごく大事だって」。
成先生は考え込みます。そこに看護師が訪れます。
「白素霞さんの遺体が家族のもとへ」「家族は何か?」「無言で早々に帰りましたよ」「はあ、中秋節の夜に妊婦と胎児が亡くなるなんて…遺族は辛いわね」。
成先生はため息をつくと、「治療の準備ができたら改めて連絡するわ、大慶」と大慶に向き直ります。「ありがとう」と不安げに感謝を述べる大慶。
楚恕之と郭長城は特調所に向かって歩いていました。「さっきは…失礼だったか?」と尋ねる楚恕之に、「裏表がないって叔父は褒めてました」と嬉しそうな郭長城。
「裏表とは?」と心底意味がわからないという顔をする楚恕之に、「何でもないです」と微笑む郭長城ですが、「あれ?王さんは?お店は休みかな」と珍しく閉まっている近所の青果店を見て驚きます。
店の前にはスーツを着た謎の男がおり、「王向陽の知り合いか?私も捜している」と声をかけられます。
「お店は順調だったはずじゃ?」と尋ねる郭長城に、「何を言ってる。中秋節の夜に大変なことが」と男は返します。
洞穴の近くに立つ蛇族の若者が「誰だ」と叫ぶと、草の陰からひょっこりと祝紅が顔を出します。
「君だったか」「市がにぎわう前に散歩してるの」「さっきのことは忘れてくれ。俺は君には不釣り合いだよな」「もういいの、気にしないで。毎日見張りをするのは退屈でしょ?」「しっ!ここは亜獣族にとって大切な聖地なんだ」「知ってるわ、立ち入り禁止だしね。ねえ甲兄さん、聖地の中には一体何があるの?例えば万病を治せる薬とか?」「俺も知らないよ。中には誰も入れない掟だ」「掟は人が決める、甲兄さん、今は叔父さんもいないし私を中へ入れて。一度でいい。お願いよ」。
祝紅に片想いしている甲は彼女の願いを断れず、ため息をつき、見て見ぬ振りをしてやります。その隙に聖地である洞窟に入り込む祝紅。
洞窟を進むと、突き当たりには黒い頑丈な扉がありました。一向に洞窟から出てこない祝紅を心配し、甲は洞窟の外から「紅、紅」と何度も呼びかけます。しかしそこに鴉青が現れ、彼を殴打。
「何か?」と祝紅がやっと洞窟から出てくると、そこには瀕死の甲が横たわっていました。「甲兄さん!?甲兄さん!」と彼を抱き叫ぶ祝紅に、甲は「逃げろ…」とだけ呻きます。鴉青を睨み上げる祝紅。
「蛇四の教育を疑うわ。小娘のくせに聖地に入ろうとするとは」と侮蔑する鴉青に、目を赤く変えた祝紅は「命で償うのね!」と激怒します。
趙雲瀾と沈巍は美しく整備された森林公園を歩いていました。すると突然何者かの声があたりに響き渡ります。
「この世の万物は不完全から始まる。古きを捨て、大荒山の先聖をあがめ、祖先を拝む。大荒の隅の崩れた山、雲の頂きを支えるのは天柱である、龍が水神を制御し、月日は流れた」
「昔の英雄の物語?あんたの知り合いか?」と趙雲瀾が尋ねると、「昔のことはよく覚えていない。亜獣の市場は亜獣族の3部族が交代で主催する。3年に1度、にぎわう年もあれば活気がない年も」と沈巍が説明します。
すると趙雲瀾が笑い出します。
「何がおかしい?」「何でもない、ただ思ったんだ。いろんな祭りに参加してきたが、黒兄さんの解説付きなんて初めてだよ。自分の目で見られないのが残念だけどな」。
そう言いながら彼の腕を離れ、「平気だ」と杖で歩き出した途端つまずき、迎春に支えられる趙雲瀾。
「どうも悪いね」と趙雲瀾が支えてくれた者に向かって笑うと、「迎春、久しぶりだ」「そうね」と沈巍と迎春が挨拶を交わします。
「花族の迎春長老?光栄だな、長老のお顔を拝め…美しい声を聞けるとは、どうぞ!」と勢いよく飴を差し出す趙雲瀾に笑う迎春。
「口達者なイケメンと評判だけど、噂どおりね。…なぜ(趙雲瀾は)眼鏡を?」と迎春は沈巍に尋ねます。
「イケてます?嫌だな、冗談ですよ。同情を誘うための作戦です」。訝しげに沈巍を見つめる迎春。
「こんな美男なのに目が見えなければあなたたち長老の同情を買うことができ、とっておきの薬草を恵んでもらえる」と言う趙雲瀾に、「失礼だぞ」と顔を顰める沈巍。その瞬間、どこかで鴉が鳴きます。
「鴉の声は不吉だな」と趙雲瀾が言うと、沈巍の表情が険しくなります。「鴉青か?」と趙雲瀾が言った途端、「まずい」と言うなり迎春は走り出します。それに続く2人。
祝紅は鴉青に首を絞められ、木に叩きつけられます。
「鴉青!」と祝紅の叔父が叫ぶと、鴉青は「決着をつけにきたわ」と叔父を睨みつけます。
「私が相手になる、やめろ!めでたい日だぞ、孤立を深めることになるぞ」「だから何?」「青姉さん、やめて!」「あなたに私の気持ちは分からない」。
「祝紅を離せ!」と叔父や鴉青に飛びかかりますが、鴉青は叔父を攻撃。その瞬間、沈巍が鴉青を攻撃します。「抱きとめろ!」と沈巍が叫び、「何を…」と趙雲瀾がおろおろしていると、彼の腕の中に朦朧とした祝紅が飛んできます。叔父の傷は浅かったようで、「祝紅、大丈夫か」と姪を懸命に心配します。
沈巍に刃をつきつけられる鴉青。「黒枹使」「内紛には干渉しない。だが悪と結託し無辜の命を奪ったうえー皆が必死に守ってきた平和を私欲のために壊した。その罪を見逃すことはできない」。
「小巍!」。驚いて振り返る沈巍。「何と呼んだ?」と沈巍は目を身開いたまま趙雲瀾を見つめます。
趙雲瀾もなぜ自分が突然小巍と呼んだのか分からないようで、「小巍だ、あはは」と場を濁すように笑います。呆然とする沈巍。趙雲瀾は祝紅の肩を叩くと、迎春に彼女を預けます。「祝紅、怪我はないか?」と心配する叔父。
趙雲瀾は沈巍に近づき、転びそうになったところを沈巍に支えられます。
「中立を保つ亜獣族の内紛には人間も地星人も干渉する権利はない。だが同様に俺たちの争いを利用し、人間を傷つけるのは越権行為だ。鴉青長老、蛇族と花族を裏切り孤立を深めた時、あんたの主が助けてくれるとでも?」。
沈巍は目を見開いてそれを聞いています。
「どう決着をつければいい?」と惑う鴉青に、「ほかの長老方のご意見は?」と後ろを振り向く趙雲瀾。
「鴉青、正式な手段で勝負すればいい。3ヶ月後、亜獣族の族長を選ぶ。長年の争いにそこで決着を」と言う叔父に、「分かったわ、約束よ」と返し、鴉青は飛び去ります。
「叔父さん、特調所の人間を亜獣市に招くとは」と笑う趙雲瀾に、迎春が「もう少し右ね」と気まずげにアシスト。
「あはは、慣例を破り仲裁させてもらいましたよ。どうです?上出来でしょう?」と言う趙雲瀾に、「ああ、助かったよ。紅、ちょっと来なさい」と渋い顔の叔父。趙雲瀾は喜びますが、沈巍の表情は硬いままです。
叔父と祝紅は2人きりで聖地の前で話をします。
「甲はお前に惚れていた」「でも…私のせいで」「お前は成長したように見えたが、わがままな子供も同然だな。もういい、やめよう。これを」「何なの?」「聖地の扉を開ける鍵だ」。叔父は自分の腰に下げていた木の枝を祝紅に差し出します。
「この木が?」「今は無理だ、一万年も枯れたままだからな。花を咲かせられたら扉を開けられる。私が持っているのは危険だ。お前に託すが、大切に保管を」。戸惑いながらも受け取る祝紅。
「所長は機転の利く男だが、目を治すのは難しいかもしれんな」と叔父に言われ、祝紅は落ち込みます。
汪徴は特調所でため息をついていました。
「もう休暇は終わるのに事務所は静かね。所長の目はよくなったかしら?」。すると桑賛が後ろから彼女の両手に手を当て、視界を遮ります。
「桑賛、どうしたの?」と笑う汪徴に、「あの、目を閉じてくれる?」とたどたどしくお願いをする桑賛。目をつぶった彼女を、桑賛は手を引きどこかへ連れていきます。そこは彼がいつも仕事をしている図書館にある広いスペースでした。
「もう開けてもいいよ」と桑賛に言われ目を開いた汪徴が見たのは、溢れんばかりの花とろうそくと電球で飾り付けられた、まるで結婚式場のようなスペース。
「気に入った?所長が教えてくれた。キャンドルのディナーだ。昔を思い出すだろう?」と言う桑賛に、泣きそうになる汪徴。花と光の中、汪徴と桑賛は懐かしい踊りを舞います。嬉しそうに抱きしめ合い、桑賛は彼女の額に優しく口付けます。
特調所に入ってきた趙雲瀾と沈巍。「悪いね、お待たせした」と沈巍の肩に手を載せながら趙雲瀾が言うと、メンバーが一斉に立ち上がります。
「何か?」と沈巍が面食らったように言うと、一斉に「黒枹使様」と言われ、眉を顰めます。趙雲瀾は爆笑。
「お前たちときたら、まったく現金な奴だ!どうやら祝紅から正体がばれたみたいだな」。「今までどおりに接してくれ」と言う沈巍。趙雲瀾は祝紅に誘導され、ソファの定位置に座ります。
沈巍はまず楚恕之に近づくと、「黙っていて悪かったね」と謝ります。「いいんです。何があろうとついていきます」と沈巍を見つめる楚恕之。「おい楚、忘れるなよ、上司は俺だ。沈巍はただの顧問だぞ。恩があるのは分かるが俺に従え」と口を挟む趙雲瀾。
そこに郭長城が「いい知らせが!」とチラシを持って特調所に駆け込んできます。
「”龍城の名医”ぃ?」「難しい病も治せるって。きっと所長の目も治せますよ!」「名医なんて眉唾ものだよ。信用できるのは科学だけさ」。林静は郭長城のチラシをメンバーに回しながら毒舌を吐きます。
沈巍は眉を顰めながらチラシに書かれた文字を読んでいます。「小魚を10袋かけてもいい。絶対に詐欺だ」と言う大慶。
林に電話が入ります。「はい、…叢波だ」。
「所長の目を治せるかも!名医の情報を掴んだ!」と電話の向こうで叫ぶ叢波。どうやら郭長城が持ってきたチラシに書かれた医者のことを言っているようです。
「詐欺でも構わない。せっかくの情報だ。試してみる価値がある」と言う沈巍。
趙雲瀾・沈巍・大慶・祝紅はその診療所へ向かいます。祝紅は診療所に入るなり鼻をつまみ、「来るんじゃなかった」と後悔します。
「患者はどこだ?」と横柄に尋ねる医者に、沈巍は「彼です」と趙雲瀾を指します。
医者は「静かに」と言いながら趙雲瀾の目を見ると、「すぐに治る」とだけ言います。「なんだって?すぐ治る?失明してるのに?」と困惑する大慶、笑う趙雲瀾。
「疑うのか?あ゛?悪いが今日は診察はしない」と言う医者に、「ご専門は東洋医学ですか?どのように診察を?」と尋ねる沈巍。
「私の医術を盗みにきたようだな、ちょうど弟子を捜しているが、あんたらはお断りだよ。それと診察の時は患者以外は立入禁止だ。今みたいな馬鹿な質問も受け付けん」と茶を淹れて飲み始める彼に、趙雲瀾はひと笑いし、「帰るぞ」とさっさと立ち上がります。「失礼」と沈巍も立ち上がり、医者は一瞬呼び止めようとしますが、「勝手にしろ!」と罵声を浴びせます。
「何が名医よ、絶対に詐欺師ね」と憤慨する祝紅。趙雲瀾は大慶に支えられながら診療所を後にしますが、沈巍は診療所に入っていく欧陽教授を見て「大慶」と呼び止め、目配せをします。
「誰が何と言おうと私は君の腕を信じている。望むなら活躍の場を与えるよ。君の力を世に示すんだ」と熱っぽく語る欧陽教授に、「お断りします。うちは3代前から続く病院ですが、私の代になり医術を馬鹿にされてきました。でも認められる時がきた。まずはヤブ医者の汚名を返上したい。それ以外のことは後で考えます」と言う医者。
大慶は猫の姿に変身し、その会話の一部始終を見聞きしていました。
欧陽教授を病院の外で待っていた沈巍。彼が診療所を出てくると同時に声をかけます。
「欧陽教授」「沈巍、これは奇遇だな」「ご存知でしょうが、私は今特調所の顧問を。所長の趙が職務中に負傷したので訪ねてきたんです」「そうか、所長は人間だからな。負傷は避けられん。我らの実験が…んん、顧問の件は驚いたよ。特調所の任務は危険だ。なぜわざわざ危ない道に?海星艦の研究所で才能を発揮すべきだ。加入すれば最高機密を教えよう」。
沈巍をどうしても引き入れたい欧陽教授の熱意に、沈巍は困ったように微笑みます。
「そうだ、欧陽教授。ここの馮医師の腕は確かですか?」と沈巍が尋ねると、「もちろんだ。私のリューマチを瞬時に直した」と答える欧陽教授。
「(瞬時に?)どうやって治療を?」と訝しげに尋ねる沈巍。
なぜ趙心慈は「古代秘聞録」を持っていたのか?沈巍が「古代秘聞録」や崑崙の存在、夜尊の正体を隠したがるのはなぜなのか?趙心慈の中に潜む別人格は何なのか?馮去病医師は地星人なのか?鴉青がもし亜獣族の長になったらどうなってしまうのか?亜獣族の聖地には何があるのか?
謎は山積みです…🏔
第22話 老化事件
<あらすじ>
馮去病(フォン・チュービン)医師の治療でようやく視力を取り戻した趙雲瀾(チャオ・ユンラン)。
その頃、ちまたでは若者が瞬時に老化する奇病が広まっていた。
調査に乗り出した趙雲瀾と沈巍(シェン・ウェイ)は馮医師が闇の力に操られ、病人を治療することによって、若者を老化させていることを知る。
沈巍が「どうやって治したんです?」と欧陽教授に尋ねると、「私も興味がある。高度な機械も使わないのに驚くほど早く治す。あの能力はとても人間業とは思えない」と返されます。「つまり地星人だと?」「それは君たちが証明することだ、用があるので帰るよ。たまには顔を出しなさい」「はい」。欧陽教授の背に一礼し、考え込む沈巍。
後日、趙雲瀾はまた馮去病のもとへ診察に来ます。沈巍の視線の熱量に負け、「そこまで真剣に悩むなら治してやってもいい」と言う馮去病。沈巍は頭を下げます。馮去病は「入ってくるなよ、決まりだからな」と念を押します。趙雲瀾の肩を叩くと、沈巍は診療室の扉を締めます。
「あの医者どう思う?変わり者だけどちゃんと治せるかしら」と顔を顰める祝紅に、「黒枹使のことだ、見込みがあるんだろう。昼間馮去病と欧陽教授の会話を聞いたが、腕は確からしい。それにボスがあれじゃ藁にもすがるしかない」と大慶はため息をつきます。
馮去病は診察台に趙雲瀾を寝かせます。
「結構な面構えだ。助けてやるしかないな」「そうさ」「目をつぶれ」。
馮去病は辺りを見回します。大慶がこっそり窓の外からそれを見ています。馮去病が両手に力を込めると、緑色の力が渦巻きます。
「馮去病は闇の力を使ってるようだ」と大慶は慌てて沈巍に報告。沈巍の目が鋭くなります。「捕まえる?」と尋ねる大慶に、「どんな者でも治してくれるなら感謝しないと」といつになく弱気な発言をする沈巍。
しかし診察室の扉が開き、「今中をのぞいたのは誰だ!?決まりを守らない奴は診てやらないからな!!」と馮去病が激怒しながら出てきます。「馮去病先生、先生、どうした?」とよろよろと趙雲瀾が馮去病の後を追って出てくると、馮去病は「他を当たってくれ!さっさと行け!早く帰れ!出ていけ!」と、全員を診療所から締め出してしまいます。
特調所では「お茶を持ってこい」と趙雲瀾が大慶に頼みます。険しい表情を崩さない沈巍。「お前ら今日はどうしたんだ?無口だな。見えなくても浮かない顔なのがわかる。たかが失明じゃないか。むしろ喜べ、見張りがいないんだぞ」。
「治らなかったら私が養ってあげる」と言い出す祝紅に、「まるでお別れ会だ、感傷的になるなよ」とふざける林静ですが、祝紅に物を投げつけられ「ごめん、悪かった」と慌てて謝ります。趙雲瀾は笑いますが、沈巍は険しい表情を崩しません。
沈巍は一人で馮去病の診療所へ行きます。
「馮先生、この前のことは申し訳なかった」と頭を下げる沈巍。「治してくれるならどんな条件でも飲みます」と言うと、馮去病は「いいだろう。跪け」と傲慢に言い放ちます。「何だと?」と聞き返し、屈辱に思わず拳を握りしめます。「跪け」と再度言われ、怒りに震えながらもやろうとしますが、「外でやれ」と、診療所から締め出されます。
沈巍は昼から深夜まで、さらに土砂降りの雨が降ってきても、ひたすら外で跪き続けました。じっと診療所の中を見つめ続けます。
狂気に近い熱意に慄いた馮去病は、「強情な奴だ。明日連れて来い」と沈巍に言います。沈巍は眼鏡を外し、涙をこらえて微笑みます。
「僕の家族や収入はお分かりいただけましたか?」「ちょっと化粧室へ言ってきます」「どうぞ」と、一対一のお見合いをしている若い青年と女。うきうきと飲み物を飲む青年ですが、化粧室から戻ってきた女は、青年が老人になっていることに驚き唖然とします。
沈巍は診察室の外でそわそわと待っていました。しかし何か嫌な予感を感じ、眉を顰めます。
馮去病は趙雲瀾の目の上に手をかざし、掌から力を出します。しばらくすると、「済んだぞ」と声をかけます。趙雲瀾の目は見えるようになっていました。「入れ」と沈巍を診療室に入れる馮去病。沈巍を見て笑う趙雲瀾に、思わず心からの美しい笑顔をこぼす沈巍。
「ありがとう」と馮去病に沈巍が頭を下げますが、背中で組んだ馮去病の両手はぶるぶると震え続けていました。
趙雲瀾に電話が入ります。「もしもし…事件だ」と沈巍を見上げる趙雲瀾。
帽子とマフラーで顔を隠した青年・劉浪の家に来た友人の青年。
「そんなに寒いのか?おい劉浪。午後お客に会う時は脱げよ。…劉浪、まさかお前も…」と青年が言うと、劉浪は帽子とマフラーを外します。そこには老人がいました。「3人目だ!この会社はどうなってるんだ」と叫ぶ青年と、所在なげに目線をさまよわせる劉浪。
「光が見えるのはいいもんだ」と特調所で新聞を読む趙雲瀾。「“奇病が劉城を襲う。若者が瞬時に老化”、おかしなことがあるもんだ」と呟きます。
汪徴が「海星艦から事件が回ってきたわ」と声をあげます。「被害者は複数、死者は1人、王群」と楚恕之が言うと、「王群?どこかで聞いたことがある」と郭長城が首を傾げます。「王群…いつもここに荷物を届けに来ていた宅配便の人よ!」と叫ぶ祝紅。「中秋節の夜も彼が荷物を運んでたわ、あの人だなんて」と眉を顰める汪徴。
「楚たちは老化した劉浪の家に行ってこい」と趙雲瀾が指示すると、「分かった」と楚恕之はすぐに立ち上がります。彼の後にすぐ着いていく郭長城。
趙雲瀾は2人を見送りながら、「あの2人、ますます息が合ってきたな」と祝紅とアイコンタクトを取りながら笑います。祝紅は心底嬉しそうに笑います。
「老化する前、何か異常はありませんでしたか?恨まれたりとかは?」と郭長城は劉浪に尋ねますが、「ありません、何もないです。あるわけがない。これで人生終わりです」と悲観する劉浪。楚恕之と郭長城は無言で顔を見合わせます。
楚恕之が趙雲瀾に電話します。「ボス、劉は普通の会社員で不審な点はない」と報告する楚恕之に、「分かった、見張りを続けろ。夜戻ってから話そう」と返す趙雲瀾。
劉浪への聞き込みから帰ろうとしていた楚恕之と郭長城は、会社の入ったビルの入り口付近である青年に出会います。
「劉浪さんの同僚?」と尋ねる楚恕之に、「そうです」とあっさり答える青年。「今日彼には?」「会いました」「さほど驚いていないようだが」「うちの会社ではもう3人目なんですよ。みんな不安なんです。次は自分かもしれない」「誰か会社を恨んでる人はいませんか?会社の近くで変なことがあったとか…」と郭長城が口を挟んだ瞬間、楚恕之は嫌な予感を感じます。すると、目の前で青年がどんどん老人になっていきます。「どうしました?」と青年に尋ねられ、言葉を失う楚恕之と郭長城。
李茜は電話に出ます。「李茜君かね?欧陽貞だ」と聞こえてきた声に、無言で何かを考える李茜。
特調所では、事件の整理が行われていました。「整理しましょう。最初の老化事件は中秋節の夜、死亡したのは宅配便の配達員・王群」と言う祝紅。
「その日から1日おきに事件が発生しています。全部で6件、そのうち4件が同じ会社で、その会社の荷物も王群が配達していたそうです」と補足する郭長城。
「会社に問題は?」と尋ねる沈巍に、「調べたが何もなかった。そして今日老化を目撃した。事件の唯一の共通点は、仕事のエリアだ」と答える楚恕之。
「林静、闇の力に動きがないか調べろ」と趙雲瀾は指示しますが、「あの装置は最近反応しないんだ。祝日で地星人が帰省したかと思ったぐらいだ」と口を尖らせる林静。「おかしいな、ボスの治療に馮去病が闇の力を使ってた」と大慶は首を傾げます。
「黒兄さんは治療の時何か気づいたか?」と尋ねる趙雲瀾に、「闇の力は感じなかった。しかし1つ気になる点がある。得る者がいれば失う者がいるはずだ。被害者たちは突然老化している。生命エネルギーを奪われたかのように。まるで長命時計で命を共有されたようだ」と言う沈巍。
「生命エネルギーが消えるのは誰かが別人に送っているからかもしれない」と楚恕之が仮定を立てると、「双方の距離は遠くないはずだ」と沈巍が言います。「本当ね。道路の修理で気づかなかったけど、会社と龍雲町の間は街区が1つだけよ」と目を見張る祝紅。
趙雲瀾と沈巍は老化者リストと馮去病診療所患者リストを見比べます。
「馮去病…明日また馮先生に会いに行かなきゃいけないな」と言う趙雲瀾。沈巍は何かを考え込むように真っ直ぐ前を見つ続けます。
海星艦の実験室では、欧陽教授が「さすがだ!聖器の元主人だけある。細胞が増殖している」と歓喜の声をあげます。「だが気は抜けない。これ以上聖器を使えば彼女の体が持ちこたえられない」と困ったように言う周教授。
「発展には犠牲が必要だ。多少のダメージは問題ない」「やめんか欧陽、いつからそんな過激に?」「我々にはもう時間がない」。いつの間にか、欧陽教授と周教授は言い争っていました。
「教授」「ああもう帰っていい」と部下を返す欧陽教授。「手伝ってくれてありがとう」と言う教授に笑顔で礼をする李茜。しかし突然つかつかとホワイトボードの前に進むと、「違います」と言います。化学式を消し、書き始める彼女に違和感を覚える教授たち。
趙雲瀾と沈巍は馮去病の診療所に来ていました。「またあんたたちか。今度は誰の目を診れば?」と皮肉げに笑う馮去病に、「冗談がきついな。今日は先生の超能力について聞きに」と単刀直入に話す趙雲瀾。
「左の列が先生が治療した患者で、右の列が老化事件の被害者たちだ」「先生が1人治すと別の被害者が出る。偶然すぎると思わないか?」「そんな馬鹿な。患者は知っているが被害者は一人も知らない!」「では、どんな方法で治療を?」。沈巍が治療法を追求した途端、馮去病は口をつぐみます。しかし隠し通せないと悟ったのか、ため息をつきます。
「仕方ない。白状しよう。私は凡庸な医者だった。だがあの日を堺に自分の医術が覚醒したのを感じた」。
「三代にわたって医者なのに、あんただけがヤブ医者だ。この筆は名医になる夢を叶えられる」と、光る筆を黒いフードの男に渡される馮去病。筆を握った途端、体全体が激しく揺さぶられるような恐ろしい力を感じます。
「何だこれは!?」と筆を握りながら叫ぶ馮去病を、「落ち着け、遺伝子を覚醒中だ。少しの間だ」と男は宥めます。その頃、配達員の王群は心臓に異変を感じていました。さらに王群が宅配のために入った会社のビル全体を黒い煙が包み込みます。
「まさか私が生命力を移し替えたのか?」と怯えたように言う馮去病。「その男が場所を指定して誘導したのでは?」と言う沈巍に、「何も聞いていない。他の人が犠牲になるなんて思わなかった」「命を救う医者に計画を話せば拒絶される。隠して当然だ」「私は患者を救いたかっただけなんだ。危害を加えたりしない。彼は私を助けてくれたと思った」。縋るように必死で趙雲瀾と沈巍に言う馮去病に、2人は肩を落とします。
「また誰かが陰で操っているようだな」「犯人を捜すには手がかりが少なすぎる。相手の目的すら分からない。ひとまず、先方の出方を待とう」。沈巍の指摘に頷く趙雲瀾。
「私の家では代々医術で人を救ってきた。みんなに生命力を返さないと」と言う馮去病に、「先生は生命力を増減できる。だが人を助ければ罪のない被害者を出す」と趙雲瀾は諭します。
しかし、馮去病は「1人だけ自業自得な奴がいる。大勢を傷つけた。罪滅ぼしをすべきだ。決めたよ。自分の犯した罪を償う」と言います。
その瞬間立ち上がった趙雲瀾の腕を「待て」と強い力で掴む沈巍。沈巍は顔をこわばらせますが、趙雲瀾は朗らかに笑っています。
趙雲瀾が沈巍の肩を叩くと、沈静は腕を掴んでいた手を諦めたように外します。
「馮去病先生、俺も罪なき者を犠牲にした。一緒に返そう」と、馮去病の肩を叩く趙雲瀾。
李茜はホワイトボードの前で、「済んだわ」と笑顔を見せます。
「思い出したぞ、君は沈巍の生徒で生物工学科にいた」と言う周教授。顔いっぱいの笑顔を浮かべる欧陽教授。
「李茜、私たちの偉大な実験に参加する気はないかね?私には分かるよ、君は科学に情熱を抱いている。参加したまえ、どうだ?」。
前のめりに言われ、李茜は一瞬戸惑うもの、笑顔で承諾します。
「よかった、思ったとおりだ。では今から手続きを。済んだらすぐ仕事だ。行こう!」と彼女を引導する欧陽教授。
「始めるぞ」と馮去病に言われ、頷く趙雲瀾。馮去病の掌の上に自分の掌をかざす趙雲瀾。馮去病は趙雲瀾から生命エネルギーを吸い取ります。建物を覆っていた黒い煙もなくなります。
一気に老いた馮去病はよろめき、沈巍が慌てて支えます。また失明に逆戻りした趙雲瀾。
趙雲瀾は必死で馮去病の手を探すと、「あんたはいい医者だよ」と言いきります。微笑む馮去病。「被害者にかわって礼を言う」と沈巍は美しく一礼します。馮去病は微笑んだまま息絶えたようです。
そのころ、海星艦の実験室に白衣の女が乱入し、金庫を開けようとします。「君、何してる」と周教授が止めようとした瞬間、彼の腹に攻撃し失神させます。実験室だけでなく海星艦全体のライトを落とします。
「今度は…」と欧陽教授が李茜に向かって楽しげに話していると、局全体が真っ暗になります。
しかし即座に実験室の電気は復旧。「予備の電源?」と女は悔しげに言い、逃げるように外へ走り出します。欧陽教授は電気が消えたことで「まずい」と実験室へ一目散に走り出します。
「資料は失敗したけど、あれは手に入れたわ」と言う女に、鴉青は「それで十分よ。ボスに伝えておく」と言います。
「必要ない、手伝ったのは自分のため。手先にはならない」「ボスの予想どおり、連中はあんな研究を進めてる。あれは私に。見張りは続けて」「分かった」「そっちの準備はできたの?」。鴉青が男に尋ねます。
「当然だ。老化事件は始まりに過ぎない。罪人どもは全員始末してやる」と崩れた建物の壁を握りしめます。
海星艦の実験室では、欧陽教授が「周よ、安心して休め。ここは私に任せろ」言い、電話を切ります。欧陽教授は苛立っていました。
李茜が「教授」と呼びかけると、「徐々に慣れてもらいたかったが、状況が大きく変わった。早く一人前になってもらわないと」と焦ったように言います。「はい」と従順に頷く彼女に、欧陽教授は「表向きは地星人の遺伝子を研究している。そんな地味な研究なのに…」と言葉を切ります。「なぜか人目につく」「さすがだ、覚悟ができているならいい。真の任務を見せる」。教授は金庫を開けて外付けHDDを取り出し、李茜はパソコンにそれを繋げます。
特調所ではぼーっとしている沈巍の目の前で、趙雲瀾が棒を振り続けていました。苛立ったように棒を奪い取る沈巍に「ああっ」と声を上げる趙雲瀾。
「海星艦に地星人が侵入して、怪我人が出たわ。狙いはきっと研究所の極秘資料ね」と言う汪徴に、沈巍は表情を険しくします。
「林静、測定器は治ったか?手当は無しだな」と脅す趙雲瀾ですが、「仕方ないよ、なぜか反応しないんだ。俺にも分からない。闇の力の質が変わった?」と林静は首を捻ります。「もういい、あてにはできん」と言う趙雲瀾。沈巍はそれをじっと聞いていました。
「楚は海星艦へ行って事件を記録してこい、林も行って証拠を集めろ」と趙雲瀾が指示した時、「所長、大変です。玄関に手紙が」と郭長城が駆け込んできます。
「特調所 御中」と書かれた手紙を、沈巍が受け取ります。「誰からだ?」と問う趙雲瀾に「功徳筆の主だ」と沈巍が答え、所内に緊張が走ります。
「こんな実験…特調所は?」とハードディスクの内容を見て絶句する李茜。「烏合の衆は相手にするな、趙雲瀾が治らなければ所長は替わり、沈巍がここへ異動してくるだろう」と言う欧陽教授。電話が鳴り、彼は慌てて「そう、私だ」と対応します。李茜は表情を険しくしながらキーボードを叩きます。
手紙にはこう書かれていました。「老化事件は序の口だ。幕は開かれた。特調所が私の正体を暴き私を捕まえたら、功徳筆は献上しよう」、と。
「海星艦が襲われて今度は挑戦状が届く。立て続けね」と言う祝紅に、「脅しだろう」と言う楚恕之。「次から次へと聖器が登場するな、3つ目だろ」と林静はため息をつきます。
「それで夜尊が強気だったのか」と納得する沈巍。
「そういえばドラ猫は?今日は妙に静かじゃないか」と言う趙雲瀾に、汪徴は「副所長は古い友人に会いに早退を」と言い、「古い友人?」と趙雲瀾は首を傾げます。
大慶は病院で成先生から催眠療法を受けていました。
