中国人気BLドラマ「鎮魂」のネタバレ感想|1万年もの時を越える異種族政争物語

ドラマ

第31話 夢の束縛

<あらすじ>
趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は父である趙心慈(チャオ・シンツー)の言動に疑念を抱き、正体を問い詰める。
父の体には地星(ちせい)人の獐獅(ジャンシー)が共存していた。
地星人との関わりが明るみに出た特調所には非難が殺到する。

指をいじりながら趙雲瀾は「ずっと疑ってた。表情や話し方、仕草や癖が以前の親父と全く違う。まるで別人だ。王向陽に言った言葉もありえない。手段を選ばない仕事の鬼が天下の善行など語るものか」と言います。「それで私が父親ではないと?」と言う趙心慈に銃を向ける趙雲瀾。「この銃を知ってるだろう?普通の人間なら問題ないが、地星人なら致命傷になる。試してみるか?」。「よろしい、用意周到だ」「偽物のくせに父親ぶるな」「ではもし私が父親として20年間君を見てきたと言ったら?」と趙心慈が言ったため、趙雲瀾は瞠目します。

若き日の趙心慈、地星人の男を追い詰めますが、彼は荒れた家の裏庭でこめかみに穴が開いた状態で見つかります。「自殺か?」と言う趙心慈に、「精神的に不安定だったようです。仲間も我々に一掃され、悲観してもおかしくない」と高部長が返します。「能力者の地星人が犯罪の味をしめるとまた罪を重ねる」「地星人の事件は他にも。そういえば地星人に対処するため特別調査所ができるとか」「平和さえ守れたらいい」と趙心慈と高部長が話していると、死んだ男の体から黒い煙が移動し、趙心慈の体に入ります。趙心慈はよろめき、 「趙さん、具合でも?」と高部長は心配します。趙心慈は心臓を押さえながら、「大丈夫だ」と答えます。

その後、鏡の前で趙心慈は「お前は何者だ?」と尋ねます。すると、鏡の中の自分は瞳が橙色に輝いており、「恐れなくていい、私は獐獅だ。悪人じゃないし君を乗っ取る気もない。犯罪とも無縁だ。ただ身を置く場所を必要としている」と微笑み答えます。「地星人か」「そうだ、変わり種なんだよ。実を言えば、私はとうの昔に死んでいるはずだった。だが特殊能力で人間に寄生し生き続けてる」「それで、私の同意なしに勝手に寄生したわけか。時々お前を出して運動でもさせろと?」「私を信じてくれ。人間と地星人は友好関係にあった。だが最近の地星人は確かに目に余る。それに無理に私を追い出せば君を傷つけることになる。この世に未練はないのか?」と獐獅が尋ねた瞬間、趙心慈の電話が鳴ります。「はい」「父さん、仕事は終わった?」 「もうすぐだ。先に母さんと食べてくれ」「分かった」と趙雲瀾と会話すると、「いい子だな」と獐獅が微笑みます。「このことは他言無用だ」「決めたのか」「すでに寄生されている。今更迷うのは愚かな行為だ。今後は共存しパートナーになる。お前の知識で私を助けろ」「分かった!約束する」、こうして趙心慈と獐獅は共存関係になったのでした。

趙雲瀾は銃を机に置きます。「彼の変化は予想外だった、妻を無くした心慈は地星人に容赦しなくなった。私も地星人だ。同胞を殺したくない。だが彼の意思は固く、私が意見する余地はなかった」「なるほどな、それで驚異的な逮捕実績をあげたのか。”地星人ハンター”の異名まで得た。まさか地星人と組んでいたとはな」「趙心慈とは長年、喜怒哀楽を共にしてきた。僭越ながら親父さんの半分は私が演じてきたよ。雲瀾、夜尊に対抗するには聖器を集めるしかない。だから…」と獐獅が趙雲瀾に触れようとすると、避けられます。「親父を出せ」と冷たい趙雲瀾に落ち込む獐獅。

ソファーから立ち上がった趙心慈は、「獐獅、余計な真似をするな」と呟きます。「呆れたよ、随分地星人を逮捕してきたが、まさか身内に地星人がいたとはな」「絶対の善悪など存在しないと言ったろ。世のためなら妥協も受け入れる。あの日身を呈して守ってくれたな。胸に沁みた。私も本来の自分に戻る頃合いだ。雲瀾、私たちの志は同じはず。足枷になる特調所は…」と趙心慈が言うと、「待てよ、足枷?どういう意味だ」と趙雲瀾が言葉を遮ります。「では何だと?地星人との関わりが暴露された今、特調所の閉鎖は時間の問題だぞ」「誤った世論に扇動されてるだけだ!」「ではお前はその世論を正せるのか!?ここまできたら誰かが責任を負わねば騒ぎは収まらない。異種族の入所に私は反対だった。楚恕之は地星人、祝紅と大慶は亜獣族、いずれは故郷に帰る。なら今のうちに」と言う趙心慈に、趙雲瀾は「もういい、あんたとの話は終わりだ」と立ち上がります。
「長年所長を務めてきた。大した手柄はないが、これだけは譲らない。俺は部下を絶対に守る」と趙雲瀾が言うと、趙心慈は笑います。 「相変わらずだな。変わったと思ったが愚かな頑固者のままか。この騒動の決着はお前がつけるしかない。忘れるな。特調所の存続は海星艦が決める」「ご随意に」と、趙心慈の肩に自分のそれをぶつけて足音荒く部屋を出ていく趙雲瀾。「バカ息子め、お前のために私は憎まれ役を買おう」と趙心慈は呟きます。

夜の公園にまた夜尊が現れます。「計画は成功しました。龍城は混乱状態となり、すでに内紛が始まっています」と報告する鴉青。「存続も怪しいのに聖器はまだ特調所か?」 「特調所にはバリアがあり、関係者以外の力は排除されます。手を尽くしても進入不可でした」「外から攻めるのが無理なら内部から切り崩せば良い」「内部とは?」と尋ねる鴉青に、夜尊は含むように笑います。

趙雲瀾が街を歩いていると、後ろから祝紅が付いてきます。「お前か」「誰だと?」「家で待機していろと言っただろ?」「あなたが心配だから来たの。連行されたと聞いて半日待ってた。どうだったの?ネットは大炎上よ。星督局がまた横やりでも?」と矢継ぎ早に尋ねる祝紅をよそに、趙雲瀾は近くにあったベンチに悠々と座ります。「別に、何もない。これくらい俺なら余裕で解決できる」「今回はこれまでと違う。1人で背負わないで!敵は地星人だけじゃない。今の事態が続けば全人類があなたを黒幕とみなすわ。そうなれば神様だってあなたを救えない」「特調所所長の末路にもとより期待してない。死ぬ価値があればいい」「そう!気概があること!ご立派ね。でも私たちはどうなるの?蛇族との約束は?」「言ったことは守る。俺がいる限り所員たちに手は出させない」「それが可能だとでも?」と祝紅が挑むように言うと、「そうだった、蛇族は避難するんだよな」と言いながら趙雲瀾はベンチから立ち上がります。「聖女のお前を蛇穴に隠したいはずだ」「叔父さんはただ私を心配してるだけ」 「好きにしろ、行きたければ行け。誰もお前を止めない」と言いながら趙雲瀾がその場を後にしようとすると、「待って、趙雲瀾。1つだけ聞くわ。私を止めないの?」と、祝紅は趙雲瀾の腕を掴み無理やり振り向かせます。
「所に戻るの?」と尋ねる祝紅に、「沈巍から連絡がない。様子を見に行ってくる」と暗い表情で言うと趙雲瀾。「この状況で!?1人では危険よ」「所長は俺だ!俺の命令を待つか、叔父さんと逃げるか選べ!俺に口出しするな」。祝紅は唇を噛み、趙雲瀾を睨みつけます。趙雲瀾は祝紅に背中を向けると、「分かったから、帰って休め。みんな疲れてる。辞めるなら退職金を出す」と言います。「バカ男」と祝紅に罵倒され笑う趙雲瀾。

「趙雲瀾、私は沈巍に及ばないのね。”残れ”の一言も言えないの?」と祝紅に悲しげに言われ、思わず趙雲瀾は百面相をします。「お前は性格もいいし美人なのになぜそう頑固なんだ?いいか、よく聞け。おれは口が悪いし性格も最低だ。優しい男のフリは3日が限界。正真正銘負け犬だ。生活力はないしすぐトラブルに巻き込まれる。親も見放した」と言う趙雲瀾に、祝紅は笑います。「お前はすごい美人でいくらでも幸せになれる。考え直せ」と言う趙雲瀾を祝紅は見つめます。
「趙雲瀾、一言でいいの。言ってくれたら蛇族とは縁を切る。どんな困難もあなたと共にするわ」と真剣に言う祝紅を前に、しばらく苦悩した後、趙雲瀾は困ったように笑います。「祝紅、お前を傷つける真似をしたくないんだ」と彼女の肩に手を置くと、祝紅は大きな瞳に涙をいっぱいに湛えます。「お前が幸せならそれでいい」と趙雲瀾が言った瞬間、「趙所長、令主、お変わり無く」と突然鴉青が現れます。

鴉青の方を振り向くとすかさず懐に手を入れますが、趙雲瀾は銃を自室に忘れています。「そっちも、久しぶりだ。鴉青長老は今日も麗しいな。大事な用がありそうだ。お先に失礼」と趙雲瀾は祝紅の肩を抱いて一緒に去ろうとします。すると、鴉青は「2人に用があるの」と呼び止め、すかさず趙雲瀾に攻撃します。連続攻撃の合間に祝紅が趙雲瀾を庇うと、彼女の肩に鴉青の鋭い爪が食い込み流血。倒れる祝紅を趙雲瀾が抱きとめると、鴉青は笑いながら去っていきます。「大丈夫か」「見て分からない?」「とにかく特調所へ戻るぞ」と、趙雲瀾は祝紅を連れて慌てて特調所へ向かいます。

海星艦では、高部長が「何をしている!世論を抑えろ。なぜ特調所の情報が拡散している?」と電話の先に怒鳴っていました。「我々にも不明です。削除していますが制御できません。書き込みといたちごっこです。多すぎて対応しきれません」と悲鳴をあげる電話の先の男に、「分かった。いいから削除を続けろ」と言い、電話を切ります。その後すぐにどこかへ電話をかけ、「これ以上は待てない、動け」と言い放ちます。

祝紅を横抱きにして特調所に着いた趙雲瀾。李が「怪我を?」と近寄りますが、「どけ!」と彼女をすぐにソファーに寝かせます。 「一体何が?」と慌てる郭長城の横で、楚恕之はすぐさまソファーにクッションを敷き、祝紅が寝やすいよう調整します。「祝紅さん」と郭長城が祝紅に近づくと、趙雲瀾は「救急箱を、急げ!」と叫びます。慌てて部屋を後にする郭長城の横で、楚恕之は祝紅の傷口を見て「鴉族か?」と趙雲瀾に尋ねます。「命を狙う様子はなかった。祝紅にだけ傷を負わせてる。狙いは何だ?何か裏がある」と呟く趙雲瀾。「どうぞ」と救急箱を差し出す郭長城に趙雲瀾はなぜか戸惑い、「お前がやれ」「できません」「学べよ!」と強引に看病を郭長城に押し付けます。

趙雲瀾は所長室へ行くとため息をつき、円錐型のお香を見つめます。「趙雲瀾、約束してくれ。何が起きても守りに徹し、安易には動かないと」という沈巍の言葉、「忘れるな、特調所の存続は海星艦が決める」という趙心慈の言葉を反芻する趙雲瀾。

海星艦にて、趙心慈と高部長は会談します。「手配しました。彼のことは?」と言う高部長を前に、趙心慈は銃を撫でます。「既に決定したのだ。考慮する必要はない。だが私に免じて逃げ道は残せ」と言う趙心慈。

郭長城はうつらうつらしていますが、趙雲瀾が所長室がら出た途端、彼に縋り付きます。「なんだよ」「所長!どこへ!?」「言う必要ないだろ?どけ」「嫌です」「どけよ!」「行き先は?」「おっ前は…!!」と趙雲瀾が苛立って郭長城を殴ろうとしますが、郭長城は離れず、「祝紅さんが外に出すなと!」と叫びます。「バカ言うな、通せ」と趙雲瀾が力づくで引き離そうとしても、「ここを守らなきゃ」と郭長城は懇願します。そこに楚恕之が現れます。「ボス、来てくれ。いくら呼んでも祝紅が目覚めない」。
「傷は?鴉青の罠か?」「傷は軽症だ。毒や呪いの痕跡はない」と話しながら祝紅のもとへ向かう趙雲瀾と楚恕之。

「昨日こいつが手当した時、問題はなかった」と楚恕之は郭長城を指し、趙雲瀾は頷きます。「祝紅、祝紅」と趙雲瀾は彼女の名前を呼びながら揺さぶりますが、楚恕之は「無駄だ」と静観しています。「特調所で闇の力は働かないはずだが」と首を傾げながら祝紅から離れようとすると、突然楚恕之に祝紅が寝転ぶソファーへ叩き落とされます。 「来月の給料を引くぞ!」と趙雲瀾が楚恕之を見上げると、祝紅がひっそりと趙雲瀾の服の裾を握っています。離させようとしますが、余計指は服に食い込みます。「祝紅さんは寝ているんじゃないんですか?」と不思議そうな郭長城に、「目覚めない理由を本人に聞くしかないな」と趙雲瀾は困り顔。「あとはよろしく、行くぞ」と楚恕之は郭長城を連れて別室へ行きます。趙雲瀾は天を仰ぎ、ため息をつきます。

別室で 「本人に聞く?どういう意味です?」と郭長城は楚恕之に尋ねますが、彼は無言です。趙雲瀾は服を掴んでいた祝紅の手を自分の手で握り返すと、彼女の隣に座ります。目をつぶると、彼も夢の中へ。

昔、男たちを追いかけていた祝紅が転んだ瞬間、趙雲瀾は彼女を抱き止めます。祝紅は驚いたように彼を見上げ、趙雲瀾は慌てて祝紅を離します。「何でヒールを?」と尋ねる趙雲瀾に、「好きなの」とそっぽを向いて返す祝紅。「なら今後は外勤禁止だ。内勤なら裸足でもいいぞ」「人間なんて嫌い」と2人は軽口を叩き、祝紅は微笑みます。「その人間は帰るが、お前は?」「先に行って」と、趙雲瀾の後を嬉しそうに付いていく祝紅。

そこに今の趙雲瀾が現れ、「祝紅!」と彼女に呼びかけます。「あなたは?」「趙雲瀾だ」「”幽霊も黙る男”?違うわ、彼は帰った」「あれはお前の…」「私も特調所に帰る」と今の趙雲瀾を無視して歩いて行こうとする祝紅の腕を捕まえます。「目を覚ませ。夢で自分を見失うと戻れない」「嫌よ、起きるもんですか!このままでいいの、夢のままで」
その瞬間、机に預けていた趙雲瀾の両脚のうち、片脚が音を立てて床に落ちます。その音を聞き、楚恕之が駆けつけます。「所長!」と趙雲瀾に触れようとする郭長城に、楚恕之は「駄目だ、絶対に触るな。ボスは祝紅の夢の中だ。意識が不安定だし、状況も分からない。急に呼ぶと危険だ」と止めます。「どうすれば」と不安げな郭長城。

そこに「趙所長」と李が入室してきます。「しっ」と楚恕之が李に静かにするよう言うと、「これは?」と李は異様な光景に困惑します。「何だ」と楚恕之が用件を尋ねると、「海星艦が来て特調所を閉鎖すると。今度は本気です。どうしますか?」と不安げに言います。郭長城は驚き楚恕之を見遣り、楚恕之は舌打ちをします。「よりによって今か」と言う楚恕之に、「どうします?副所長はいないし、所長も」と郭長城は狼狽えます。「俺が奴らの相手をする。お前らはボスを」「もし目覚めなかったら?」と郭長城が楚恕之に言うと、彼は小瓶を郭長城に手渡します。「これを。5分後目覚めなければ飲め」「これ何です?」「仙薬だ」。楚恕之は李を連れて玄関に向かいます。「ボスに飲ませるんじゃなくて僕が飲むの?」と困惑する郭長城。

特調所の玄関に来た楚恕之は、「お2人さん、何の御用で?」と男たちを出迎えます。男は「海星艦だ。特調所は即刻閉鎖する。所員は処分の決定まで待機を」と辞令を見せますが、楚恕之は無言でそれを払い除けます。「帰れ」「我々も任務なんだ。通してくれ」と男は特調所に上がり込もうとしますが、楚恕之が立ちはだかります。「本当に造反する気か」「どう取るかはお前たちの勝手だ。俺を倒して特調所に入れるかどうか試してみろ」と男たちを見下ろす楚恕之。

苦しげな祝紅に触れようとした郭長城は、楚恕之の忠告を思い出し、手を引っ込めます。祝紅は夢の中で特調所の机に置いてあるおやつをつまみます。「全然美味しくないわ」と微笑みながら食べ、高いヒールでよろよろと歩き始めます。「歩きにくい靴ね」と文句を言いながら歩いていると、祝紅は倒れそうになります。
そこに今の趙雲瀾が現れ、「祝紅、俺と帰ろう。夢に長居すると戻れなくなる」と訴えます。祝紅は「何を言ってるの?」と言いながら、目を合わせません。「目を覚ませ、帰ろう」「離してよ!」と祝紅は趙雲瀾に握られた腕を振り払います。

天柱に縛りつけられ呻いている沈巍。「趙雲瀾に何か起きている…。何があった?意識が不安定になっている。どこだ?どこにいる?」と顔を歪ませながら呟くと、「あはは!どうした?心配か?」と夜尊が笑います。「彼に何をした?」「美しい愛の夢の中にいる。ある者が作る夢には、誰もが酔いしれ、目覚めるのを拒む」「魘公子か?」「お前の夢はどうかな?親愛なる兄さん」と夜尊が言うと、沈巍は皮肉げに笑います。
「夢は見ない」「見る勇気がないのでは?」「夢など必要ない」「それは残念だ。知っているか?趙雲瀾の夢はこの上なく面白い」「彼に手を出すな!許さないぞ!」と吠えた沈巍は天柱の鎖に締め上げられ、首や耳まで真っ赤にして、脂汗を流しながら苦しみます。

郭長城は仙薬の蓋をを開けると一気に飲み下します。うえっ、げえっ、と咳き込み、「これお酒だ」と涙目になります。

「彼はレディーが好きだと言ってたわ。ヒール姿を褒めてくれた。慣れなきゃ」と練習する祝紅の横で床に這いつくばる趙雲瀾。その場に郭長城も突然現れます。「確か酔って…」とあたりを見回すと、そこには趙雲瀾と祝紅が。「所長!所長!」と叫びながら近寄ってきた郭長城に、趙雲瀾は「どうやって?」と驚きます。「楚さんのお酒を飲んだんです。寝落ちして気づいたらここに」「分かった、祝紅に夢だと悟らせよう。一緒に出よう」「でもどうやって?」「分からん」「祝紅さん、祝紅さん」と郭長城が彼女に触れようとすると祝紅は「触らないで!」と彼を突き放そうとしますが、その瞬間、彼女が楚恕之の操る傀儡から出た糸に縛られます。

目が真っ赤に変化する祝紅。「お前は周りが見えていない、3日だけやる」と言う叔父、「趙雲瀾、一言でいいの。蛇族とは縁を切る」と言う自分、「お前を傷つける真似はしたくないんだ。お前が幸せならそれでいい」と言う趙雲瀾。それらの言葉を反芻し、祝紅は崩れ落ちます。
「祝紅」と呼びかけながら趙雲瀾が彼女に近寄ると、「思い出すのは嫌。起きたくない、起こさないで。部下で十分だと思ってた。愛されなくても必要としてくれたら、森には戻らない。なぜ分かってくれないの?引き止めてもくれない。私を軽蔑してる?それでもあなたと一緒にいたい」と矢継ぎ早に言い始めます。
「あの、お2人は」と戸惑う郭長城に、「郭ちゃん、先に帰れ」と渋い顔の趙雲瀾。「方法が分かりません」と言う郭長城の尻を趙雲瀾が蹴り、次の瞬間には郭長城は夢から出ていました。郭長城を激しい頭痛が襲います。「…戻ってきた?祝紅さん、応援してますよ」と眠る祝紅を見つめて呟く郭長城。

「でも今はそれすら許してくれない、私を大切にするなんて嘘ばっかり。全部忘れられたらどんなにいいか。忘れてしまいたい。でも不可能だわ、忘れるなんて」と言いながら泣く祝紅。
「最初に会った時、ヒール姿を褒めてくれた。嬉しくて足が棒になるまで歩く練習をしたわ。普通の人間の女みたいになりたかった。ヒール姿で自然に歩くの。そしたらきっと好きになってもらえる。あなたは私にレディーになれと。生肉が恋しい時は自分に言い聞かせた。”レディーにならなきゃ”って。我慢できないときはお店に駆け込んで干し肉を買った」。祝紅の言葉を、趙雲瀾は苦しげに目をつぶりながら聞きます。
「あなたの理想のレディーになりたかったの。振り向いてほしくて。でもどんなに努力しても私を女としては見てくれない。私はここに残る。ずっとマシよ。沈巍の話もしないし、彼のために危険を冒すこともないわ。私には共に戦う資格すらない」。趙雲瀾はため息をつきます。
「夢ならいいのに。私を傷つけた言葉は全部夢で、ここが現実なの。私とあなたしかいない。あなたは私にだけ泣いて、笑うの。私にだけ怒って、私にだけ優しい。ここには2人きりよ。あなたは蛇族との約束を守っていただけ。だからわざと反抗した。少しでも私を見てほしかったから。でも重責を担うあなたには他の人の方が大事で、私なんか目に入らない」。趙雲瀾は祝紅に振り返り、近づいていきます。

「分かってないな。祝紅、俺はお前が大事だ。特調所の人間は全員俺の友達で家族だ。区別などない。俺には全員必要だ。特調所のために、行くぞ。俺と帰ろう。みんな待ってる」と趙雲瀾が言うと、「あなたも?」と祝紅は縋るように言います。「俺もだよ」という趙雲瀾の言葉に、花が綻ぶように笑う祝紅。
趙雲瀾が手を差し出すと、祝紅は笑い泣きながらその上に手を乗せます。趙雲瀾が彼女を立ち上がらせると、祝紅は「趙雲瀾、最後のお願いよ。一人の女として一言言わせて。趙雲瀾、好きよ。初めて会った時から」と告げます。戸惑う趙雲瀾。「いいわ、行きましょ」と微笑む祝紅の目から涙が零れ落ちます。「ああ」と趙雲瀾が笑顔を返すと、微笑んだまま彼は目覚めます。手を握っていた祝紅もゆっくり目を開きます。
「目が覚めました?それであの、どうなりました?」と気まずげに尋ねる郭長城に、「他人事に首を突っ込むな!それよりあの傀儡人形はなんだ?なぜ現れた?」と趙雲瀾は尋ねます。「知りません。楚さんからはお酒だけで人形は預かってません」「楚は?」「忘れてた!海星艦が来て特調所を閉鎖すると。楚さんが止めてます」。趙雲瀾は玄関へ行き、郭長城と祝紅は視線を交わします。

楚恕之の前に進み出た趙雲瀾は、「何の騒ぎだ?」と男に尋ねます。「趙所長、上からの命令です」と辞令を見せられるも、趙雲瀾は「高部長に伝えろ。俺がいる限り特調所は存続する」と言いきります。「趙所長、困ります」「困らせているのはそっちだろ。お帰りを」。男たちは渋々帰っていきます。
「所長、今朝の新聞です。特調所のことばかりが記事に」と李から見せられた新聞の一面には、大きな文字で”光明路の黒幕”と書かれています。去っていった男たちの背中を睨みつけた趙雲瀾は「分かった」とだけ言うと、楚恕之を振り返ります。「楚、話がある」と彼を引き連れて所長室へ行き、新聞と楚恕之の人形を机に叩きつけます。

「説明しろ」と言う趙雲瀾を前に、困ったような表情の楚恕之。「お前の頭は郭ちゃん並みか?傀儡が祝紅を傷つけたらどうする?目覚めなくなるぞ」「無事だろ」「無事?仲間を危険に晒して平気か?」「ボスこそ最近甘すぎだ!時には心を鬼にしないと後悔する!」と声を荒げる楚恕之。

たこわさ
たこわさ

祝紅→趙雲瀾の告白回でした。
BLヲタ的には、祝紅が恋敵認定してるのが沈巍ってところに死ぬほど萌え滾りましたね…☺️❤️

 

祝紅の蛇族っぽいところって相手を洗脳できる能力くらいかと思ってたけど、実際はヒールで歩くのも生肉食べないのも趙雲瀾に好かれる「レディー」になりたくて努力で我慢してたと知り涙が…😭

告白シーンの祝紅の涙が美しくて、言葉があまりに健気で一途で泣いちゃいました。蛇族を捨ててもいいってくらい愛してる人に家族愛しか向けられないの、辛いよな、祝紅…。

 

地界にいても「趙雲瀾に何か起きている。何があった?意識が不安定になっている。どこだ?どこにいる?」って、愛する人の状況を察知する沈巍マジパねえ…受けのピンチに必ず駆けつける、セコム攻めだ…😭❤️

 

「夢など必要ない」の力強さには「夢ではなく現実にするからな」というパワーを感じるし、敵に生殺与奪の権を握られていても「彼に手を出すな!許さないぞ!」と吠えられる愛の強さが本当に尊い😭❤️

 

第32話 過去の弱み

<あらすじ>
ネット上では地星(ちせい)人を匿っていたとして特調所への批判がエスカレートする。
趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は人々に事情を説明すべきだと上層部に訴えるが、海星鑑(かいせいかん)の高(ガオ)部長は取り合わない。
そんな状況に腹を立てた地星人の楚恕之(チュー・シュージー)は、沈巍(シェン・ウェイ)を連れ戻すため、郭長城(グオ・チャンチョン)と共に地界へ向かう。

「仲間を危険にさらして平気か?」「ボスこそ最近甘すぎだ!時には心を鬼にしないと後悔する!傀儡はあんたに危険が及べば動く。怪我をすれば祝紅が悪い!」「仲間と敵の見分けもつかないのか!」「俺なりのやり方だ!」「辞めたければ…」と趙雲瀾の怒りがヒートアップしたところで、所長室に大慶が入ってきます。

「ノックをしろ」「急いでいるのにそんな暇があるかよ!」「叢波は?」「見つかった。ネットの情報を削除させてるが、拡散が速くて限界がある」「内も外も問題ばかりだ」と趙雲瀾はそっぽを向いている楚恕之の背中を睨みつけながら言います。
大慶は崩れた三角錐のお香を見て、「黒枹使から連絡は?」と嬉しそうに尋ねます。趙雲瀾はしばらく黙った後、「お前達はここで待機してろ。俺は地界へ」と言います。「駄目だ。今あそこは危険だ」 「放っておけと?」と、今度は大慶と趙雲瀾が言い争いになりそうになり、楚恕之は「俺が行く。ボスがいないと所員は不安になる」と言います。
趙雲瀾は手を上げ顔を顰めると、「少し待て」とため息をつきます。

天柱の前で夜尊は、長髪の男を前に「どうした。失敗したのか?」と尋ねます。「自分でやるか?」と不遜に言う男の首を黒い煙で締め付け、「お前の力に興味がある。私が借りてもいい。聖器を得るために心を征服せよ」と告げます。男は朦朧とし、「心を征服せよ…」と繰り返します。夜尊の背後で沈巍は苦しみ続けています。

郭長城は鼻歌を歌いスキップしながら特調所に出所してきます。「副所長には小魚を」と独り言を言っていると、楚を見つけます。「今日は早いですね、楚さんの好物を」と彼の机に何かを置こうとした途端、彼は楚恕之に首を掴まれ締め上げられます。
はっと郭長城が目を覚ますと、そこには普通にそれぞれのデスクに座る楚恕之と祝紅がいます。郭長城はあたりを見回し、大慶に「副所長、祝紅さんの夢を操ったのは地星人ですか?」と尋ねます。
「どうした?眠いのか」「昨夜も寝ていないし、今日も祝紅さんの夢の中でひと騒ぎを。睡魔に勝てません」と愚痴を言う郭長城に、大慶はため息をつきます。「夢の中じゃ何でもありだぞ。話を聞く限り警戒が必要だ。幸い祝紅は目覚めたが、寝るのは危ない。僕も我慢してる。老猫なのに」と文句を言う大慶をよそに、「寝るな。駄目だ、祝紅さんみたいになるぞ」と郭長城が自分を鼓舞していると、祝紅が郭長城を睨みつけます。
大慶はわくわくした表情で、「教えろよ。夢の中で祝紅とボスに何があった?何かいい話は?」と尋ねますが、郭長城は真面目な顔で「内緒です」と返します。「夢の中の話だし渋るなよ」と言う大慶ですが、郭長城は楚恕之を見た後、「夢は現実に?」と不安げに尋ねます。「今の状況じゃ何でも起こりうる。早く災難が過ぎ去ってほしいよ」と呟く大慶。郭長城は夢の中で楚恕之に締められた首を触ります。

暴力、DV、虐待

夜尊に殺されかけた長髪男はこっそり特調所を外から見つめています。

パソコンを見ていた郭長城は驚き、「皆さん見てください!楚さん、これは」と一同を呼び寄せます。「”特調所は凶悪な殺人犯を匿っている”」と祝紅がネット記事のタイトルを読み上げた途端、楚恕之の顔色が変わります。

「特調所は特殊な機関で不可解な事件を処理しています。いわゆる地星人が起こした事件です」と海星艦で高部長に詰め寄る趙雲瀾。「本気か?民衆に事実を説明すれば大騒ぎになるぞ」と高部長は聞き流します。「では全ての暴言に目をつぶれと?」「その話は後に。今は特調所に対する火消しが優先だ。殺人犯を匿っていた問題をまず解決しろ!」「なぜ俺たちがスケープゴートになる?」「趙雲瀾!分を弁えろ!」「上から物を言うな!批判するのは簡単だろうが、命を張っているのは俺たちだ。安全な場所にいるあんたに白黒を語る資格はない!ネットで騒ぐ奴らにもな。それから特調所の奴らに手を出すな。楚にもだ。罪を犯したのは過去のことだろ。何かしようものなら覚悟しとけ」と啖呵を切って去っていく趙雲瀾。高部長は無言で立ち尽くします。

楚恕之は自分のデスクで悩んでいました。「今度は凶悪犯を匿ったですって?全く」と怒る祝紅を、大慶は「もうよせ。火に油を注ぐな」と咎めます。「何を今更、とっくに炎の中よ」と口の減らない祝紅。「所長が海星艦に呼ばれたのはこの件で?」と郭長城が言うと、趙雲瀾がちょうど特調所に帰ってきます。
「生きてるか?やけに静かだな。海星艦を脅かしておいた。心配するな」と趙雲瀾が言うと、楚恕之が椅子から勢いよく立ち上がります。「閉鎖の件は?」と尋ねる大慶に、「無視すりゃいい。空気が重苦しいぞ。暇なら体を鍛えろといつも言ってるだろ?なのにどうだ。寝不足に、噂話の検索。全員苛立って気を揉んでる。気合を入れろ」と趙雲瀾は全員に向けて喝を入れます。
「ボス、地界に行かせてくれ」と頼む楚恕之。「許すと思うか?海星艦はお前に目を光らせてる」と趙雲瀾は言い、楚恕之は苦しげに顔を背けます。「なら私が」と祝紅が声をあげると、「何をしに?反省文は?」と言います。彼女が無言で机の上にあった反省文を突き出すと、「書き直せ」と即答。「見てもいないでしょ!」「だめだ、量が足りない」。即座に郭長城を睨む祝紅。「代筆させたら更に10倍だぞ」と趙雲瀾が付け足すと、祝紅は机に反省文を叩きつけます。「分かったわ。じゃあ夢での出来事を全員に話して感想を聞くわ。それを書く」「大賛成だ!」と、笑顔の祝紅と大喜びの大慶。趙雲瀾はため息をつき、「楚、ちょっと来い」と所長室へ楚恕之に呼びます。祝紅は郭長城に「バレたわ」と文句を言いながら睨みます。

「おい、馬鹿な考えは起こすなよ」と趙雲瀾が楚恕之に言うと、彼は大きな笑い声をあげ、思いきり伸びをします。「100年前の俺はやりたい放題で、法もお構いなし。ただ罪を犯せば償わなければならない。100年も償うほどの罪を犯した。認めよう。だがその罪は俺1人の責任だ。なぜ奴らは俺の仲間まで悪く言う?ネットの奴らは何の権利があって批判を!?」と楚恕之は激怒します。「分かってる」と宥める趙雲瀾。
「お前は仲間のことには敏感だ。でも何をするつもりだ。そいつらを殺しにでもいく気か?」「そうするかもな」「100年経っても凶悪なままか。お前を煽って楽しんでるような奴らだ。なのに挑発に乗るなんて馬鹿げてる」「上等だ」「頭に血が上ってるぞ。とにかく今は何があっても耐えろ」「分かってる」「だったら俺に心配をかけないよう、大人しくしてろ」「ボス、一度信じてくれ。あんたのところに沈教授をつれて帰る」。
楚恕之に提案された途端、趙雲瀾の動きが止まります。しばしの沈黙の後、趙雲瀾は「駄目だ」と絞り出します。「一度だけ信じてくれ!」と叫ぶ楚恕之を前に、趙雲瀾は立ち上がり、「行かせない」と宣言。楚恕之は所長室から足早に立ち去りますが、趙雲瀾は彼を追いかけます。楚恕之は外出してしまいます。

「郭ちゃん荷物を持て。楚に付いていき離れるな。何かあったらすぐに報告しろ」と趙雲瀾は郭長城に命じ、郭長城は慌てて支度を整えると楚恕之の後を追います。楚恕之は地界に繋がる門の前にいました。ため息をついた楚恕之は「久しぶりに帰る」と言います。「え?どこから行くんです?」と楚恕之を見た後きょろきょろあたりを見回す郭長城に、楚恕之は「そこからだ」と門に向かって彼を背後から蹴り入れます。

楚恕之と郭長城は真っ先に地君殿へ向かいます。深呼吸する楚恕之。「楚さん、ここが例の」と怯えながら言う郭長城に、「俺の後ろに隠れていろ。一言も話すな」と楚恕之は忠告します。楚恕之は摂政官の前に進み出ます。
「楚恕之、何をしに来た?まだ服役中だろう。なぜ慌てて戻った」「特調所の使いで来た」「3年前黒枹使様の計らいで特調所に入り、すっかり今の仕事が板についていただろ?」「黒枹使様は?」「黒枹使様は…あの方は位の高い人物ゆえ、私にも行き先は掌握できぬ。黒枹使様と仲むつまじい令主もご存じないのか?」「なぜボスの話を?こっちの状況を探る気か。情報を得ようとしても無駄だ」「それは」「黒枹使様と連絡を取れ」。威圧的な楚恕之に、摂政官はやや考える素振りをしますが頷きます。「待ってろ」と摂政官が背を向けた瞬間に、楚恕之は指先から糸を出します。
衝立越しに摂政官の動く影を見つめる楚恕之。しばらくして戻ってきた摂政官は、「黒枹使様は地上におられ、ご安全なご様子だ」と言います。楚恕之は笑い出します。「そうか、神業を持っているようだな。先の折れた香を使って黒枹使様と連絡が取れるとは」と、手のひらから折れた香を手から出します。
「傀儡人形を使って私をハメたのか!」「こうでもしなきゃ貴様の尻尾を掴めない!どうせ夜尊の手駒になったんだろ?」「楚恕之、落ち着け。もうすぐ刑期は終わる。あと一息なのに苦労を水の泡にすることはない」「ははは!!自ら望んでつけた枷だ!貴様に俺は抑えられない!」「聞きたいことがあれば答えよう」「黒枹使様は地界にいるのか?」「おそらくな」「どこにいる」「本当に私は知らぬのだ」と、楚恕之が狂人の鱗片を露わにしても摂政官は知らぬ存ぜぬを通します。

 

地界の街に出た楚恕之と郭長城。「楚さん、まだ沈教授を捜すつもりですか?」「特調所に戻って状況を報告する」「はい」と、郭長城は楚恕之の言うとおり特調所に戻ろうとしますが楚恕之はその場から動きません。
「あれ?帰るのでは?」「取りに行きたいものがある」と楚恕之は足早に歩き出します。土を掘り返し、大切そうに埋まっていた箱を開ける楚恕之。しかし中には何もなく、彼は真っ青になります。驚愕し、全速力で走り出します。そして地君殿に駆け込むと喚き散らします。
「なぜなくなってる?念之!!どこに行ったんだ、なぜ消えた!」と半狂乱になる楚恕之に、「楚さんどうしたんです?」と怯える郭長城。「俺のものだ!頼むから返してくれ!」と叫ぶ楚恕之。

「楚恕之、人を殺めれば監獄行きだぞ」と摂政官が柱の陰から言い渡します。「また過去と同じ罪を犯すつもりか?」「俺が望んだわけじゃない!俺を追い詰めるからだ!」「夜尊様よりお前に伝言がある。あの方が弟をかわいがっているそうだ」「なんだと?なるほどな。3年前、俺の弱みを握るためあれを持ち帰らせなかったんだな。薄汚い貴様らに俺を裁き人の生死を決める資格が!?」と唾を飛ばし怒る楚恕之を見ながら、摂政官はうっそりと笑います。

街を歩く楚恕之を、郭長城は「楚さん」と呼び止めます。楚恕之は郭長城を睨み、「おい、まだついてくる気か?俺が何者か分かってるのか?あ?」とすごみます。「分かってます。いえ、分かってません。僕が言いたいのは」と郭長城がおどおどと言うと、「俺が人殺しだとさっき聞いただろ!?それだけじゃなく、人の肉も食ったことがある。お前は食べたことないだろ?ああ?教えてやろう、人の肉は頬張ると滑らかで柔らかい。軟骨は歯ごたえがよく、真っ赤な血のついた肉は熱を帯びている!まるで鍋から取り出したばかりのようにな!ははは!!」と郭長城の耳のそばで恐怖を煽るように言う楚恕之。郭長城は震えます。

