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ドラマ10「東京サラダボウル」 傑作漫画「クロサギ」を描いた黒丸氏による新作「東京サラダボウルー国際捜査事件簿―」を映像化!「東京サラダボウル-国際捜査事件簿-」。
全話のネタバレ・あらすじ一覧・本作をより楽しむための小ネタなどを掲載しています。
早速見てみましょう!
登場人物とあらすじ
警視庁通訳センターの中国語通訳人と、国際捜査でのある出来事をきっかけに命を絶ってしまった警察官 のお話。
<あらすじ>
昨今メディアに躍る“外国人犯罪・外国人事件”という言葉。
犯罪が起きる事実はあっても、言葉が独り歩きすることで一部に偏見や差別を生んでいます。
これは「事件」と一括りにせず、外国人居住者の方たちの暮らしや人生に光を当て、そこに向き合う刑事と通訳人の目線で、異国で生きる葛藤に出会っていく物語です。
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予告編・予告動画
こんな人におすすめ
- 東京を舞台にしたサスペンスが観たい👮
- 国籍や性的指向への差別について考えたい💭
- 1話完結でキリよく見られるドラマを探している🔎
本作をもっとよく知るための小ネタ
①令和6年度の時点で、東京に居住する外国人の数はおよそ70万人にまで増加。外国人が増えるから日本の治安が悪くなる、といった意見もあります。確かに、外国人が犯罪行為を行い、逮捕されるケースも事実存在しています。ですが、2020年時点での人口に対する警察による検挙者の人数の割合を、日本国籍を持つ人と外国籍を持つ人で比較すると、割合はほぼ同じになり、基本的にはこれに近い状況が今も続いています。
②「東京サラダボウル」でセットでの撮影を行なっているのは大きく次のシーン。《東新宿署》と《警視庁・通訳センター》です。警察考証の先生にもお話を聞き、規模感やレイアウトをできる限り忠実に再現しています。
引用:物語を輝かすスタジオセットの世界 – 東京サラダボウル – NHK
③ドラマの終盤では、織田覚と有木野了のとても大切な関係性を描いてきました。最終話でも、織田が人知れず抱えた苦しみが描かれます。二人のことを描く上で、かつて警察官であり、現在はLGBTQ+が抱える現状についての発信に尽力するKOTFE(コッフェ)さんにアドバイスをいただきました。KOTFEさんは、ご自身の経験をもとに、ドラマの制作陣と深く細やかな対話を重ねながら、私たちが知るべき、“知られざる気持ち”についてアドバイスをしてくださいました。その気持ちを丁寧に描くことは、『東京サラダボウル』が大切にすべき指針の一つでもあります。
引用:知られざる気持ちを描く – 東京サラダボウル – NHK
ネタバレ感想
第1話 サソリと水餃子
<あらすじ>
東新宿署の国際捜査係で中国人被疑者の通訳にあたっていた有木野了は、緑髪の風変わりな女性刑事・鴻田麻里に出会い、人探しを手伝わされる羽目に。
中国人留学生・シェンの元から失踪した友人“キャンディ”を探し始める。
魅惑の都市・東京で誰かと恋に落ちたか、意図した失踪か。
東新宿署国際捜査係の警察官である鴻田麻里は、八百屋の馬おばさんから昼ご飯をもらうと元気に出勤します。
その頃、東新宿署国際捜査係では、中国語通訳人の有木野了が飯山修の取り調べに通訳として立会っていました。タクシーの無賃乗車と違法薬物(大麻リキッド)所持の疑いで捕まっている中国人女性は自分の薬ではないと言い張りますが、彼女からは大麻の陽性反応が出ています。
鴻田は出勤途中にベトナム人男性が警官から在留カードを求められるも、日本語がわからないために連行されていく様子を見やります。
シンハラ語通訳人かつチームの統括である清宮百合から、新宿方面で外国人同士の喧嘩があったから向かってくれと頼まれる有木野。公園で昼食を食べていると、困った様子の沈一諾に鴻田が中国語も分からないのに声をかけます。携帯を持っていなかった鴻田は近くにいた有木野から携帯を強引に奪うと、彼が中国語を話せることを知り、沈一諾の話を聞くように迫ります。沈は日本の大学院に進学するために来た留学生で、友人のキャンディが突然消えてしまったのだと話します。1ヶ月前にSNSで知り合った二人。沈は上海、キャンディは吉林省から来たらしく、ホームシックだった沈はあっという間にキャンディと仲良くなりました。しかし昨日の夜にアニメのグッズを買いに出かけると言ったまま20時間も連絡がなく、沈は不安を感じていました。
鴻田は有木野に名刺を渡し、1か月前に今の部署に来たばかりなのだと打ち明けます。
キャンディを探そうとする鴻田に、有木野は「日本で姿をくらます外国人なんて珍しくないでしょう。旅行目的で入国してビザが切れても滞在する奴がいれば、初めから消える目的で来る奴だっているんだから。たった1日弱で失踪と判断するのは早すぎるし」と呆れます。鴻田は沈の相談に引き続き乗るつもりのようです。
東新宿署に戻った有木野。 巡査部長の杓野玲央は、鴻田の尻拭いをなぜ自分がしなければならないのかと飯山に訴えます。
その晩、鴻田は有木野を中華料理の店に呼び出し、カエルの唐揚げや豚の脳みそ炒めといった珍味でもてなします。食事をしながら、鴻田は16時30分ごろにキャンディは代々木のアニメショップで男と中国語で会話し、タクシーで歌舞伎町まで移動したことが分かります。鴻田は二人が恋に落ちた、もしくは、同胞狙いの犯罪に巻きこまれたかのどちらかだと言いますが、有木野はキャンディは偽造パスポートでの不法入国・不法就労をしていた犯罪者なのではと疑います。「厳しい結果を直視できないなら刑事辞めたほうがいいですよ。被疑者は必ず嘘をつく。全員が同情すべき相手じゃない。警察官にもクズはいるし」と有木野は言いますが、鴻田は「3年くらい前まで上麻布警察署で巡査部長をしてたって聞いたけど、それが理由で警察官を辞めたの?」と探ってきます。「俺もあんたのこと聞いたよ。国際のこぼれかす担当」と挑戦的に言う有木野。鴻田は強引にキャンディ探しに有木野を連れ出します。
「東京都の外国人居住者の割合はたった4.8%、でも数にしてみれば68万人もいる。私は裏側に何があっても自分の目で見たこと意外信じないんだよね。アリキーノは翻訳アプリじゃないんだから自分の心と言葉で世界と繋がらなきゃ。キャンディを探そう」と有木野の腕を掴む鴻田。有木野は同じように掴まれた記憶をフラッシュバックします。
有木野は馴染みのバーのマスター・張柏傑(ちょう ばいじぇ)にキャンディを知らないかと尋ねます。張はキャンディが深夜2時頃まで男と飲んで出ていったと言い、男の方はヘンリーという名で店の常連客だったと話します。捜査に協力するのは面倒だと言う張に、有木野は「探られたくないことがあるなら彼女の質問に答えろ」と圧力をかけます。「中華料理屋を抜けた先の、ヘビの看板がある地下通路に行ってみれば?」と言う張。言われた現場に行くと、ヘンリーと男たちが言い争っており、鴻田が声をかけると彼らは逃げ出します。どうにかヘンリーを捕まえられましたが、彼の荷物を改めると、ヘンリー曰く「バーで飲んだ後、別れた」はずのキャンディのパスポートが入っています。さらにヘンリーの財布には大麻も。ヘンリーは「袋を取り戻さないと…」と口走り、有木野は今朝タクシーの無賃乗車で捕まっていた中国人女性のことを思い出します。
鴻田はヘンリーの持っていたパスポートに書いてあった名前を読み上げ、「何子豪さんですよね?」と尋ねます。キャンディはヘンリーに大麻を吸わされ、酩酊状態に。ヘンリーからホテルに連れ込まれそうになりますが、どうにか逃げてタクシーに乗り込みます。本名を言えば大使館づてに家族に逮捕されたことが知らされるかもしれない(中国では麻薬犯罪は死刑になりうる重罪)と恐れて黙秘を続けていたのではないかと鴻田は言い、キャンディは安堵のあまり泣き出します。キャンディは釈放され、沈に会うことができました。
有木野をランチに誘うベトナム語の通訳人である今井もみじ。しかし5連敗中です。
鴻田は有木野に自分たちはいいコンビになるはずだと口説きます。「東京は人種のサラダボウルなのに、それに対応できる刑事が全然いない。一緒に国際捜査課のこぼれかすを拾いましょうよ」と言う鴻田に、「センターを通じてなら請け負いますよ」と答える有木野。
第2話 始末書とネームタグ
<あらすじ>
自転車のバッテリー窃盗でスリランカ人の取り調べを行う鴻田麻里。
対照的に、東新宿署・国際捜査係の飯山係長、杓野巡査部長らと有木野了は、桁違いの大きな多国籍外国人窃盗の摘発を通じ、中核にいる日本人の元暴力団員・安藤の居場所を探し始める。
バッテリー窃盗を持ちかけた人間を探す鴻田は、素性を知らぬまま安藤本人に辿り着き捕まってしまう。
取調べ中の飯山と今井。飯山は四字熟語を多用するので、今井は訳しにくいと困惑しています。
鴻田は清宮とともに電動自転車のバッテリー窃盗容疑で捕まったアシャンに「売る相手は誰?」と聞きますが、黙秘されます。
上麻布警察署に来た有木野を見て「よくうちに来れたな」と噂をする刑事たち。国際捜査係に「任意徴収の通訳で派遣されました」と刑事の大内田将に話しかけると、「本日早朝港区のマンションの住人から隣の中国人夫婦が激しい喧嘩をしていると通報が入った。夫が妻から暴力をふるわれたと訴えたため双方を任意同行した」と経緯を聞かされます。有木野は大内田とともに事情聴取に臨みますが、大内田の質問は主語や述語がなく、さらには合間に女性蔑視や人種差別の言葉が入るので、有木野は通訳するのに苦労します。
妻は夫が先に頬を殴ったし、これまでもそういう暴力はよくあったと言いますが、夫は否定。「旦那からの日常的なDVに耐えきれず、今日ついに嫁さんが反撃したんだろう。気の強そうな女だしな」と言う大内田。「通訳の先生になってどれくらい偉くなったかしらないが、元刑事なら取り調べの文脈くらいいちいち聞かずに理解してくれよ」と嫌味を言う大内田に、有木野は黙ってその場を立ち去ります。
太良尾が盗難車の部品を密輸しようとしていた貿易会社にガサ入れして摘発し、鴻田の取り調べは一旦中止され清宮がそちらに回されることに。これから入手ルートを調べる太良尾に、鴻田は署内にシンハラ語通訳人が清宮以外にいないためこれから民間の派遣通訳を要請してくれないかと頼みます。鴻田に民間通訳人を派遣するように進言する有木野。
沈と食事を食べながら、警察官は結婚相手に身辺調査が必要とされるため警察官同士での結婚が推奨されているのだと話す鴻田。沈は中国は男性が多いので女性は結婚しやすいのだと話します。また、有木野が付き合っている相手はいるのかと気になる様子です。
有木野を呼び出す鴻田。沈は有木野に通訳の仕事について尋ねます。有木野は「通訳の仕事は、①同時通訳(話している人の言葉を聞いて同時に訳すこと)②ウィスパリング(聞き手のそばで囁くこと。同時通訳と似ているけれど大掛かりな装置を使わないので一番多い)③逐次通訳(言い間違いや言い淀みも含めて全ての言葉を一言一句そのまま訳すこと。正確性が大事で、文章の順番も入れ替えちゃいけない)の3つあります。逐次通訳は被疑者や被害者の人生を大きく左右するし命に関わることもあるので重要なんですが、分かってもらえないことも多いんですよね」と話します。