「あなたは今夏の海辺にいる、太陽の光が砂浜に優しく降り注ぐ。次々と打ち寄せる波しぶき、泳ぎ回る魚もいる」と言う成先生に、「魚だ!」と思わずはしゃいで目を開けてしまう大慶。「あ、すみません、続けてください」と慌てて目をつぶり直します。
林静が驚愕しパソコンの画面を見つめたため、郭長城が「林静さん、何か?」と尋ねます。「匿名のメールだ。長命時計でボスの目を治せると」と林静が言ったため、沈巍はすぐさま立ち上がり、メールを見ます。硬直する趙雲瀾を見て微笑む沈巍。
「私の声に合わせ、一歩、また一歩と前へ、そして進むごとにあなたの記憶に近づく」と成先生が言うと、大慶は「崑崙」と呟きます。
「崑崙!崑崙!」。夢の中で大慶は白毛で長髪の沈巍に似た男と対峙していました。男はにやりと笑います。
「近寄るな、やめろ」ともがく大慶。「大慶!」と成先生が呼んでも、彼は夢から戻ってきません。「来るな!」「数えるから起きて、3、2…」。荒い呼吸で成先生に飛びかかろうとしていた大慶。
「すみません先生」「思い出した?何を見たの?」「沈巍…?」。
長命時計を握る趙雲瀾と沈巍。険しい表情の2人を大慶を除くメンバー一同が見つめます。輝き始める長命時計。
しばしの時間の後、荒い息をつく趙雲瀾を不安げに見つめる沈巍。「やめよう」と言う趙雲瀾に、「だめだ、もう一度」と沈巍はもう一度長命時計に力を込めようとしますが、趙雲瀾はメンバーにウインクをします。どうやら既に趙雲瀾は目が見えるようになっていたようです。力を入れても手応えがなく、沈巍が不思議に思って目を開けると、目の前には満面の笑みの趙雲瀾がいました。
「聖器はどの特殊能力よりも便利だな」と笑う趙雲瀾に笑顔が溢れる沈巍。沈巍は趙雲瀾の笑顔を眩しそうに見つめます。
「みんな、久しぶりだ」と両手を広げる趙雲瀾。普段は仏頂面の楚恕之も嬉しそうです。「お前またブサイクになったな」とメンバーの腕を叩きふざける趙雲瀾。
しかし沈巍が握った長命時計は鈍く光り、沈巍は顔色がどんどん悪くなります。趙雲瀾は振り返ると、「ありがとう」と沈巍に感謝します。笑顔で体調の悪さを隠す沈巍。
沈巍の作った手料理を、趙雲瀾の部屋で2人で食べます。沈巍は眼鏡を外しています。「目が見えるようになったら飯を作ってもらえなくなるから治らなくていいと思ってた」と料理を頬張る趙雲瀾に、「悪い冗談だぞ」と顔を顰める沈巍。
「功徳筆ってのは何だ?」「分からない」「あんたでもか」「4大聖器の中で最も能力が高いそうだが、具体的なことは不明だ。それだけでなく馮去病の件以降、龍城で闇の力を感じなくなった。敵の陰謀も探りようがない」「林静の測定器も全く反応しなくなった。給料を削るべきかな?」「とにかく、功徳筆の主の思うままになりそうだ」「それは困る、俺たちは許せない。地面を掘ってでも手がかりを捜すぞ」「それでこそ君だ。準備はしてある。摂政官に連絡した。功徳筆の資料が地君殿にあるはずだ」「一緒に取りに行こう」「一人で行く」。駄々をこねる趙雲瀾。
「忘れたのか?前回の旅は楽しくなかったろ?ましてや君は普通の人間だ。地界はやはり危ない」「黒兄さん、俺の目は完全に治っててる。しかも今は緊急事態で一刻を争う」。熱弁を振るう趙雲瀾を前に、沈巍はため息をつき、「食事を」と促します。了承が得られたことに喜ぶ趙雲瀾。
「あとのことは汪徴に頼んでおいた」「急いで戻って来よう」と話しながら地界への門を開ける沈巍。そこに大慶が現れ、沈巍の背後から襲い掛かろうとします。「何の用だ?」と趙雲瀾が眉を顰めると、「一体何を企んでる?物騒な地界にボスを行かせるのか?」と大慶は噛み付きます。「どうした」と趙雲瀾は大慶の肩を叩こうとしますが、全力で振り払われます。
「大丈夫だ。夜には戻る。後を頼む。行こう」と趙雲瀾が沈巍を引っ張ると、「僕も行く!」と無理やり大慶が体をねじ込んできます。「磁場が乱れる!」と叫ぶ沈巍。
かつて趙雲瀾が騒ぎおおこした地界の酒場のバーテンは、「黒枹使がお越しになった店だぞ、値上げの何が悪い。客が今日一人も来ないなんて信じるもんか」とぶつくさ文句を言いながらグラスを磨いていました。店の天井に穴が開き、そこから趙雲瀾と大慶が落ちてきます。
「あの時のお前か!覚えているぞ」とバーテンが叫ぶと、「ここが地界?」と大慶は辺りを見回します。「また逃げてきたか面倒なことをしやがって」と文句を言うバーテンをみて、「友達か?敵じゃないよな?まずいよ。沈巍がいない」と趙雲瀾に縋ります。
バーテンを指差し笑う趙雲瀾の手を叩き落とし、「大丈夫か?」と怒る大慶。「それはお前だ。俺はまた地界に来ることができて喜んでる」と上機嫌の趙雲瀾。「目はどうだ」と尋ねる大慶に「前よりよく見える。地界にきて正解だったようだ。沈巍を探そう」とうきうきと酒場の外に出て行こうとする趙雲瀾。
しかし「俺を無視するのかよ、弁償していけ」とバーテンが激怒したため、趙雲瀾は嫌々振り返ります。
沈巍は趙雲瀾と大慶を探し回っていました。
すると、街ですれ違った若者たちが「バーに向かう奴が多いがなぜだ?」「天から人が降ってきたと騒いでる」「見に行くか?」「やめておこう」と話しており、バーへ急いで向かいます。
バーではバーテンが趙雲瀾の肩を揉んでおり、大慶はなぜか猫になっています。「占いは当てにならないが、俺様のアドバイスは違う。ちゃんと根拠がある」「農場に行ったのか?その方法で本当に儲かるのか?この太った猫を使って?」。
趙雲瀾の様子を見て思わず物陰から笑ってしまう沈巍。
「もう一度言っておくが、こいつは”招き猫”というんだ。ドラ猫、見せてやれ」。話に呼応するように返事をする大慶を触ろうとするバーテンの腕を叩き落とす趙雲瀾。
「これはうちのペットだから譲れない。方法は教えた。あとは自分でやれ。ドラ猫、もういい」。大慶「まったくもう…」と言いながら変身を解きます。「ほら見ろ、お客が来た」と嬉しそうに趙雲瀾が指差した先には沈巍が。バーテンは「黒枹使様ようこそ!何をお飲みに?もってきます!」と慌ててバックヤードへ走っていきます。「もう飲むなよ時間がない」とビールを煽る趙雲瀾を注意する大慶。趙雲瀾は残念そうです。
「面倒をかけた」と言う沈巍に、摂政官は「いえいえ、いらした理由は存じてます。ただ…」と言葉を濁します。「何だ?」と沈巍が尋ねると、丁頓の後任が「ここは今 地君改任の総会中で、自由に動けません。明日の総会終了までお待ちを。書庫も例外ではありませんから」と答えます。
「地君も変わるのか」と言う大慶に、「地君も老い、寿命も尽きる。あるいは他の者よりも早く」と答える沈巍。「何が言いたい?」と趙雲瀾が聞くと、摂政官が笑います。
「そうだ、黒枹使様と鎮魂令主が参加なされば一層盛大な総会になりますよ!」「それなら俺たちは残って、明日総会が済んだら調べるか。早く戻って万全の準備をしてから功徳筆の主と戦おう」。趙雲瀾はこっそりと大慶に調べるようウインクで指示を出します。
笑顔の摂政官の後ろで階段を登りながら、「ボスがおとなしく従うとでも?」と舌を出す大慶。
地君殿のより深くに進もうとすると、目の前に銃を持った男が立ち塞がります。
「何をしてる」「見ての通りだ!地君と黒枹使の命令で資料を閲覧しにきた!」「どちらの命令なんだ。それに地君はもう代わる。書庫も昨日封鎖命令が出た。帰れ!」と言われ、大慶は男を宥めながら後退りします。
第23話 3つ目の聖器
<あらすじ>
3つ目の聖器 功徳(くどく)筆の謎を解くために、沈巍(シェン・ウェイ)と共に地界にやってきた趙雲瀾(チャオ・ユンラン)と大慶(ダーチン)。
だが功徳筆に関する資料はすべて破棄されていた。
そんな中、地君(ちくん)が殺害され、新地君の安柏(アン・バイ)が殺害犯として捕えられる。
地君殿の衛兵に捕らえられた大慶。そこに趙雲瀾と沈巍がやってきます。大慶に目配せする趙雲瀾。
「捜したぞ!また食い歩きか?地界では慎めよ!面倒をかけて悪かった」と大慶を沈巍に預けて笑う趙雲瀾。補佐官は笑みを浮かべながら、「龍城では縦横にご活躍でも、地界では慎重に行動すべきですな」と釘を刺します。趙雲瀾は「当然だ、分かってる」と神妙な顔で頷きます。
「皆様、こちらがまもなく即位される地君です」と摂政官が紹介し、「いいね、地君にふさわしい才気溢れるイケメンだ…なぜお前が?」と趙雲瀾は訝しげに新地君を見つめます。沈巍は瞠目。新地君はかつて趙雲瀾と摂政官を襲ったチンピラのリーダー格の男・安柏でした。
処刑が決まった時、安柏は「どけ」と衛兵たちを力づくで押しのけると、「2人を助けてくれ、俺はどうなってもいい!」と摂政官に嘆願しました。「安柏」と2人が声をあげる中、「下がれ」と摂政官は声を荒げます。
すると突然、りんと鈴が鳴ります。「すべてを犠牲にしても構わないというのか?自由も青春もいらないと?」と地君の声が響き渡り、摂政官は驚きに目を見開きます。
「はい」と言い放つ安柏に、「鋭い眼光に毅然とした声色だ、宜しい。ではお前に機会をやろう」と地君は言います。「地君様」「驚いたか、私が口を出すとは思わなかっただろう」「いいえ、ですが地君の座を継ぐ者は名家出身で才徳兼備でなくては」「摂政官の言うことも尤もだ、だがこの若者が友を思う心は称賛に値する、地君を継ぐ資格はあるだろう」。
摂政官は焦ります。「若者よ、お前の望みが叶うよう祈るぞ」と再度鈴を鳴らす地君。
補佐官から部屋に案内される趙雲瀾と大慶。
「こちらでお休みを」「随分暗いな」「現在灯火は地君殿に集めておりますので。御用がなければ私はこれで失礼を」「どうぞ」。
趙雲瀾は補佐官を見送り、補佐官は帰りしな大慶と睨み合い去っていきます。
「せっかく視力が戻ったのに暗闇に逆戻りか」「なあボス、地界にきた途端 敵に囲まれた、あいつ感じ悪いぞ」「敵意には敵意で応じるさ。それより大慶、沈巍へのあの態度は何だ?お前こそ敵意むき出しだぞ」「…信じないだろうけど、実は記憶が戻った。ほんの少しだけど」。趙雲瀾は驚き目を見開きます。
楚恕之と林静は海星艦の廊下を歩いています。
「ボスは変わったな。視力が回復してすぐ功徳筆の捜査とは。郭ちゃんは老化事件の残務処理だし、俺は海星艦の現場検証」と文句を言う林静を睨む楚恕之。しかし楚恕之は突然白衣の男に行手を阻まれます。
「何だ?侵入事件の捜査だぞ?止める気か?」「欧陽教授が外出中で、部外者は入れません」。楚は無視して進もうとしますが、林静が愛想笑いを浮かべながら「待った、こっちで話そう。揉める必要ないだろ?撮影も残ってるし」と楚恕之を止めます。
しかし楚恕之は林静の言葉を無視して進もうとするので「なら先に外勤手当の支給を」とふくれます。
「病欠願でも出すんだな」「ならいいよ」「行くぞ、別行動だ」。
白衣の男に目礼し、踵を返す楚恕之の後を追う林静。
「で、お前の結論は?」「あの沈巍って奴は信用できないってことさ!愚かな地星人め、絶対何か隠してる。崑崙のことも」「知ってるよ。奴が返してきた時には潰れてた」。
趙雲瀾は壊れたボイスレコーダーを懐から出します。
「他の人間なら録音内容を消して終わりだが、沈巍は電子機器の扱いがさっぱりだ。壊すしかなかったんだろう。崑崙の話を避けるために」「じゃあなぜ」「賭けてるのさ、何か理由があると。あいつは、どんなに苦しくても表に出さない。だから待ってる。耐えきれなくなって自分から話すのを」「あんたって奴は!そこまで信用するか?」。呆れる大慶に笑う趙雲瀾。
「なら僕があんたを守る」「どうやって?」「基本に戻る、尾行だ。あいつが何をしてるか探ってくるよ。…おい、許可しろよ」。考え込む趙雲瀾の椅子を蹴る大慶。「行け」と趙雲瀾が言うやいなや、大慶は部屋を飛び出します。彼の背を見送り、また考え込む趙雲瀾。
沈巍は天柱に近づいていき、大慶はそれを近くの崩れかけた柱の陰からこっそり見ていました。
「痩せたな」「夜尊、手を引け。まさか本気で己の野心のために民を犠牲にする気か?」「はっ!お前の説教だけは聞きたくない。忘れるな。我らの関係と私への大きな恩をな」「戯言を」「よく分かっているはずだ。お前が復活できたのは他ならぬこの私のおかげだと」「私の蘇生は運命のいたずらだ。お前とは関係ない」「私が死なずに封印されているからお前は生きていられる!お前に私は殺せない」「見くびるな。お前の野心を止めるためなら命など惜しくない」「偉そうに、この天柱にお前は入れまい。何ができる?試してみろ!」「それでも、私は全力でお前を封じ続ける。一万年前と同じようにな」「戦いの幕は切って落とされた。お前1人で私を止められるか?」「手を引け」「あははは…!」。沈巍は夜尊の悪行をやめさせようと説得しますが、夜尊は自分のお陰でお前は生きていられるのだと聞く耳を持ちません。
その時、謎の攻撃が大慶を襲います。 大慶の隠れていた柱は木っ端微塵に。
「誰だ!?」と慌てて沈巍が大慶を背に守ります。「腕に覚えがあるなら顔を見せては?」と沈巍が挑発すると謎の男が斬りかかってきます。沈巍の刀を硬化させた腕で受け止めると、男は煙になって消えてしまいます。
「気づいていたのか」と言う大慶に、「怪我は?」と心配する沈巍。「ないよ、僕たちに何を隠してる?」「今はまだ話せないが、趙雲瀾を裏切る真似は絶対にしない。君も私も彼を思う気持ちは同じはず」「そんな言葉には騙されないぞ」。
困ったように顔を顰める沈巍。「でもあんたの行動は信じる。指切りしよう」「ゆ…びきり?」「指切りして嘘をついたら絶対許さないぞ」。小指を強引に絡めてくる大慶に、沈巍はふふ、と笑顔をこぼします。
地君殿では宴の準備が着々と進められていました。趙雲瀾は階段に座り込み、大慶と沈巍はそのそばに立っています。
「書庫を捜したけど、功徳筆の資料は全て破棄されていた」と報告する大慶に、「地君殿にスパイがいるのか、先を越されたな」と淡々と言う趙雲瀾。「地君の即位式が終わったら徹底的に調べる」と沈巍は告げます。
「そういえば、次の地君が決まったのに何の挨拶もない」と言う大慶に、「まったくだ、地君殿には何度も来てるが、地君の顔を拝んだことはない。ずっとあの中(衝立の奥)か」と文句を言う趙雲瀾。
「ご説明しましょう」と突然後ろから摂政官が現れ、驚き慌てる趙雲瀾と大慶。
「地君は多忙で外出はいたしません。そのため民の中には地君が私の傀儡だと言う者もいます。笑えますな」と笑う摂政官に、「摂政官、驚かすなよ!」と怒る大慶。「そんなつもりは…そろそろ時間だ。地君をお迎えせねば」と摂政官は去っていきます。
「安柏は?」と趙雲瀾が呟くと、また唐突に背後から補佐官が現れ、「彼は次の地君ですから、当然儀式には参加します」と返します。「背後から人を驚かすのが地界式か!?」と怒る大慶。
しかしそこで突然、摂政官の悲鳴があたりに響き渡ります。慌てて沈巍が摂政官の倒れている地君のそばに向かうと、そこには急所を一突きされた地君の遺体がありました。
「死後数時間経っている」と検死する沈巍に、「普通の刀傷だから調べるのは困難だ」と傷を確認する趙雲瀾。
摂政官を抱き起こした補佐官は「今日は即位式なのに安柏の姿がありません。彼の仕業では?」と言いますが、「違うな。即位目前なのに殺す必要はない」と大慶が即座に否定します。慌てる補佐官を怪しむ趙雲瀾と沈巍。「で、ですが後継者に決定したあと安柏はよく地君と口論を。もしや言い争いが募り、地君を殺して逃げたのでは?」。
「伝令を出せ!安柏を指名手配しろ!屍でもよい、必ず探し出すのだ!」と激怒する摂政官。沈巍は立ち上がります。
「どう思う?」と尋ねる沈巍に「摂政官の怒りは芝居じゃない」と趙雲瀾は言い、沈巍の耳元で何かを囁き、そのまま去っていきます。
沈巍・大慶・補佐官は町を歩いています。
「駄目だ、安柏の友人たちは無関係のはず。それを捕らえて拷問で証言させるなど法に反する」と反対する沈巍に、補佐官は「昔、英雄と呼ばれた時もそんな甘いことを?」と煽ります。怒りを圧し殺しゆっくりと振り返る沈巍。大慶は睨み合う2人の間にわざと入り、補佐官の爪先を思い切り踏みます。
「何をする」と睨みつける補佐官に、「えへへ、つまずいた」と笑う大慶。「別行動にしましょう」と補佐官は言い放ち、去っていきます。補佐官の背を見つめる沈巍。
「あの足、硬すぎるだろ」と大慶は呟きます。
酒場で酒を飲む安柏らゴロツキ3人組。
「新地君になるはずが、なぜお尋ね者に?」「そうよ」と尋ねる2人に、「分からない、望んでもいなかったしな。地君の末路を知ってるか?」と安柏は唇の端を釣り上げます。「末路って?」と身を乗り出す女。
地君殿内をきょろきょろ見回しながら歩いていた安柏は「若者よ、来るがよい」と地君に呼ばれ、衝立の奥に入ります。
地君を前に跪く安柏に、「礼はいい、立ちなさい、あの頃私にお前のような気骨があればこんな姿にはならなかった」と地君は懐かしそうに話しかけます。「どういう意味ですか?」「私は長く人と会話をしていない。誰も私の話など聞きたくないのだろう。ふふ…」。地君がよろめいたため、咄嗟に安柏は「おじいさん」と呼びかけます。地君は目を見開きます。
「おじいさん?私が地君に就任して数年にしかならない」と彼が言ったため、安柏は地君の座っていた椅子を恐ろしいものを見るように見つめます。
「やつれきってたよ。地君になればきっと同じ憂き目にあう」「怖いわね」「ああ、願い下げだ」。酒を煽る3人組。そこに安柏を探す衛兵2人組が訪れます。
「おい、誰か来た」と安柏に耳打ちする仲間。衛兵のもとにバーテンが慌てて駆けつけ、「何か?」と愛想笑いで尋ねます。衛兵は「あいつらは地君を殺した容疑者だ、来い」と安柏とその仲間を引っ張り、乱闘になります。
「俺は殺してない!」「事件の前現場にいたのはお前と補佐官だけだ!連行する」「離せ、俺じゃない離せよ!」「逃げて」「逃がすか」「彼を離して」「やめろ」。
敵味方がめちゃくちゃになる中、衛兵を後ろからひっそり刺し殺す補佐官。ばったりとその場に倒れ込んだ衛兵に、もう片方が「おいしっかりしろ!」と叫びます。「死んだのか?」「死んでる」と周囲の人々はざわめき始めます。
3人は縄で縛られ、趙雲瀾・沈巍・大慶・補佐官たちの前に跪かせられます。
補佐官は縛られた安柏に「逃げるがいい、私が手を貸してやる」とそっと囁きます。それを見つめる趙雲瀾。3人は頭に銃を突きつけられ、安柏以外の2人は悲鳴をあげます。
「待ってくれ、思い出した!地君殿を出る前に部屋で人影を見た」と言う安柏に、「悪あがきだ。刑の準備を」と言い放つ補佐官。
しかし 「待て、疑問点がある。再審を。地君殿へ」と沈巍が言ったため、刑は保留に。沈巍は趙雲瀾を見ます。
「特徴を覚えているなら紙に書いてくれ、後で来る」と安柏に紙に差し出し、去っていく沈巍。そこに入れ替わるように補佐官が現れ「黒枹使様が場所を移動せよと」と威圧的に言います。しかし安柏が戸惑うように動こうとしなかったため、彼の腕を掴み天柱の前に引き倒します。
「よくやった、期待どおりだ」と言う夜尊に、「滅相もない」と嬉しそうに礼をする補佐官。
「どうした、私の正体に驚いたか?死にぞこないの地君に仕えるより、もっと偉大な主を選ぶのは当然だろう。お前が大人しく罪を被っていれば見逃したものを。なぜ事を荒立てた?口数が多すぎたな。私を恨むなよ」と、震える安柏の髪を掴んだ瞬間、かつらが外れ、服装も変わり趙雲瀾がごろりと地面に寝転びながら補佐官をにやにやと見つめます。
「なぜお前が!」と叫ぶ補佐官の前に、沈巍と大慶も現れます。
「補佐官、やはりな。前に我々を襲ったのもお前か。特殊能力を明かすのが早すぎたな」と言う沈巍。沈巍の刀を腕で庇った時に彼が腕を硬化させたこと、そしてその後大慶が彼の爪先を踏んだことで、補佐官の特殊能力は沈巍たちにばれていたのでした。
「能力を知るためにカマをかけたが、引っかかったな」「摂政官の信頼をお前は踏みにじった」と言う趙雲瀾と沈巍に、「何が信頼だ。我々は摂政官の駒にすぎない。地君もな」と笑いながら襲い掛かる補佐官を刀で圧する沈巍。
「奴の能力は体を鋼鉄に変化させる力だ」と言う沈巍に、趙雲瀾は素早く拳銃で補佐官の胸部を撃ちます。「なぜ殺さない!?」と叫ぶ補佐官に、「利用されただけだしな。言え、地君を殺した理由は?」と迫る趙雲瀾。「あの老いぼれに見られたからだ!」。
「お呼びでしょうか」と補佐官が地君のもとに馳せ参じると、「”苦界に果てなし”。悔い改めよ。書庫から盗んだ資料を戻すのだ。今回は見逃そう。お前の罪は問わぬ」と地君に言われます。その瞬間、「恨むなよ。余計なことをするからだ」と彼は地君を刺し殺したのでした。
「任務に失敗したな。では死んで償え」と言う夜尊に、「喜んで!」と叫ぶ補佐官。趙雲瀾たちが補佐官を捕まえる前に、彼の生命エネルギーは天柱に吸い込まれてしまいます。
「愚かな奴め、天柱を破壊しよう」と言う大慶に、「だめだ、奴を封印している間は破壊できない。天柱は奴の盾にもなっている」と言う沈巍。
補佐官の服を探る趙雲瀾。すると彼のベルトの下に功徳筆の資料が入っていました。「見つけたぞ」「1枚の紙切れのためにまた命が奪われた…」。何とも言えない表情で呟く沈巍。
「年をとったものだ。ますます世の中がわからなくなる」と地君殿の中をうろうろと歩き回りながら呟く摂政官に、「現在の急務は地界の秩序を整え、行政を安定させることだ」と言う沈巍。趙雲瀾・大慶だけでなく安柏の姿もあります。
「地君があんな形でお亡くなりになるとは」と嘆く摂政官に、「長年地界を統べた地君が急死か。残念だな」と呟く趙雲瀾。
「令主よ、私の苦衷をお察しください、地界の統治が滞らぬように地君殿は一丸となって尽力せねば。この状況では安柏の即位を急ぐしかありません」とわざとらしく悲しむ摂政官に、「冗談だろ?俺を殺そうとしたくせに地君の座を押し付ける気か?俺に拒否権は?」と安柏は叫びます。「若者よ、当然断る権利はある。だが忘れるな。友人たちの殺人容疑はまだ晴れていない。人生は完璧ではないぞ。大切な人を守りたければ相応の犠牲を払わねば」と摂政官は冷たい目で彼を見遣ります。「大切な人を守りたければ…」の言葉を聞き、唇を噛み締める沈巍。
前地君は安柏にこんな話をしていました。
「地君になることは犠牲を伴う。地君の後継者は才知に優れ、意志の堅固な者から選ばれてきた。地君の座につけば無情で疲れを知らぬ公僕とならねばならん。それが地君の払う犠牲だ。覚悟がなければ重責に耐えられぬ。地界の過酷な政務にもな。だがお前には自分を犠牲にしても友を守る強い意志がある。お前ならば優れた地君になるかもしれぬ。よく考えるのだ。この地界と友人たちにそれだけの犠牲を払う価値があるかどうかを」。
「仕事を始める」と言い、書き物を始める安柏。安柏は新地君に就任しました。
「安柏、安柏!おい、摂政官、あいつ聞こえてないのか?」と衝立の向こうにいる安柏が反応しないことに苛立つ趙雲瀾。「今や新しい地君が誕生し、事件も解決しました。令主も探しものを見つけられたご様子。そろそろ地上に戻るお時間では?」と飄々と告げる摂政官に、「俺の質問に答えろよ」と凄む趙雲瀾。
「地君を待つのは不眠不休の政務だ」と答える沈巍。「それが地界の掟です。全ては効率的な地界の運営のため」と言う摂政官に、「は!ありえないだろ!」と鼻で笑う趙雲瀾。
「令主、これは古より続く地界の定めなのです。変えがたいかと」と摂政官が言った途端、沈巍が耐え難いというように地君殿を後にします。「おい!」と趙雲瀾は沈巍を慌てて呼び止めようとし、去っていきます。
「先代には及ばぬようだ。見たところもって5年だろう」と冷たい目で新地君を見ながら呟く摂政官。
特調所の一室で、趙雲瀾・沈巍・大慶は功徳筆の資料を見ています。
「功徳筆 我を知り我を罪す 分功し過ちを問う 同声相応じ 同気相求む 勢いに因りて利導す 水に順い舟流る あるいは踊りて淵に在り 咎なし」と沈巍が読み上げると、「教授、翻訳してくれ」と趙雲瀾はお手上げのポーズをします。
「功徳筆の能力とはエネルギー量の操作だ。地星人による闇の痕跡を消す一方で、威力を高める。覚えているか?馮医師は闇の力で治療を行っていたが、私はその痕跡を感知できなかった。功徳筆の力が作用していたんだろう。となると闇の痕跡を頼りに功徳筆の主を捜すのは無理だ」「功徳筆を一振りすれば、小物がラスボスに早変わりか。面倒なことになったな」。
「地界に行くのはもうごめんだよ」と唇を尖らせる大慶に、「収穫はあったが、結果的には厳しい現実が待っていたな」と答える沈巍。「現実か。あいつも地君に即位したが、いずれは…」と趙雲瀾が呟き、沈巍は目を逸らします。趙雲瀾も黙ってため息をつきます。
その頃、安柏の仲間2人は「来い、来るのだ。私はここにいる」と夜尊に呼ばれていました。
「これほど呼んでも若造が2人とは」「誰なの?」「以前は力を封じられ口が利けなかったが、ようやく自由になる日も近づいた。私と共に光明を求め地上を支配しないか?」「俺たちは自ら望んで地界にいるんだ。地上を支配?変な奴だ。行こうぜ」「自ら望んで?あはは!お前たちは騙されている。同胞が地上で犠牲になっているのに、見捨てるのか?共に地界を出て光を取り戻そう。私に仕えよ。私を信じ、皆に信仰を広めるのだ」「…私たち何をすれば?」「この言葉を覚えろ。”光明を求めるもの まず闇夜を尊ぶべし”」。2人は壊れたおもちゃのように”光明を求めるもの まず闇夜を尊ぶべし”と繰り返し、あたりに夜尊の笑い声が響き渡ります。
趙雲瀾の私室に来た沈巍。ベッドで寛ぐ自分を眼鏡をかけない素顔で見つめる沈巍に、趙雲瀾は首を傾げます。
「視力は回復したが、君にはまだ休養が必要だ。地界の影響もある。念のため今夜は付き添うよ」「分かった、仰せのままに」「食事の支度をするから君は休んでいろ」。趙雲瀾は笑いますが、沈巍は神妙な表情です。
冷蔵庫から食材を取り出し、勝手知ったるとばかりにキッチンで料理の準備を始める沈巍。気まぐれに沈巍の後を追おうとした趙雲瀾は、なぜかキッチンとリビングの間に青く光る膜のようなものが見ます。触れようとしますが、怖くなり手を引っ込める趙雲瀾。沈巍は不思議そうに趙雲瀾を振り返りますが、趙雲瀾は「続けて」と彼に微笑むと、ベッドに戻り困惑します。
「こんな臆病者が聖器の主とはね」と悪態をつく沙雅。「彼の助力なしに1人で海星艦に侵入できたと思うの?」と咎める鴉青に、「聖器に興味はないわ。復讐が終われば私は好きにする。全部チャラよ」とそっぽを向く沙雅。黒いフードを被った男は終始無言です。
鴉青は黒いフードの男との出会いを回想します。
「あなたが私たちの”新たな希望”?」と黒いフードを被り膝を抱え震えている男に話しかける鴉青。「早く来て」と苛立ったように彼の腕を鴉青は掴もうとしますが、彼に触れた途端、弾かれます。「功徳筆?」と眉を顰める鴉青。
黒いフードの男は「次の標的は見つけたか?」とだけ鴉青と沙雅に尋ねます。
うたた寝していた趙雲瀾がふと起き上がりキッチンを見ると沈巍が立っていました。「腹が減ったのか?」と声をかけた瞬間、沈巍は弾かれたように振り返り、彼の手からはナイフが滑り落ちます。
趙雲瀾の目つきが鋭くなり、沈巍のもとに一気に詰め寄ると彼の手首を取ります。そこには深々とナイフで切った痕が。
目を逸らす沈巍に、「正直に言え。目を治す時、何をした?」と趙雲瀾は詰め寄ります。
趙雲瀾を振り切り沈巍は自宅へ帰ろうとしますが、「長命時計か」と当てられ足を止めます。
「自分の命を俺に分けたな?エネルギーと引き換えに俺を治した」と言う趙雲瀾に、「いや…その…体内のエネルギーがダメージを受けた。力を…入れ替えないと」と懸命に言葉を選び絞り出す沈巍に苛立ったようなため息をつく趙雲瀾。
「痛むだろ」と言う趙雲瀾に、沈巍は「平気だ」と、見たことのないような明るい笑顔を浮かべます。全身全霊の力を込めると、切り傷は徐々に無くなっていきます。ホッとしたように笑う沈巍。「幸い怪我には慣れてる」と言う沈巍の顔を、趙雲瀾は見られません。
「俺にそんな価値は…」と憤る趙雲瀾に、「あるとも」と真剣な表情で食らいつくように言う沈巍。
「一体俺にどうしろと?ひれ伏して感謝すればいいのか?そう簡単に人の命をもらえるかよ!」と激怒する趙雲瀾ですが、「この命は君に返す」と涙を湛えた目で見つめられ、言葉を失います。「早く休め」とだけ言い残し、帰っていく沈巍。
「副所長、本当にいいんですか?こんな時に休暇を」と不安げに電話する郭長城。「遠慮するな、両親の墓参りは神聖な行事だ。もし僕に父や母が…なんでもない、1日だけだ。行ってこい」と特調所から大慶は電話を返します。