「いいか、俺は人を食った悪魔なんだよ。あはは!!」と楚恕之は笑って歩き出しますが、郭長城は泣きながらも執拗に楚恕之について来ます。「なんだ?俺の餌になりたいのか?俺がキレる前に消えろ!早く!」「嫌です!所長から離れるなと命令が」と頑固な郭長城に、楚恕之はキレて彼の首を締め上げます。
「俺は罪を恥じていない!贖罪ならとっくに終わってるはずだ!なぜ奴らはまだ弟を苦しめる?あいつはもう死んだ。死んだんだよ!」と楚恕之は郭長城を地面に叩きつけます。げほげほと必死で息をする郭長城。
「あれを守るしか俺にはできない」と言いながら楚恕之は郭長城のそばにかがみこみます。「帰ってボスに伝えろ。俺は臆病なただの小物だと。無力で人に操られるちっぽけな脇役にすぎない。だが、大切なものは取り返す。ことが済んだら、帰ってボスに償いをする」と言い終えると、立ち上がり、目に涙を溜めて歩き出します。郭長城は地に伏せたまま彼の背を見つめることしかできません。

天柱に縛り付けられ憔悴している沈巍。そこに、「夜尊!出て来い!」と楚恕之が走って来ます。そして沈巍を見つけます。「黒枹使様」と、楚恕之は鎖を外そうと闇の力を送りますが、うう、うう、と沈巍が苦痛に痙攣するだけで全く解けません。「なぜだ?」と慌てて近寄ると、「他人の身より己を案じることだ」と夜尊の声が響き渡ります。そして楚恕之の身体を黒い塊が通り抜けたかと思うと、そこに楚恕之に瓜二つの男が現れます。

「兄さん」と男が楚恕之に呼びかけると、楚恕之は恐る恐る振り向きます。「念之、念之、お前なのか?」「そうだよ。兄さん元気だった?」。楚恕之は目に涙を溜めて彼を力いっぱい抱きしめようとしますが、彼は煙になって消えてしまいます。涙する楚恕之。「故人に会い、懐かしい気持ちになったろう。あの姿はお気に召さなかったか?では元の私に戻ろう」といつもの煙の姿になる夜尊。
「夜尊、頼む。俺の大切なものを返してくれ」と懇願する楚恕之。「なぜここにあると思う?」「お前が今の地界を操ってる!ここになくても在りかは知ってるはずだ!」「ははっ、もし渡さなければ?」と夜尊が笑うと、楚恕之は夜尊らしき煙の塊を糸で緊縛します。
「奪い取る気か。私に敵うとでも?」「試すまで分からない!」と楚恕之が叫んだ瞬間、夜尊の姿が念之に変化します。
「兄さん、僕だよ」「念之」と楚恕之が手を伸ばすと、念之の姿で夜尊が話し始めます。「弟は死ぬ前に、能力で人形の中へ。深い傷を置い肉体は滅びたが、この人形の中へ魂を残した。いわば弟の化身だ。弟が恋しいか?」。

そこに郭長城が転がるようにやって来ます。「楚さん!」「そいつを殺せば返してやろう」「あれは沈教授?」と郭長城が沈巍に気づいた途端、彼は夜尊によって煙で縛られてしまいます。「やめろ!手を出すな」と楚恕之は叫びますが、「弟を諦めるのか?そこの他人のためにまた弟を犠牲に?早く殺せ」と夜尊は非情に言い渡します。「できない」「弟のため」「無理だ」「では私が手をくだそう」。「楚さん、助けて!」と郭長城が言った瞬間に、夜尊が彼に一撃を喰らわせます。「なぜだ!やめろ!」と叫ぶ楚恕之の近くで郭長城の身体も地に崩れ落ちます。号泣する楚恕之。
「あはは!さあゲームは終了した。楽しませてくれて礼を言う。受け取れ、ご所望のものだ」と夜尊が言うと、楚恕之の目の前には念之が立っていました。笑顔の念之。「兄さん」「念之」「兄さん」「念之、念之…」。念之の名を呼びながら、楚恕之は天柱の前で卒倒します。沈巍も天柱に縛り付けられたまま失神しています。

「その採用通知だ」と男が採用通知の書類を楚恕之に差し出すと、「どうも恕之です」と同じ顔の青年がひょこりと壁の向こうから顔を出します。「僕が恕之です、ほら僕がサインしますよ」「サインは本人がするものだ」「…お遊びは止めるよ。僕は念之で恕之じゃない」。男は困惑します。
「兄さんおめでとう」と祝う念之。「摂政官様」と巻物を恭しく渡す恕之。摂政官は巻物を受け取り、にやついています。

「おい、起きろ」と楚恕之が趙雲瀾に揺り起こされると、そこは特調所の自分のデスクでした。「沈巍が囚われの身に?」と尋ねる趙雲瀾に、「あ…ああ…そうだ、黒枹使様は気を失ってた。状況を掴めてはいないが危険ではないだろう。鎖が解けないようだった。夜尊も簡単には殺さないはずだ。長城は先に返した」といつもの楚恕之では考えられないような動揺した物言いをします。
「そうか」「じゃ、じゃあ俺も帰るよ。お先に」「待て、書庫に泊まれ。休んでいいが寝るな。祝紅の夢の件も未解決だ。1人になるなよ。まだ仕事もある」と趙雲瀾が念を押すと、楚恕之はふらふらした足取りで書庫に向かいます。傀儡を見つめる楚恕之。傀儡を胸の前で握りしめたまま、ソファーに横たわります。

「楚さん、起きて。楚さん」と誰かに肩を叩かれ楚恕之が起きると、そこには元気な郭長城がいました。「長城、戻ったのか?無事で?」と幽霊を見るような顔で楚恕之が言うと、「元気ですよ。怪我も軽く、副所長が手当を。もう平気」と郭長城は笑います。「ありえない。天柱の下で倒れてた」「死んだふりです。夜尊を騙したんですよ」「おかしいだろ。夜尊はお前が死んだと思ってた」「楚さん、無事じゃ駄目だと?試しに叩いてみましょうか?えへへ、夢なら痛くないですからね。でもやめておきます。気が引けますし、叩く勇気もありません」と笑う郭長城。楚恕之は拳を握ります。
「楚さん、地界でのことを秘密にしたいから僕が邪魔に?」と不安げな郭長城に、楚恕之は慌てて「まさか!お前が戻って嬉しいよ。ただ俺は」と口籠もります。「分かってます。大切なものだったと。それに僕が勝手にあそこにいったんです。夜尊も騙せましたし、上出来じゃ?」と能天気な郭長城に楚恕之は思わず笑ってしまいます。「長城、ありがとう」「食事を」「すまない」「どうぞ」「食欲がない」「そうですか、ではお腹が空いたときにでも」「わかった」と会話すると、「ほら、横になってゆっくり休んで、さあ」と郭長城は楚恕之をソファーに横たわらせます。郭長城は傀儡を握りしめる楚恕之を見つめ、「さあ、目を閉じて」と促します。ゆっくり目を閉じる楚恕之。

まだ念之が生きていた頃のことです。
街の隅で水の入った壺を頭の上に乗せて立っている念之。そこに楚恕之が現れます。
「兄さん」「それを下ろしてパンを食べろ」と、楚恕之は罰を受けている弟が飲食できずにいることに耐えられずこっそり食事を持ってきたのです。「やめとくよ、母さんに怒られる。ばれたら俺が母さんの機嫌をとる」と拗ねる弟に、「代わりに俺が持つよ」と壺を奪う楚恕之。「そうか?」と、念之は楚恕之の持ってきたパンを頬張り始めます。「これ、兄さんの手作り?すごいな、兄さんには敵わないよ。見た目は同じでも性格は全く違う。生まれつきの差なんだ」と言う念之に、「念之、お前が幸せならみんなそれだけで十分だ」と言う楚恕之。「交代するよ」「まだ持てる」「いいから早く。…兄さん本当に地君殿で働くの?」「ああ、あそこは安心して働ける場所だからな」「でも兄さんの特殊能力が活かせないぞ」「あの能力に執着はない。穏やかな暮らしが一番だ。お前も忘れろ」「いつか僕は黒枹使様みたいな英雄になる!」と、兄弟は穏やかに会話をしています。

しかし後日、酒場に胸元を切り裂かれ血に塗れ、鋭い目で立ち尽くす楚の姿がありました。「念之、あまり騒ぎをおこすな。いつか大変なことになる」と心配する楚恕之。
「判決を下す。念之は酒場で揉め事をおこし人を殺めた。よって…」と摂政官が地君殿で念之(?)を跪かせ判決文を読んでいると、「待ってくれ!僕が念之だ!」と走り込んできます。「こやつは?」と摂政官が眉を顰めると、跪いている念之(?)が「彼は兄の恕之だ。兄は僕の代わりに罪を被る気だ」と淡々と言います。「嘘だ!ここに証拠が」と、走り込んできた念之は服をまくり胸の傷を見せ、「酒場で負った傷だ」と言いますが、跪いた念之(?)は「傷くらい誰にでもある」と返します。「兄さん、庇うのはよせ!」「庇う?僕こそが念之だ!」「違うだろ、偽物め!僕が…」と言い争う2人。摂政官は顔を歪めます。
「口を閉じろ、恕之と念之か。見分けらぬな。だがたとえ見分けられても罪を犯した者がどちらなのかは分からぬ。かように兄弟愛が深いのならば…」と摂政官は言うと、2人とも罰するように衛兵に命じます。
補佐官から鞭で打擲され全身血塗れになりながらも、楚恕之は「念之、大丈夫だ…」と言い、失神。補佐官は「まったく哀れな兄弟だ。自分が身代わりになれば片方は助かると?摂政官の性分を知らぬようだな。あの男は疑わしき者はみな罰するのだ」とため息をつき、焼鏝を胸に押しつけ楚恕之を絶叫させます。

傀儡を握りしめながら、苦しむ楚恕之。郭長城は慌てて楚恕之を揺り起こすと、「楚さん、目が覚めました?」と不安そうに尋ねます。「長城」と言う楚恕之の目は郭長城を見ておらず、自分の両手と体を見て怯えています。「なんです?」「火が俺を焼き尽くそうとしてる!」「どこに火が?夢ですよ!」「夢?」。楚恕之は全身から滝のような汗を流していますが、郭長城が必死で宥めたおかげでやっと落ち着きます。郭長城は「楚さん、そんなに怖い夢でしたか?」と心配し、楚恕之は手から床に落ちた傀儡を拾い、見つめます。
「弟はやっぱり死んだ」と傀儡を握りしめ、自分の額にあてる楚恕之。郭長城は彼を心配そうに見つめます。

楚恕之はぼんやりと外を散歩しています。ベンチに寄りかかり寝こけていた郭長城は、ハッと起きると楚恕之を見つけて駆け寄ります。「楚さん、待って!捜しましたよ」と郭長城が声をかけても、楚恕之はまるで抜け殻のようです。郭長城は恐ろしく遅い楚恕之の歩く速度と同じ速さで付いてきます。
「何の用だ?」「楚さんが心配で見張りを。何かあっても役には立ちませんが、通報くらいは出来る。副所長から心当たりを聞いて、やっとの思いでここにつきました。迷子になりながら楚さんを探し回りました。そして疲れたので座って休んでいたら寝てしまいました。でも会えて良かった!前に見たんです。楚さんが僕を殺そうとする夢を。現実では生かしてくれました。確かに、夢には現実が投影されていて実生活と関連がある。でも別物です」と郭長城が必死で言うと、楚恕之の足が突然止まります。
楚恕之は無言で横に流れる川を見つめます。郭長城は頭を掻きます。「すごく考えた話で、練習もしたのにうまく伝えられない」と困ったように言う郭長城に、「現実と夢が同じならいい。そう思ってるとしたら信じるか?」と楚恕之は静かに告げます。

たこわさ
たこわさ

「ボス、一度信じてくれ。あんたのところに沈教授をつれて帰る」と楚に言われた跡に趙雲瀾の動きがとまるのがめちゃ愛おしいです。趙雲瀾を動かすのはいつも沈巍なのだ…😭

 

夜尊が長髪の男(魘公子?)に命じた「心を征服せよ」がすごく気になります。あれは楚恕之を攻撃しろってことなのかな?

 

それに郭長城が「夜尊の前で死んだふりをした」って言ってたけど、正直ありえなくないですか…!?だって夜尊超強いのに!?もしや郭長城の本物は地界にいて、特調所にいる郭長城は夜尊の手下が化けたスパイ?🤔

 

最後に楚恕之が言った「現実と夢が同じならいい。そう思ってるとしたら信じるか?」が不穏すぎます。どういうこと?現実の弟はもっとむごい有様で死んだってこと?😨

 

第33話 夢と現実

<あらすじ>
楚恕之(チュー・シュージー)は自分が起こした事件のせいで弟を失った過去を語る。
そんな彼に郭長城(グオ・チャンチョン)は聖器を使って弟を生き返らせようと提案する。
しかし、それは夢を操る地星(ちせい)人 魘(えん)公子が見せた幻だった。

「信じます、絶対に。だけど楚さん、夢を見ていた時、苦しそうでしたよ」「そうだ、俺は夢の中で鞭に打たれ、火で焼かれる。炎の熱さで傷口が引き裂かれる苦痛を味わう。弟の代わりに罰を受けてるんだ。後悔はない」。川に向かって自嘲するように笑う楚恕之。
「現実の世界では何もできなかった。だから夢の中で弟の苦しみを肩代わりしてやるんだ」と手すりにもたれかかります。「現実が夢と同じならどれだけいいか。念之を無駄死にさせた」と目をつぶり後悔する楚恕之。
「楚さん…弟さんは念之というんですね。元気を出して。僕は楚さんを兄のように慕ってきました。迷惑でなければ僕が代わりに呼びますよ、”兄さん”と」と郭長城が言うと、楚恕之は驚いたように郭長城を見ます。緊張で体を強ばらせる郭長城。
「今、何と言った?」「も、もし迷惑なら今の言葉は忘れてください」。楚は珍しく柔らかく笑い、頷きます。「”兄さん”、僕と楚さん、それから念之。3人で地界で生活を」と郭長城が提案すると、楚恕之は郭長城を抱きしめます。郭長城も楚恕之をおずおずと抱きしめ返します。

楚恕之はまた地界への門の前に郭長城を連れて行きます。「長城、本当にいいのか?地界は光が届かず、闇の力が溢れてる」「僕には何の取り柄もない。住む場所なんてどこだって同じです。僕みたいな取るに足りない人間は摂政官には敵わない。だって奴は弟さんを死に追いやった」。郭長城の発言を聞き、楚恕之は違和感を覚えます。
「なぜ弟の死が摂政官と関係していることを?」。郭長城は笑い、「楚さんが奴を恨んでるから推測したんです。当たりました?穏やかな暮らしが一番です」。
「穏やかな暮らしが一番だ」と回想の中で自分が弟に言ったことを思い出す楚恕之。楚恕之は郭長城の肩を叩き、「行こう」と促します。郭長城は笑顔で頷きます。門に共に入っていく2人。

地界の街角で階段藁を敷いて寝そべり、空をみあげる楚恕之。「楚さん、念之のことを聞いても?」「念之か?あいつは大食いで、一日中何かを食ってた。俺はいつも食事を作ってやった」「楚さん料理ができるの?」「意外か?」「いえ、ただ料理をする姿は見たことがありません。所長も副所長も楚さんは家事ができないと言ってたから、少し驚いただけです。料理をしなくなったのは念之を失ったからですね。これからは僕がおいしい物を作りますよ!」。会話の合間に盃に注いだ酒を飲み、楚恕之は上機嫌です。
「楚さん、念之に会っても?」と尋ねてきた郭長城に、「会う?」と楚恕之は訝しげに返します。場に緊張が走ります。「あの人形の中にいる念之に会いたいんです。今どんな姿で、どんな状態なのか」。楚恕之は体を起こします。「状態とは?弟はずっとあのとおりの姿だ」「楚さん、念之がよみがえるなら?」「何を言ってる」「念之を復活させる」「そんな馬鹿な話が…もう死んだんだぞ」「僕だって死んだけど生き返ったでしょう?」。楚恕之は瞠目します。「怖いんですか?愛する弟でしょう?生き返るのが怖い?」「まさか!」「なら何を迷う?あの時なぜ助けてくれなかったのかと責められるのが怖いのでは?」「そうじゃない!!」。
楚恕之は勢いよく立ち上がります。「弟が負傷したのは自業自得だ!地君殿に助けに行ったのに、奴らは弟を解放しなかったんだ!俺は助けたかった!」と叫ぶ楚恕之に、郭長城は「しーっ」と静かにするよう宥め、彼の頭を引き寄せ自分の肩にもたれさせます。
「僕がいます、安心して。念之は許してくれる。楚さん、僕は生き返らせる方法を知っています」と言う郭長城に、楚恕之は驚きます。「本当か?」「聖器です。聖器を使うんですよ」。楚恕之は目を見張ります。

特調所の前に戻ってきた楚恕之と郭長城。郭長城は落ち着きなくうろうろと歩き回ります。「話し合って決めたでしょう。大丈夫ですよ」と言う郭長城に、「本当に?」と不安げに返す楚恕之。「図書館にこもるのが好きなので、本で読んだんです。”魂を失わぬものは聖器の力で再び蘇るだろう”と。”魂を失わぬもの”の意味が不明だったけど、今なら分かる。念之は死の直前、人形の中に逃げた。だからまだ魂は存在してる。まさに念之のことですよ!」と興奮する郭長城を楚恕之はじっとりと見ます。「だがもし失敗したら?」「念之は人形のまま!僕と楚さんは地界で暮らすんです。聖器は元の場所に戻しておくだけでいい。所長も分かってくれます」。郭長城は後押しをするように楚恕之の肩を叩きます。
「悪夢から解放されますよ」と郭長城に囁かれ楚恕之が特調所に入ろうとすると、郭長城が慌てて彼を引き止めます。「楚さん、バリアを忘れてた。念之は地星人だしバリアを通れない。先にバリアを壊しましょう。大丈夫です。また張ればいい。さあ」。そう言われ、楚恕之は言われるがままに「下がってろ」「ええ」とバリアを破る準備を始めます。楚恕之は手に力を込めて闇の力を集めると、バリアに干渉し始めます。喜ぶ郭長城。

「長城、全て片付いたら食事でもしよう」「ええ!」「激辛料理はどうだ」「ええ、大歓迎です!」。その瞬間、楚恕之は郭長城を振り向き睨みつけます。「お前は誰だ?」「楚さん、郭長城です」「何者だ!」と楚恕之が郭長城に向かって力を放つと、郭長城の体がガラスに映った映像のように粉々に砕け散ります。楚恕之が街中を闇雲に走っていると、目の前の門が閉じられます。気配に気づきハッと背後を見ると、どれだけ糸で攻撃しても長髪の男が瞬間移動しながら迫って来ます。
「なぜ気づいた?」「俺は辛いものが苦手だ。長城が忘れるはずがない。何者だ」「私は魘公子。ここは夢の中だ」。楚恕之が彼を殴ろうとしますが、彼はするりと瞬間移動してしまいます。「私は夢の世界の主」「外へ出せ!」「夢の中は美しい。お前の愛する者たちもいる。なぜ外へ出たがる?なぜなのだ!」と魘公子が吠えた瞬間、楚恕之は彼に再度殴りかかります。空を切った拳の先には、地君殿の採用通知を得た時の映像がぼんやりと空間に浮かんでいます。

「兄さん、1つお願いがある。あの人形は…もう使わないで」「俺は英雄になりたいんだ。折角の能力を無駄にはしない」「僕は力を捨て、地君殿で働くよ。穏やかな暮らしが一番だ」。地君殿で働くことになったのは実は念之で、料理がうまいのも念之でした。楚恕之はポケットから人形を引っ張り出すと、念之に差し出します。
「それは?」「人形を操るのは止める。お前に渡しておくよ。俺だと思って持ってろ」。兄からもらった人形を握る念之。

しかし後日、楚恕之は酒場で別の人形を片手に拳を血塗れにし仁王立ちになっていました。補佐官に連行されていく楚恕之のもとに、「兄さん!必ず助けるよ」と念之が不安げな表情を浮かべながら駆けつけます。
翌日、念之は町中で見知らぬ男に「待て、バーで俺を殴った奴だな」と絡まれます。「人違いだ」「人違い?シラを切るのか」と、男は念之の胸ぐらを掴むと近くの壁に彼を思いきり叩きつけます。「何をする!」「覚悟しろ、痛い目に遭わせてやる!」。念之は男に顔の形が変わるほど殴られ、失神し道に倒れ込みます。

暴力、DV、虐待

後日、楚恕之は糸を操り衛兵たちを倒します。念之を殴った男を見つけ出すと、楚恕之は彼を追い詰めます。「なぜ生きてる!」と怯えて叫ぶ男に、「俺は楚恕之。お前を殴ったのは俺だ」と淡々と言います。「死んだのは?」「俺の双子の弟だ。俺と瓜二つだが性格は正反対で弟は温厚なんだ!」。怒りに燃える目をした楚恕之を前に男は怯え、慌てて逃げ出そうとしますが、彼の目の前には宙に浮かんだ人形があります。
「許してくれ!お願いだ」と地べたに這って懇願する男に、「命で償ってもらう」と楚恕之は冷たく言い放ち、彼を一撃で殺します。

楚恕之は手足と首を拘束され、再度地君殿に連行されます。「敵討ちのため脱獄したうえ、人を殺めた罪は重い。100年の刑に処する」と、摂政官は「殺」と書かれた札を楚恕之の足元に投げつけます。
思い出を映している空間から魘公子の顔だけが浮かびあがり、「兄が起こした事件のせいで犯人と間違えられ、弟は命を奪われたのだ。このままでいいと納得できるのか?」と楚恕之に問うてきます。

楚恕之がハッと目を覚ますと、彼は傀儡を両手で握りしめソファーで寝ていました。
「起きたか」とそばの椅子に座っていた趙雲瀾が楚恕之に声をかけると、楚恕之は「長城は?」と勢い込んで尋ねます。趙雲瀾は無言です。「長城はどこだ?教えてくれ」「楚、夢は覚めたんだ」。楚恕之は衝撃を受けます。「つまり長城は、あれから一度も戻ってきていないのか」と彼の目にみるみる涙が浮かび、趙雲瀾に縋りつきます。「つまり俺が、弟の遺品を取りに行ったせいで長城は殺された?」。
趙雲瀾は無言で楚恕之を見返します。楚恕之は荒く呼吸し、「駄目だ、助けに行く」とソファーから立ち上がり歩き出そうとしますが、ずっと寝ていて足が萎えているのか、満足に立つことすらできません。机の脚を伝って必死で起きあがろうとする楚恕之ですが、バランスを崩して崩れ落ちてしまいます。
「嘘だろ、嘘に決まってる!あり得ない!」と狂ったように笑う楚恕之。「だって俺はさっき夢の中で、長城に会ったんだ!長城は俺を”兄さん”と。”地界で暮らそう”と…」。楚恕之の傀儡を取り上げ、無言で見つめる趙雲瀾。
「別の夢では弟に会った。その夢の中で俺たち2人は入れ替わってた。優等生が俺で、面倒をおこすのが弟。俺は弟を救おうとしてた。弟を見捨ててはいない!」と吠える楚恕之に、趙雲瀾は静かに首を横に振り、ぽつりと涙を一粒溢します。楚恕之は咽び泣き、「分かってる。俺は、無能な男だ…」とめを開けたまま床に倒れ込みます。傀儡を握りしめる趙雲瀾。

「誰が決めたのだろう 守り続けた君と僕との約束 絶望の淵でも変わらぬ思い 逃げはしないし偽りもしない 弱さを打ち砕き 信念を心に刻む 揺るがぬ思いは覚醒の時を待つ 懐かしい声が耳元で囁く 変わらぬ勇気を持ち続けてと」

床に伏せて泣く楚恕之。椅子から立ち上がった趙雲瀾は彼の手に傀儡を握らせ、肩を叩くとその場から去ります。傀儡を抱きしめ丸くなり、楚恕之は泣き続けます。

地界の天柱の前で、魘公子は夜尊を前に跪いています。「また失敗したのか」と苦々しく言う夜尊の背後で、沈巍は苦笑します。
「二度もチャンスを与えた」「次失敗したら生きては戻りません」「約束だぞ」。話し終えると、煙のように消える魘公子。
「彼らの精神力は強い。それぞれ心に悩みを抱えているが、信念に支えられている。現実は残酷で悲しいものだが必ず喜びがあり、真の友が待っていてくれる。お前は勝てぬ」と沈巍が諭すように言うと、「喜びがある?友が待っている?兄さん、そんな話 馬鹿らしいと思わないか?」。沈巍と対峙すると、彼にじわじわと攻撃する夜尊。
「兄さん、目を開けろ。そして私と己の姿を見ろ。友を信じたところで私たちは闇を抜け出せぬ!希望は捨て、この世が闇に染まるのを見ろ。私がその全てを取り仕切る」。夜尊の攻撃に苦しみもがくも、疲れたように笑い、目を閉じる沈巍。

所長室にて。「楚を殴るかと思った。怒鳴った?」「後悔している奴を責めてどうする?」「郭ちゃんは?万一あいつのみに何かあったら僕が楚を許さない」「縁起でもない」。大慶を睨む趙雲瀾。
「きっと無事でいる。郭ちゃんは運だけはいい。特調所に来てから何度も危機を乗り越えてきた。郭ちゃんは意外に強い。大丈夫だ」「そうだな、きっと無事だ。きっとな。…沈教授を助けにいかないのか?」「待ってるんだ」「何を?」と大慶と趙雲瀾が会話していると、窓を突き抜けて突然紙がひらひらと入ってきます。
手紙に手を伸ばした大慶の前に手を出し、我先にてと手紙を掴み取る趙雲瀾。紙には「地君殿 巍より」と書かれています。「これは?」と不審げに尋ねる大慶に、趙雲瀾はため息をつきます。
「出てくる。楚を頼むぞ」と、舐めていた飴を大慶に渡し、趙雲瀾は立ち上がりさっさと所長室を出ていきます。特に躊躇いもせず飴を自分の口に放り込むと、考え込み始める大慶。

趙雲瀾は早速地界に来ました。石を投げて衛兵の気を逸らすと、彼を殴り制服を拝借します。そのまま地君殿に潜り込むと、なんと地君の玉座そばの柱の陰に憔悴した郭長城が座っていました。
「郭ちゃん!」「所長、所長…長刀を…」「何だって?」「ここに長刀が…」と、郭長城は息も絶え絶えに視線で自分の左手先に長刀があることを示唆します。趙雲瀾はすぐにそれを手に取ります。「もう大丈夫だ、必ず助けてやる。いいな」と趙雲瀾に言われた途端、失神する郭長城。

 

天柱の前に影の男が現れ、「何者だ。…お前か」と縛られている沈巍に声をかけます。「黒枹使、久しぶりだな」と言われ、「お前は…」と沈巍は彼のことを思い出します。彼は李茜を襲った地星人です。「あの時の影か」「覚えていたか。復活した夜尊と戦うため、摂政官は俺たち罪人まで駆り出したんだ。大勢死んだが、俺は無事だった。ここで再会できるとは不思議な縁だ」と、影は長刀を懐から取り出します。

郭長城が夜尊の攻撃を受けて倒れた時、沈巍はなけなしの力を使って彼を庇い、「趙雲瀾が来たら私の長刀を渡せ」と暗示をかけていました。なのに。「なぜだ!なぜお前が刀を!」と混乱し絶叫する沈巍。影は肩をすくめます。「そうか、これが結末ということだな、殺せ」と沈巍は納得し目を閉じます。

そこに、「ちょっと待て。俺の到着を待ってからだ」と趙雲瀾が郭長城をおぶって歩きながら近づいてきます。沈巍はホッと安堵し、「趙雲瀾」と声をかけます。趙雲瀾は郭長城を天柱の前の階段に寝かせると、沈巍に近づき笑います。
「あんたは俺を連行したあと、減刑を訴え、家族も慰めてくれた。俺も恩仇の区別はつく。夜尊は”地星人に恩恵を”と言いながら海星の支配を目論んでいる。あんたがいないと終わりだ」と影は言います。趙雲瀾はイライラと「話は事が片付いてからだ。いいな?」と影に言います。沈巍は苦しげです。
趙雲瀾は長刀を両手で握ると全力で鎖に刃を打ち込みますが、跳ね返されます。「趙雲瀾」と沈巍は不安げに彼の名を呼びますが、趙雲瀾はまるで声が聞こえないように何度も何度も鎖に刃を叩きつけます。
「やめろ、それ以上は危険だ!この鎖には夜尊の呪いが。私の長刀でも呪いは解けないようだ」「呪いなど信じるか」「趙雲瀾」。再度思いきり振りかぶり、弾き飛ばされる趙雲瀾。「雲瀾!」と悲痛に沈巍が叫ぶと、趙雲瀾は呻きながら心臓のあたりを握り締めながら立ちあがろうとします。「駄目だ、止めろ」と沈巍は必死で趙雲瀾を止めようとしますが、趙雲瀾は「見ろ、切れそうだぞ」と嬉しそうに長刀を握り直します。「雲瀾、もう止めてくれ!君が深手を負う。郭くんと逃げろ!言うことを聞け!」。趙雲瀾が長刀を振りかぶると、影が横から長刀を奪い、鎖を斬ろうと何度も刃を叩きつけます。最後の一撃が鎖に食い込んだ瞬間、影は弾き飛ばされます。鎖が解けると同時に、影が人間の男に変化します。

「黒枹使…地星人を失望させないでくれよ…」と沈巍を見つめ、がくりと首を落とす男。彼のそばで跪いていた沈巍は心臓を押さえ、体を折り曲げ苦しんでいましたが、趙雲瀾がどうにか彼を立ち上がらせます。趙雲瀾と趙雲瀾は共に天柱を見上げます。「敵は討つぞ」と趙雲瀾が沈巍を見つめます。趙雲瀾は沈巍の腕にそっと手を添え、沈巍は苦しげに目を逸らします。

特調所に、郭長城をおんぶした趙雲瀾と沈巍が帰ってきます。「容体は?」と不安げに尋ねる大慶に、「負傷してる、休ませよう」と言う趙雲瀾。2階から降りてきた楚恕之は、「俺が。俺に運ばせてくれ」と趙雲瀾の背中から郭長城の体を奪うと、趙雲瀾が頷くのを見てすぐに強引に横抱きにして実験室へ走っていきます。「大慶、郭ちゃんを頼む」と趙雲瀾が指示すると、大慶は頷きます。趙雲瀾の荷物を放り投げられキャッチすると、大慶は楚恕之の後を追います。
「沈巍も怪我をした、送って来るよ」と祝紅に言う趙雲瀾。「私は1人で帰れる」と沈巍はそそくさと帰ろうとしますが、趙雲瀾は彼の腕を強引に掴み引き止めると、険しい表情で無理やり彼の腕を自分の首に巻き付かせ、体重をかけさせ一緒に特調所の玄関へ向かっていきます。祝紅は複雑そうな表情を浮かべ、自分のデスクへ戻ります。

街に出た沈巍と趙雲瀾。沈巍の左腕に自分の右手を巻き付かせ、左手で肘下を掴んで離さない趙雲瀾。それを見て笑う沈巍。「何がおかしいんだよ?」と怪訝に言う趙雲瀾に、「1人で歩けるよ」と苦笑する沈巍。「強がるな、妊婦さんと歩いてる気分だ。車に乗れ、俺も早く家で休みたい」と趙雲瀾が不満を言うと、「休憩しても?日差しを浴びたい」と珍しく沈巍がわがままを言います。趙雲瀾は空を見上げると、「もちろん」と近くのベンチに彼を連れて行き、一緒に座る。(足を組むタイミングが同じな2人)

空を見上げる2人。沈巍は趙雲瀾の横顔を見つめ、「状況はどうだ」と尋ねます。「順調だよ」「特調所の存在が暴露された?」「ああ」「魘公子が、楚恕之と祝紅の夢を操ったんだな」と沈巍が言うと、趙雲瀾は「そうだ」と頷きます。沈巍は微笑むと、「2人はわだかまりを自分で解決した。強くなったはずだ」「そうだな」と話します。沈巍はまた趙雲瀾の横顔を見つめると、「君も2人の夢に?」と尋ねます。気まずげに「少しだけな」と言う趙雲瀾に呆れる沈巍。
「趙雲瀾、特調所の存在が暴かれ、夜尊も自由を得た。より大きな危機が迫っている。もう少し…」と沈巍が説教を始めると、趙雲瀾は頭を掻きます。「分かってるよ。無茶はしない。いいだろ?色々あって俺も疲れた。今は先のことを考えるよりベッドで寝たい。魘公子には十分注意するよ。いいだろ?沈教授」。ため息をつき、そっぽを向いて呆れ顔の沈巍。「さあそろそろ帰るぞ」「先に帰れ、私は少し休む」「あんたをおいて1人で帰れるわけない。仕方ない、付き合うよ」。わがままを言う沈巍を趙雲瀾は見ると、顔を見合わせて2人は笑います。

特調所では、楚恕之は林静の実験室にある台に郭長城を寝かせ話しかけていました。「長城」と楚恕之がどれだけ呼びかけても、彼の呼吸は一定ですが顔色は今にも死にそうなほど真っ白です。

「黒枹使が夜尊から郭ちゃんを守ってくれたけど、深い傷を負ってしまったらしい」と大慶が言うと、楚恕之は「諦めない。絶対に助ける」と断言します。「付き添うのはいいが、聖器は使うな」と釘を刺す大慶。しかし楚恕之は郭長城が寝ている台のすぐそばにある聖器を振り返り見つめます。聖器に近づくと、楚恕之は長命時計を覆っていたガラスを外します。長命時計を手に取り郭長城を見遣ると、それを決意と共にぐっと握りしめます。

海星艦の研究所にいる林静に電話が入ります。「はい特調所…海星艦の林静です。はい、分かりました。調べてみます」と先方と軽くやり取りをした後、林静はため息をつきます。林静の背後で、欧陽教授は一心不乱に研究を進めています。ふと特調所へ異動になった時のことを思い出す林静。

「お呼びですか?」「来たかね、これを見てほしい」。林静を呼んだ欧陽教授は彼に書類を手渡します。そこには「異動通知 林静」と大きく書かれていました。
「教授、これは」「上に提出するつもりだ」「僕に何か問題でも?怠け癖はあるけど発明は好きだし、任務もこなしています!」「君は自慢の学生だ。周の教え子である沈巍にも負けない。実は思惑があって君をそばに置いてきた」「ではなぜ今になって」「特調所を知っているか?」「特調所?海星艦の管轄下にある組織では?」「何のために設置された組織か分かるかね?」。首を横に振る林静。「地星人を捕まえるためだよ」と欧陽教授に答えられ、思わず林静は眉を顰めます。
「私達の研究テーマは遺伝子工学だ。うまく地星人のDNAを入手できたら、輝かしい進歩をもたらせる」「つまり僕にスパイになれと?」「そうではない、誤解だよ。君にとっては出世になる。特調所の研究員は重職だ。任せられる人間は君以外には思い浮かばない。君は地星人の資料やDNAを定期的に提供してくれればいい、一石二鳥だろう?」。苦々しい表情をしつつも、考え込む林静。「分かりました、特調所へ異動を。でも科学の道に背く行為は…」と林静が言いかけると、欧陽教授は「分かっている、科学の進歩が文明を生む。これも海星の発展のためだ。理解してくれ」と彼の言葉を遮ります。

楚恕之は長命時計を持ち、郭長城のそばに立ちます。郭長城の手に長命時計を握らせると、楚恕之は目に涙をいっぱいに溜め、手に闇の力を込めます。長命時計は光りだし、楚恕之は顔が真っ赤になるほど苦しみもがきます。しばらくすると、長命時計は光を失います。楚恕之は荒い息をつき、そのまま倒れ込みそうになりますが、郭長城の容体は全く変化がありません。郭長城の両手を握ると、できることはやったとばかりに微笑む楚恕之。

林静はキーボードを叩きながら急に眠気に襲われ、あくびをします。居眠りを始めると、彼のデスクに置かれた蛍光灯の周りに黒い煙がぼんやりまとわりついていました。

「裏切り者」という趙雲瀾の言葉を聞き、林静ははっと目を覚まします。そこは自分の指定席である、特調所の実験室にある林静のデスクでした。特調所メンバー全員、一人一人から「裏切り者」と罵られる林静。
「みんな落ち着いて。この3年間少しは貢献しただろ?許してくれ」と懺悔する林静に、「お前が何の貢献をしたと?」と趙雲瀾は冷たく睥睨します。「ポップコーン機」と林静が半笑いで言うと、「そんなもの誰が喜んだ?」と大慶が腕を組んで冷たく言い放ちます。「郭ちゃんに電気棒を」と言うと、郭長城は「あんなもの危険すぎる」と林静に詰め寄ります。「祝紅!君の命を救ったろ」と縋るように祝紅を見ますが、祝紅は鼻で笑い、「あの発信器なら捨てたわ、目障りよ」と吐き捨てます。
「肝心なものを忘れてた!バリアだよ!」と林静は大声で言いますが、趙雲瀾は「もう使えない」と返します。「そんな、ありえない!再起動すれば大丈夫だ!」と必死でキーボードを叩く林静。林静は気づいていませんでしたが、この時、趙雲瀾はにんまりとその様子を見つめていました。「反応しない」と林静が焦ると、楚恕之が彼の後頭部を手で叩きます。全員の憎しみの視線と祝紅の責めるような目力の強さに耐えられず林静はのけぞり、ハッと目が覚めます。

「なぜ眠ってたんだ…特調所の夢を見た」と独り言を呟き、林静は大きなため息をつきます。

天柱の前を歩く若者を息をするように吸収した夜尊は、「兄さん、待ってろよ」と呟きます。

たこわさ
たこわさ

楚恕之が見ていたことは全て彼の贖罪の気持ちが見せた夢だった、というのが無茶苦茶しんどかったです。しかも大慶に止められた長命時計を使ってしまった…どうなってしまうんでしょう。

 

沈巍を取り戻せてホッとしたのですが、鎖に練り込まれていた夜尊の呪いとは何なのでしょう?沈巍は何度も危険だからやめろと警告していたけれど…。

 

一人で帰ると言う沈巍を無理やり担いで帰る趙雲瀾の強引さにキュンとしました❤️とはいえ、「妊婦さんと歩いてるみたいだ」発言で頭の中の理性がブチ切れました。に、妊婦さん…だと…?(脳内に駆け巡る趙雲瀾女体化、妊娠パロ)なぜ妊婦…?それだけ沈巍が大切ってこと…?🥺❤️

 

「あんたを置いて1人で帰れるわけない。仕方ない、つきあうよ」って顔合わせて笑い合うのが平和すぎて愛おしいです😭ずっとこんな2人を見ていたい😭

 

魘公子は林静の夢の中に入って、特調所のバリアを破る方法を探ってるのかしら…?