酔った沈が突然「頬を殴った」と言い、困惑する有木野。中国の若者言葉で「嘘がバレた」という意味だそうです。今日の取り調べで妻が言った内容を訳し間違えていたことに気づく有木野。
「被害者である夫は複数の女性と不倫していたそうです。通報があった日、夫は仕事だと妻に嘘をつき、別の女性と会っていたようで、それをきっかけに夫婦喧嘩荷発展したようです」と大内田に報告する女性刑事。「通訳の先生が誤訳したってことか」と嫌味たっぷりに言う大内田。妻は「この刑事はあなたへの嫌味をあなた自身に言わせてるってことよね。言葉が分からなくても嫌なことを言われているのは分かるわ。この刑事は”クソ野郎”よ。私もイライラしてわかりにくい言い回しをしてしまった。あなたは紳士だったし、誠実な心が見えたわ」と有木野に感謝を示します。
アシャンの勤めるスリランカ料理店に行った鴻田は、店長からアシャンの印象を聞きます。「スリランカの経済が駄目になっちゃったから、家族を日本に呼びたいって言ってた。真面目な子だから、そんな犯罪をするとは思えないよ」と言われ、鴻田は「電動自転車のバッテリーを盗むって、少々こなれてる感じがするんです。アシャンさんの交友関係で気になる人はいませんか?」と尋ねます。すると、調理担当のランガが急に顔色を変えて引っ込んでしまいます。
鴻田がランガに話を聞くと、「私がお金に困っている時に知り合った男が、自転車のバッテリーがあれば買い取ってやると言ったんです。私はそれをアシャンさんに教えただけで…」と怯え始めます。
太良尾は、元暴力団員で自動車窃盗団のまとめ役である安藤隆吾から盗難車の部品を買い取って密輸しようとしていたことを被疑者のウスマンに英語で尋ねますが、ウスマンは黙秘を貫きます。
杓野は「ガサ入れした貿易会社の上層部はナイジェリア人で、押収した書類やメールは中国語、シンハラ語、ロシア語、ポルトガル語とごちゃまぜになっていて…目を通しておいてもらえますか」と有木野に書類を丸投げします。
安藤はガサ入れを知って高飛びするのではと案じる飯山。「ウスマンが駄目なら他の奴らから安藤に関する情報を聞き出せ」と全員が気合を入れ直します。その時、「スリランカ人の被疑者アシャンが元暴力団員の日本人から電動自転車のバッテリーを盗むように言われたことがあると話していました」と話す新人警察官の広田カナ。
有木野は、英語通訳人である黒須雄介にウスマンの印象を尋ねます。黒須は「安藤の居場所が分からないと話した時にうっすら微笑んでいるように見えたので、彼は日本語を理解しているかも」と言います。有木野は初めからその回答が分かっていたようです。
鴻田はアシャン・カクチに繋がる情報を一人で追っていましたが、杓野から「お前が今調べてる電動自転車のバッテリー窃盗は盗難車部品の密輸と繋がるかもしれないから、いったん署に戻って現時点での情報を共有しろ。俺達が探してるのは安藤隆吾って男だ」と電話が来ます。有木野は急いでウスマンに話を聞くように飯山に要請します。
鴻田は安藤に襲われますが、すぐに杓野たちが駆けつけて事なきを得ました。杓野は有木野が通訳にも関わらずウスマンの取り調べ室に乱入し「お前が日本語でメールしたりして理解できてるの分かってるんだよ。居場所を吐けよ」と脅した事実をあげ、「完全なる職務逸脱だよ。反省しろ」と鴻田を叱りつけます。
安藤に殴られた時にふっとばされた眼鏡を鴻田にしながら「なぜ一人で行ったんですか?」と問う有木野。「アシャンさんは罪を償わなきゃいけないけど、アシャンの人生を誤った方向に導いた存在が他にいるならその人も罪に問わなきゃいけないと思ったの。元暴力団員って知ってたら行かなかったよ。ごめんね」と言う鴻田。「信念だけで行動してたら、あんた堕ちるよ」と警告する有木野。
「最近は暴力団と外国人がつるんで起こす事案が増えてきてまして…」と説明する飯山に、「都内の他の場所でもウスマンの取引履歴が確認された。聴取内容を開示してください」と冷たい態度の警視庁捜査一課の刑事・八柳隆太。鴻田が危険な目に遭ったものの、有木野という通訳が機転を利かせてくれて…という飯山の言葉に反応する八柳。
始末書を書く鴻田に広田が差し入れをします。八柳は「有木野とはどういう仲だ?ちゃんと分かっててあいつと親しくしてるんだろうな?」と鴻田に詰め寄ります。「え?」と聞き返す鴻田。
張のバーに3年ぶりに行く有木野。「昔はよくお前と話してたからスラングも分かったんだけどな」とぼやく有木野に、張は「あと少しだから残しておいても仕方ないし、あんたが飲んでくれると嬉しいんだけど。きっとあいつも喜ぶし」と「SATORU」とネームタグのついたウイスキーのボトルを彼の眼の前に置きます。
「お前が来ると店の風紀が乱れるんだよ」と入店したシウに向かって苦言を吐く張。シウは有木野の横目で見ます。
鴻田は杓野を呼び出し、有木野の噂について聞き出します。「書が鎮火に走ってあんまり広くは知られてないけど、3年前に上麻布署内の不祥事が小さく週刊誌に載ったことがあってな。その記事にあった内部情報を記者に垂れ込んだのが有木野さんだったらしい。しかもその記事のせいで死人が出てしまって」と言う杓野。
シウは有木野の職業を当てるついでに彼の頬にキスすると、「いいところ行かない?」と誘いますが、有木野は「また今度な」とすげなく断ります。
鴻田は「独自入手!警察組織の闇!上麻布警察署、取調べ中に”意図的誤訳”」というネットニュースを熟読していました。有木野が情報漏洩をするなんてと困惑する鴻田。
有木野はネームタグを片手に、ぼんやりと夜の街の中で立ち尽くしていました。
第3話 赤ちゃんとバインミー(前編)
<あらすじ>
鴻田は、有木野が3年前警察を揺るがす事件の情報漏洩を行った疑惑にさらされていることを知る。
その頃、幼児の誘拐事件が発生し、有木野は誘拐された子の母である中国人の通訳を担当。
鴻田は危険を承知で自分を守った有木野に謝罪と感謝を伝え、有木野が中国と日本の狭間で育った苦労話などを聞く。
馬おばちゃんの八百屋で、ベトナム人アルバイトのミーちゃんの赤ちゃんをあやす鴻田。ミーちゃんは昨日配達事故で脚を折って入院しているのだそう。馬おばちゃんは豚肉と牛肉を乾かして粉末にした「肉松」という中国の食べ物を赤ちゃんに与えます。従業員のらんから送り出される鴻田。
太良尾から「一人行動をするな」と叱責されるも、全く答えていない鴻田。ドラッグストアで万引きをして捕まったベトナム人に事情聴取していた鴻田は、有木野を見つけて「沈さんがまた食事をしたいって言ってるから」と食事に誘います。
にわかに騒がしくなる刑事課。「224(誘拐)事案が発生した」と有木野に電話が入ります。
被害者は1歳の男児、母親が中国からの帰化者のため通訳センターに緊急派遣要請されました。帳場の指揮は本庁の捜査一課が来るらしく、東新宿署国際捜査係からも捜査員を何名か出すことになり、秘匿案件のため刑事っぽく見えない者がいいということで、杓野が選ばれます。
11時20分頃、新宿区東落合の原嶋ユキの住宅から1歳の男児・原嶋俊が行方不明になりました。11時過ぎに買い物から帰宅し、男児をリビングで1人で遊ばせている間に浴室の掃除をしていたわずかの時間に犯行が行われたようです。原嶋俊は日本人の父親と中国からの帰化者である母親との三人暮らしで、まだつかまり立ちができる程度でほとんど歩けません。リビングの掃き出し窓が開けられており、室内には侵入者のものらしき足跡が残されていたことから、住宅に侵入した何者かによる未成年者略取誘拐事件とみて捜査を開始することに。
「サワダ電機」という架空の家電業者を装って、洗濯機の設置という名目で原嶋の自宅を捜査することになりました。
警視庁捜査一課特殊班捜査第一係の安永がリーダーになり、杓野と藤本、中国語の通訳人である有木野も同行します。犯人に警察の介入に気づかれないように、いつものように生活してほしいとユキの夫である原嶋孝次に頼む安永。泣きじゃくるユキから話を聞こうとする有木野。「身代金が目的ならもっと金持ちの家がいくらでもあるのに」と苦しむ孝次に、「過去にトラブルになった人間に心当たりはありませんか?犯人像を絞り込むためには、ご両親の経歴も把握しておく必要があります」と冷静に言う安永。孝次は明らかに苛ついており、何度も爪を噛み、貧乏ゆすりを繰り返します。
「来日したのは6年前、29歳の時よ。結婚は4年前に。職場で孝次と出会って、俊が生まれたの。どうしてこの国で誘拐されるの?日本人と結婚して日本人になれば安全だと思っていたのに!」と激昂するユキ。
ユキは以前高田馬場五丁目のラウンジ「マルモル」で働いており、孝次はそこの客でした。ユキは現在は専業主婦で、俊はまだ保育園には入れていませんでした。杓野をいたわる有木野ですが、杓野は「自分だけが国際捜査係から選ばれたから」と胸を張ります。
仕事帰りに化粧水を買いに行ったら鴻田が店員をしていて驚いたと職場で雑談する黒須。どうやら潜入捜査中のようです。ドラッグストアの万引きの件で、被疑者は万引き集団の一員だったらしく、おむつだけが何度も盗難されているのだそうです。日本の紙おむつは品質がいいと海外で人気らしく、飯山にここの紙おむつにGPSを仕込んで捜査したいと鴻田は嘆願したものの、「おとり捜査がしたいなら万引き集団の確認をしてこい」と言われたため、店員に扮しているのだそうです。
沈と一緒に公園でランチをする鴻田。沈は有木野の通訳の仕事の話を聞いて、通訳人になりたいという夢ができたと明るく語ります。「二人は人の心が分かる人。二人はお似合いです。私はこれから授業が忙しくなるから、有木野さんの話を聞いてあげてくださいね」と複雑そうに言う沈。
誘拐発生から2日が経ちました。「いまだ犯人側からの身代金、その他の要求や接触は確認されていない。子どもの体調を考えると長期化は避けなくてはいけない」と話す管理官に、黒岩は「リビングに残された足跡は、鑑識の結果、アメリカ製の大手メーカーのスニーカーのものと判明しました。流通量が多いので購入者の絞り込みにはかなり時間がかかるかと…」と報告。会議に遅れて参加した有木野に気づく八柳。八柳は「両親ともに過去におけるトラブルは確認されていません。夫婦仲もよく近隣住民からの評判もいいです」と報告します。
会議が終わると、八柳は「なんでお前がここにいるんだよ。ここにいていいはずがないだろ。どの面下げてきたんだよ。てめえから警察官辞めた人間が」と有木野を罵倒します。そこに割って入った鴻田は有木野をランチに誘います。「八柳さんは捜査一課のエリートですよ。捜査一課に目をつけられたら面倒です」と有木野は鴻田に忠告します。「前に俺が迷惑かけたんで、あの人は怒ってるんですよ」と言う有木野。