郭雄、郭長江と書かれた墓石の前に座り込む郭長城。「父さん、母さん、会いに来たよ。霊魂なんて信じないけど話がしたくって。父さんたちに話す時は緊張しないんだ。もし聞いてたら緊張するだろうな。所長が僕には見込みがないって。きっと死者にもうまく付き合えない。たしかに役立たずだけど、今は意義ある仕事をしてる。僕にしては上出来だよね」。郭長城が墓石に話しかけるのを、木の陰から少女が見つめています。
郭長城は次に李茜の祖母、李玉芬の墓石の前に来ます。「李おばあさん、来ましたよ。お好きなヨーグルトです。果実入りなんですよ。茜さんの治療は順調です。ご安心を」と報告する郭長城。少女はヨーグルトを見て目を見張り、どこかへ走り去ります。
ふと気配を感じて郭長城は振り返ります。そこには墓石の前で泣いている男がいました。
「じゃあ僕はもう帰ります。また来ますね」と立ち上がる郭長城。
「白素霞」と書かれた墓石の前で男が悔しげに座り込んでいました。
「敵を討ちたくないの?奥さんは苦労したあげく、報われることなく死んだ。お腹の子供も助からなかった。敵をこのまま放っておくつもり?相手を捜すのは私に任せて。功徳筆で復讐すれば妻子もきっと浮かばれるわ」と彼は鴉青に唆されていたのです。
龍城病院では、金医師が看護師の衛藍を励まします。「衛藍、あまり悲しむな。医療の仕事は尊いが辛い面もある。人の死は避けられない」「でも思うんです。あと1時間つきそっていたらあんなことには」。涙する衛藍に、「患者に一生付き添うことはできない。譚さんのことは私も残念だが、多くの患者が私たちを待っている。悲しみをバネに働くんだ。自分を責めるな、仕事に戻れ」と激励する金医師。衛藍が頷き離れていくと、金医師はため息をつきます。
すると金医師が突然苦しみだし、腹を押さえます。「何だ?」と混乱しながらも、傍らにあった注射を慌てて刺そうとします。金医師の錯乱に気づいた成医師が「金先生?先生?」と彼の手を止めようとしますが、「これで死ねる!」と金医師は叫びます。「金先生、なんてことを!手を離して!」と叫ぶ成医師。
特調所では、趙雲瀾と沈巍の間に重苦しい沈黙が落ちていました。大慶は2人を交互に見て不思議がります。
「功徳筆の主は不明のままだ」と沈巍に向かって言う大慶。「俺も例の挑戦状を分析したけど、収穫なしさ」と林静が口を挟み、祝紅は「簡単にボロを出す相手じゃないわ。持久戦になりそうね」と返します。趙雲瀾は沈巍を挑むように見つめ、沈巍は目を伏せ続けています。
そこに一本の電話が。「龍城病院で事件だと海星艦から連絡が」と言う汪徴の言葉を受け、大慶と沈巍は趙雲瀾を見ます。趙雲瀾は珍しく無言で1人で特調所を飛び出し、沈巍は彼を追いかけます。
「全く、整頓もできないの?」とぐちゃぐちゃのベッドを整頓する成医師は、枕の下に大量のスマホを見つけ表情を凍り付かせます。
病院に着くと、「どうぞ」とこれ見よがしに趙雲瀾がエスコートするため、沈巍は「やめてくれ」と苦しそうにそれを咎めます。
本話の号泣シーンは、①趙雲瀾が、前世の記憶はなくても「沈巍は苦しいことを一人で抱え込むから言ってくれるまで俺は待つ。信じる」と大慶に断言したシーン ②趙雲瀾に心配させまいと沈巍が怪我を必死で治しホッと笑顔を見せたシーン ③俺の命にお前の命を削るほどの価値はないと言う趙雲瀾に、沈巍が「ある、この命は君に返す」と涙目で見つめるシーン の豪華3本立てです(号泣)
ナイフで腕を切るのも、命を削るのも絶対絶対苦しい。なのに沈巍にとってはそれより趙雲瀾が健康で生きてくれることが何よりの幸福なんですよね…。趙雲瀾には理解できなくても、沈巍の幸福は一万年前からずっと趙雲瀾の形をしてるんだよ…😭
沈巍、もっと趙雲瀾を頼ってくれ。好きな人に頼られないの辛いの分かるやろ。って沈巍の肩掴んで説得したいです😭
これまでで一番いい笑顔が、趙雲瀾のために命削ったことがそんな負担じゃないって本人に必死で証明した瞬間だったのがもう…たまらなくてずっと泣いてます。沈巍お前もう…もう命削るな共に生きろ愛してるなら片方置いて死ぬなあんな綺麗な笑顔するな瞼の裏に焼きついて離れんやないか…。
第24話 リアルゲーム
<あらすじ>
病院で譚八斗(タン・バードウ)の自殺を皮切りに、奇妙な自殺事件が頻発する。
趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は譚八斗の最後をみとったゲーム中毒の祖馬(ズー・マー)の行動から、ゲームにカギがあるのではと探り始める。
そんな中、病院内でリアルゲームが始まり、プレーヤーにされた趙雲瀾は腕に爆弾を仕込まれてしまう。
沈巍に怒りを隠さない趙雲瀾。「何に不満が?あんたは隠し事をしても俺の命の恩人だ」「私は君を傷つけない」「でも秘密は作る。俺はあんたの全てを受け止めるのに。なぜまだ黙ってる!」。
言葉に詰まりながらも言い返そうとした沈巍は、スタッフステーションで看護師が「嫌よ死にたくない」と言いながら注射を打とうとしている姿を見て咄嗟に瞬間移動してしまいます。監視カメラの映像を闇の力で消す沈巍。
「私は生きていたい」とひたすら繰り返す看護師。「鉄壁の守りだ」と趙雲瀾は皮肉げに笑いながら拍手をします。看護師の近くにはゲーム画面が映ったスマホが落ちていました。
成医師の診察中もスマホゲームに夢中の祖馬。成医師は聴診器で心臓の音を聞き、「異常ないわ」と言うと彼のスマホを取り上げ、「ゲームばかりするのは体に毒よ、弟のように思って心配してるの」と忠告します。
「うるさい、返してよ」「返す前に1つ聞かせてちょうだい。昨日譚さんは死ぬ前に何と?」。祖馬は口ごもり、スマホを奪い走り去ります。
王の青果店の前にまたも茶色のスーツを着た男がいます。「催促の電話はやめてくれ。金を工面してる最中だと昨日も言っただろ?王向陽もタチが悪い。3ヶ月家賃を滞納し、医療費も払ってないとか」と男が話すのを聞き、郭長城は顔を歪めます。墓石の前でうずくまっていた男を思い出しながら、「あの人、王さんじゃないよな?」と考えます。
自分に注射を打とうとした看護師は目を開けたまま意識を呆然と天井を見つめています。趙雲瀾が何度も彼女の目の前で手を行き来させますが、瞬きひとつしません。
「生きたいのになぜ自殺しようとした?」と趙雲瀾は沈巍に意見を求めますが、沈巍は困り果てます。「違うの…幽霊よ、譚おじいさんが私たちを殺しに来た」とうわごとのように言う彼女に、「君に良い知らせと悪い知らせが。どちらから?…では良い知らせから。この世に幽霊はいない。悪い知らせは幽霊よりも怖い人がいることだ」と近くの椅子に座り言い聞かせる趙雲瀾。沈巍は趙雲瀾を立たせ、「君と金浩の関係は?教えてくれないと助けになれない」と彼女に淡々と尋ねます。
「私と金先生は…人を死なせてしまったの」と泣く彼女を前に、顔を見合わせる2人。
郭長城が両親の墓へ行くと、李おばあさんの墓の前でヨーグルトをすすっている少女がいました。「ひい!李おばあさん!?」と郭長城が悲鳴をあげると、「誰のことよ?」と少女が笑顔で立ち上がります。
「まさに医療の奇跡ね」と趙雲瀾の視力回復を喜ぶ成医師に、「いいや、命が起こした奇跡だよ」と沈巍を横目で見ながら言う趙雲瀾。沈巍は微笑みながら無言で目を伏せます。
成医師の部屋では祖馬がまたゲームをしていました。「何をして遊んでる?一緒にいいか」と趙雲瀾が彼に話しかけると、「祖馬、手を止めて。話があるの」と成医師が口を挟みます。「退室したほうがよければ…」と沈巍は椅子から腰を浮かしますが、「身内の話だし平気よ。彼とは小さい頃から一緒に育って弟も同然なの」と成医師は返します。
「いつまでいれば?」と不機嫌な祖馬に、「寝ていいわ、話は明日に」と成医師が返すと、彼はすぐさま携帯を持って部屋を去ります。
「ゲームにどっぷりだな、この部屋にいる間ずっと画面を見てた」「マシになったほうよ。今も人嫌いだけど反抗的じゃなくなった、でも譚さんの死でまた病状が悪化を」「その事件の話を聞きたかった」「聞いても無駄よ。捜査は終わったんじゃ?」「まさか、金浩に話も聞いてない」「金先生は今情緒が不安定なの、衛藍はあれで真面目な子だからその情報だけで十分よ」。
「君は祖馬に何の用が?」と趙雲瀾が尋ねると、「祖馬はゲームにばかり熱中し、いつからか成長も止まった。私も手は尽くしたの。趙さん、似た病状の人を知ってるでしょ?」と言う成医師。
「祖馬の年齢は…」と沈巍が言うと、「そう、もう20歳を越えてる」と成医師は答えます。沈巍はそれを聞き、考え込みます。
病院の廊下を歩く趙雲瀾に電話が入ります。「譚の家族と衛藍の供述は一致。譚は医療費が原因で自殺した」と報告する楚恕之。「病院は費用を催促せず、治療にも力を注いでた。衛藍も命で贖うほどの過失は犯してない。今日郭ちゃんは墓参りだ。会ったら連れ戻せ」も趙雲瀾は指示します。
「そんな都合よく会うとでも?」と楚恕之は皮肉っぽく言いますが、よそを向いていた郭長城と偶然道でぶつかります。
「楚さん?」と笑顔の郭長城は、「紹介します、東南です。墓地で出会いました」と自分の背後を指しますが、そこには誰もいません。「一緒にいたんです。人見知りなのかも」と慌てる郭長城の肩をため息をつきながら強めに叩き、「さあ特調所に戻るぞ」と楚恕之は促します。
銃型の闇の力測定器からビームを出し、挑戦状をチェックする林静。特調所のメンバーたちも固唾を飲んで見守ります。「照合を始めます」というアナウンスが流れ、「儀式みたいだな」と感想を言う大慶。するとすぐさま「適合率0%、検出できません」とアナウンスが流れ、林静は頭を抱えます。
「闇の力よ!なぜ検出されない!これじゃ科学の申し子の名が廃る!」と言う彼に、「残念ね、幻の称号ってことよ」と肩を叩き去っていく祝紅とメンバーたち。林静は「ありえない」と言いつつ再度挑戦します。
「若いのに萎えてるそこの君、気を落とすな。これから重大な任務を与えよう」も笑う趙雲瀾。「ボス、脅かさないでくれ」「昔のゲームを捜してこい。遊んで内容を研究しろ。明日には報告書が見られると期待しているぞ」。林静は一気に笑顔になります。
「ボス、ゲームも残業に入るか?」「もちろん、当然だろ?だが10万字以上の報告書を。頑張れ」「10万字!?少し減らして…!!」。
「これほど魅力のないゲームがあるとは」とぶーたれつつゲームを買う林静。「文句か?仕事でゲームできるだけでも幸せだろ」と返した大慶は店内で沙雅を見つけ固まります。「どうした?」「沙雅だ」。嬉しそうな林静は、「おい、なぜ知ってる?」と大慶に向き直ります。「け、携帯で写真を見た。それに寝言で言ってたぞ、沙雅、沙雅…」「静かにしてろ!」。
彼女をうっとりと見つめる林静。話しかけたいものの勇気が出ず話しかけられないようで、「まったく情けない奴だ。僕が合図する。タッグを組むぞ」と大慶が音頭を取ります。
店を出た沙雅は、歩道のど真ん中にいる猫になった大慶を前に足を止めます。「出てきたら?」「き、奇遇だね!」「本当に。これあなたの猫?」「いや上司…の猫だ」「嫌な雰囲気ね。用事があるの。お先に」「ま、また今度!」。そっけない沙雅の態度にため息をつく林静。
林静は特調所でしんどそうに徹夜ゲームをしていました。「辛いのか?」と笑いながら近づく趙雲瀾に、「こんなの心身をすり減らすだけでさぼれもしない、さぼれば給料をカットされる」と文句を言う林静。しかしすぐに来たのが上司だと気づきます。
「ぼ、ボスなぜここに?」「”ぼ、ボス”だと?誰かさんの癖が移ってるな。何か収穫はあったか?」「特に何も。詳しい人の話だと昔のゲームは収集家向きで、遊ぶのは生粋のゲーマーだけだと」「生粋のゲーマー?そんな奴にあったばかりだ。…また会いに行かないと」。趙雲瀾は祖馬のことを思い出していました。
対戦型のスマホゲームで惨敗する趙雲瀾。
「スマホゲームも奥が深いな」「今日沈巍は?」「講義中だ」「二足のわらじも大変ね」「大切な人を守り正しいことをするには苦を伴うこともある」。
趙雲瀾の言葉を聞き、動きを止める成医師。「成先生も経験があるんじゃ?」とカマをかけられ、彼女は微笑みます。「そうだ、衛藍が騒ぎを起こした時のカメラ映像を見た。実は事前にあそこに行った者が」。コーヒーを淹れる成医師の手が震えます。
「誰だと思う?」「知らないわ。コーヒーよ」「知りたくないだけだろ?衛藍と金浩は譚の死に関わりが。そして譚には忘年の友が1人いた」と言い、あくびをする趙雲瀾。「コーヒーを飲まなきゃ眠ってたかもな」と言うとすぐに趙雲瀾は眠ってしまいます。「許して。祖馬は成人してるけど、大切な弟なの」と成医師は懺悔します。
「リアルゲームは楽しい。昔のゲームはおろか仮想現実の世界よりもね」と言う祖馬に、鴉青は笑みをこぼします。「祖馬、もっと派手に遊ばない?功徳筆はあなたの特殊能力を完全に覚醒させた。次にやりたいことは自分で決めて。手を引きたくなったら…」「手を引く?何の冗談だよ!絶好の機会だぞ。まだ遊び足りない」。
成医師はその会話の一部始終を聞いていたのです。
成医師が趙雲瀾を眠らせた後、祖馬の部屋に向かうと、なぜか黒パーカーの男がベッドの脇の椅子に座り、彼の空のベッドを撫でていました。
「あなたは?」「ゲームは始まった」「勝手に病室へ入らないで」「安心しろ、今日の主役は俺じゃない。俺はただの観客だ」「誰なの?あなたの名前は?」「白素霞」「白素霞?」。
趙雲瀾が目を覚ますと、成医師はいなくなっていました。机に置いたスマホを見ようと腕を伸ばすと、右手首に謎のボタンがついています。外そうとしても剥がれません。
「この俺がはめられるとは。何でも飲み食いしちゃだめだな」と独り言を言いながら特調所へ電話をかけます。「ドラ猫、全員で病院へ援護に来い。すぐにだ」。
趙雲瀾がなぜか患者も医療従事者も1人もいない廊下を歩いていると、成医師が「こんにちは、プレーヤー1号様、私は案内人です。ご一緒に。はぐれないで。復活コインはありません」と話しかけてきます。
「誰のところへ行くんだ?」「マスターのところです」「マスター?誰だ?」「答える権限が与えられておりません」「じゃあ1号からイカした名前に変えてよ」「変える権限が与えられておりません。こちらへ」。
仮面のような笑顔を貼り付けた成に、「ならこれは?」と腕のボタンのようなものを見せる趙雲瀾。
「爆弾を装着しました。ゲームのクリア失敗かリタイア時に爆発。3メートル以内の人が吹き飛びます」。趙雲瀾は驚きボタンを見つめます。
「私はここでお別れです。あとはお1人で。ゲームをクリアしたらまた会えます。ではご健闘を。こちらです」と部屋を指さされ、「どうも」と趙雲瀾は笑顔を浮かべて入室します。
趙雲瀾が部屋に入ると、祖馬が携帯でゲームをしていました。「リアルゲームは楽しいだろ?」と言う祖馬に、「やはりお前か。なぜ俺をプレーヤーに選んだ?」と椅子に腰掛けながら趙雲瀾は尋ねます。
「嫌いだからさ。何でも知ったような顔をしてるくせに、自分だって幸せじゃない。なぜそんな奴が僕に干渉を?普通と違えば敗者なのか?ゲーム好きは罪だと?」「確かに俺が悪かったよ。昨日お前の話を聞くべきだった」「来世で聞け」「驚いた、1人でこの世界を作ったんだろ?人の言葉や動作まで操れるとは」「強力になったのは筆の人のおかげだ」「でも分からない、なぜお前が筆の奴の代わりに戦う?」。
祖馬は弄んでいたペンを机に叩きつけます。
「お互いにいいとこ取りをしてるだけだ!譚さんの敵を討つ!」「譚とは年齢差があるのになぜ命を張るほどの厚い情が生まれたんだ?」。
祖馬は激昂し、座っていた椅子から立ち上がります。「何が分かる?ゲーム好きな僕を認め、家族として見てくれた!あの人は僕の理解者だ。譚さんには自殺願望があると金先生たちに伝えた。なのに油断を、あの医者たちが譚さんを殺したんだ!」。
「1号様、第1ステージが始まります。制限時間は10分です。制限時間を越えたらあなたはBOMB!花火になります」とアナウンスが流れます。悔しげに祖馬を見て、部屋を飛び出す趙雲瀾。
特調所に電話をしますが、繋がりません。「全員来るな、ここは地獄だ」と祈るように呟く趙雲瀾。
「第1ステージは内科の診療室です。そこに対戦相手がいます」とまたもアナウンスが流れます。
龍城病院の外来へ来た大慶・楚恕之・祝紅・郭長城。「状況さえ話さない。私達は単なる沈教授の代わり?」と怒る祝紅。4人は
病院内に入りますが、すぐに足を止めます。「この病院はただならぬ気配がする」と呟いた楚恕之と祝紅は一緒に病院内の奥へ走り出します。
「ゲームを始めます」とアナウンスが流れる中 部屋に入ると、そこには拳銃を一丁だけ乗せた机を前に衛藍が座っていました。
「古典ゲーム”ロシアンルーレット”。回転式銃には6つの薬室があり、一発 弾がこめられています」。人形のような目をした衛藍が銃が趙雲瀾の前に差し出します。
「参加者はシリンダーを回し、銃口を頭に向け撃ってください。死をもって終了です」「新キャラクターが4名、名前は”美少年”、”仏頂面”、”姉御”、”白い子ウサギ”です」とアナウンスが流れ、趙雲瀾は特調所のメンバーを思い出し焦ります。
「1号様、時間がありません。リタイアするとあなた以外の4命のキャラクターにも災いが。カウントダウン。10、9…」とカウントダウンが始まったため、趙雲瀾はシリンダーを勢いよく回し、頭に当てます。「7」と数えられた瞬間に撃ちますが、どうにか空砲を引き当てます。衛藍は銃を持つとすぐに自分の頭に当て、引き金を引きます。趙雲瀾は衛藍を殺させまいと2回撃ちますが、「1号様不正はいけませんよ」とアナウンスが流れます。
「俺の負けでいい」と趙雲瀾が立ち上がると、「嫌よ、死にたくない」と繰り返しながらも衛藍はこめかみに銃を押し当てます。そして発砲。銃口からは水が溢れ出し、趙雲瀾と衛藍はあっけに取られます。
「第1ステージ、1号様の勝利」。「くそったれ」と悪態を吐きながら廊下を歩く趙雲瀾。
「1号様は強運の持ち主ですね。第1ステージクリア、称賛を送ります。第2ステージ、”孤軍奮闘ゲーム”です。4名のキャラクターがクリアをはばみます」「4名?」。
趙雲瀾の前には特調所のメンバーが立ちはだかります。「もう操り人形になったのか?メンタルを鍛え直さないとな」「武器が左の棚にはいっています。頑張って生き残ってください」。
棚の中を探りますが、そこにあったのははたきが1本だけ。趙雲瀾は文句を言おうとはたきを持ち上げあたりを見回しますが、「開始10秒前…」とカウントが始まります。
趙雲瀾ははたきを構えると、即座にモップの柄で廊下を消灯。4人を1人1人華麗に叩きのめしていきます。「失明の日々が報われたな」と笑う趙雲瀾。
「1号様、破竹の勢いですね、第2ステージクリア。ラスボスの部屋へ入ってください。ラストステージ、”幸運は2分の1″。1号様はラスボスの前に立ってください。どちらか一杯を飲むゲームです。ご注意を。1つは普通の水で、片方は毒入りの水、生きるか死ぬか、幸運の女神はどちらに?」
目の前にはパジャマ姿の金浩が光を無くした目で立ち竦んでいます。「笑わせるな、人の命を何だと?クソガキ!出てこい!」と激怒する趙雲瀾。「だんまりか、ならいい」とコップが乗せられた机をひっくり返そうとするとしますが、「ルールを破るとラスボスが両方飲むことになります。ですが1号様がどちらかを飲めばその結果に関わらずゲームは終わりです」。
趙雲瀾は覚悟を決めて水を飲みます。「満足か?これが毒入りでも普通の水でも、この人は安泰なはずだ!」。全てのステージを終えたはずなのに、腕の爆弾のボタンは取れません。
さらになぜか金浩はコップの水を飲んだため、「飲むな!」と趙雲瀾は慌てて彼からコップを奪います。「嫌だ、死にたくない。頼む、助けてくれ」と言いながら苦しみ悶え死ぬ金浩。縋りついてきた腕が床に落ちているのを見た趙雲瀾は無力感に震え、「今度こそ満足したか!」と血を吐くように叫びます。
「ゲームのルールです。ゲームクリアおめでとうございます」とアナウンスが流れます。
するとそこに祖馬が走り込んできます。「嘘だろ」と呟く彼の頭上で、「賞品は…」とアナウンスが流れています。
趙雲瀾は彼の胸ぐらを掴み思いきり殴ろうとしますが、「違うんだ!僕はゲームを止めようとした。大人のくせになんて馬鹿なんだ。こんなの違う。嫌だ。なぜ?嘘だろ?どうして。ゲームで人を殺す感覚と違う!」と祖馬は金浩の遺体のそばで泣き出してしまいます。
そこに沈巍が現れ、「殺したのが生身の人間だからだ」と言うなり、祖馬が持っていた携帯を闇の力で叩き落とします。
「やめてくれ!」と祖馬が悲鳴をあげると、趙雲瀾の腕から爆弾のボタンが取れます。「やはりな、君の能力は携帯がないと使えない」「お前の方がゲームに遊ばれてたか」「そんな…」。
泣きじゃくる祖馬ですが、「まだ終わってない、”爆弾人間ゲーム”が。僕の部屋に病院ごと壊せる爆弾を仕掛けた」と言い、趙雲瀾と沈巍は驚愕します。沈巍は祖馬のベッドの上や下を調べますが、それらしきものは何も見つかりません。
スタッフステーションで「間違ってた」と祖馬が泣き始めると、アナウンスをしていた成医師が意識を取り戻します。
「僕が…」「祖馬!教えて、何が起きたの」「僕が間違ってたんだ」「祖馬」。
ベッド横の棚の下段に爆弾があることを発見し、取り出す沈巍。部屋に入ってきた趙雲瀾は 「動くな!」と叫びます。「どうした?」「座って」。趙雲瀾は爆弾を持った沈巍の手を動かさないよう、ゆっくりベッドに座らせます。
「この爆弾は重力の平衡を保つ必要があるんだ」「では試す」。驚きながらも闇の力を爆弾に当て、爆弾が刻むカウントダウンを止めようとする沈巍。しかし全く止まる気配のない爆弾に、趙雲瀾は「やめろ!」と叫びます。
「私が爆弾と瞬間移動する」「だめだ、闇の力で爆発するぞ」「他に方法が?君は早くここを離れろ」「黒兄さん、今 俺たちの命は繋がっててる。2人で1つだと思え」。切羽詰まった表情で言う趙雲瀾をじっと見つめる沈巍。
「20本の導線がある。2本で1つの回路、5つの回路で大きな回路が2つ。大きな回路のうち1つを壊す。普通の爆弾とは違い、祖馬が作った物は得体が知れない。生還は難しいかも」と言う趙雲瀾。窓の外では鴉が鳴いています。
「また(鴉に)笑われたな」と沈巍が呟くと、趙雲瀾が「賭けてみるか?」と尋ねます。「何に?」「入院中の祖馬にそこまでの爆弾は作れないと」「だが彼には鴉青や功徳筆主という存在がいる」「でも鴉青は焦って飛びたっていったし、回りくどい手段を使う必要もない」。
趙雲瀾を見つめると、沈巍は目を伏せ呟きます。「謝る。隠していることはいつか必ず話す」。
「心配するな、その日はくるさ」と笑う趙雲瀾に、沈巍は穏やかな表情で彼を見つめ返します。「私が電子機器について学んでいたら…」と言う沈巍に、「いつ俺の見せ場が?」とペンチを片手ににやりと笑う趙雲瀾。珍しく沈巍も片頬で皮肉げに笑います。
趙雲瀾はペンチで導線を切っていきます。冷や汗を流しながらも次々と切っていき、3本切ったところでカウントダウンの時間が10分で止まりました。顔を見合わせると、趙雲瀾は爆弾を片手に笑いながら部屋を出ていきます。彼に続く沈巍。
李茜は実験室に入ります。
「血清の実験に使った針が見当たらないだと?前に実験室が襲われた時、数を確認しただろ?」「確認はしましたが、そのあとどこかで1本紛失したものと」「1本でもだめだぞ、最高機密だぞ、外に流出すれば大事件になるのに君に責任が取れるか?もう行け!」。
欧陽教授は研究員に激怒していました。「水を」と李茜がコップを差し出すと、「ありがとう」と一気に飲み干します。「以前よりも気性が荒くなったようですね」「まずい状況だ。針が誰かに利用されていないことを祈る」。足音荒く去っていく彼を、李茜はコップをいじりながら見送ります。
ある夜、タクシーの前に突然男が走り出してきます。タクシーの運転手・朱豪は急ブレーキをかけますが、男の姿は見えません。「嘘だろ、まさか」と朱豪が言うと、男は朱豪側の窓のすぐ近くに立っており、「五里村へ」とだけ言います。
「郊外へは行かないし、交代の時間だ。戻らないと」「いいからこれで」。朱豪に無理やり大金を握らさる男。朱豪は「おい」と男に反論しようとしますが、男はすでに後部座席に座っており、必死で悲鳴を飲み込みます。慌てて五里村へ向かいますが、男はずっとミラーごしに朱豪をにやにやと笑いながら見ためています。
「こんな夜更けになぜ五里村へ?」「人に会う」。恐ろしさのあまり、ついラジオをつける朱豪。「ラジオ小説の時間です。魏楠がバックミラーを見るとその老女はどこかへ。車を止め、後部座席を見ると、そこには…」。
バックミラーを見ると男が見えなかったため、思わず朱豪は車を止め振り返ります。すると男がぬっと顔を出し、「なぜ車をとめた?」と尋ねてきます。「何でもないよ」「靴を磨いてた。もう到着だ」とにやつく男。「正道を進めば恐れるものなし」と男は笑いながら繰り返します。
龍城病院では祖馬が「本当に人を殺す気なんてなかったのに死なせてしまった、ごめんなさい」と人工呼吸器をつけられながら謝ります。「本当はゲームって全然面白くないんだね…」と言う祖馬に、成医師は「祖馬!お願い死なないで!」と必死で彼の手を握り話しかけます。
「功徳筆は諸刃の剣だ、無理やり能力を覚醒させる。その代償は…大きい」と沈巍が呟いた途端、祖馬の心電図の波形がゼロになります。「ごめんなさい」と泣く成医師。
趙雲瀾は沈巍の肩を突き「慰めてやれよ」と言いますが、しばらく考えた後、沈巍は趙雲瀾を前に押し出します。
「祖馬、祖馬…」と泣く彼女の肩に手を置く趙雲瀾。
趙雲瀾の自宅のソファーで寝ていた大慶。帰宅した趙雲瀾と沈巍に「遅かったな」と声をかけます。「家で目覚めた理由が知りたいんだろ?病院にいたはずだからな」とソファー前のテーブルに座る趙雲瀾に、「よくわかるな。事件は解決を?」と尋ねる大慶。趙雲瀾は何とも言えない表情で沈巍を見つめます。
「功徳筆は誰が持ってる?」と尋ねる大慶に、「筆の主は病院に深い恨みがある。今回の事件はただの序章だ。筆の主は目的のためなら手段を選ばない。早く捕まえねば」と沈巍が答えます。趙雲瀾もその言葉に頷き、沈巍は厳しい表情を崩しません。
「医者は患者を救うのが使命よ。祖馬、安心して。次の患者に悲しい道は歩ませない」と彼の寝ていたベッドをなぞる成医師。「成先生、ご希望の白素霞の資料です」と衛藍が資料をもってきます。資料のサイン欄には「夫、王向陽」と書かれていました。
「龍城病院と衛藍、それに金浩の資料が揃った」と資料を差し出す沈巍に、「犯人の目星はついてる」と悪そうににやつく趙雲瀾。
そこに郭長城がやって来て、「所長、海星艦から依頼が。妙な案件のようで、大人しいタクシー運転手が突然店で暴れ出したと」と告げます。「運転手?…大慶、楚と現場に行け。郭ちゃん、俺と会いに行くぞ、その運転手に」と指示します。
趙雲瀾と郭長城が朱豪と面談します。朱豪は両手と身体を拘束されており、苛立たしげな表情を隠しません。
「朱豪、男40歳、タクシー運転手、同僚に因ると気は小さいが温厚だと」と言う郭長城。趙雲瀾が朱豪の手のひらを見ると、手錠を外そうとしたのか血まみれです。郭長城に朱豪の個人データをまとめた書類を渡され、目を通す趙雲瀾。
「同僚によるとあんたは接しやすい人だそうだな」「接しやすい?見下されてるだけだ。金にも汚い小心者さ!聞いただろうが俺は妻に浮気されても我慢するような男だ」。朱豪は吐き捨てるように言います。
「所長、同僚の話とは別人のような性格ですね。多重人格者かも」「何の予兆もなく人格が分裂するか?」と小声で話す郭長城と趙雲瀾。
「おい取り調べをする気か?」「よし、昨夜あんたは金龍路の店で同僚との食事中に突然酒瓶で店員を殴った」「正当防衛だ。ぶつかってきたからな」「この男に正当防衛にふさわしい傷があるか調べろ」。
郭長城が朱豪の体にあちこち触れると、男は痛そうな表情をします。そして次の瞬間、男の肩のあたりから黒い煙が出て、郭長城の中に入ります。郭長城の表情が勝気なものに一変します。
「私は君を傷つけない」「でも秘密は作る。俺はあんたの全てを受け止めるのに」が最高すぎて死にました。痴話喧嘩やんけ!!!(血涙)
からの、「謝る。隠していることはいつか必ず話す」「心配するな、その日はくるさ」と笑う趙雲瀾に泣きそうです。「その日」はいつなの…死ぬ直前とかに言わないで…沈巍、事前にいっぱい趙雲瀾に相談して…絶対生きて2人で幸せになって…😭
「私が電子機器について学んでいたら…」「いつ俺の見せ場が?」も好きです。電子機器に弱いくらいの弱みがないと完璧すぎて近寄り難いです教授!!