 

第34話 特別調査所の閉鎖

<あらすじ>
地界から助け出された郭長城(グオ・チャンチョン)は楚恕之(チュー・シュージー)が見守る中で目を覚まし、2人は再会を喜ぶ。
しかしその頃、趙雲瀾(チャオ・ユンラン)が殺人犯を匿った容疑で指名手配され、海星鑑(かいせいかん)は特調所の閉鎖を決定する。
一方、研究所では欧陽貞(オウヤン・ジェン)教授が自分の体で血清の実験をしようとしていた。

特調所の実験室。台に横たわる郭長城のそばに座り、話し出す楚恕之。
「長城、お前が眠っている間に物語を聞かせてやろう。昔ある双子の兄弟がいた。2人は見分けがつかないほど瓜二つだった。だが性格は正反対だった。兄は活発で面倒ばかり起こし、英雄になることを夢見ていた。だが弟は温厚で、内気で礼儀正しく、賢かった」と微笑む楚恕之。「弟の唯一の願いは、平凡で穏やかな暮らしをすること。兄弟にはそれぞれ特殊能力があった。兄の方は特別な人形を操るのが好きだった。そんな兄が、ある日騒ぎを起こした。相手は兄弟を取り違え、弟を捕らえて監禁。そして火を放った」。楚恕之は涙を流します。

よほど苦しかったのか、弟は能力を使い、肌身離さず持っていた物に乗り移ろうとした。兄に貰った人形にな。それが弟が能力を使った最初で最後だった。弟の死を知った兄は、警備を破って脱獄した。頭には復讐しかなかった。弟の敵もそうでない者も、罪のない守衛も含め、皆殺しにしたんだ!」。

楚恕之は郭長城を見つめます。「長城、夢の中で俺は別の話をしたな。お前なら、どの話を選ぶ?」。楚恕之が涙を湛えた目で郭長城を見つめていると、郭長城がゆっくりと目を開きます。
「楚さん」と呼ばれ、ハッと彼に覆いかぶさるように見つめる楚恕之。「長城!長城!」「楚さん」「起きたか」「覚えてますか?地界にいた時、僕を帰そうと、楚さんは嘘をついた。人間を食べて骨を噛み砕くと歯ごたえが良いって」。2人は笑います。
「本当なら楚さんを怖がるはずなのに、僕は全然怖くなかった。あの時、変な考えが浮かんだんです。”楚さんって歯が丈夫なんだなあ”って。あなたはいい人です。少しも怖くない」と、目を閉じ苦しそうに呼吸する郭長城が楚恕之の手をそっと握ります。「楚さん」と呼びかける郭長城の手を自分の胸の前でしっかりと抱きしめて微笑む楚恕之。

林静は海星艦の研究室で「海星艦、殺人犯を匿う」と趙雲瀾と楚恕之の顔写真がネットで公表されていることをパソコンで発見してしまいます。欧陽教授と李茜が自分の背後で研究しているため見られぬよう注意しつつ、スマホの連絡帳から「ボス」を選び電話をしようか悩みます。
するとそこに李茜が現れ、「林静、隠さないで。私も特調所が心配なの。あそこには恩師もいる」と告げます。「以前匿名で長命時計の用法と海星艦での事件についてメールが届いた。IPアドレスは両方とも海星艦だ。君だな?」と林静が推理すると、李茜は欧陽教授を気にしながら頷きます。欧陽教授は実験に没頭しています。「少しでも力になりたかったの。でもこんな状況になるとは思わなくて」とすまなさげに呟く李茜の向こうで、欧陽教授が「成功だ!ついにやったぞ!」と叫びます。「教授?」と林静が尋ねると、欧陽教授は「とうとう成功したんだ!あはは!」とハイテンション。林静と李茜は不安げです。

 

特調所では、叢波が祝紅のパソコンを借りてキーボードを叩いていました。「大丈夫なの?特調所関係の書き込みが日に日にエスカレートしてるわ」と横で怒る祝紅に、叢波は「俺の手は2本しかない!しかも龍城全域のネット民が相手だ!」と喚きます。「そういえばあの科学オタクなら分担できるだろ?」と言われ、気まずげな表情を浮かべる祝紅。「彼のことはいいから責任をとって!さっさとおやり!」「…こんな陰気臭い特調所は初めてだな」「あなた、独り身でしょ?」「なぜ?」。叢波は嬉しそうに祝紅に聞き返しますが、「余計な一言が多い」と刺々しく言われ、頬を膨らませつつ作業に戻ります。

「祝紅さん」と郭長城がよろよろと彼女に近寄ってきます。「郭ちゃん!もう少し休んだら?」と祝紅は慌てて立ち上がり彼を支えようとしますが、郭長城は力なく微笑みながら「大丈夫ですよ。よく寝ましたから。ヘタレでも回復力はあるんです!」と空元気を出します。「こんな時に強がらなくていいの」と心配そうな祝紅に、「祝紅さん、他の人は?」と尋ねる郭長城。「沈教授は療養中よ。ボスと他の2人は海星艦に行ったわ」と祝紅が答えた途端、玄関から複数の足音が聞こえてきます。「もう戻ったのかしら?」と不思議がる祝紅。

そこに現れたのは趙雲瀾ではなく、郭英と彼の部下でした。「叔父さん」「退去してくれ。しばらく立入禁止だ」と、驚く郭長城を一瞥し、所員を見回し命じる郭英。「ちょっと」と祝紅が反論しようとしますが、叢波が彼女の腕を掴んでやめておけと暗に警告します。郭英は郭長城の腕を掴むと、「趙所長が殺人犯を匿った容疑で指名手配された」と告げます。驚愕する郭長城。「特調所は閉鎖される。私と海星艦へ」と、郭英は郭長城を力づくで連れて行こうとします。祝紅は「そんな」と言ったきり震え、郭長城は困惑した表情で郭英を見つめます。

自宅から出てきた趙雲瀾と大慶と楚恕之。「俺たちを見捨てる気だな」と趙雲瀾が呟くと、叢波から彼に電話がかかってきます。「不意打ちだった、どこも危険だ。祝紅は家に送ったよ。海星艦に行くな。家で落ち合え」「分かった」。電話を切ると、大慶は「親父さんにはがっかりだ、まったく」と憤ります。「俺は一旦特調所に戻る」「僕も一緒に行く!」「バカ言うな、目立つだろ」と趙雲瀾が却下すると、大慶はしょんぼり。「海星艦の人間が事務所を捜索してる、汪徴に連絡しないと」と趙雲瀾は言いますが、楚恕之は彼の傍でずっと黙り込んだままです。趙雲瀾は訝しむ表情で楚恕之を見ます。趙雲瀾は彼の肩を叩くと、「大丈夫だ、俺たちがいる」励まします。無言で頷く楚恕之。

趙雲瀾は特調所に向かって愛車を走らせています。すると「ドラ猫」からチャットが届き、メッセージを見ると「ラジオを聞け」と書かれています。「”ラジオを聞け”?」とラジオのつまみを回すと、「海星艦は声明を発表し、特調所の廃止を決定。所長の趙雲瀾を指名手配しました。趙雲瀾は3年間の在任中に多数の地星人と結託し、社会の混乱を招き、更には犯罪者を〜」とアナウンサーが語っており、趙雲瀾は憤りラジオを切ります。趙雲瀾の車が走っていくのを、街角に停まっていた車から男が見張っています。

高部長に電話がかかってきます。「私だ」「高部長、趙雲瀾を発見しました」「すぐに追え、捕らえても怪我はさせるな」。趙雲瀾がバックミラーをちらりと見ると、後ろから追いかけてくる車を発見。赤信号で停車した隙に車を降り、男の追跡を撒きます。「逃げられた?特調所を見張れ!私のカンでは必ずあそこに戻るはずだ」と電話越しに命じる高部長。

龍城大学では、禍々しいステッキを生徒たちの机の上に滑らせながら歩く沈巍がいました。しかし普段の彼とは違い、服はカジュアルで全体的に白っぽい印象です。彼は机に腰掛けると、黒板をにやにやと見つめ、壇上に向かって拍手します。

その晩、普段どおりの服装をした沈巍は、痛むのか腹を押さえつつもよろよろと街を歩いていました。
街角で、海星艦の制服を着た男2人組に「そこの男、止まれ」と呼び止められます。「具合でも?」「いえ別に。不注意で足に怪我を」「怪しいな、身分証明書の定時を」と妙に追求され、沈巍はふっと笑います。「海星艦ですか?龍城に戻ったばかりですが何か事件でも?」「特調所が閉鎖されたことは不在でも聞いているはず」と男がスマホを出すと、そこには指名手配犯として沈巍の写真が写っています。男たちは顔を見合わせます。
「身分証明書を出します」と沈巍がコートのポケットを探ると、男が後ろ手に手錠を出したため、沈巍は異変に気づき男たちを一気に殴り倒します。「すまない」と謝りながら走り去ろうとしますが、「応援を頼む!指名手配の被疑者を発見!」と男が無線に叫んでいるのを聞き、急いでその場を立ち去ります。

李茜は試験管に入った血清を見つめます。「どうかね?」と楽しげな欧陽教授。「純度が上がっても、今のデータでは増殖因子の安定性が不明です」と李茜が返すと、「やはり実験せねば」と欧陽教授は頑なに考えを変えません。「血清の実験は時期尚早では?研究が不十分です」と林静も言い、李茜も不安を隠さず欧陽教授を見つめますが、欧陽教授は突然興奮します。
「待てないんだ!私で試そう。失敗しても人類の科学に最後の貢献ができる」と言う彼に、「教授」「駄目です」と林静と李茜はそれぞれ欧陽教授の腕を掴み止めようとします。しかし、「私を尊重しろ!!」と凄まれ、2人は項垂れながらゆっくり手を解きます。欧陽教授は血清を注射器に入れます。

特調所に残っていた汪徴と桑賛。汪徴は海星艦の職員の男たちが所員のデスクを荒らし回るのをじっと見ています。汪徴が1人の男の前で瞬間移動し彼の背後に回ると、「お、お前は」と男は怯えだします。「何をビビってる。特調所の人事担当者だろ?」ともう1人の男が言います。「汪徴だよな?おい、質問に答えろ」と男が掴みかかろうとした瞬間、汪徴は自分の身体をエナジー体に変え、汪徴の身体をすり抜けた男は階段に頭をぶつけ失神します。それにもう1人の男が驚いている隙に、彼の後頭部を桑賛が本で殴り失神させます。
「ボスの言うとおり本には力があるね!」と笑う桑賛に、「頼まれたとおり、聖器を守らなきゃ」と表情を固くする汪徴。「ボスはいつ戻るのかな?」と桑賛がたどたどしく言うと、「今戻った」と趙雲瀾がそこに立っていました。汪徴と桑賛は驚いて趙雲瀾を見つめます。

自分に注射を打った欧陽教授は、手を閉じたり開いたりして動きを確かめ、満足そうに頷きます。しかし次の瞬間、うわあああ!と彼が突然床の上でのたうちまわりはじめ、右手が光り、床に叩きつけた彼の手は硬質なはずの床を粉々に叩き割っていました。

桑賛が男2人の手を紐で縛ります。それを見つめる趙雲瀾。「お父様からこれを預かっています」と汪徴は趙雲瀾に銃を差し出します。「何か伝言は?」「”選んだ道を後悔するな”と」。趙雲瀾はため息をつき、「分かった」と彼女の手から銃を貰います。

沈巍は裏路地を歩いていました。するとどこからか「にゃ〜ん」と猫の声がします。あたりを見回す沈巍。「大慶か?」と沈巍が声をあげると、樽の後ろからこそこそと大慶が現れます。「沈教授、どうしてここに?…ボスを失ったら、僕たちは終わりだ」と項垂れる大慶に、沈巍は目を見張ります。

汪徴と桑賛は向い合い、互いの両手を握ります。「桑賛、怖くない?」「君と一緒ならどんな時も心は穏やかだ」「!! 長い文が言えたわ!」「じ、自分では気づかなかった」とはしゃぐ2人。
呻きながら2人を睨み上げる男たちを見下ろしながら、「痛い?瀚噶族が豚を縛るやり方よ」と冷たく言い放つ汪徴。「縛ってトドメを刺す。バン!速く殺せる。肉が新鮮だ」と桑賛がどもりながら言うと、男たちは怯えだします。「静かにしてて。所長が去れば解放する。本来ならば同僚だもの」と寂しげに言う汪徴。

玄関から物音がしてハッと汪徴が顔を上げると、そこには沈巍が。「沈教授、来てくれたんですね!」と汪徴は安心し大喜びしますが、それは夜尊の化けた沈巍でした。汪徴と桑賛を瞳孔の開いた目でしげしげと見る夜尊。拘束された男たちを見つけると、「海星艦の人間を拘束とは、なかなか大胆だな」とにやりと笑います。地べたに座りこむ男たちに近づくと、「ご苦労さま」と片方の男の肩に手を触れ、生命エネルギーを吸い取ります。男から黒い煙が上がるや否や、彼はがくりと首を落とします。片眉を上げる夜尊。
「趙雲瀾は奥か?」と夜尊は汪徴に尋ね、彼女が怯えたようにおずおずと頷くと、鷹揚に歩き出します。汪徴は夜尊の背を見送りながら、不安げに「今日の沈教授は様子が変だわ…」と呟きます。

「封」の札が貼られた聖器のガラス玉を前に、趙雲瀾は腕を組んで考え事をしています。札を剥がし、趙雲瀾は長命時計を手に取ります。長命時計はまた光りだし、趙雲瀾はがくがくと体を震わせ白目を剥きそうになりながらどうにか地に膝をつきます。

その頃、桑賛が男の頸動脈に指を当て、彼が息絶えていることを汪徴に伝えます。驚く汪徴。夜尊はのんびり部屋を見回っており、息も絶え絶えな趙雲瀾を見つけると、「趙雲瀾」と慌てた様子で彼に近づきます。(この時の表情は沈巍そっくり)
趙雲瀾は震える腕でどうにか長命時計をガラスの中に戻すと夜尊に笑いかけ、「家で休みもせず、何をしにきたんだ?」と尋ねます。「その格好、イケてるな」と笑う趙雲瀾に、ふっと柔らかい笑顔を浮かべる夜尊。「そうか?新調したばかりだ。似合ってるかな?」。
「どうした、聖器の研究か?」と夜尊はじっとり趙雲瀾を見つめます。「いいことを思いついた。言ってたよな。聖器と共鳴すると未来を予知できて、時間の流れも動かせる。それなら夜尊の解放前に時間移動すればいい。王向陽の家族が死ぬ前にな。そうすれば状況はひっくり返る」と趙雲瀾が言うと、夜尊は急に慌て始めます。「時間には修正が動く。原因を変えても結果は変わらないぞ。時間移動をして無事に帰れた前例はない」。趙雲瀾は林静が座っていた椅子に座り、「試してもいいだろ」と唇を尖らせます。
うっとりと聖器を見つめる夜尊。「人類を守護する君への恩を奴らは仇で返している。守る価値などあるのか?」と独り言のように夜尊が言うと、趙雲瀾はゆっくり彼を振り返り顔色を変えます。夜尊は聖器が入ったガラスに触れようとしますが、ガラスにバリアが張られているようで弾かれてしまいます。趙雲瀾は黙ってそれを見つめていました。
「私に任せてくれ。私は地星人で、闇の力が自由に操れる。聖器を私に譲ってみては?」と微笑み尋ねてくる夜尊に、趙雲瀾は笑顔で返しますを「言われてみるとそのとおりだな」。夜尊はにっこりと満面の笑みを浮かべます。「いいだろう。聖器をあんたに」と席を立つと同時に、彼は夜尊の腹に銃口をめり込ませます。

「沈巍じゃないな。奴なら価値の話などしない。俺たちは損得勘定で動かないんだ。夜尊だろ?」とすぐ近くから真顔で見つめてくる趙雲瀾に、夜尊は微笑みます。「ボロを出したな。だが特調所のバリアをどうやって破った?」「作成者に頼んだ。魘公子が少しは役に立ったようだ」。趙雲瀾は呆気に取られ、ギッと夜尊を睨みつけます。「林静に何を?」「夢を見せただけさ」。趙雲瀾は何度も夜尊に向けて発砲しますが、彼は高らかに笑いながら瞬間移動を繰り返します。弾は一発も彼に当たりません。

さらに、夜尊は立ち止まった瞬間、趙雲瀾に手をかざし彼の生命エネルギーを吸いとり始めます。顔を歪め、夜尊に体ごと吸引されよろよろと近づく体を彼は気力だけで必死に押しとどめます。汪徴と桑賛が2人の間に割り込み、「ボス逃げて!」「今までのご恩を僕たちは忘れません!」と必死で盾になろうとします。
夜尊は目の前の光景を見て鼻で笑うと、「目障りだな。うるさい奴らめ」と趙雲瀾だけでなく2人からも生命エネルギーを吸い取り始めます。もがき苦しむ汪徴と桑賛。「止めろ」と趙雲瀾が呻きながら訴えますが、夜尊の目は爛々と輝きを増すばかり。夜尊に吸収される汪徴と桑賛。趙雲瀾は夜尊に体ごと吸い取られそうになりながらも、懸命に銃を構えます。

とその時、3つの聖器が光り出し、それらの上空に光の輪を作ります。沈巍と大慶がそこに駆けつけ、沈巍は夜尊と趙雲瀾の間の黒い煙を長刀で斬ろうとしますが、その一瞬前に趙雲瀾は聖器の上の光の輪の中に吸収されてしまいます。「趙雲瀾!」と聖器を振り向き叫ぶ沈巍。大慶が不安げに光の輪を見ます。夜尊は沈巍を見て「顔が青い」とにやつきながら言うと、すぐに姿を消します。「いずれ決着をつける。勝負はまだこれからだ」と特調所に響き渡る夜尊の声。沈巍は心臓を押さえ、苦しげに呼吸します。沈巍は光の輪の中に自分も飛び込みます。

宇宙空間のような謎の場所に1人で佇む趙雲瀾は、「これは?ここはどこだ?」とあたりを見回します。近くのものを掴もうとしますが、何にも触れられません。「母さん、母さん?」と趙雲瀾は呼びますが、答える声はありません。次の瞬間、光の輪は光は山の上に突然現れ、趙雲瀾は岩の上に叩き落とされます。

痛みに呻きながら趙雲瀾が近くから聞こえる怒声の主を見ようと草むらの中を這って移動すると、そこでは黒衣をまとった男が、屈強な部族相手に1人、長刀で戦っていました。フードがとれて顔が見えた途端、「沈巍?」と趙雲瀾は驚きます。彼の顔は沈巍そっくりで、髪は編まれ、長い黒髪でした。
沈巍そっくりな男は2人の部下と共崖に追い詰められます。「逃げ場はないぞ!」と族長が刀を掲げて彼に迫ります。趙雲瀾は銃を構えると、族長の横にいた男を撃ちます。沈巍そっくりな男はハッと趙雲瀾の方を見ます。
趙雲瀾は族長も銃で撃ち、族長の仲間たちは散り散りに退却していきました。

沈巍そっくりな男は自分の傍らにいた部下2人が一斉に崩れ落ちるのに跪き心配しながらも、姿を現した趙雲瀾に「助太刀に感謝する、手当を急ぐためこれで失礼を。またいずれ」と迅速に部下を担ぎ去ってしまいます。
「おいちょっと、あの」と趙雲瀾は呼び止めようとしますが、「行くのかよ」と拍子抜け。光の輪から落とされたときに左膝を痛めたようで、趙雲瀾は脚を引きずりつつあてもなく歩き出します。

「崑崙、崑崙、どこだ」とぶつぶつ言いながら歩く1万年前の大慶。座り込んだ趙雲瀾が擦りむいた掌に息を吹きかけ痛みを誤魔化していると、大慶が「崑崙!?」と笑顔で近寄ってきます。「見つけたぞ!」「大慶か?お前、その頭にその格好…?」「なぜ僕の名を?」「俺はお前の主だろ」と大慶をどつく趙雲瀾。しかし大慶は怪訝な顔をしています。
「さっき俺を何て呼んだ?」と趙雲瀾が尋ねると、大慶は手に持っていた似顔絵と趙雲瀾を見比べて首をひねります。趙雲瀾は似顔絵を奪います。「同じ顔だよな?人違いか?」と独り言を言う大慶に、「よく描けてる!イケメンだ。俺を崑崙と呼んだか?崑崙か…どこかで聞いた名前だ」と趙雲瀾は記憶を巡らせます。

特調所の書庫にあった「古代秘文録」に、「大荒山主、その名は崑崙」と書かれていたことを思い出す趙雲瀾。趙雲瀾は「古代秘文録か!」と笑顔で大慶を指差し、「まさか俺は今…スケールがデカすぎる」と笑い出します。「何をいってるんだ?」と怪訝な顔をする大慶に、「お前本当に1万年前の大戦に参加してたんだな」と趙雲瀾は感心したように頷きます。「分かるように言えよ」「変だな。なんで1万年前に俺の絵が?しかも現代の服装だ。大慶、状況を最初から詳しく説明してくれ」「崑崙は天下の英雄だ!地星人の命を守るため、海星人・亜獣人、地星人が僕を派遣した。あんたを仲間にするために」「仲間?」「反乱軍を制圧するためだよ!次の戦争が起こらないように」。
趙雲瀾は「反乱軍だと?」と首をかしげます。大慶は「地星人の好戦派さ」と困ったように話を続けます。納得する趙雲瀾。「そうだ、麻亀様と浮游様から伝言がある」「なんだ?」「”之に代われ”」「”之に代われ”?」「僕に聞くな。あんたにそう伝えろと。2人に会わせるよ」「よし行こう」。大慶は趙雲瀾の腕を持ち、彼が立ち上がるのを手伝います。

「着いた」と大慶が案内したのは、聳え立つ岩の壁に 小さな入り口が開いた場所でした。2人の門番が入口を守っています。
「ここは三族連盟の本部で最重要拠点だ」「1万年前の連盟本部か。しかし意外だ。亜獣族も関わっていたとは」「なぜさ?宇宙船の乗組員は亜獣族と地星人が半々だった。我々の関係は良好だったし、平和が脅かされている今、協力は当然だよ」。趙雲瀾は頷き、「行こうか」と大慶に先導を促します。

洞窟の奥に来た2人。「麻亀様、浮游大族長、戻りました。崑崙様です」と大慶が趙雲瀾を紹介した途端、2人は顔色を変えて立ち上がります。趙雲瀾は2人に見覚えがあるように感じ、記憶を探ります。
「海星艦の設立から長い年月が経つ」と高部長が話していた時に見つけた、彼の部屋の壁に飾られていた肖像画の男性が麻亀その人です。笑顔の2人は趙雲瀾に近づきます。
「久しぶりだ」と麻亀に握手され、趙雲瀾は悶絶します。彼の手には細かい傷がたくさんついていました。「この傷は?」と傷に不審がる麻亀に「平気だ」と趙雲瀾は強がります。「やっと会えた」と喜ぶ浮游に、「ああ」と話を合わせる趙雲瀾。「大慶、手当するから下がっていいわ」「はい」と浮游の命を受けて下がる大慶。

「崑崙殿、こちらへ」と麻亀が椅子に趙雲瀾を誘導します。「俺は崑崙じゃないんだが…」と半笑いの趙雲瀾に、浮游は「座って」と促し、椅子に座った趙雲瀾を見て麻亀と浮游はホッとしたように微笑みます。麻亀は趙雲瀾の手の傷に塗り薬をつけてくれます。すると瞬時に怪我が跡形もなく治り、趙雲瀾は目を見張ります。
「最近発明した薬だ。筋肉の力と神経の感覚を回復させる。傷はどうだ?」と尋ねる麻亀に、「治ってる!」と笑顔の趙雲瀾。

趙雲瀾は2人を見回すと、「しかし妙だな、知り合いは俺に気づかず、見ず知らずの人が俺を知ってる」とぼやきます。
「時期が合わないだけだ。いずれ君にも分かる」と言う麻亀と、「あなたが何者かより、未来から来たことが重要なの。私たちは近い未来、時を超え再会する。その時あなたは戦う勇気をくれるの」と言う付与。「本当に?」と疑う趙雲瀾に、麻亀は無言で頷きます。「とりあえず、今の状況を教えてくれないか」と浮游に尋ねる趙雲瀾。

「隕石の衝突で大量のエネルギーが発生し、地星人の居住区を破壊した。地星人の過激派のリーダーが人を惑わす特殊能力を使い反乱軍を組織した。その兄弟な勢力に対抗するために、三族連盟を結成したの。少し前に崑崙との共闘を試みたけど、敵に先を越され崑崙の軍は全滅」と語る浮游。崑崙は沈巍そっくりの男を追い詰めていた、先ほどの部族長に殺されたのでした。
「我々は士気が落ちぬよう情報を伏せた。君には崑崙として生きてほしい。反乱軍の制圧までな。それなら時間軸は乱れない」と言う麻亀に、趙雲瀾はやっと「”之に代われ”か」と理解します。

その後、趙雲瀾は崑崙の服と髪型に変えて麻亀と浮游の前に現れます。2人は思わず椅子から立ち上がり、趙雲瀾を見て驚きます。「どうだ?出ているか?英雄のオーラが」とふざけたポーズをとる趙雲瀾。2人はほっと安堵のため息をつき、麻亀は「ああ、そのものだ」と、カンフーのような妙な動きを繰り出す趙雲瀾を見つめます。
「実は隕石で聖器を作ったの。でも反乱軍に奪われてしまった。聖器の力が解放されたら大変なことになる」と心配する浮游。「我らも聖器の力を全ては把握していない、大慶が聖器に触れた時は影響があったようだ」と麻亀は言い、「なるほどな。それで長生きなのか」と趙雲瀾は納得します。

そこに黒衣の男が現れ、趙雲瀾は驚きます。「黒枹使、いらしたの?」と浮游が声をかけると、「ええ、部下を休ませてきました」と淡々と答える黒枹使。「よう!」と黒枹使の腕を叩く趙雲瀾ですが、黒枹使は下から睨みつけ、「誰だ?」と地を這うような声で言います。「覚えてないか?」と顔の両脇に垂らした前髪をあげてにんまりと笑います。黒枹使は動揺しますが、「君は、恩人殿!」とぱっと笑顔になります。思わず笑う趙雲瀾。
「なぜここに?さっきとは姿が?」と不思議がる黒枹使に、「こ、これは…あはは、話せば長い」とあわあわしながら笑って誤魔化す趙雲瀾。「このご恩をどうお返しすれば?」と言う黒枹使に、「恩返し?簡単だ。仮面を外して笑ってくれ」と趙雲瀾が言うと、黒枹使は困ったように顔を伏せてしまいます。「大事を成せば、どのような望みにもお応えする」と急に頑なになる黒枹使に、「ふうん、大事の後か」と趙雲瀾はにんまりします。「そういえば怪我の具合は?」と趙雲瀾が尋ねると黒枹使は動揺し、「かすり傷だ、お気になさらず」と冷淡に言います。
趙雲瀾は呆れて「1万年前でも変わらないな。いつになったら弱音を吐くんだ?」と言い、洞窟の外へ歩き出します。黒枹使は興味深そうに趙雲瀾を見ると、後を追ます。

緑豊かな山の夜、外を散歩する趙雲瀾と黒枹使。「何千もの仲間がいたが、もうほとんど残っていない。流血で得た平和だ。犠牲者に対して公平だろうか」と、仮面を外さずフードだけ脱いだ姿で話す黒枹使。「だがこの道しかない。少数の犠牲によって多くの人間が数千年の平和を得る。実現まであと一歩だ」と趙雲瀾は黒枹使を励ましながら、崖の近くで腰を下ろします。
「その最後の一歩は私が踏み出す。残りの仲間を犠牲にできない」と堅い口調で言う黒枹使に、趙雲瀾は「俺もいる」と笑いかけます。驚くように趙雲瀾を見た黒枹使から仮面をさっと奪い取る趙雲瀾。黒枹使は慌てて仮面を取り返そうとしますが、空振ります。趙雲瀾は「しーっ」と言いながら飴を片手に持っています。

趙雲瀾はしげしげと黒枹使の素顔を見て「いや、やっぱり若いな、だが相変わらず彫刻みたいな顔立ちだ。なぜそんな不細工な仮面を?」と訪ねます。趙雲瀾の手から仮面を引ったくりすぐにつけようとしますが、不細工と言われて黒枹使の手が止まります。
「…敵を殺す時、怖くなる。仮面があれば相手には表情が見えない。みんな私を怖いもの知らずだと、逆に私を恐れる」と、手に持った仮面を指先でいじりながらにこりと笑う黒枹使し、趙雲瀾はははっと切なげに笑います。「顔を隠しても手が震えたらどうする?」 「相手が察する前に素早く…」と黒枹使が答えていると、趙雲瀾は自分が舐めていた飴を黒枹使の口に突っ込みます。

黒枹使が驚きで固まると、「素早くな。甘いか?」と趙雲瀾は笑いかけます。「これは?」「あーその、食い物さ、舐めるんだ。ペロペロな」と舐める動きを目の前でしてやる趙雲瀾。「どうも」と、黒枹使は趙雲瀾の顔を見ながら合っているかと言いたげにおそるおそる飴を舐めます。不器用に飴を舐める黒枹使を見ながらにやつく趙雲瀾。黒枹使は嬉しそうに飴を舐めます。
「まったく、まだ若いのに苦労ばかりしてるんだな。人生には酸いも甘いも苦いも辛いもいろんな味わいがある。時間をかけてゆっくり味わえばいい」と趙雲瀾が夜空を見ながら言うと、黒枹使は飴を見つめます。嬉しそうに飴を舐め続ける黒枹使を見つめる趙雲瀾。
「教えてほしい。君の名は?」「えー…崑崙だ」「崑崙!?まさかあの名高い崑崙とは!今日いただいた命は必ずお返しする!」と、黒枹使は興奮して立ち上がり、真っ直ぐな瞳で趙雲瀾を見つめます。黒枹使を切なげに見つめ、視線を逸らしふっと笑う趙雲瀾。自分も立ち上がると、「返してもらった。何度もな」と告げます。黒枹使は不思議そうに趙雲瀾を見つめます。

「時間軸に影響しないかしら」と言う浮游に、「大丈夫だ、結末は分かっているだろ?趙雲瀾なら大丈夫だ。彼を信じよう」と答える麻亀。2人は三族連盟の本部を歩いています。

「そうだ、浮游。この危機を解決したらどこへ?」「亜獣族は平和を愛する一族よ。海星艦人は地上に残り、地星人は地下に帰る。私たちは隠居するわ。遠く離れた美しい場所を捜すの」。浮游の話を聞き、麻亀は立ち尽くします。「遠く離れた?」と繰り返す麻亀。

「そういえば、名前を聞いてない」と趙雲瀾が言うと、黒枹使は「名前?」と不思議そうに繰り返します。「まさか黒枹使じゃないだろ」と趙雲瀾が言うと、黒枹使は「私は…」と言い淀みます。

たこわさ
たこわさ

地星人って普通、寿命どれくらいなんでしょう?郭長城が生き返ったってことは、楚恕之の命が削られたってことですよね。一体何年分の、どれくらいの力が削られたの…。

 

いち早く夜尊を見破った趙雲瀾、すごい!と思ったら次の瞬間、夜尊が強すぎてみんな聖器の光の中に取り込まれてしまって…不安しかないです。しかも麻亀と浮游の間にも何か問題?がありそうだし😨

 

「恩返し?簡単だ。仮面を外して笑ってくれ」に困ったように顔を伏せる黒枹使がかわいすぎるし、恩返しが笑顔でいいとかどんだけ沈静の笑顔見たいんよ!どういうことなんよ!って脳内がカーニバルでした💃🕺

黒枹使が仮面をつけてる理由は「敵を殺す時、怖くなる。仮面があれば相手には表情が見えない」なのには泣きそうになりました…😭私も黒枹使は怖いもの知らずだと思っていた…。

 

というか1万年前の沈巍、めちゃくちゃ表情豊かで可愛すぎます!!ショタやん!!(ショタではない)一体何歳なんでしょう。10代…?しかし、自分が舐めてた飴を当然のように沈巍の口に突っ込む趙雲瀾に笑いましたww そんなん普通にキスやないか!!💋

 

黒枹使の「今日いただいた命は必ずお返しする!」が第23話の「この命は君に返す」発言に繋がっていると分かり、このシーンは涙が止まらなかったです。「この命は君に返す」と言った時、沈巍はどうして涙目だったんでしょう…この後何が起きるっていうの…。

 

趙雲瀾の「返してもらった、何度もな」って切なげな表情がまた胸が苦しいくらい切ないし、不思議そうに趙雲瀾をみる黒枹使が純粋無垢で可愛くて可愛くて心臓が痛いです。だってこのあと1万年間もの別れが2人に訪れるんですよね…しんどすぎるよ…どんな思いで黒枹使は趙雲瀾を待ってたんよ、記憶を失った趙雲瀾を見守ってたんよ、辛いわ…😭

 

しかし、絶世の美ショタ×世話焼きヒゲお姉さん♂という新たな性癖を植え付けられてしまったじゃないか😭やめてくれ😭これ以上私の沼を増やすな鎮魂😭(大感謝)

 

あとずっと沈巍の調子悪いのが不安すぎます。なんであんな体調悪いの?夜尊に何されたの?呪い植え付けられた?趙雲瀾に生命エネルギーあげすぎた?余命どれくらいなの?