バインミーを食べながら、ベトナムの人のアレンジ力ってすごいなあと感嘆する鴻田。「人も食文化も国の境を行ったり来たりしてきたんだよね。たどり着いた場所で生まれ変わったりしながら。すごいよね。ありがたい!」と鴻田は嬉しそうにバインミーを頬張ります。
誘拐発生から3日。黒岩は「自宅周辺の防犯カメラ映像を虱潰しに調べていますが、俊くんを連れ出したと思われる時刻の怪しい人物や俊くんの姿はまだ確認できていません」と報告し、一同は肩を落とします。そこに現れた杓野は「孝次について気になる噂が」と報告します。
家で孝次を待ち伏せていた八柳は、「複数の消費者金融から総額250万円ほど借金をされていますね。そのうち金利が高い金融業者からの借り入れが約100万円。それが先日一気に返済されているんですが、この100万円の出どころを教えていただけますか。借金との関連がないと分かれば誘拐の動機を一つ潰せるんですよ」と孝次を説得します。
店長に仕事ぶりを褒められる鴻田。10分以上もおむつ売り場に不審な男がいると広田に報告され、男に話しかける鴻田。不審な男・王建斌は鴻田に子どものおしりの大きさを教え、おむつを買って去っていきます。
誘拐事件の進展を尋ねる鴻田に、有木野は「奥さんの方は相当参ってる。中国では、児童売買と人身売買は昔から存在する悪だと言われているんです。これ、「赤ちゃんを探せ」っていう、行方不明者を捜索する中国の情報掲示板です。世界で起きてる人身売買は性的搾取の目的が大半だけど、中国の場合は特殊で…男の子は後継ぎがいない富裕層や働き手のいない農家のために、女の子は10代の女の子たちが結婚相手として狙われるケースが多いんです。親たちは子どもたちがどこで何をさせられているかも分からないまま探し続けてる」と説明します。「俺、15まで中国の大連で育ったんで、親から誘拐されないように絶対に離れるなって言われてました」と有木野が言うと、鴻田は「アリキーノは努力したんだね」と感嘆します。
有木野に八柳から電話が入ります。
八柳は孝次が住民票などの書類とまとめて100万円で戸籍を売っていたと有木野に言います。売った相手は、アリサというラウンジ「マルモル」のフィリピン人ホステスだそう。元同僚のユキが何か知っているか確認してほしいと言われ、有木野と杓野はユキに改めて話を聞くことに。
ユキいわく、「アリサはお店に入った時は優しかったけど、孝次と付き合い始めたと知ってから急に冷たくなった。でも彼女と関わりたくなかったからちょうどよかった。彼女はお店の仕事以外に変なバイトをしてるって噂があったの。日本人の”戸籍”はすごくお金になる。だから戸籍を売ってもいい日本人がいたら紹介してもらえないかって」。
孝次は、仕事の付き合いで久々に店に行っただけで、アリサに借金のことを愚痴ったら、喫茶店で戸籍売買について持ちかけられたのだと八柳に説明します。孝次にはひどいギャンブル癖があったようですが、誘拐との関連性は低いと管理官たちは判断します。
八柳から「戸籍ブローカーに関しては君が担当してくれ」と一任される杓野。本捜査に関われないことに落胆する杓野ですが、有木野は周辺の監視カメラにも映らずに一瞬で赤ちゃんを連れ去るなんて大規模な組織の犯罪の匂いがすると困惑します。
「警察が店に話を聞きに来たって。あいつらとこれ以上関わるのはやばいって!警察に行った方がよくない?」と同僚のホステスに泣きつかれるも、「あんた一人で行けば?私、悪いことはしてないし」と無視して帰ってしまうアリサ。
誘拐発生から4日、俊の動画を見ては泣きじゃくるユキ。王建斌は相変わらず鴻田のドラッグストアに来てはベビー用品を購入しています。出勤したアリサは男に突然羽交い締めにされ、彼女の顔をシウは覗き込みます。帰宅した王建斌はタバコを吸う劉啸を咎めます。「ボランティアから連悪あった?」と問う劉啸を無視して、泣く俊を抱き上げる王建斌。
鴻田のために、馬おばちゃんは肉松を分けてくれます。そして、中国語で何やらメッセージを書く鴻田。らんは文章をチェックし、OKを出してくれます。
第4話 赤ちゃんとバインミー(後編)
<あらすじ>
俊の誘拐から刻一刻と日が経ち、東新宿署のみならず警視庁・本庁捜査一課の現場指揮を執る八柳や有木野は焦りを募らせる。
ワンはもう一人の中国人女性と共に、ボランティアなる存在から手渡された日本人のパスポートを手に日本人夫婦を偽って念願の大陸へ帰国を試みる。
だが“数日面倒を見ろ”と言われた俊をも連れていくよう指示され、子の命の危険を予感したワンはボランティアを裏切ってミドリ頭を頼りに鴻田のもとへ出頭する…。
ベビー用品を買いに来た王建斌は、鴻田に「これは赤ちゃんが気に入らなかった」と買ったフードを見せます。鴻田は馬おばちゃんに分けてもらった肉松を渡します。添付のメッセージカードには「お父さんへ いつも買い物してくれてありがとう。よかったら赤ちゃんにどうぞ」と中国語で書かれています。王建斌はまめに俊の世話をし、劉啸は「ボランティアに頼まれたからってまるで自分の子どもみたいに世話をするのね」と呆れます。
4日前、ボランティアのトニーから「2週間ばかり面倒を見てくれたらその後引き取るから。外に出すなよ」と命令された王建斌と劉啸。王建斌は工場に行かなければと困惑しますが、「どうせもう辞めるんだから。正規のルートでようやく国に帰れるようにただでパスポートを作ってやるんだから、分かってるよな?」と脅されます。シウは「手伝ってくれたら助かるんだ」と念押しします。
誘拐発生から5日、孝次は過度のストレスで嘔吐を繰り返し、ユキは魂が抜けたように呆然としています。捜査範囲を広げさせてほしいと頼む八柳ですが、管理官たちは渋っています。
杓野はアリサに事情聴取を行い、「戸籍を買いたいって奴がいたから売っただけ」と言われ、売った相手について詳しく聞きます。「電話でいろんな国の言葉を話してたけど、よく分からない。売った相手は戸籍をどうするかなんて私は知らないし、興味がない」というアリサの言葉を聞き、考え込む有木野。
「肉松をよく食べた」と報告する王建斌に、「子どもの名前は?」と尋ねる鴻田。「宇航(ユーハン)」と答える王建斌。
ちょうどそこにおむつ万引き犯が現れ、鴻田は「彼らの大元の組織を突き止めるのが目的なので商品代金は後でお支払いしますね」と言って、店長とともに犯人を泳がせようとしますが、予想外にも王建斌が「お金をちゃんと払え!」と犯人にタックルしたため、鴻田はやむなくそこで犯人を捕まえることに。しかし、犯人を捕まえる際に「警察です!」と鴻田が叫んだため、王建斌は驚いて家に逃げ帰ってしまいます。
誘拐発生から6日、王建斌は工場で忙しく働いていました。王建斌の勤務先・株式会社青鳥化成に来た鴻田。彼の作業服に書かれた工場の刺繍を見て、勤務先を突き止めたのでした。仕事終わりの王建斌を捕まえると、鴻田は「海外の人が人生を立て直して、赤ちゃんを育てるのはすごく大変だから。どうにもならないことがあったら連絡して」と国の補助に関するパンフレットと自分の名刺を渡します。「宇航くんのこと、大切にね」と去っていく鴻田。王建斌は俊をあやしながら、宇航のことを考えます。
有木野はバインミーを食べながら、誘拐事件について考えを巡らせていました。何かに気づき、八柳に「関東と東北の港と空港に手配をかけてもらえませんか。手配対象者は原嶋孝次、原嶋ユキ、原嶋俊です。孝次はアリサに戸籍を売り、アリサはそれをさらに外国人に売った。おそらく原嶋の戸籍を使ってパスポートを申請するはずです。売られた書類の一つは戸籍謄本…つまり家族全員の戸籍が売られたということなんです。弱みを持つ父親ともともと中国人だった母親は好都合です。二人になりすませるアジア人なら大勢いる。あとは俊くん本人がいれば本物動揺の家族が完成します。書類と成り代わりの人間がいればパスポートは申請できます。俊くんは正規の手続きを踏んで日本を出国できてしまうんです。おそらく、大陸への発着もあり警備も手薄な西茨城空港あたりから…」と訴える有木野。「今回は特例だ。お前も来い」と先導する八柳。
同じ頃、シウは「明日の朝、出発する」と王建斌と劉啸に言い渡し、原嶋一家のパスポートを彼らに配っていました。「その子を大陸に連れて行って、迎えの者に引き渡せばいい」と言うシウに王建斌は詳しく話を聞こうとしますが、これ以上聞くなと釘を差されてしまいます。
誘拐発生から7日、王建斌と劉啸は俊を連れて出発します。劉啸は「私10年ぶりなの。病気の姉のために日本で入院費を稼いで、そのうち帰る手段もなくなって。でももうこれで終わるわ。あんたは待ってる家族とかいるの?」と世間話をします。劉啸がチェックインすると同時に、八柳たち一同は彼女を確保。王建斌の居場所を尋ねますが、王建斌はチェックイン寸前になって「おむつを替えてくる」と言ったきり姿を消していました。
王建斌は東新宿署に向かっており、鴻田を訪ねてきます。俊を保護したと飯山から報告を受ける八柳。
王建斌は48歳、福建省出身で、技能実習の資格で入国して10年目。不法滞在しています。劉啸も同郷の同世代で同じ状況でした。二人の間に婚姻関係はなく、知り合ったのも10日前ほど。王建斌は取り調べにも終始無言で、分からないことだらけです。
「王建斌さんの逮捕容疑は未成年略取誘拐になるよね?でも赤ちゃんの名前を知らないって言ってた。家から誘拐したなら変じゃない?それにオーバーステイなら出頭すれば拘束されることは分かってたはずなのに。ウーハンって名前をどうしてあんなに大事そうに呼んでたんだろう」と言う鴻田。鴻田は有木野が前に教えてくれた行方不明の子どもを探すサイトで、「福建省」出身の「ウーハン」を探したいと通訳人たち総出で探してもらいます。その後、「ウーハン」ではなく「ユーハン」なのではと有木野が気づき、黒須がようやくそれらしき人物を発見します。
八柳に頼まれて、鴻田も王建斌の取り調べに立ち会うことに。「あの子をさらってあんたのところに連れてきたのは誰だ?」と問う八柳。「私はボランティアを裏切ることができない。お金も滞在資格もない私を帰国できるように助けてくれて、パスポートもただでくれた。なのに私は彼を裏切って警察に来てしまった」と言う王建斌に、「裏切ったのはボランティアだよ。誘拐犯に利用されたの。ボランティアはあなたたち全員を売るつもりだったんだよ。何かがおかしいって思ったから警察に来てくれたんだよね?あなたは、宇航くんを探してるんだよね?」と行方不明者のサイトに登録されていた宇航の写真を見せる鴻田。
王建斌は、「私は息子を探す資金を稼ぐために10年前に日本に来ました。お金は妻に送り続けてきました。私がボランティアのことを話せば、妻に被害が及ぶと思って怖かった。ずっと夫婦で息子を探してきました。探すことでかろうじて生きることができました。もう私達のことは忘れてしまったでしょう。私はとっくに在留期間を過ぎてしまった。妻はまだ探し続けている。息子がまだ生きているかは分からない」と泣きじゃくり始めます。