「いつ俺の見せ場が?」って返しがニヒルでいいですよね。趙雲瀾っぽい❤️
第25話 変貌する人格
<あらすじ>
突然狂暴化したタクシー運転手 朱豪(チュー・ハオ)を取り調べていた郭長城(グオ・チャンチョン)は、同じように狂暴化してしまう。
一方、普段から強気の祝紅(ジュー・ホン)はいきなりおとなしくなる。
人格の変貌は次々に伝染していた。
朱豪から出た黒い煙を取り込んだ郭長城。
趙雲瀾の隣に戻ると、「確認しましたが、手に酒瓶により擦り傷があるだけです」と報告します。「上層部からの指示だし調査には協力するが勾留する場所がない。ひとまず海星艦で預かってもらおう」と結論を出す趙雲瀾。
特調所のダイニングテーブルには大量の焼き魚が。「ドラ猫、聞き込み調査をせずに買い出しとは」と言いつつ焼き魚に手を伸ばす趙雲瀾。大慶は「店主が商売上手でさ、大量に買わされたのに有益な情報は何も」と唇を尖らせます。「負傷した店員は朱豪のテーブルの前を通っただけらしい。体が触れてもいないのに朱豪はビールの空瓶で相手を殴った」と楚恕之は報告し、日記を片手に持った郭長城は乱暴にその隣に座ります。
「また日記を書いてたのか」と揶揄う大慶に、「内容は結構ポジティブだぞ」と返す楚恕之。「私も読みたい」と祝紅が郭長城の手から日記を取ろうとすると、郭長城は祝紅の手を叩き落とします。「勝手に触るな」と祝紅を睨みつける郭長城に困惑する一同。「どうした、熱でも」と楚恕之が郭長城の額に手を当てようとしますが、払い除けられます。楚恕之はカッとして彼の胸ぐらを掴みますが、郭長城は楚恕之を睨み返し、挑発するように彼の手を払い除けます。「やるのか?俺のものは勝手に触るなよ」と威嚇し去っていく郭長城に、「あれは…」と趙雲瀾は呆気に取られます。
所変わって、龍城大学。沈巍がにこやかにクラスに入ってくるとら「教授、こんにちは」と生徒たちが一斉に挨拶します。しかしなぜか最後列に祝紅が座っています。「何してる?」と彼女の腕を掴む沈巍に、「あの、その、彼との距離を縮めたくて相談に」とおどおどと返す祝紅。困惑しつつも腕を離し、「では授業を始めよう」と沈巍は教壇に立ちます。
「運転手や人畜無害な少年など、次から次へと様々な人格が現れるらしい」と言う趙雲瀾に、「郭くん、もう一度あの資料を」と頼む沈巍。しかし郭長城は「祝紅に聞いてくれ。彼女が持ってる」と冷たく言い放ちます。「そういれば祝紅はどこか様子が…」と沈巍が言いかけると、そこに祝紅が恐る恐る近づいてきます。
「雲瀾、あなたに話があるの」と俯きながら言う祝紅に困惑する趙雲瀾と沈巍。「悪いな、話なら後で聞く。被害者の検査結果を取りに病院へ…」と趙雲瀾は逃げようとしますか、「雲瀾!あの…」と祝紅は引き止めます。「さっさと言え」「あなたが…」「何だ」「…無理だわ!」。頬を手で押さえ、席に戻る祝紅。見ないふりをする一同。「あはは、別人みたいだな…」と趙雲瀾は一同を見渡しながら頭をかきます。
龍城病院には孔鯨という男が運び込まれていました。「放してくれ!俺は病気じゃないぞ!」「あはは!阿魚が俺に復讐しろと?あいつの話はでたらめだ!」「俺は喘息なんだ!」と百面相をしながら叫ぶ孔鯨を見て、「悪くない。迫真の演技だ。プロの俳優?」と趙雲瀾は軽口を叩きます。孔鯨は「演技指導をしてやろうか?あ?」と凄んだかと思えば、その直後には「助けてくれよ頼む!」と悲鳴をあげます。
「(孔鯨は)部屋に運んで」と看護師たちに指示し、「呼び出して悪いわね」と趙雲瀾に微笑む成医師。「平気だ、仕事に戻って」「では後で」と二人は別れますが、「やめてくれ俺は病気じゃないんだ!」と孔鯨の泣き笑うような声が廊下に響き渡ります。
趙雲瀾が廊下を歩いていると孔鯨のジャケットが落ちており、思わず拾います。
成医師の部屋で趙雲瀾が待っていると、「お待たせしたわね」「落ち着いた?」「ええ。彼の名前は孔鯨よ、転院してきたの。かなり重症で、縛っていないと他人や自分を傷つける。さすがのあなたも驚いた?」「演技力にね。本当の喘息患者みたいだった。喘息の音まで聞こえるかと」「無理もない、それだけ重症なのよ。吸引薬まで持っていたから、私も最初喘息かと」「一体何の病気なんだ?先生が担当するなら難しい病なんだろ?」「妄想性障害よ、心を病んでいるの。99個もの人格を持つと妄想を並べているわ」「信じてないのか?」「にわかには信じがたい話よ。人格数の上限について医学的な基準はないけど、99個もの人格を持つ苦しみがどれほどか…精神力の限界を越え、死に至るほどよ」と、成医師は孔鯨の症状について説明します。趙雲瀾は考え込みます。「伝染するか?」と問う趙雲瀾に笑う成医師。ふと服から落ちた吸引薬に巻かれた紙を広げ、驚く趙雲瀾。それは朱豪の運転するタクシーの領収書でした。
「祖馬の件は済まなかった」と言う趙雲瀾に、成医師はもう何も言うなと言うように首を横に振ります。衛藍は孔鯨が寝ていることを部屋の外から確認し、その場を後にしますが、部屋の中から響くいびきの音はスマホから鳴らされており、そこに孔鯨はいませんでした。
「小二郎がリュックを背負って…」と孔鯨は鞄を抱えスキップしながら夜の小道を進みます。彼がつまづいて転ぶと、鞄からは大量の札束が溢れ出します。「俺が強盗を?」とにやける孔鯨。
「何だと?また銀行強盗?役立たずばかりだな!」と電話に怒鳴っていた高部長は、尋ねてきた趙心慈の姿を見て急に声色を変えます。「よく聞け、海星艦の信条は地道で勤勉であることだ、どんな罪も許さない。犯罪者は徹底的に追い詰める、いいな」。
電話を切ると、先にソファーに座っていた趙心慈のもとへ慌てて駆けつけます。「趙さん、何か用でも?」「茶でも飲みたくてね。部長らしさが板についてきたな。役人風を吹かせてる」「立て続けに強盗や窃盗事件が起こり、頭を抱えてるんです。どの事件も犯人の背格好が告示し、犯行の手口も巧妙だ。捜査員を増やしても逮捕できない」「短期間によく似た人間が何度も事件を起こしている…同一犯では?」「行動から推測される犯人像が全ての事件で異なっています。子供や老人など全くの別人なんです」「多重人格者である可能性は?」「多重人格?驚いたな、さすがは趙さんだ。今すぐ調べさせます」と、目を丸くする高部長。
すると趙心慈に電話が入ります。「もしもし、ああ私だ。わかったすぐに行く」と簡素に答えると、「茶でも飲もうと思ったのに急用ができた。またな」と笑って立ち上がります。しかし突然腹を押さえ、呻き出します。
「大丈夫ですか、また発作が?」と心配する高部長に微笑む趙心慈。「平気だ、勁風、あまり根を詰めるなよ」と言い去っていく彼を見ながら、「なぜ私を名前で?」と高部長は首を傾げます。電話をとった高部長は、「はい…何だと?」と絶叫します。
趙雲瀾が沈巍を連れて特調所へ戻り、「こっちだ、来てくれ」と誘導します。すると楚恕之が「待ってたわ〜!ボス!あらもしかして昨日の夜よく眠れなかった?隈ができてる。ボス、朝食を作ったの。持ってきましょうか?」とくねくねしながらオネエ言葉で趙雲瀾に迫ってきます。「通っても?」と顔をこわばらせる趙雲瀾に「うふふ…」と微笑みデスクに戻る楚恕之。
「楚も感染してる」と趙雲瀾がげっそりした表情で言うと、沈巍が無言で頷きます。郭長城はソファーで爆睡しており、「寝るな起きろ!」と趙雲瀾はソファを蹴りあげます。目を覚ました郭長城は「ふざけるなよ!邪魔するな」と激怒。慌てて楚恕之が駆けつけ、「しーっ」と唇の前に人差し指を当てます。「ボスったらご存じないのね、長城は最近ご機嫌ななめなの。考えてもみて、立て続けに事件が起きている上、功徳筆の主についても何の手がかりも得られていない。誰だって焦るわ。長城を見ているだけで…私は…不憫でたまらない!かわいそうだわ!」と楚恕之は大声で泣き出します。
「あああああ!!!」趙雲瀾が発狂すると、楚恕之は大声で地団駄をふんで泣き喚きます。沈巍を伴い別室に移動した趙雲瀾は、「気色悪い…吐きそうだ」と零し、沈巍は郭長城と楚恕之のあまりの変貌に絶句します。
「楚があんなキャラだったら入所は絶対断っててた」と言う趙雲瀾に、「楚にとってあの人格は死より残酷かも」と真面目に答える沈巍。
「多重人格は伝染はしないらしい」と報告する趙雲瀾に、「やはり特殊能力のせいか。地界へ行って関連する資料を調べてくる」と沈巍は返します。「俺は朱豪に会ってくるよ。おそらく一連の事件は奴に原因がある」と言った後、沈巍の腕を引き止める趙雲瀾。
「黒枹使ご無事で〜♡ここで待ってるわ♡」と彼の腕に擦り寄ろうとすると、沈巍は雑に彼を突き放します。「安心しろ、君だけは感染しない」と淡々と言い去っていく沈巍に、「ノリが悪いな」と笑う趙雲瀾。
海星艦に来た趙雲瀾は、「逃げられた?真面目で大人しい運転手にまんまと逃げられるなんて!」と高部長の報告を聞いて呆れ返ります。「趙所長、まあ落ち着け。防ぎようがなかったんだ。今行方を追っている。何か分かれば連絡を」「急いでくださいよ、これ以上は限界です」「そんなに?待て、親父さんの様子を見てこい」。高部長に趙心慈のことを言われ、趙雲瀾は顔をこわばらせます。「何か?」「親父さんももう年だ、少しは気にかけてやれ」「ええ、分かってます」。去っていく趙雲瀾の背を見ながら、心配そうに首を横に振る高部長。
「去る者は去り、死ぬ者は死ぬ。地界は再び人心が乱れ、地君殿もこのとおり寂れてしまいました」と哀れっぽく言う摂政官。衝立の奥の新地君を見つめ、沈巍は目を伏せます。「愚痴を零して申し訳ない。人格を変える特殊能力の話でしたね?」「そうだ」「私もわかりません。あの場に居合わせたあなたなら、特殊能力の進化と変異に法則はないとご存知でしょう?ただ、あなたのいうとおり伝染することが問題の根源であるならば、その根源を見つけ出せばいいのです。そうすれば問題は解決する」と、摂政官はにやにやと笑いながら言います。沈巍は険しい表情のままです。
特調所のソファーに座っている趙雲瀾は、「自分が情けないわ!あなたの悩みを分かち合えない…あなたが桑賛を好きになれば私はどうなるの?」と祝紅にまとわりつかれ喚かれていました。その様を見て、「クズ男だな…ゴミ同然だ!」と怒り去っていく大慶。趙雲瀾はイライラしています。
「この素晴らしき特調所が滅亡の危機にある」とぼやくと、「滅亡するならその前に有休消化だ」と林静は楽しそうに言います。「はっ!お前は感染しなくてよかったな」「このまま全員を感染させて沈教授と2人の世界に浸ると?俺は元から存在感がないし、2人の邪魔はしないよ。そうだ、これを。ハイテク武器だ」「漫画に出てくる麻酔時計か」「そのとおり、時計を…」と林静が時計の解説をしようとしたところで、趙雲瀾に電話が入ります。
「もしもし、ボス?今から長城と特調所に戻るわ、実は報告があるんだけど言い出しづらくて…」と朱豪を片腕に捕まえながら電話をする楚恕之。楚恕之からスマホを奪い、「おい!趙雲瀾!朱豪の馬鹿を捕まえた!」の郭長城が叫びます。「そうか分かった」と趙雲瀾は電話を切ります。奪ったスマホを楚恕之に投げつける郭長城。楚恕之は「素敵…」と郭長城にハートを飛ばしています。
趙雲瀾がソファーから立ち上がると、「おい、話の続きが…自慢させてよちょっと!」と林静が悲痛な声をあげます。
その頃、龍城病院では成医師が孔鯨がベッドにいないことに気づき、顔色を変えていました。
「ボス!」と楚恕之が朱豪を連れて特調所に帰還します。郭長城の肩を叩き、「よくやった」と趙雲瀾は労いますが、郭長城は思いきりその手を振り払います。「功労者だぞ、気軽に触れるな。犬扱いか?」と趙雲瀾を睨みつける郭長城に、「俺を誰だと?調子に乗るなよ」と趙雲瀾も怒ります。郭長城は趙雲瀾の体にわざと肩をぶつけて去っていきます。思わず殴りかかりそうになる趙雲瀾ですが、「暴力は駄目だといったのに長城は朱豪に殴りかかって…だけど長城は男らしくて…」と楚恕之がしがみついてきます。楚恕之を無理やり引き剥がし、朱豪と共に先に追いやります。趙雲瀾は疲労困憊。「違和感しかないが、郭ちゃんが役に立つとは」とぼやきます。
朱豪の取り調べでは、郭長城が朱豪にメンチを切っていました。「いつ人格が戻った?正直に言え」と凄む郭長城に、「一体何の話ですか。人違いでは?俺にはさっぱり」と朱豪は怯えます。「同僚が”気は小さいが温厚な男だ”と。合致するな」と朱豪の正面に座った趙雲瀾は呟きます。「答えろ!」と迫る郭長城に、「その、あの日の夜は…」とやっと朱豪は話し始めます。
「警戒せよ!犯人が逃走した!」のアナウンスの中、誰かをおぶって逃げる男。
「俺は…死刑に?」と怯える朱豪に、「大丈夫、態度を改め心を入れ替えれば新しい人生が待ってる。希望は捨てないで。頑張るの!気合よ!めげないで!」と楚恕之が朱豪の手を握って体をくねらせます。郭長城は楚恕之を殴ろうとし、趙雲瀾は「悪いが楚、外へ出ててくれないか」と頭を抱えます。腹を立てながらも取調室を去る楚恕之。
「誰かから恨みを?」と趙雲瀾が尋ねると、「まさか!運転手として真面目に働き、今まで無事故なんです。まさか中秋節の夜…」と口をもごもごさせる朱豪。「何か?」「答えろよ!」と趙雲瀾に続き、郭長城が凄みます。
「あの夜、母が体調を崩したんです」と朱豪は回想します。
「母さん落ち着いて今すぐ帰るから」とイヤホンで電話しながら慌ててタクシーを走らせる朱豪。「スピードをあげたとき、妊婦に当たりそうになって…」と言う朱豪に、「ひき逃げか」と郭長城は言いますが、「濡れ衣です!経験で分かる。車は当たってない。確認もしましたが彼女は無事でした」と朱豪は縋るように言います。
「記録を頼む。あとで調べる」と言う趙雲瀾に、郭長城はしぶしぶ記録を取ります。
「よし、では話を戻そう。見覚えのある男がいるそうだが」「店で傷害事件を起こす前に車に乗せたんです」「その男とは、こいつだな?」。趙雲瀾は病院で寝ている男ー孔鯨の顔写真をスマホで見せ、朱豪は震え上がります。
「間違いありません!」「事件を起こす前、この男と何か?」「彼は…」と、朱豪が事情を話そうとした途端、彼の首に換気扇を通り抜けて飛んできた矢が刺さり、絶命。
慌てて外に出て怪しい者がいないか確認する趙雲瀾、楚恕之、郭長城。誰もいません。「ボス、諦めましょう。相手は大勢かもしれない」と楚恕之が不安がると、郭長城が楚恕之を蹴り上げます。「臆病者は特調所を去れ!」と吠える郭長城に、「二手に分かれるぞ」と声をかける趙雲瀾。郭長城は「こっちだ」と楚恕之を連れていきます。趙雲瀾が路地に入った途端、首に刃物が当てられ、壁に押し付けられます。
刃物を持っているのは孔鯨でした。「正直に答えろ。殺したくはないがあの方に急かされてる。仕方がないんだ」「あの方?誰のことだ?」「会いたいなら呼んでやろうか?」「頼むよ」「なぜ俺を追う?」「まず話し合おう」と孔鯨と話しながらポケットから棒付きキャンディーを出す趙雲瀾。しかし即座に孔鯨に殴られ気絶します。「俺は話し合いが一番大嫌いだ!」と孔鯨は憎々しげに叫びます。
趙雲瀾と別れた場所に戻ってきた郭長城は、誰もいない壁の近くで棒付きキャンディーを見つけます。郭長城はキャンディーを拾い上げると近くの草むらに投げつけます。「長城、どうすればいい?」とおろおろする楚恕之に、「いったん戻るしかない」と郭長城は特調所へ歩き出します。
楚恕之と郭長城の後ろには、王向陽と鴉青が佇んでいました。「計画通りに進んだわね、尾行する?」「朱豪は殺した、孔鯨はまだ利用できる。殺すのは惜しいだろ。疑いと恐れ、混乱と迷い、特殊能力の侵食、あの男を徹底的にいたぶってやる!!」「あなたを見くびってた」「人を殺し、罪も犯した。もう怖いものなどない、特調所の奴らが俺の正体をいつ暴いてくれるのか楽しみだ」と王向陽はにやりと笑います。
はっと趙雲瀾が目を覚ますと、両手には手錠をかけられ、身体は椅子に縛り付けられていました。
孔鯨はドリルで木に穴を開けながら楽しそうにしています。
「あらお目覚め?見て、あなたのために準備したの」と木箱の周りに蝋燭をたくさん立てたものを見せつける孔鯨。「まだ目覚めてない、おやすみ」「嫌な人、私が起こしてあげる。うーん、これは残酷ね」と鈍器を選んでいく孔鯨を横目でみる趙雲瀾。毛はたきのような鞭を手に取ると机を思いきり叩き、「あん、気持ちいい♡」と声をあげる孔鯨。はたきの一部を引き抜くと、趙雲瀾の耳をくすぐります。「うわあ!あちょーっ!」と奇声をあげ、カンフーのような姿勢をとって孔鯨を退ける趙雲瀾。
すると突然孔鯨の人格が変わります。「は!何だ!別の人格が出てたのか」と鼻で笑う彼に、「元に戻ったようだな、単刀直入に話そう。孔鯨、俺を縛ってどうする気だ?」「楽しむのさ」「俺をいじめて楽しむ奴は大勢いる」「はは、そうだろうな。特調所の所長で手柄もたててる。家柄もよく、如才ない。完璧な存在だ。世の中は不条理だよな?」「不条理?99個もの人格を持つことよりか?医者さえもあんたの話を信じてない。妄想性障害は人類を滅亡させる力がある」と趙雲瀾は孔鯨の病状について言い当てます。孔鯨は突然趙雲瀾の前で跪きます。
「はは!!嬉しいよ!お前は俺の理解者だ!ならば分かるだろう!俺ほどの勇ましい人格がこんな情けない男の…」と演説を始める孔鯨。趙雲瀾はその隙に拘束を外そうとしますが、外れず困惑します。
「体に宿るしかない苦しみをな!なんて窮屈なんだ!」「そうだ!別の体に宿ることもできないしな」。趙雲瀾がそう返した瞬間、孔鯨が歓喜の目で趙雲瀾を見ます。しまったと顔を歪める趙雲瀾。「はは…試してみないと分からない」「いや俺も無能な男だ、やめたほうが…」「悪いな!」と闇の力を趙雲瀾の頭に注ぎ込む孔鯨。趙雲瀾は力に翻弄され白目を剥き、がくがくと痙攣します。しかし孔鯨は弾き飛ばされてしまいます。
痛む頭を叩きながら正気に戻った趙雲瀾は、自分の両手の周りに闇の力の残滓のようなものがまとわりついているのを感じます。「黒兄さん?」と呟く趙雲瀾。
「頼む、お願いだ、俺を殺してくれ、お願いだ、殺してくれえ…」と懇願しだした孔鯨に、「おい、もう諦めたのか、相手になるぞ」と答える趙雲瀾。「頼む殺してくれ」とあまりに繰り返すので、「孔鯨か、孔鯨だな?」と趙雲瀾は言い当てます。
「俺は…俺は誰だ」と呆然とする孔鯨に、「分かった、殺してやるが縛られていては無理だ。ほどいてくれ、頼む」と笑顔で言う趙雲瀾。「助けるよ」「縄を?」「解くよ、待ってろ、今すぐに自由にしてやるからな。今縄を解いて…」と孔鯨は縄を解き始めますが、すぐに「殺してやる」と趙雲瀾の首を絞め始めます。泡を吹く趙雲瀾。
孔鯨を蹴り飛ばし、趙雲瀾の拘束を解く沈巍。「遅くなった」と謝る沈巍に、「早いくらいだ」と趙雲瀾は噎せながら返します。「さ、さすがにやりすぎでは?死んだら俺も殺人の共犯になる」と怯える林静の前で、孔鯨はメスを取ります。「死なせてくれ!お願いだ!」と叫ぶ彼の前に、楚恕之が現れます。
「死にたいのか?そうはさせない」「玉の輿を狙ってたのにぃ」「大人しくしてくれよ、俺はもう年だ、痛い思いはしたくない」「生きていて何が楽しいんだ?人生はあっという間に終わる」「殺してくれ」…と百面相する孔鯨に怯える楚恕之。
沈巍はただ孔鯨を見つめます。「怖いわ!」と悲鳴をあげる楚恕之ですが、彼の糸が孔鯨のメスを止めます。「私が止めたの?私ってすごい!」と大喜びした楚恕之でしたが、「嘘でしょ!ものすごい力だわ!」と孔鯨の怪力に悲鳴をあげます。
「お願いだ、俺を楽にしてくれ、人を傷つけたくない」と孔鯨が叫んだ瞬間、窓の隙間から朱豪を殺したものと同じ矢が彼の首に刺さり、「ありがとう」と笑顔で彼は死にます。
趙雲瀾は驚愕し、思わず沈巍を見ます。沈巍は闇の力で孔鯨を解析。「普通の人間だな。どうりで地界に資料がなかったわけだ」と呟く沈巍。「では特殊能力はどこから?」と趙雲瀾が言うと、林静は動揺したように目をきょろきょろと彷徨わせます。そこに郭長城が到着します。
「死んでる!楚さん、人が死んでます!」と叫ぶ郭長城に、「うるさいぞ」と低い声で唸る楚恕之。趙雲瀾は笑い、ホッとため息をつきます。
塀の上には王向陽と鴉青が立っています。「なぜ孔鯨を殺した?特調所の奴らの人格が元に戻ってしまった。折角奴らの動きを制御できると思ったのに」と言う王向陽に、「最後に尊厳を与えたの。もう報いは受けたはずよ。筆の主であるあなたの肩にあの方の復活がかかってる。始めて」と鴉青は促します。
王向陽は空間に功徳筆で印を書きます。「龍城で印を残したのはこれで30箇所目ね。あの方はもうすぐ自由の身よ。あと3箇所で願いは叶うわ。心残りは?」「何もない。復讐の時が来たら、俺はこの生命をあの方に捧げる覚悟だ」と覚悟した目で呟く王向陽。
夜尊の元にきた呉。「大人しくしろ!」と呉が叫ぶと、「もう十分大人しくしてきた。今日は気分がいい。少し話そうか」と夜尊は楽しげに返します。
「お前に操られるのは心の弱い者だけだ」「ではお前には弱点がないと申すか?大切な息子がいると聞いたぞ。地君殿で服役中だとか」「罪を犯したからだ。誰もせいでもない」「面白い、だが残念ながら誰の心にも弱い部分がある。かつて所属する隊が地上で壊滅しただろ。あの時の恐怖も忘れたのか?」。言葉を言い終えると、天柱から呉に闇の力が噴き出します。
「なぜだ、能力は制限されているはず」と狼狽えるも、呉はかき消えます。「まだ序章に過ぎぬ。王よ、頼んだぞ。私の自由は功徳筆にかかっている」と夜尊は呟きます。
「はい、所長?」「成先生、1つ質問だ。不完全な自分を補うため別の人格が生まれるんだよな?だがもし完璧な人間が発症したら周囲は変化に気づかない?」「それはありえないわね。人格が変わったあと周囲が気づかないのはそもそも正常時の人格が偽りなのかも」。麻酔時計を見ながら、唯一人格が変わらなかった林のことを思い、熟考する趙雲瀾。「なるほど、助かった」と電話を切ります。
大慶、林静、郭長城が、孔鯨の死んだ現場を調査しています。
「珍しいな林静、自分から外勤を希望するとは」と言う大慶に、「嫌味か?科学の進歩のためだよ。地星人と無関係の孔鯨がなぜ特殊能力を得たのか興味をそそられる」と返す林静。
林静はチェストの裏から注射器を出し、こっそり隠そうとします。「林さん、何か?」と郭長城が目ざとく見つけると、「ああ、こんなものが」と林静は注射器を差し出します。「注射器だ!沈教授が孔鯨の体に注射器の痕があったと」と喜ぶ郭長城に、「そうか、なら重要な証拠品だな」と林静は大慶が開けた袋の中に注射器を入れます。しかし林静のどうにも怪しい行動に大慶は彼を訝しみます。
郭長城は孔鯨のお墓参りにきていました。「また来たの?」と笑う東南に、「前にあげた上着は?顔色が悪い、大丈夫かい?」と不安そうに尋ねる郭長城。困ったように視線を彷徨わせた東南は、「花代だけで給料がなくなりそうね」と揶揄います。「どれだけ美しくても花は花でしかない。生きてたらもっと美しい経験が」「私が死んでもお供えを?」「若いのに何を言うんだ」と郭長城が笑った瞬間、東南が崩れるように倒れます。「東南!東南!しっかりしろ!」と彼女を抱き上げる郭長城。
郭長城は東南を近くの林の中のベンチに横たわらせます。「私が死んでも美味しいものをお供えしてね。李おばあさんのヨーグルト、来蘇にあげたトムヤムクン麺、祖馬と同じチョコも」「元気になったら全部買ってやる」「私はもう長くない。この墓園で多くの別れを見てきたわ。父子の別れ、恋人との別れ、友人との別れ、でもあなたは変わってる。亡くなった人とはどんな関係なの?…お節介なのね。人間って素敵だわ。郭長城、ありがとう」と東南は儚く笑い、息絶えます。「東南!東南!目を開けて!」と叫ぶ郭長城。すると突然東南が消え去り、そこには1羽の小さな鴉の死骸が残っていました。
郭長城の背後に鴉青が現れます。「敵とはいえ感謝するわ。東南の最期を看取ってくれた」。咄嗟に電流棒を出そうとする郭長城ですが、「妙な真似をすれば東南とともに葬る」と言われ、ゆっくりと鞄にしまいます。「じゃあ…東南は…」「鴉族の娘よ、体が弱く孤立しがちだった。先が短いと知り、この墓園で暮らしていたの。笑った顔を初めて見たわ。優しい人間もいるのね。鴉族は受けた恩は必ず返す」と、鴉青は郭長城の目の前に銀の羽のネックレスを差し出します。「鴉族に貸しを作った証よ。願い事が決まったら教えて。大抵の願いは叶えられる」。
ネックレスを奪うように貰うと、郭長城は「もう決まった」と即答します。「夜尊と縁を切り、改心してほしい」と言う郭長城を鴉青は睨みつけ、手を握りしめます。「東南に免じて今日は見逃す。口は慎むことね」と言い、鴉に姿を返すと飛び去っていきます。郭長城は東南の亡骸を前に、涙目で座り込みます。
「最近忙しくてなかなか家に帰れなかったろ」と一緒に家に帰る趙雲瀾と沈巍。家の前に来ると、沈巍の部屋から妙な臭いがします。「何の臭いだ?何かが焦げてる」と言う趙雲瀾の横で、沈巍が扉の先を睨みつけます。沈巍は扉を開け電気のスイッチを入れようとしますが、明かりが付きません。趙雲瀾が部屋に入ろうとするのを、沈巍が「待て」と片腕で制します。
「黒枹使様ご無事で〜♡ここで待ってるわ♡」って沈巍の腕に抱きつこうとした趙雲瀾を雑に退ける沈巍に笑った(沈巍嬉しいくせに〜❤️ニヤニヤ)んですが、「安心しろ、君だけは感染しない」と断言する理由が謎でした。沈巍の命を分け与えられたから…とか…?🤔
孔鯨に闇の力を注ぎ込まれた時も跳ね返して「黒兄さん…?」って趙雲瀾が呟いていたし、彼に命とともに沈巍の力が分け与えられたのかな…でも普通の人間が闇の力を持てば命が蝕まれるはず…もはや趙雲瀾は普通の人間じゃなく、地星人とのハーフみたいな存在になってるんですかね?🤔
孔鯨から誰に感染させるかは功徳筆主が操ってたんですかね。あと孔鯨が口走った「阿魚」が誰なのか気になります。林静の怪しい行動も…なんだか嫌な予感がするなあ。
あと楚のオネエ化を「楚にとってあの人格は死より残酷かも」って冷静に言う沈巍に笑いましたww そんなに!?ww
地味に、林静の「このまま全員を感染させて沈教授と2人の世界に浸ると?俺は元から存在感がないし、2人の邪魔はしないよ」が好きですw 周囲から完全にカップル扱いされているww
第26話 猫族の蘇り
<あらすじ>
夜尊(やそん)が力を増しているのを感じる沈巍(シェン・ウェイ)。
功徳(くどく)筆の主、王向陽(ワン・シャンヤン)は新たな事件を起こそうとしていた。
王向陽と親しかった郭長城(グオ・チャンチョン)は功徳筆を見せてもらったのを思い出す。
趙雲瀾が沈巍の部屋に一緒に入ると、沈巍が「待て」と片手で彼を制します。沈巍が何か金属片を踏みます。スマホの懐中電灯機能であたりを照らす趙雲瀾。
「海星艦襲撃時の写真だ。同一犯だな」と沈巍に写真を見せる趙雲瀾とため息をつく沈巍。「夜尊の陣営に新手が加わったようだ」と言う沈巍に、趙雲瀾は「見つかる危険を犯してまで侵入してる。目的は何だ?」と首を傾げます。「検討はつく。私なら周教授の実験データを持つと踏んだ。だが空振りだったわけだ」「研究所は何を開発している?残念ながら俺たちの立場じゃ捜査は無理だな。仕方ない、仕事でもするか」と、趙雲瀾は事件捜査資料を茶封筒から取り出します。
沈巍も同じく捜査資料の写真を見ます。「何件かは功徳筆と関係していそうだ」と言う趙雲瀾に、「同感だ、みんな調査を始めてる」と返す沈巍。「おそらく、すぐ次がくるぞ」と趙雲瀾はまたため息をつきます。
鴉青が、東南が最期に横たわっていたベンチを手でなぞっていると、木の陰から王向陽が現れます。「東南は妹同然で、変わった子だった。亜獣族の繁栄より人間の生活に興味があった…」「もう言うな、大切な者を失うつらさはよく知ってる」「さっきはなぜ隠れてたの?」「会ってどうする?殺す気もないだろ。奴は生かした方が後で役に立つ」「あの子と付き合いがあったんじゃ?」「奴だけじゃない。特調所の連中は全員知り合いだった。今となってはただの他人だ。いるのは敵と邪魔者だけ」「次はどうするの?」「俺と同じ敵を持つものを1人見つけたが、もう少し様子をみる。問題はそいつをうまく操れるかどうかだ」と王向陽は呟きます。
眼鏡を取った沈巍は趙雲瀾のためにキッチンでオレンジを切っています。彼に持って行こうと振り向くと、彼はソファーで熟睡していました。沈巍は思わず微笑んでしまいます。自分の脱いだジャケットを彼にかけます。彼の寝顔を見ようとテーブルに腰掛け、見つめます。ネックレスをシャツの間から取り出し、再度趙雲瀾を見つめて微笑みます。
趙雲瀾と沈巍が2人で特調所へ行くと、林静がいません。「林は?」と趙雲瀾が尋ねると、「なんでも特調所を代表して”精神的文化交流”に参加してくるって」と祝紅がふざけた様子で返します。趙雲瀾はため息をつくと、「汪徴、奴の来月のボーナスを引いとけ」と言い、祝紅は笑います。郭長城は趙雲瀾を見遣った後、1人、険しい表情で鴉のペンダントを手に持ち見つめます。
林静はカフェで沙雅とお茶をしていました。「海星の構造は変化している。今回の”地殻の秘密展”ではシュミレーション技術によりかい千万年の変化を再現した」と語る林静に、「地殻なんて興味ない。星空が好きなの。あと言ってることが音声ガイドとまるかぶりよ」と沙雅はしていきます。「そうかな」と言う林静に、沙雅は林静がつけているイヤホンを指さします。林静は気まずげに笑うとイヤホンを外します。「偶然に会うのは3回目ね」「本当だ、縁があるな。こんなところで君に会うとは思わなかった。実は俺…あー…ゴホン」「ちょっとお手洗いに行ってくる」と沙雅は微妙な笑顔で席を立ちます。
「すぐに別れたいさ、だがこのままだと財産は折半だ」「声が大きいわ、奥さんがいなくなれば全て手に入る」「それは君の方だろ?」と林静の近くの席で男女が物騒な会話をしています。
お手洗いから戻った沙雅は「この後の予定は?ライブの準備をしなきゃ」と林静に切り出します。「俺も出社しないと」「電話番号を交換しない?今晩聞きに来て」「いくよ!」と、沙雅のライブのお誘いに食い気味に答える林静。お互いのスマホに電話番号を入力すると、沙雅は愛想笑いをして「じゃあね、電話して」と去っていきます。「ああ」と林静は大喜びです。
林静の隣で物騒な話をしていた男・鄭大銭は、ワイングラスを2つ用意します。そして片方に粉末の薬を投入。鄭大銭はどこかへ電話します。「俺だ。準備完了だ」。
女・鄭大銭の妻である大吉が野菜や果物が入った袋を持って帰宅すると、ダイニングテーブルが豪華に飾りつけられています。更に、彼女の背後からスーツの鄭大銭が大きな花束を持って「おかえり」と現れます。「あなたがこれを?」「結婚記念日だ」と鄭大銭に花束を渡され、女は花の香りを嬉しそうに嗅ぎます。「大銭たら、浪費しすぎよ」「ロマンチックだろ?」と会話しながら、鄭大銭は大吉を席につかせます。「乾杯を」とぐらすを掲げ、ワインを飲む2人。
「実は話がある」「何?」「家事や家計の切り盛りを長年ありがとう」「あなたったら」。鄭大銭は再度グラスを掲げると、大吉にワインを飲ませます。「まだ話の続きがあるんだ」「言って」「感謝する、これで俺は…自由だ」「何ですって?」。大吉は突然頭を押さえると、昏倒します。