 

普段絶対沈巍がやらない言動をやる夜尊にドキドキしました。白似合うよ沈巍🤍カジュアルも素敵🤍ハァ〜夜尊様の顔面が良すぎて信者になった人絶対いると思います。気持ち分かるもん…こんな彫刻みたいなお顔で天使みたいな笑顔されて「私のために死ね」って言われたら「ハイ!!!!」って即答しちゃうね私なら(駄目です)
ヴァ〜夜尊絶対悪い奴なんだけど顔が沈巍だから2人の違いにドキドキしちゃってもう心臓に悪いです。夜尊表情豊かだからさ…こんな顔もできるんだ沈巍!?みたいな新鮮な感動がありますね…。

 

第35話 世界の平和を守るため

<あらすじ>
1万年前にタイムスリップした趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は、当時の沈巍(シェン・ウェイ)や大慶(ダーチン)らと出会い、崑崙(クンルン)と名乗って行動を共にする。
一方、沈巍と同じ顔を持つ弟の夜尊(やそん)は、反乱軍のリーダーとして兄たち平和勢力と敵対していた。
沈巍と趙雲瀾はそんな夜尊から全ての聖器を取り戻すことに成功する。

「私は姓が”沈”で、周りの者には”嵬”と呼ばれている。山の民の意味だと」と答えた黒枹使に、趙雲瀾は「山の民?パッとしないな」と返します。不思議そうな黒枹使。「いや、その”嵬”じゃまだ威厳に欠けるから、何画か足してより気高い名前に」「何画か足す?」「そうだ。いいか、この世界は巍々たる山と深い海が繋がってる。山あり谷ありの休めない人生と同じだ。だから名前は…”沈巍”。どうだ?」「沈、巍」と黒枹使は与えられた名前を繰り返し笑顔になります。

「名前をいただけるとは感激だ。では今日から名乗ろう」と言うと、趙雲瀾と沈巍は「”沈”、”巍”」と息を合わせて言い合って笑います。
「そうだ、あんたはずっと偉大な戦神として生きてきたんだよな。辛い人生だったろ?」と趙雲瀾が尋ねると、沈巍は静かに微笑みます。「地星人が海星に来て久しく、身分の差も生まれた。両親は早世し弟と2人で何とか生き延びてきたが、生活が苦しく兄弟で故郷を離れた。でもその時、海星に巨大な隕石が衝突した。世の中は大きく変わり、海星の資源も枯渇した。人々の心は荒んでいき、それが当たり前に。でも私は違う。悪に染まるのは当然か?良心に背くなら死を選ぶ」。しっかりと言う沈巍を眩しそうに見つめる趙雲瀾。「それから、罪を犯すものには制裁を加えてきた。そうするうちに少し有名になり、人々はこの黒い衣を見て私を黒枹使と呼ぶように」と微笑みかけてきた沈巍に、趙雲瀾は苦笑します。
「それが今までの人生だ」と沈巍が言うと、趙雲瀾は「やっぱり想像どおりだよ。いつだってあんたはデキる男だ」と褒めます。「本当は強さなどいらない。違う道があれば…」「結局平和のために刀を握ってるさ。あんたは弱き者を守るために戦うことを選ぶ。”良心に背くなら死を選ぶ”だろ?」。笑顔の趙雲瀾に、沈巍は微笑みます。「さっき弟がいると言ってたか?」と趙雲瀾が尋ねると、沈巍は「そのとおりだ」と頷きます。

沈巍を殺し損ねた族長らしき男は、「聖器を奪うだけでかくも時間が?」と、彼の目の前に跪き箱を掲げる夜尊に怒鳴っていました。夜尊は箱を掲げながら震えていましたが、仮面の下から彼を睨みあげます。「こ、これでも努力しました」と反論する夜尊に、「力も覚醒していないクズめ!」と族長は彼を蹴り倒します。「俺が拾わなければ野垂れ死にしてたな」と族長は箱を開け、「誰か答えよ!どうすれば聖器の力を使える?手段を教えろ!」と叫ぶと、跪く夜尊の胸ぐらを掴み上げるなり「夜尊、普段つまらぬ策を巡らしているだろう?」と彼を放り投げます。
地面に這いつくばるも、夜尊は微笑みます。「では恐れながら提案があります」「言え」。激しく咳き込む夜尊。「私めはまだ闇の力を使えず、聖器の力を呼び起こせません。でもあなた様は卓越した力をお持ちです。その強大な力で聖器を刺激してみるというのは?」。夜尊はにやりと笑い、族長は「立て」と黒い煙を彼に振りかけ傷を癒してやります。「太鼓持ちめ、下がれ」「分かりました」と、夜尊は族長を取り巻く男達の列に入ります。

族長は闇の力を聖器ー鎮魂灯に注ぎ込みます。「何も起きんぞ。夜尊!」「ここに」「愚策を講じたな!能無しめ!」と属地は夜尊を呼びつけ頬を殴ります。仮面は吹き飛び、夜尊の顔が露わに。沈巍そっくりです。

暴力、DV、虐待

「だから親は死に、兄に捨てられる!」と族長は続けて罵倒しますが、夜尊は無表情のまま殴られ続けます。「でも安心しろ。お前の兄のことは俺が必ず見つけてこの手で八つ裂きにしてやる。その後にお前もな」と言う族長を、目を真っ赤にして睨みつけ立ちすくむ夜尊。
族長は大笑いしながら去ろうとしますが、「黙れ!兄さんは、僕がこの手で殺す!」と夜尊は族長の首を絞めて反撃。しかしあっさりと族長に反撃され、首を締め上げられます。「お前ごときが俺に楯突くとは。死ね!」と男が手に力を込め、「うわああああ!!」と夜尊が絶叫した瞬間、夜尊の口へ族長の生命エネルギーがみるみる吸収され、族長は跡形もなく消えてしまいました。

夜尊の髪は黒から銀に変化します。力を使いきり、その場に膝をつき咳き込む夜尊。はあはあと息を切らしながら、刀を掲げた族長の部下たちに怯えて後ずさりします。しかし部下たちは突然手のひらを返し、「何なりとご用命を」と夜尊に跪きます。部下たちを見回し、付けていた仮面を見、自分の手を見ると、手には闇の力が黒い煙となって立ち上っていました。闇の力が覚醒したことを理解した夜尊は微笑みます。

沈巍は仮面を顔から離してみたり当ててみたりを繰り返しながら夜空を見つめ、趙雲瀾はそれを見て笑い、沈巍も微笑みます。
突然「感謝する」と言う沈巍に、「何を?」と返す趙雲瀾。「君は私を理解しようとしてくれる。私を敬ったり恨む者はいるが、こうして話を聞いてくれる人は初めてだ」と沈巍は本当に嬉しそうに告げ、趙雲瀾は切なげに顔を歪めます。「…もしいつか俺が姿を消しても恨むなよ。忘れるな。必ずまた会える」と趙雲瀾が言うと、沈巍は「どこへ?」と尋ねます。「行くべき場所さ」と趙雲瀾がはぐらかすと、そこに大慶が走ってきます。
「何を呑気に!?反乱軍が兵を送り込んでくる!聖器を持ってな」と焦る大慶の言葉に、沈巍の表情が翳ります。「聖器だと!?」と驚く趙雲瀾の横で、「今度こそ必ず取り戻す」と沈巍は顔を強ばらせて言います。趙雲瀾は沈巍の肩を叩き、「俺もついてる」と勇気づけます。沈巍は趙雲瀾を見つめます。

 

「大慶、危険だから帰りを待ってろ」と先に三族連盟の本部へ早足で向かう趙雲瀾。足を踏み出した沈巍は何かを踏んだことに気づき、それを拾い上げます。
「断る。僕は誇り高き猫族だ」「ごねるな、言うことをきけ」と趙雲瀾と大慶が言い争う背後で沈巍が拾ったのは、飴の包み紙でした。
「俺はお前の主だぞ」と趙雲瀾は大慶に念を押すと、「行こう」と沈巍に声をかけます。沈巍は包み紙を丁寧に袂にしまいます。走っていく趙雲瀾と沈巍の後ろ姿を見ながら、「あんたが主?いつ僕が認めた?」と大慶は文句を言います。

夜尊は部下たちを引き連れ、森の中を歩いており、部下の1人は聖器を入れた木箱を持っています。そこに趙雲瀾と沈巍が奇襲をかけます。趙雲瀾は銃で、沈巍は長刀で次々と夜尊の部下を殺し、聖器が入った箱を見つけた沈巍は箱を趙雲瀾に投げ、趙雲瀾は見事にキャッチ。そこからは沈巍と夜尊の一騎討ちです。夜尊は沈巍刀を手のひらに込めた闇の力で易々と受け止めますが、当初の目的だった「聖器の奪還」が叶ったため、趙雲瀾と沈巍は夜尊を置いてすぐさまその場から走り去ります。

木箱の包みを解き、蓋を開ける趙雲瀾。中には聖器が入っていました。
「全ての聖器か。功徳筆、長命時計、山河錐、鎮魂灯」と、一つ一つ聖器を出しながら沈巍がそれらの名を教えてくれます。趙雲瀾は沈巍から全ての聖器を手渡してもらい力をこめますが、何も起こりません。
「時の扉が現れない」と呆然と言う趙雲瀾に、「時の扉とは何だ?私に開けるか?」と不安げに尋ねる沈巍。「気にするな。一仕事終えたし帰るべき時だ」と言う趙雲瀾を、沈巍は縋るような目で見つめます。

そこに大慶が現れ、「なんだって?どこへ行く」と趙雲瀾の言葉に噛みつきます。「また会える」と趙雲瀾は言いますが、「来たばかりなのに帰さないぞ!」と腹を立てる大慶。「ドラ猫、少しは大人になれよ」と立ち上がる趙雲瀾を沈巍はずっと見つめ続けています。「食物連鎖の頂点にいる猫族だろ?このままだと捨てるぞ」と笑う趙雲瀾に、「だって…寂しいよ」と大慶は顔を伏せぽつりと本音を漏らします。趙雲瀾は笑って、大慶の腕にそっと手を添えます。
「大慶、従い守りたいと思う者に必ず出会う。人であれ猫であれ、心惹かれる偉大な者に。会えば分かる」「あんたとは?」「再会できるさ。ずっと飼い主だ。だけど今は別れなきゃいけない」。趙雲瀾の言葉を聞いて大慶は笑顔になり、少し戸惑いながらも懐から鈴のチャームがついたネックレスを取り出します。

そのネックレスは、浮游から「いつかこの鈴は主と認める人に渡して」と贈られたものでした。当時の大慶は「僕には自由が一番だ。主はいらない」と笑っていましたが、今は違います。大慶が趙雲瀾に「あげるよ」とネックレスを渡すと、趙雲瀾は微笑み、大慶の首につけてやります。「つけとけ」と笑う彼につられて、大慶も思わず笑顔になります。

趙雲瀾と沈巍目掛けて、夜尊が部下たちを引き連れて全速力で走ってきます。趙雲瀾が夜尊に向けて何発も発砲しますが、弾丸全てが闇の力をまとった夜尊の手の中に吸収されてしまいます。夜尊は沈巍と一騎討ち。趙雲瀾は夜尊の部下たちを次々銃で下していきます。

戦いの最中、夜尊は沈巍に仮面を真っ二つに切られ、顔があらわになります。夜尊の顔を見た沈巍は、「…お前なのか?」と驚愕。
「兄さん」と言う夜尊に、沈巍はゆっくりと自分の仮面を外します。見つめ合う2人。「僕だ」と言う夜尊に、「まさかお前が反乱軍の首領か?」と沈巍は確認します。夜尊は顔を泣きそうに顔をゆがめ、「違うんだ、誤解だよ。僕は首領に使われて戦ってるだけだ」と沈巍の前で跪きます。困惑する沈巍。「ずっと兄さんを捜してた」と夜尊は泣き出します。沈巍も膝をつき、夜尊の肩に手を置きます。

夜尊の部下を殺し終えた趙雲瀾は2人の方を振り向きます。泣きじゃくる夜尊に沈巍は「悪かった、弟よ」と語りかけます。「弟?あんたの?」と驚く趙雲瀾。

 

「死んだものと」と静かに涙する沈巍でしたが、夜尊は突然沈巍を睨みあげ、「まさか。死ぬのはお前だ!」と沈巍の顔面に闇の力を全力でぶつけます。趙雲瀾が何発も夜尊に銃弾を撃ち込みますが、夜尊は片手でそれを吸収し、趙雲瀾を吹き飛ばします。にんまり笑いながら立ち上がる夜尊。沈巍は目を見開いたまま地面にどうと仰向けに転がります。

聖器を入れた木箱を脇に抱え、大慶は沈巍にとどめを刺そうとする夜尊に走り寄ります。夜尊は大慶に攻撃し、聖器は木箱から全てばら撒かれてしまいます。趙雲瀾は夜尊に攻撃された腹を押さえ、倒れている大慶を見ます。夜尊が沈巍に攻撃しようとした瞬間、全ての聖器が輝きながら空に舞い上がります。

趙雲瀾は「大慶!」と叫ぶと彼の頸動脈に指をあて、生きていることを確認しほっと息をつきます。聖器が空に浮いてから、青空はどんどんとどす黒い曇天へと変わっていきます。困惑する夜尊。聖器は空でぐるぐると回り始め、それと同時に趙雲瀾は聖器が放う光にすさまじい力で引き込まれていきます。

「沈巍!いいか!覚えておけ!」と趙雲瀾が目を閉じ倒れている沈巍に向かって叫ぶと、沈巍の瞼がゆっくり開きます。「どんな決断でも後悔するな!沈巍!」と、呻きながらも光の中に消えていく趙雲瀾。沈巍は目を見開き、「崑崙!」と悲痛な声で叫びます。夜尊は倒れている沈巍を見つめます

趙雲瀾はいつの間にかまた宇宙空間に戻っており、服も現代のものに戻っていました。片手には銃が握られています。「これは」と独り言を呟くと、傍らには沈巍が立っていました。「また戻ってきたのか?」と趙雲瀾が言うと、沈巍は驚いた顔で立ち尽くしています。
「沈巍」と趙雲瀾が呼びかけると、沈巍は「1万年捜してようやく会えた」と答えます。趙雲瀾は微笑み、沈巍もまるで1万年前の「沈嵬」のような無邪気な笑みを浮かべます。「夢の中にでもいるみたいだな。どれぐらいここに?」「時のはざまは特殊な場所だ。どれだけ長くいようとも、出れば原点の時はほぼ推移していない」「またここに戻って来られるのか?」「難しいだろう。今回時の扉は聖器の力が乱れて開いた。確率からすると億万分の一で現れるかどうかだろう」と趙雲瀾と沈巍は話し、趙雲瀾は理解したというように頷きます。
「そろそろ行こう。ここには長くいるほど危険だ」と沈巍が言うと、趙雲瀾は「待ってくれ。大慶たちが心配だ。結末を見たい」と頼みます。沈巍は表情を険しくしますが、趙雲瀾に寄り添います。

趙雲瀾が消えた後、夜尊は「兄さんの中では僕より他人が大事なのか。だが僕の中では兄さん以外のものはただの塵にすぎない。兄さんが去った時から面をつけ始めた。兄さんと同じ、この顔を見たくないからだ」と心の中で呟きます。

 

沈巍が夜尊と対峙しようと起き上がると、夜尊の周りに突然黒い煙が立ち込めます。夜尊がどんなにもがいても煙は払うことができません。
「兄さん!助けてくれ!」と悲痛な声で沈巍に手を伸ばす夜尊に、沈巍は目を見張ります。夜尊のもとに走っていき、彼の手を握り渾身の力で煙の中から彼を引き出そうとする沈巍。しかし、夜尊の立っている場所を中心に地面が割れ始め、2人の手は離れてしまいます。

地面は割れ、底には赤く燃える炎(?)が見えます。沈巍は底へ落ちていく夜尊に必死で手を伸ばしますが、夜尊はしばし呆然とした後、恨みと絶望のこもった目で沈巍を睨みつけながら落下します。呆然とする沈巍。

すると突然、沈巍の身体が何かの力に侵され、金縛りにあったようにぎこちない動きになります。沈巍の部下たちが「黒枹使様!」と駆けつけますが、沈巍の身体を取り巻く黒い煙と、彼の身体から立ち上る白い煙に恐れをなして近づくことができません。
「後は頼んだぞ!」と沈巍は叫び、「黒枹使様!」と部下たちが叫ぶと同時に沈巍の足元の地面が割れ、彼も夜尊と同じように地下へ落下していきます。

三族連盟の本部にて、「鎮魂令」の協定書に判を押す三部族の長たち。「聖器は地界で保管を」と沈巍の部下が言うと、麻亀は「きっと聖器の力は地界を潤してくれるだろう。それに夜尊の力を封じ込め続けるためにも聖器の力が必要だ。承諾してくれ」と同意し、浮游を見ます。頷く浮游。「では聖器を地界に持ち帰ろう。今後は互いに干渉しない」と沈巍の部下は言い、地界へ帰るため立ち上がります。「今後もこの天下太平の世を守るのだ」と麻亀は言い、浮游は「元気でね」と見送ります。すると、沈巍の部下は深々と2人に礼をします。「黒枹使様に代わり、礼を。あの方の願いが叶った」と言う沈巍の部下に、2人は寂しげに顔を見つめ微笑み合います。

三族連盟の本部前の広場に、亜獣族が集まっています。「行くのか?」と尋ねる麻亀に、「全ては終わった。亜獣族も穏やかに暮らすわ」と浮游は笑って告げます。「お別れだな」と言う麻亀は寂しげです。彼の言葉に頷くと、浮游は足を踏み出します。その瞬間、「浮游、ずっと考えていたが」と麻亀が何かを告白しようとします。しかし浮游は彼を振り返ると、「頑張らなきゃ。使命があるでしょ。種族の主に自由などない」と寂しげに笑い、2人は見つめ合って無理に笑顔を作ります。

「行くわよ、大慶」と浮游が大慶に声をかけると、大慶は「僕は残る。また会いに行くよ」と断ります。「本当に1人…1匹で放浪の旅を?」「気づいたらなぜか首にこの鈴をつけてた。それに事の顛末を思い出せない。秘密のようだし、記憶を捜すよ」。浮游は大慶の言葉を聞くと、笑顔で「分かった。出発よ」と亜獣族の部下たちに声をかけます。亜獣族の大移動が始まり、麻亀と大慶は切なげにそのさまを見つめます。大慶はあたりを見回し、麻亀と拱手し合い、その場を去ります。

時のはざまでその一部始終を見ていた趙雲瀾と沈巍。その後、映像は目まぐるしく変わっていきます。
「世の移ろいは激しいものだ。当時隕石でできた空洞こそが今の龍城の礎だ」と言う沈巍に、趙雲瀾は「なるほどな。だから地界に通じる扉は龍城にあり、地界人が騒ぎをおこすのも龍城ばかりなのか」と頷き、ため息をつきます。「当時あんたも穴の中に落ちたんだろ?」と趙雲瀾が尋ねると、「だが死んではいなかった。聖器の力が原因かもしれない。もしくは夜尊の言うように、奴自身のおかげか」と沈巍は独り言のように言います。

沈巍が復活した時のことです。
地君殿では、丁頓が「摂政官様、地界の資源が枯渇し始め、多くの民が地上に逃げております」と報告しています。「聖器が地界から消失した。恐らくそれに関係があります」と言う補佐官。「落ち着け、騒ぎ立てるな。私の腰に響く。近頃夜尊が怪しい動きをしている。地上の監査機関から人を派遣して調査する許しを得た。丁頓、行ってこい」と摂政官は命じ、丁頓「はい」とすぐさま下がります。
「1万年前に黒枹使様たちが築いた安寧の地を私が荒廃させるわけにはいくまい」と言う摂政官に、「ですが黒枹使が謙虚すぎるばかりに我らは暗黒の地に」と補佐官は口を挟みます。摂政官が補佐官を睨むと、補佐官は頭を下げます。「今から天柱を見に行き、夜尊の様子を観察しろ。あの者が逃げ出せば地界に災いが降りかかるぞ」と摂政官が命じると、「はい」と補佐官は承諾します。

緑豊かな草地を歩く丁頓と部下たち。すると突然砂地の地面の一部が盛り上がります。丁頓の部下たちが「誰かいるぞ!」と叫ぶと、砂の下から両手が出て来、起き上がった沈巍の上半身があらわになります。

復活した沈巍は地君殿に訪れ、きょろきょろと珍しげにあたりを見回します。「1万年ですよ!何という果報だ!まさか黒枹使様にお会いできるとは、感動です」と歓声をあげる摂政官は沈巍のそばにべったりくっついています。つまずきそうになった摂政官を支える沈巍。「地君に摂政官か。そして民衆。安泰だな」と微笑む沈巍。「何とももったいないお言葉です。あなた様こそが地星人をまとめ、平和に導いたお方です」と拱手する摂政官の手を押しとどめると、沈巍は「当時私が首領になったのは戦いで先陣を切るためだ。”壊すは易く、守るは難し”。平和を保つ責任はより重い。世が変われば旗を振る者も変わる。私のことは気にするな」と告げます。「地上に行かれるご意向で?」とぎこちなく笑う摂政官に「地星人が地上に逃れるのはまだ許せる。だが地上で力を使うことは許しておけない。それに聖器の在り処も不明だ。だからしばらく地上に身を置く」と沈巍は断言します。「では海星艦に連絡を取り、人間界での身分をご用意しましょう。地上でのお名前はどうします?」とへこへこと笑う摂政官を横に、沈巍は宙を見つめます「沈、巍」と言い、微笑む沈巍。「沈巍ですね」と摂政官は繰り返します。

その後、沈巍は天柱に足を向けます。「悪運の強い奴だ。天は兄弟喧嘩がお好みらしい」と鼻を鳴らす夜尊に「天柱の中で1万年が経つ。改心する気は?」と沈巍は尋ねます。しかし夜尊は「なぜ改心など?正しいのは私だと証明する日が来た。聖人ぶっても世を制する力には勝てない」と飄々と言います。「地上へ行く。私がこの世と地界の平和を守る」「大風呂敷を!お前はどこへ行っても孤独だ。忘れるな、お前は黒枹使で、地上の奴らには異人種だ」「友が言っていた、地星人は愛し慈しむ気持ちがあり、人間と同じであると」と沈巍は夜尊に言います。黒い仮面をつける沈巍。「達者でな」と夜尊に言い残し、その場を去ります。

地上では、全身黒い服を着た男2人組が女から荷物を引ったくり逃走します。「誰か!引ったくりよ!」と悲鳴をあげるも、男たちは逃げおおせます。「人間なんてちょろいもんだ」「でもまずいだろ。黒枹使が地上に来るらしいぞ」「本当なら楽しみに待ってるよ」と言い合う2人の前に、地面から湧き上がるように黒枹使が現れます。「く、黒枹使だ」と怯える男たちに、沈巍は「ここはお前たちの来るところではない」と言うなり、2人の足元を地界への門に変え、強制的に送還します。眩しげに空を見上げた沈巍は「ここが1万年後の地上か」と呟きます。

「俺にとって俺たちの初対面は1万年後で、あんたにとっては1万年前か。不思議だな。1万年前の物語の続きが今から始まる」と言う趙雲瀾に、「よし、ここから出るぞ。まだ決着をつけるべき因縁が目の前にある」と沈巍は言います。「そうだな。汪徴、桑賛、罪のない者たち…この敵は討つぞ」と決意を固くする趙雲瀾の横で、沈巍は険しい表情で彼を見つめます。

大慶は特調所の林静の椅子で寝こけています。すると聖器が置かれていた場所の上空から光が差し、突然趙雲瀾と沈巍が床にしゃがむようにして現れます。驚く大慶。「戻ったのか!」と、大慶は趙雲瀾の腕を掴んで立ち上がらせます。笑顔の趙雲瀾。趙雲瀾は顔を引き締めるとパンツのポケットからスマホを出し、「ここを離れてから2日しか経ってないな」と呟き、横で沈巍が頷きます。「2日でも事態は悪化したぞ。僕は猫の姿で海星艦の奴から隠れた。ピンチの時は僕が頼りだろうから…」とうにゃうにゃ話す大慶に、「早く要点を話せ」と趙雲瀾は呆れます。
「地星人が人間に宣戦布告した」と大慶が簡潔に言うと、趙雲瀾は呆然とし、沈巍は表情を険しくします。「笑っちゃうよ。指揮をとっているのは黒枹使だと噂されている」と言う大慶。

地君殿では、黒枹使の格好をした夜尊が民衆の前に立っていました。彼の隣には、地君と摂政官もいます。
「鎮魂令のことはみんなも知っているだろう。これは1万年前に私が締結した協定だ。だがこれがただのまやかし物だと気づいた」と言う夜尊に、「まやかし物?」「どういうこと?」とざわざわする人々。「この協定のせいで地星人は暗闇の下に追いやられ、生活にも困窮している」と夜尊は続けます。ある男は「黒枹使様らしくないな。偽物か?」と顔を顰めますが、酒場のバーテンは「(偽物なんて)ありえない。俺は前にも見た。この姿にこの話し方、絶対に本人だよ」と反論します。「でも黒枹使様は平和主義者だ。急に気が変わったのか?」と不思議がる男。

「静かに」と夜尊が言うと、水を打ったように静かになります。「地君と摂政官に感謝する。私に指揮を任せてくれた」と言う彼に、摂政官が礼をします。「今こそ立ち上がり宣戦布告をする時だ!こんな協定は破棄する!」 と協定書を掲げます。「破棄?」とざわめく人々の周りを、銃を持った衛兵たちが取り囲んでいます。
「冗談だろ?」とバーテンが呟いた瞬間、夜尊は協定書に火をつけます。

「燃やした!」「どうして?」と戸惑う人々の前で、協定書は呆気なく燃え尽きます。摂政官は目を狼狽えさせます。「同胞たちよ。武器を手に、怒りの炎を燃やせ!我らが海星を統べる時がやってきた!」と朗々と叫ぶ夜尊にざわめく人々。彼の言葉に触発され、バーテンの横にいた男が「人間を倒せ!」と拳を振り上げ言うと、周りの人々も「人間を倒せ!」と復唱し始めます。焦り、周囲を見回すバーテン。衛兵もコールに加わり、大合唱になります。

夜尊が黒枹使に化けて地界の人々を扇動している話を大慶から聞き、沈巍は困惑。趙雲瀾はそんな沈巍を見つめます。

海星艦では、郭長城が郭英に連れられ入所しようとします。しかし職員に荷物検査をするよう検査所で止められ、さらにスマホも提出しろと強要されます。

「携帯も持ち込み禁止?」「非常時です。ご協力を」と言われ、郭長城は納得いかないながらもスマホを手渡します。郭英は「海星艦ではより慎重に行動しろ。会話にも細心の注意を払え」と郭長城に忠告。 「僕の仲間たちは…」と郭長城は特調所メンバーの安否を尋ねようとしますが、「声を抑えろ!私も心配だし、同情もしてる。だが今は何も言うな」と郭英はぴしゃりと言いきります。
郭長城の鞄に放射線を当てて検査している職員は、鞄の中に妙な物体(林静から貰った電気棒)を見つけて眉を顰めます。「鞄の中に不審物が」「これは?」と2人の職員に詰め寄られる郭長城。「教授を呼べ」「林教授、検査場へお越しを」と言う2人を前に、郭長城は「林教授?」と目を白黒させながら混乱します。

趙雲瀾と沈巍は特に変装もせず街を悠々と歩いています。「私は地界にあまりおらず、地君と摂政官も夜尊に寝返った。もう本物の黒枹使を判別できるものはいない。今の夜尊には全ての地星人を惑わすほどの力はない。だから汚い方法で民衆を欺いた」と重々しく呟く沈巍の肩を趙雲瀾が叩きます。「思い詰めるな、いいか。あんたは人で、刀じゃない」。「だが私の名が平和な世に亀裂を。当時弟を生かした私が悪い」と余計己を責める沈巍に、趙雲瀾はふと天を仰ぎます。
「あんたの弟は天が生かした。だが俺たちは天にも勝てる。夜尊には俺たちが何のために戦うのか理解できない」と趙雲瀾は沈巍を見つめ熱っぽく語ります。沈巍は「ありがとう」とぽつりと言います。
「何がだ?ところで、特調所の奴らはちゃんと身を隠してるのか?」と話を変える趙雲瀾に、「安心しろ。大慶に見に行かせた。今からどこへ?」と尋ねる沈巍。「地星人も戦う準備に時間がかかる。今警戒するべき相手は人間たちだ。戦争を控えて海星艦が何をするかも予測不能だ」「つまり君は」「あえて危険の中に身を投じる。奴が必要だ」と、趙雲瀾は笑います。

海星艦の検査所に、固い表情の林静が現れます。「静さん!」と郭長城は顔を明るくしますが、林静は郭長城に目もくれず冷たい表情で電気棒を職員から貰います。「電子機器だ。没収しておくよ」と言う林静に、職員は「はい」と了承。郭長城が悲しげな表情のまま職員から返された鞄を持とうとすると、林静に手を止められます。「新入りさん、頑張れよ」と真顔で言われ、郭長城は気まずげに彼の手の中から自分の手を引き抜きます。

たこわさ
たこわさ

「兄さん以外のものはただの塵にすぎない」と言いきる兄強火担の夜尊、なぜ「愛してほしい」ではなく「殺したい」方に思いが向いてしまったんでしょうね…。愛と憎しみは紙一重ですが、それにしても殺意が強すぎませんか…?沈巍が夜尊は死んだと勘違いした理由が知りたいです。

 

あと、特殊能力覚醒前のよわよわ夜尊がいたいけで可愛い…全身真っ白なので蚕みたいで守ってあげたくなりますね…🥺

突然沈巍と夜尊が復活したのにも何か裏がありそうな…夜尊が「沈巍が復活したのは私のおかげ」って言ってるのが謎です。どういうこと?🤔

 

趙雲瀾の「奴が必要」の「奴」って一体誰なんでしょうねえ。林静かな?ワクワク。

 

第36話 巻き返し

<あらすじ>
海星鑑(かいせいかん)に現れた夜尊(やそん)は、趙雲瀾(チャオ・ユンラン)と沈巍(シェン・ウェイ)を引き渡せと高(ガオ)部長を脅す。
それを知った趙雲瀾は危機感を高め、世界の人々にメッセージを配信する。
その中には特調所の仲間に向けた暗号が隠されていた。

林静に「新入りさん頑張れよ」と言われた郭長城は、ふと林静が自分の鞄に何かメモを入れたことに気づきます。

趙雲瀾と沈巍は叢波の家で彼を挟んで座っています。「状況が分かってるか?海星艦に知られたら面倒だぞ」と吠える叢波に、趙雲瀾は「俺といるのに面倒が怖いと?やらないのか?」と挑発します。叢波は一瞬ぐっと言葉に詰まり、「無論やるさ!告発者は海星艦なんか恐れない!」と早速キーボードを光速で叩き始めます。趙雲瀾は真剣な眼差しで、叢波の操作するパソコン画面を見つめています。
叢波のパソコンから「高部長、血清の使用許可を」と懇願する欧陽教授の声が聞こえ始め、沈巍の眼光が鋭くなります。

「今度の血清の実験は間違いなく成功に近い」と言う欧陽教授に、「完全な成功ではないと?」と高部長は返します。「もう他に選択肢はない。大戦も近いしこれが唯一の道なんだ。一体何をためらっている!!」と高部長の机を叩き、置かれていた物を破壊する欧陽教授。高部長は動揺し、「欧陽教授落ち着いて。気持ちは分かります。だが必要以上に興奮しすぎですよ」と彼を宥めます。

するといつの間にか夜尊が室内の柱にもたれかかり、「笑止千万だ」と笑っていました。「お前達人間が我々地星人に対抗できるなどと思っているのか?」と言う彼に、混乱した欧陽教授と高部長は夜尊と相手を交互に見ます。2人に近づく夜尊。「諦めろ。大戦を避けたいなら教えてやろう」と言う夜尊に、欧陽教授は「君は…」と言葉を切り、高部長は「夜尊か?」と直裁に尋ねます。夜尊は口元に笑みを浮かべ、2人を見つめます。
咄嗟に欧陽教授が夜尊に殴りかかりますが、欧陽教授は彼の体をすり抜けてしまいます。「無駄なことはするな。これは私の影だ。お前には触れない」と夜尊は欧陽教授に近づき、彼の顔面を白い煙をまとわせた手で撫でます。「だが心配するな。私も襲いはしない」と欧陽教授の耳元で囁くと、次の瞬間、夜尊は高部長の椅子に座り、両脚を机の上で組んでいました。

「何をしにきた?」と尋ねる欧陽教授に、夜尊は「ここへ来たのは2つの世界に友情の橋を架けようと思ったからだ」と黄金で装飾された杖をいじり見つめつつ、椅子の背もたれを揺らしながら答えます。高部長と欧陽教授は顔を見合わせます。「つまり、大戦は避けられる?」と高部長が恐る恐る尋ねると、夜尊は笑います。「もちろん可能だ。特調所の人間に用があって来た。所長の趙雲瀾と沈巍だ。この2人を引き渡すなら即時の撤退を考えてもいい」。
「本当か?」と高部長が念を押すと、夜尊は立ち上がり「約束は守る」と言います。

戸惑うような視線を交わし合う高部長と欧陽教授を見て鼻で笑う夜尊。「なんだ?お前らにとって奴らは捨て駒だろう?大局を考えろ」と言う夜尊に、高部長は「健闘する」と答えます。欧陽教授は高部長の発言に目を剥きます。「よろしい、良い返事を待っている」と夜尊は華麗にお辞儀をすると、一瞬、高部長を画面の下からじっとりと睨みつけます。目を細めにんまりと笑うと、夜尊は煙と共に消えます。

趙雲瀾と沈巍は目を合わせ、沈巍は思いつめた表情になります。

「部長、奴を信じるのか?」と言う欧陽教授に、高部長は「とんでもない。趙たちの考えが間違っていても、引き渡すことは別です。海星艦も信義を守る。こんな離間の計にかかりません」と断言します。高部長は椅子に座り、「とはいえ、海星艦にも現れるとは相当の自信があるのでしょう」と言い、欧陽教授は表情を暗くします。
高部長はため息をつくと、「こうなっては仕方ない。欧陽教授、血清の使用を認めましょう」と許可します。

その瞬間、部長室の磨りガラスのドア越しに外に人影が見え、「誰だ!」と高部長は声を荒げます。部屋に入って来たのは郭英でした。「部長、ご再考を」と固い表情で言う彼に、「副部長、私に説教を?君に盗み聞きする権利があるのか!?」と高部長は椅子から立ち上がり激怒。そして「誰か!」と職員を呼びます。すぐに現れた男性職員2人に、「副部長を監禁しておけ!」と高部長は命じ、郭英は驚愕します。職員に両脇を固められ連れて行かれる郭英。

「見ましたか?郭英だけでなく海星艦や上の星督局にもこの研究に反対するものが多い」と言う高部長に、「先程同意してくれたのでは?」と焦る欧陽教授。高部長は目を伏せながら椅子に座ると、「大丈夫です。いざとなったら私も責任を取る」と言いながら背にもたれかかり、「ただ、私で責任を負いきれるかどうか」と目をつぶりため息をつきます。

郭長城は郭英を廊下で待っている間、きょろきょろとあたりを見回し、林静に渡されたメモを取り出して読み始めます。「会って話そう、夜10時にトイレで。合言葉は”静さんはイケメンだ”」とメモを読みあげ、どう判断したものかと眉根を寄せる郭長城。しかし足音が聞こえてきたため、慌ててメモを鞄にしまいます。すると、廊下の先から郭英が職員2人に拘束されているではありませんか。郭長城は「叔父さん、なぜ?」と慌てて郭英に近づき、職員たちは一時的に郭英から手を外します。 郭長城に近づいた郭英は「大丈夫だ、心配するな」と困ったように言います。職員たちに連行される郭英の後ろ姿を見て、困惑し立ち尽くす郭長城。

「今後は海星艦とも連絡を取れないな。叢波、世界に配信を」と言う趙雲瀾に、叢波は「は?」と困惑しますが、彼の決意を固めた表情を見て無言で頷き、キーボードを叩き始めます。

「修理中」の立て札が立てられたトイレに夜10時に来た郭長城。恐る恐るトイレに入ると、まず入り口から一番近い個室を開けます。誰もいません。個室の下の隙間を覗くと、ある個室にだけ人が入っており、足首から下が見えました。その個室の前に行き、まずは合言葉を言わずにドアを開けようとしますが、鍵がかかっていました。郭長城が「静さんはイケメンだ」とおずおずと言うと、鍵が開き、林静がピースしながら笑顔で現れます。

叢波のパソコン画面には「全世界ライブ配信の準備中」と大きく表示されています。沈巍は緊張した面持ちですが、趙雲瀾は「やめとけ、見なくていい」と呆れたように沈巍に言います。「1万年経ってもあんたに電子機器は無理だ」と言うと、叢波が準備してくれた機材をざっと確認し「よし」と言います。叢波はマイクの調子を確認し、「いいよ」とGOを出します。沈巍は顔を伏せ、神妙な表情をしています。

龍城病院では、成医師がカルテを見ながら廊下を歩いていました。するとスタッフステーションから突然、「えっと、聞こえるか?マイクテスト」と趙雲瀾の声が聞こえてきます。
全身黒い服を着て帽子を深々と被り、俯き気味に街を歩いていた大慶と祝紅は、街角の大型ビジョンに「俺のことは知ってるだろう?みんなの友、雲瀾だ」と趙雲瀾が映っているのを見て驚きます。「帰って来たのね」「ライブ配信とは現代的だな」と、祝紅も大慶も嬉しげです。

「教授が血清を打ってる。ちょうどいいチャンスだ」と白衣から郭長城のスマホを取り出した林静に、郭長城は「どこでそれを?」と目を丸くします。「没収した。俺は教授だぞ」と言いながら、林静は郭長城にスマホの画面を見せます。

「俺は以前、無名の英雄で構わないと思っていたが、この数日でお尋ね者として有名になった。無駄話はやめて本題に入ろう。このままでは人類は滅びる。地星人は何者か?ネットの噂を信じるな。教えてやる。彼らも人だ」
沈巍は趙雲瀾の横顔を見つめます。
「(彼らは)俺たち同様に感情があり、失恋もすれば怪我もする人間だ。他の星から来て異なる能力があるという理由で危険とみなすのか?みんな仲間だ。つまりみんなが自分勝手で互いに理解がないから悪の勢力につけこまれ…」

楚恕之は、地界へ繋がる門の近くに佇み、スマホで趙雲瀾の動画を見ています。

「今の状況を招いた。だから能力のある奴は協力してくれ」
動画を見ている楚恕之のもとに野火が駆けつけ、「楚さん」と笑いかけます。

祝紅の叔父の家では、叔父がラジオを叩き、迎春と共に趙雲瀾の話を聞いていました。

「みんなで力を合わせれば戦争は避けられるはずだ。信じられないだろうが、俺は1万年前にこの精神を学んだ」

その頃、海星艦の職員たちは特調所内を歩き回り、捜索を続けていました。
「誤解されても裏切られたり犠牲になったとしても、俺と特調所は最後まで戦い抜く」。
大慶と祝紅は笑顔で大型ビジョンを見つめ、楚恕之もスマホを見つめ続けます。沈巍はずっと趙雲瀾の横顔を、目を赤くして聞いています。
「俺たちはこの時のために生まれたからだ」。
叢波も趙雲瀾の言葉に頷きます。

林静が趙雲瀾の動画の終わらぬうちにスマホをポケットにしまってしまったので、郭長城は「話の途中ですよ」と非難の声をあげます。林静は険しい表情で郭長城を見て、「欧陽教授の留守中にやらないと」と言います。「何をです」「はあ…ボスの言葉の意味が分からないのか?重要なのは最初の文字だ」。林静に呆れられ、郭長城はハッと気づきます。
「かつて特調所を去った仲間に俺は伝えたい。”盗”人は隠れてろ。”血”気は危険な尊厳だ。”清”い目でこれを認識すればお前らの決定を許そう」と趙雲瀾は言っていました。
「盗む、血、清」と郭長城は呟き、目を見開き林静を見上げます。にんまり笑う林静。「お芝居だったんですね!異動も!」と歓声をあげる郭長城に、「しーっ、小さい声で」と注意しつつも林静は頷きます。

林静が海星艦、欧陽教授のスパイだと判明した日、トイレで趙雲瀾と林静はこんな話をしていました。
趙雲瀾の、「俺に背いたり俺の男気を利用する奴にやれることは1つ…」の後に続いたのは、「芝居を続ける、逆手に取るんだ」という言葉でした。林静は一瞬戸惑いますが、苦笑し頷きます。声を出して笑い趙雲瀾の肩を叩くと、林静は「何をすればいい?」と尋ねます。「俺に協力するか?」「”俺たち”だろ。認めたくないが、特調所での何年間かは人生で一番面白かった」と2人は話し、趙雲瀾は笑って林静の肩を叩きます。

高部長の部屋では、趙心慈と高部長が趙雲瀾の動画をパソコンで見ていました。高部長の椅子に趙心慈が座り、高部長は不安げに趙心慈の横に立って画面を見つめています。
「目的のためならたとえ傷ついてもやり続ける。もう少し時間をくれ」と画面の中で趙雲瀾は人々に訴えます。