杓野は「アリサはこれまで10人以上の戸籍を売ったと言っています。ボランティアが客として釣るのは日本人に顔が近い東アジア系の不法滞在者。日本に頼れるものがおらず、金銭的に困窮している者を優先するとふれこんでいるそうです。しかも、劉啸が同胞として助けてくれたことの礼を伝えた際、ボランティアからは”同胞というわけじゃない。自分は日本人だ”と言われたそうです。発言の意図はわかりませんがね」とぼやきます。
太良尾は「人身売買に売られた者のその後は悲惨だよ。自由を奪われ、人生の選択肢も身体に関する自己決定権も奪われ、時に命さえも奪われる」と言います。「でも、不法滞在者が標的となると警察からは喚起しづらいな」と飯山は困惑します。「国に帰りたい気持ちにつけこんで帰国手段を餌に犯罪組織に売り渡すなんてひどすぎます。そんな人狩りを日本で野放しにしちゃだめですよ」と言う鴻田。「本庁にも報告書をまとめろ。うちの重要案件としてボランティアを追っていくぞ」と一同の尻を叩く飯山。
鴻田と有木野に「未成年略取誘拐の起訴は見送られた。入管法違反で懲役2年、執行猶予3年ってところだろう。いずれにせよ退去強制処分だ」と報告してくれる八柳。霞が関の留置所に王建斌を移動させる安永。鴻田は有木野に言伝て、有木野は「留置期間を補足させてほしい」と王建斌を呼び止めます。「あなたは帰国できるチャンスと引き換えにあの子を守ろうとした。あの子に息子さんの面影を見たからですよね。宇航があなたを守ってくれました。あなたと宇航はまだ生きて会えるチャンスがある。だから必ず生き続けて」と言う有木野に王建斌は頭を下げます。
「誘拐犯の目的が赤ちゃんを国外に連れ出すことだなんてよく分かったね」と言う鴻田に、「あれは捜査一課の手柄ですよ」と謙遜する有木野。
3年前、「自分が情報漏洩者だと認めるのか?お前が疑惑を否定しなきゃ周囲はそれが事実だと思う。お前はここで生きていけなくなるんだぞ!織田の墓の前でも同じことが言えるのかよ!言えやしないだろ!」と迫る八柳に、「もう俺に関わらないでください。俺の近くにいると八柳さんにとってマイナスになる。あなたが切望する捜査一課への道に響きます」と諦めたように言う有木野。「人をなめるのもいい加減にしろ!お前が自分自身の未来諦めて一番むかついてんのはこの俺なんだよ!」と八柳は有木野の胸ぐらを掴んで激怒しますが、有木野はそのまま立ち去ってしまいます。
八柳は有木野と鴻田の凸凹コンビの背中を見つめ、その場を立ち去ります。
第5話 ティエンと進
<あらすじ>
介護施設で入居者のタブレットが窃盗された。
鴻田麻里は疑惑をかけられたベトナム人のケアスタッフ・ティエンの取り調べを行う。
ベトナム語通訳人の今井もみじは、ティエンの体に痣があることを発見。
介護施設「グリーンフラット東新宿」で、ベテラン介護士の別島道則は入居者の松村南の食事の介助をしていると、松村は突然「ティエン!」と叫びだします。
ホーム長の江藤三和子はティエンの教育係である早川進に別島のことを尋ねますが、ティエンは立ち尽くすばかりで無言のままです。
江東は警察の事情聴取に「私が戻った時にはもうああなっていて…」と説明し、警察に釣れられていくティエン。介護職員の樋口は「ティエンくんが南さんのタブレットを自分のロッカーに入れてたらしいよ」と同僚の加瀬に言います。「盗ったってこと?意外だね。いい子だと思ってたのに」と言う加瀬に、西野は「あの松村さんに大きい声でいつも呼びつけられて、嫌気がさしてたんじゃない?」と言います。
太良尾の取り調べを受けながら「絶対に自分はやってない」と言うティエン。「じゃあなぜ君のロッカーから入居者の私物が見つかったわけ?」と言われ、口ごもります。
土曜に今井宅でホームパーティーをやるから一緒に行こうと誘ってくる鴻田に、バインミーを食べながら断る有木野。しかし今井が手作りのベトナム料理を振る舞ってくれるのだそう。
今井は取り調べを終えた太良尾にティエンの逮捕手続きを待ってもらえないかと頼みます。登録支援機関の担当者が来るまで待ってくれと懇願する今井に異変を感じた鴻田は、ティエンの取調室に入ります。するとティエンが手を骨折し高熱を出していることが分かり、慌てて病院に搬送することに。
「どうして骨が折れるような怪我をしたの?それに身体のアザはどうしたの?」とティエンに問う今井。
「腹部にアザがあって暴行被害の疑いがある以上…」と太良尾に意見する鴻田ですが、「怪我してるからって暴行を受けたとは限らん。それに窃盗事件の被疑者だしな」と言う太良尾。「でも彼が本当にタブレットを盗んだってだけなんでしょうか?」と食い下がる鴻田に、太良尾は「じゃあお前が調べろ」と命じます。嬉々として調査に乗り出す鴻田。
「特定技能の外国の方をサポートしている登録支援機関・明邦協同組合の阿部さんです」と今井が鴻田に阿部を紹介してくれます。阿部は時折ティエンと面談していたそうです。「彼は6年前に日本に来て、地方の介護施設で技能実習生として3年間真面目に働いていたと聞いています。その後、母国に戻って結婚して、2年前に特定技能1号の在留資格を取ってあの施設で働いています。職場でのトラブルについて相談を受けたことはないですね。最近は仕事にやりがいを感じているようで、職場で友達もできたと言ってました」と言う阿部。
「入居者さんの中にはティエンくんに偏見を持つ人もいました。でもすごく勉強熱心な子だから、まさか盗みを働くなんて…」と言う江藤。「実はティエンさんは手の甲を骨折していたんです。なにか事情を隠している様子もあって…施設内での人間関係で問題はありませんでしたか?」と鴻田が問うと、「厳しく指導する職員はいたけれど、暴力を振るうとか…」と困惑した様子の江藤。
鴻田が昨日のことを詳しく聞かせてほしいと頼むと、江藤は説明を始めます。
昨日の昼、松村南の入浴を済ませて髪を乾かし終えて部屋に戻るまで約40分の間にタブレットが紛失。別島は職員の許可も得ずに急に彼らのロッカーを探し出し、ティエンのロッカーからタブレットを見つけます。江藤が事務局に対応について相談して5分程度の間に、大きな衝撃音がして、別島はロッカールームから消え、代わりに早川がロッカーの前に立ちはだかるように立っていました。ティエンに事情を聞いても「なんでもないです」と言うだけ。
別島に話を聞きたいと言う鴻田ですが、「昨日は早退して、今日も体調不良とかで欠勤してるんです」と言われます。タブレットについた指紋は不完全なものを合わせると10種類以上もあり、鑑識いわく犯人特定は難しそうです。
西野に命じられて洗濯物を集める早川に、鴻田は「昨日の窃盗事件について何か知っていることはありませんか?」と尋ねます。早川は「ティエンはものを盗むような奴じゃないです」とだけ言い、鴻田は早川がティエンの「友達」なのではと推測します。早川は仕事があるからと足早に去ってしまいます。
施設内での虐待行為はまだ認められないと今井に報告する鴻田。「私、なぜ警察通訳人をやってるんだろうって思うことがあるんです。関わっているベトナム人の多くはそれが被疑者であれ被害者であれ、高い志を抱いて日本にやってきた人たちで…通訳をしてると、こんなことをするために日本に来たんじゃないのにって思いが伝わってくるんです」と今井は吐露します。「そもそも技能実習制度って日本で学んだ技術を祖国で発展させてくださいってのが基本理念なんだよね」と言う清宮。「結局、帰国前提で日本での定着を認めない国の方針と継続的に労働力が必要な企業側とのミスマッチが起きてるんです」と言う今井に、「日本でも3〜5年で辞めると分かってる新入社員に本気で高度な技術を教えますか?って感じですよね。結果、実習生はどうしても末端の単純作業ばかりになる。彼らはいずれ”帰ってしまう人たち”だから」と言う有木野。ティエンはどんな気持ちで過ごしてきたのだろうと思い巡らせる鴻田。
鴻田が別島に会いに行くと、彼は鼻を怪我していました。「ティエンさんにやられたんですか?」と問う鴻田に、「早川だよ」と吐き捨てる別島。早川はロッカーの凹んだ跡をぼんやりと見つめます。
「田中さんまた薬隠してたぞ。ちゃんと飲むとこまで見とけっつったろ!何度言わせんだ。いつになったら使えんだよ」と早川を叱咤する別島。「ドジッた…」とぼやく早川にその言葉の意味を尋ねるティエン。早川が休憩時間に「ドジッた」はベトナム語でなんというのか検索していると、禁煙スペースで喫煙している別島に注意しているティエンを見つけます。「お前は言われたことだけやってりゃいんだよ!どうせ3年働いたら国に帰るんだろ。こっちは無駄な体力使ってお前らに教えてやってんのによ。教えたら帰るの繰り返しだよ。マジアホくせえわ」と吐き捨てる別島。ティエンは別島の捨てたタバコを、きちんと火を消します。
ティエンから実家を聞かれ、「岡山だよ。ほとんど帰ってないよ」と返す早川。「私も日本に来る時に借りたお金を返すまではベトナムに帰れない。でも私はラッキーです。一緒に日本に来た仲間はみんな苦労してます。でもここの人はみんな優しいし、進さんは漢字も教えてくれます。でも別島さんは怖いです。”コンクイ”です。ベトナム語で鬼という意味です」とティエンは笑います。早川はティエンと話した屋上に来て、彼の名前をぼんやりと呼びます。
張のバーでひとり飲んでいた有木野は、シウから「味わってもないのに決めつけるのは良くないよ。お酒はラベルを見ただけじゃ味は分からない、舌の上で転がさなきゃ。見た目だけで判断するのは日本人の悪い癖だよ」と言われ、「お前も日本人だろ」と返します。「そういうのは味わってみてからのお楽しみじゃない?」とシウは誘いますが、「あいにく俺は禁酒してるんだ」と返す有木野。シウは「かわいそうな人」と不満げです。
雑然とした部屋に、有木野と織田がそれぞれ一人で写ったポラロイドカメラが落ちています。
「お前は長田部長の娘さんといい感じなんだろ?」「あれは部長が強引にくっつけようと…」と雑談する刑事たち。「織田、土曜いいよな?」と話を振られ、警察官の織田覚は「その日妹が遊びに来るんで」と言い、有木野とすれ違った瞬間に、彼の手にわざと自分と手を当てます。思わず振り向く有木野。
介護施設「グリーンフラット東新宿」にまた来た鴻田は、松村が「ティエン!」と叫んでいる様子を見ます。介護職員の樋口は「ティエンくんはお休みだから」と松村をなだめます。「背中を洗う時はティエンがいいんだよ。痛えのは早川だよ」と言う松村に、樋口は「てっきりティエンくんのことを怒ってるんだと思ってたよ」と笑います。
早川にベトナムスイーツのチェーをおごる鴻田。鴻田は「別島さんから、あの日のこと聞いたよ」と早川に微笑みます。
松村のタブレットが見つかった後、別島は「お前が本当に泥棒かどうかなんて関係ねえんだよ!お前はかわいがられてるかなんだか知らねえが、盗んだらみんな”ああやっぱり”って思うんだよ!お前タバコのことホーム長にチクったろ。それに休暇願い出したらしいな。旧正月ってなんだよ。日本にそんな風習ねえんだよ!」とティエンの胸ぐらを掴んでおり、早川は慌てて止めに入ります。