ライブハウスにて、沙雅のギター演奏にうっとり聞き入る林静。隣には祝紅がいます。「ちょっといい加減にしてよ、恋人のライブに誘うなんて。惚気たいの?」「彼女とはまだ何もないよ。オレ1人だとみえみえで恥ずかしい。ダサいだろ」「嘘でしょ、プライドなんてあったの?」。笑う祝紅を睨む林静。演奏の合間に林静に手を振る沙雅。祝紅は沙雅の写真を撮ると咳払いし、「今回私はお邪魔みたいね」と一言。林静は照れつつも沙雅を見つめるのに夢中です。
「金が消えてる」と叫ぶ鄭大銭に、不倫相手の女は「あの日振り返ったら奥さんと目が合って…私は気絶した。生きてたんだわ」と怯えます。「ありえない、念入りに確認したんだ!」と鄭大銭が騒いでいると、玄関のチャイムが鳴ります。「なにか?」と鄭大銭が言うと、郭英が「海星艦です、ご同行を。半年前の金融詐欺事件に関し匿名の通報がありました」と淡々と言います。「あいつだ、間違いない!会わせてくれ」と激怒する鄭大銭に、「話は海星艦で聞きます、どうぞ。さあ」と郭英は促します。鄭大銭は不倫女を振り返り、彼女も彼に続いて同行します。
「鄭大銭は妻を殺したと証言したが、彼女は再び現れた」と林静は報告します。しかし特調所メンバーの誰も話を聞いていません。
鄭大銭の証言では、銀行から金を引き出そうとしたところ、「お振込できません。奥様の大吉様が全額お引き出しに。委任状に問題があれば通報を」と銀行員 に言われたのだそう。
「鄭大銭の妻を調べたが、身分証明書は偽造だった。龍城では過去10年間に2度も若い女の遺体消失事件が起きてる。しかも全員容貌がそっくりだ。時間が経過してるのに年齢も同じ。事件の裏に倫理に反する何かがあるのでは?…何だよ!怪事件を分析してるんだぞ!話くらい聞け」と地団駄を踏む林静。
祝紅は林静の必死さに笑います。「おい」と林静がそれを咎めると、「何が怪しいって?説明しろ」と2階から趙雲瀾が口を挟みます。「いや何でもない。もしかしたらただのトリックかも」と急に弱気になる林静に、「おそらく今回は功徳筆の主が関与している」と沈巍が言います。それを聞いた趙雲瀾が「林静よくやった」と微笑み、「ならボーナスは?」と林静は目を輝かせますが、「当然……なしだ!」と言われ、じっとりと睨みます。
楚恕之と郭長城は聞き込みに出ています。「楚さん、なぜ僕たちは鄭大銭ではなく別の事件の捜査を?」と尋ねる郭長城に、「ボスはこの事件が功徳筆に関係ありと見てる」と答える楚恕之。アイスクリーム露店の女は、「あんたたち買うの?買わないの?」と2人に不満げに尋ねます。
「中秋節の夜のことで聞きたいことがあるんです、何か見てませんか?」と尋ねる郭長城に、「中秋節?中秋節ね…思い出した、交通事故が起きたわ」と答える女。「交通事故?目撃したのか?」と楚が重ねて尋ねると、「当然よ、偶然写真も取ってたわ」と女はスマホを見せます。
中秋節の夜、女の露天の近くで妊婦は「タクシー!」と車道に向かって手を振っており、女は自撮り中でした。
「これよ、違う?」と自撮り写真の背後に映る妊婦とタクシーを見せる女。楚恕之と郭長城は顔を見合わせます。「あの晩、この人を病院まで送ってあげたのよ」と言う女。楚恕之は近くの監視カメラを見上げます。
特調所に呼び出された叢波は「俺は特調所所員じゃないぞ。告発者の俺が都市伝説の調査だと?」と林静に文句を言いますが、「通報を全て調べたら日が暮れる。生存が分かる証拠を探せ」と叢波に大吉と似た女たちの写真の画像分析をさせます。叢波は分析結果に驚きます。「同一人物だ」。「ありえない、しかも20歳前後だ、鄭大銭の妻と年齢が合わない!」と林静も驚愕します。
騒ぎを聞きつけ、大慶も画面を覗き込みます。「今の整形技術はレベルが高いぞ」と言う叢波に、「どうした?」と林静は怪訝な表情の大慶を問いただします。「いや、顔に見覚えがある」と言う大慶に、「名前は大吉だ、結婚紹介所で相手を募集してる」と叢波は答えます。「”前向きな恋がしたい”、よほど傷ついたんだな。この任務は大慶にしかできないぞ」とにやつく林静。「なんで僕が」と大慶が眉を顰めると、「見ろ、”活発で社交的な人を希望、身長問わず、年下歓迎、猫系男子求む”、ぴったりだ!」と林静は笑顔で言います。嫌そうな顔の大慶。
龍城街コンに来た大慶は、大吉と一対一で食事をしていました。大吉は大慶を楽しそうに見つめ、「食べないの?」と食事を勧めます。ちまちま食べる大慶に、大吉は「乾杯、あなたかわいい。不思議ね、前からあなたを知ってる気がする」と微笑みます。「僕もだ!」と勢いこんで言った後、「あ、ごめん」と恥じる大慶。
「酔ったみたい」「水しか飲んでない」「あなたに酔ったの、風に当たりましょ」と、大吉は大慶と手を繋ぎ散歩します。「随分嬉しそうだね」と大慶が言うと、「大人の女のふりはもうやめる。感情に素直に生きるの、猫らしくね」と大吉が答えたため、「猫が好きなの?僕もだ!」と大慶は大喜びで返します。すると大吉が突然大慶に抱きつきます。「私を捕まえて、早く。嫌なら私があなたを捕まえる」と言う大吉に突然危機感を覚え、「近づくな!」と大慶は彼女と距離を取ります。「”大ちゃん”、私を忘れたの?大吉よ」と縋るように言う彼女に混乱する大慶。大吉は大慶の腕を掴みます。「大吉?覚えてるさ、大吉だろ、いい名前だ」「ごまかさないで!全部忘れたのね」。大慶は彼女の腕を外そうとしますが、離れません。
「やっぱり変だ!」と怯える大慶の電話が鳴り慌てて出ようとしますが、大吉はスマホを叩き落とし、壊れてしまいます。「出ないでよ!思い出させてやるわ!」と大吉は大慶の首を絞めます。「猫のプライドは?飼い猫を馬鹿にしてたくせに!」と叫ぶ大吉。
そこに登場する趙雲瀾と沈巍。面白そうに2人の揉み合いを見つめる趙雲瀾。「見てないで早く助けろよ!」と叫ぶ大慶に、「ただの痴話喧嘩だろ?」とにやつく趙雲瀾。「人間より私を見てよ!思い出して」と大吉は言います。「猫族は高貴な一族だ、暴力はやめて一緒に来てくれ。君を傷つけたくない」と言う沈巍。趙雲瀾は沈巍の肩を叩きます。「もうそのへんにしておけ」と趙雲瀾が大吉の手を外そうとすると、大吉は今度は趙雲瀾の首を絞め始めます。「猫族に口出しは無用よ!」。
大吉の手が猫の形に変化しかけたため、沈巍が闇の力を使い、彼女の腕を拘束し、投げ飛ばします。大吉は不運にも縁石に頭を打ち、死んでしまいます。「大吉、大吉、しっかりしろ、目を開けろ」と慌てて彼女を揺さぶる大慶。「揺さぶるな、息がない」と趙雲瀾は彼女の頸動脈に手を当て、冷静に言います。殺すつもりのなかった沈巍は瞠目し、彼女を投げ飛ばした手を見つめます。「死んだ?嘘だろ…」と大慶は弱々しく呟きます。
「実験室の猫女の様子を見てくるよ」と言う林静に、「ほっとけ、皆これをみてくれ。俺のカンどおりなら功徳筆の主が判明する」と趙雲瀾が特調所メンバー全員を見つめて資料を見せ始めます。
まずは楚恕之が見ていた、アイスクリーム露店の近くの監視カメラの映像です。妊婦がタクシーに乗ろうとすると、鄭大銭と不倫女が彼女を押しのけ横取りします。妊婦が「私の車よ」と言っても、不倫女は「早い者勝ちでしょ」と鼻で笑います。
「鄭大銭だ。この間逮捕された」と言う林静に、「ボス、現場の拡大写真がある、車両ナンバーN8338、朱豪の車だ。この角度からだとひき逃げに見える。朱豪は事故を起こしてないが、妊婦が転倒したのは事実だ」と楚恕之は報告。「服装や時間からすると、同じ妊婦さんね。こんな偶然が?被害者が繋がったわ」と王朝は呟きます。
「続きがある、病院に借りた映像だ」と趙雲瀾は祝紅の肩を叩きます。祝紅が映像を出すと、そこでは医師たちは急患を優先し、妊婦を後回しにしていました。
祝紅と郭長城が「まさかこの人…亡くなった?」と呟くと、趙雲瀾は頷きます。「つまり功徳筆の主はこの妊婦の敵を討ったと?」と言う楚恕之に、「母子2人の命が失われたんだ。理屈は合う」と趙雲瀾は答えます。
「でもおかしいわ、老化事件の被害者はこの件と無関係では?」と眉を顰める汪徴に、「覚えてるか?老化事件の被害者・王群は中秋節の夜、光明路にいた」と趙雲瀾は言います。「あの夜一体何が?」と祝紅が呟くと、「待ってください、確信がなかったけどこの人王さんの奥さんだ!それに僕は功徳筆を見ました」と郭長城が告白します。
「王さん、美しい筆ですね」「うちの家宝だよ、普段は大事に飾ってある」と、王向陽と会話したことを思い出す郭長城。
「これを見ろ、成医師に借りた資料だ」と趙雲瀾は妊婦の書類に書かれた王向陽のサインを見せます。書類を受け取りしげしげと見る林静。「凶悪事件の裏で巧妙に復讐を果たした。青果店には惜しい才能だ」と言う趙雲瀾に、郭長城は過呼吸のようになります。「孔鯨は?彼は何の関わりが?」と祝紅が尋ねると、「中秋節の夜、王の店で騒ぎを起こしてる」と趙雲瀾が答え、郭長城は「何てことだ」と絶望の表情を浮かべます。
大吉は台の上で寝ています。「私の過ちだ。死に値する罪ではなかったのに」と言う沈巍に、「いいんだ、ボスを守るためだろ」と言う大慶。無言で背を向けて去ろうとする沈巍に、「”人のため 殺さず 天下のため 殺さざるを得ず” そう言ってたよね」と大慶は呟きます。
驚き思わず振り返る沈巍。「まだ覚えて?」と問うと、「ぼんやりだけどね…」と大慶は涙ぐみながら沈巍を見つめます。「合ってた?…僕が付きそうから捜査を続けて」と言い、沈巍は強い目で頷き去っていきます。
「何が”大ちゃん”だ、死ぬなんて…愚かな猫め」と、大慶は大吉の遺体を背に座り込みます。大吉は音もなく起き上がると、大慶の後頭部を殴り失神させます。悲しげな大吉は彼の頬に触れると、「ごめんね、また会えるわ」と特調所を去ります。
「本当に続けるの?記憶は少しずつ取り戻したほうがいいわ。自然にゆっくりとね」と言う成医師に、「急ぐんだ。最近ずっと頭の中で記憶が入り乱れてる。おかげで昨日もミスを…思い出したい!治療を続けたいんだ!」と大慶は懇願します。その必死さに、成医師は「いいわ」と承諾。
その後、2人は街を歩きます。「今日はどうも」「まだ何もしてないわ、でも若いのに…そんなに多くの記憶が?まるで経験豊富な老人のようね」と成医師に揶揄われ、「それは…」と大慶は言葉を濁します。そこに突然大吉が現れます。「大慶!」と呼び止めると、「彼と勝手に話さないで!」と成医師を指差す大吉。「あら、知り合い?」「友達です。先生、また連絡する」「じゃあお先に」「どうも」。大吉を気にしながら去っていく成医師。「待ちなさい!離してよ!」と成医師を追いかけようとする大吉の腕を大慶は全力で捕まえます。
それでも彼女が成医師を追おうとしたため、「やめろ」と大吉を後ろから抱きしめます。すると突然大吉の動きが止まり、「大ちゃん、やっと抱きしめてくれた」と呟きます。はっと飛び退く大慶。大吉は悲しそうに大慶を見つめます。大慶はそのまま去ろうとしますが、無理やり大吉に腕を引かれどこかへ連れて行かれます。「どこへ?」と尋ねる大慶に、「ここを覚えてる?」と大吉は何の変哲もない歩道で足を止めます。
「大ちゃん待ってよ!」「誰が大ちゃんだ、同族だからって付きまとうな」「ねえ!歩き疲れた、おんぶして」「かわいこぶるな」「待ってよ…大慶!」。
かつて、大吉は彼女を振り切るために歩道に飛び出した大慶を守るため身代わりになり死んでしまったのでした。
「抱いてももう分からないよな…目を開けろよ」と泣きながら彼女の亡骸に頭をこすりつける大慶。「僕の大好物の小魚だ、お前にやるよ。全部やっても目覚めてくれないのか?」と泣き、走り去る大慶。
「思い出してきた」と言う大慶に、大吉は 「続きを知りたい?」と尋ねます。
死んだと思われた大吉は夜になると目覚めました。「生きてる?”猫には命は9つある”って本当なのね!」と喜んでまわりを見渡しますが、誰もいません。「大慶!どこなの?」と叫び走り回る大吉。
「寂しがり屋なのは知ってるでしょ。だから次の人を捜した。真実の愛を求めて。やっと運命の人に会えた。でもガス漏れ事故で彼は死に私は生き返ったの。また1人ぼっち。数年後に2人目の人に出会ったわ。ある日私は彼の目の前で殺された。でも生き返って彼のもとに戻ったの」。
しかし大吉を気味悪がった恋人に荷物を全て家の外に放り出され、追い出されました。「馬鹿よね。怖がられて当然なのに…。その次は…」。
「感謝する、これで俺は自由だ」と鄭大銭は大喜びすると、「俺だ、成功した、計画どおりにやるぞ」と電話します。大吉は生き返り、鄭大銭の足を掴みます。「大銭」「離せ!離してくれ!恨むなよ!」と、鄭大銭は大吉の腹を蹴り上げます。「愛していたけど、お前は異常すぎる。このままじゃ俺の心臓がもたない!」と、大吉は鄭大銭に鼻と口を塞がれ窒息死させられます。「俺を自由にしてくれ!諦めるんだ!」。
「悪運だな。命がいくつあっても足りない」と渋い顔をする大慶に、「でも運が好転したから再会できた」と大吉は言います。「そういうわけで…その、頼られちゃったよ」と特調所に大吉を連れてくる大慶。「当然でしょ、逃さないわよ」と大慶の腕に自分のそれを絡める大吉。「いずれにしても、お嬢さんが無事でよかった」と言う沈巍に、「いやまったくだ」と趙雲瀾は笑います。「恥ずかしいからみんなには内緒で。彼女はなんとかする」と大慶は趙雲瀾にこっそり言いますが、趙雲瀾は大慶の肩を勢いよく叩きます。「俺の推理では…もうバレてる」。大慶が振り返ると、そこには特調所のメンバーが勢揃いしていました。「聞いてたのか」と大慶が言うと、「功徳筆の捜査で出動するところだったんですが、そしたらお2人が…末永くお幸せに」と郭長城は慌てて所内へ戻っていきます。趙雲瀾は大笑いし、大吉は嬉しそうです。「やめろ、誤解だ」と焦る大慶。
「私脱皮してくる」と言う祝紅に、「何も見てない」と言う林静。「違うって、おい楚も」と大慶が見上げると、楚恕之は「おお」とふざけた顔をして所内に戻っていきます。「そうだ、功徳筆の主はどんな奴だ?」と大慶が尋ねると、「功徳筆の主は…うさんくさい人だった。すごく変なの」と答える大吉。
そこに李が所内から顔を出し、「所長、外出ですか。大慶の小魚をお願いします」と趙雲瀾に頼みます。「わかった」と趙雲瀾が快諾していると、大吉は李を凝視、絶叫しながら李の首を締めます。「やめろ!何をする!李さんに…」と手を離させた大慶ですが、「ここはだめ!」と大吉は叫びます。「大丈夫か」と李を心配する趙雲瀾。大吉は大慶を殴りまた失神させます。「おい、何を」「こないで」。趙雲瀾が大慶に近づこうとすると、大吉は彼の首に鋭い爪を立てようとします。「待った、話せばわかる」と言う趙雲瀾に、「ぐだぐだとうるさい人間ね!」と言うなり大吉は大慶を攫ってしまいます。
大慶は街角で目を覚まします。大吉は心配そうに彼を見下ろしていました。「本気で怒るぞ」と大吉を睨みつつもよろめく大慶。「あなたは特調所にいると功徳筆の主に聞いたの。記憶喪失になった理由を知ってる?ここをよく見て」と大慶にあたりを見渡させます。
鄭大銭が海星艦に逮捕されるのを物陰から見ていた大吉。「あなたが悪いのよ。真実の愛はなぜ手に入らないの?」と大吉が呟くと、王向陽は「また会ったな、おかげで敵に報復できた。礼をしないと」と大吉に話しかけてきます。「自分の復讐をしただけ!」と怒る大吉に、鴉青は「共通の敵が倒せて何よりでは?」と囁きます。「感謝の印に情報をやろう、どうだ?」と大吉に言う王向陽。
李は街角で1匹の黒猫を抱き上げます。李は黒猫を撫でて可愛がり…ある日、黒猫は大慶に変身します。
「俺はここで記憶をなくしたんだ、李さんに…」と大慶は呟きます。大吉は「思い出した?人間は自分勝手よ、あんな真似をしておいて笑ってる。特調所にいたら酷い目に遭うわ」と大慶を説得しようとします。しかし、大慶は「みんな僕の仲間だぞ」と譲りません。「仲間は私だけよ!私たちは亜獣人族で、その中の最も高貴な猫族なの。私と来て」と大慶の手を引き、またどこかへ連れて行く大吉。
趙雲瀾、沈巍、楚恕之、郭長城は趙雲瀾の母が地星人に殺された廃屋にきていました。「罠に気をつけろ」と沈巍が警告し、4人はあたりを見回します。すると近くの箱の中から猫の声がしたため、趙雲瀾が覗き込みます。そこにはスマホがあり、猫の声はそこから聞こえていました。「囮だ」と呟く趙雲瀾。
趙雲瀾に林静から電話が入ります。「ボス、目標を探知した」「俺は見失ったところだ、仕事が早いな」「見つけたのは例の奴の方だ」と林静に言われ、趙雲瀾は沈巍を見ます。
大慶は大吉と街中を走っていました。腕を払う大慶。「止まれって!」「特調所の近くとは思わないはず。相手の裏をかく方法はあなたに教わったのよ」。楽しそうな大吉の手を叩き落とすと、「奴らは愚かじゃないし、友達だ!」と大慶は主張します。苛立った大吉は大慶に張り手を食らわそうとしますが、李が彼女の腕を止めます。「またあんたか」と大慶が言うと、「あの時はお前が怖くて殴ってしまった…この10年ずっと謝りたいと…」と李が懇願するように言います。「今更何よ!10年分のつけを払ってもらうわ!」と大吉は手近な木の棒で李を殴りますが、大慶が彼を守ったためまた大慶は昏倒してしまいます。「大慶!大慶!」と叫ぶ李。「大慶、しっかり、そんなつもりじゃ」と大吉は涙声で叫びます。大慶は朦朧としながら、「崑崙…」と呟きます。
1万年前、崑崙は「大慶、従い守りたいと思う者に必ず出会う。人であれ猫であれ心惹かれる偉大な者に会えば分かる」と大慶の肩に手を添え見つめながら話していました。
目を覚ました大慶に、「大慶大丈夫?」と大吉は泣きます。「泣くなよ、生きてるから。相変わらずだな。猫のくせにかっこ悪いぞ」と笑う大慶に、大吉は涙を拭き、「思い出したの?」と問いかけます。「ああ、思い出した」と大慶が言うと、大吉は大慶を思いきり抱きしめます。李はそっと立ち上がり去ろうとしますが、「でも、ごめん。よく分かった。ボスや教授、それに楚たち、この人(李)も、愚かで怠け者だけど、愛があれば笑い、痛みがあれば泣く。仲間のために命をかける。本当にいい奴らなんだ」と大慶は言い、大吉は言葉を失います。李は「大慶や、本当にすまなかった」と彼の腕を揺さぶり、懺悔します。
寝てる趙雲瀾にそっと自分のジャケットかける沈巍〜〜〜!!!!!完璧な攻め様仕草なんよ😭❤️しかも寝顔をじっと見つめてるのがもうたまらない。どんな想いで趙雲瀾を見てるの?教えて沈巍…😭
あと、大慶の「いいんだ。ボスのためだろ?」「”人のため 殺さず 天下のため 殺さざるを得ず” そう言ってたよね。合ってた?」に、「まだ覚えて?」って返してた沈巍が気になりすぎます。1万年前に大慶は沈巍と一体何を話したの?崑崙に何があったの?2人は崑崙をめぐってどんな思いを抱いてたの?
大慶と沈巍にしか分からない、崑崙の思い出があるような気がします。2人の熱い見つめ合いを見ただけで泣きそうになりました…。
第27話 研究所の秘密
<あらすじ>
記憶が蘇った大慶(ダーチン)はさらに任務への情熱を燃やす。
趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は所員たちと共に王向陽(ワン・シャンヤン)を追い詰めるが、鴉青(ヤーチン)に連れ去られてしまう。
鴉青は次に沙雅(シャーヤー)に海星鑑(かいせいかん)の研究所を襲わせる。
「やめてくれ、立って話そう」と謝罪する李の腕を引っ張り立たせる大慶。「人間に変わる猫をみて、無知な私は気が動転した。お前を怪物だと思い、つい殴ってしまった」と懺悔する李。猫から人間に変身した大慶は李のためにラーメンを作っていただけだったのです。「でもすぐに後悔したよ、どんな姿であれお前は私の家族だった。それから私は手を尽くして特調所の所員に」と李は続けます。
李は大慶と特調所で再開した時のことを回想します。
「やあ、こんにちは。李さんか」「そうです」と初対面のように挨拶する大慶と李。「一緒に世の平和を守ろう」と握手する大慶に、「分かりました…あ、おやつです。食べてみて」と小魚を差し出す李。「もちろん!」と小魚を貪る大慶の前で李は目を潤ませ、大慶は「どうした?」と驚きます。「何でもありません。目が少し乾いたのかも、平気です」と笑う李に、「うまいよ」と魚を食べ続ける大慶。
「心から謝りたかったが、小魚を用意するだけで何も言えなかった。でも分かってた。私の仕打ちは1万匹の小魚でも贖えるものではないと」と泣く李を前に、言葉を失う大吉。大慶は李の手を握ります。
「李さん」と大慶が呼びかけたため「全て水に?」と李は縋るように言いますが、大慶は「流せるか」と笑い、李はしゅんと落ち込みます。「もういい、小魚に免じて今後もチャンスをやる」と李の背中を大慶が叩くと、やっと李も大吉も笑顔になります。
「”何かを守る”ことと”人生の意味”、それを知るために仲間と共にいる。今の僕には重要なことなんだ」と言う大慶の言葉を聞き、大吉は納得して微笑みます。
街を歩いていた沈巍に、後ろから走り寄り「感謝してる」と言う大慶。「大吉への恩赦に」と言う大慶に、「君たちは亜獣族だし彼女は人を殺めてもいない」と淡々と答える沈巍。「思い出したんだ。当時僕はある目的のために特調所に来たことを。あなたも同じ目的じゃ?」と大慶が言うと、沈巍は珍しく朗らかに微笑みます。「さあ、応援に行くぞ」「応援?」「功徳筆の主が…姿をあらわす頃だ」と、沈巍は大慶を連れて歩を進めます。
王向陽は廃工場に来ていました。突然四方八方から打たれる光のエネルギーの攻撃をかわします。「功徳筆がなければただの人間だ」と楚恕之が言い、特調所のメンバーが王向陽を取り囲みます。 「はは!みんな同じだろ?心があるから悲しむ。こんなに早く見つかるとはあんたたちには驚きだ」と笑う王向陽に、「驚いたのは俺たちの方だ。自分の手は汚さず他人の手で敵討ちを行い、俺たちを翻弄した。違うか?功徳筆の主。それともこう呼ぶか?王向陽と」と趙雲瀾が言うと、王向陽は被っていたパーカーを取ります。
「王さん、どうして、なぜこんなことを?」と言う郭長城。沈巍は「君の妻の不幸を誰が予測できた?」と言います。「黙れ!それでも罪は変わらない。俺は真面目に生きてきたが分かったんだ。人間は自分勝手で救いようがないと。地星に加勢して何が悪い。俺の苦しみが分かるか?安心しろ。ゲームが終わる頃には理解できる」と王向陽は凶悪な顔で言いきります。趙雲瀾と沈巍は顔を見合わせる王向陽に近づいていきますが、王向陽は空間から突然現れた鴉青に連れ去られ、忽然と姿を消します。「次回会う時に決着がつくだろう」と言い残した王向陽。趙雲瀾と沈巍はまたも見つめ合い、険しい表情を湛えます。
王向陽はまた空に功徳筆で印を書きます。すると瞬時に結界が張られました。地界では天柱が鳴動しています。「残るは1箇所だけど、その前に最後の任務があるわ」と言う鴉青に、王向陽は「では始めよう」と真顔で返します。
摂政官を殺そうと飛び掛かってきた男を衛兵が即座に殺害。衛兵は「今月もう4人目です」と摂政官に報告します。「夜尊め、1万年もの時を経てなぜ力が再燃し始めた?」と摂政官は独り言を言うと、地君に拱手をします。「貴方様の就任以来、地界は何かに取り憑かれ、揺らいでおります。聖器が地界から離れ資源の枯渇を招いた事実はもはや民に隠せぬかと。悪を生む誘因となりますゆえ、恐れながらご提案が。逆徒を鎮圧すべく兵を出したく存じます」と言う摂政官に、地君はベルを鳴らします。「地君様のご賛同に感謝を」と再度拱手をする摂政官。
林静は舞台上でギターを弾く沙雅を後ろから抱きしめるようにしていちゃついています。突然沙雅は弾くのを止めたため、「どうした?」と林静が尋ねると、「なぜ裏切り者だと隠してたの?」と沙雅が尋ねます。「違うんだ!」と林静が叫んだ瞬間、それは夢だったと彼は気づきます。
「今月4回目よ、減給処分ね」と書類を渡す汪徴に、「そんな、安月給なのになくなっちゃうよ」とべそをかく林静。祝紅と汪徴は笑います。「”恋愛が順調な時は懐が寒くなる”。仕事中も沙雅のことばかりだものね」と言う祝紅に、「まだうまくいってない」と反論する林静ですが、祝紅と汪徴はさっさとその場を後にします。林は冷めた目で二人が消えて行った方を見ると、棚から瓶を取り出し、黄色い液体と混ぜ合わせ、孔鯨の部屋にあった注射器をその液体に漬けます。液体からは煙が出始めました。「裏切り者、か」と呟く林静。
海星艦から欧陽教授が外出します。それを鴉青と沙雅が見て、建物の陰から姿を現します。「前の実験の成果から進展があったはず。お偉方はお留守だし、今のあなたの力があれば事を成せる」「指示しないで。隠れて血清を捜すより、派手に壊すのが私のやり方よ。教えて、いつこの計画は終わるの?」「もうすぐよ、あなたの敵も逃さない」と、計画の詳細を知りたがる沙雅を宥めうやむやにする鴉青。
李茜が研究所で仕事をしていると、突然停電し、仮面をつけた沙雅が入室してきます。李茜は「誰なの?」と思わず立ち上がり後退りますが、沙雅は瞬時に李を攻撃し、彼女は椅子に倒れ込みます。沙雅はまた金庫を開けようとしますが、高性能の暗号装置がつけられており開けられません。台の上に置かれていた薬瓶を薙ぎ倒す沙雅。「大丈夫、殺さないわ。あなたたちの宝物を捜しにきただけ」と言い残し、彼女は去っていきます。李茜は痛む身体をどうにか動かし、どこかへ向けてメールを打ちます。パソコンの画面には「送信完了」と表示されていました。
海星艦の廊下を歩く趙雲瀾、沈巍、大慶。大慶は「なぜ行けない?」と不思議がります。「匿名メールの内容は真実のようだ。研究所でまた事件が起きたのかも」と言う沈巍に、「だから中に誰も通さないんだろうな」と趙雲瀾は頷きます。3人の前に高部長が現れ、「趙所長、副所長に顧問まで。勢揃いで何の用だ?」と怪訝に尋ねます。「高部長、最近問題ばかりですね」と挑むように言う趙雲瀾に、「問題?何のことだ」ととぼける高部長。郭英が高部長の後ろから来ると、彼に耳打ちします。郭英が「また逃げられたようです」と言うと、「”捜しましたが、逃げられたようです”」と大慶は復唱します。驚く高部長と郭英に、「猫の耳は地獄耳だ」と自慢げに言う大慶。「”また”だって?確かに”また”だ。高部長、特調所も海星艦の一部のはず。なぜ隠し事をするんです?俺たちがここに来なければ隠し続けていたと?」と趙雲瀾が問い詰めると、「今は特殊な状況で研究所は立ち入り禁止だ。君たち以外の者もな」と高部長が苦々しく言います。
高部長の背後で、李茜が大柄な男たちに両腕を抱えられどこかへ連れ去られていきます。 「李茜」と走り出そうとした沈巍は、部長に片手で制止されます。「沈教授、見間違いでは?」と言われ、沈巍は再度李茜が去っていった廊下を見ます。
「副部長、行くぞ」と高部長と郭英は去っていきますが、「間違いなく李茜だった。あのメールは彼女が送ってきたものだな」と沈巍は呟きます。「なぜ匿名で連絡を?ここは何かにおうな」と言う大慶に、「何度研究所が襲われても人は殺されていない、なら目的は1つ。狙いは人じゃなく物だ」と趙雲瀾と沈巍は顔を見合わせながら結論づけます。
龍城病院では、李茜がパジャマ姿でベッドに横たわっていました。「欧陽教授、すみません」と謝る彼女に、「やめないで残ってくれるだけでもありがたい」とため息をつきます。「大切な血清が台無しに。最初から研究すればいつ研究するか」「不幸中の幸いだろう。まだ希望はついえていない」「まさか以前の失敗作のことですか?だめです。時間はなくともあれを改良するだけではリスクの高い血清に」「人間のためだ。躊躇している時間はない」と、欧陽教授は暴走し始めます。
エレベーターで研究所に向かう趙雲瀾・沈巍・大慶の3人。入り口前のセンサーに手をかざし沈巍が闇の力を使ってこじ開けようとしますが、趙雲瀾に止められます。趙雲瀾が何かの機械をかざすと、簡単にドアが開きました。「林静もいい腕をしてる」と趙雲瀾が呟いたので、「彼にこの予定を?」と顔を検索する沈巍。「教えてない。タイムレコーダーの磁気を壊す装置で、昔没収した」と笑う趙雲瀾。
3人は室内を見て回ります。「何もない」と言う大慶に、「異常なほどな」と趙雲瀾が返します。「襲撃のあと高部長たちがここの資料を廃棄したか移したのだろう」と沈巍が言うと、「隠すのには理由がある」と趙雲瀾が言います。足を踏み出した瞬間、趙雲瀾は何か透明なガラス片のようなものを踏みます。沈巍がそれをピンセットで拾い、大慶が臭いを嗅ぎます。
「地星人だ!」と大慶が叫んだため、趙雲瀾と沈巍は顔を見合わせます。沈巍は視線を巡らせると、部屋の隅にあるところどころ消されたホワイトボードの内容を読み始めます。何か分かったのか、消えた場所に続きを書き足し始めました。
林静と沙雅は夜の街をデート中です。「こんな星空をいつまでも見ていたい」と笑顔を見せる沙雅に、「星空は天気と関係がある。きれいな星空の翌日は晴れだ」と林静は返します。何ともいえない表情の沙雅。「私の故郷に晴れはない、だから美しい星空もない」と言う彼女から林静は視線を逸らすと、「待ってて、君の故郷では食べられない物を買ってくる!」と、沙雅は止めるのも聞かずにどこかへ走り出します。
ホワイトボードの欠損部分を書き終えると、沈巍は「まさか」と呟きます。「どうした」「研究していたのは、人間を変異させる血清だ」「人間を変異?孔鯨みたいに?」「そうだ」。趙雲瀾は沈巍の言葉を聞き、信じられないという表情で最後の大慶を振り向きます。
「ここの臭豆腐は行列ができるんだ、老舗の絶品だぞ」と臭豆腐を差し出す林静ですが、沙雅は顔を顰めます。「幼い頃これを食べた日は骨抜きに」と林静が嬉しそうに言うので、沙雅は笑ってしまいます。林静がおいしそうに食べてみせ、彼に棒に刺さった臭豆腐を差し出されたため、思わず口に入れます。笑顔で頷く沙雅の横顔を見て、思わず彼女の耳飾りを触ってしまう林静。
沙雅は「耳飾りは駄目!」と彼の手を払い除けます。林静の身体に熱々の臭豆腐がぶつかり、地面に落ちました。林静は「やけどはない?」と真っ先に沙雅を心配し、「大丈夫よ、ごめんなさい」と沙雅は素直に謝ります。「俺は平気だよ。それに言うなればこれだって栄養になってる、服から吸収する肥料?」とふざけつつも、「耳飾りに思い出でも?」と林静は緊張した面持ちで尋ねます。沙雅は悲しそうに笑い、「大した話じゃない、機会があれば教えるわ」と言うのでした。
大慶は特調所で証拠品の山を漁っています。その後ろで桑賛は欠伸をします。「2人の邪魔を」と言う趙雲瀾に、「大丈夫です、所長」と姿勢を伸ばす桑賛。趙雲瀾は笑います。
大慶は「針付き注射器」と書かれた空の袋を趙雲瀾に差し出します。「おかしい、証拠品袋に入れたし記録もある。中身は飛んでいったか?」と首を捻る趙雲瀾に、「証拠品に羽が生えるか?誰かに盗まれたんだ」と大慶は顔を顰めます。「まさかこの特調所の中に」と趙雲瀾が言うと、「裏切り者だ!」と目を見開く桑賛。「俺は仲間を信じているが、疑わざるを得ないようだな。海星艦と星督局はなぜ俺たちの行動に詳しい?」と趙雲瀾は過去の様々な事件を反芻しながら呟きます。「所内にそんな度胸のあるやつが?」と言う大慶に、「調査をすべきです」と珍しく積極的に進言する桑賛。趙雲瀾は注射器と、証拠品を保管している棚の正面にある林静のデスクを見つめます。