「早くしろ!IPアドレスが特定される」と、趙雲瀾の横から叢波は焦った声をあげます。趙雲瀾はため息をつくと、「以上が指名手配犯 趙雲瀾の全ての告白だ」と言います。
趙心慈はため息をつくと、パソコンの電源を落とします。高部長は戸惑いながら趙心慈を窺います。「先を見抜けず白黒も曖昧、善悪を判断できず、生死も考えない。にも関わらず我を通すとは愚か者め」と憎々しげに呟く趙心慈に、高部長は「趙さん、何の話です?」と困ったように尋ねます。
固定電話が鳴り、高部長が取ります。「もしもし、ああ」と簡素に対応した後、「IPアドレスが分かったとか。捕まえますか?」と趙心慈に確認する高部長。「いつまでもその場にいると?大局に影響しないことに時間を割くな。海星艦の長ならまだ重要な任務があるだろ」と趙心慈は言い、高部長は頷きます。「そうだ、血清の実験の状況は?」と趙心慈が尋ねると、高部長は「ご安心を、進展は順調です」と力強く返します。

林静と郭長城は実験室に駆け込みます。「誰もいない」と林静は呟き、「血清を捜さないと」と郭長城は部屋のあちこちを見て回ります。林静は指紋で金庫を開けると血清を取り出し、郭長城はそれを見て「早く」と共に外に出ようと急かします。林静は「待て」と言うと、電気棒を手に取り、「持ってけ」と郭長城に投げ渡します。輝く笑顔を見せる郭長城に頷く林静。しかしその時、エレベーターで欧陽教授と李茜が降りてきてしまいます。

「私は本当に嬉しい!血清の研究は成功だ!」と大興奮する欧陽教授に、李茜は怯え気味。「また血清の注射を打つのですか?」と李茜は尋ねます。
2人の声を研究室の扉越しに聞いた林静と郭長城は固まり、顔を見合わせます。
「血清の効果をもっと上げるためだ。科学のためなら当然やる!!あはは!!」と高笑いすら欧陽教授。李茜は入室するためセンサーに手をかざしますが、なぜかセンサーは反応しません。その隙に郭長城は机の陰に隠れますが、研究室の扉が開かないことに苛立った欧陽教授はうわあああ!!と雄叫びをあげながら扉を素手でこじ開けます。林静はそれを研究室内から見ながら硬直します。

欧陽教授は全く息も乱さず研究室に入ってくると、立ち竦んでいた林静に「林静、帰ったのでは?」と尋ねます。「血清を確認しに」と言う林静を怪しみながら、彼の横をゆっくり通る欧陽教授。林静は李茜と目線で会話しながら、身を固くします。欧陽教授が自分の横を通り過ぎ、林静がホッと息を吐くと、欧陽教授は突然振り向き、林静の首を絞めながら近くのガラスケースに彼を押し付けます。

「内部の者に裏切られるとはな!知識も仕事も与えただろう!」と激怒する欧陽教授に、「今の段階では副作用があるはず!教授、目を覚ましてください」と林静は苦しげに反論します。「それはお前だ。私は生物学の歴史に残る英雄だ!」とうわああ!!と叫びながら林静を床に引き倒し、「血清をよこせ!出すんだ!」と欧陽教授は彼の首を絞め続けます。苦しみもがく林静を見ていられず、郭長城は机の陰から飛び出します。

林静の白衣のポケットから血清を取り出した欧陽教授。郭長城は彼の背後から忍び寄り、電気棒を振りかざすと「手を離せ!!」と叫びます。郭長城の怯えを示すように、欧陽教授に向かって電気棒から高圧電流が迸りますが、欧陽教授には全く効いていません。欧陽教授はゆっくり振り向くと、今度は驚く郭長城の首を締め上げます。
李茜が駆け寄り、林静は床に座り込んだまま目を見張ります。「静さん、早く逃げて!みんなに知らせるんです!早く行って下さい!」と郭長城から必死で叫ばれ、林静は辛そうに顔を歪め研究室から外へ走り出します。「(手を)離さないと死んでしまいます!」と叫ぶ李茜の声を聞き、欧陽教授は郭長城を地面に突き飛ばし、血清の蓋を取ります。そして彼は血清を郭長城に注射し、李茜は青ざめます。

「麻酔薬を!」と叫ぶ欧陽教授。「教授、まさか」「数日観察しろ」。2人を放ってどこかへ行く欧陽教授を見送ると、李茜は顔をゆがめながら郭長城を抱き起こします。朦朧としながらも「あなたは…茜さん。大丈夫です。僕たち特調所が何とかします」と郭長城は伝え、失神。「長城、しっかりして!長城!」と李茜は叫びます。

外は真っ暗闇。林静は海星艦の外に白衣のまま出ると、どこかへ電話をかけます。しかし「この電話は使用できません」と音声案内が流れ、「そんな」と絶望の表情で呟きます。その時、近くから「やめろ!助けてくれ!誰か頼む!」と悲鳴が聞こえます。「余計なことに首を突っ込むな」と自分に言い聞かせその場を足早に去ろうとする林静ですが、さらに「助けてくれ!」という叫び声を聞くと居ても立っても居られず、思わず声の聞こえた方角へ走り出そうとします。すると林静の背後に何者かの気配が。林静が恐る恐る振り向くと、鴉青はにやりと微笑んでいました。

研究室の台に横たえられた郭長城。「どうだ?」「2時間は起きないかと」「そうか、どうするかは後で考えよう」と欧陽教授に言われ、李茜は頷きます。せかせかとその場を後にする欧陽教授。
「いいわよ」と李茜が郭長城に近づき囁くと、郭長城は呻き声をあげます。「すごく痛い」と呟く郭長城に、「よく我慢できたわね」と李茜は彼が身体を起こすのを手伝ってくれます。「(李茜が研究室から)逃げるチャンスだと教えてくれたおかげです。帰って特調所のみんなに話さないと」と言う郭長城に、李茜は「帰り道気をつけてよ。所長と沈教授によろしく」と心配そうに言いますが、「待って」と郭長城を引き止めます。李茜は林静と同じように指紋で金庫を開けると、海星艦のマークが描かれたアタッシュケースを郭長城に渡します。「これは?」「海星艦が押収した3つの聖器よ」。

林静は近くの公園に連れられ、鴉青に突き飛ばされて地面に倒れ込みます。「お手柔らかに。暴力には弱いんだ」と半笑いの林静に、「情報通りね。特調所では一番気骨のない奴だって」と鼻で笑う鴉青。林静はそれを聞いて苦笑いします。「そんな目で見るな。歴史は勉強した。海星人、亜獣族人、地星人、みんな友達だろ?」と言う林静に鴉青は馬鹿にしたように笑い、無防備にも彼に背中を向けます。その瞬間、林静は素早く立ち上がると隠し持っていた注射を鴉青に打ち込みます。鴉青はよろめき、林静は再度地面に倒れ、尻で後退りしながらもにやりと笑います。

そこに突然、黒い煙とともににやつきながら現れる夜尊。夜尊は深く呼吸すると、鼻から林静の生命エネルギーを吸い込み、最終的に彼を跡形もなく吸収し消し去ります。林静を吸収した夜尊は一瞬目を虚ろにするも、満足げに笑みを浮かべます。

よろめきながらも「ボス」と跪く鴉青。夜尊は呆れながらも片手を鴉青にかざし、黒い煙で彼女を治療してやります。「迂闊だぞ。虫けらでも生き延びたいと思う。相手を見下すほど危険が増す」と笑う夜尊に、「面目ないです。地星人は地上に?」と恐縮しながら尋ねる鴉青。夜尊は「立て」と鴉青に命じると、彼女に近づき、首周りの羽根飾りをゆったりと撫でます。
「まだその時ではない。準備の間に地上と地界を行き来する全ての通路を封鎖しておいた。次はお前に働いてもらおう。だが安心しろ。私の腹心を呼んでお前を手伝わせよう」と夜尊は微笑みます。「さあ、次の行動に移れ」と命じる夜尊を前に、鴉青は目をさまよわせるも、「はい」と従順に頷き、鴉に変化してどこかへ飛んでいきます。

「米露」と夜尊が呼ぶと、近くの木の陰から女が出てきて跪きます。「今後はお前も忙しくなるぞ」「望むところです。ボスの手腕には敬服させられます。ただ、あの女をまだ使うのですか?地星人以外は裏切るかも」。夜尊はにやにやと笑います。「分かっている。手始めに人類を滅ぼすが、然るべき時が来たら亜獣族も始末しよう」。手をひらめかせ、夜尊は手のひらで空気を感じます。
「この清らかな海星は、地星人だけのもの!」「さすがです」「お前は鴉青の助手となり、亜獣族の権力を奪うのだ。ついでに余分な道もしっかり塞いでおけ」「余分な?」。米露は眉を顰めますが、夜尊は「知る必要はない。今は鴉青を見張れ。もし奴が誰かに情けをかけたら…その場で殺せ」と愛用している杖をざくりと土に突き立てます。「はい」と米露が返事をするなり、夜尊は瞬間移動するように消えます。公園には、林静の持っていた丸い機械が土の上に残され、点滅していました。

郭長城はアタッシュケースを抱きかかえ、追手がいないか何度も後ろを振り返りながら街中を走ります。「静さんは?一体どこへ?」と不安げにあたりを見回しながら走る郭長城の前に、趙心慈の車が止まります。「乗れ」と言われ郭長城は戸惑いますが、彼の指示に従い乗車します。

地界に繋がる門の前に立つ楚恕之と野火。「ここが地界への入り口だ。地星人の先鋒部隊はきっとここに現れる」と言う野火に、「つまりこの近くの人々を避難させると?」と楚恕之は確認します。「そうだ、地星人の部隊や鴉族の兵がいたら全力で捕まえて君らに渡す」と言う野火に、楚恕之は「ありがとう」と素直に感謝します。「なんだって?」と目を瞬かせる野火に、「あんたも地星人なんだろう?だが特調所に協力してくれる」と返す楚恕之。「一緒に戦うたびに自分の行いは正しいと自信がつく。それに君も地星人だろ」と朗らかに笑う野火。「手分けして巡回しよう」と野火は楚恕之の肩を叩き、楚恕之は「分かった」と歩いていく野火の背を見送ります。
「…俺も地星人だった」と内心呟く楚恕之。

楚恕之は黒枹使に助けられた時のことを回想します。
楚恕之は地君殿で何度も鞭に打たれ全身血塗れになっていました。しかし呻きはしても怒りと憎悪の表情を全く隠さない楚恕之。摂政官は穢らわしいものを見る表情で、 鞭を止めさせます。「若造、お前は脱獄と殺人という大罪を犯したんだ。100年の刑期がまもなく終わる。反省したか?」「自分の敵を討って何が悪いんだ」「まったく救いがたいな」。凶悪な目で摂政官を睨みつける楚恕之。「お前みたいな危険人物を釈放するわけにはいかん。こいつを連れていけ。楚恕之の処罰を重くし、終生監禁とする」と摂政官が言い渡した瞬間、「罪は許しがたいが、同情の余地はある。どうせなら私に任せろ」と黒枹使が現れます。彼が現れた途端、摂政官は慌てて敬意を表するため腰を折ります。
「”操り人形は糸が切れれば全てが崩れ落ちる”という。長く続く傀儡師の血筋を途絶えさせるな」と言う黒枹使に、「あんたが黒枹使か」と睨みあげる楚恕之。「そうだ、君の目から弟に対する執着が見える。その執着を他の場で試してみないか?」と言う黒枹使からは、仮面をつけているせいで表情は全く窺い知れません。それでも、楚恕之は「はい、喜んで」と答え、摂政官は気まずげな表情を浮かべます。黒枹使は楚恕之を柱に縛りつけていた強靭な鎖を腕の一振りで解きます。ぜえぜえと荒い息をつきながら地面に倒れ込む楚恕之。楚恕之は無言で去っていく黒枹使の背を睨みつけます。
「兄さん、地上で一旗揚げてくれ。兄さんは僕の英雄だ」という弟の言葉を思い出し、楚恕之は黒枹使の背を睨みつける目に力を込めて、「任せろ」と呟きます。

郭長城が特調所にやってきて、楚恕之とペアを組んだ当初のことです。
郭長城は特調所の書庫で本を読んでいます。「おい、お前の指導係にされたが俺は嫌だ」と読書している郭長城に喧嘩腰に言う楚恕之。郭長城の反応がないので、楚恕之は「聞いてるのか」と机の脚を蹴ります。郭長城が机の上に積み上げた本がぐらぐらと揺れます。「うう…」と突然泣き出した郭長城に、楚恕之は「何だよ」と面食らいます。
「世界を救おうとする黒枹使はすごい人なんですね。僕みたいな役立たずには穏やかな暮らしが一番です」と泣く郭長城を、楚恕之は目を少し見開き見つめます。
「地君殿で働くよ」と自分が言った時、彼の弟・念之は「(僕には)穏やかな暮らしが一番だ」とはにかんでいました。楚恕之は念之の面影を郭長城の中に見ます。「言っておくが俺と組む以上、邪魔でもしたら承知せんぞ」と釘を刺す楚恕之に、郭長城は意外にも「あの、足は引っ張りません!」と胸を張って返します。

緑豊かな林の中の開けた場所で、アタッシュケースを抱きしめた郭長城は趙心慈と一定の距離を置いて対峙していました。近くには2人が乗ってきた趙心慈の車が停められてるいます。
「なぜ僕を助けてくれたんです?」と訝しむ郭長城に、「血清の注射をしたな?私たち地星人に似てきた」と静かに答える趙心慈…てはなく獐獅。「私たち?」と首をかしげる郭長城に、「そんなことより、知ってるか?聖器が数十年間行方不明だったのは、そのうちの1つ、鎮魂灯の火が消えたからだ」と獐獅は説明します。
郭長城を助けたのは趙心慈ではなく、獐獅でした。獐獅は豊富な知識を活かし、郭長城に夜尊を倒すために必要な聖器の説明をしてくれます。アタッシュケースを抱きしめながら、これまで見てきた趙心慈との違いに困惑する郭長城。
「鎮魂灯に再度火を灯すには、最も純粋なエネルギーが必要になる。天下の重責は君が担うのかもしれん」と言う獐獅に、郭長城は驚き彼を見つめます。

するとその瞬間、獐獅は苦しげに顔を歪めます。「いかん、彼が出てくる」と呻く彼を心配し、「どうしました?」と近づく郭長城。「いいから行け!早く!」と獐獅は焦って郭長城に強い口調で命じます。

郭長城は何が何だか分からぬまま獐獅に背を向け走り出そうとしますが、その瞬間、「止まれ!」と趙心慈から銃口を向けられます。憎悪の感情を隠さず近寄ってくる彼が先ほどの彼とはあまりに違い、驚く郭長城。

「聖器まで奪うとは」と吐き捨てる趙心慈に、郭長城は「それは…」と説明しようとします。「黙れ!特調所の行為は上級機関を妨害している。君たちの立場がどうであれ、勝手は許さない」「一言いいですか!所長は正しい!この戦いは止められます!」「それは分からん!」と言い合う趙心慈と郭長城。
趙心慈が郭長城に突きつけていた銃に糸が巻きつき、趙心慈は急に糸で引っ張られて体勢を崩します。その隙を逃さず、郭長城は趙心慈に全力でタックル。 楚恕之は郭長城にも糸を巻きつけ自分の胸で彼を受け止めると、「行くぞ!」と彼を抱いて走り出します。

趙心慈に電話が入り、「もしもし、分かった。すぐ戻る」と彼はすぐさま車でどこかへ去っていきます。背の高い藪の中に隠れていた楚恕之と郭長城はそれを見てホッと胸を撫で下ろします。 「楚さん、静さんと離れ離れになったんです。僕も血清でどう変わるか」と不安げな郭長城を、楚恕之は「バカか」と笑い飛ばします。「もういい。聖器は手に入れた。ボスを探そう」と言う楚恕之に郭長城は頷き歩き出そうとしますが、楚恕之はきつい目で前を見ると、サッと郭長城を守るように手で制します。「夜尊の先陣が来たようだ」と呟く楚恕之。

地界に繋がる門から、魘公子と3人の地星人の男たちが現れます。「人類を滅ぼすのに人手などいらん。この魘公子の指揮なら、目指すは”戦わずに勝つ”だ」と魘公子は男たちに語りながら移動し始め、楚恕之もそれを追い、郭長城も楚恕之の後を追います。

魘公子たちは人がすっかりいなくなった龍城の街を闊歩します。建物の陰から彼らをみつめる楚恕之と郭長城。「長城、隠れてろ。いいか。奴らの目を見るな」と言う楚恕之に頷く郭長城。楚恕之はたった1人で魘公子たちの前に進み出ます。
「お前か、また会ったな。覚えてるか?」と煽るように言う魘公子を糸で攻撃する楚恕之。しかしひらりと身体をねじりかわされます。「私を狙うほどの腕があるのか?相手をしてやれ」と、魘公子は連れてきた地星人3人に命じ、男たちは駆け出します。しかし2人はすぐさま楚恕之の糸で縛り上げられ、もう1人も楚恕之に殴り飛ばされ近くの建物の壁に激突します。
「私が直々に手を下すか。(お前たちは)引っ込め、次の場所に行け」と魘公子は男たちに指示。

郭長城が物陰でおろおろと戦いの様子を見ていると、彼の背後から誰かが肩を叩きます。振り返ると、それは祝紅でした。祝紅と共に大慶もおり、大慶は楚恕之の戦いを首を伸ばして見ています。
「ちょうど良かった!一緒に…」と楚恕之に加勢してくれと言いかけた郭長城に、祝紅は「隠れてて。いいわね?」と、しーっと静かにするよう唇の前に指を当てて言い聞かせます。大慶と祝紅は物陰から飛び出すと、楚恕之のそばに駆け寄ります。「先にあいつを」と祝紅が大慶に言い、大慶が魘公子に向かって走り出し攻撃しようとしますが、楚恕之が突然「待て!目を見るな!」と叫びます。しかし時すでに遅し。「眠れ、眠るんだ。怠け者の猫め」と魘公子に見つめられ、大慶はばったりと地面に倒れ眠り込んでしまいます。

寝る、男性

魘公子は次に祝紅と楚恕之を見ようとしたため、楚恕之は慌てて「祝紅、目を見るな!」と顔を両腕で覆いながら叫びますが、祝紅はばっちり魘公子と目が合ってしまいます。黒い煙に包まれる祝紅。「蛇は眠りが足りなかっただろ?今度はよく寝ろ」と魘公子に言われ、目をつぶり地面に倒れて寝始める祝紅。

楚恕之は倒れる彼女を見て「祝紅!」と悲痛に叫び、郭長城はもどかしげに物陰からその様子を見ています。楚恕之は魘公子の目を見ないよう闇雲に糸を飛ばしますが、近くの街頭を引き倒すことしか出来ず、魘公子に「お粗末だな、しっかり見ろよ」と笑われる始末です。
「弟に会いたいか?手伝ってやってもいいぞ」と魘公子が甘い言葉を囁いた瞬間、楚恕之がまた心を揺らし、彼を縋るように見つめます。郭長城は心ここに在らずといった楚恕之の様子に慌てます。「眠れ」と魘公子が黒い煙を出し、楚恕之を取り巻こうとした瞬間、郭長城はたまらず物陰から飛び出し、楚恕之にタックル。楚恕之はその衝撃でやっと目を覚まします。
しかし今度は魘公子は「さあ、私の目を見ろ」と郭長城の目を見ようとしますが、郭長城は楚恕之に再三忠告されていまので慌てて顔を伏せます。その隙に、楚恕之は糸で魘公子の首を縛ります。そこに趙雲瀾と沈巍が現れ、趙雲瀾はすぐに銃で魘公子を射殺。

「そんなに夢が好きなら永遠に起きるな」と、地面にのびる彼を見て冷たく言う趙雲瀾。郭長城は真剣な表情で「所長」と、アタッシュケースを渡します。そしてまだ眠り続けている祝紅のもとに走ります。

「祝紅さん、副所長、起きて」と懸命に2人を呼ぶ郭長城。趙雲瀾が祝紅の頸動脈に触れると正しく拍動が聞こえます。「大慶、大慶!」と彼を抱きながら焦ったように呼びかける楚恕之に、趙雲瀾は「大丈夫、代わろう」と名乗りを上げます。沈巍も趙雲瀾の言動を見ています。
「祝紅、趙雲瀾が来た。起きないなら置いていく」と趙雲瀾自身が祝紅のそばでこれ見よがしに言うと、彼女は眉を寄せ、「趙雲瀾」と切なげに呟きます。眩しそうに祝紅を見つめる沈巍。「趙雲瀾」と言いながら目を覚ます祝紅に、趙雲瀾はよくやったとばかりに微笑みます。郭長城は嬉しそうに「祝紅さん」と彼女を抱き起こします。
次は大慶です。楚恕之の腕の中で熟睡する彼を見てため息をつく趙雲瀾。「ドラ猫、小魚を揚げた。食べないと取られるぞ」と趙雲瀾が言った瞬間、大慶は「小魚、小魚はどこ?小魚…」とハッと起きてあたりを見回します。趙雲瀾は笑い、大慶は恥ずかしそうですが沈巍も微笑んでいます。「起きたか」と大慶に確認すると、趙雲瀾は「…久しぶりだな」と万巻の思いを込めて全員を笑顔で見回します。「久しぶり!」と声を揃えて答えるメンバーたちを前に、久々に声をあげて笑う趙雲瀾。沈巍は「大慶。まだ聞いていなかったが、あの後一体何があった?」と、自分と趙雲瀾が聖器の光に取り込まれた後の状況について尋ねます。

特調所で趙雲瀾と沈巍が時のはざまに強制送還時、大慶は最も近くからそれを見守っていました。2人が光に吸い込まれ呆然としていると、3つの聖器がまたも光り始めます。
大慶は「特調所から聖器を持ち出そうとした」と回想します。
大慶が聖器を入れているガラスに触れようとした途端、ガラスに手が触れる前に弾かれます。大慶は驚き、自分と手と聖器を交互に見ます。すると階下から「増援を頼む!仲間が2人殺された!犯人はまだ中だ!」と特調所職員の男の声が聞こえてきます。そこで大慶は慌てて猫に変身し、逃走。
「…というわけさ」と大慶はあらましを語ります。

「何はともあれ3つの聖器が戻って良かった」と趙雲瀾は沈巍を見つめます。「聖器が揃えば夜尊に勝てるってことね」と祝紅は言いますが、「理屈はそうだが、4つ目の聖器・鎮魂灯が見つからない」と沈巍が端的に返します。「もう出現してる可能性はないか?気づかないだけで」と趙雲瀾が言うので、大慶は「どういう意味?」と眉を顰めます。「ずっと考えていた。俺は1万年前に夜尊の闇の力と聖器の力が衝突して戻ってこられた。だが夜尊はどうやって移動してきたのか?」と趙雲瀾は沈巍を見、沈巍も険しい顔で趙雲瀾を見返します。「鎮魂灯は特調所の近くに存在すると?」と沈巍が言うと、趙雲瀾は頷きます。

突然郭長城が呻きはじめ、地面に倒れそうになります。 近くにいた祝紅が「郭ちゃん」と慌てて彼の体を支え、楚恕之も「長城」と背後から彼の両肩を抱き支えます。「しまった。欧陽に血清を打たれてる」と言う楚恕之に、顔を見合わせる趙雲瀾と沈巍。沈巍は手に力を込めると郭長城に闇の力を注ぎます。郭長城から何かが吸い取られ、郭長城はぐったりと弛緩します。「おい、大丈夫か」と郭長城に呼びかける楚恕之。「沈教授、助かりました」と郭長城は沈巍に礼を言いますが、沈巍は「郭くん、君はもう変異しているようだ」と険しい顔で告げます。
衝撃を受ける趙雲瀾・楚恕之・郭長城。「力を感じないか?」と沈巍が郭長城に尋ねたので、楚恕之と祝紅は郭長城をまじまじと見つめます。ぐう〜!と奇声をあげながら郭長城が両手に力をこめますが、何も起きません。気まずげに目線をそらす沈巍。大慶は笑い出します。
趙雲瀾が「帰ってから話そう」と提案すると、楚恕之と郭長城以外のメンバーは歩き始めた趙雲瀾の後を追います。郭長城もそれに続こうと歩き出しますが、地面に倒れている魘公子の足につまずいた途端、視界に白いもやがかかったように揺らぎ始め、朦朧とし始めます。楚恕之は彼を抱きとめると、「どうしたんだ?」と焦ります。

天柱の中に閉じ込められていた夜尊は「私に力を貸せば夢を叶えてやる」と魘公子に話しかけます。魘公子は「私の夢で世界を征服してみたいものだ」と夢想します。夜尊と魘公子が話している映像が浮かんだ後、ハッと目を見開く郭長城。「さっきまで虫の息だったが、今やっと死んだ」と、楚恕之は魘公子の遺体を見ながら言います。郭長城は魘公子を凝視。「大丈夫か」と再度尋ねられ、息を乱しながらも郭長城は「はい」としっかり答えます。「行こう」と楚恕之は郭長城を支えながら趙雲瀾たちの後を追います。

魘公子の手下の男たちが特調所へ行くと、扉は大きな札でバツ印に封鎖されており、扉の前には海星艦の職員の男2人が銃を持ち仁王立ちになっていました。男たちは職員に発砲され、激昂して殴りかかります。しかし後から駆けつけた楚恕之が魘公子の手下たちを糸で拘束します。趙雲瀾が騒ぎを止めようと乱闘の中に入ると、手下の1人が彼を背後から拘束し、「動くな!来たらこいつを殺すぞ」と人質にします。趙雲瀾は素早く背後を向くと発砲し、「俺の銃まで役き立たないとでも?これは特殊な銃なんだ」と残りの手下たちに笑顔で銃口を向けます。そこに黒枹使の服装に着替えた沈巍が現れます。

「黒枹使様?近いにいるのは?」と後ずさり混乱する手下の男に、黒枹使は「私の偽物が同胞を惑わしている。今降伏するなら罪に問わない」と告げます。男たちが「降参します!地界に戻って偽物だと伝えます!」と叫ぶと、彼らは黒い煙となって消えます。

夜尊の笑い声が天から響き渡ります。「もう手遅れだ」という声に、趙雲瀾と黒枹使は顔を見合わせます。「本体は地界にいるようだ」と言う黒枹使。「奴は最初から手下を捨て駒にしてたんだ」と楚恕之は呟きます。「1万年経っても相変わらずだな」も趙雲瀾は言い、黒枹使は空を睨みます。
趙雲瀾は「まあいい、仕事が先だ」と特調所メンバーを振り向くと、黒枹使は沈巍に姿を変え、全員で封じられていた特調所内に入ります。入室した途端、趙雲瀾と大慶が何かを見つけ、「李さん!」と驚愕の表情で叫びます。

たこわさ
たこわさ

夜尊の全身真っ白な燕尾服姿、めちゃくちゃかっこいいです。黄金をあしらった杖も仮面も最高〜!!キラキラで王子様みたいだ〜!!見た目だけだと、夜尊の方が正義の味方っぽいのが面白いですよね。

 

米露が何者なのか気になります。夜尊は米露を亜獣族に食い込ませ、人類を滅ぼした後に亜獣族も滅ぼすと言っていましたが…どんな計画なんでしょう?米露も鴉族の一員なんでしょうか?🤔

亜獣族の未来のためと夜尊復活を後押ししてきた鴉青が、彼に裏切られどんな最期を迎えるのか気になるところです。努力の方向は間違ってたけど、亜獣族のために頑張ってきた鴉青のことを思うと憎むに憎めない感覚があります。

 

獐獅が言っていた、鎮魂灯に火を灯すのは郭長城かもしれないというのも謎です。そもそもなぜ、いつ火は消えたのか?

 

そして、「夜尊はどうやって移動してきたのか?」→「鎮魂灯は特調所の近くに存在する?」という仮説への繋がりがいまいちよく分からない…🌀夜尊移動してなくないですか…?うーん?原作読めば理解できるのかなあ。

 

厄介な魘公子が退場してくれたので一安心です。

 

第37話 最後の聖器

<あらすじ>
仲間たちと最後の聖器 鎮魂灯を捜す趙雲瀾(チャオ・ユンラン)。
鎮魂灯は特調所の隅で眠っていたが、肝心の灯心がない。
手がかりを求めて蛇族の森を目指す趙雲瀾たち。

李が切り傷だらけで流血し床に倒れており、趙雲瀾と郭長城が慌てて走りよると、彼は「信じていた。君たちが戻ってくると」と息も絶え絶えに言います。「だからあの鴉どもを君たちのために追い払った」と言う李に、「喋らない方がいい。大丈夫だ、分かってる」と趙雲瀾は声をかけます。「手当を!」と叫ぶ大慶。祝紅は「救急箱を」と言い、郭長城が救急箱を取りに駆け出します。沈巍は「私が」と進み出ると、眉間に深い皺を寄せ、苦しげに李に力を与えます。「どうだ?」と大慶が沈巍に尋ねると、沈巍は目を開いて趙雲瀾を見、「心臓をやられてる。おそらく」と言葉を切ります。
「いやだ、また小魚を作ってよ!」と、震える李の手を自分の頬に当てて叫ぶ大慶。李は目に涙を溜めています。「李さん」と大慶が再度呼んだ瞬間、李は絶命します。趙雲瀾も沈巍も目を見張ります。「李さん!」と大慶は絶叫。

すぐさま郭長城が李の手を握ると、映像が見えます。楽しげに小魚をフライパンで炒める李。「李鴻春、採用だ」とゆに言われ嬉しそうな李。大慶の眠る姿を見て何か言いたげに苦しむ李。
「見えた。李さんの人生が全部見えた。もう一度小魚を炒ってあげたいって…」と、郭長城は涙を浮かべて言います。「一度じゃ足りない、何回も作ってよ。目を開けて、李さん。李さんの小魚をもっと食べたいよ!李さん!李さん!」と大慶は滂沱の涙を流し、叫び続けます。

李の死にショックを受けた特調所メンバーたちはテーブルを囲んで座り、黙りこんでいます。沈巍は茫然自失状態の郭長城を見つめながら近づくと、「特殊能力が芽生えたようだね。臨終前の者に触れると、その者の一生が見え遺言を聞ける」と告げます。「どうして。なぜこんな能力が?無念な思いを聞くとより一層悲しくなる」と泣く郭長城の肩に、沈巍は手を置きます。
「長城、せっかく芽生えた力だ。死にゆく者の願いを聞き、救ってやれる。そう考えれば悪くないだろ?」と楚恕之は郭長城の背に手を添えながら勇気づけ、郭長城は動揺しながらも「そうですね、分かりました。頑張ります」と涙を拭いて呟きます。楚恕之は微笑み、元気づけるように郭長城の背を叩きます。

「李さんと汪徴と桑賛の敵は何があろうと必ず討つ!」と両手を握りしめ震える大慶。隣に座る趙雲瀾は彼の背を撫で、「そうだ、必ず敵を討とう。だから一刻も早く聖器を見つける!鎮魂灯は特調所のどこかで存在を忘れられているんだ。さあ、捜しに行こう」と促します。立ち上がるメンバーたち。

趙雲瀾はソファーに座ったまま苦悶の表情で目をつぶります。1万年前に夜尊から奪った木箱から聖器を出した時のことを回想していると、鎮魂灯の形を思い出し、ハッとします。
「以前特調所はガラクタだらけで、俺が所長になってから整理とリフォームをした」とメンバーを引き連れ2階の廊下を移動しながら話す趙雲瀾。「それで?」と祝紅が話を促すと、「整理してる時古いランプを見つけ、布に包んでおいた」と書庫を抜けて建物の奥へ進んでいきます。部屋の隅には段ボールの山があり、趙雲瀾がその前で足を止めると、沈巍が手から闇の力を放出し、すぐさまどの段ボールの中に入っているのか探し当てます。沈巍が段ボールを開け、次々ガラクタを出してバケツリレーをしていると、そこには布に包まれた鎮魂灯が。「鎮魂灯だ」と沈巍は呟き、「ここで眠っていたか」と趙雲瀾はにやりと笑います。

その後、埃を被っていた鎮魂灯を綺麗に掃除し、趙雲瀾はメンバーが勢揃いしているテーブルの中央に置きます。置いた後、趙雲瀾は「妙だな」と首をかしげながら鎮魂灯を再度手に取ります。「手荒に扱うなよ」と文句を言う大慶に、「ないぞ?」と趙雲瀾は呟きます。「何が」と祝紅が問うと、沈巍が「鎮魂灯の炎は永遠に消えない。灯心に火をつけるだけでいいんだが、その灯心がないんだ」と解説します。
「探せば?」と大慶は言うも、「そう簡単じゃない。材質も不明だ。何も手がかりがない」と沈巍は答え、趙雲瀾と2人、表情を険しくします。
「ただ可能性として聖器は地界から人間の手に戻った。灯心は地界にあるのかも」と言う沈巍に、「だが地界は夜尊が牛耳ってる」と彼を見ながら趙雲瀾は鎮魂灯をテーブルに戻し、「戻るなら俺も行く」と主張。しかしすぐさま「駄目だ」と沈巍に反対されます。
「地界への唯一の道は彼の監視下だ。君を連れて突破するのは難しい」と言われ、趙雲瀾は言葉を探します。
「敵が地上に出てこないように何とか食い止めないと」と大慶が言うと、趙雲瀾も沈巍も黙り込んでしまいます。すると祝紅のスマホが通知音を鳴らします。「林静よ!」と祝紅が叫ぶと同時に、全員のスマホが鳴ります。

特調所メンバーのスマホに届いたのは、林静が海星艦のトイレでこっそり自撮りした遺言動画でした。
「みんながこの映像を見る時には俺は死んでるだろう。墓誌は簡潔でいい。”科学の申し子の墓”と刻んでくれ」。全員が食い入るように動画を見つめ、趙雲瀾は信じたくないという表情で画面を凝視します。
「思い出すのは、みんなと一緒に戦った日々だ。多くの思い出が心に残ってる。俺は…特調所の人間として生き、特調所のために死ぬ。悔いはない。はあ…よし、そろそろ時間だ。このまま見て」。動画を見ていた沈巍が突然立ち上がり、「夜尊?」と呟きます。
沈巍の手の中にあるスマホの動画には、林静が死ぬその瞬間の様子が、彼が公園に落とした機械を通じて映し出されていました。「静さん」と郭長城が喘ぐように呟くと、動画の中で夜尊は「お前は鴉青の助手となり、亜獣族の権力を奪うのだ。ついでに余分な道もしっかり塞いでおけ」と米露に指示していました。
「静さんは…命がけで知らせてくれた」と涙する郭長城に、趙雲瀾は「奴の思いに応えないとな」と悔しげに言います。

 

「余分な道とは一体何なんだ」と趙雲瀾は沈巍に問います。「余分な道?」と大慶は復唱すると、「思い出した!麻亀様は地界への入り口を2つ作った。1つは槐の木の下に。もう1つは亜獣族が守ってる!」と祝紅を見ます。
「亜獣族が?まさか聖器が地界への入り口?」と言う祝紅を、趙雲瀾は見つめます。「今すぐ叔父に会ってくる!鴉族を阻止しなきゃ!」と祝紅が慌てて言うと、趙雲瀾は立ち上がり、「一緒に行く」と宣言。「でも」「驚いたか?亜獣族と人間は支え合ってきた。灯心と入り口の話をおじさんに確認したい。それに…お前まで犠牲にすることはできない」。
見つめ合う趙雲瀾と祝紅に、背後から「私はいつもの入り口から地界へ戻る。みんなは蛇族の森へ」と沈巍が告げます。頷き合う趙雲瀾と沈巍。「も、もしまた地星人が来たら?僕は犠牲になった人のためにここに残って遺言を聞くよ」と郭長城は提案し、「俺も残る。長城を守りたい」と楚恕之は言います。趙雲瀾は承諾します。

テーブルを囲んで、特調所メンバー全員で円陣を組みます。「今回の任務が最後の勝敗を決める。全員揃ってここで再会を」と重々しく言うと、趙雲瀾は隣の沈巍を見つめ、彼の手の上に自分のもう片手を乗せます。「おーっ!」と全員が気合を入れると、趙雲瀾と大慶は迅速に鎮魂灯を片付け始め、郭長城は散り散りになったメンバーたちを見つめます。
祝紅は自分のデスクの引き出しから神木を取り出し、鞄に入れます。郭長城は彼女に近づくと、「祝紅さん、以前鴉青に貰いました」と羽のチャームがついた銀のペンダントを差し出します。「見せれば願いを聞くと。交渉にこれを使って。彼女はまだ引き返せる」と必死の面持ちで言う郭長城に、祝紅は無言で頷き、ペンダントを受け取ります。

楚恕之と郭長城が街に出ると、そこはまるで戦場でした。あちこちで火事が起こり燃え続けており、建物などは崩壊。既に死んでいる者・死にそうな者たちが車道・歩道の区別なく転がっています。まだ息のある人を捜す2人。あまりの惨状に泣きそうな郭長城は、楚恕之を見上げます。
「みんなじきに息絶える。言葉すら発せられない状態だ。だがお前の能力で声を聞いてやれ」と楚恕之に言われ、郭長城は倒れている少年に手のひらをかざし、もう片手を自分の心臓にかざします。少年に向けてかざした手のひらからは白い光が溢れます。楚恕之は能力を使う郭長城を見つめます。郭長城が能力を使うと彼の身体の周りを白い光と煙が取り囲みますが、しばらくするとそれは消え、郭長城はがくりと体をくずおれさせます。
「長城、しっかり、無茶をするな」と楚恕之は彼を抱きとめ声をかけますが、郭長城はすさまじい力で楚恕之の腕を跳ね除け、少年の願いを聞こうとします。
「ごめんよ、命は救えないけど君の思いはちゃんと聞いた」と泣きながら言う郭長城に涙を浮かべる楚恕之。楚恕之は郭長城の肩を抱き、衰弱している彼を立たせます。

沈巍は地界に繋がる門の前にいました。闇の力を使い門を開けますが、沈巍の力が弱まっているようで、力を込めても門が開いたり閉じたりと安定しません。両手を使って懸命に門を開こうとする沈巍。やっと開いた門の前で微笑むと、彼は突然吐血します。驚き、溢れる血を拭う沈巍。「この決戦で…勝敗が決まる。人々を守らねば」と沈巍は決意を固め、門を睨みつけながら、入っていきます。