しかし「こいつらみたいなのに仕事を奪われるのはお前みたいに何の能力もねえ役立たずのせいなんだよ!俺はお前みたいに寝ぼけて友達ごっこしてるクズに現実の厳しさを教えてやってんだよ。ありがたく思えよ!」と別島は早川に凄み、ティエンは早川を守ろうとロッカーに拳を叩きつけ、別島にベトナム語でなにかをまくしたてます。ティエンに殴りかかろうとした別島を早川は殴り、別島は鼻血を出します。「二人まとめてここを辞めろ!」と言うと、別島は出ていきました。
「一緒に入浴介助してたティエンくんが盗めるはずがない。ロッカーにタブレットを入れたのはあなたなんじゃない?でも事情があったんだよね」と言う鴻田に、早川は「初めて会った時、ティエンは俺のことを自分に似てると言ったんです。年も近いし一番下っ端だし。故郷から離れて、家族と疎遠で、友達もいなくて、一人ぼっちで、毎日同じことで別島さんに怒鳴られて…僕よりももっとかわいそうなやつだから友達になれるって思ってました。でもある時に俺のほうがかわいそうって思われてるんじゃないかって思い始めて」と言います。ティエンが早川を旧正月に実家に来ないかと誘い、親族の幸せそうな写真を見せてくれたり、松村が「ティエンの方が背中を洗うのがうまい。早川は痛いんだよ」と言ったりするのを聞くうちに、早川は松村のタブレットを盗んでティエンのロッカーに入れていたのでした。
「あなたはティエンさんに出ていってほしかったの?もし冤罪で施設を辞めることになれば、彼は国に帰るしかなくなるんですよ」と言う鴻田に、「帰る場所があるなら帰ればいいじゃないですか。あったかい家族がいて、帰国を待ってる奥さんもいる。周囲に期待されて、期待に応えられる能力もある。ティエンは日本で働けばベトナムの勝ち組になれる。だけど僕には何もないんですよ」と言う早川に、「自分より下の存在ならいいけど、脅威に感じたら追い出すの?ティエンさんは激痛に耐えながら右手の骨折を隠そうとしていた。なんでかわかる?あなたを守るためだよ。あなたが別島さんに怪我をさせたことが警察にばれないように、ティエンさんは黙ってたの」と鴻田は言います。
ティエンは今井に「進さんが僕に優しくしてくれたのは、僕がかわいそうな外国人に見えたからだと思います。でも同情だけでそうするのは本当の友情なんでしょうか。進さんには助けられてばかりだけど、僕もいつか助けられるようになりたい」と語ります。
早川が別島からティエンをかばった時、ティエンは「この人を侮辱するな!この人がどれだけ僕を助けてくれたか!言葉も仕事も教えてくれたんだ。それを役立たずだと!」とベトナム語で激怒したのでした。
「お互いに必要だから必要な存在として認めてほしかったんです。かわいそうだから隣にいさせてもらうんじゃなくて」と言うティエン。
「今回の件について松村さん、別島さん、ティエンさんのいずれも積極的な被害意思は示していません。なので警察では立件しません」と鴻田が言うと、早川は「ティエンは僕を許してくれるでしょうか…」と泣き出します。
別島は「外国人が増えれば犯罪が増えるんだよ!マイノリティーがマイノリティーじゃなくなったらもっと権利をよこせってやかましくなるに決まってんだろ。日本で働かせてもらってる立場も忘れてよ」と太良尾に愚痴を言います。今井は「外国人の方々に働いてもらってるんです。日本は労働力も消費力も減って、日本人だけじゃこの国はもう持たないんです。外国人を無理に愛せとは言いませんが、彼らを敵視して排除しようとしてもあなたの居場所は守れないですよ。同じ社会に生きるものとして受け入れないと苦しくなるだけです。日本は変わっていくんです」と言います。
介護施設「グリーンフラット東新宿」に戻ってきたティエンを出迎えた早川。ティエンは骨折した手を見せて「ドジッた」と言い、早川は泣き出します。「早川さん、今度は間違えないで。彼があなたにとってどんな存在なのか」と言う鴻田。早川は顔をあげてティエンを見つめます。
今井の家にお呼ばれした鴻田と有木野。今井は以前ベトナム料理屋でバイトしていたらしく、その時の腕を振るってくれます。当時の同僚であるアキラを紹介する今井。アキラは日本生まれのベトナム人だそう。
「日本に来る実習生は絶対にチャンスを掴むんだっていう野心と向上心がある子たちばっかりなんだよね」「だからこそこの国に生きる外国の人がもっと選択肢を持って生きていける世の中にならないと」と話す清宮と今井。「今井さんみたいな方が増えたら日本社会と訪日ベトナム人の関係もさらに良くなるでしょうね。今井さんが通訳人になった意味は十分にあると思います」と言う有木野。
アキラを「ミンさん」と呼ぶ他のベトナム人男性。ベトナムも漢字文化圏なので人の名前に漢字を使うらしく、本名は「明」と書くので、アキラと呼ばせているのだそうです。「ティエンは何と書くんですか?」と問う鴻田。アキラは紙に「進」と書きます。「ティエンと同じ」という言葉の意味を理解し、バルコニーで一人で泣き出す鴻田。「一度壊れた友情ってもとに戻ると思う?」と問う鴻田に、「少なくともこの瞬間、同じ国で生きてるわけですし、ふたりともまだ若いんだから仲直りする機会はあるんじゃないですか?」と言う有木野。
第6話 海と警察官
<あらすじ>
2000 年代初期の福岡ーー小学生の鴻田麻里少女は、買い物をきっかけに近くの韓国食材店の娘・スヒョンに出会う。
日本語とちょっと違う響きだがとても似ている韓国語名の食べ物や、見たことのない料理の数々に心惹かれる麻里。
しかしある日スヒョンの家族は逮捕されてしまう…。
10歳の鴻田は学校から帰ると、母から夏休みの図工の宿題のために牛乳を買ってくるように頼まれます。「帰りにセマウルに寄って青唐辛子を買ってきて」と言われ、大喜びする鴻田。韓国食材店「セマウル」の娘・スヒョンににこやかに声をかけられ、にわかに鴻田は緊張します。
有木野は杓野から「例の誘拐事件のボランティアの件を引き続き追ってるんですが、ボランティアが戸籍売買に関わっているようで、王建斌が働いていた工場の同僚に話を聞きに行きたいので同行してもらえませんか」と頼まれます。杓野は誘拐事件の手柄を鴻田に奪われたことを根に持っており、出世のためにボランティアの件を必死で調査しているのでした。心ここにあらずな有木野を心配する広田。
通訳センターではバインセオがおいしいベトナム料理屋を見つけたから一緒に行こうと黒須が今井を誘うも、清宮もついてきてしまいがっかりしていました。鴻田の泣き顔が気になり、「今井さん、最近泣くことありました?」とうっかり聞いてしまいます。困惑する今井。
有木野は張のバーで「一本だけタバコ吸っていい?」と尋ねます。禁煙していたはずなのにと不思議そうな張は、「一人で抱え込んでもモヤモヤするだけだよ。誰かに話して頭のモヤを晴らさないと」と織田にされたのと同じアドバイスをされます。そのまま夜を明かしてしまう有木野。
翌朝、鴻田から「ゴミ掃除を手伝ってほしい」と呼び出された有木野。「ネパールの人がお店に集まって宴会したらしいんだけど、外に出て騒いだり喧嘩する人が出てこんなことに」とゴミ袋を渡されます。「外国人はこれだから困るよ。ここ日本ですよ、分かってます?」と激怒する近隣住民に、すみませんと平謝りする男。彼はネパール人が集まったお店の店主で、プジャラといいます。それを手伝うそば職人の和田。一緒にゴミを拾い、水で掃除までします。和田は「プジャラ、そば食ってけ。そのあと説教だ」とだけ言って、鴻田と有木野を労います。
有木野は鴻田をお茶に誘いますが、有木野のおごりだからと鴻田の馴染みの韓国料理屋に連れて行かれます。鴻田は福岡出身で、韓国人の店主とは古くからの付き合いのようです。有木野は「この間泣いてましたよね?なんで泣いたんですか?」と問い、「外国で暮らしてると名前とかそういう同じものを持っている人がいるってことがそれだけで本当に大きな心の支えになるなってティエンさんのことで思い出したの。私にはスヒョンっていうオンニがいたの」と話し始めます。スヒョンのお店で料理を食べさせてもらえるのが嬉しくて、夏休みは毎日セマウルに通ったものでした。チマチョゴリ姿のスヒョンの写真を見た鴻田はこれが着てみたいとおねだり。スヒョンは鴻田に着付けてくれます。すると客の一人が「あの子が生きとったらこれくらいかね」と韓国語で言い出し、スヒョンの顔が曇ります。
スヒョンは、おじいちゃんの故郷である釜山の海の絵を鴻田に見せてくれます。「美術の学校に受かって東京に行くのが私の夢なんよ。私は何の問題もなく働けるんやろうか。時々私はここにおっちゃいけん気がする」と言うスヒョンに、「嫌やったらここに帰ってくればいいやん!私もおるし」と元気づける鴻田。「誰とでも繋がれるのは麻里の才能たい」と誇らしげな麻里の母・晴海。
9月、学校が始まってからセマウルに行ってみると、「これって密輸ですよね?もうやめたいです」とスヒョンの父が強面の男たちに韓国語で懇願していました。「スヒョンは海に絵を描きに行っとるけ」とスヒョンの母に促され、海に向かう鴻田。海の絵を描くスヒョンは「最初は怖いけど、大事なのは決めることなんよ。自分の色を決めて、この色で塗っていくって決めるんよ」と鴻田に絵の描き方を教えますが、鴻田は「この間見た海の色と違う。日本と釜山の海は違うと?」と問います。海で遊ぶチマチョゴリ姿の鴻田を描いたスヒョンは「海の色は違うけど、繋がっとるけん」と鴻田にプレゼントします。「いつかこの釜山の海をオンニと一緒に見たい」と指切りする鴻田。
後日、スヒョンの父は密輸の容疑で捕まり、周囲の人々は「在日の店やけん。またズルしとったんやね」と口さがない噂をします。鴻田はスヒョンに何も言えないまま、離れ離れになってしまいます。スヒョンの父は娘を美術学校に行かせたいあまり、金を稼ぐために密輸に手を染めていたのでした。「彼女のことをほとんど思い出さないまま大人になれちゃったんだよ」と悲しそうに言う鴻田。「今の鴻田さんは誰の手も離さないですよね。こぼれかすを拾ってるじゃないですか」と言う有木野に、「アリキーノはそんな私を拾ってくれてるよね。不器用だけど愛すべきキャラだと思ってるよ」と言う鴻田。
「例のボランティアという集団が気になってまして」と飯山を訪ねてきた八柳。「ボランティアはこの新宿を中心に協力者のネットワークを広げているようです。ただ、どういう輩で構成されているのかも、どういう拠点を持っているのかも分からない」とぼやく飯山に、「監察の豊角警視が内々に動いて阿川警部補を現場に戻す考えがあるそうです。あえてだと思います。豊角さんの真意は掴みかねまsが、あの人が4年前の誤訳事件を終わったものと考えていないことは確かです。私の中でもまだ終わっていない」と告げる八柳。
「鴻田さんはどうして警察官になったんですか?」と問う有木野に、「8年前に代々木通り魔事件ってあったの覚えてる?実はあの現場に居合わせたんだよね。刃物を持った通り魔が赤ちゃんとお母さんに刃物を向けた瞬間に守らなきゃと思ったんだけど、自分に刃物を向けられたら身体が固まっちゃって…そしたら男性の警察官が現れて通り魔に体当りして助けてくれたの。”よく決めたね、立ち向かうって。誰にでもできることじゃない”ってその人が言ってくれて、だから誰かのことを守れる自分になろうってその日決めて、警察官になることにしたの」と鴻田は笑います。有木野は「ちょっと酔ったな」と言うなり、足早に帰ってしまいます。