今日は電気屋でデート中の沙雅と林静。沙雅は林静がずっと左手をポケットから出さないことに気になります。「どうしたの?」「ポケットの穴が気になっただけだ」「私、行くわ」「じゃあまた今度」「その日はこない、龍城を離れるの」。林はポケットから手を出そうとしますが、諦めます。「龍城は大都会だし、文化も栄えてるし、交通の便も…おいそうじゃないだろ、言いたいのは」と自分に突っ込む林静。「龍城にもう私の望む星空はない」と寂しげに言う沙雅に、「どこへ行く?」と林静は尋ねますが、彼女は無言です。「でもまた会えるはずだ。俺たちの縁を信じて」と林静が言うと、沙雅は笑って頷きます。「最後に…抱きしめてもいい?」と言う林静に沙雅は笑い、抱きしめ合います。しかしその瞬間、林静が沙雅の服の隙間に追跡装置をつけると、黒い炎がバチバチと音を立て、林は驚いて飛び退きます。
「追跡装置があれば確かに再会できるわ」と冷たい声で追跡装置をつまむ沙雅に、「教えてくれ、君の正体は…」と林静は声を絞り出しますが、沙雅は林の唇の前に人差し指を突きつけます。「明日最後のライブがある。見に来て」と言う沙雅に林静は頷き、沙雅は微笑むと店を去っていきます。ポケットから何かを取り出し、沙雅の去って行った方を見つめ続ける林静。
沙雅は店を出るとすぐに王向陽・鴉青と合流します。「私に何の用?海星艦の任務は終えたわ」と沙雅は言いますが、鴉青は「特調所の者に心を動かされては駄目よ」と沙雅の言葉を無視します。「分かってることでしょ?彼に近づいたのは情報のため。でも彼はとぼけて漏らさなかった。何ひとつね」と沙雅は念を押しますが、「力づくて聞けたはず」と鴉青は食い下がります。「彼は普通の人間なの。私は目的のためなら何でもするような女じゃない。私の望みはただ1つ、この手で敵を討つことだけよ」と言い放ち去ろうとする沙雅に鴉青が襲い掛かりますが、逆に沙雅から激しく反撃され、鴉青は怯みます。
王向陽は沙雅を手で制止します。「何?功徳筆の効力を奪うつもり?」と眉根を寄せる沙雅に、「ふふ、その逆だ。お前の力を更に強くしてやる。俺たちの敵のためにな」と王向陽は笑います。沙雅は訝しげに王向陽を見ると、「計画は仕上げの段階に?」と尋ねます。「そのとおり、そろそろ機が熟す頃だ。我ら3人で力を合わせ、共に奴を葬ろう!ふふ…」と笑い、王向陽は去っていきます。
楚恕之と郭長城は、郭長城の実家に向かって歩いていました。「考えもしなかった。普通の人間に俺たちが翻弄されるとは」と言う楚恕之に、「王さんはいい人だと思います。被害者も悪くない。誰もが周囲にもう少し気を使えたら別の結末になっていたかも」と郭長城は寂しそうに言います。楚恕之は郭長城を見遣ると、彼の肩を抱きます。「恨みで人を殺すのは間違ってる」と言う楚恕之に、郭長城ははい、と頷きます。
郭英と彼の妻は家の庭の隅で沙雅に突き飛ばされ、地面に転がります。「予定を教えれば殺さない」と言う沙雅。郭英は「知らないな」と睨みつけます。「海星艦の副部長でしょ?」「星督局と海星艦の上層部の行動は機密事項で、私も知ることはできない。それにもし知っていたとしても私が言うと思うか?」。沙雅と郭英が睨み合っていると、郭長城が「(楚さんも)家に来ますか?叔母さんもいます」と呑気に現場に通りかかります。叔母は「ここは危険よ!逃げて!」と郭長城に悲鳴をあげます。
驚いた郭長城は両手に抱えていた荷物を落とし、沙雅に向かって「2人を離せ!」と電流棒を構えます。沙雅は楚恕之と郭長城の前に立ちはだかります。沙雅に電流棒を向ける郭長城ですが、電流攻撃が全く効かず驚愕します。「震えてるわよ」と郭長城を笑う沙雅。楚恕之は糸で彼女の両手を拘束しますが、沙雅は力でむりやり振りほどくと、瞬時に飛び去ってしまいました。
「叔母さん!」「長城!」「立って、大丈夫?」と、郭長城は真っ先に倒れていた叔父・叔母のもとに駆け寄ります。楚恕之は沙雅が飛び去った後に地面に落ちていた三角形のピアスを拾います。間違いなく沙雅がつけていたものです。
「無茶を言うなよ、電気人間なんて見つからない」と泣き言を言う叢波に、「そうじゃない、ある者たちを調べろ、お前も知る顔ぶれだ」と言う趙雲瀾。「悪いけど俺にはできない、身内を疑うのはポリシーに反する。友達は信じるものだろ?調べても満足する結果は得られないよ」と駄々をこねる叢波に、「ポリシー?そんなものより調査を優先させろ。一大事だ」と厳しい声を出す趙雲瀾。「あんたがそこまで言うなら今回は特例だ」と叢波は渋々請け負いますが、途中から趙雲瀾の返答がなくなりら「聞いてるのか?おい。毎回何なんだよ」と腹を立てます。
趙雲瀾は叢波に電話しながら歩いていましたが、ふと見たカフェの中で沈巍と趙心慈がお茶を飲んでいるのを見かけたため、電話を中断し聞き耳を立てることにしたのです。
「時間がないので率直に。海星艦の研究内容については?」と尋ねる沈巍に、「それに答えて何になるというのだ?」と趙心慈は素気なく返します。沈巍は趙心慈を見つめます。「長く計画してきたことだ。始動したら突き進むのみ。君たちにそれを止めるのは無理だ」と言う趙心慈に、「変異を起こせば人間自身の未来にも影響が」と沈巍は苦言を呈します。「己を守るためさ。時勢を読む者こそが生き残る。死人に未来があると?」と頑なな趙心慈。「私の知る限り、多くの地星人も平和を望んでいます。地界が資源不足だからと…」と沈巍は言葉を連ねますが、「それで?何の保証が?人間も万全の準備をする必要がある。この世界や私と君が守るべき男のためにね」と趙心慈は決して意見を覆そうとはしません。沈巍は趙心慈に「私と君が守るべき男のため」と言われ動揺します。
「この件は地界には秘密にします。ですが私にも約束を。海星艦は彼を危険に巻き込まぬよう」「安心しろ、私はあいつの…」と趙心慈は沈巍に誓おうとした途端、突然心臓を押さえて身体を折り曲げます。「どうしました、心臓に問題が?」と尋ねる沈巍に、「手術の直後に起こる発作だ。心配ない」と汗を額に浮かばせながら返す趙心慈。
趙雲瀾は愛車に寄りかかりながら2人がなぜ会っていたかについて考えていました。会合を終えた沈巍は趙雲瀾を見つけると気まずげな表情をし、趙雲瀾は沈巍を何とも言えない表情で見つめます。
「知り合いだとしても、ここまで親密とはな。俺に聞かれちゃ困る話なのか?俺はあんたを相棒だと」と趙雲瀾は傷ついたように沈巍に話しかけます。「何を聞いた?」と問う沈巍に、「親父は職業病で警戒心が強いから、何か聞いてたらここにいない」と答える趙雲瀾。「君と知り合った時、久しぶりに連絡を。特調所の資料を貰うためで、君に余計な心配をかけたくなかった」と沈巍は言いますが、趙雲瀾は信じていません。
「あんたをまだ信じても?実はこれまで何度もあんたを怪しんできたが、最後には信頼した…なぜだろうな」と乾いた笑いをこぼす趙雲瀾に、沈巍は沈黙します。
すると趙雲瀾に楚恕之から電話が入ります。「もしもし」「長城の叔父が襲撃に。今から特調所に戻る」「分かった」。電話を切ると、趙雲瀾は沈巍を見ます。「一緒に戻ろう、事件だ」と趙雲瀾は沈巍を車に乗るよう誘います。
「ならず者の正体は女か。どこぞの淑女が悪に手をそめた?」とソファーに寝そべりながら言う趙雲瀾。「海星艦と星督局の上層部の行動を知るのが目的だと」と言う郭長城に、「次の目標はその中にいるようだ」と沈巍は淡々と告げます。「王向陽と関係のある奴がいないか調べろ」と趙雲瀾が言うと、楚恕之は「電気女が落とした耳飾りだ」とピアスを趙雲瀾に投げつけます。
「ありふれた耳飾りが何の手がかりに?」と祝紅はピアスを見つめて言いますが、ピアスを見た林静は固まります。「その女の物なら闇の力の痕跡があるはず」と趙雲瀾はピアスを入れた袋をぶらぶらと揺らします。
林静は「どうして君なんだ」と内心つぶやき、顔を伏せます。「林静、お前の出番だぞ」と趙雲瀾はピアスを見せますが、彼は無反応。「ちょっと、聞いてるの?仕事よ」と祝紅がどつくと、「闇の力か?終業後に調べておくよ」と林静は突然立ち去ります。
「様子が変だな」と顔を顰める大慶に、「失恋でもしたんですかね」と郭長城が冗談を言い、祝紅は笑います。しかし、趙雲瀾は林静の言動を訝しんでいました。「林静の相手の写真は?」と言うと、祝紅が「前に撮った写真よ」と沙雅のライブ中の写真を見せます。写真を拡大すると、写真の沙雅は現場に落ちていたピアスと全く同じものをつけています。趙雲瀾は沈巍にピアスと祝紅のスマホを渡します。しばらくその2つを見比べると、沈巍は趙雲瀾に向かって頷きます。目つきを鋭くする趙雲瀾。
沙雅の出演するクラブに来た趙雲瀾と沈巍。趙雲瀾が真っ直ぐに沙雅のいる舞台へと突き進むと、途中で店員にぶつかり「すみません」と謝られます。そこで沙雅は趙雲瀾が来ていることに気づきます。沙雅は自分に向かって歩いてくる趙雲瀾と睨み合いながら、ギターのコードから大量の電気を流し店を停電させます。「何なの?」と大騒ぎになる店内ですが、すぐに電気がつきます。しかし舞台上の沙雅は忽然と消えていました。「演奏者は?」「どこだ?いないぞ?」「なぜ消えたんだ?」「何が起きたの?」と騒ぎになる店内。がらんとした舞台の上で、趙雲瀾と沈巍は呆然とします。
沙雅が街中を走っていると、林静が彼女の前に現れます。「知ってたのね、どいて」「ごめん、俺も特調所の一員だ」「あなたのためよ…私の力について何も知らない」「感電防止の手袋を作った」と、林静は沙雅に両手にはめた手袋を見せます。話しながら泣きそうな2人。沙雅は林静の腹に攻撃をして去ろうとしますが、林静は沙雅の腰に縋りつきます。
「沙雅!罪を重ねるな!終わりに、沙雅…」と懸命に説得しようとする林静ですが、沙雅に肩から電流を流され「うわあああ!!」と痛みに絶叫します。「君の望む星空を永遠に見られないぞ…!」と泣きながら林静は言い、沙雅も攻撃しながら号泣します。沙雅は途中で攻撃を止めてしまいます。
「ごめんね」と謝る沙雅に、「もっと君を抱きしめたかった」と言いながら気絶する林静。沙雅は林静を抱きしめます。そこに楚恕之と大慶が駆けつけます。沙雅はため息をつくと、「もういい、疲れたわ」と呟き、楚恕之と大慶は2人で顔を見合わせます。
沙雅と林静のやり取りの一部始終を見ていた王向陽と鴉青。「まあこれも想定内ね」と鴉青が言うと、「時間稼ぎさえしてくれたら十分だ」と王向陽は冷たく言い放ちます。
特調所の取調室にて、趙雲瀾と沈巍が沙雅と面談しています。「そう、海星艦を襲ったのは私よ。鴉青は海星艦の血清とやらが夜尊の計画に役立つと。私は使いっぱしりよ。燭九の尻拭いのためとか。他に何も聞いてないし、興味もないわ」と言う沙雅に、「ではなぜ何度も彼らに強力を?」と尋ねる沈巍。林静は記録を取っています。沙雅は悪そうに笑うと「楽しいから」と言い、沈巍は笑います。「価値のある情報は出てこないな」と趙雲瀾は沈巍の肩を叩き、取調室を出ようと誘います。
2人が部屋を出ようとした瞬間、沙雅が「王向陽」と言ったため、2人は動きを止めます。「彼にも興味はない?」と言う沙雅に、趙雲瀾は「何を知ってる?」と食い付きます。「深い恨みを抱えたおじさんよ。でも敵を討つにも自分の手は汚さない。目標を定めたら同じ相手を恨む地星人を捜し扇動する。気に食わない奴よ」「そうか、王向陽の気は済んだのか?まだ誰かに恨みが?」。沙雅は目線を上げます。
大嫌いな父親と沈巍が話しているのを見て、「あんたをまだ信じても?」と縋るように彼を見た後、自重するように笑い、「実は何度もあんたを怪しんできたが、最後には信頼した。なぜだろうな…」と呟く趙雲瀾の瞳が傷ついて見えて、何とも言えない苦しい気持ちになりました。
沈巍はただ趙雲瀾を危険な目に遭わせたくないだけなんだよ…でも隠すのが下手くそで不審になっちゃうだけなんだ…ごめんよ趙雲瀾…🤦♀️沈巍もっと趙雲瀾を頼って🤦♀️
あと、摂政官が(人間界に?)出兵しようとしてるのが気になります。趙心慈は人間を変異させる血清を作らせてるし、人間界も地星界もどうなってしまうんだろう…?今後の展開の想像がつかなくて怖いです…。
第28話 恋人の復讐
<あらすじ>
沙雅(シャーヤー)が捕らえられる。
沙雅は協力する代わりに、華玉柱(ホア・ユージュー)を捜してほしいと言いだす。
利用されていたと知っても沙雅を信じたい林静(リン・ジン)。
「王向陽はまだ誰かに恨みが?」と尋ねる趙雲瀾に、沙雅は「さあね」とはぐらかします。「罪を償うと思って一緒に王向陽を捜してくれ」と頼む林静。「沙雅さん、夜尊が抱く恐ろしい陰謀は大きな争いを招くだろう。その時苦しむのは無辜の人々だ。奴の計画を阻止できれば未来は変えられる、沙雅さん、黒枹使として約束する。改心すれば情けをかけてやろう」と言う沈巍。しばらく黙った沙雅は、「協力してもいいけど条件がある。ある人を捜して」と頼みます。
街を歩く楚恕之と郭長城。「龍城には119人もの華玉柱がいます。1人ずつあたると?」と悲壮な声をあげる郭長城に、「だが名前以外に手がかりはない」と淡白に返す楚恕之。楚恕之と話しながら鞄を開けようとした郭長城は手に持っていた華玉柱のリストを落としてしまうのですが、たまたま近くにいた花屋の女が書類を拾うのを助けてくれます。「どうも」と頭を下げる郭長城に、「いいのよ」と微笑み書類を集める女。しかし、書類にある華玉柱という名前を見て真顔になります。「後は僕が」「ええ」「ありがとう」。楚恕之は郭長城の頭をこづき、去っていきますが、女は2人を恐ろしげに見送ると店内に静かに戻っていきます。
林静は取調室にいる沙雅に飲み物を持ってきます。ギターを爪弾く沙雅に、「アランフェス協奏曲?」と嬉しそうに尋ねる林静。「勉強したんだ。君に会ってから」と言う彼に、沙雅は「なぜ怒らないの?私はあなたをだましてたのに」とぽつりと尋ねます。「でも俺を襲わず、それどころか俺に喜びをくれた。近づいたのは俺に利用価値があるからだろ。嬉しいよ」と笑み崩れる林静に、「ばかね、罠にかかるなんて」と沙雅は困ったように笑います。「華玉柱って人は一体誰なんだ」と林静が尋ねると、沙雅は黙りこんでしまいます。
沙雅は地界での日々を回想します。
鉢に植えられ萎れた花に電力を与えるも、花が元気にならないと落ち込む沙雅に、華玉柱は「それじゃ駄目よ、私を見てて」と手から力を出し、花を生き生きと復活させます。無邪気に喜ぶ沙雅。
「地界には花が少ないけど、彼女がいるだけで周囲は花のようだった」と沙雅は林静に言います。
「星が1つも見えない。いつか本物の星を見てみたいわ」「私ももっと花や木を見たい、でも一生無理ね」「どうして?こっそり地上へ行くのよ。きっと何か方法があるはず」「見つかったら地君殿に連行されるし、隠れて暮らすのは大変よ」と、話す沙雅と華玉柱。
人間界に来た2人。沙雅は「早く」と華玉柱の手を引き川にかかる橋の上に走ります。「待って」と言う華玉柱に「置いていくわよ」とはしゃぐ沙雅。「本当に地上に来られるとはね」「迷ってたけど来て良かったでしょ?」「うん、本当に美しいところね。ここには本物の光がある」「みて、あんなに星が」「きれいだわ、だけどやっぱり戻らなきゃね」「戻るのはやめて地上で暮らそうか?」「沙雅、ここにいるとばれたら黒枹使の手下が連行しに来るわよ」と、人間界に未練がある沙雅を華玉柱は諫めます。
その後、沙雅は「ちゃんと説明して!まさか古班の敵討ちより生花店を選ぶつもり?」と華玉柱に詰め寄ります。「沙雅、まだ分からない?花に生態があるように、地上にも掟が。私達が先に掟を犯した」「掟なんてどうでもいい!1つだけ教えて、彼のことを忘れたの?」「敵を討ってどうなるの?彼だって望んでないはずよ」「はっ!薄情な人ね。生き延びるために友情を捨てて地上での日陰の人生を選ぶなんて。もういい、今日を限りにあなたとは縁を切るわ」。沙雅は華玉柱を罵倒すると彼女の前から去ります。
「あの日以来会ってない。でもあの裏切りは一生忘れないわ」と言う沙雅に、「この世には白か黒しかないのか?服従するか、裏切るか。俺も誰かを裏切ってる?」と呟く林静。彼の不審な様子を心配した沙雅は、「あの日電気店で何かくれようとしてた?」と話題を変えます。林静ははっと顔を上げると、ポケットから青い宝石のついた銀の指輪を取り出します。「星空が好きだと話してただろ?」と言う林静に微笑む沙雅。「安物ね、だけど嬉しいわ。…事件が解決したら私は地界へ送られる」と指輪を見つめながら沙雅は呟きます。「俺が黒に頼むよ!」と林静は彼女の手を握り、沙雅は驚きます。しかし、「私は大きな罪を犯した。でもいいの。素敵な思い出ができた」と沙雅は指輪を見つめながら微笑むのでした。
「見つかったか」と趙雲瀾は楚恕之と郭長城に尋ねますが、「何人かに会ったが収穫なしだ」「午前中ずっと捜したのですが」と冴えない回答が返ってきたため、渋い顔をします。
その時、華玉柱は花に水やりをしていました。店内に置かれたラジオから「龍城ニュースです。興達が不動産開発に着手し、城東区の林が今日から伐採されます」とニュースが流れた途端、華玉柱は慌てて店を飛び出します。歩いていたら男にぶつかり「何なんだよ!」と言われるも、前だけを見て疾走。趙雲瀾が何事だと華玉柱の方を振り返ると、彼女の耳には沙雅と同じピアスが揺れていました。「彼女だ」と趙雲瀾は華玉柱の後を追いかけます。
林静は沙雅の顔色を伺いながらスマホを操作します。「また環境破壊のニュースだ。興達の不動産開発は正式に着手され、城東区の林が伐採されるって」と林静が言った途端、幸せそうに指輪をさすっていた沙雅はそれを手から取り落とします。「どこの林ですって?」「城東区だよ。どうかした?」「だめよ、守らなきゃ」「どうしたんだ」「林へ行く、玉柱も来るはずよ」と、沙雅は取調室から駆け出します。
趙雲瀾たちは華玉柱を追いかけますが、彼女を見失ってしまいます。「どこだ」とあたりを見回していた趙雲瀾に林静から電話が入ります。
「もしもし」「沙雅と城東区の林へ行く」「犯人を外へ?」「違うんだ、華玉柱も…」「黙れ!給料カットで餓え死にしたいか!?待てよ、華玉柱がどこに現れる?」「城東区の林だ」「今から向かう」と林静と会話を切り上げると、趙雲瀾は楚恕之に「城東区の林だ、急げ」と言い、趙雲瀾・楚恕之・郭長城の3人は走り出します。
一足先に城東区の林についた沙雅と林静。沙雅はあたりを見回します。
また、地界にいた日々を回想する沙雅。
「何を話してたの?」と沙雅が古班と華玉柱に近づくと、華玉柱は微笑み、古班は「君に」と沙雅にピアスを渡すと走り去ってしまいます。「きれいね、なかなかいいセンスしてる」とピアスを見た沙雅は、片方を華玉柱に渡そうとしますが戸惑ったような反応をされ、頬を膨らませます。「彼からの贈り物はいつも半分こでしょ。両方ほしかった?」と沙雅が言うと、華玉柱は「その耳飾りはあなたによく似合う」と困ったように返します。
「お世辞?つけて」と華玉柱に片方のピアスを手渡す沙雅。「似合う?私達三人は幼馴染よ。あなたも彼が好きなのよね。本当はこれを独占したいけど、彼がはっきりと答えをだすまではお互い抜け駆けはなしよ」と笑う沙雅に、唇を噛む華玉柱。沙雅は「つけてあげる」ともう片方のピアスを華玉柱につけます。
その後、3人は遺跡を歩いていました。3人は天柱の前で止まります。
「迷ったみたい」と言う華玉柱に、「もう無理よ、これ以上歩けない」と弱音を吐く沙雅。すると天柱から夜尊が「迷ってなどいない、新しい世界への扉が開かれるのだ」と声をかけます。
「誰なの?」「私が誰かはどうでもいい。人が訪れるのは久々だ。哀れな者を助ける機会さえなかった。あそこへ行きたいなら手を貸すぞ」と沙雅に言う夜尊。「あそことは?」「降り注ぐ太陽の光と新鮮な空気、地界にはないものがある、地星人が憧れる場所だ。分かるだろう」。
「だけど私達は向こうでは長く暮らせない」と華玉柱は言いますが、沙雅は「本当に方法が?」と目を輝かせます。「沙雅、やめておきましょう」さ「地上の自然がみたいんでしょ?折角のチャンスよ」と言い争う華玉柱と沙雅。夜尊は「私は嘘は言わぬ。相談して決めろ。二度とないチャンスだぞ」と2人を急かします。
古班は「沙雅、危険だ。やめておこう」と警戒しますが、「戻ってくれば問題はない、地上に送り届け、後で迎えに行ってやる」と夜尊に言われ、沙雅は微笑みます。沙雅の笑顔に負けた古班は、「分かったよ、行ってもいいが…すぐに戻ると約束を」と渋々承諾します。「さすがね!きっといい決断だったと思うはずよ」と笑顔の沙雅に、「じゃあ私も行くけどすぐに戻る」と華玉柱も同意します。3人の背後では夜尊が笑っていました。
地上に出た3人。古班は華玉柱の隣に座り、「君は穏やかで優しいし、沙雅より気立てもいい」と口説き、華玉柱は満更でもなさそうに顔を俯かせます。それを沙雅は草むらの陰から聞いていました。
ふと沙雅に気づいた華玉柱は彼女に声をかけます。「沙雅!遅かったわね。何してたの」と朗らかに言う華玉柱に、「私はここに残る、2人で戻って」と沙雅は顔を強ばらせて言い放ちます。「冗談でしょ、一緒に帰る約束よ」と華玉柱は沙雅の手を握りますが、沙雅は華玉柱の手をもう片方の手で解きます。「私が望んでいた世界なの、もう戻れない」と言う沙雅に、「玉柱の言うとおりだ、いつか必ず正体がバレる」と反対する古班。「玉柱は優等生よね、2人で戻ればいい。私は臆病じゃない」と駄々をこねる沙雅。古班は「沙雅、いい加減にしろ」と怒りますが、沙雅は「私のことはほっといて」とどこかへ走り去ってしまいます。「沙雅、どこへ行く!」と古班は慌てて追いかけようとしますが、沙雅は遠くまで走り、涙目になり木の根元に座り込んでいました。
その時、林に銃声が鳴り響きます。「待て!」と趙心慈が黒服の男を追っています。沙雅は突然不安になり、古班と華玉柱のもとへ駆け戻ります。するとそこには古班が額を撃ち抜かれて倒れており、華玉柱は彼の遺体に縋って泣いていました。「一体何が」と声を震わせる沙雅に、「私が悪いの、私のせいで古班が」と華玉柱は泣きます。「説明して、誰が彼を殺したの?銃の音がした、銃を持ってた男ね!」と沙雅は趙心慈を追って走り出そうとしますが、「沙雅!行ってはだめ」と華玉柱は沙雅の背中に縋りつきます。「離して!復讐してやる」と、沙雅は華玉柱の手を振り払って走り出します。
「沙雅、どうした?」と林静に声をかけられ、沙雅はハッと我に返るとため息をつきます。すると沙雅は何かに気づき、「だれ?」と背後を振り向きます。木の陰から陰鬱な表情の華玉柱が現れます。
「沙雅」と呼びかける華玉柱を、「やっと会えた、捜してたのよ」と沙雅は憎しみのこもった目で見つめます。「私は…」と華玉柱は何かを話そうとしますが、沙雅は「覚悟しなさい!」といきなり電流を地面に流し、彼女に攻撃します。「待て、話し合うんだ」と林静は仲裁しようとしますが、沙雅の攻撃を受けた華玉柱はゆっくりと立ち上がります。
「彼の敵を討とうと誘ったら、あなたは生花店の商売を選んだ。彼の愛を無駄にしたのよ」と沙雅は華玉柱を睨みつけながら言います。「沙雅、恨みは捨てるべきよ。彼もそう願ってるに違いない」と答える華玉柱。「古班は殺されたのよ。なのに平然と生きていける!?」と血を吐くように叫ぶ沙雅を林静は止めようとしますが、沙雅の背後から妙な音が聞こえてきます。沙雅と華玉柱は突如その音に向かって走り出します。その後を追う林静。
「もしもし、到着を?今行く」と趙雲瀾に電話する林静。
沙雅と華玉柱が到着した先では工事が始まっており、土が掘り返されていました。2人は顔を見合わせます。「急いでくれ、早くしろ」と男が作業員たちに指示します。
沙雅は走り出します。「沙雅」と華玉柱は声をかけますが、「やめて!」と沙雅は男たちに叫びます。「何をする?」と困惑する男に、沙雅は「どいて」、華玉柱は「中へ入れて、大事なものが」と無理やり工事現場に入ろうとします。「工事中だ、外へ出ろ」と男は言いますが、「工事は中止して!本当に大事なものなの」と華玉柱は食い下がります。しかし男は「工事を中止したら食っていけない、帰れ」と取り付く島もありません。「お願いもうやめて」と華玉柱は電動チェーンソーを持つ男の腕に縋りつきます。「離せ」「お願いよ」「邪魔だ」と、華玉柱が男に突き飛ばされ、沙雅は怒ってチェーンソーに電気を放ちます。その瞬間、チェーンソーはぶすぶすと黒い煙をあげて故障。かちんときた男は「やれ」と作業員たちに工具を持たせて沙雅に襲い掛かりますか、沙雅は全員に電流を流し、倒してしまいます。「沙雅、駄目よ。殺さないで早く確かめなきゃ」と華玉柱は沙雅に呼びかけます。
その頃、林静は車で駆けつけた趙雲瀾たちと合流していました。「どこだ?」と問う趙雲瀾に、林静が「こっちだ」と誘導。趙雲瀾は「急げ」と駆け出します。
沙雅と華玉柱はショベルカーで掘り起こされた地面ー古班が眠っていたはずの場所ーを見て呆然とします。沙雅は激怒し、近くのショベルカーを電気で破壊。華玉柱は言葉をなくしてしまいます。「人間は…同情する価値もない!」と憎しみの炎を燃やす沙雅。
林静が指差した先では地面が燃えていました。「楚恕之と郭ちゃんで消火を」と趙雲瀾は指示すると、すぐに2人は駆け出します。趙雲瀾は「林静、2人を捜すぞ」と声をかけ、林も駆け出します。趙雲瀾は注意深く周りを見回します。
すると、どこからか「趙雲瀾」と沈巍が高速移動してきます。ホッとため息をつく趙雲瀾。「功徳筆の効力で2人の行方が追えない」と険しい表情で言う沈巍。どこかで鴉が鳴いています。
王向陽と鴉青が沙雅と華玉柱のもとに現れます。「よくやったわ」と言う鴉青、「お前の時間稼ぎのおかげで奴を発見できた。準備は万全だ、行動に移す」と王向陽は言います。「奴に復讐するため、今まで耐え忍んできた」と言う沙雅に、「お前の苦しみは分かる。愛する者を失った悲しみは消えはしない、永遠にな」と王向陽は同情します。「沙雅、行くわよ」と鴉青が促すと、華玉柱は「沙雅、引き返して。今の姿を見たら古班も悲しむ」と説得しようとします。しかし王向陽は沙雅の腕を強引に掴み、3人は一緒に消えます。華玉柱は「沙雅」と呟くと、どこかへ逃げ出します。
趙雲瀾と沈巍は焼け焦げたショベルカーの前に着き、楚恕之と郭長城も遅れて到着します。楚恕之は「誰もいない」と報告。そこに林も到着します。「どうやら沙雅に騙されたようだな、人探しも改心するってのも嘘で、時間稼ぎだった」と言う趙雲瀾に、林静は「すまない」と項垂れます。「仕方ない、お前だって被害者だ。何度も騙されるとはこの馬鹿め」と趙雲瀾が言うと、「予感がする。そろそろ黒幕が姿を見せるぞ」と沈巍が呟きます。
その晩、趙心慈と高部長の乗る車の前に沙雅たち3人が現れ、沙雅が電気を放ちます。趙心慈と高部長は攻撃を受け失神。
沙雅は「面白い筆ね、私の力も強くなってる」と楽しげに言います。「俺が生きている限り筆の進化は止まらない」と言った王向陽は、車の中の趙心慈に語りかけます。
「俺の顔を忘れたか?俺は覚えているぞ」と憎々しげに言う王向陽。趙心慈は虫の息です。「永遠に忘れはしない」「復讐を果たして何が変わる?憎しみに溺れ自滅するだけだ。救いは得られない」と王向陽の言葉に半笑いで返す趙心慈。
王向陽はその言葉を聞き「趙心慈じゃない!?」と動揺し、趙心慈は「お前はどうだ、昔と同じか?」と不敵に笑います。王向陽は目をさまよわせます。沙雅は再度趙心慈を攻撃し黙らせます。「戯言は不要。この後は?」と言う沙雅に、王向陽は「3人を連れていく。そして特調所の奴らをかわいがってやろう」と返します。「真の任務を忘れないで」と口を挟む鴉青に、「はっ!お前も忘れるなよ、約束は果たしてもらう。人質を隠すぞ。特調所の奴らに謎を解かせ、人質を捜させる。お題をクリアできるか楽しみだな」と王向陽はにやにやと笑います。車を動かし、王向陽は光り輝く功徳筆を自分の左手に刺し苦しみ始めます。
特調所では、趙雲瀾が「金属元素と非金属元素か。最初に調べた時、闇の力の痕跡はあったのか?」とテーブルの上で胡座をかきながら書類を見ていました。するとそこに郭英が「趙所長」と走り込んできます。「叔父さん、何か?」と不思議そうな郭長城に、郭英は「緊急事態だ、今夜9時半頃、海星艦の車が襲われ3人が行方不明に」と告げます。「警戒しろと言ったのに!」と声を荒げる趙雲瀾に、「敵の動きがここまで早いとは」と郭英は目線をさまよわせます。舌打ちする趙雲瀾。
「意味不明のメッセージも」と郭英は封筒から手紙を取り出し、趙雲瀾に差し出します。メッセージカードには、「”三人墓” 功徳筆の主より」と書かれています。
「血で書いてる」と指摘する楚恕之。「大胆にも海星艦の人間を攫い、脅迫のメッセージまで。そろそろ切り札を使うか」と沈巍に言う趙雲瀾。沈巍も趙雲瀾を真剣に見つめます。
「失踪した3人とは?」と林静が尋ねると、「まさか高部長とか?」と趙雲瀾が言います。「そうだ、趙局長も」と郭英に言われた途端、趙雲瀾は呆然とし、頭を押さえ苦しみ始めます。
彼の脳裏に激突した2台の車と車のナンバー、そして趙心慈のぐったりした姿が浮かびます。沈巍は苦しむ趙雲瀾を不安げに見つめます。
「あの時の光景は今日のことだったのか」と言いながら趙雲瀾は机から降りようとしますがよろめいてしまい、郭英が「所長」と沈巍と共に彼の身体を支えます。沈巍は「人質を最優先に。冷静になれ」と趙雲瀾を抱きしめながら彼の耳元で囁き、背を叩きます。少し冷静さを取り戻した趙雲瀾は「手がかりは?」と郭英に尋ねると、「まだ何も要求もないし3人を殺す気かも」と言われます。「それはない、王向陽はゲームを楽しんでいる。自分と同じ苦しみを私達に与える気だ」と沈巍は趙雲瀾に言います。
郭英は「混乱を引き起こさないよう事件については内密に、とにかく捜査を急いでくれ。何かあればいつでも連絡を、では失礼」とそそくさと帰っていきます。趙雲瀾は再度メッセージを手に取ります。それを不安げ見つめる沈巍。
趙雲瀾の手元のメッセージを覗き込む祝紅は、「何かの暗号?」と首を傾げます。2人の後ろからそれを林静が取り上げ、功徳筆の主より、の部分を指でなぞりながら「”24時間で謎を解け、午前0時に…”0時開始で謎を解け”と」と解読し始めます。趙雲瀾は驚愕して林静を見ます。
「今何時だ?」と趙雲瀾が勢い込んで尋ねると、林静が「午前0時だ」と淡々と返します。「”24時間で謎を解け””0時開始だ”」と繰り返しながら歩き回る趙雲瀾は、突然激怒し椅子を蹴り飛ばします。「果物売りがスパイ気取りか!」。
慌てて趙雲瀾のもとに沈巍が駆け寄り、彼の腕を掴みます。「趙雲瀾、落ち着け。君とは違って冷静な父君がなぜ君を所長に推したと思う?信じてるからだ。趙雲瀾、君は特調所の所長で鎮魂令主だ。君が冷静さを失えば、龍城の街は混乱に陥る」と自分の正面に立ち説得するように言う沈巍を見て、趙雲瀾はなんとか冷静さを取り戻します。メッセージを凝視しながら、手近な階段に座り込みます。それを見つめる沈巍。