祝紅の叔父・蛇族の青年たち・迎春は、鴉青と銃を構える地星人の男たちに囲まれていました。「始末しましょう」と声を荒げる蛇族の青年を叔父は片手で制すると、「逃げ隠れする気はない。好きにしろ」と鴉青に言います。
「弱き者は淘汰される。3ヶ月後に族長を選ぶと約束したのを忘れたとでも?」と言う鴉青に、迎春は「族長を選ぶのになぜ地星人が一緒に?鴉青、あなたは亜獣族の反徒よ!」と叫びます。「おだまり!誰か、2人を傷つけぬよう捕らえて」と鴉青が男たちに指示すると、そこに米露が現れます。
「待って、手ぬるいわ。悪は根本から絶つべきでしょう。情けをかける必要が?」と言う彼女に、「お前の口出しは無用よ。裁量権は私にある。手下のくせに私に意見するとは。この女を捕らえて」と鴉青は男に再度指示します。男は鴉青の指示に従い彼女に銃口を向けますが、米露は彼の構えた銃を当然のように降ろさせます。
「この者たちが亜獣族人の命に従うと思う?身の程をわきまえて。あの方に知られたら命はないわよ」と米露は言い、鴉青はあたりを見回し、「目的は?」と尋ねます。「計画の遂行よ!よく聞きなさい。亜獣族人を全員殺すのよ!」。どこからか鴉の鳴き声が聞こえ、米露はそちらを見遣ると「お客ね。相手をしてくる。あとは頼むわ。皆殺しにね」と挑戦的に鴉青を見て去ります。彼女の後ろ姿を見つめる鴉青。

濃霧の中を必死で歩く趙雲瀾・大慶・祝紅。3人は途中で立ち止まり、一息つきます。「道は合ってるか?」と趙雲瀾が問うと、「当然よ、育った森だもの。でも今日は様子が変ね。霧がすごいわ」と祝紅は不思議そうに言います。大慶が木の杖をつきながらふらふらと木の幹に手をかけると、そこには自分の手と全く同じ大きさの爪痕が。
「あれ、変だぞ。同じ場所を巡ってる」と大慶は言います。「木の並び方も普段と違う気がする。でも植物は成長するし不思議じゃない」と言う祝紅に、趙雲瀾は「罠にはめられたか」と空を見上げます。
米露は木の陰から3人を見ていました。「あと一歩でしとめられる。迷いの森は抜け出せないわ」とにやつく米露。「先へ進もう。行くぞ」と歩き出す趙雲瀾を追いながら、「疲れたよ、もう歩けない」と大慶は弱音を吐きます。

「考え直してください。みんな亜獣族の復興のために長老に従ってきた。蛇族たちとの紛争は亜獣族の問題なのに、なぜ地星人の言いなりに?」と鴉族の青年は鴉青に提言します。「何だと!?」と激昂する地星人の男に、「おやめ。この者は私の部下よ。地星人の干渉は無用。私には最高の権限が与えられている。命に逆らうつもり?」と鴉青は言い放ちます。「ならばその2人を殺しあの方への忠誠を示せ!」と地星人の男は叫び、叔父は無言で鴉青を見つめ、迎春は「青姉さん、殺さないわよね」と不安げに呟きます。
「同情しているのか?」と嘲るように地星人の男が鴉青に問うと、鴉青は泣きそうな顔をした迎春を見た後、「違う。殺す前に聞きたい。亜獣族に代々伝わる神木はどこにある?」と叔父に尋ねます。叔父は背後の迎春を一瞥し、彼女が口を割りそうにないことを悟ると自らも無言を貫きます。

「ボス!祝紅!どこにいる?道に迷った!」と濃霧の中を1人歩く大慶。「ボス!祝紅!返事をしてよ!」と、やけくそになり目の前の木を蹴ろうとしますが、大慶の身体は木をすり抜けてしまいます。「まさか幻覚が?」と驚く大慶。

その頃、郭長城はまだ街で瀕死の人の声を聞き続けていました。「配達の仕事を最後までやり遂げたい。さもないと減給される…」と目をつぶり遺言を聞く郭長城。目に涙を湛え、薄く微笑みながら郭長城を見つめる楚恕之ですが、郭長城がまたも倒れ、「長城!大丈夫か!しっかりしろ!」とぐったりした彼の体を支えます。「バカだな」と泣き笑いの表情で呟く楚恕之。

大慶はある木の前に立つと、思いきり殴りかかります。今度の木はしっかり殴れてしまい、大慶は拳を痛めます。「本物だ」と木を見上げると、にんまり笑って木を登り始めます。木の上から森を見下ろすと、濃霧は木の中腹から根本にかけて充満していることが確認できました。

米露が手から霧を撒き散らしながら舞い踊っていると、偶然にも趙雲瀾が彼女に遭遇します。「誰だ」と問う趙雲瀾に、米露は「鎮魂令主とは名ばかりで大した力はなさそうね」と嘲ります。怒りに顔をにやつかせながら米露に近づこうとすると、趙雲瀾の眼前に突然木が現れ、彼はそれに激突し卒倒します。楽しげに笑う米露は、「悪あがきは無駄よ。この迷いの森では、私だけが本物か幻覚かを見分けられる」と歌うように言います。しかしその瞬間、米露の背後から大慶が爪を伸ばした手で彼女の首を掴み、「これでどうだ」と言います。
「どうやって抜け出したの!あり得ない!」と叫ぶ米露に、大慶が「僕を人間だと?よく聞け、僕は食物連鎖の頂点に君臨するー」と言いかけた途端、彼女は右手に溜めていた闇の力を振り返りざまに大慶の腹部にぶち当て、失神させます。「猫ごときが私に説教を垂れる気?」とのびている大慶を見下ろす米露。
するとそこに祝紅が現れ、「蛇もいるわよ」と右手に力を込め、赤い力をまとわせ彼女の首を締め付けます。米露は苦しみもがきますが祝紅は攻撃の手を緩めず、絶命します。

痛みに朦朧としていた趙雲瀾でしたが、祝紅が米露を殺したおかげで霧は晴れ、目も覚めます。
立ち上がり「なかなかの腕前だ。意外に役に立つ」と褒める趙雲瀾に、嬉しそうに微笑む祝紅。しかし大慶は傍らで寝転んだままです。「大慶」と趙雲瀾は祝紅と共に彼に駆け寄ります。「しっかりしろ」と趙雲瀾が彼の頸動脈に指を当て呼吸を見ると、命はあります。趙雲瀾は祝紅に微笑みかけ、祝紅は意味を理解してほっとし、「行くわよ!」と大慶を叩きます。「お陀仏のようだな、先を急ごう」とふざけて彼の顔に木の葉をかける2人。
すると大慶はやっと目を覚まし、ぶるると顔を振って木の葉を振るい落とします。先へ進んでいく2人の背を見つけ、「おい、待ってくれよ!2人とも知らないのか?猫には命が9つあるんだぞ」と元気に2人の前に走り出て先導し始めます。

祝紅の叔父たちは鴉青の手下に身体検査されています。「もう諦めろ。これ以上神木を隠せる場所などない」と叔父はため息をつき、迎春も「族長の座が長い間空いていたせいで神木も行方不明よ」と援護します。しかし鴉青は「とぼけないで!浮游は蛇族だった。聖地の扉を開ける神木は蛇族が持っているはず」と2人を睨みつけます。
地星人の男が「特調所で働く蛇族の女がいる。その女を捉えれば在りかが分かるはずだ」と口を挟むと、祝紅の叔父は「何だと?」と声を荒げます。鴉青は叔父に銃口を向けている男の肩を叩き、「いい提案ね」と言うなり闇の力で男を失神させます。もう1人の銃を持った男が狼狽し、慌てて鴉青に銃口を向けます。「だけど神木を地星人に渡す気はない。夜尊の言いなりにはならぬ!」と鴉青はもう1人の男も失神させます。
「やった!」と喜び飛び上がる迎春に、「喜ぶな!」と激怒する鴉青。
「見逃す気はないんだろう?」「命は取らない。欲しいのは神木と族長の地位だけよ。だがシラを切り続けるなら…」と鴉青が祝紅の叔父を睨みつけていると、鴉青の横から祝紅が殴りかかり、弾き飛ばされます。祝紅の突然の行動に驚く趙雲瀾と大慶。

「祝紅、落ち着け」と叔父が祝紅を宥めますが、祝紅は憎々しげに鴉青を睨みつけます。「その救命符はあの若造から?」と鴉青は祝紅の首にかかっている羽根のペンダントを見て尋ねます。とっさにペンダントを握る祝紅。「愚かな男ね」と鴉青は呟きます。

叔父は「神木は姪に渡してある。代々伝わる掟では神木を芽吹かせた者が族長の地位に就ける」と告白します。祝紅が鞄から出した神木と叔父を交互に見る趙雲瀾。「鴉青、掟に背き神木を奪うつもりか?」と叔父は重々しく告げ、迎春は鴉青を睨みつけます。「まさか。私が選ばれし者かどうか試してみるわ。神木を渡して」と鴉青は祝紅に手を差し出しますが、祝紅は目を背け、神木を胸にしっかりと抱きしめ、拒みます。趙雲瀾はそっとため息をつき、「渡せ」と祝紅に促します。趙雲瀾を見た祝紅は困惑しつつも神木を鴉青に差し出し、鴉青は祝紅から力づくでそれを奪い取ります。
鴉青は神木を見てうっとりと微笑み、目を閉じると独り言を言い始めます。「亜獣族の祖先よ、私の努力を認めてくださるのならどうか神木に芽を」。鴉青の背後で呆れる趙雲瀾。叔父と迎春は鴉青が神木に芽を生やすのではと不安げに見守っています。しかし神木は何も反応しませんでした。

「そんな!悪にまで手を染めたのに!まだ努力が足りないと?」と悲痛に叫ぶ鴉青に、迎春は諦めたような目で彼女を見つめます。「違うよ。努力の方向が間違ってる」と大慶は言い、「あんたは神木に選ばれなかった。族長の座には就けぬ。神木を渡せ」と叔父は告げます。「こんな枯れ木、誰が試しても無駄よ!偽物で私を騙す気ね?」と神木を掲げて激怒する鴉青に呆れる趙雲瀾。
「改心しないばかりか、祖先の宝を冒涜する気!?」「冒涜ですって?ではお前たちは?長年手を尽くしても芽吹くことはなかった。残る希望はこの小娘だとでも!?」と、迎春の言葉に激怒した鴉青は突然神木で祝紅を指名し、祝紅は困惑します。
「そのとおり」と趙雲瀾は鴉青の手から神木を奪います。「祝紅はこの神木に命を吹き込むことができる」と鴉青に言うと、祝紅にそれを差し出します。祝紅は困惑して趙雲瀾を見つめ、回想し始めます。

趙雲瀾が1万年前にタイムスリップした時のことです。
書物の山に埋もれるようにして、麻亀はある種子を水につけて発芽させようと試行錯誤していました。一瞬目を出しても萎れてしまい、「失敗だ」と麻亀は趙雲瀾に愚痴をこぼします。「1万年前の理系オタクか。あの科学オタクと同じだな。そもそも戦略が間違ってるんだ」と趙雲瀾が言うと、「と言うと?」と麻亀は身を乗り出します。
「分からないか?浮游が好きなんだろ?すぐに気づいた。バレバレだぞ」と趙雲瀾が飴を舐めながら言うと、麻亀は気まずげに視線を逸らします。「男だろ?堂々と思いを伝えろよ!贈り物なんかに頼るな」と言う趙雲瀾に、麻亀は「君に何が分かる。この種は…浮游にとって大切な故郷の宝だ。3種族が激しい闘争を繰り返し、浮游は傷ついてる。気持ちは伝わらなくても笑顔が見られれば満足だ」と彼女への深い情に言葉を詰まらせながら告げます。趙雲瀾は彼の情熱的な想いを目の当たりにして気まずくなり、口をつぐみます。

大慶は大きな丸皿の上に神木を乗せ、祝紅の前に差し出します。祝紅は鴉青も含めた亜獣族の人々が見守る中で神木を手に取り、その上からまんべんなく透明な液体をかけます。そして深呼吸すると、”突然石が苔むし、急に水が凍り、木が枯れ、鉱石が金になる。これは全て不可能で、説明がつかぬ”と言い、きつく目を閉じます。困惑する叔父は迎春、そして祝紅を見つめます。趙雲瀾も傍らで祝紅を見守り、鴉青は怒りを堪えながら見ています。
祝紅は目を開けると、縋るように趙雲瀾を見つめます。「待ってろ」と趙雲瀾が言うと、祝紅はより強く祈ります。

また1万年前の話に戻ります。
趙雲瀾が試しに種子に酒を注ぎ麻亀と一緒に経過を見つめていると、種子は神木へと一瞬で変化します。「成功だ!君のおかげだよ!酒とは驚いた」と笑顔の麻亀に、「種も酒が飲みたいかもと思ってね。試してみたんだ」と苦しい言い訳をする趙雲瀾。「驚いたのは酒というものの存在だ。この世に酒なんて飲み物があるとは」と興奮している麻亀は心底嬉しそうで、「そのことか…」と趙雲瀾は適当に言い訳しようとしたのですが、「人生経験の浅い者には分からんさ」と言葉を濁すに留めました。そこに浮游が現れます。
「何の話?」と不思議そうな彼女に、「浮游、これを」と麻亀は神木を差し出します。浮游は感極まり、麻亀を見上げます。「ありがとう、この神木を代々子孫に継承させるわ!」と神木を抱きしめる浮游に、麻亀も微笑みます。趙雲瀾はここぞとばかりに麻亀の背中を押し、浮游に告白するよう促します。
「じ、実は話があって…君の支えに感謝してる。世界平和のためこれからも努力を」と、告白できなかった麻亀ですが、浮游は嬉しそうです。趙雲瀾は麻亀の純情っぷりに頭を抱えます。

祝紅が念じていると、神木から突然いくつもの芽が出ます。「芽が出たわ!」と叫ぶ迎春。驚く祝紅。叔父は興奮し、「天に選ばれし亜獣族の族長だ!」と喜びます。祝紅は怯えるように慌てて神木を乗せた皿を机に起きますが、鴉青以外の全員が「族長に拝謁を」と何度も叫び、跪きます。「ちょっと」と困惑する祝紅。「やめてよ!ボスまで何してるの。立って!叔父さんも」とそばにいた趙雲瀾を無理やり立ち上がらせる祝紅。趙雲瀾はしてやったりという笑顔です。鴉青は無表情のまま。
「紅よ、受けてくれるな」と叔父は言いますが、祝紅は今にも逃げ出したそうな表情です。すると、鴉青が唐突に膝をつきます。「私の負けね」と祝紅を睨みあげる鴉青。「高貴な者の前ではあんたも頭を下げるんだな。もういい、早く立てよ」と鴉青を揶揄う趙雲瀾。鴉青は立ち上がると、「頭を下げたのは、今悟ったからよ。人間と協力することこそ正しい選択だとね」と淡々と告げます。

「紅、族長だと宣言を」と叔父は祝紅の右手を掴み天に掲げさせようとしますが、祝紅は「叔父さん!」と憤慨。「族長になんてなるつもりは…何かの間違いだわ!ボス!」と趙雲瀾に助けを求める祝紅に、叔父はいよいよ「紅!お前は…!」と怒り出します。
「亜獣族と人間の和睦にお前の父親は全てを捧げた。神木に従うのがお前の責任で好機でもある。よく考えろ。本当に辞退するつもりか」。真剣な叔父を前に祝紅は狼狽え、周囲を見回します。趙雲瀾も真剣な表情で祝紅を見つめています。
祝紅は神木を手に取ると、決意を固めて握りしめ、叔父を見つめます。叔父に右手首を掴まれ、微笑む祝紅。「ここに宣言する!今日より亜獣族の族長は祝紅である!」「祝紅!祝紅!祝紅!」と蛇族と迎春、趙雲瀾と大慶は笑顔で拍手します。嬉しそうに手を掲げる祝紅。鴉青は悔しげに、でもふっと微笑みます。祝紅コールは森中に響き渡ります。

街では郭長城が瀕死になり、壁にもたれかかって荒い呼吸を繰り返していました。「長城、長城、気分はどうだ?」と心配そうに尋ねる楚恕之に、「うう、平気です」と呻きながらも健気に笑い懸命に体を起こそうとする郭長城。そこに野火が駆けつけます。
「ここにいたか!」と野火が叫び、「野火さん」「他の場所は?」と郭長城と楚恕之が尋ねます。野火は悲しげに首を横に振ります。楚恕之は野火の肩に手を置き、「一緒に行動を」「ああ」と会話を交わします。野火と郭長城は互いにまぶしげに見つめ合います。

地界の街ではある男が「聞いたか?黒枹使様になりすました不届き者がいる。見つけたらすぐに通報だ」と言い、沈巍はそれを横目に通り過ぎます。
すると突然、「黒枹使様!」と沈巍のもとに駆け寄ってくる呉天恩。「俺も戦いましたが、夜尊を倒せませんでした。父さんまで奴の毒牙に」と血の滲んだ傷だらけの顔で泣き、跪きます。「黒枹使様、敵を討ってください」と言う彼に、「分かった、立ちなさい。私のせいだ。陰謀を見抜けなかった。君は悪くない」と腕を掴み立たせる沈巍。
「黒枹使様、この後の計画は?」「ある物を捜す。恐らく地君殿の収蔵庫にあるはずだ」「地君殿?あそこはもう…」「夜尊に牛耳られてるんだな?」「…俺にも協力させてください。父さんの復讐を」。沈巍は呉天恩を厳しい目で見つめますが、ふっと息をこぼします。「行こう」と微笑み、呉天恩を先導する沈巍。沈巍の背を見つめる呉天恩の目は、なぜかどろりと濁っています。

林静はあたり一面真っ赤でどくどくと鳴動しているどこかに突然放り出されます。
「ここはどこだ?」と臭いを嗅ぎ、体のべたつきを触ってうげぇ、と吐きそうな顔をします。「夜尊に飲み込まれたはずだよな?まだ生きてる?」とポケットからスマホを取り出し、懐中電灯機能であたりを照らして探索し始めます。そこにはいろんなものが落ちていました。「そうか、ここは夜尊の体内なんだ。ゆっくり消化されるわけか」と呟く林静は、ある物を見つけて驚き、慌てて駆け寄ります。それは沙雅の愛用しているギターでした。あたりを手で探ると、林静が彼女に贈った指輪も残っていました。
「俺たちはまた会えるはずだ。俺たちの縁を信じて」と、電気屋で彼女を抱きしめた最初で最後の瞬間を思い出し、林静は「沙雅」と指輪を握りしめ泣き出します。

地君殿では、摂政官が地君の前に書類を置いた瞬間、沈巍の長刀が彼の顔の真横に差し出され、摂政官は「誰か!」と悲鳴をあげます。地君の頬には呉天恩が刀を突きつけます。
「黒枹使様でしたか。どうかこの老いぼれを見逃してください」と言う摂政官に、「夜尊に寝返り悪事を働いた者がなぜまだ地君殿に?」と冷たく突き放す沈巍。「黒枹使様、ここをどこだと?地界の中枢を担う場所です。戦時にあっても私はここで民のために働かねばならない。さもなくば地界は混乱に陥る」と摂政官は言い返します。沈巍は抵抗する気のない地君を見遣ると長刀を摂政官から外し、「その言葉に免じ、命は取らぬ」と返します。摂政官は笑い、「情けをかければ身を滅ぼす」と呟きます。困惑する沈巍。その時、呉天恩は地君の机を飛び越え、沈巍の首の後ろに手刀を一発入れ、彼を気絶させます。

「夜尊こそ俺のボスだ」と言い沈巍を見下ろす呉天恩。「よく言うだろう。余計なことに首を突っ込むなと」とその横で言う摂政官。沈巍は一度目を開けますが、再度目を閉じ、気絶したふりを続けます。

たこわさ
たこわさ

号泣してもう一度見返したシーンは、真亀が「この種は浮游にとって大切な故郷の宝だ。3種族が激しい闘争を繰り返し、浮游は傷ついてる。気持ちは伝わらなくても笑顔が見られれば満足だ」と自らの溢れる思いに言葉を詰まらせながら言うシーンですね…なんて健気すぎる告白なんだ…。浮游は麻亀をどんな風に見ていたんでしょうね?麻亀ほどは愛していなかったのかな。それとも体のいい言い訳ではなく、本当に亜獣族長でさえなければ麻亀の愛に応えたかったのかな。謎です。

 

米露の「迷いの森」が登場した時は永遠にここから出られないんじゃ!?と思いましたが、意外とあっさり死んでしまいましたね。夜尊の腹心、意外と小物…。

 

「見せれば願いを聞くと。交渉にこれを使って。彼女はまだ引き返せる」という郭長城と、祝紅が新たな族長として嬉しそうにしていたシーンはアツすぎました。しかし神木に芽が生えるのは選ばれし者だからではなく、「神木に酒をかけてしばらく待てば良い」という事実を知っている者であれば誰でも良かったんですかね?そうなると鴉青がその事実を知った時にまた反乱が起きそうだなあ。

 

あと夜尊の体内で林静が生きてる展開は笑いましたwどういう構造なんだ夜尊の体内はww

 

第38話 混乱の街

<あらすじ>
郭長城(グオ・チャンチョン)は犠牲者の言葉をライブ配信し、冷静になるよう人々に訴える。
同じ頃、趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は地界への通路にいた。そこは1万年前とつながっていたが、灯心がないために通信は途切れてしまう。
そんな時、変異した欧陽貞(オウヤン・ジェン)教授が襲ってくる。

街角に座る楚恕之と郭長城。「街はパニック状態だ。これでは地星人の襲撃前に人類は滅びるな」と野火が言うと、「死への恐怖で生きる意思まで忘れたか」と楚恕之は呆れたようにつぶやきます。「なら思い出させるしかない」と決意を固める郭長城。そこに叢波が現れます。
「ここにいたのか、街は危険だぞ」と苦言を呈する叢波な、「準備は?」と間髪入れず尋ねる楚恕之。叢波はリュックを下ろし、準備を始めます。「海星艦のネットワークをハッキングした。避難指示の後に通信を切り替える。あんたの声が街中に響く。特調所はライブ配信が好きだな。ネットのヒーローになる気か?」と揶揄う叢波に、郭長城は狼狽えながらも「ライブ配信なんて僕に所長の真似は無理だ。…でも彼らの遺言を家族に伝えなきゃ」と固い決意を込めて言います。楚恕之はそれを聞いて口元だけで微笑みます。
叢波のノートパソコンの画面には「全世界ライブ配信の準備中」と表示されています。

蛇族の森では各族長たちと特調所メンバーが地界への入り口に向かいます。「先に入れ。外は見張っている」と祝紅の叔父が特調所メンバーに言うと、メンバーたちは鴉青の方を見ます。鴉青は「族長が決定した以上、従うわ。まだ私を疑っているの?」とぶすくれています。趙雲瀾は笑い、祝紅に「行こう」と促します。戸惑いを見せるも、歩き出す祝紅。残された各族長たち。
洞窟に入る趙雲瀾・大慶・祝紅の3人。趙雲瀾は祝紅と視線を合わせると、神木を鍵穴に差し込み回します。扉はあっさり開きました。洞窟の壁にはびっしりと文字が書かれていました。
にやにやしながら壁をみている大慶に、趙雲瀾は「読めるのか?」と尋ねます。「いいや、小魚に似てない?」と近くのうねうねした文字を指し示す大慶に呆れる趙雲瀾。「文字の意味は、”ここが地界への通路であり、聖器を使うための場所でもある”と。正しく配置すれば聖器の力を融合して時空を越えて通信ができるわ」と祝紅が解説します。趙雲瀾はリュックから4つの聖器を取り出し、配置します。

「よし、始めるぞ」と言いつつも嫌そうな叢波。郭長城は不安げです。「もたもたするな」と叢波が郭長城を一喝すると、楚恕之はそっと郭長城の肩に手を置きます。「怖いか?」と尋ねる楚恕之に郭長城は頷きます。「彼らは死んだが、お前は生きている」と楚恕之が言った途端、郭長城は決意を固めたように歯を食いしばり、素早くマイクを付けます。
「あの、こちらは特調所の郭です。託された言葉を、ご家族の方に伝えたいと思います」。画面には腕をくんだ野火と郭長城が映っています。「この言葉が届く頃にはその方はなくなっています。お悔やみを」と続ける郭長城。

その頃、龍城病院では患者たちが暴動を起こしていました。
「何をするの!まだ治療中よ、病室に戻って」と成医師が患者たちを止めようとしますが、患者たちは「出て行かせろ」「避難指示だぞ!地星人が来襲する」と言って聞きません。
その時、院内放送で「19歳の葛小倩から、大好きな兄さんへ」と郭長城の声が流れます。「俺の妹だ!」と叫ぶ患者の男。「ちゃんと病気を治してね。また会いにいく」。郭長城は死にゆく人々の遺言をノートに書き綴っており、それを一つ一つ読み上げていきます。「医療費は大丈夫、兄さんの病気はきっと治る」という郭長城の言葉に、「ごめんよ、許してくれ…俺がバカだった」と男は自分の頬を殴りつけます。「先生すみません、療養します」と頭を下げる男にホッとする成医師。「病室へ送って」と看護師に指示します。「36歳の湖亮から同僚の皆さんへ…」と郭長城の言葉は続いていきます。

洞窟の中で、趙雲瀾が設置した聖器を見回しながら「ピクリともしない」と愚痴をこぼした途端、鎮魂灯が光りだし、空中に映像が映ります。そこには、「成功だ!本当に聖器を使って時空を越えられた!浮游来てくれ」と喜ぶ麻亀が映っていました。祝紅は浮游の姿を見て思わず跪きそうになりますが、趙雲瀾が彼女の腕を掴み立ち上がらせます。「麻亀に浮游、久しぶり」と趙雲瀾がフランクに挨拶すると、「君は?なぜ私たちのことを?」と麻亀は不思議そうに尋ねます。「今度はそっちが俺を覚えていないのか。俺のタイムスリップ前だな」と言う趙雲瀾に、「僕のことは覚えてるよね?」と口を挟む大慶。「大慶?任務中じゃないの?どういうこと?」と不思議がる浮游に笑う大慶。
「自己紹介するよ。俺の名は趙雲瀾。鎮魂令主で…1万年後の継承者だ」という趙雲瀾の言葉に、麻亀は「継承者?1万年後?まさか…」と目を見張ります。「あんたたちの理想を求める戦いはしっかり実を結んだよ。1万年の平和に感謝する」と続けると、「私たちやり遂げたのね!」「良かった」と浮游と麻亀は笑い合います。そんな2人を見て、趙雲瀾・大慶・祝紅も自然と笑顔に。
「趙雲瀾。聖器を融合させその力を得る方法を教えよう」と、麻亀が本題を切り出します。

「以上55名が本日の犠牲者です。どうか命を大切に。力強く生きてください」と郭長城が言い終えると、叢波と野火と楚恕之は彼を静かに見つめます。「そして特調所を信じてください。我々は皆さんを守ります、必ず」と力強く締めくくる郭長城。

龍城病院にて、成医師は憔悴しきっていました。そこに院長が現れ、「大丈夫か?」と彼女を気遣います。「院長、現場で救急活動をさせてください」「この非常時に何を…」「院長!死者が増えます。早く治療すればより多くの命を救える」と必死で懇願する成に根負けし、院長は彼女の肩に手を添えると「気をつけて」と支援します。頷く成。

聖器から溢れる光が点滅し始め、「なぜだ。聖器が4つ揃っていないのか?」と麻亀は困惑します。「全てありますが、鎮魂灯の灯心がないんです」と祝紅が言うと、「では融合は無理だ。この通信も間も無く切れる」と麻亀は返します。「灯心はどこに?」と大慶が尋ねると、「捜しても無駄よ。あれは…」と浮游が言いかけたところで画面が消えてしまいます。趙雲瀾は焦り、余裕がなくなり始めています。

森に車を止め、その地に降り立った欧陽教授は明らかに苛立っています。

聖器に趙雲瀾たちが近づいた時、洞窟の外から「鴉族の長老よ、手を引け!さもなくば…」と地を震わせるような恐ろしい声が響き渡ります。趙雲瀾は表情を引き締め、「早く聖器をしまえ」と大慶と祝紅に指示します。
三族長たちとその部下たちが声のもとに駆けつけると、そこには仁王立ちの欧陽教授がいました。
「地星人の次は人間の過激派?」と鴉青が鼻で笑うと、叔父は「ただの人間じゃない」と呟きます。「なぜ分かるの?」と不思議がる迎春に、「あの声は異常だ」と叔父は即答します。「私が狙いなら相手になるわ」と鴉青が一歩踏み出すと、叔父は「奴の狙いはあんたを捕らえ亜獣族と人間の仲を割くことだろう。全員で戦うぞ」と彼女を片手で制します。それを見て欧陽教授はおぞましい声で笑いだします。

趙雲瀾たちも駆けつけます。「欧陽教授も血清を打ったな。変異している」と呟く趙雲瀾に、「以前夜尊が血清には慎重に対処しろと。まさか亜獣族への攻撃に使われるなんて」と鴉青が返します。「情報とは違うようだ。鴉族は夜尊の手先となり侵略を企んでいたのでは?」という欧陽教授の言葉に、鴉青は視線をさまよわせます。
「特調所は地星人を匿った上、夜尊の徒党と結託していたのか!」と激昂する欧陽教授を趙雲瀾は皮肉げに笑い、「力で相手をねじ伏せようとは、欧陽教授こそ情報と異なるようだ」と彼を煽ります。「口は達者だな!」と手から赤い力を放つ欧陽教授。祝紅が趙雲瀾の前に躍り出て力の塊を蹴り返しますが、欧陽教授は高笑いしながら透明になっていきます。趙雲瀾は欧陽教授に向かって発砲しますが、全く効いていません。
「闇の銃が通用しない」と驚く趙雲瀾。「亜獣族め、死ぬがいい!」も欧陽教授が叫んだ時、ちょうどそこに趙心慈が駆けつけます。欧陽教授は更に血清を懐から取り出します。「どうする?」と大慶が趙雲瀾に尋ねた途端、彼は走り出し、さらに自分自身に血清を打とうとした欧陽教授にタックルします。「ボス!」と祝紅が叫ぶのと同時に、趙心慈が「雲瀾!」と銃を趙雲瀾に向かって投げます。
趙雲瀾は欧陽教授に血清を打たれそうになりますが、すんでのところで趙心慈が投げつけてくれた銃を彼に何発も発砲(したように見える)。趙雲瀾も欧陽教授もばたりと地面に倒れ込んでしまったため、その場にいた全員が2人のもとに駆け寄ります。

街角に打ち捨てられた木箱に座り込んでいる郭長城と叢波のもとに、楚恕之と野火が近づいてきます。「効いたぞ、みんな平静を取り戻した。もう大丈夫」と報告を受け、郭長城と叢波はホッと笑顔に。楚恕之は郭長城の肩を叩き、「長城、よくやった」と笑います。郭長城は表情を引き締めると、「蛇の森に行って所長と合流しましょう」と提案。「よし、ここは任せる」と、楚恕之は野火にお願いします。野火は簡素に「分かった、またな」とだけ返し、楚恕之と郭長城は野火の肩を叩いて(郭長城はぎこちなくも嬉しそうに肩を叩き)その場を後にします。
「引き上げよう、ここは危険だぞ」と叢波が野火に提案しますが、野火は「なら帰れ」と強気で、叢波は呆れます。しかしその直後、「いや、危機下にある市民を救う!告発者としての俺の努めだ!」とコロッと態度を変えたため野火が不審に思い彼の視線の先を見ると、そこには成医師と看護師たちが歩いてきていました。
「龍城病院の成心妍です、医療支援にきました」と2人に挨拶する成医師に、叢波はすぐさま進み出て、「どうも、叢波です」と彼女と握手します。成医師は戸惑い愛想笑いをしながら、「治療を始めますね」と告げます。「ええ」と嬉しそうな叢波。野火は叢波の言動に呆れそっぽを向いています。「むこうの様子を、こっちもね」と看護師たちに指示し、「私たちも」と成医師は叢波を誘い歩き出します。

欧陽教授は目を見開いたまま倒れています。趙雲瀾は荒い呼吸を続けていましたが、大慶に抱き起こされます。そこに趙心慈が現れ、「大丈夫か?」と尋ねますが、趙雲瀾は「平気だ」と大慶と祝紅に告げます。立ち上がった趙雲瀾に、趙心慈は「誤解するな。欧陽教授の行動は我々も予想していなかった。正当防衛だ、罪には問わない」と言い、大慶は「なぜここに?」と訝しみます。すると趙心慈の目の色が黒と黄金と何度も変わりながら苦しみ始め、最終的に黄金に落ち着き、獐獅として話し始めます。
「趙雲瀾、ある人に頼まれてきた」「頼まれた?」「鎮魂灯の秘密について話がある」。大慶が「なぜそれを?」と訝しむと、獐獅は「改めて名乗ろう。私は獐獅。9900年前に生まれ、地上にいる唯一の地星人変異体だ。師の名を麻亀という」と告げ、趙雲瀾は驚きます。

沈巍は(なぜか眼鏡を外され)地君殿の柱にくくりつけられた状態で、夜尊に鞭で打たれていました。傍らには摂政官が立っています。「黒枹使よ、囚人となった感想は?」と夜尊は尋ねますが、沈巍は息も絶え絶えで全身血だらけです。口からはずっと吐血し続け、意識は朦朧としています。しかし沈巍が夜尊をじっとりと見つめるので、夜尊は「その目はなんだ!!勝敗は決した。私は主で、お前は奴隷」と鞭で沈巍を指差します。
「お前が主で私は奴隷?」と沈巍がくり返すと、夜尊はにこりと笑います。「私は兄だ」と沈巍が言うと、摂政官は沈巍を見上げます。夜尊は目を丸くし、「そのとおり、私の兄だ。忘れるところだった。お雨が兄だとな」と微笑みます。
「兄さんには心から感謝しているよ。長年にわたるお前への恨みがなければ天柱の中で私はとっくに死んでいた!」「なぜお前はそこまで私を恨む?」「なぜだと?よく聞けるな!」。鞭で打たれる沈巍。摂政官は沈巍のあまりの痛々しさに思わず目を逸らします。「血縁に免じて今は生かしておいてやる。1つ教えてやろう。鎮魂令主が地界に向かっているぞ」と夜尊が笑いながら言った途端、沈巍は突然絶叫。「手を出したら許さない!!」と激怒する沈巍に、夜尊と摂政官は思わず怯みます。
「力を浪費するのはやめておけ、自分の力の色が分かっているか?黒だ!我々と人間は!決して相容れない!」と言う夜尊に、沈巍は「そうとも、お前は正しい。私の力は闇の色だ。私の目も私の髪もそして魂さえも全てが黒い。だが流れる血は彼らと同じ赤い色だ」と言い返します。すると夜尊に「第二陣の準備が整いました」と部下から声がかかります。夜尊はそれを聞き微笑み、摂政官は縮こまります。
「摂政官、下手な小細工はするな。露見すればどうなるか分かっているな?」と夜尊は微笑みながら彼に鞭を預け、その場を後にします。

趙雲瀾は獐獅・大慶・祝紅と共に洞窟へ戻ります。洞窟の奥の壁には、地界への門が開いています。「沈巍のためにも、灯心を捜すためにも、地界に行く必要がある」と趙雲瀾が言うと、間髪入れずに「私も行くわ」と祝紅が立候補し、趙雲瀾は思わず振り向きます。
「この通路はまだ不安定だ。通れるのは2人まで」と言う獐獅。趙雲瀾が祝紅を見ると、ちょうどそこに楚恕之と郭長城が到着します。「僕が行きます」と郭長城が立候補したため、「お前が?地界から生還したばかりだろ、肝試しのつもりじゃないだろうな」と趙雲瀾は彼を揶揄います。大慶も「地界は危険だぞ。やめたほうがいい」と彼を諌めますが、郭長城は祝紅の前に進み出ます。
「兵士の遺言がある。家族に伝えると約束しました」と言う郭長城に「皆亡くなってる。あなたを恨んだりしないわ」と祝紅は慰めます。しかし郭長城は首を横に降り、「約束したんです。たとえ危険でも行かなくちゃ」と真剣な表情で告げます。趙雲瀾・獐獅・祝紅はその決意を重く受け止めます。
獐獅は突然、手から白い光を出し、それは郭長城の頭上でしばらく輝くと消えてしまいまきた。驚く特調所メンバーたち。

「彼と行け」と獐獅が郭長城を指名したため、趙雲瀾は驚きます。「この子は恐らく世界を変える鍵になる」と獐獅が言い、大慶は「白い力?存在するとは」と呆気に取られます。「力の色ではない、心の色だ。”功徳”が存在するなら、彼がこれまで積んだ功徳が世界を救うはず。無垢な心が邪悪なものから彼を守るよう祈る」と獐獅は言い、楚恕之は頷きます。
楚恕之は「長城」と郭長城を呼ぶと、傀儡を差し出します。「持っていけ」「駄目です」「いいから!」。泣き出しそうな郭長城の首に、楚恕之は紐を通した傀儡をかけてやります。「危険が迫ればお前を守る。いいか、なくすなよ」と言う楚恕之に、郭長城は涙を堪えて何度も頷きます。

「さあ、行くぞ」と趙雲瀾が言うと、郭長城は楚恕之をしっかりと見つめ、傀儡を握りしめます。
門に入ろうとした途端、「必ず無事に戻って!…郭ちゃんもね」と祝紅が突然大声を出したため、趙雲瀾は思わず驚いて足を止めます。「俺を誰だと?我こそは鎮魂令主なり!」とふざける趙雲瀾。「悪ふざけが過ぎるとやられるわ。今のは無し」とふくれっ面になる祝紅。趙雲瀾は獐獅を見ます。「万一の場合は…約束どおり頼む」と緊張した面持ちで言う趙雲瀾に、獐獅は「分かった」と頷きます。趙雲瀾は獐獅を抱きしめ、獐獅は息子の背中を何度も優しく叩きます。「よし行くぞ」と郭長城に声をかけると、趙雲瀾は門に歩み出します。郭長城は楚恕之を最後にもう一度見ると、門に入っていき、門は消えてしまいます。