8年前、八柳は刃物を持った男に襲われ、路上で血まみれに。駆けつけた有木野に「刃物 男 駅方向!」と叫びます。応援を呼びながら、男を追う有木野。織田も有木野の応援要請を聞き、現場に向かいます。
母子にナイフを振り上げる男の前に立ちはだかった鴻田。その瞬間、彼女の脳裏にはスヒョンが覚悟を決めて真っ白なキャンパスに落とした海の色が広がっていました。
鴻田を助けたのは、織田。それまで冷静だった織田は、有木野の制服に血がついているのを見て、「あいつに何しやがった!」と犯人に馬乗りになり激怒します。
その晩、織田は「俺は警察官失格なんだ。八柳先輩は本物の警察官だよ。3箇所も刺されたのに拳銃を渡さなかった。なのに俺は血まみれのお前を見た瞬間に切れちゃって、それが八柳さんの血だと分かった時に思ったんだ。よかったって…。了、俺は本当にお前の邪魔をしたくない。でも駄目で…お前が大事なんだ。他の誰よりも。ごめん…」と有木野を抱きしめます。
有木野は夜の街を歩いていると誰かにぶつかり、歩き出します。ぶつかったのは、阿川博也警部補です。同じ頃、鴻田は故郷で買ったチマチョゴリを着た明太子のゆるキャラのキーホルダーが突然切れたため、不穏な気配を感じていました。
第7話 神様とバディ
<あらすじ>
鴻田麻里のいる国際捜査係に新たな刑事・阿川博也が着任する。
阿川と“相棒”を組むように言われた鴻田は当初戸惑うが、中国人コミュニティに広い人脈があり情報をすぐ手にできる阿川の力を尊敬する。
だが阿川は3年前の誤訳事件を引き起こした張本人で、事件後亡くなった織田覚という警察官を相棒にしていたことが分かる。
馬おばちゃんから「胃の合う二人は良い二人!これで彼氏と元気出しな!」と背中を押される鴻田。SATORUと書かれたネームタグを握り、「覚…」とつぶやく有木野。
ボランティアの監取りに行ってくると言う杓野に、鴻田と一緒に行けと言いながら挙動不審な飯山。今日から阿川が東新宿署国際捜査係に復帰するようです。
王建斌の勤めていた青島化成の工場に着いた杓野に合流する鴻田。青島化成の従業員であるリン・モンチに「一緒にランチ食べよう」と鴻田は声を掛けますが、「ボランティアのことについては話したくない」と拒絶されてしまいます。どうにか自分の名刺を彼女に握らせる鴻田。杓野はリン・モンチだけがボランティアへの手がかりなのだと言います。
阿川は鴻田と今日から相棒になるようです。阿川の前任地は新橋西署の地域課で、その前は上麻布署の国際捜査課にいて中国語にも堪能だと紹介する飯山。
捜査会議で課長が「三井班には引き続き近隣の商店街でタタキをしている被疑者の潜伏先の地取りをお願いします」と指示していく中、阿川は勝手に抜け出してしまいます。「この帳簿は刑事課の仕切りで、俺らは数合わせだよ。みんなで会議より地元のつてを頼った方が早い」と言うと、阿川は知り合いの中国人たちに「コンビニでタタキをやってる二人組なんだが…」と写真を見せます。「彼らは上海、被疑者連中は東北部出身だろ。連中は仲が悪いから情報を教えてくれるんだ。中国人と一括りに考えちゃいけない。地方ごとに言葉も違うし、育った環境もまるで違うから」と言う阿川は、「潜伏先には行かない。帳簿に情報あげとけ。刑事課に花を持たせてやらないとな」と鴻田に指示を出します。
織田の写真を見つめる有木野。鴻田が阿川の話をしようとしますが、「忙しいので」と足早に立ち去ってしまいます。
「その場にマリリンがいたとはね。それから彼女と話した?マリリンも君に線を引かれてるのを分かってて接してくれてるんだと思うよ。そんな相手はそうそういないと思うけどね」と言う張。そこに鴻田が現れ、張は買い出しに行ってしまいます。「本庁がボランティアについてちゃんと調べてくれるなら私も何もしないけど、モンチさんは警察を嫌がって何も話してくれないの。アリキーノは手伝ってくれない?手伝ってくれないなら阿川さんに頼むけど」と愚痴る鴻田に、有木野は「あいつのことは信じないでください」と詰め寄ります。
阿川の携帯にシウから電話が。「阿川さんが出世してくれるなら俺も嬉しいな。立場がある人間は口が堅くなるからね。また一緒に稼ごうよ。近いうちに連絡するね」と言うなり、シウは電話を切ってしまいます。
警視庁の豊角監察官に会いに来た有木野は、「阿川が復帰するって何で教えてくれなかったんですか?」と問い詰めますが、「今回はあくまで通常の人事異動だ。私自身は阿川のマークを外したわけじゃない。今度こそ調査して尻尾を掴む」とかわします。「4年前、本庁は俺の報告書を客観的証拠に欠けると言って握りつぶしたんですよ。あの時は罪を問えなかったのになんで今になって…」と困惑する有木野に、豊角は「新宿で起きたボランティアの事件、4年前に阿川が関わっていた事案と似たにおいがする。ボランティアが動けば阿川も動くかもしれない」と返します。「どうやって調査するつもりですか?また相棒をスパイに仕立て上げるつもりですか?織田の時のように。もし鴻田さんを巻き込んだら今度は許さないですよ」と静かに激昂する有木野。
「新大久保にはいろんな神様がいるよな。これだけいろんな国の飯があるんだからさ。心から信じられるものがあるのは強えよ」と言う阿川に、鴻田は「ボランティアって知ってます?具体的なことは分からないんですけど、やってることの規模を考えると組織によるものかと思ってます。王建斌さんのようにオーバーステイの人たちを大陸に渡らせて人身売買組織に売り渡して報酬を得る。運び屋もやらせれば一石二鳥です。ボランティアがいつから日本で活動し始めたかはわかりませんが、既に相当な数の犠牲者が出ている可能性もあります。一刻も早く全貌を明らかにしないと」と言います。阿川はボランティアについては何も知らないと白を切り、「本庁は動かないだろうな。被害者の顔が見えないからだ。不法滞在者はそもそも日本に住むことが許されていない存在だ。オーバーステイのレン中がどうなろうが日本の一般市民には関係ないからな」と切り捨てます。
リン・モンチは「ボランティアのこと、話すの難しい。上麻布署の織田さん連れてきて。織田さんになら話す。他の人は駄目」と鴻田に電話すると、すぐに切ってしまいます。上麻布署の織田を知っているかと鴻田が阿川に尋ねると。「織田は死んだよ。4年前に」と言われます。
「代々木通り魔事件 犯人を現行犯逮捕 警察官3人が警察庁長官賞を受賞」というニュースに八柳、有木野、織田が載っているのを見つける鴻田。鴻田は八柳を呼び出し、なぜ織田が死んだのかを尋ねます。「織田さんとは卒配先で上司と部下の間柄だったと知って…。私は代々木通り魔事件で織田さんに助けてもらったんです」と鴻田が言うと、「上麻布署の刑事が取り調べや事情聴取で大量の誤訳をかましていたのを有木野が垂れ込んだって噂は知ってるだろ。ある中国人の被告の弁護士が警察の通訳内容に疑問を持って取調べ中の録音記録を出せと公判で要求した。上麻布署は記録は録っていないと回答したが、実際のところは音声記録は存在したんだ。その音声の一部が週刊誌に流出して誤訳が明るみになった。その記事に名前が挙がってマスコミに叩かれた刑事が2人いる。1人は取り調べ通訳を担当していた阿川警部補、もう1人はその相棒だった織田覚だ。記事が出た1週間後、織田は自殺した。有木野が他人と距離を置くようになった理由は分かるだろ。あいつは警察で蛇蝎のごとく嫌われてる」と言う八柳。「でもどうしてアリキーノが情報漏洩者だと疑われるんですか?誤訳とアリキーノに何の関係が?」と困惑する鴻田に、八柳は「当時上麻布署の警備課だった有木野は監察官の豊角さんに要請されて阿川の内偵に強力してたらしい。内情を知ってるやつで疑わしいのは、もう残った有木野しかいないってことだよ」と返します。
東新宿署内で阿川に会った有木野は「また繰り返すのか」と吐き捨てます。睨みつけ、無視する阿川。
鴻田に4年前の事件について聞かれ、阿川は「誤訳はどうしたって起こるものなんだ」と開き直ります。鴻田は「重要なのは誤訳に気づいた時、ミスを認めて通訳内容を修正できるかどうかですよね」と言います。「俺があの件で現場を外れたのは当然だが、こうやって戻ってこれたのは神様が最後にチャンスをくれたのかもしれないな。この年になると自分が登れる最後の山が見えてくるんだよ」と笑う阿川。「相棒として俺を信じるかどうか、お前は迷ってるんだろ」と阿川に言われる鴻田。
織田の妹・綾に会いに行き、彼の遺品を見せてもらうことに。実家にある遺品は彼の母が「見るのは辛いから」と処分してしまったそうです。携帯は警察から没収されて戻ってこないらしく、「SDカードが見当たらないとかで遺品にないかと何度も聞かれました」と言う綾。ライターが入っているところからして、彼は喫煙者だったようです。綾は、「兄は当時付き合っていた人の話は誰にもしなかった」と語ります。
八柳からの電話で顔面蒼白になる鴻田。有木野を呼び出します。リン・モンチが右頸部の動脈を一振りで殺されたらしく、「素人の犯行ではない」と八柳は判断します。鴻田は後には引けないと覚悟を決め、「モンチさんは上麻布署の織田さんにならボランティアのことを話してもいいといっていたの。アリキーノは織田さんと親しかったんだよね?記録を調べたら織田さんは5年前に風営法違反の件でモンチさんを取り調べてた。その時にモンチさんは織田さんを信頼したんだと思う。モンチさんが殺されたことと織田さんは関係しているかどうか明らかにするために、知りたいの。4年前、織田さんが亡くなった時にどんなことがあったのか。阿川さんがどんな人なのか。情報漏洩の真相についても」と言うと、鴻田は「でも私が一番知りたいのは、どうしてアリキーノがやってもいない情報漏洩者のふりをしてるかだよ!アリキーノがみんなから憎まれてるのはどうでもよくない!」と叫びます。「いつか鴻田さんに俺の過去のことを問い詰められると思ってました。織田が死んだ時、この件は俺が永久に埋めるってあいつに誓ったんです。これ以上、俺の過去に踏み込むのはやめてください」と淡々と言う有木野。
張に会いに来た鴻田。鴻田に差し出された有木野と織田のツーショット写真を見て、「ここの開店日に一緒に来てくれて」と懐かしそうに言う張。
仲間たちと再会を喜ぶ織田を横目に、タバコを吸う有木野。張は「あいつは意外と繊細だから大事にしろよ」と有木野にアドバイスします。
「アリキーノの過去にこだわって、アリキーノのことがどんどん分からなくなってる。織田さんとの間に何があったの?」と問う鴻田に、「幸せそうに見えても、二人の間に何が起きたかは分からないよ」と返す張。「それでもアリキーノのことを知りたい」と鴻田は食い下がります。
第8話 鳩とコインランドリー
<あらすじ>
2009年、織田覚は幼馴染の張柏傑らの不良グループとつるみ、荒んだ生活を送っていた。
少年課の警察官だった豊角に人生をやり直すことを諭されたのを機に、織田は警察官になる。
そして、有木野と運命の出会いを果たした…。