林静と叢波はパソコンで暗号を解析中です。「疲れたな」とぼやく林静に、「犯人たちはどうやって移動を?防犯カメラにも映ってない。羽でも生えて飛んでいったみたいだ」と叢波はお手上げというポーズを取ります。「言い忘れてた。1人は鴉族で羽がある」と目を瞬かせながら言う林静に、叢波は「何だって?早く言えよ!早く暗号の解読を」と慌ててキーボードを叩き始めます。頭をかく林静。「無理だよ、90通りも試したんだ。モールス信号やヴィジュネル暗号も試して、パソコンもフリーズした。このままじゃハゲ上がりそうだな」とぼやきます。
趙雲瀾は1人所内を歩き回りながら考え続けています。電話が鳴り、「もしもし…必ず手がかりはある、探せ」と端的に返すとため息をつきます。顔をゆがめ、「どうすればいい、幻覚に手がかりは?」と言い、ハッとします。趙雲瀾はあたりを見回しながら聖器に近づきます。長命時計を持った途端、それは瞬時に光りだし、趙雲瀾は目眩を起こしてたたらを踏みます。そして昏倒。倒れている趙雲瀾を発見した汪徴は悲鳴をあげます。
趙雲瀾の私室。眼鏡を外した沈巍は彼をベッドに寝かせ、自分も彼のベッドに座って彼の寝顔を見つめています。
「賢いはずの君が今回はどうして…」と内心苦々しく呟く沈巍。「愚かだぞ、共鳴が小さく済んでよかった。さもなくば…」と独り言を言いながら、布団から出ていた彼の手を布団の中に押し込みます。
しばらく宙を睨むように見つめると、摂政官と話をするための三角錐のお香を焚き始めます。「摂政官に聞く、地界の状況について連絡がないが。夜尊は聖器を使った陰謀を企てているに違いない。世界の平和は我らにかかっている。早く返事を」と言うと、沈巍は片手で煙を消します。その瞬間、趙雲瀾が目を覚まします。「目覚めたか」「何時だ」「手紙を受け取ってから6時間だ」と沈巍が答えると、趙雲瀾は目を細めます。
送られてきたメッセージに薬品をかける林静。「暗号は番地のようだが…地区が分からないとお手上げだ」と言う林静のスマホに沙雅から連絡があり、彼は慌てます。「なんだよ、彼女からか?」と叢波は揶揄いますが、送られてきた内容を読んだ林静からスマホを手渡され、内容を読んで仰天します。
「以前私を林まで連れて行ってくれたお礼よ、暗号は目くらましで秘密は手紙に隠されてる」
と沙雅はメールを送ってくれていました。
「私なら携帯はしまっておくわ。裏切りを疑われぬためにね」とどこかの屋上で言う鴉青に、彼女の目の前でスマホを地面に投げ捨てる沙雅。「これで満足?私にはあんたと違って守りたいものなどない。復讐を果たしたいだけよ」と沙雅が言うと、鴉青は「強がりね、林静のことを…」と追求します。しかしそこに割り入るように王向陽が現れ、「もういいだろ」と言いながら激しく咳き込みます。「平気なの?」と言う鴉青に、「さっきの言葉を忘れるなよ。妙な真似をして俺の邪魔をするな」と王向陽は咳き込みながら沙雅を恫喝します。「俺には時間がない。今度こそ奴らを懲らしめる」と言う王向陽。
王向陽は亡き妻との思い出を回想します。
2人で買い物をした帰り道、白素霞は「向陽、これを見て、電話ボックスがある」とはしゃぎます。
「何をする?」と訝しむ王向陽に、勢いよく古びた電話ボックスのドアをあける白素霞。「埃が」と咳き込む王向陽。「壊れたら困る」「大丈夫よ」「今どき誰が公衆電話を使う?ただの置物だよ」「置物?折角だから記念写真を取りましょ」と強引に王向陽を誘う白素霞。
「何を撮ってる」「早くして」「まったく」「もう準備できたわ、早く!写真を撮るだけよ、一緒に。笑って!いい感じ」と2人で電話ボックスを背景に自撮りをします。
王向陽は「電話してみたいか?コインだ。折角だし本当に電話してる姿を撮ろう」と白素霞に提案します。「お金を入れるのよね?」「ああ」「電話してみる!」「待って、誰に電話を?」「聞く必要ある?」と王向陽に向かって笑う白素霞。
「えへん、えへん、もしもし王向陽さんですか?」「ふふ、そうだ。あなたは…その…白素霞さん?」「ええ、そうよ」「今日君に誓うよ。君からの電話は絶対すぐに取る。電話を無視したりしない」「約束よ、嘘なら許さない」「嘘はつかない」「ならいいけど」「白…白素霞さん、結婚してくれ」とスマホを地面に置き、跪くと震えながらシンプルな銀の指輪を捧げ持つ王向陽。白素霞はそれを見て笑顔で泣き出します。指輪を王向陽の手から奪うと、「ばかね」と笑います。「きれい、指にはめて」とねだる白素霞に王も泣きながら指輪をはめてやり、彼女の頬にキスをします。
「あの血文字は指で書いてたけど、上から筆で書いた跡も!」と言う林静に、「血液成分の解析は海星艦の研究所の技術だろ?盗むとはさすがだ」と叢波は褒め、林静はぎこちなく笑います。林静と叢波はメッセージカードから「三火三」という文字を見つけます。
林静たちの報告を聞き、 「八卦の謎解きだ、三は坤の記号に似て南西を指す。火は離の記号に似て南を、あらわす数字は坤は2、離は9だ」と暗号を解き明かす沈巍。
趙雲瀾と沈巍は林静からの報告を電話で聞きながら現場へ向かいます。「龍城南西の最南端29区に再開発予定の地区が」と言う林静に、趙雲瀾は「分かった」と簡潔に返します。すると突然沈巍が遠くを指差します。「あそこだ」。趙雲瀾は沈巍を見つめ、「巻き込んで悪いな」と笑います。沈巍は呆れたように歩き出します。鴉が鳴いています。
趙雲瀾と沈巍の前に烏賊の青年たちが2人飛んできます。「俺たちを倒してから行け」と言う彼らに、「鴉賊か?」と尋ねる沈巍。「有名な鎮魂令主と黒枹使だな、俺達は主に従う」と答える青年。「無駄死にするだけだぞ、なぜ鴉賊は意固地になって人間を敵視する?」と不思議がる趙雲瀾。「亜獣族の復興のためだ。長老を信じてる」と言う青年に、「そうか、だったら来い」と趙雲瀾は挑発します。
青年は沈巍に殴りかかり、もう1人の青年も沈巍の手の甲に矢(朱豪や孔鯨を殺した矢とそっくり)を放ち、流血の事態に。本来ならすぐに傷が完治するはずなのに、今日はまだ傷跡が残っています。「治癒しない?」と彼の傷ついた左手を取る趙雲瀾ですが、沈巍は気まずげにその言葉を無視して強引に手を解きます。何か秘密を隠している沈巍を凝視する趙雲瀾。
「今日は見逃す、鴉青長老に伝えてくれ。夜尊は傲慢で自尊心が高く、信用できぬ。尽くしても得られる物はない」と沈巍に言われた途端、青年たちは飛び去ります。趙雲瀾は沈巍をまだ不審さをたたえた目で見ていますが、沈巍はそれに気づかないふりをして先へ進みます。
2人が行き着いた電話ボックスの中には、人質ではなく口にガムテープをまかれた男がぐったりと閉じ込められていました。趙雲瀾はため息をつきます。「手がかりが途絶えた」と言う沈巍に、「いたちごっこか」と激昂し電話ボックスを蹴る趙雲瀾。しかしその瞬間電話ボックスの受話器が落ち、その電話ボックスに何らかの違和感を感じます。
「黒枹使の忠告など聞かぬ。行け」と命じる鴉青に、青年は「はい」と獣人にうなずきます。王向陽は咳き込みながら鴉青に近づきます。「まだ1人しか見つけていない、このままのペースなら奴らの負けは確実だわ」と言う鴉青に、「結果はどうでもいい。どうせ全員死ぬ。奴らを翻弄するのが何より気持ちいい」と狂ったように笑う王向陽。
鴉青は「あの方に似てきたわね」と言い、沙雅は「趙心慈を見てくる。安心して、まだ手は出さない」とその場から立ち去ります。「信用できない子よ」と小声で王向陽に報告する鴉青に、「安心しろ、憎しみがある限りあの女は俺に従う」と王向陽は自信満々です。「なぜ言い切れる?」と鴉青は不思議そうですが、「ふふ…俺もあの女も憎しみにおぼれているからだ」と王向陽はフードを被ります。
趙心慈は気絶し壁に寄りかかっていましたが目を覚まし、階段を降ります。よろめきながら地上に降り立つと、彼の目の前に沙雅が現れます。「本当は今すぐこの瞬間にでもお前を殺したい」と睨みつける沙雅に、「命など惜しくはない、人間のために戦うと決め、恐怖を感じなくなった」と言う趙心慈。「人間のためなら私たちを犠牲に?古班が何をしたの?」と沙雅は叫びます。「古班?」と考え込む趙心慈に、有無を言わさず電流を浴びせる沙雅。趙心慈は倒れ込み、沙雅は趙心慈を見つめます。
机から降りようとしてよろめいた趙雲瀾を沈巍が抱きしめながら耳元で囁き、背を叩いたら追いつくという…その直前に郭英も趙雲瀾を支えてたはずなのにいつのまにか沈巍が1人で趙雲瀾を抱きしめてる構図になってて、(さりげなく郭英から趙雲瀾を奪ったのかな…)と妄想が広がりますね!!(いい笑顔)
「君とは違って冷静な父君がなぜ君を所長に推したと思う?」が煽り力バカ強くて笑っちゃったんですが、「冷静じゃなくて悪かったな💢」とならない趙雲瀾は偉いw
王向陽が急に体調悪くなり始めたのは、本当にあなたを愛し始めたから…(ゴスペラーズ「ひとり」)じゃなくて、功徳筆に生命エネルギー吸い取られてるからとかですかね?🤔
戦いの最中なのに速攻で「治癒しない?」とかすり傷を見咎める趙雲瀾、沈巍のこと好きすぎますわ…☺️その後ずっと責めるようにガン見してるしw
あと亜獣族ってやっぱりピュアだな〜としみじみ思います。若者たちは長老に一心に忠誠を誓ってるし、特に鴉青長老は若者たちや亜獣族を率いる責任にもがいてる感じがします。鴉青はまじめ過ぎて亜獣族の未来を悲観してしまい、闇落ちしてしまったのではないかなあ…と妄想しています。迎春くらい能天気な感じでいいのよ!🌸
でも鴉族、花族、蛇族じゃそもそもの気質が全然違いそうですよね。
沈巍の「愚かだぞ、共鳴が小さく済んでよかった。さもなくば…」の続きが気になります。共鳴が大きかったらどうなってしまうの?あと摂政官から地界の状況について連絡がないのが怖いです。もう地界は夜尊に支配されていたりして…。
第29話 憎しみの果て
<あらすじ>
鴉青(ヤーチン)が残した手がかりを求めて蛇族を訪ねた沈巍(シェン・ウェイ)と趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は、祝紅(ジュー・ホン)の叔父から車のキーを渡される。
見つけ出した車の中では高(ガオ)部長が倒れていた。
一方、楚恕之(チュー・シュージー)と郭長城(グオ・チャンチョン)は、白素霞(バイ・スーシア)の妊娠を喜ぶ王向陽(ワン・シャンヤン)の動画を見つける。
蛇族の森に来た趙雲瀾と沈巍。「蛇族の森に次の手がかりが?」と沈巍が尋ねると、趙雲瀾は「王向陽はただの人間だ。謎かけは青の指示だろう。俺たちと鴉族の接点はここしかない」と祝紅の叔父の家を訪れます。
祝紅の叔父は彼らの気配を察知したのか「黒枹使、趙所長、何か急用でも?」と家からすぐに出てきます。
「手短に話そう。天下が乱れようとしている。蛇族にも他人事ではない」と言う沈巍。趙雲瀾は「鴉青の残した手がかりを捜しに来ました」と言います。「鴉青?手がかり?」と訝しげに言った後、叔父ははっと何かに気づき、「お待ちを。今朝預かった」と車のキーを趙雲瀾に手渡します。「”渡せば分かる”と」と言う彼に、「車の鍵だけで車本体のことは何も?」と趙雲瀾は尋ねます。「ああ」と頷く叔父を見ながら、「いや、手がかりはすでにある」と沈巍は腕時計で時間を確認し、言います。
特調所では、大慶が最初の指定場所にあった公衆電話を用意していました。「公衆電話からどう推理する?」と言う大慶に、林静は「調べたが20年前のものだ。会社は民営化されたが撤去されず市街の景観のために今まで残っていた。使用されていないのに摩耗している、手がかりかも」と言います。「摩耗しているのは0、1、5、9」と沈巍がボタンを見て指摘。「組み合わせを全て調べてたら時間が足りない」と林静は言いますが、「いや、最後の数字は恐らく9だ。摩耗が激しい。人間は習慣的に最後の数字を強く押す」と沈巍は推測します。「最初の数字は5だ。真ん中が凹んでるから、一番目に押したはず」と補足する林静。「1は下半分が、0は上が摩耗している。だから0は1の前だ。もしも0の次が9なら0の右側が摩耗している」と沈巍が付け足すと、「ということは、連続する数字は5019だな?」と趙雲瀾がまとめ、沈巍は頷きます。「やったぞ、沈教授が固定電話利用者でよかった」とふざける趙雲瀾。
海星艦では、郭英が「市内でナンバープレート5019の四駆車を探せ。特調所だけに任せるな」と部下に指示し、部下たちは「はい」とすぐさま散っていきます。そこに欧陽教授と李茜が通りかかります。李茜が部下たちの走り去った先を見ると、欧陽教授は「今後は研究以外のことは何も考えるな」と彼女を叱ります。
趙雲瀾と沈巍は湖のほとりで車道からはみ出て停止している車を見つけます。趙雲瀾が「この車だ」と扉を開けると、荷台には高部長が押しこめられていました。
沈巍が時間を確認すると午後5時です。高部長をベンチに寝かせると、沈巍は闇の力で彼を回復させます。さらに車内を探索する趙雲瀾は、助手席の座席下に白いバラをみつけ、スマホで写真を撮って林静に送ります。
「ボス、白バラだ」「白バラ?」「ああ、この品種は根腐れしやすく水辺には生息しない」「分かった」「それと白バラの花言葉は”純血の愛”、一般的には結婚式用だ」「結婚式?」。林静の言葉を聞き、沈巍は趙雲瀾が持つ白バラを見つめます。
純白のウェディングドレスとタキシードを来た王夫婦は、この車の近くに立ちます。
「どうだ、似合ってるか?」と言う王向陽に、「悪くないわ、よく撮れてる?」と白素霞は自撮りしながら尋ねます。「嘘だろ、結婚写真を自撮りしてるのか?」「プロに頼むお金はないもの、携帯で撮影したのを印刷すれば十分よ。文句を言わずに早く撮って、服のレンタル代も高いし。ねえ川辺で撮りましょ!」と白素霞は慌ただしく走り出し、王向陽は彼女が引きずるベールをまくって走るのを助けてやります。「こんなところに車がある」と車をしげしげと見る王向陽に、「すごい!素敵!車をバックに撮れるわ」と白素霞は大喜び。しかし王向陽が彼女のベールを踏んでしまい、彼女は転んでしまいます。
「大丈夫か?」と彼女を助け起こそうとする王向陽に、「あれを見て」と白素霞は車の下にある鍵を見つけ歓声をあげます。「触るな」と王向陽が止めるのも聞かず白素霞は手を伸ばして鍵を取ります。「乗ってみない?」「だめだ」「開いたたわ!」「素霞」「お花を(持ってて)」と、彼女は勝手に車のドアを開けて乗り込み、王向陽に持っていたウェディングブーケを預けます。
「人の物に手を出すのは駄目だ。聞いてるか?車が消えたら持ち主が心配するだろ」とお説教する王向陽に無言を貫く白素霞。「俺が馬鹿正直で嫌になったか?降りろ、早く」と言う王向陽。車のドアを締めた瞬間に、ブーケから1輪の白バラが助手席に落ちます。
「そのバカ正直なところが好きよ。正直で誠実でお人好し。考えてたの、あなたに出会えて幸運だって」と恥ずかしそうに言う白素霞。王向陽は微笑みます。「素霞、俺は青果店で真面目に稼ぐ。家族のためにきっと似た車を買うからな」と、抱きつく白素霞を抱きしめ返し、彼女の頬にキスします。
「了解だ。…車の所有者がわかった。前妻の車だったらしい。離婚時にここで乗り捨てたと。事件との関連性は低いな」と、電話を受けて沈巍に報告する趙雲瀾。沈巍は考え込みます。そこに郭英が駆けつけ、「海星艦職員を総動員したが手がかりなしだった」と礼を言います。「とりあえず高部長を送ってくれ」と言う趙雲瀾に、郭英は「分かった」と高部長を抱き起こします。「私の背に、ではこれで」「頼む」と、去っていく郭英を見送る趙雲瀾。「手がかりは天から降ってこない、事件の関連性を早く洗い出さないと」と趙雲瀾が呟きます。もう午後7時です。「あと5時間だ」と言う沈巍。「結婚式、電話ボックス、王向陽…」と趙雲瀾は何度も呟きます。
幼い頃、趙雲瀾は飼っていた犬の小八が脱走し半泣きで探し回っていました。
「いない、草むらにも林のなかにも、滑り台の下にも小八はいなかった!どこにいったんだよ!僕は本当に一生懸命捜したのに」と泣く趙雲瀾を趙心慈は呼び寄せ、「父さんがお前に同情し慰めるとでも思ってるのか?手をここに置け」と彼の手を彼の心臓に当てさせます。趙心慈「”心に聞け”と言うだろ。自分に尋ねろ、全力を尽くしたか?お前は闇雲に探している!非効率で時間の無駄だ!小八の気持ちになって捜したか?いなくなる前、お前と小八は何をした?手がかりは空からは降ってこない!人だろうが犬だろうが感情に従い行動する。行動を辿りたいなら相手にとって何が重要か知ることだ」と趙心慈は趙雲瀾に言います。
「白素霞、結婚式、電話ボックス…」と繰り返しながら、郭長城に電話する趙雲瀾。 「はい」と郭長城が電話を取ると、「電話ボックスの話を王向陽から聞いたことは?」と趙雲瀾は尋ねます。「ありません。…すみません、思い出しました!たしかプロポーズの場所です」と郭長城が答えたため、趙雲瀾は「今すぐ楚と王向陽の家に向かえ」と指示します。
楚恕之と郭長城が特調所を出ると、茶色いスーツの男が王向陽の家から家財道具一式を運び出していました。「待ってください、何か?」と郭長城が慌てて男の手を止めさせると、「あんたか、いいところへ。王向陽に伝えてくれ。これ以上は待てないと。退去してもらう」と男は言います。彼は家主のようです。
家の前に積み上げられた荷物を見て、「荷物を処理しても?」と尋ねる楚恕之に、家主は「好きにしろ」と嬉々として去っていきます。「手がかりを捜すぞ」と楚恕之は郭長城と共に荷物を漁り始めます。
王向陽がよろめきながら功徳筆で空に印を書くと、空に結界のようなものが張られます。
「準備は整った。あとは結末を待つだけだ」と言うと激しく咳き込む王向陽。「あの方と全亜獣族、そして地星人はあなたに受けた恩を忘れない」と言う鴉青に、王向陽は「どうでもいい」と吐き捨て、よろめき座り込みます。「早く謎を解け、さもないと空が黒く染まるぞ」と王向陽は言い、鴉青はにんまりと破顔します。
地界では呉の息子が天柱の前に駆けつけます。「人心を惑わす怪物め!出てこい!」と彼が叫ぶと、地君の友人のチンピラ男女2人が天柱の吐き出す黒い煙の中から現れます。「呉暁君よ、お前の父親は尻尾を巻いて逃げたぞ」と嘲笑う夜尊に、「黙れ、死ぬがいい!」と息子は攻撃しますが、チンピラたちから攻撃されよろめきます。
「光を求める者、闇夜を尊ぶべし」と言うチンピラ男。息子は再度攻撃しようとしますが、動けません。「重力の特殊能力?なぜこの力を?」と息子が訝しむと、チンピラ女は「夜尊様は吸収した者の能力を使える、最強の方だ。早く降伏せよ」と言い放ちます。息子は瞬間移動で消え去ります。「夜尊様、今のは呉天恩です」と訂正するチンピラ男に、夜尊は「放っておけ、あと少しで私はこの憎き戒めから解放される。その時始末しよう」と言い、チンピラ女は微笑みます。
王向陽の荷物の中からアルバムを見つけた郭長城。楚恕之は郭長城から「楚さん、これを」とアルバムを受け取り、中の写真を見ていきます。現場の写真と見比べ、「当たりだな、謎かけは王夫婦の思い出と関係がある」と断言します。ページを捲っていくと、楚恕之は「白素霞」と書かれたDVDを見つけます。
特調所にメンバー全員が集まりDVDの中身を確認します。
「お前がこの動画を見る頃には俺たちの子はもう生まれてる。俺は頭が悪いし口も上手くない。だから録画することにした。一緒になって長いけど、お前には本当に苦労をかけた。きっとこれからも面倒を掛けると思う。でも約束するよ。絶対にお前たちにひもじい思いはさせない。見ろよ、妊娠を教えてくれたあの日、ここに2人で立って祈ったよな。子供は龍城で最高の場所に行かせたいって。ここで話したことは全部覚えてる。将来が楽しみだ。素霞、ありがとう!」と嬉しそうにカメラに言った王向陽は、最後に恥ずかしそうに投げキスをしてカメラを切ります。
「…終わりか?謎かけと何の関係が?」と不思議そうな大慶に、「いや、謎は解けた」と沈巍は言い切ります。趙雲瀾は動画を巻き戻します。「前の2つの事件は求婚と結婚に関係していた。恐らく妊娠が分かったこの日も彼には重要な日だ」「王にとって龍城最高の場所とは、子供を行かせたかった場所。動画から聞こえたさっきのベルで答えは明らかだ」と沈巍と趙雲瀾は言います。「龍城大学か」と言った沈巍に、郭長城は驚愕します。
白素霞の妊娠が発覚した日のことです。
王向陽はビルの屋上に白素霞を連れてきます。「寒いわね」「冷えたか?」と、すぐにパーカーを脱いで白素霞に着せる王向陽。「あなたが寒いでしょ」と言われても、「俺は平気だ」と彼女に着せ掛けます。「なぜここに来たの?」「果物が全部売れたからお前と過ごしたくて」と笑顔の王向陽に、白素霞は「話があるの」と緊張した面持ちで切り出します。「妊娠したわ」と王向陽の耳元で小声で言う白素霞。「妊娠した!?子供ができたのか?」と彼女を抱き上げ、喜びのあまりその場をぐるぐると回る王向陽。「ちょっと下ろして!まったくもう」と言いながら笑顔の白素霞。「本当か?」「当然でしょ」「フォー!!ここにあがれ!」と突然手すりを乗り越える王向陽。「危ないわよ、高いのに」と王向陽の手を引き下ろす白素霞。「今から高い場所に上っておけば、高みを目指すようになる」「光明路で育つのよ、嫌でも志は高くなるわ」「そうだな」「特調所で働いてほしい、人々のためにね」と腹を愛おしげに撫でる白素霞に、王向陽は「ここに座れ」と手すりに背をもたれかけさせます。
「この子は世のために、俺はお前のために働くよ」「口ばっかり」「本当だ」「信じないっ!ねえ、子供の名前は何にする?」「俺が王だから、小陽だろ?」「嫌よ!パッとしないわ」「そうかな…うーん、俺はセンスがないんだよ、教養もないし。先代の趙室長を覚えてるか」「覚えてるわ」「俺が見た中ではあの人が一番の知識人だ。子供が生まれたら相談に行くよ」「いいわね」と王向陽と白素霞は話します。
王向陽はそんなことを回想しながら、趙心慈が沙雅に電気を流されているのを横目で見遣ります。「もう一度聞く、古班を殺したのは正しいと?」と言う沙雅に、「今その話をすることに意味があるのか?理由が何であれ君のやっていることは間違っている」と言う趙心慈。沙雅は怒り、再度彼に電気を流します。
「報復すれば思い人は静かに眠れるのか?なぜ未来に目を向けない?君には選択肢がある」と言う趙心慈に、「二重人格なの?」と沙雅は訝しみます。王は笑いながら趙心慈に近づきます。「どうでもいいさ、時間だ。趙雲瀾は来なかった」と言う王向陽に、趙心慈は笑います。「あのバカ息子が来るわけない」「そうか、それなら罪を償ってもらう」「待て、死ぬにしても理由を説明してくれないか」と趙心慈は王向陽に乞いますが、鴉青は「時間切れよ、おやり」と2人に命じます。
沙雅が電気を流すため振りかぶり、王向陽は功徳筆で趙心慈を刺そうとした瞬間、趙雲瀾・沈巍・楚恕之、郭長城が到着。「待たせたな!会いに来てやったぞ」と趙雲瀾が高らかに叫びます。
「王向陽、君はただの人間だ。功徳筆を使い続けたために闇の力に蝕まれている。罪を重ねず人質を返せ」と説得する沈巍に王向陽は歪に笑い、「断る!こいつを殺せば俺の復讐は終わる」とねっとりと言い返します。「待てよ。ただのおっさんに何の恨みが?」と眉を顰める趙雲瀾に、「何の恨み?こいつさえいなければ、素霞は死なず、俺もこんな姿にならなかった!」と王向陽は叫びます。
中秋節の夜のことです。
「素霞?そこで俺を待ってろ。もう臨月だぞ」と電話しながら店仕舞いをする王向陽。「おいもう店は終わりだ」とまだ果物を物色している客に声をかけます。「大丈夫よ、それにもう外なの、タクシーで帰るわ」と穏やかに言う白素霞。「そうか。気をつけろよ、何かあったら電話しろ」「ええ分かったわ」と2人は電話を切ります。
すると王向陽の店の前で朱豪の乱行をきっかけに男達が乱闘し、売り物の野菜や果物をめちゃくちゃにし始めます。王向陽のスマホが道に放り出されます。
その頃、タクシーに乗ろうとした白素霞は鄭大銭(海星艦に金融詐欺事件の犯人で逮捕された)に強引にタクシーを奪われます。「ひどいわ!止まって、下りてよ」とタクシーの窓を叩くも、白素霞は痛みに堪えてながら王向陽に電話をかけます。
「売り物に何を!果物が!やめてくれ!」と王向陽は男たちを止めようとしていましたが、そこに白素霞から電話がかかってきます。「嫁さんからだ!俺の携帯!」と王向陽が落ちていた自分のスマホに手を伸ばすと、目の前で王群(老化事件の被害者)が足でスマホを踏みつけ、画面は真っ暗に。スマホは壊れてしまいます。「なんてことをしてくれた!嫁さんからの大事な電話だったのに!」と泣き叫ぶ王向陽。「どうして電話を切ったの?…何かあったのね…タクシー!止まって!お願い!」と白素霞はスマホを切ると、再度タクシーを呼び止めようとしますが、朱豪(人格を変えられた事件の被害者)のタクシーに轢かれそうになります。そこで近くのアイスクリーム屋台の女が自撮り中に白素霞の様子がおかしいことに気づき、「あなた大丈夫?」と声をかけます。
「そのあと病院に行ったよな?解せないな。親父と何の関係が?」と言う趙雲瀾に、「何の関係だと?それはお前が知らないからだ。あの夜こいつも病院にいた!」と王向陽は血走った目で叫びます。
王向陽が慌てて病院に駆けつけると、そこには真っ青な顔で簡易ベットに横たわる白素霞の姿が。「素霞!大丈夫か!なぜこんな目に!先生助けてくれ、お腹に子供がいる!」と土下座する王向陽。「やめてください、落ち着いて、立って話を。大量出血で血液の在庫が足りないんです」と説明する金医師(リアルゲーム事件の被害者)に、「輸血なら俺の血から取ってくれ」と懇願する王向陽。「あなたの血液は使えない」と金医師が言ったところで、「金先生、緊急手術です。輸血を!」と衛藍が彼を呼びます。運ばれてきたのは趙心慈でした。「すぐ行く」と踵を返す金医師に、「あいつには輸血を?」と王向陽は絶望した表情で言います。「あとで」と趙心慈に駆け寄る金医師に、「先生待ってくれ!」と王向陽は叫び、「素霞、目を開けるんだ」と彼女の頬を包みながら咽び泣きます。
王向陽は泣いていました。「なんだよ、世のために働くのが特徴所だろ。嘘つきめ!お前(趙心慈)も尊敬してたのに!あの晩、お前のせいで妻と子が命を落とした。これでも奴に罪はないと?あ?どうなんだ?」と言う王向陽。
「王さん」と郭長城が呼びかけ、「殺さないと気が済まないなら若い方にしろ。俺は奴の息子だ。代わろう」と趙雲瀾が一歩進み出ます。途端、沈巍が顔色を変えます。「孝行息子じゃないか」とにやつく王向陽に、「耳を貸してはだめよ、何か企んでる」と言う鴉青。
「あはは!何が息子だ、何度も言ったはず。何かを捨てねば大事は成せないと。こいつは冷淡なふりをしているが実際は情に流され優柔不断だ!妻を死なせたことを私は悔いてきた、だが無念なのはあの時死んだのがこのクズではなかったことだ!」と憎悪の目で趙雲瀾を見る趙心慈に思わず震えながら拳を握る趙雲瀾。「おめおめと生き延び、趙家の名を汚した」と言う趙心慈を趙雲瀾を見つめます。趙雲瀾はしばらく苦しみに堪えるような表情をした後、笑います。「親父、年を取ったな。あんたの狙いなんかお見通しだ」。趙心慈はそれを聞いた途端、疲れたように目を伏せます。「俺を怒らせて身代わりを思いとどまらせる。言っとくが俺はあんたとは違う。20数年後悔し続けるより、自分の心に従って行動する。たとえ家族のために自分が犠牲になっても本望だ!」と趙雲瀾は叫びます。「お前は黙れ!いいか、何度もお前を殺そうと思った。こいつに俺と同じ苦しみを与えるためにな。だが考え直した。どっちを先に殺しても同じだ。俺の計画が成功すれば、お前達は全員死ぬんだからな!」と王向陽は笑い、沈巍は表情を険しくします。
沙雅が郭長城に電気を放ちますが、電気はベストに吸い込まれていきます。「効かない?」と焦る沙雅。「成功だ」と喜ぶ郭長城に、「科学星人に感謝しろ」と楚恕之は笑います。「あの人は?」と沙雅が尋ねると、「聞く資格が?」と楚恕之は表情を険しくし、沙雅は目を伏せます。
「ここからだ」と言うと、王向陽は功徳筆を回し、沙雅の特殊能力を底上げします。沈巍が王向陽を止めようと闇の力を放ちますが、全員弾き飛ばされ、沙雅と鴉青は逃亡します。王向陽は功徳筆を持ったまま建物から落ちそうになり、趙雲瀾と趙心慈が彼の腕を掴みます。
「離せ、離せよ!聖人ぶるな!」と叫ぶ王向陽に、「釈明する気などなかったが、誤解させたまま死なせんぞ」と趙心慈は病院に搬送された日のことを話し始めます。
手術室に運ばれた趙心慈。「趙局長」と呼びかける金医師に、趙心慈は「彼女が先だ、私を特別扱いするな」とか細く命じます。しかし金医師は「特別扱いなどしません。命は皆平等です。彼女の血液型は特殊で、龍城に3名しかいない。残り2名のうち1人は失踪し、あと1人は連絡はとれましたが到着まで何もできません」と首を振ります。それを聞いて、趙心慈は「頑張れよ、生き返るんだ」と呟いたのでした。
2人に助け出された王向陽は、「なら原因はあんたじゃないのか…夜尊め…一杯食わされた」と呆然とします。
「奴は相手の弱みを利用して心を操る、復讐に溺れ罠に落ちたな」と静かに告げる沈巍。「心は汚れる。思い煩い、ゆえに苦しみ怒りは恨みを生む。してはならぬことをせず悪事を成さぬことがすなわち天下の善だ。その者こそ世を救い魂を鎮める」と言う趙心慈。人格が変わったようなことを言い出す彼を凝視する趙雲瀾。しかし、「もう遅い、俺は間違いを犯した」と王向陽は言います。
その瞬間、功徳筆が空へ飛んでいきます。「功徳筆よ戻れ!」と王向陽は筆に叫び、無事彼の手の中に戻ってきましたが、その瞬間彼は喀血します。
「”鍵”をあんたに返す」と趙雲瀾に功徳筆を渡す王向陽。「”門が破られた、元には戻せない”」と言い残し、王向陽は黒い煙になって消え去ります。沈巍はそれを聞いて瞠目し、趙雲瀾は鎮魂を見つめ、功徳筆を握りしめます。
特調所に戻ったメンバーたちに、趙雲瀾は「とりあえず事件は解決した。功徳筆もある」と言い渡します。「ところで現場で趙局長と…」と言いかけた大慶は趙雲瀾に睨まれ、にやにやと口をつぐみます。「ところで親父の容体は?」と趙雲瀾が尋ねると、「全て正常値で心拍数も問題ないそうよ」と祝紅が答えます。「タフだな、命の危険にさらされたのに」と言う林静。
郭長城は眉間に皺を刻んで机に突っ伏しており、楚恕之は「ボウズ、どうした?」と郭長城の首あたりを優しく撫でます。「悔しくて。あんないい人がなぜ道を間違えたのか。事件が1つも起きなければ夫婦で幸せに暮らしてた。2人を死なせたのは誰?」と言う郭長城に、祝紅は怒り机を叩きます。「坊や、人生は甘くないの。災難は起きる。誰もが被害者だわ。問題はたとえ傷を負っても正しい道を歩むか否か!」。「そして道にそれた奴を連れ戻すのが特調所の仕事だ」と趙雲瀾は付け足します。