 

獐獅は趙心慈と心の中でひっそりと交信します。「息子を抱きしめた感想は?20年かかったな」と趙心慈を揶揄う獐獅。「黙れ、海星艦に戻るぞ」と趙心慈はぶっきらぼうに返します。

「黒枹使様、私も辛いのですが命令は守らねば」と鞭を片手に言う摂政官。沈巍はもはや目を開けていられず、朦朧としながら「趙雲瀾、来るな。趙雲瀾…」と呟き続けています。沈巍はハッと目を覚ますと、「今何時だ?」と摂政官に尋ねますが、「この期に及んで時間など。それに地界に時間の概念はありません」と摂政官は憐れむように言います。
沈巍は荒い息を吐きながら、「摂政官、地星人を永遠に時間のない暗闇に閉じ込めて平気なのか?」と問いますが、摂政官は「だからこそ夜尊に従うのも1つの選択かと。あの手腕と力があれば私達地星人は地上に戻れます」と返します。
「奴は間違ってる!長年摂政官を務めよく分かっているはず。我ら地星人の血の一滴一滴がどれほど尊いか。今我らの同胞は次々地上に送られ残酷なやり方で戦わされている。それが正しいと?」「私も年老いて臆病になりました。あなたの言葉に耳を貸し情けをかかければあとで夜尊に責められます」。
沈巍は絶望し目を閉じます。「ですが老人は逃げ道を残すことを好むもの。黒枹使様、いつか運が好転しお立場が逆転した際には、今日の私の行いをどうぞお忘れなく」。
摂政官は鞭を手から落とし、沈巍は驚きで目を見開きます。

海星艦では、高部長が「何だと?連絡が取れない?欧陽教授は失踪か?」と電話の向こうに怒鳴り、怒りに任せて受話器を置きます。イライラしたまま、高部長はどこかに電話をかけ始めます。「命令だ。地界の入り口に部隊を…」。そこに趙心慈が現れ、電話を強制的に切らせます。
「高よ、見苦しいぞ」「趙さん、長年の友人として助けてください!今回地星人を抑えられなければ私は破滅です!」「日頃は冷静なお前が子供のように狼狽えるとは!」「海星艦の責任が重大だからです。私の決定が数千万の命に影響する!」「今回の敵はあまりに強大だ。我々の手に余る。若者の言うとおり…種族を越えて団結せねば生き残れない。お前も私も欧陽教授も間違っていた!」。趙心慈の言葉に高部長は驚きます。

「星督局にお前の異動を指示しよう。執行権も停止する。お前はしばらく休め」と言い、踵を返してどこかに連絡するためスマホを出したところ、高部長は突然趙心慈にタックルします。趙雲瀾は失神し、スマホを取り落とします。
「すみません、私はなんてことを」と言いながら慌てて落ちたスマホを操作しようとする高部長の横で趙心慈でゆっくりと立ち上がり、高部長を殴り失神させます。
「趙心慈が油断するとは意外だな」と獐獅が揶揄うと、そこに李茜が現れます。「高部長はすでに応援部隊を要請しています。撤回にはパスワードがないと。監禁されている郭副部長を捜してきます」と言う彼女に、「信じていいか?」と尋ねる獐獅。「ご子息の趙所長と私の恩師沈教授は重要な任務を担っています。支えないと」と笑顔の彼女に頷く獐獅。
その後、李茜は監禁されていた郭英を見つけます。「李か?どうやって入った?」と驚く郭英に、「ドアの暗証番号は知っています。来てください」と彼の手を引く李茜。しかし、「何を?私は海星艦の規律に従う」と郭英は彼女の手を振り払います。「副部長、海星艦は今非常事態です」と李茜が訴え、郭英は目を見開きます。

地界では、街の人々が「早く逃げるんだ!」「待ってよ」「助けて」「この道だ、逃げ遅れるな」と街の人々は逃げ惑っています。
「龍城より悲惨な状況ですね」と眉を顰める郭長城。「急げ」とどこかで男が叫んでいます。「地界にくるのはこれが最後だな。とにかく全力を尽くすぞ」と趙雲瀾が気合を入れると、またも傷だらけの呉天恩が「趙雲瀾所長!あなたも地界に?」と笑顔で声をかけてきます。

「要請を取り消し、謝罪も添えた」と高部長のデスクでキーボードを叩く郭英。パソコンの画面には「応援部隊要請取り消し」の文字が表示され、2人はホッと胸を撫で下ろします。「これで良かったのか?」と不安げな郭英に、「趙局長の指示です。特調所との共闘を決意されたのでしょう」と答える李茜。「懸命な選択だ。高部長はどうすれば?」と郭英が両手を手錠で拘束されたままソファーで眠っている高部長を見遣ると、李茜は「見張りましょう」と淡々と返します。

「黒枹使様が地君殿でお待ちです」と呉天恩は趙雲瀾と郭長城を案内します。「お2人と今後について協議されるかと」と言う彼に、「それは良かった」と他人事に答える趙雲瀾。呉天恩は2人の言動を逐一伺っており、趙雲瀾はそんな呉天恩の様子に気づいて警戒しています。「じゃあ夜尊は?」と郭長城が言った瞬間に呉天恩がじろりと睨んだため、趙雲瀾は違和感に気づきます。
「そういえば、地君殿に来るのは初めてなんだ!迫力がある!見事だな!」とわざとらしく地君殿の広間でくるくる回りだす趙雲瀾。趙雲瀾に目配せされ、郭長城は彼の意図を理解します。「そうですね、でも今は先を急ぎましょう。黒枹使様にお会いしてから改めて参観を」と呉天恩は言います。郭長城が呉天恩の目を盗んで電気棒を出す瞬間、趙雲瀾は「あの窓に、あの灯火、天井のあれは何だ?」と天井を指差し、そちらを呉天恩が見た瞬間に彼の首の後ろを殴打します。素早く彼に電気棒を向ける郭長城。

「殴った理由が分かるか?」と呉天恩のそばにしゃがみこむ趙雲瀾。「洗脳前のお前なら補佐官の事件を覚えているはず。お前の道案内など俺には不要だ。答えろ、黒枹使はどこだ?俺を甘く見るなよ。問いに答えなければ夜尊には二度と会えない」と趙雲瀾が言うと、呉天恩は憤怒の表情で呻きだします。よろよろと立ち上がると、「光明を求める者、まず闇夜を尊ぶべしぃぃぃ!!」と絶叫。

力を出そうとしますが、沈巍が趙雲瀾と彼の間に割り入り、呉天恩を叩きのめします。血だらけの沈巍を、趙雲瀾は慌てて抱きとめます。「沈巍」「趙雲瀾」と見つめ合う2人。「なぜ来た!?」と怒る沈巍に、「沈教授、その傷は!?」と驚愕する郭長城。「ここを離れよう」と沈巍は自分の腕を握りしめていた趙雲瀾の手から腕を抜き、彼の手首を握り直します。
「行くぞ」と地君殿から去る3人の後ろ姿を、摂政官は柱の陰からそっと見ていました。「北へ行ったか」と呟くと、「囚人は南に逃げたぞ!早く追え!」と叫びます。

街中を逃げている途中、沈巍は突然吐血し足をもつれさせてしまいます。「沈巍!」「沈教授」と趙雲瀾と郭長城が慌てて彼を抱きとめようとしますが、沈巍はずるずるとその場に倒れこんでしまいます。「(追手の様子を)見てきます」「頼む」と郭長城を送り出した趙雲瀾は、沈巍を近くの階段にもたれ掛けさせます。
身体中の傷口を見て、「沈巍、どうした?なぜ傷が治らない?」と困惑する趙雲瀾。「大丈夫だ。趙雲瀾、いいから逃げろ!逃げろ!!」と半狂乱になって絶叫しもがく沈巍を、趙雲瀾は彼の服を掴んでどうにか押しとどめます。

沈巍と視線を合わせ、「あんたを傷つけた奴は生かしておかない」と怒りをあらわにする趙雲瀾を驚き見つめる沈巍。
「…もしこの傷で世の人々を救えるなら?」と沈巍に静かに問われ、趙雲瀾は戸惑います。趙雲瀾が戸惑い笑い飛ばそうとすると、「君にも時が来れば分かるはず…」と沈巍は呟きます。

するとそこに郭長城が戻ってきて、「巡回兵です!」と叫びます。「前方を探せ」と兵士たちの声が聞こえ、沈巍が「追手だ、行け。早く逃げろ!早く!」と絶叫します。趙雲瀾は彼の体を押さえ、「囮になる。出口で会おう」と言い聞かせると、郭長城と共に走り出します。
「探せ。裏道を、向こうだ」と話している兵士たちに、「おいこっちだぞ!」と見つかるようにわざと体をばたつかせる趙雲瀾と郭長城。 「早く追え!待て、あっちだ!捕まえろ!」と趙雲瀾たちを追う兵士たちを見ながら笑う沈巍。長刀を出すと、それを杖代わりにしてどうにか立ち上がります。

楚恕之「あなたが怪我をするとは」
黒枹使「人の力と闇の力は相容れない」「この力は人間に取り付いて離れることはない。そして死ねば体が爆発し何も残らない」

楚恕之と自分自身の言葉を回想する沈巍。兵士たちが次々と沈巍を包囲し始めます。
「趙雲瀾、君なら理解してくれるはずだ」と沈巍は呟き微笑むと、「うわあああ!!!」と絶叫し戦い始めます。

1人で街を駆ける郭長城。「趙所長!どこです!所長!」と叫ぶ郭長城を趙雲瀾は見つけ、「郭ちゃん!」と小さく声をあげます。「所長」と駆け寄ってくる郭長城を静かにさせると、聖器を入れたリュックを「お前が持ってろ」と預けます。郭長城はもにょもにょと口の中で嫌な理由を言おうとしますが、「いいから。お前も今は能力者だ。俺たちは地界で監視されてる。俺が全ての聖器を持つのは危険だ、分担しよう」と真剣に趙雲瀾が言ったため、眉間に皺を刻みながら郭長城は「はい」と承諾します。

しかし郭長城は突然立ちくらみ、趙雲瀾は抱きとめます。「郭ちゃん?しっかりしろ、おい、どうした」。郭長城は「所長」と宙の一点を見つめ続けながら呻き、もがき始めます。

銃を構えた兵士たちに囲まれ満身創痍で地面に伏せる沈巍のもとに、ゆっくりと摂政官が近づいてきます。そして悲しげに首を横に振ります。「逃げる時間を与えたのに、そんなに英雄になりたいとは。夜尊も戻り、私も自分を守るのがやっとだ。それに鎮魂令主を守れば何とかなるとでも?」。沈巍は「趙雲瀾、趙雲瀾…」とうわ言のように呟き、目を見開いたまま砂利を懸命に何度も掴みます。

「郭ちゃん?」「体が言うことを…」「おい」「早く逃げて!所長、逃げてください!!」。趙雲瀾が困惑しながら郭長城を抱いていると、呻いていた郭長城は「夜尊、万歳ぃぃぃ!!」と突然絶叫します。とっさにリュックを掴んで逃げようとした趙雲瀾の脚に全力でしがみつく郭長城。そこに夜尊が現れ笑います。
「私の手から簡単に逃れられるとでも?」「はは、あんたの仕業か」「私からの贈り物は喜んでもらえたかな?危険な駒だったが潜ませた甲斐があった」。

郭英に連れられて海星艦に来た郭長城は、トイレの洗面台の前で「趙所長に楚さん、沈教授…僕1人だけ役立たずだ!」とぐるぐる歩き回りながら苦しげに呟きます。ふと郭長城が洗面所の鏡を見上げると、トイレの個室の扉に寄りかかり立っている夜尊が見えて、郭長城はハッと振り向きます。しかしそこに夜尊はいません。郭長城が警戒してあたりを見回すと、夜尊は鏡の中に現れます。
「ここで何を?」と郭長城が尋ねると、夜尊は微笑みながら郭長城を見つめただけで彼を簡単に支配してしまいます。郭長城の目の色が変わり、「どうぞご命令を」とロボットのように言い始めます。
「私のことは忘れろ。だが私の言葉は全て深く心に刻むのだ。趙雲瀾が地界へ行くとき、同行を願い出ろ。時が来たら奴を捕らえよ。それまで普通の人間として振る舞え。分かったな?」と、郭長城の心臓に闇の力を注ぎ込みます。郭長城は苦しみ自我を取り戻そうと戦いますが、最終的に洗脳され、目の色を変えたまま「はい」と答えます。

「だがこいつの意思は想像以上に固く、私の暗示は効力を失ったと思っていた。それが突然特殊能力を得た上、頻繁に力を使い始めた。能力を使うたびに私の暗示は強化されたのだ。これこそ…天意だろう」と微笑む夜尊に笑う趙雲瀾。趙雲瀾は聖器を夜尊に投げつけ、降参するように両手を上げます。

大慶が荒廃した街を歩いていると、突然彼の目の前に大吉が現れます。嬉しそうに大吉を抱きしめる大慶。「どうしてここに?」と大慶が尋ねると、「いつもそばにいるわよ、それに龍城を守らなきゃ」と大吉は嬉しそうに返します。「いいか?自分の安全を最優先にするんだぞ」と大慶に手を握られ、嬉しそうな大吉。

地君殿では、趙雲瀾は首に縄をかけられ柱に拘束されています。彼の目の前には、血塗れの沈巍が転がっています。そして、洗脳され棒立ちの郭長城とその隣に控える摂政官。趙雲瀾は夜尊を睨みつけています。
「見ろ、お前が守ろうとして選んだ結果がこれだ」と夜尊が沈巍に言うと、趙雲瀾は沈巍を見つめます。「結局全て失敗したな」と言うなり、夜尊は力を使って沈巍の体の中を確認し始めます。
「思ったとおりだ。人間に命を分けるようなおろかな真似を!」と、夜尊は趙雲瀾を指差し激怒します。「力が急減している」と言う夜尊に、沈巍は趙雲瀾を見上げて微笑みます。「悔いはない」と言う沈巍に夜尊は笑い、「悔いはない?まだ私と戦えるはずがー犬のように横たわり飲み込まれるのを待つだけ!恥知らずめ!情けない奴だ」と夜尊は怒りを必死で抑えるように天を仰ぎます。

怒りのあまり、目に涙を湛え夜尊を睨みつける趙雲瀾。夜尊は心底悔しげな表情をした後、微笑み、「郭長城」と呼びつけます。郭長城は聖器を盆に載せて運んできます。趙雲瀾はそれを見て鼻で笑い、「やっぱりな。平和を乱したのは聖器から力を得るため」と言います。
夜尊は瞳孔の開ききった目と震える手で聖器を舐め回すように触ります。「今さら気づいても遅すぎる」と夜尊は笑い、聖器を空に飛ばします。全員がそれを見上げます。
夜尊は両手に力を込め、「待ち焦がれたぞ。今こそ聖器の力を全て吸収し、私の望みに一歩近づくのだ!」と叫びます。沈巍は夜尊を見つめます。
夜尊はうおおお!!と叫ぶと、聖器は反発しあいます。しかしそこには聖器は3つしかありません。趙雲瀾は聖器を見つめます。

「鎮魂灯は?どこだ!?」と怒声をあげる夜尊に、趙雲瀾は笑い出します。怒りに震える夜尊。「予想どおりだ、聖器は4つ揃わないと力は発揮されない。あんたもー生聖器の力を吸収できない」。その瞬間、夜尊が趙雲瀾を攻撃します。「鎮魂灯はどこだ!?」と夜尊の力を首に浴びながらも、朦朧としつつ笑う趙雲瀾。「さあな」。

夜尊は趙雲瀾の頬を張ります。沈巍は夜尊を信じられないものをみるような目で見上げます。夜尊は苛立ち、趙雲瀾の頬に何度も攻撃。摂政官は目を逸らします。
「鎮魂灯、どこにある?」と再度夜尊は尋ねます。趙雲瀾が吐血したのを見た瞬間、沈巍は震える両手を叱咤し必死で体を起こします。
「もう一度聞く、在り処を白状しないならお前を殺す」と、夜尊は動向の開いた目で微笑みながら趙雲瀾を見つめますが、趙雲瀾は吐血しながらにやりと睨みあげながら笑い、ブッと血を吹きかけます。夜尊はとっさに腕でそれを受け止めると、白い服に付いた血痕を血で消してわらいます。

夜尊は一旦彼に背を向けて気を鎮めようとしますが、苛立ちのあまり振り返りざまに渾身の力を趙雲瀾にぶつけます。しかし、その攻撃を咄嗟に立ち上がった沈巍が庇ってしまいます。沈巍は朦朧としながら激しく吐血。趙雲瀾は衝撃の表情で沈巍を見つめ、抱きとめようとします。

たこわさ
たこわさ

沈巍⇆趙雲瀾の愛が深過ぎて涙が止まらないです…。お調子者の趙雲瀾がズタボロの沈巍見て、「あんたを傷つけた奴は生かしておかない」って静かに激怒するのがもう…最高すぎて…🤦‍♀️ 趙雲瀾が怒ることってほんっとうになかなかないと思うんですけど、沈巍が傷つけられた時は別なんですよね。趙雲瀾にとっての沈巍は特別な存在なんだなってことがよく分かります。

我が身を犠牲に愛する人々を守る沈巍の生き様もそんな自分も、「趙雲瀾、君なら理解してくれるはずだ」って信じて戦う沈巍がまたしんどいです🤦‍♀️ やめてくれ…私たち視聴者は沈巍に生きてほしい、生きて雲瀾と共に生きてほしいんだよ(嗚咽)

 

「人間に命を分けるような愚かな真似を!まだ私と戦えるはずが犬のように横たわり飲み込まれるのを待つだけ!恥知らずめ、情けない奴だ!」と激怒したり、自分は主人で沈巍を奴隷と言いきったり、夜尊は沈巍という名の自分の一側面への嫌悪感が凄まじいですよね。沈巍も言っていましたが、なぜそこまで沈巍を憎む?🤔
あと犬をまるで卑小なもののように言うな夜尊😡全愛犬家を代表して許さん😡

 

第39話 希望のための戦い

<あらすじ>
趙雲瀾(チャオ・ユンラン)をかばって倒れた沈巍(シェン・ウェイ)は、夜尊(やそん)に飲み込まれてしまう。
夜尊は趙雲瀾への攻撃を緩めない。
だが趙雲瀾は海星(かいせい)に希望を取り戻すと叫ぶ。

趙雲瀾の胸に背を預けながら床に倒れ込む沈巍。「沈巍!」と趙雲瀾が絶叫する前で、夜尊は沈巍の背に足を置き、「なぜだ?どうして私に敵対する!?」と大声で激怒します。怒りに震え、夜尊を睨みつける趙雲瀾。沈巍は夜尊に体重をかけられながらも、「鎮魂灯を持つ資格はない」と夜尊を見上げて言い放ちます。
夜尊は沈巍の首の後ろに足を置き直し体重をかけると、沈巍はさらに大量に吐血。
「残念だ、実に口惜しい。本来ならばお前を最後まで生かそうと」と言う夜尊。「やめろ」と趙雲瀾は震えながら言いますが、夜尊は沈巍を蹴り仰向けにします。趙雲瀾は怯え、「よせ」と必死で夜尊を止めようとしますが、夜尊は右手に氷の杭を作ると、沈巍の心臓を目掛けて思いきり突き立てます。
「やめてくれ!!!」と吐血しながら絶叫する趙雲瀾。夜尊はよろめきながら立ち上がります。
「沈巍、沈巍…」と名を呼び続ける趙雲瀾を見つめて微笑む沈巍。
「よし、愛する兄さん、腹の中で弟が偉業を成し遂げるのを見ていてくれ」と夜尊は天を仰ぎます。号泣する趙雲瀾。夜尊が力を込めると沈巍は黒い煙になっていきます。趙雲瀾は絶叫しますが、沈巍はあっという間に夜尊に飲み込まれてしまいます。

夜尊の体内では、林静が体にまとわりついたぬめりを気味悪がりながらもまだ生き続けていました。林静が「また誰かが?」と呟くと、血塗れの沈巍が降ってきます。林静はスマホの懐中電灯で降ってきたものを見つけ、「沈教授?」と驚きます。

夜尊は沈巍を飲み込み、恍惚としていました。 「俺を殺せ!早く殺せよ!!」と絶叫する趙雲瀾を今気づいたとばかりに驚き見遣る夜尊。趙雲瀾は憎しみに満ちた目で夜尊を睨みつけます。「お前を殺す?そうだったな、よくぞ言った!たった今お前をこの手に落とす良策がひらめいた。待ってろ」と笑顔で趙雲瀾を指差す夜尊。

林静はよろめきながら沈巍に近づき、「沈教授大丈夫ですか?しっかり」と声をかけます。沈巍の鼻の前に手を当てると、まだ息があると分かります。「沈教授!」と再度呼びかけると、沈巍は咳き込み目を開けます。「沈教授、なぜこんな怪我を?外で何が?」と問う林静を見て、沈巍は「林静、君が生きていると趙雲瀾が知ったらきっと喜ぶだろう」と痛みを堪えながら微笑みます。苦笑する林静。

楚恕之が街に戻ると、野火・叢波・成が一緒にいました。「状況は?」と尋ねてくる野火に「落ち着いた」と返す楚恕之。そこにふらりと2つの影が現れます。「談嘯に鄭意か?なぜここに?」と彼らに問う楚恕之に、談嘯は「趙所長と沈教授には恩が。俺たちも助太刀する」と決意に満ちた表情で告げます。
すると突然、空に映像が現れます。それは夜尊が趙雲瀾から生命エネルギーを吸っている映像で、楚恕之たちは慄きます。満足げな夜尊。趙雲瀾は朦朧としています。

その映像は楚恕之の見ている空だけでなく、全世界の空に流れていました。「全世界がお前を見ている、大英雄として何か伝えたいことは?」と楽しげにいう夜尊ですが、趙雲瀾は夜尊を睨みつけたまま何も言いません。苛立った夜尊は「鎮魂灯の在りかを言わねば生き地獄を味わうぞ」と片手で攻撃し続けます。「お前だけじゃない。世界中の民も地獄を味わうのだ!世界中の民、お前たちも同じ末路を辿る!」と攻撃の手を下ろすと、趙雲瀾は意識を失ったまま吐血。
趙心慈はそれを見上げ悔しげに唇を噛み、談嘯は思わず足を踏み出します。祝紅の叔父と鴉青は困惑します。夜尊は楽しげに映像先の様子を見つめていました。
「俺は大英雄じゃない。だが命をかけて戦う。海星に希望を取り戻すためにな!」と趙雲瀾が叫んだ瞬間夜尊は映像を切り、攻撃する手に力を込めたため、趙雲瀾は苦しみ呻きます。

趙心慈は目を瞬かせ、亜獣族長たちを振り返ります。「蛇族は地星人の動きを抑えろ。花族と鴉族は私とともに前線で戦う」と指示する趙心慈に、「分かった」と頷く叔父。「人間と共に戦う日が来るなんてね」と鴉青は趙心慈を睨みます。素早くそれぞれの持ち場に散る部族長たちに、趙心慈は微笑みます。

「年々君は頑固になり、私は口うるさくなった。お互いに協力するのは久しぶりだ」と言う獐獅に、「未来は若者のもの、お前の言葉は正しかったのかもな。年寄りの堅物は身を引くべき時だ」と返す趙心慈。「言っただろ?雲瀾は…特別な子だと」と獐獅は言います。

“覚書 趙心慈”と書かれたノートを、趙心慈が入院するベッド横で読む幼き日の趙雲瀾。
「ねえ。父さんが捕まえた地星人って全員悪者なの?」
「この世には”絶対”などない。だが自らの便宜のために他者の平和を奪うものがいる。その者たちは罰を受けねばならん」
趙雲瀾はノートのページを捲ります。
「なぜ自分のために他人の平和を奪う必要があるの?争いはたくさんの死を生むかもしれない」
「だからルールが必要なんだ。ルールを破る奴らには制裁を下す」
「僕は嫌だ!誰もが誠意を持って向き合えばみんなが幸せになれるはずだ」
「…子供にはまだわからない」
趙雲瀾の訴えを突き放して趙心慈は目を閉じ、趙雲瀾は悔しそうに目を逸らします。

「だが今こそお前の理想を…実現してみせろ、息子よ」と趙心慈が微笑み呟いた途端、斜め後ろから地界人の男が殴りかかってきます。しかし獐獅が咄嗟に後ろ手で彼を殴打。
「背後は私に任せておけ」と笑う獐獅に、「もちろんだ、頼んだぞ」と変な方向に曲がった腕を直しながらにやりと笑う趙心慈。

夜尊は穏やかな表情でお猪口に酒を注ぎます。「驚いたか?」と、夜尊は小さな卓を挟んで目の前に座る趙雲瀾に尋ねます。趙雲瀾の服や肌には血も何もこびりついていません。摂政官と郭長城は夜尊の近くに控えています。
「さあ、飲もう」と夜尊はお猪口を持ち上げますが、趙雲瀾は無言でお猪口でなく徳利を掴み一気に酒を煽ります。夜尊は気にした様子もなく、自分のお猪口に注いだ酒をぐいと飲み干します。
「趙雲瀾、お前は面白い男だ。1万年前は崑崙で、今の世では鎮魂令主か」と言う夜尊を前に、無言で酒を飲み続ける趙雲瀾。
「平凡な人間が次はどんな波乱を起こす?」と面白そうに言う夜尊を趙雲瀾は無視し、「もっとくれ」と空の徳利を卓の上に転がします。夜尊は口をつぐむと左手を上げ、郭長城に酒を持って来させます。夜尊は趙雲瀾を見つめ続けますが、趙雲瀾はたださらに酒を煽るばかりです。

「なぜか黒枹使はずっとお前だけに執着していた。今になってその理由が分かったよ。敬意を表そう。お前には勇気と度胸がある。目的のために手段を選ばない。私と同類だ」と言う夜尊に、趙雲瀾は酒を一気飲みし終えて笑います。「間違ってる。あんたが動くのは私欲のためだが、俺はそうじゃない。あんたと俺は同類にはほど遠い」と言う趙雲瀾に、夜尊は姿勢を正し「手を組む気はないと?」と微笑みます。趙雲瀾は無言で夜尊を睨みつけます。
「やはりな。その意思の強さゆえ、お前のすきを見つけることができなかった。だが私は信じない!誰にでも欲はある。何が望みだ?全て叶えよう」と言う夜尊に、「なら死んでくれ」と趙雲瀾は即答。夜尊は趙雲瀾を見つめて笑い出します。
「もう一度待つ。よく考えてから言え」と言う夜尊に、趙雲瀾は笑い、酒を煽ります。酒を卓の上に置くと、「考えた。言うよ」。夜尊は趙雲瀾を見つめます。
「やはり死んでくれ」「なるほど」。笑い出す両者。夜尊は卓をひっくり返すと、趙雲瀾に顔をぎりぎりまで近づけて笑います。
「賭けをしよう。先に滅びるのは人類か、それとも私か」。瞳孔の開いた目で笑う夜尊と、彼を睨みつける趙雲瀾。夜尊は足音荒く地君殿を出ていきます。

摂政官は夜尊の背に向かい、「英明で機知に富む夜尊様、未来永劫ここに幸あれ!」と拱手しながら讃美します。郭長城は酒を乗せていた盆を荒々しく放り出すと、夜尊に付き従います。
趙雲瀾は座ったまま、摂政官き手招きします。戸惑いながら趙雲瀾に近づいた摂政官は、趙雲瀾の前で膝をつきます。「我が鎮魂令主よ、何を企んでおられる?」と尋ねる摂政官に、「少し体を借りるだけだ」と返す趙雲瀾。

趙雲瀾は街の中をじりじりと後ろ向きに進みながら、摂政官の首を後ろからぎりぎりと締め上げ、趙雲瀾は「来るな!こいつを殺すぞ」と衛兵たちを脅します。
「いいから下がれ!こやつは本気だ。銃を下ろせ!」と叫ぶ摂政官。趙雲瀾は道の曲がり角に着くと、衛兵に摂政官を投げつけ、走り出します。「撃つな!もう少し老人を労われ。…令主、健闘を祈りますぞ」と衛兵たちに文句を言いつつ、趙雲瀾の背に激励の言葉を呟く摂政官。

地上では鄭意がその声を使い地星人を次々倒しています。地星人を倒し終えると、鄭意のすぐ横に立っていた談嘯は「行くぞ」と彼女を促します。「あっちは片付けた」と談嘯が野火たちに報告していると、そこに祝紅も合流します。
「みんな無事ね、楚恕之は?」と祝紅が野火に尋ねると、彼は近くの壁にもたれかかって腕を組み考え込んでいる楚恕之を指差します。「郭くんの姿を確認できず傀儡にも反応がないと。心配なのさ」と言う野火に、「そんな暇はないでしょ?たしかに地界には私たちの大切な人がいる、でもここを守るのが使命よ!」と呆れて怒る祝紅。
「随分と族長らしくなったな」と揶揄う楚恕之の横で、野火は「地上は一段落したが地界が心配だ」と呟きます。「槐の下の門は夜尊に封じられたから、亜獣族の聖地から行くしかないわ」と言う祝紅の言葉に、楚恕之はまた考え込みます。

趙心慈、祝紅の叔父、迎春は地星人の男たちと槐の近くで戦っており、そこに鴉青も途中参戦します。
「亜獣族が我らを助ける義務はない。折りを見て引け」と言う趙心慈に、叔父は「亜獣族も分かっている。今人間と手を組まねばこのさきやから身を守れぬ」と返し、迎春は「たまにはまともなのね」と辛口のコメント。飛び出そうとする鴉青を迎春は咄嗟に片腕で制します。「青姉さん」「私も罪滅ぼしをするわ」と鴉青が言うや否や、槐下の門から華玉柱が走り出してきます。
「私よ」と鴉青に言う華玉柱に、鴉青は「華玉柱、生きてたの?」と驚き、華玉柱は苦しげな表情で頷きます。

華玉柱は天柱の前で沙雅と共に夜尊からの攻撃を受け続け、逃げ惑っていました。
「どうしても地君殿から逃げ出し、私の偉業に力を貸さぬと?」と言う夜尊に華玉柱が対抗しようと進み出ますが、沙雅が「駄目よ!敵わないわ」と彼女を制します。「試す価値はある」と華玉柱は制止を振り切り自分の力を天柱に浴びせますが、沙雅に「玉柱!」と強引に手を降ろさせられます。
「私に借りがあるでしょ?逃げて、林静にお詫びの言葉を伝えて」と沙雅に訴えられる華玉柱。「この私に友情ごっこを見せたいのか?反吐が出る。そこにあるのは裏切りと詭謀だけだ。愛などない。その道理は死ねば分かるだろう」と言う夜尊に、「早く行って」と沙雅は華玉柱の手を振りほどき、夜尊を攻撃します。
「沙雅!」「いいから逃げて!」と沙雅に再度言われ、華玉柱は逃亡します。「最高に美しい星空を今見られたわ!」と全力を使い夜尊に攻撃する沙雅。

朦朧としながら何度も咽せる沈巍。「沈教授、俺に出来ることは?」と林静が心配そうに尋ねると、沈巍は視線をさまよわせます。「林静、では、一仕事頼んでもいいか?時が来たらこれを…(沈巍の胸に刺さった)氷柱を完全に私の体に突き刺してくれ」と指差す沈巍に、林静は「死んでしまいますよ!」と悲鳴をあげます。沈巍は林静の肩を押し止めると、いいから。そうしないと私の力が全て解き放たれない」と懇願します。林静は考え込みますが、「頼んだぞ」と沈巍に駄目押しされ、「分かりました」と渋々了承します。沈巍は微笑み、痛みに呻きます。

地星人と人間の死体だらけの道を、楚恕之たちは車で移動します。車から降りた、楚恕之・祝紅・野火・叢波・成。「この辺りに地星人が」と叢波が言うと、楚恕之は「分かれるぞ」とメンバーに呼びかけます。「気をつけて、またここに集合よ」「ああ」と祝紅と野火が言葉を交わし、飛び出していきます。その場に残される叢波と成。

大慶と大吉は地星人と戦っていました。地星人に首を絞められる2人。「特徴所の奴か?誰も助けに来ないぞ」と地星人に言われ、大慶は顔を歪めます。しかし大吉が苦しんでいるのを見て目を見張り、近くに落ちていた木片を思いきり地星人に突き刺します。
大吉はぐったりしており、大慶は「大吉、大吉、冗談はよせ!起きろ、お願いだ」と彼女を揺り起こそうとします。呻き目を覚ました大吉に、「命は9つあるもんな」とホッとする大慶。しかし、大吉は涙しながら「今回はもう駄目みたい…」と儚く微笑みます。
大吉は大慶の腕に抱かれながら、「いつかは終わりがくる。大ちゃん」と彼の頬に手を添えます。その手を自分の手で包む大慶。「猫族は1匹だけになるけど…きっと大丈夫よ」と言う大吉に、大慶は「2人で食物連鎖の頂点にいる約束だろ?」と涙します。
大吉は「変よね、何でもない命が…こんなに愛おしい」と笑うと、ゆっくりと目を閉じ、表情を失います。「大吉!大吉!うわああ!!」と大吉の頭を抱きしめて号泣する大慶。「抱きしめたぞ、ふざけるな、目を覚ませ!うわああん!大吉!」と大慶はがらんとした街の片隅で泣き叫びます。

地君は淡々と業務を行い続けています。摂政官は衝立の前の階段にだらしなく座り、「悩みがない様子で何とも羨ましい限りだ。お前を変えたのは私に他ならぬがな」と呟きます。するとそこに夜尊が煙とともに現れます。
「夜尊様は神に愛されしお方、お早い凱旋にお祝い申し上げます」と慌てて拱手する摂政官。夜尊は憎々しげに「戯れを」と言い、摂政官を攻撃します。
「趙雲瀾は?」と夜尊が問うと、摂政官は「あの者は知恵の回る男で…私を脅して逃げました」と答えますが、夜尊は更に摂政官を攻撃。「偽るでない!何度私に背くつもりだ!?」と摂政官の首を絞め上げます。
「お聞きください、確かにわざと逃しましたがあの者を泳がせばあなた様の欲する物が手に入るかと」と摂政官は必死で言い、夜尊はしばし考えると攻撃を止めます。ぜいぜいと息をする摂政官を見下ろしながら、「奴を完全に見失ったときは覚悟をしておけ。老いぼれめ」と吐き捨てると姿を消します。
摂政官はため息をつき、「令主の言うとおりだ。一歩踏み出せばもう後戻りはできぬ」と呟きます。

叢波が大慶と楚恕之と祝紅を載せた車を運転していると、海星艦の車を見つけてしまい慌ててその場に停止します。「あれは海星艦の車じゃ?」と青ざめる叢波に、祝紅は「大丈夫、味方よ」と楚恕之を連れて車を降ります。海星艦の車からは趙心慈と降りてきます。
「地上に来た地星人は退けた。だが今は暫定的な勝利で、これから状況は更に厳しくなるだろう。平和を取り戻すまでにはまだ壁がある。次の段階に入るぞ。これから地界に援護に行け」と楚恕之と祝紅に告げる趙心慈。

趙雲瀾はこっそりとある壁を乗り越えます。あたりを見回すと、裏口のドアから室内へ入ります。趙雲瀾の後をつけるように夜尊が現れ、彼の背を見つめていました。
趙雲瀾が入ったのは、かつて騒ぎを起こしたあの酒場です。「そうさ、黒枹使様は地界の守護神で俺たちの星だ」と世間話をする男たちを横目に、趙雲瀾はバーテンに合図します。バーテンは頷くと、「悪いが今日は店を閉める。また来てくれ、すまないな」と客を速やかに追い出し、趙雲瀾は店の奥に歩みを進めます。

亜獣族の聖地の洞窟で、趙心慈は「地界は危険だ。気をつけろ」と大慶と楚恕之と祝紅に忠告します。
「安心を。地界は俺の庭だ」と淡々と言う楚恕之と、「ボスは人間なのに戦ってる。僕らも行かなきゃ」と答える大慶。「彼には振り回されてきたけど今回はビシッと決めるわ」と微笑む祝紅。それを聞き、「君たちがいて息子は幸せだし、海星に住む全ての者たちも幸せだ」と微笑む趙心慈に驚く大慶たち。
「行け」と趙心慈に促され大慶は足を踏み出そうとしますが、「亜獣族と人間を頼んだぞ」と趙心慈に託します。趙心慈は微笑むと、「待て」と大慶引き止めます。
ポケットから注射器を取り出し、「持っていけ、改良済みの血清を自分用に持っておいた」と手渡します。大慶は注射器を手の中で見回します。「李茜が精製したもので、純度が高く効果が大きい、制限時間の中で100倍の力が出せるが副作用も強い。これは万一の時に…」と口酸っぱく注意しようとする趙心慈ですが、大慶は「分かってる」と彼の言葉を遮ります。「相変わらず用意周到で抜け目がないな」と微笑みそのまま持っていこうとすると、再度趙心慈に呼び止められ、大慶は呆れたように笑って言います。「安心しろ、あんたの分身は連れて帰るよ。元気な姿でな」。祝紅も横で微笑んでいます。
「頼んだぞ」と趙心慈が言うと大慶は頷き、楚恕之たちと視線をかわすと地界に続く門に入っていきます。
3人の後ろ姿を見送り、「そうなればいいが」と真顔で呟く趙心慈。門は消えます。

趙雲瀾はバーテンからとある包みを受け取り、「助かった」と感謝します。バーテンは決意に満ちた表情で頷きます。
趙雲瀾がふと酒場の入り口を見ると、黒枹使がゆっくり歩いてくるではありませんか。驚愕する趙雲瀾は手元の包みを見て、黒枹使に視線を戻します。「黒兄さん」と、趙雲瀾が腰掛けていた席を立った瞬間、黒枹使はかすかに俯いていた顔を上げ、趙雲瀾の首を黒い煙で拘束します。
黒枹使は趙雲瀾が座っていた席の隣に着くと、彼の手の中にある包みを奪って解き、その中に入っていた鎮魂灯を手に取ります。