2012年代々木西署、「警察学校を出て同じ部署になるのは成績がいい奴と悪い奴って言うよな」という八柳に、「自分が悪い方です!」と元気よく手を挙げる織田。「なんで警察官になったの?」と織田に問われ、「どこかに属したかったから。俺はここでうまくやっていきたい」と答える有木野。
「覚と有木野さんの間に何があったか知りたいんでしょ?ここに行ってみな。俺の古い知り合いだよ」と「伊村美鈴」と書かれた名刺を差し出す張。鴻田が伊村に会いに行くと、「入管から帰って来る途中でバイジェから急に電話が来たんです。あなたに会ってほしいって」とにこやかに対応されます。「4年前の誤訳事件について法定で取り調べ調書の開示を求められましたよね」と言う鴻田に、「あの阿川の相棒って本当ですか?それならこちらにもリスクがあるので依頼者を守るためにもお話できません」と言う伊村。「あの事件とは無関係ではなく最近中国人の女性が殺されたんです」と事件について話してもらえるように頼む鴻田。「私が出会ってきた訪日外国人の皆さんは”いい人”でいようと緊張しながら生きています。肌の色や話す言葉が違うだけで差別され、命を落とした人もいます。私達弁護士はそういう人たちの言葉と思いを伝える責任があると思っています。私もリスクを背負ってお話します。これは警視庁で作成された報告書です。裁判の後、私が極秘に入手しました。隠し撮りした阿川の取り調べ映像を第三者が検証しています。報告書の結論には、一連の誤訳には作為的なものを感じると記載されています」と書類を差し出す伊村。「この詳細な報告書を作った方は?」と鴻田が田尋ねると、「わかりません。ただ、これほどの検証ができるとなると専門家でしょうね。例えば警視庁の中国語通訳人とか」と言う伊村。鴻田は有木野から拒絶されたことを思い出します。
「伊村さんはこの資料を誰から受け取ったんですか?継承の誰が情報を外部に漏洩したんですか?」と問う鴻田に、口ごもる伊村。「織田覚さんですね」と鴻田は断定します。
2020年、上麻布署国際捜査係では、阿川が違法な風俗店の共同経営の疑いで捕まったリン・モンチの取り調べを早々に終えます。「風俗嬢を斡旋してただけだから、明日には釈放になる。他の風俗嬢の奴らも送致しなくて大丈夫だろう」と彼はさっさと帰ってしまいます。織田はリン・モンチの取り調べを独自に行います。「あなたは前の夫と離婚して、配偶者ビザがそろそろ切れるようですね。違う仕事を早く見つけたほうがいいですよ。そうすれば滞在資格も取れますから。新しい人生を始めると決めることです。そうすればリンさんの人生がまた動き出し始めますよ。僕がそうでしたから」とリン・モンチを説得します。
清宮は「東新宿署の国際捜査係は殺人事件で大変よね。鴻田さんも有木野くんの助けが必要だろうね。持ちつ持たれつ、有木野くんも鴻田さんに頼ればいいんだよ」と淹れたてのコーヒーを渡します。
阿川はリウに連絡し、彼に促されるがまま、彼らの拠点に移動します。「ビジネスはどうだ?儲かってるか?」と問う阿川に、「在留カードも作り始めたよ。不法滞在の奴らに。それほしいって奴らがいたら横流ししてよ、地方の工場で仕事させるから」と言うリウに、「次の会合には俺も久々に顔を出すよ」と阿川は返します。リウは「それって本当か確認していい?俺らも久々だからね」と阿川の目の前で男が袋叩きにされて殺されます。「こいつ、バカだから警察にちくろうとしたんだ。あんたはそうじゃないよね?」とリウは微笑んで去っていきます。
青島化成の工場でリン・モンチについて聞き込みを行う鴻田。八柳からなぜリン・モンチの事件を嗅ぎ回っているのかと詰問され、鴻田は4年前の事件とリン・モンチの事件を関連付けてを捜査しているのだと打ち明けられません。八柳は「殺しの件は俺が仕切る。いいな?」と飯山と鴻田に命じます。飯山からも鴻田は「帳場に入っていないものがむやみに関係者に接触したら捜査に支障が出るんだよ」と説得されます。しかし飯山は鴻田にリン・モンチが殺される直前の監視カメラの映像を見せ、鴻田の推察を聞かせろと言います。
リン・モンチは「大丈夫、私は絶対に捕まらない。警察の弱みを握っているから」と生前同僚に話していたそうです。「そこにボランティアとの接点があるのでは…」と言う鴻田。
警察とボランティアに繋がりがあるのではないかと阿川にこぼす鴻田。「鳩は自分より身体の小さいものを攻撃するんだ。でも人間は鳩を平和の象徴だって言う。そうやって安心したいんだ。でもそういう思い込みが見誤らせる」と言う阿川に、「阿川さんは何かをしようとしてますか?ただの刑事の勘なんですが」と問う鴻田。阿川は考えすぎだと笑って立ち去ります。
「情報漏洩したのは織田さんだったんだね」と張に言う鴻田。「警視庁の豊角って知ってる?覚と俺は昔よくそいつに補導されてたんだよ」と思い出話をします。バイクを盗んで売ち、金を儲けていた張と織田。しかし金子とその連れに暴力で脅されて上前を撥ねられており、十分な儲けはほとんどありませんでした。
「たかがバイク一台って思うかもしれないが、止まらなくなるぞ。お前には落ちてほしくないんだ。立ち直って決められるかどうかはお前次第だ」と豊角に説得され、いつの間にか織田は警察官に。
張は「覚が阿川と組んで3ヶ月目くらい(2021年)かな。豊角に呼び出されたって珍しく悩みを口にしてたよ」と振り返ります。
豊角は「これまで阿川が関わった取り調べについて調査した。取り調べの録音・録画が行われていないケースが彼の場合ほかの捜査員と比較するとかなり多かった。理由はあくまでも被疑者自身が記録を拒否したためとなっているが、彼の通訳としての技量に疑念を抱いたことはなかったか?」と織田に問います。「阿川さんが自分の通訳の記録を残したくなくてわざと録画を録らせないようにしていると?」と困惑する織田に、「こんなことを頼めるのはお前しかいない。阿川の中国語通訳の正確性を検証したい」と盗撮カメラを設置するように豊角は頼みます。
中国人の窃盗犯であるリ・ホンヘイの取り調べをする阿川と織田。録画データを豊角に渡すと、織田は「検証結果は自分にも教えてもらえますか」と頼みますが、「内容次第だ」と言われます。
「監察官が一般の警察官を内偵に巻き込むなんて。それにいくら命令されたからって相棒を売るなんて織田さんがするとは思えない。内偵のこと、アリキーノには?」と困惑する鴻田。「大事に思うからこそ、言えなかったんだろうな」と言う張。
深夜のコインランドリーにふらりと立ち寄る有木野。
「昔から洗濯機が回ってるのを見るのが好きなんだ。落ち着くんだよ。…了、この先、何があってもどこにいても、俺がお前を守ってやるよ。約束する」と突然有木野に言う織田。「じゃあ頼むわ」と有木野は笑います。
豊角は有木野を呼び出すと、「有木野巡査部長、中国語が非常に堪能なようだな。これはある中国人被疑者の取り調べの録画記録だ。この内容について君の意見を聞きたい」と阿川と織田の取り調べ映像を見せます。「いくつか看過できない点があります。阿川警部補は誰に指示されて盗んだのかと質問しました。それに対して被疑者は”警察にボスのことを話したら殺される。あんたボスを知ってるだろ。礼はするからほかの同胞をボスってことにでっちあげてくれ”と応えています。しかし阿川警部補は書紀に対して、”誰かに頼まれて盗んだんですか”の質問に対し、”ブツの売却はほかの仲間の仕事だ。俺は知らん”と言ってる。これは訳し間違いではありません。明らかに意図をもって供述を捻じ曲げています」と言う有木野に、「全ての被疑者との会話を翻訳し、報告書にしてくれ」と指示する豊角。
有木野はコインランドリーで一人頭を抱え、苦しみます。
ぼんやりと公園の片隅に座り込む織田に、「お前何やってんだよ」と軽く声をかける有木野。「豊角さんが選んだ翻訳者はお前だったんだ」と苦しげに言う織田。「なんで監察の内偵なんかに手を貸したんだよ。お前の同僚に知られたらどうなると思う?監察に相棒を売ったって…」と注意する有木野に、「阿川さんの通訳はどうだった?仲間に知られたらどうこうはお前も同じだろ。了は警察でうまくやっていきたいって言ってたよな?なら監察に協力したことは周りには絶対知られちゃ駄目だよ。了はいつも寂しそうだから、せめて笑って孤独を癒せるように俺は隣を歩きたかった。これからも一緒に。でも、多分俺じゃ駄目なんだよな。もしこの先、お前が安心して生きられる世界へ手を差し伸べてくれる誰かに出会えたら、その手を振りほどかないでくれよ」と有木野の腕を握り、去っていく織田。呆然とする有木野。
伊村から「織田さんは阿川の相棒だったんですよね。取り調べをしていて何か違和感を感じたんじゃないですか?取り調べは録画されることも多々あるのに、阿川についてはまったくない。無茶なお願いをしていることは分かっていますが、どうしても必要なんです。本当に何も撮ってませんか?私の依頼人は取り調べでの阿川の誤訳が原因で無実の罪で起訴されました。冤罪です。私はこの世で最も憎むべき罪だと思っています。この国で必死にやり直そうとしていた彼らの人生を奪った…それを証明できるのはあなただけなんです」と言われ、織田は苦しみます。
週刊誌に阿川の誤訳のニュースが掲載され、豊角からそれを手渡された有木野は「なんでこんな記事が?」と困惑し、織田に何をしているのかと電話をかけます。「この方法しか思いつかなかったんだ。冤罪にかけられてる人たちを助けたかった。裁判で取り調べの違法性を立証しないといけないけど、データは違法に撮ったものだから法廷では使えない。マスコミに問題にしてもらうしかなかったんだよ」と織田は冷静に言います。
「さんざん目をかけてかわいがってやってたのに、恩を仇で返すとはな。盗撮とは恐れ入ったよ。そこまでやるかね、監察も!マスコミに垂れ込んだのはお前だな」と言う阿川に、織田は「先に裏切ったのは阿川さんでしょ。記事ではあなたのしたことの詳細にまでは踏み込んでいない。渡したのは音声のみ。それだけでも良かったのでは?」と返します。「リン・モンチの取り調べも録画してたのか?あれだけは監察に渡さないでくれないか。どのみち俺もお前もおしまいだ。情報漏えいしたお前も処分は免れない。世間は騒ぎを起こした俺達をあっという間に特定するだろうし、警察は仲間を売るやつを何より嫌う。でももしリン・モンチとのデータを俺に渡せば…」とゆする阿川に、「あの時彼女と何を話していたんですか?それをあなたの口から聞きたかったから、あのデータを出すのをやめたんです。あの時、あなたは明らかに動揺していた」と織田は答えます。「お前がどうしてもあのデータを表に出すって言うんなら…」と阿川は織田に近づき、耳打ちします。
何度も織田に電話をする有木野。八柳から「織田が死んだ」と電話をもらい、有木野は呆然とします。
歩道橋で一人涙する有木野に駆け寄る鴻田。「俺さ、織田と付き合ってた。俺はあいつを助けられなかった。あいつはバカで真っ直ぐなやつだったから、俺が守らなきゃいけなかった。ずっと話したかった。あんたにしか話せなくて」と言う有木野の腕を、鴻田は強く握りしめます。
第9話 Love and lettuce!