「考え事か?」と静かな沈巍に尋ねる趙雲瀾。沈巍はため息を吐きます。「王向陽の最期の言葉が気にかかる。なぜ死に際に功徳筆を鍵だと言ったのか。彼の言った”門”とは何だ?」。「妙だな、王向陽は復讐のために行動していたが、なぜか常に時間稼ぎをしていた。準備時間が長いほど力が増強されてたのか?」と趙雲瀾は首を傾げます。「鴉青は逃げる時、功徳筆に何の未練も見せなかった。まるで任務が完了したかのように」と言う楚恕之に、「夜尊の手下だよな?でも今回奴の動きはなかった」と大慶は付け足します。
林静が急に身を乗り出します。「功徳筆の力と夜尊に何か関係が?」と言うと、沈巍が突然立ち上がり「しまった」と言うと、地震が起きます。地界では天柱が震え、青白く光りを放っており、柱の中から黒い煙が溢れ出します。
煙は人型になると、「もうすぐ、完全に自由になれる。1万年待った。ついに私の時代が来るのだ」と呟きます。
特調所の外で鴉が鳴き、趙雲瀾と沈巍は共に窓を開けます。そこに広がっていた空は異様な色をしていました。街全体にオーロラのような色の膜が張っているようです。「今頃気づいたの?功徳筆の真の効力はエネルギー反応炉の構築。その力で天柱の封印を破壊できる。王向陽の死で反応炉は完成し、天柱の封印はすでに破壊された。功徳筆などくれてやるわ」と笑う鴉青の声が響き渡り、趙雲瀾は沈巍を観ます。「門は…破られた」と沈巍は呟きます。
空を見る趙雲瀾の腕を掴み、素早く移動し2人きりになる沈巍。「私は地界に戻る」「俺も行く」「今特調所は危ういところにいる。内外の敵に狙われているんだ。趙雲瀾、約束してくれ。何が起きても守りに徹し、安易に動かないと」と、沈巍は懇願するように趙雲瀾を見つめます。趙雲瀾は沈巍を見つめ、悩むと「黒兄さん、俺たちは生きてこそ平和を守れる」と彼の肩に手をそっと当てます。同じように沈巍も趙雲瀾の肩に手を当てると、素早く身を翻し去っていきます。
地界では、夜尊が唸りながらチンピラ男女を黒い煙で飲み込みます。そこに呉親子が駆けつけます。呉暁君は「怪物め!」と水を噴きつけますが、夜尊の黒い煙で弾かれてしまいます。「無駄死にしたいのか?」と言う夜尊に、「黒枹使様が戻るまでお前を抑える!」と呉は吠えます。「黒枹使?なじみのある名だ。奴に会うのが待ちきれない」と嬉しげに言う夜尊は、呉を黒い煙で一撃で殺します。「父さん!しっかり!父さん…」と父の遺体を抱きしめ泣く呉暁君に、「そう焦るな、次はお前だ」と言いながら、夜尊は黒い煙を広げます。
呻きながら海星艦の部長室のソファーで目覚めた高部長。「お目覚めですか」「私に何が?なぜ海星艦に?何があった?」「部長は王向陽たちに誘拐されたんです。特調所が救出を。外の異変も王向陽たちと関係が」と郭英が簡単に報告します。高部長はソファーに身体を預けると、「面倒なことになった」と呟きます。
蛇族の澄む森の空で激しく飛び回る鳥たち。
祝紅の叔父は「向こうを見ろ、お前達はあっちだ」と蛇族の若者たちに急ぎ指示します。そこに迎春が走ってきました。「蛇の長老!何事なの?亜獣族全体が大混乱よ」「黒枹使が傍観するなと警告に来た。このことだったか」「どういう意味?」「明白だろ!鴉青が夜尊の封印を解いたんだ」。叔父の言葉に驚く迎春。叔父はため息をつきます。「黒枹使が頼りだ。1万年の平和も彼が築いた」と呟くと、森の中を走り去ります。
地上と地界を繋ぐ門の前に、沈巍と沙雅と華玉柱の3人が立っています。「本当にいいのか?情状は考慮する」と華玉柱に話しかける沈巍。「君は長年善良な市民だった、恩赦は可能だ」と沈巍は言いますが、「いいえ、罪を犯しました。大きな罪を」と華玉柱は俯きます。「沙雅、あなたに黙っていたことがある。実はね、古班を殺したのは地星人よ」と言う華玉柱に、席を外そうとしていた沈巍は思わず足を止めます。「古は私を助けたの」と華玉柱は回送し始めます。
華玉柱は他2人と待ち合わせていた城東区の林の中で「どこにいるの?私だけ地界に帰らせて!…返事がないわ、騙したのかしら」と呟いていました。するとどこからか「待て!止まれ!待つんだ!」という声が聞こえてきます。次の瞬間、黒い服の地星人が突然華玉柱にナイフを突きつけ人質にし、「俺に近づくな!」と叫びます。「銃を寄越せ!」と言う彼に「ナイフを置け」と趙心慈は説得しようとしますが、男は聞く耳を持たず、「早くしろ!急げ!」と激昂します。
そこで古班が華玉柱の異常事態に気づきます。「分かった、手を出すな」「早く寄越せ」とせっつく男に銃を投げる趙心慈。「木の後ろに回れ」と言う男を、古班は木の後ろから見ていました。「早くしろ」「落ち着け」と男と趙心慈が会話していると、古班は銃を奪った男の背後から近づき、襲い掛かりました。2人は揉み合いになり、「動くな」と男は古班の額に発砲。華玉柱は「古班!」と絶叫します。弾が1発しか入っていなかったため趙心慈を撃つことができず、男は逃走。趙心慈は「救急車を!」と叫び、男の後を追います。
「古班、しっかりして」と泣く華玉柱に、「沙雅には言うな。恨みの中で生きてほしくない」と古班は言い残し絶命します。そこに沙雅が来たのでした。「恨む相手を間違えてたのね」と呟く沙雅に、華玉柱は寂しそうに「彼はあなた一筋よ」と言い、沙雅は涙します。
3人が地界で暮らしていた頃のことです。
「玉柱、この耳飾り、沙雅にどうかな?きっと似合うと思うんだ」とうきうきする古班に、「沙雅の分だけ?」と華玉柱は唇を尖らせます。「子供みたいだな、いつも2人分は買えないよ」と古班は言いますが、「でもずっとそうだった、必ずお揃いでくれたわ」と華玉柱は反論します。「もう大人だぞ、どんな関係も変わる時がくる。別の人がもっといい物をくれるさ、君だけにね」「沙雅が好き?」「ばれたか、沙雅には秘密だぞ。チャンスを狙って自分で告白したいんだ」と古班に言われ、華玉柱は自分の片想いが砕け散ったのを知ったのです。そこに沙雅が現れ、ピアスを半分こしようと提案したのでした。
「でも、確かに聞いたわ、あなたは優しくて私よりいいと」と言う沙雅に、「やっぱり聞いてたのね、でもあなたが聞いたのは半分だけよ」と華玉柱は寂しそうに言います。
「玉柱ごめんよ、たしかに沙雅は率直すぎるし気立てもよくない。でもやっぱり好きなんだ」と幸せそうに言う古班。
沙雅が2人で地界に帰れと林の中に消えた後、「沙雅!待てよ!」と古班が叫ぶと、華玉柱は「あなたが沙雅を想う気持ちも分かる。行ってあげて」と促します。「君1人だと危険だ」と不安がる古班に、「大丈夫、先に地界に帰る」と華玉柱は微笑みました。
「そうだったの…馬鹿な奴ね、早く言ってほしかった」と沙雅は項垂れます。
「趙雲瀾、約束してくれ。何が起きても守りに徹し、安易に動かないと」と必死で言い縋る沈巍に泣けてきます。一体1万年前に2人に何があったの?😭
夜尊と摂政官の関係が気になり過ぎて夜も眠れません…。
楚恕之の郭長城に対する「ボウズ、どうした?」の声の甘さと表情の柔らかさは完全にお兄ちゃんが弟にするそれでしたね…楚恕之、郭長城の家族にまで紹介されてるし家族公認ラブラブカップルじゃん…🥺❤️
第30話 存亡の危機
<あらすじ>
古班(グー・バン)の死の真相を知った沙雅(シャーヤー)は華玉柱(ホア・ユージュー)と共に地界へ帰る。
夜尊(やそん)をこのままのさばらせまいと誓う沈巍(シェン・ウェイ)。
一方、海星鑑(かいせいかん)にやってきた趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は林静(リン・ジン)が欧陽貞(オウヤン・ジェン)教授のスパイだったと知る。
「ごめんね、古班が殺されたのは私のせいだから言いだせなくて」と謝る華玉柱に、「古班の敵をとってるつもりだった。バカみたい」と沙雅は笑います。「沙雅、これは古班があなたに贈ったものよ」と片方だけのピアスを差し出します。「彼は死んだのに持っていても意味ないわ、あげる」と言う沙雅に、華玉柱は「沙雅、考えたけど、私達一緒に地界に戻りましょうよ。大事な人を失いたくない」と言い、2人は微笑み手を握り合います。手に持った指輪を見る沈巍。
「沙雅」と声をかけ、沈巍は指輪を渡します。「林静がくれようとした指輪?」と尋ねる沙雅に、「そうだ。彼に頼まれた。投影とやらの機能を使うには君の合言葉が必要らしい。合言葉は…その…」と彼女の耳元で小声で言う沈巍。沙雅は笑います。「私にその気はないわ」と言う沙雅に、「しかし君が言わないと無効らしい」と沈巍は困ったように言います。沙雅は華玉柱を見て微笑み、「”林静、愛してるわ”」と言いますが、何も起こりません。沈巍を見る沙雅に、「声が小さいかも」と言う沈巍。沙雅は笑い、「林静!愛してるわ!」と今度は大声で言います。すると指輪から真っ直ぐ青い光が空に伸び上がり、綺麗な満月と星空が投影されます。笑顔を見せる華玉柱。
沙雅は指輪を見て、「これが最も美しい星空ね」と言い、沈巍も優しい笑顔でそれを見つめます。指輪を握りしめる沙雅。
「行くわ」と決心した沙雅に「彼に何か伝言は?」と沈巍が尋ねますが、沙雅は「いつかまた会える」と言い、沈巍は微笑みます。手に力を込め、地界の門を開ける沈巍。黒枹使の衣装に変わると、2人を振り返ります。「今の地界は至る所に危険が潜んでいるが、約束しよう。封印が解けても夜尊をいつまでものさばらせないと。いやむしろもう奴の破壊は始まっているかもしれない」と言い終えると、先に門に入る黒枹使。華玉柱と沙雅は顔を見合わせ、彼の後に続いて門の中へ入っていきます。
海星艦に来た趙雲瀾と林静。しょげている林静の胸を資料で叩くと、「もういい、そんなに気を落とすな。聖器に異変はつきものだ。ドラ猫と祝紅は説明が長い。この件はお前が説明しろ」と趙雲瀾は言います。林静は「分かった」と頷くものの、すぐに「トイレに行きたい」と言い出します。「いいぞ行け、怠け者は言い訳が多い」とため息をつき、趙雲瀾は高部長の部屋に1人で向かいます。その様子を、トイレに行ったはずの林静は近くの壁に隠れて見送っていました。
「夜尊の件は伏せる」と言う高部長に、「はっ!伏せる?いつまで?」と趙雲瀾は鼻で笑います。高部長は無言です。「山火事を見たことは?最初はわずかな火の粉でも、勢いがつけばまたたく間に燃え上がる」と趙雲瀾は進言しますが、「火の粉の段階なら無駄に市民を刺激するな」と言う高部長に趙雲瀾は呆れ返ります。「お前は私の命を助けてくれた。その点は感謝している。だがお前は特調所じの所長であって告発者ではない!だから、上の命令には黙って従え」と突然高圧的になる高部長。「どんな立場でも構わないが、俺は一人の市民です。人々には状況を知る権利があるはず」と趙雲瀾は言いますが、高部長が壁に飾られている写真を見上げたため、趙雲瀾はため息をつきます。「海星艦の設立から長い年月が経つ。正直に言うと私自身も自分の決定に自信が持てない。だが長年の平和で人々は恐怖に耐えられない。社会の混乱など論外だ。どんな危機も我々でひそかに処理するしかない。趙所長、違うかね?」と諭すように言う高部長に趙雲瀾はため息をつき、渋々頷きます。
夜の公園に現れた、夜尊らしい人型の黒い煙。鴉青が近づきます。「ボス、エネルギー反応炉は完成しました。いつ総攻撃を?」と尋ねる鴉青に、「天柱の封印が解けた以上すぐに開始する。お前は地上で次の計画を実行しろ」と夜尊は指示。「次の計画?」と鴉青が眉を顰めると、「特調所の連中があまりにも目障りだ。今のうちに根こそぎ始末する」と夜尊は言います。
「何か妙案が?」「連中の個人データを何とかして手に入れろ。公表して奴らの信用を無くせば特調所は自然とバラバラになり、手を下さずとも済む」「心を支配する?」「混乱状態を作ればお前ら亜獣族は漁夫の利を得られるはずだ」。
鴉青は戸惑うも、(もう後戻りできない、亜獣族が再興できれば私の選択は正しいはず)と内心呟き、己を鼓舞します。
エレベーターを降りて研究室の前に来た趙雲瀾は、研究員と鉢合わせします。「な、なぜここにいる?」と問われ、「研究所は今暇?」と話を逸らす趙雲瀾。「どうやって入った?」「そうだ、キャンディーがある、やるよ」。研究員は戸惑いつつそれを受け取ります。趙雲瀾がふと研究員の名札を見ると、そこには「高雨龍」と書かれていました。「部長が”高雨龍”とかいう人に用事があると捜してる」「そ、それは僕だ!」「じゃあ急いで」とエレベーターに乗る高雨龍を趙雲瀾は見送ります。
「孔鯨の件では僕に隠蔽までさせて、今度は王向陽の遺体を入手しろなんて無理です」と怒る林静に、欧陽教授は「立場をわきまえろ!君を特調所に送ったのは私だ!情報が欲しかったのに、この1年、君は何か知らせてきたかね?」と激怒します。研究室の外で2人の会話を聞いてしまう趙雲瀾。
「特調所に問題はありません。一丸となって戦ってる。でも教授は科学の精神に反する実験ばかり」と欧陽教授を責める林静に、「科学の精神に反する?実験が成功すれば私は世を救う功労者だ!」と欧陽教授は反論し、林静は悲しそうに首を横に振ります。「教授、どうしたんです。最近変だと言われませんか」と言う林静に、「そんなことを言えるのか!君は私の弟子なんだぞ!」と声を荒げる欧陽教授。そこでタイミング良く、趙雲瀾が林静が作った磁気を破壊する機械を使って入室します。
拍手しながら入ってくる趙雲瀾に驚く林静。「師弟の再会を邪魔して悪いな」「趙教授、なぜここに?何の用だ?」「教授の弟子を便所へ誘いに」。趙雲瀾はあっさり踵を返し、林静はとぼとぼとそれに続きます。ため息をつく欧陽教授。
趙雲瀾はトイレに誰もいないことを調べ、「さてと、俺たちしかいない。説明しろ」と林静に言います。「話すことは別にない。いつ疑いはじめた?」と尋ねる林静に、「少し前だ」と答える趙雲瀾。
孔鯨の部屋から押収したはずの注射器がなくなっていたこと、特調所メンバーのうち1人だけ人格が変わらなかったことなどを思い出す趙雲瀾。
「俺をここへ連れてきたのはボロを出させるため…まあいい、気づかれたならお調子者を演じなくて済む」と言う林静に、「はあ…3年、3年だぞ。全部芝居か?」と趙雲瀾は尋ねます。趙雲瀾の真剣な目に、林静は言葉を詰まらせます。「…一部は。全部じゃない。でもどうか信じてくれ。特調所を裏切ってはいない」と言う林静を趙雲瀾は見つめ続け、「俺の人柄は知ってるな。仲間のことは命懸けで守るが、俺に背いたり俺の男気を利用する奴にやれることは1つ」と言います。
「異動させる!?」と叫ぶ祝紅。「本気か?誰がポップコーンを作るんだよ、いや誰が技術支援を」と言いなおす大慶。「身近に爆弾を置けと?」と言う趙雲瀾。
「いいか、林静は海星艦の研究所のスパイだぞ」と荷造りする林静の後ろで言う趙雲瀾に、郭長城は「でも海星艦は元々特調所の上級機関ですよね、優秀な人間の派遣なら悪くないかと。僕たちに危害は加えてませんし」とフォローしようとします。しかし怒りに油を注いでしまい、「新入りは黙ってろ!」と趙雲瀾は激怒します。
楚恕之は立ち上がると「長城に賛成」と言います。趙雲瀾は驚愕。汪徴ま「そうよ、ずっと真面目に働いてきたもの。遅刻99回と早退44回、無断欠勤18回と居眠り27回はあったけれどほかの問題はないわ」とフォローになっていないフォローをします。桑賛も「林静、行くなよ」と拙い言葉で引き止めます。林静は机から電流棒を出し、郭長城に渡します。
「郭長ちゃん、直しておいた」と笑う林静に郭長城は縋ろうとします。祝紅は背後から林静を背中を思いきり叩きます。「いつからそんな従順になったの!待ってて、所長は私達の意見は聞かないけど沈巍の説得なら受け入れるから」と涙目で趙雲瀾を睨みつけます。
「みんな、身分がバレた以上ここに残っても今後は怠けられない。今までありがとう。また会おう」と林静は言います。「じゃあな」と趙雲瀾が言うと、大慶も郭長城も何か言おうとしますが口をつぐみます。林静のデスクのパソコンの壁紙には特調所メンバー全員で映った写真が設定されています。
林静を見送るメンバーに、趙雲瀾は「みんなはこっちに集まれ、任務を決める」と言いますか、祝紅だけは「林静!待って、私が見送る」と趙雲瀾を睨みつけて足音荒く玄関に行きます。
地界では、摂政官が黒枹使を出迎えます。華玉柱と沙雅は衛兵から背中に銃を突きつけられています。「2人の件は了解しました」と言う摂政官に、「地君殿が陥落せず何よりだった。夜尊が天柱から逃走したことは?」と黒枹使は尋ねます。「聞きました。人々を惑わせて地界は大事になっているとか」「地君とお前はどう対処するつもりだ?」「それはですねえ…長い目で見ましょう。お前達、先に2人を収監しろ」と摂政官は黒枹使の質問をはぐらかし、華玉柱と沙雅をひっとらえようとします。
「待て!」と叫び、2人を取り囲む衛兵を見つめる黒枹使。「黒枹使様、何か?」と言う衛兵はぼーっとしており、摂政官は目を泳がせます。「摂政官、地君殿も夜尊に支配されたか?」と言う黒枹使に、「あー…仕方ないです。あなたの来るのが遅かった」とにやつく摂政官。
黒枹使が留守にしている間に、地君殿にはチンピラ男女が入り込み摂政官を取り囲みます。
「一体どうしたんだ」と怯える摂政官に、チンピラ男は「おっさん、立場が変わったな」とにやつきます。「ははは!分かってないようだな!やれ!」と摂政官は衛兵に命令しますが、衛兵は目の色が真っ白に変わるや否や、突然銃を地面に置きます。
「光明を求める者、闇夜を尊ぶべし」とチンピラ男は唱え、「あんたの護衛たちが誰の命令に従ってるか考えたことはないの?」とチンピラ女はせせら笑います。摂政官は驚き、地面に座り込みます。「記録によれば夜尊は小人物や能力の弱い者、節操のない者しか操れないという。どうやらそんな連中が増えたようだ。敬愛する黒枹使様、こんな悪党どもを当時どうやって制圧したのですか?」と泣き真似をしながら三角錐型のお香をこっそり手の中に忍ばせ、黒枹使に連絡を取ろうとします。しかしチンピラ男はすぐにそれに気づき、お香を踏み潰してしまいます。
「誰か、黒枹使を捕まえろ」と摂政官が命じた途端、衛兵たちが次々黒枹使に向かって発砲。黒枹使は華麗にかわし、彼らを倒します。黒枹使は華玉柱と沙雅を助けようとしますが、「動くでない、黒枹使は情け深いと聞く。万一このお嬢さんたちが怪我でもしたらあなたも心苦しいでしょう?ふふ…」と摂政官は笑います。摂政官を睨みつける黒枹使。黒枹使は手から矛を出しますが、その瞬間、突然腹のあたりを押さえ呻きます。華玉柱と沙雅ははっと黒枹使を見つめます。
「黒枹使の実力は噂ほどではないようだな。どうした?地上の生活が楽すぎて能力が落ちたか?」と煽る摂政官の前で黒枹使は苦しみます。「自分の生命エネルギーを他人にやったそうだな。はは、何という愚か者!己の寿命が縮むことを知らなかったのか?」と笑う摂政官に、「私の死は生に勝る。お前は生きていても屍だ!」と黒枹使は吠えます。「口は達者だが何もできまい」と摂政官が言うなり、黒枹使は四方八方から銃で狙撃されます。逃げ回る黒枹使。華玉柱は「逃げて!あなたがいないと世の中が困るの!」と叫び、沙雅も頷き、黒枹使は黒い煙になって消えます。摂政官は苦い顔です。黒枹使は沈巍に姿を変えると、地界の街を歩き始めます。
龍城病院では、成医師が「今日4人目ですよ。呼吸が荒くて全身の機能も落ちてます」と不安げに院長に相談していました。「原因は何だ?」「器官に問題がないのでまだ分かりません」「患者が増えないか心配だ」「そうですね」「行こう」「はい」と2人は暗い表情で患者の元へ向かいます。
李茜は研究室で淡々と実験していました。欧陽教授はそこにやってくると、「李茜、紹介しよう。私の自慢の弟子、林静だ。今日からここで君と一緒に助手をしてもらう」と言い、「彼女は…」と李茜を林静に紹介しようとしますが、林静は「知ってます。なぜ李茜がここに?」と食い気味に尋ねます。「状況が変わった。実験のためだ。戻ってきた以上、君も極秘資料を見ることになる。だが覚えておきなさい。外の”雑音”は気にしないように。今こそ冷静でいよう。世界を救えるのは私たちだけだ。林静を案内してくれ」と欧陽教授は李茜に頼み、去っていきます。暗い表情の林静と、戸惑った様子の李茜。
沈巍は天柱に駆け寄ります。「出てこい!私に話がないとでも?」と沈巍は叫び、天柱をまじまじと見つめます。そこには文字が刻まれていました。「1万年前の対決は慌ただしく、甚だ遺憾であった。月が沈み 風が起こり天地が乱れる今、心ゆくまで死闘を繰り広げ、兄弟の情を取り戻そう 弟 夜尊より」。沈巍が文字の上を掌で殴ると、そこから力が奪われていきます。「うう…夜尊…!」と呻きながら力を使い無理やり引き剥がしますが、すぐそばに人型の黒い煙の夜尊が現れ、沈巍は矛を一振りします。
沈巍は愛用の矛を構えますが、夜尊の笑い声が聞こえると同時に突如矛が重くなり、沈巍は「重力制御か!」と矛ごと夜尊に投げつけます。しかしその瞬間、天柱を縛っていた鎖に沈巍は両手両足を縛られます。
「能力が大幅に落ちたな」「それは違う、お前が大勢の地星人を吸収したんだ」「私の特殊能力は吸収することだからな、奴らの命と能力を貰うのは当然のことだ」「だが彼らにも命があるんだぞ!喜怒哀楽もある。餌ではない!」と沈巍は怒りますが、夜尊は沈巍を殴ります。
「黙れ!お前にも味わってもらおう。天柱に囚われる苦しみを」「私を恨むならなぜすぐに私を殺さない?他人を巻き込むな」と言う沈巍の身体に夜尊の黒い煙はまとわりつき、沈巍は苦しげな声をあげます。「善人ぶるのが気に食わん。私を止められるとでも?もっと大勢を吸収してやる。お前の大切な友人たちも目の前で惨殺してやろう」と不敵に言う夜尊。沈巍は夜尊を睨みつけるも、少しも動けません。
「再度要求します。混乱を防ぐため今の状況を人々に公表してください」と高部長に嘆願する趙雲瀾。「再度指示を出す。危険情報は厳格に封じよ!社会の秩序が乱れる!」と高部長は机を叩きます。「どのみち乱れる!早く発表しないと」と趙雲瀾は食い下がりますが、「もういい。林を異動させたことは大目に見る。しかし特調所は下級機関だ。我々の指示に従え!特調所を閉鎖されたいか!」と高部長は激怒します。「どうぞ」と言う趙雲瀾に、「趙局長お待ちを」と言われながら趙心慈が「大丈夫だ」と入室してきます。
「特調所の閉鎖だと?高は気が短いからカッとなっただけだ。特調所が我々に協力するなら、お前たちの長年の功労は誰も忘れやしない」と言う趙心慈。「はっ!2人がかりで下手な芝居を。大したもんだ。疲れるだろ」と趙雲瀾は2人に背を向けますが、「立場上俺も上の指示に従う。しかし、個人的には人には”知る権利”があると思う、特調所は危険の回避に努める。だが失敗した場合、民衆と共に戦う」と言い残して部屋を出ます。郭英は「お2人で話を」と早々に退室します。
「子供の頃から賢い奴だった、ただ賢すぎる」と言う趙心慈に、「どうします?」と顔色を伺う高部長。「安心しろ。あいつは無茶しない。それに仕事には熱心だ」「しかしもし何かしでかしたら?」。趙心慈は無言で将棋盤から「兵卒」の駒を取ります。「歩を捨てて、将を守る?」と高部長が言うと、「そうせざるを得ない時もある。とはいってもその棋士が父親だった場合はどうすべきか」と趙心慈は駒をいじりながら宙を見つめます。
「何だって?所員のデータを全て削除?いやすごい仕事量になるぞ!…分かった」と、叢波はかかってきた電話の指示に従います。「無理難題を押し付けてくるもんだ」とぼやきながら作業を始めた途端、鴉が鳴き、鴉青が叢波に手刀を食らわせ失神させます。そして叢波のパソコンを勝手にいじり始めます。
龍城病院で、成医師は「特別調査所?」という誰かの話し声を聞きます。「地星人を匿ってるそうだ」とスマホを見る患者たち。成医師はすぐに沈巍に電話します。
叢波が意識を取り戻すと、パソコンの画面にはSNSのページが開かれていました。「しまった!まずい、遅かった…」と青ざめる叢波の視線の先には、アクセス順位の上位に特調所の機密情報が並んでいます。「天下の罪人になってしまう」と頭をかきむしる叢波。
鴉青が街に現れると、人々は混乱していました。「なぜここに?」「みんな何を慌ててる?」「近くに怪物がいるぞ、家族と逃げろ」「そうだな」と青年たちが話し合うさまを見てにんまりする鴉青。
楚恕之、大慶、郭長城は特調所で渋い顔をしていました。「どうします?人々が怯えてます」と言う郭長城に、祝紅は「叢波の奴、たった1日でこんな大事にして!」と激怒します。「説明してくる!」と怒り立ち上がる楚恕之に、「楚さん、駄目です」と引き止める郭長城。「特調所が地星人を隠してると騒がれてるんだぞ、楚が外に出たら…」と言う大慶に、「あいつらを守ってやってるのに!」と楚恕之は吠えます。
祝紅は「所長」と趙雲瀾を呼ぼうとしますが、大慶は彼女を引き止めます。郭長城も「所長は落ち込んでるかと」と眉を下げ、祝紅は「受け身じゃ駄目、私たちで動きましょ」と意気込みます。「僕と祝紅は叢波を捜す。2人は鴉族を頼む。行動だ」と大慶は指示を出します。
趙雲瀾はデスクで摂政官を呼び出す香を焚きながら考え込んでいまました。「なぜ急に特調所の噂が?」と不思議がる汪徴に、「火消しが遅れた。夜尊に先を越されてる。はあ…」と大きくため息をつく趙雲瀾。ふと窓の外を見ると街角に鴉青が立ち、にやにやと笑っていました。「やっぱりな。汪徴、海星艦に電話しろ」と指示する趙雲瀾。
街を歩く大慶と祝紅に、男が「そこの2人、ちょっと待って!君たち特調所の人だよね?」と特調所の所員の個人情報一覧をスマホでスクロールして見せつけます。大慶は「僕は叢波に会う。うまく逃げろ」と祝紅の耳元で囁くと、早足でその場を去ります。祝紅も男を無視して去ろうとしますが、男は「返事してよ、ちょっと…」と追いかけてきます。しかし角を曲がろうとしたところで、「お姉さん」と迎春に止められます。「また薬を飲まずに外出したのね。こっちへ」と迎春が祝紅の手を引いたため、男は面倒になったのか去っていきます。迎春は祝紅を遠くまで連れ出します。
「迎春さん、ありがとう」と迎春の手を握る祝紅。 「このこと、叔父さんには内緒にして」と祝紅が言った途端、叔父が現れ、祝紅は硬直します。「一緒に帰ろう。林の中なら静かだ。行こう、さあ」と叔父は祝紅の手を取りますが、祝紅は全く動きません。
「趙雲瀾に惚れて周りが見えないのか?」と怒る叔父に、「そうじゃない!亜獣族の事なかれ主義はもう通用しない!」と祝紅は叫びます。顔色を変える迎春。
「人類は今、夜尊のせいで危機に瀕してる。特調所の仲間のそばにいないと」「お前は強気だが未熟だ。今だって呆然としていた。大きな戦いで何ができる?帰るぞ」「試さなきゃ分からない」「駄目だ」と叔父が手を取っても祝紅は頑として主張を変えません。迎春は首を横に振ります。叔父は「分かった、3日だけやる。特調所は3日もたないかもしれんがな」と言い残して去ります。
楚恕之は鴉族の青年を締め上げていました。「なぜ特調所の噂を流した?」と郭長城が尋ねると、「長老が言ったんだ、鴉族と亜獣族の再興のためだと」と青年は言い、楚恕之が「無知な奴だ」と手を離した途端、鴉に変態して飛び去っていきました。
郭長城が「楚さん」と呼びかけると、楚恕之は「今回は黒枹使様が危機に陥っているような気がする」と呟きます。「大丈夫だと思いますよ。能力だって僕たちより強いし、地界では一目置かれてる。夜尊が脱走しても教授なら大丈夫でしょう」「長らく耐えてきた地界が今何を企んでいるか」と言いながら、楚恕之はポケットから手紙を取り出します。
「それは?」「黒枹使様からの辞令だ。地界に戻って地君殿を守れと書いてある」「…上手く説明できませんが何となく、教授の筆跡を真似ただけのような気がします。ほら、この「回」の字、変でしょ?」と辞令を見せながら言う郭長城に、楚恕之は笑います。
「やるなお前、少しは賢くなった。そのとおりだ。黒枹使様は特調所の重責を承知している。どんなに忙しくても助けは求めてこない。それは偽物だ。しかし偽の手紙が送られてきたことから、状況は想像できる。もし黒枹使様に何かあったら…」と苦しげな顔をする楚恕之に、「とにかく所長に話しましょう!こちらも危険だし、楚さんまでいなくなれば所長が困ります」と郭長城は言います。楚恕之もそれに賛成し、「一旦戻ろう」と特調所へ向かいます。
三角錐のお香を焚き、摂政官を呼ぶ趙雲瀾。しかし一向に煙から遣いは現れません。
「今特調所は危うい。内外の敵に追われているんだ。趙雲瀾、約束してくれ。何があっても守りに徹し、安易に動かないと」という沈巍の言葉を反芻し、苦しむ趙雲瀾。
「所長、電話が通じません」と報告してきた汪徴に、「はあ…敵を見てるだけとはどうにも俺らしくないな」とため息をつく趙雲瀾。うっかりお香を焚いていた器に触れてしまい、火傷してしまいます。しかしその瞬間、趙雲瀾は何かに気づきます。ふと窓の外を見ると、黒塗りの車が止まりました。車からは郭英が出てきます。
汪徴が「奥へどうぞ」と郭英を案内すると、郭英は「一緒に来てもらおう」とすぐさま趙雲瀾を連行しようとします。「待てない人がいるならこちらから伺うのに。さあ」と郭英を先に送り出すと、「汪徴、桑賛、俺が留守の間、聖器を守ってくれ」と趙雲瀾は真剣な顔で2人に頼みます。「どこへ行くの?」と不安げな汪徴。桑賛はしっかりと頷きます。「ちょっと遊びに行く」と笑う趙雲瀾を見送り、汪徴は不安げに桑賛を見ます。
趙雲瀾は「趙局長がお越しとは一体何事で?」と郭英に尋ねますが、「着いてから話そう」と言われ「はいよ」と車に乗りこみます。「雲瀾、失望したぞ」と言う趙心慈の横で、ふうんとつまらなさげな表情をする趙雲瀾。「趙局長、海星艦に戻りますか?」「彼の家へ」。趙雲瀾は趙心慈と郭英のこの会話に違和感を覚えます。
趙雲瀾の私室の中まで入ってくる趙心慈と郭英。「協力に感謝する、先に戻ってろ」「まさか」「調査は済んでる。機密は漏れてしまったが、特調所からの漏洩ではない、趙所長には私が言って聞かせる。済んだら特調所へ戻ってもらう、問題があれば連れて来ない」「では失礼を」と趙心慈と郭英は会話すると、郭英はさっさと帰ってしまいます。趙心慈と2人きりです。
趙心慈は部屋を見回します。ソファーにだらしなく座り、指をいじる趙雲瀾。「案外整頓されてるな。だらしない生活は送ってないようだ」「お前は誰だ?」「なぜ聞く?」。趙心慈に向かって銃を構える趙雲瀾。「この銃を知ってるだろう?普通の人間なら問題ないが、地星人に当たれば致命傷になる。試してみるか?」と趙雲瀾が言うと、趙心慈は笑います。
楚恕之の「もし黒枹使様に何かあったら…」と後が気になりすぎます!!楚恕之の罪って一体何…?🤔
しかし郭ちゃんがだいぶしっかりしてきてなんか寂しいです。いつまでも子ウサギでいてほしかった…ぐすん🐰
「今特調所は危うい。内外の敵に追われているんだ。趙雲瀾、約束してくれ。何があっても守りに徹し、安易に動かないと」という沈巍の言葉を頑張って守ってる趙雲瀾が超かわいいです。沈巍のこと信じていいのか?って不安がってたけど、もう完全に信頼しきっとるやないか〜!!(笑顔)
趙心慈のフリしてるの夜尊ですかね?🤔