「ひどく失望した。鎮魂令主たる物がこの程度の人物とは」と趙雲瀾の肩に手を乗せ笑う黒枹使。バーテンは怯えながらも、「偽物だな!」と黒枹使を指差します。「その質問に何の意味が?私こそがお前たちを地上に導く英雄だ!」と鎮魂灯を撫撫で回しながら言う黒枹使。
「バーにいるとそいつがどんな奴かひと目で分かる。そんな目をしてるのは邪悪な奴だけ。真の黒枹使様こそが英雄だ!」と噛み付くバーテン。黒枹使は微笑むと、バーテンを片手で攻撃します。鎮魂灯を片手に持った黒枹使は、「黒枹使、黒枹使…どこでも黒枹使の話ばかり!」と激怒すると突然咳き込み、趙雲瀾の拘束を解き笑います。
呻くバーテンに、「教えてやろう。お前の英雄は私の腹の中だ。奴が築き上げた平和とやらは…ふふ、私が握りつぶしてやる。覚えておけ、人間や亜獣族に加え、私に楯突く地星人も全て排除する」と告げる黒枹使。趙雲瀾はその演説をそれを近くにあったマイクで拡声します。

「聞こえたか」「みんなに知らせよう」と街中を走り出す地星人の男たち。
趙雲瀾は拍手し、「見事なスピーチだ」と褒めます。ハッと趙雲瀾を振り返った黒枹使は「それは何だ」と趙雲瀾の手の中にあるマイクを見ます。
「これか?現代の玩具さ。あんたの演説を地界中に流すことができる」と趙雲瀾が言った途端、黒枹使は慌ててマイクを趙雲瀾の手から弾き飛ばします。

「分かってたよ。正義は常連客と同じで待てば必ずやってくるものだ!」と叫ぶバーテン。動揺した黒枹使は怒り、彼のの首を締め上げます。「やめろ!」と席から立ち上がる趙雲瀾。彼が「小物を殺すために力を消費する必要が?」と黒枹使を睨みつけると、黒枹使は微笑み、バーテンを空中から叩き落とします。
「愚か者め!小賢しい!虫けらが私の計画を否定するとは」とバーテンを指差し激怒する黒枹使。「その計画は世界を敵に回してるんだ」と趙雲瀾が言うと、更に黒枹使は憤慨。
「夜尊殿、あんたの魂胆は地界中にバレたぞ。あんたの力じゃ全ての地星人を惑わすことはできない」と趙雲瀾が言うと黒枹使は動揺し、鎮魂灯を抱きしめます。
「排除する?」「許せない」と外から声がきこえ、趙雲瀾は笑います。「聞こえたか?人々の声が。いつまで虚勢を張れる?」と言う趙雲瀾の首を黒枹使は黒い煙で締めつけると、「放っておこう。鎮魂灯も手に入れた。4つの聖器は私の手中にある。どんな大軍が来ようとも恐れるに足りぬ」と笑います。趙雲瀾は朦朧としてきました。

地君殿で、郭長城は洗脳された自分と体内で戦っていました。郭長城が「摂政官様」と苦しみながら摂政官に話しかけると、能面のような地君の横に立っていた摂政官が驚きます。「早く…逃げてください」と続ける郭長城に、摂政官は彼の目の前で手を振りながら、「なんと。夜尊の洗脳術に抗える者は初めて見た」と驚きます。
「僕は何とか…耐えてるだけ」と郭長城がこぼすと、突然鎮魂灯を片手に持った夜尊が空間から現れ、趙雲瀾も一緒に床に放り出されます。摂政官は趙雲瀾が捕まったことに顔をしかめ、郭長城はまた洗脳された自分に人格を乗っ取られます。

「鎮魂灯」と、鎮魂灯を撫でながら感動に浸る夜尊の横で彼を睨み上げる趙雲瀾。「お前の力を我が身に捧げよ!」と鎮魂灯を空中に放ると、笑いながら力を吸収しようとする夜尊。趙雲瀾はどうにか立ち上がろうとします。しかし夜尊は顔色を青ざめさせます。夜尊が力を込めるほど鎮魂灯が震え、ガラスの部分が今にも割れそうになっているのです。

趙雲瀾はあらかじめ鎮魂灯の灯心部分に地星人を殺すための銃弾を忍ばせていました。改造し終えると、「鎮魂灯、頼んだぞ」と呟く趙雲瀾。

夜尊が力を鎮魂灯に注ぎ続けると、突然膨大な力が溢れ、そこにいた全員が吹き飛ばされます。
林静や沈巍も夜尊の体の中で揺れていました。沈巍の体に覆いかぶさるようにして彼を守る林静。沈巍は「ありがとう」と朦朧としながら感謝します。
鎮魂灯の力の衝撃で夜尊の仮面が中心から真っ二つに割れ、摂政官は逃げ出そうとしますが正気を取り戻した地君に腕を掴まれ引き戻されます。「なぜ意識が戻った?離せ!」と叫ぶ摂政官に、「恨みは晴らす!」と憎しみに満ちた目で叫ぶ地君。

怒りに震える夜尊の額には傷がつき、額の中央からは鮮血が流れ出しています。
摂政官が地君に腕を掴まれ「離せ」ともがいているのをみた夜尊は、怒りに任せて2人を吸収します。

「地界の案内は俺に任せろ」と地界の街を先導する楚恕之。歩いていると、「教えてやろう、お前の英雄は私の腹の中だ。奴が築き上げた平和とやらは…ふふ、私が握り潰してやる。覚えておけ。人間や亜獣族に加え、私に楯突く地星人も全て排除する」と夜尊の演説をスピーカーで流すバーテン(苦しげに横腹を押さえている)とその周りで困惑する人々に遭遇します。バーテンの周りに少しずつ地星人が集まってきました。
「戦う日が来たぞ!続け!」と拳を天に突き上げるバーテンを見て、「もちろん行きましょう」「騙された」「本当ね」と地界人は次々賛同。楚たちも彼らに続きます。

林静は沈巍を庇っていましたが、新たに地君と摂政官が近くに現れ、スマホで照らして驚きます。
「黒枹使様」と驚く摂政官と、「黒枹使様、心からお詫びを」と沈巍を見てすぐさま謝る地君。沈巍は2人を虚ろな目で見遣ります。
「私に謝れ!逃げ残った!」と怒る摂政官に、地君も「お前のせいで自分を失ってた!この借りは返すぞ!」と激怒。
沈巍は眉を寄せ、「やめろ。(我々は)一度死んだも同じ。抱えていた恨みは全て捨てるんだ。私達には今共に戦うべき敵がいる」と2人を諌めます。顔を見合わせ、ため息をつく2人。

「恐れ入ったよ…あれでももう回復したのか?」と地面に臥しながら朦朧と言う趙雲瀾。「私も恐れ入った。この私がたかが人間ごときに手を焼かされている。趙雲瀾、やはり大した男だ。だがここまでだ。聖器は全て揃った。黒枹使の力も少しずつ吸収している。もう邪魔者はいない!」と夜尊は笑います。
「…浮かれるのは早いぞ。灯心のない鎮魂灯を持っていても4つの聖器は融合せずお前は力を得られない」とにやりと趙雲瀾が笑うと、夜尊はそれを聞き笑います。「灯心ならある」。予想外の事態に真顔になる趙雲瀾。「このガキを生かしておいたのは…」と郭長城を力で絡めとる夜尊。「何のためだと?」夜尊は郭長城の首を片手で掴みます。趙雲瀾は身体を叱咤し立ちあがろうとします。
「こいつの心は純粋で明るく輝いている。闇の力に侵食されぬ心は何とも誂え向きだ。だが本人は知りもしないだろう。己の心が鎮魂灯の灯心に最適だということを!」。洗脳された自分と葛藤している郭長城はぶるぶる震えますが、夜尊は彼の顔を掴み、力を奪っていきます。「郭ちゃん、惑わされるな…」と声を絞り出す趙雲瀾。

ほっこり、男性、ハート

「我が身を守るため地君殿に乗り込むぞ!悪を倒し未来を勝ち取れ!」と街の人々に拡声器で呼びかけるバーテン。その背後には楚恕之たちがいます。「悪を倒せ!悪を倒せ!」と拳を突き上げ叫ぶ人々。
しかしその時、地君殿から白と黒の2色の光が空を突きます。「何の力!?1つは黒で片方は白よ!」と祝紅が叫ぶと、「黒いのは聖器の力だろ。白いのは…」と大慶が言い淀み、楚恕之は目を見張り光を見つめて叫びます。「長城!」。

聖器を空中で回しながら郭長城から力を吸収する夜尊。
「1万年も待ち、雪辱を果たす時が来た!」と歓喜する夜尊を前に、趙雲瀾は「郭、目を覚まさないと特調所をクビにするぞ!」と必死で叫びます。
「無駄な力を使うな、私の洗脳からは誰も逃れられぬ」と夜尊は嘲りますが、趙雲瀾が「郭ちゃん、お前は人と違う。本当に俺や楚のこと、特調所のことを忘れるのか?」と叫び続けていると、その声が郭長城の耳に届きます。

趙雲瀾「今日から俺たちは君の家族だ」
祝紅「歓迎するわ」
郭長城「僕も所員だ」「信念がある。自分を犠牲にしても大切な人を守る」「自分の価値に気づき、目標も持てた」「危険に立ち向かう」「足は引っ張りません」

「楚さん!!」と郭長城は叫ぶなり、夜尊の腕を両腕で掴みます。驚く夜尊。「僕は絶対に…人を傷つける凶器にはならない!」と夜尊の力に抗おうとする郭長城。夜尊は郭長城を睨みつけます。

「私の力からは逃れられぬ!」と夜尊がふと聖器を見ると、4つのうち2つから光が消えています。「あと少し、あと少しだったのに…!!」と頭を抱え絶望する夜尊に趙雲瀾は爆笑。「煩わしいガキだ」と夜尊が力を集め始めた時、楚恕之たち3人がその場に到着し、夜尊と乱闘になります。
真っ先に趙雲瀾のもとに駆けつけ、彼の周りにバリアを張って守る大慶。夜尊は楚恕之と祝紅と戦います。

「ボス」と大慶は転がっている趙雲瀾を抱き起こしますが、趙雲瀾は夜尊を睨み続けており大慶が目に入っていません。
「なぜいる?」と趙雲瀾に尋ねられ、大慶は事情を話そうとしますが彼の目はずっと夜尊しか映していません。楚恕之たちは夜尊に押され始めています。
それを見た大慶が胸元から血清を取り出すと、趙雲瀾はそれを見た途端、素早く奪うと自分の胸に躊躇なく打ち込みます。
「何を!?死ぬぞ!!」と悲鳴をあげる大慶の腕の中で、趙雲瀾は「この趙雲瀾、今日という日をずっと待っていたのかもな…」と変わらず夜尊を睨みつけながら呟きます。

たこわさ
たこわさ

夜尊→沈巍の「なぜだ?どうして私に敵対する!?」「残念だ。最後までお前を生かそうと…」が意味深です。沈巍が夜尊に敵対してきたのは明白なのに、夜尊はずっと沈巍が自分を支持してくれると期待して癇癪を起こす。兄に愛されたい想いが歪な形で暴走している感がありますよね。強くなければまた捨てられる、的な。

 

趙雲瀾の「よせ、やめてくれ!!!」でもう大号泣でした。沈巍が傷つけられる方が自分が傷つくよりずっと、何百倍何万倍も辛そうな趙雲瀾が痛々しくて…。沈巍の穏やかな笑みもまた辛いです。

 

それにしても、沈巍はなぜ氷柱を押し込めと林静に頼んだんでしょう?氷柱を解けば沈巍の能力である「見た能力を吸収する」が発動して夜尊が無力化されたりするのでしょうか🤔

 

「この趙雲瀾、今日という日をずっと待っていたのかもな」はかっこよすぎました🤦‍♀️即血清を打つ趙雲瀾の迷いのなさ、すごいですよね。それほど沈巍を助けたかったってことかなあと泣きそうになりました。

 

あと、今回も含めて大慶は愛する人を次々失っていますね…つらい。「何でもない命がこんなに愛おしい」という大吉の言葉が真理すぎて何度も反芻してます。変でも何でもないよ大吉…。

 

あと林静が結構ずっと生き延びてますが、夜尊はどれくらいで吸い込んだものを消化するんでしょうね?🤔

 

第40話 海星(かいせい)を守れ

<あらすじ>
夜尊(やそん)と戦う力を得るため、趙雲瀾(チャオ・ユンラン)は危険な血清を自分の体に打つ。
一方、胸に氷柱を刺された沈巍(シェン・ウェイ)は、残る力を振り絞って林静(リン・ジン)たちを助け、最後の戦いに挑む。
兄である沈巍から少年時代の真実を聞かされた夜尊は、誤解が解けて安らかな表情に。

夜尊は楚恕之と祝紅を吹き飛ばし、大慶は単身、夜尊に挑みます。大慶も夜尊に弾き飛ばされますが、それと同時に夜尊の額の傷から力が漏れ出します。
夜尊の体内では、沈巍が「私の予想通りだ。一度吸収したことで奴の欲は膨大している。吸収するという欲望を抑えきれないんだ」と呟いていました。沈巍の予想通り、夜尊は周囲から力を吸収し続けます。
「夜尊の目的は海星の支配だ。地星人も人間も亜獣族人も捨て駒に過ぎない」という林静の言葉を、摂政官と地君は静かに聞いています。

叢波と成医師はカメラを設置中。すると叢波が空の異変に気づきます。「心研、あれを見ろ」と叢波に釣られて成医師が空を見上げると、そこには鮮やかな青と黒の煙が真っ暗な空の中をうごめいており、その次の瞬間には叢波も成医師も突然空から降りてきた黒い煙に囚われてしまいます。成医師は失神し、叢波は「心妍!」と彼女を抱き込み自らも失神します。

「黒枹使様のおっしゃるとおりです。奴が世界を飲み込む前に阻止せねば…全ての希望が絶たれる」と言う摂政官に、沈巍は「大丈夫だ。私は彼を信じる。趙雲瀾なら必ず夜尊を倒してくれる。林静、忘れないでくれよ。必ず約束を守れ」と洗い呼吸をしながら頼みます。「ええ」と頷く林静の横で、沈巍は呻いています。

夜尊は床に這いつくばりもがく趙雲瀾から力を吸い取ります。自らのそばに彼を引き寄せるさまを見つめる大慶・楚恕之・祝紅の3人。趙雲瀾は夜尊の力で立たされ、夜尊は額の傷口を押さえます。
「待て、どうせ全員あんたに殺される。その前に教えてくれ」と言う趙雲瀾に、夜尊は首をかしげます。「この1万年の間、人間たちを苦しめ、亜獣族人を陥れ、仲間である地星人さえ傷つけた。目的はなんだ?」。
夜尊はにやりと笑み、「いい質問だ、よく聞いてくれた!話したくても誰も聞いてくれなかった。私の目的は世界を変えることだ!この世界には人間や亜獣族人そして地星人が暮らしている。だがどの種族にも欺瞞や陰謀、裏切りが…」と言った途端、趙雲瀾の心臓がひどく脈打ちます。「…溢れている。汚れた世界なのだ!だから全てを壊して作り直す。新しい世界をな。あらゆる秩序をこの私の手で作り変えるのだ」。
微笑む夜尊を笑う趙雲瀾。「あんたは憎しみの中で滅びる。希望を生み出せぬ者に歴史が微笑むはずがない」と趙雲瀾が言うと、夜尊は笑い、「何が分かる?教えてやろう。歴史は勝者が切り拓いてきた。勝者が王となるのだ。お前は安心して黄泉へ旅立て」と言い放ちます。
夜尊はすぐさま力を吸い始めます。趙雲瀾の心臓の鼓動がひどくなり、彼は夜尊を殴り始めます。彼が夜尊の腹に一撃入れると、夜尊は顔を歪めます。地君殿像を倒しながら戦う2人。大慶と郭長城は山河錘を掴み、力を吸われている趙雲瀾に「所長!」と投げつけます。趙雲瀾は夜尊の額の傷に山河錘を突き立てます。

「時間だ。林静、今だ。早く!」と叫ぶ沈巍。「死んでしまうよ」と怯える林静に、再度「早くしろ!!」と叫ぶ沈巍。林静は絶叫し、氷柱を押し込みます。すると沈巍が手に力を込め、林静・摂政官・地君の3人を夜尊の体外に押し出します。
突然夜尊の体から吐き出された林静に、「沈巍は!?」と叫ぶ趙雲瀾。林静は辛そうに顔を逸らします。趙雲瀾は絶望し、思わず涙。夜尊は両手に力を込め、絶叫。そこにいる人々は恐怖で後ずさります。

沈巍は傷口に力を込めると、氷柱をもう一度出現させます。夜尊は笑顔で周囲から力を吸い込みますが、ハッと驚愕し、「黒枹使、謀ったな。お前の力は闇の力ではなかった!!」と叫びます。趙雲瀾は驚き、夜尊を見ます。

趙雲瀾が失明した時、沈巍は自分にナイフを突き立てたり、長命時計で治そうとしていました。
趙雲瀾「正直に言え。目を治す時何をした?」
沈巍「体内のエネルギーがダメージを。力を入れ替えないと」「もしこの傷で世の人々を救えるなら?」「謝る。隠している事はいつか必ず話す」

趙雲瀾は微笑み、「沈巍、ずっと隠していたのか」とぽつりと呟きます。「鎮めよ。悪しき者の心を、高めよ善者の徳を…」と呟くや否や、一気に氷柱を引き抜く沈巍。夜尊は絶叫し、沈巍は朦朧とし失神。夜尊は床に膝をつきます。

「なぜだ、なぜなのだ、どうして」と、夜尊は静かな地君殿の中で、スポットライトを浴びて四つん這いになっていました。
彼の前に進み出たのは仮面を被っていない黒枹使。「全て終わった。家に帰ろう」と言う沈巍に、「家だと?どこに家がある?お前に見捨てられたあの時に…帰る家は失った」と言う夜尊。

夜尊は回想します。
「大丈夫か、しっかりしろ」と言う沈巍に掴まりながら、幼い夜尊は激しく咳き込みます。「兄さん、もう歩けないよ」「心配ない、僕がそばにいる」と泣きそうな夜尊を励ます沈巍。
するとそこに屈強な部族長らしき男が現れます。「待て、なかなか立派な体格だ。見込みがある。どうだ。オレの手下にならないか」と男は沈巍に話しかけます。しかし沈巍は彼の手についた血を見て、「人殺し」と吐き捨てます。「隕石の墜落で世は混乱してる。人殺しが何だ」と開き直る男をよそに、病弱な夜尊は倒れてしまいます。沈巍は慌てて「しっかりしろ」と横たわる彼に声をかけます。

失神していた夜尊が目を覚まします。「兄さんは?」「お前を捨てて行っちまったぞ」。「お前の世話は俺に任せると言ってた。お前は俺の手下だ」と男に言われ、その日から夜尊には男に奴隷のように扱われる日々が始まったのです。

黒枹使は夜尊の前にしゃがみ込みます。「それで私に恨みを?間違っている。お前を捨ててはいない」と真っ直ぐな目で夜尊を見つめる黒枹使。

「しっかり」と夜尊に声をかける沈巍。「体が弱い。役立たずだな。見せてみろ」と男が無遠慮に夜尊に触れようとしたため、沈巍は「弟に触れるな!」と男の手を叩き落とします。すると男は激昂し、「生意気な」と沈巍を掴み上げると、近くの崖から彼を落とします。
どれくらいの時間が経ったのか、身体中ぼろぼろの沈巍は崖の下で目覚めます。「ここは?」と朦朧としながらも沈巍は支えが欲しいと近くの土を掘ります。すると長刀が見つかり、それを杖代わりにして必死で崖の上に戻ります。「どこだ!返事をしろ!どこにいる?」と夜尊を探し叫ぶ沈巍。しかしそこには男の姿も夜尊の姿もありませんでした。

黒枹使の記憶を聞き、夜尊は両眼に涙をいっぱいに溜めて泣き、笑い出します。じっと夜尊を見つめる黒枹使。「私を見捨てていなかったのか…捜してくれたと?」と言う夜尊に、沈巍は手を伸ばします。「弟よ。帰ろう」。夜尊は顔をぐしゃぐしゃにして号泣し、笑顔になります。沈巍が頷くと、夜尊は彼の手を取ります。沈巍は夜尊の手を握りしめ、地君殿の階段を手を繋いだまま上っていきます。

「沈巍…沈巍…」と声が聞こえ、振り向く沈巍。先ほどまで夜尊がいたはずのそこには趙雲瀾が横たわっていました。趙雲瀾のもとに転がってくる趙雲瀾が大事に毎日つけていたペンダントのヘッド。その宝石を台座からぱかりと開けると、その中には1万年前に趙雲瀾が沈巍にあげた飴の包み紙が綺麗にしまってありました。
「鎮めよ、悪しき者の心を。高めよ、善者の徳を…」とそれを見て涙する趙雲瀾を振り返り、沈巍は微笑むと夜尊と共に階段を上っていきます。

目を覚ました叢波と成医師。叢波は「心妍」と成医師を抱き起こします。空はまだ暗いけれど、悪しき力は消え、道に転がっていた人々も起き始めています。成医師たちは人々が起きあがろうとするところに駆け寄り、「ゆっくり」と声をかけ手伝います。

鎮魂灯を持つ趙雲瀾に肩を貸しながら、地界の街を走る林静。「夜尊は死んだけど地界のエネルギーを吸収した。亀裂が広がれば海星は爆発する!」と焦る林静。趙雲瀾は突然吐血し、地界の地震のせいで林静から弾き飛ばされます。
「ボス大丈夫か!楚たちを呼んでくる」と走り出す林静を見遣りながら、「林静、林静…」と朦朧とする趙雲瀾。彼が鎮魂灯に手を伸ばすと、急に麻亀たちと映像が繋がります。

「やっと繋がった。一体何が?」と不安げな麻亀に、趙雲瀾は「大丈夫だ、黙ってろ。それよりお願いだ。俺にやらせてくれ」も頼みます。「話を聞いたか」と言う麻亀の声を朦朧としながら聞き、頷く趙雲瀾。

趙雲瀾は獐獅との会話を思い出していました。
「鎮魂灯の秘密を教えてやろう。鎮魂灯は正のエネルギーで悪の魂を鎮めるランプだ。それには犠牲が強いられる。灯心が見つからなければ自らの生命エネルギーを燃料として捧げる勇者が必要だ。そうすれば力が発揮される」と言う獐獅。

趙雲瀾は浮游を見ます。「手で持ち、目を閉じる」と生命エネルギーを燃料にする方法を説明する浮游の横で、「君が死んでしまうんだぞ!?」と麻亀は叫びます。趙雲瀾は吐血しながら笑います。「どうせもう助かりそうもない。俺が死ねばこの世界は救われるんだ。大事な人を守りたくて聖器を作ったんだろ?」と趙雲瀾が言うと、映像が乱れ、消えてしまいます。

「勇者はどうなる?」と趙雲瀾が獐獅に尋ねると、「前例がなく不明だ。だが断言できるのは勇者となった者は死んだあとも鎮魂灯の炎に焼かれ続け強烈な苦しみから永遠に逃れられなくなる」と獐獅は告げます。趙雲瀾は「勇者になる奴はバカだな」と笑います。

趙雲瀾は会話を思い出して笑います。「趙雲瀾、すごいじゃないか。思ってもみなかった。光栄なことだよな。自らの体を燃やして…世界を照らせる」。ポケットから沈巍のペンダントヘッドを出す趙雲瀾。
「君にも時が来れば分かるはず」という沈巍の言葉を思い出し、趙雲瀾はそれを握りしめ笑いながら涙します。地界の街並みはどんどん崩壊していきます。
「準備はできた」と趙雲瀾が鎮魂灯を両手で持つと鎮魂灯は光りだし、灯心が点った途端、彼は意識を失いその手から鎮魂灯が滑り落ちます。

「こっちだ」と林静が楚恕之たちと駆けつけた時には、趙雲瀾は既に死んでいました。「所長?」と祝紅が趙雲瀾に駆け寄りますが、趙雲瀾の死を悟り、他のメンバーは硬直します。

地界の時計台が鐘を鳴らします。地界はあの惨状が嘘のように平和になり、空には青空が広がっていました。酒場にたむろう人々は窓からさしこむ光に驚きます。「あれは何?」「光よ」「あれが光なの?」「きれいね」「明るいぞ」と口々に言う人々。

摂政官と地君も街に出ていました。「これは…光だ。世界の終わりだと思ったのに」と驚く摂政官。「予想もしなかったぞ。輝きと希望をこの目で見られた」と地君も言葉を失います。
歓声をあげる酒場の人々。「明るいわ!」と喜びながら人々が街に出てきます。摂政官と地君は笑顔で顔を見合わせます。

祝紅の叔父は槐下の門の前でそわそわと祝紅たちの帰りを待っていました。
するとそこに、林静が趙雲瀾の遺体を背負って帰ってきます。特調所メンバーが門から出ると、門はすぐに消えてしまいました。
「聖地にあった道は消えた」と叔父は楚恕之に報告します。「ということは今日から地界と地上は二度と行き来できない別世界になった」と言う楚恕之。祝紅は趙雲瀾の手を握りしめて涙を浮かべています。
「所長は…」と叔父が問いかけると、楚恕之は「ボスが…」と説明しようとします。大慶は思わず泣いてしまいます。「世界を救った」と楚恕之は言葉少なに言います。郭長城は趙雲瀾の手を握り、遺言を聞こうとします。大慶と祝紅は号泣。「所長を私に任せ、市内の様子を」と叔父が言うと、林静も目に涙を浮かべます。

街では叢波と成医師が「向こうに避難所がある」「進んで」と人々を誘導していました。「こっちだ」「気をつけて」「ゆっくりね」「こっちへ」と次々案内する2人のもとに特調所一行がやって来ます。叢波は大興奮で、成医師も笑顔を見せます。「やっぱり無事だったか!思ったとおりだ」とはしゃぐ叢波の横で、「待って、沈巍と所長は?」と成医師はこわばった表情で尋ねます。楚恕之たちは沈鬱な表情。「会いたければ…案内します」と言う郭長城の後ろから、「必要ない」と趙心慈が声をかけ、全員が趙心慈を振り返ります。

龍城第一病院では、「何回入院したら気が済むの?そろそろ退院して」と成医師が呆れたようにベッドの上にいる叢波に文句を言っていました。「先生、オレは仮病なんかじゃない。戦いの後遺症だ。先生、もっと俺を心配してよ。優しく扱って」と不敵に笑う叢波を困ったように見る成医師。

海星艦では、郭英と高が部長のデスクで荷物を整理しています。
「郭部長」と趙心慈が郭英のそばに寄ると、郭英は「趙局長」と歩み寄り握手します。「おめでとう」と微笑む趙心慈を、郭英は「お掛けに」とソファーへ案内します。「ああ」とにこやかな趙心慈に愛想笑いする高。趙心慈と郭英はソファーに座り、高は立ったままです。
「趙局長、街の復興状況をまとめた資料です」と郭英が趙心慈に手渡すと、趙心慈はパラパラと中を見て「よく書けてる。郭部長、ご苦労だった」と労い、郭英は微笑みます。「局長こそ星督局の仕事もある中、会議のために毎日ここへ。お疲れでしょう」「私たちの義務だからな」。
趙心慈は高を見上げると、「高よ、秘書の仕事には慣れたか?」と尋ねます。「ご心配なく」とぎこちなく笑う高。「秘書の仕事を軽く見ては駄目だ。責任感が求められる」「分かっています」と趙心慈と高がやり取りしていると、李茜が現れます。
「李所長」と趙心慈が呼びかけると、李茜は「研究所の成果報告書を」と手元の資料を差し出します。「ご覧に」と促す郭英に、「ああ、ありがとう」と手に取る趙心慈。「最近顔色がいいですね、発作も起きなくなったみたいだし」と言う李茜の言葉にぎくりと体を震わせるも、趙心慈は「そうなんだ」とぎこちなく笑います。
郭英の指先がソファーの手すりを忙しなく叩き続けています。それを見た高は、「部長、何か考え事でも?」と不思議そう。郭英は笑い、「今日甥が見合いをする予定でしてね。引っ込み思案なので上手くいくか心配で」と笑います。

郭長城は女性と見合い中でした。スプーンを落としたりと忙しない動きです。

「落ち着いて。緊張してるの?」「いや、平気です」「気楽におしゃべりしましょ。漫画の登場人物に似てて可愛い」。女性に可愛いと言われ愛想笑いする郭長城。
「特調所で働いてるそうね。街の英雄だわ」「そんな、僕は違いますよ。僕はただの下っ端で何の貢献もしてない」。2人の会話を近くの席で本を読みながら聞く楚恕之。
「照れ屋で気弱なのね。悪者に出くわしたら?」と女性が言うと、郭長城は少し考え、鞄から電気棒を出します。
「これを」「それは?」「これで悪者と戦うんです。”やめろ、来るな”って」と、郭長城は電気棒を構えます。
「あとは運任せだけど敵を倒せる」「嘘でしょ?」「本当です」「初対面でこんなことを言うのは早いけど、あなたを気に入ったわ。でも特調所は危険よ。辞めるつもりは?どうなの?」と突然女性が郭長城に迫ってきます。戸惑う郭長城。
すると突然楚恕之が席を立ち、郭長城のそばに立ちます。「辞めない」と女性に言う楚恕之。「どちらさま?」と怪訝な表情の女性をよそに、2人の間の机に紙幣を叩きつけると、楚恕之は郭長城の背中を押し、立ち上がらせます。
固まる郭長城の胸ぐらを掴み、持ち去る楚恕之。「何なの?待って!」と女性は叫びますが、楚恕之は郭長城の手を引っ張って外に連れ出します。
「震えるな、ビシっとしろ!!お前は夜尊が認めた鎮魂灯の最適な燃料だ!強い意志も持ってる、自信を持て!特調所を辞めろとはなんて女だ」と、郭長城を叱っていたはずなのに途中から褒めたり、女性の愚痴を言ったりと怒りの対象がめちゃくちゃな楚恕之。彼は口をつぐむ郭長城を見て、「馬鹿め」と睨み去っていきます。郭長城は思わず笑い、「楚さん、待ってください」と彼の後を追いかけます。

蛇族の森にある叔父の家で一緒に暮らす祝紅。喧騒を聞きつけて家の外に出ると、「またその話?」「もう解決したはずだろ」「私たち花族は…」「今は蛇族の話を」「負担が大きいわ」「私達は兄弟も同然で…」と、叔父・迎春・鴉青の3人が言い争っています。
「うるさいわね!今度は何のもめ事?」と仁王立ちで腕をくみ話しに割り込む祝紅に笑う迎春と鴉青。「私を誰だと思ってる?鎮魂令主に恋し、黒枹使に逆らった女よ!」と言う祝紅に叔父も笑い出します。
「そんな私が忙しい中戻ってきてあげたの」と腕を組む祝紅に叔父は「そうだな、紅」と苦笑しますが、祝紅は叔父の子供に対するような態度に怒り出します。
「間違えた。族長、どうかお許しを。仰せの通りに」と叔父が言うと、祝紅は「よろしい、宣言する。亜獣族の平和と発展を願う建設敵な交流会をここに開催する!」と手を挙げ叫び、叔父は「いいぞ」と嬉しそうに声をあげます。

特調所の玄関前にはたくさんの報道陣と市民が駆けつけ、趙雲瀾がカメラの前で礼をします。老若男女が花束を持ち寄り、「趙所長は龍城の英雄です」「花束をどうぞ」「拍手よ」「英雄だわ」と、口々に趙雲瀾を褒め称え拍手します。
「感謝します。ありがとう。あの事件から1年…これからも特調所は全力で龍城を守ります」と趙雲瀾が言うと、「素晴らしい」と市民から再度歓声が上がります。

「勇者になる奴はバカだな」と言う趙雲瀾を獐獅は見つめています。趙雲瀾は居心地悪げにすると、「…本当にその時がきたら俺は覚悟を決める」と言います。
獐獅が去ろうとすると、趙雲瀾に引き止められます。「待ってくれ。もし万一そうなった時は、頼みがある」「何だ」「俺の代わりに生き、親孝行をして、友を愛し、人々を守ってくれ」。驚きに目を見開く獐獅。
「龍城には守り神が必要だ。悪くない。俺がやり残したことをあんたに託せる」。趙雲瀾は涙を堪え、「約束する」と微笑みます。趙雲瀾は涙を湛え、獐獅に近づくと、彼を抱きしめます。涙する趙雲瀾と、彼を強く抱きしめる獐獅。

「皆さん並んで、カメラを見て」と市民から囲まれる獐獅(趙雲瀾)は真顔です。
「死を恐れぬ者は2種類、死の向こう側を知り恐怖を抱かぬ者か、生きる意味を知り死んでも悔いを抱かぬ者だ。鎮魂灯の名の由来は悪を鎮めるからだけでなく、己の心も鎮めてくれることにある。趙雲瀾、お前の払った犠牲には価値がある」と内心呟く獐獅。

大慶は趙雲瀾の部屋を自分好みに改造し、林静は沈巍の、大慶は趙雲瀾の写真を持ってソファーに横に並んでいました。
「この1年は飯を食い、寝て、林静を殴る日々だった。穏やかだったな。郭ちゃんが犬を飼い始めた。犬は主に忠実で知能が低くて困る。餌代もすごいんだ」と言う大慶に、林静は「猫だって主に忠実だろ。猫のプライドはどこへいったのやら」と揶揄ったので、大慶は「ひねり潰すぞ」と殴ろうとします。林静は笑いながら大慶が振りかざす手を押し止めます。
「お前はボスにクビにされた。なぜ海星艦に戻らない?」と言う大慶に、林静は「俺も主に忠実だ」と言い、2人は笑います。
「特調所でもっと経験を積みたい」と言う林静。「だけど変だな。感じるんだ。ボスが…”本物の”ボスが見守ってくれてる気がする」と宙を見つめる大慶。林静も同じように宙を見ます。

特調所には新しいメンバーが10人以上加入しました。入室するとあちこちから若い男女が「郭さん」と挨拶してきて、郭長城は微笑み挨拶を返します。楚恕之そっくりな黒衣の男が無愛想に新入りにあれこれ教えている姿を見て、自分を思い出す郭長城。2人のそばに近寄ると、黒衣の男はにこりともせず「どうも」と目礼し、隣にいる小太りの男は郭長城の方を見るとへらへら笑い、黒衣の男に何かどやされます。
郭長城は日記を書こうとページをひらきます。「何を書こう、新しい物語がここからはじまる…」と彼は真っ白なページを前に考え込みます。

趙雲瀾は時空のはざまで沈巍の後ろ姿を見つけます。「来たのか」と言う沈巍に、趙雲瀾は笑い、目に涙を溜めます。
「行くのか?」と趙雲瀾が尋ねると、沈巍は「どんな命もいつかは消える」と静かに告げます。趙雲瀾は目を見張り、沈巍は涙を堪えます。
「私たちの選択には意味がある」という沈巍の言葉を聞き、趙雲瀾は言葉を失います。振り向いた沈巍の目には今にも溢れそうなほど涙が溜まっていました。沈巍は微笑み、「賭けないか?」と誘います。趙雲瀾は笑い、「何を?」と尋ねます。
「趙雲瀾、何年経とうと、どこへ行こうと、きっとまた会える。必ずな」と言う沈巍に、趙雲瀾は切なげに「分かった」と頷きます。沈巍は涙を湛えて笑い、涙して微笑みます。

たこわさ
たこわさ

「私を見捨てていなかったのか。捜してくれたと?」「弟よ。帰ろう」。
沈巍のたったこれだけの言葉で夜尊の憎しみは霧散しました。夜尊はずっと沈巍の愛が欲しかったんだよね…夜尊、大好きなお兄ちゃんに見捨てられたと思って世界を滅ぼしたくなるくらい辛かったんだね…😭ヴヴッ…

 

しかし、よもや雲瀾の中に獐獅が入って生き続けるとは!獐獅との抱擁シーン、泣いちゃいました。獐獅は趙雲瀾にとってもう1人の父親みたいなものですしね。

 

最後、趙雲瀾と沈巍のお別れシーン最高だったな…。でもまさか沈巍が死ぬとは。地君殿から手を繋いで消えていくのは、夜尊と一緒に死ぬって暗喩だったんでしょうか。

 

趙雲瀾と沈巍、沈巍と夜尊、どうか来世で何事もなく幸せに再会できますように…。

 

まとめ

たこわさ
たこわさ

正直に言ってもいいですか?
最後らへん、沈巍と趙雲瀾よりも沈巍と夜尊の兄弟愛に目が行き過ぎて、2人が手をつないで階段を上っていくシーンはヴァージン・ロード!?って大騒ぎしてしまいました…ごめん(?)
でも最後の最後、沈巍と趙雲瀾が時空のはざまで泣きながら再会を約束するシーンはエモかったな…沈巍の泣き顔はズルいよ…。

小錦あや
小錦あや

沈巍と趙雲瀾、沈巍と夜尊、楚恕之と郭長城という3組のカプが楽しめました。しかもBLという関係性抜きにしても単純に物語がファンタジー×輪廻転生モノとして十二分に面白い!!こういう骨太なBL、日本にも増えてほしいです。

逆襲のゆりこ
逆襲のゆりこ

脇役カプとは分かっていますが、楚恕之と郭長城のカプが個人的に大好物でした。体格差萌えなんですよね♡
ただ、楚恕之と郭長城は原作とだいぶ外見やキャラが違うらしいので、原作を読むのが楽しみです!

今回3人が見た「鎮魂」は、Amazonプライムビデオで無料視聴できます。

ぜひチェックしてみてくださいね〜☺️✨

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