<あらすじ>
ついに有木野了は、いままで誰にも話さなかった最愛の人・織田覚について鴻田麻里に話し始める。
織田を失った悲しみと阿川博也と警察に対する恨みから、警察官を辞めて通訳人になった有木野の思いを理解し、未来をむく提案をする鴻田。
鴻田は阿川に、かつて犯した罪を突きつけるが、その翌日、阿川は鴻田に遺書のような自供書を書き、ボランティアの逮捕へと一人踏み出してしまう。
鴻田の家に招かれた有木野は部屋着を貸してもらい、リラックスモードに。鴻田は「どうして織田さんがやったことをかぶったの?」と問います。「疑いの目が織田じゃなくて俺に向けばいいと思った。あいつは俺のことを理解しようとして受け入れてくれた」と有木野は振り返ります。織田は「その方が了がいいなら警察を辞めたっていいんだよ」と生前言っていました。しかし、有木野はゲイであることを知られたくなかったのです。「もともと結婚とかそういう展望を持てないと思ってたからせめて警察ではうまくやっていきたいと思った。打ち明けられた時、俺は怖くなって、あいつを信じてあげられなかった。だから阿川の内偵のことを話せなかったんだと思う。俺は警察には未練はなかったけど、阿川のことは監視し続けようと思った。結局俺の中には怒りしかないんだよ。阿川と警察と織田を見捨てた自分への怒り…」と言う有木野に、「アリキーノは織田さんといた時、どんな顔してた?笑ってた?私は、人はたとえ目の前からいなくなってしまっても、残された全ての人の中でかけらとして残っていくと思ってるんだ」とスヒョンからもらった絵を見上げる鴻田。
「私も織田さんのことを知りたくて阿川さんとの過去を洗ったの。二人が最後に一緒に取り調べをしたのは織田さんが亡くなる10日前、週刊誌に記事が載る直前だったの。それで最後の取り調べの相手がリン・モンチさんだったんだ」と言う鴻田に、「俺はその取り調べの映像は見てない」と身を乗り出す有木野。「織田さんはその時の映像を監察には渡さず、自分で持ってるんじゃないかな?綾さんのところに行ってみよう」と鴻田は提案します。
杓野はボランティアの調査を進めていますが、歩きながら足跡を消しているような相手はなかなか捕まりません。
「統括が飯山さんから変わるらしいよ。本庁に行って国際の主任になるんだって」と噂話をする鴻田。「うちから一人連れて行っていいって話になったから」とスカウトされるものの、「今の感じ結構気に入ってるんだよね。みんなはこぼれかすって言うけど、そういう事件も諦めないでちゃんと調べて結果よかったなって。アリキーノと一緒にこぼれかすヒーローズになれたから理解できたことがたくさんあって。でも本庁に行ったらどうしても事件の規模が大きくなっちゃうでしょ」と悩む鴻田。「心のままに決めればいいんじゃないですか?大きな舞台に立つのは悪いことじゃないし、あなたにはその権利があると僕は思いますよ。少なくとも俺が知る限りあなたは最高の警察官だ」と背中を押す有木野。
綾の家を訪ねる二人。有木野を見て驚く綾。「俺があげたライター、きれいになってる」とライターを眺め回す有木野は、分解したライターの中からSDカードを見つけます。SDカードにはリン・モンチの取り調べの映像が入っていました。二人で動画を見ながら、「アリキーノ、リン・モンチさんは今何て言ったの?」と困惑する鴻田。有木野の表情が凍りつきます。有木野は豊角にSDカードを提出します。
「また会ったわね」「あんたもよく来るね」と言い合う阿川とリン・モンチ。リン・モンチは「私こんなところにいたくない。この前みたいに早く出してよ。そっちの織田さんは言葉が分からないでしょ。私は知ってるわよ。あんたがあいつと何をしてるか。まさか自分が何やってるか分かってなかったの?警察で捕まえた不法滞在者をわざと見逃してあいつに売り飛ばしてるんでしょ。いい仕事があるって。今まで何人売ったの?10人?20人?ボランティアに。警察のくせにとんだ人殺しね。ばらされたくなかったら早く出してよ」と阿川を脅します。
「織田さんが残した記録が見つかりました。彼が亡くなる10日前に録画された、リン・モンチさんの取り調べです。決定的な証拠…繋がってたんですね。ボランティアに。私は阿川さんも信じたかった。織田さんも同じです。罪を認めてください」と阿川に言う鴻田。
「お前と会ってから、この日は近いと思ってたんだ。この国は自分の意思を伝えられずに困難を抱えている人間が山程いる。俺はそういう人間を助けて国際捜査の刑事になった。彼らが陥ってしまう闇を理解しようと思った。他の刑事が絶対に得られない情報もつかめるようになったが、手段を選ばなくなった。金も人も渡した。そいつらがその先の人生でどうなるかなんてあえて想像もせずに。すまない」と言って阿川は立ち去ります。
「今回は間違いありません。出頭命令を出してください」とどこかに電話をする豊角。
翌朝、鴻田のデスクには阿川直筆の遺書のような自供書が置かれていました。慌てて駆け出す鴻田。
「鴻田麻里様、私はここに自らの罪を自供します。この手紙が読まれている頃には監察から私に出頭命令が下っているのだと思います。東新宿署国際捜査係への異動は私にとって人生をやり直せる最後のチャンスでした。でもあなたがボランティアを追っていると分かった時、結局自分の過ちからは逃れられないのだと悟りました」と阿川はつづります。
「あんたが阿川さんか。違法風俗のガサ入れで摘発した不法滞在者を入管に通報しないで俺にちょうだい。仕事を手伝ってくれる不法滞在者を探してるの。あんたは中国語が堪能だから、摘発する時に連中と直接話せるだろ?ほとんどの不法滞在者は故郷の家族のために金がほしいだけ。これは人助けだよ?多少見逃したところで日本の治安には何の影響もないさ。風俗嬢たちに日本人の配偶者がいると言わせるようにしてくれればいいだけ。こっちには東京と大陸をつなぐ裏社会のネットワークがある。日本の治安を願うあんたが一番ほしい情報をあげられると思うけどね」とシウは阿川をそそのかしたのでした。
「私がボランティアに引き渡した不法滞在者は47人。処刑台に送ったも同然です。そしてもう1人。私は織田巡査部長を脅迫しました」と阿川は書きます。
阿川は織田に「お前がデータを公表すれば、全部ばらす。警察に有木野との関係が知れ渡ったらどうなるだろうな?」と忠告しました。
「私のした行為がどれだけ織田巡査部長の心を壊していくのか想像もせずに。織田巡査部長が自ら選択した結末は、大切な相手を守るためのものだったと私は感じています。身勝手を承知で、私はずっとこの罪を抱え生きていくことが苦しかった。もう楽になりたいのです。ボランティアと私は罰を受けます」と、織田の墓参りをした後にシウに会いに行く阿川。
飯山は「うちのシマでこれから検挙を行う。10時に新大久保の雑居ビル。そこにボランティアの幹部が集まる。人数はおよそ4名。太良尾係長、その指揮を執ってくれ。阿川さんから今朝情報が上がった」と職員たちに言い渡します。杓野からの電話で鴻田も呼び出しを受けます。
阿川はシウに近づき、「ボランティアは終わりにしないか」と頼みます。シウは「残念だよ。あんただけはこっちと同じって思ってたのに」と言うなり、阿川の首をナイフで一閃。倒れ込む阿川を鴻田は抱きとめ、阿川は「もういいんだ…」と目をつぶります。シウはその場で捜査員たちに取り押さえられました。
病院で泣きじゃくる鴻田に近づき、抱きしめる有木野。「あの傷で生きているなんて信じられん」と困惑する飯山に、「鴻田が首に指を突っ込んで動脈を直接つまんで止血したらしいです」と困惑する杓野。
シウの取り調べをする八柳、有木野、鴻田。シウは「久しぶり。冷たいね、阿川さんは死んだ?」と有木野に中国語で話しかけます。「君はボランティアか?」と問う八柳に、「ボランティアの一人」と日本語で答えるシウ。「自分の犯した罪を分かってるのか?」と言う八柳に、「あんたらはどうなんだよ。だって僕みたいな奴、ずっとあんたら無視して生きてきたでしょ?社会に追いやられてこぼれ落ちた、かわいそうな人間を。僕以外にもたくさんいるの。この街で生きてる。あんたなら分かるよな?」と最後は有木野を見つめて言うシウ。「全員探し出そうなんて無理だよ」と言うシウに、「無理だとしても、どこに何人いても、探し続けるだけだ。俺たちはそう決めた」と答える有木野。シウは呆れます。
「私はあなたを許しません。多くの外国人や織田さんにしたことをあんな手紙で終わらせられると思ったんですか?あなたにはやるべきことがある。だからとっとと目を覚ましてください。待ってますから」と目を覚まさない阿川に話しかける鴻田。
「阿川警部補の自供書です。彼の取り調べ通訳の誤訳の真相やボランティアとの関わりについて書かれています。二人のことを誰かに共有しますか?」と豊角に自供書を差し出しながら問う鴻田。「監察が注目しているのはあくまで阿川と外国人犯罪者ボランティアとの癒着で、彼と同僚の間にあった個人的な関係ではない。これは今後私が責任を持って管理する。表に出ることはないだろう」と自供書を受け取る豊角。鴻田は深くお辞儀をします。
「ボランティアは事件については何か吐いたか?」と問う飯山に、「事件に関しては完全黙秘ですね」とため息をつく杓野。「リン・モンチを襲った切創と阿川を襲ったナイフが一致したそうですが、やつがプロの殺し屋なら自供させるのは難しいでしょうね」と言う太良尾。「だがこれでボランティアという人身売買組織が国内で活動していることは確定したな」と言う飯山に、太良尾は「これから本庁の国際は忙しくなりそうですね」といたわります。「優秀な人材が必要だな…」とぼやく飯山の視線の先には鴻田が。
「ボランティアの参考人聴取ではお世話になりました」と通訳人たちにバインミーをおごる鴻田。「大変なのはこれからですよ。ボランティアは多国籍な集団です。これからますます通訳人の仕事が増えるでしょうから、気を引き締めていかないと」と言う有木野。バインミーを頬張ります。
織田の墓にネームタグをさげたウイスキーとを供えながら、「カタがついたら通訳人をやめようと思ってたんだけど、今は力になりたいと思う人がいるから、もう少しやってみるよ。それでいいかな?覚、ありがとな」と言うと、有木野は立ち去ります。
「オンニ、私決めたよ」と絵に向かって話しかける鴻田。
「初日から遅刻するんじゃないかと思って迎えに来たんですよ」と鴻田を迎えに来た有木野が言います。新しい名刺を有木野に渡す鴻田。有木野は「まさか同じ職場になるとはね」と笑い、「私たちアレだね、馬おばちゃんが教えてくれたんだけど、賢い男と美貌の女のカップルっていうか…」と鴻田は言い淀みます。馬おばちゃんが「郎才女貌!」と助け舟を出します。有木野と一緒に楽しげに出勤する鴻田。
まとめ

破天荒な鴻田に振り回されながらも、鴻田の「こぼれ落ちた人々をすくい上げる」という情熱に影響され、変わっていく有木野の姿がとても面白かったです。
また、在日外国人がどんな問題や事件に直面しているのかを身近に感じられて、自分が普段見ることのできない孤独や悲しみ、苦労を知ることができたのは本当に素晴らしい経験でした。シーズン2、3とぜひとも続いてほしい作品です!!

一番好きだったのは、王建斌の事件ですね。2話まるまる使って丁寧に描かれていたので、すごく感情移入できました。戸籍を売るという話を聞いたことはあってもリアルに想像したことはなかったので、どういう問題に直面した人が戸籍を売るのか、戸籍を売った後どんなことに利用されるのかの一例を知られて、同じ世界で生きているのに自分は全くの無知なのだと思い知らされました。中国で子どもがそれほど多く誘拐されているという現実も知らず、勉強になることが多い回でした。

最後に鴻田に「カップル」って言わせる必要、ありました?無理に異性愛要素を入れた感じがあって、すごく気持ち悪かったです。有木野と鴻田は恋愛感情のないバディ、それで良かったのに。
有木野と織田に関する性的指向の描写が弱いと感じましたが、実際に当事者の方々に監修していただいているとのことで、それに関してはすごく好感が持てました。とはいえ、監修していただいているならもっと突っ込んで描いてほしかったという不満も残ります。
今回3人が見た「東京サラダボウル-国際捜査事件簿-」は、Amazonプライムビデオで無料視聴できます。
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