八十庭たづ先生「はなれがたいけもの」シリーズを読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
<あらすじ>
彼は獣人の王で、ディリヤは敵国の兵士…でも、たった一夜の契りで、愛を体に教えこまれた。
戦争中の、一度きりの出会いと別れで終わらせたはずの関係だったが、ディリヤのお腹には子供が宿っていた。
王の子であることは秘密にして息子のアシュを一人で産み、育てていたディリヤの前に、ディリヤを探し求めていた雄が現れる!
こんな人におすすめ
- あったか家族BLが読みたい!可愛いショタに癒されたい!
- 半獣モノ、モフモフした攻めが好き🐺❤️
- ファンタジーBLが好き🧙♀️✨
ネタバレ感想
はなれがたいけもの
獣人の王・スルドを暗殺するために送り込まれたディリヤ(受け)は彼の影武者だった、弟ユドハ(攻め)に愛され孕んでしまうも、彼の子・アシュを一人で育ててきた。しかし、戦争で死んだスルドの代わりにユドハが二人を守ろうとしてくれ…というお話です。
飄々としているディリヤの性格を掴みきれないまま終盤を迎えるんですが、そこから一気にユドハとディリヤの思惑が明らかになっていって、面白いです。
2人の子供、アシュが超天真爛漫で可愛くって…小さいお尻をぽんぽんナデナデさせて欲しいです…🐺🌸
最初は違和感があった語り口も読むほど馴染むので、文体で敬遠してる人はぜひチャレンジしてほしい…!!!👍✨
はなれがたいけもの(2)恋を知る
かつてディリヤが所属した「狼狩り」部隊の上官・エレギアに、ディリヤが拐われる。ユドハはディリヤを取り戻すべく、単身で敵中に潜入するが…というお話です。
序盤では、アシュ、そしてジジとララというアシュの双子の弟たちを優しくも厳しくしつけるディリアや、改めておたがいへの溢れんばかりの愛情を確かめ合うユドハとディリアの甘々な日々が描かれます。
がらりと空気が変わるのは中盤以降。父がゴーネ帝国の元帥であるエレギアの狙いは、ユドハの治めるウルカ国の失墜です。帝国を牛耳る元帥派と彼らの政策を快く思わない若手将校たち、ユドハに失脚させられた太皇太后一派、「狼狩り」に対する遺恨を持つ者たちが絡まりあって進みますが、最後は無事にディリアが救出されます。
最後にエレギアが自分の魂の番と言って憚らない相手との小話が、収録されています。スピンオフ希望の声が多い、人気カプです。
一番好きだったのは、人は獣人より寿命が短いから先に死んでしまうとユドハに教えられるアシュのシーン。アシュはディリアに死んでほしくなくて子ども返りしてしまうのですが、ユドハは淡々とアシュを諭して「ディリアがアシュを誇らしく思うような生き方をしなさい」と教えるんですね。幼いながらに懸命に理解しようとするアシュが愛おしかったです。
はなれがたいけもの(3)心を許す
ユドハと彼の姉・エドナが父のように慕う老師・コウラン。死期迫る彼と亡命中の姫・キリーシャ(リルニック宰相の末娘)は、突如リルニックへと攫われてしまう。ユドハとディリヤは力を合わせて、二人を救うために動き出し…というお話です。
リルニック宰相と宰相の継承問題、リルニックとウルカの国際問題はかなりシリアスに展開します。
しかしそれ以上に見どころなのが、ディリヤがユドハへの自己犠牲的な愛情表現を考え直し、少しずつ家族以外に心を許せる人間を増やしているところ。また、一人では感じ得なかった不安や恐れに気づき、それを飲み込み、受け入れて強くなっていくところです。ある意味で心を麻痺させていたからこそ最強だったディリヤが、少しずつ迷いや弱さを知っていく姿は人間味があって愛おしかったです。
はなれがたいけもの(4)かわいいほん
雑誌「小説ビーボーイ」に収録された単話に始まり、既刊の書店特典、八十庭先生がSNSでアップされた小話、ムーンライトノベルスでアップされた小話、さらに書き下ろし、とバラエティに富んだ短編集です。
前日譚
SNS発表作。ディリヤとアシュが2人暮らしをしていた時のお話です。
あなたに捧げるもの
雑誌掲載作。ディリヤが双子を産んで半年後のお話です。
アシュのかわいいおはなし
SNS発表作、ムーンラインノベルズ発表作、コミコミ特典
短編5本です。アシュの日常のお話。
私の悲嘆に暮れた悲しみの心
SNS発表作
ディリヤが戦士だった頃のお話です。
ただ生きて死ぬことだけ考えているディリヤをみているだけで、こちらまで胸が苦しくなります。だからこそ、ユドハと愛する子どもたちと過ごす今の日々が尊い。ユドハがディリヤをありのまま受け入れて愛してる姿に感動します。
殿下のつがいの可愛い話
SNS発表作、ムーンラインノベルズ発表作
短編5本です。ディリヤの日常のお話です。
さがして、みつけて
書き下ろし
ディリヤが趣味を見つけるお話です。前作「はなれがたいけもの 心を許す」のその後が描かれています。ユドハの護衛官として働き始めたディリヤの活躍と、ディリヤが人々の心を掴んでいく様子が描かれていて嬉しくなります。
かわいげのないひと
書き下ろし
エレギアとフェイヌのお話です。エレギア視点なのが意外で良かったです。
かわいいひとたちについて
書き下ろし
少しだけ未来のアシュのお話です。
はなれがたいけもの(5)想い交わる
ユドハの恩師の旅に同行したエドナの護衛として帯同するディリヤ、アシュ。戦争が終わって8年、中立都市は活気に溢れているが、その分犯罪も横行していた。都督の母親から賭博所に監禁状態となっている女性の救出を依頼され、ディリヤはそこで同じアスリフ族のイェヒテと再会するが…というお話です。
与都でのディリヤとエドナとライコウの活躍劇に始まり、終盤のイェヒテを巻き込んでのユドハとディリヤの共闘には大興奮でした。アシュも今作では同じ年の男の子が登場して、いい刺激になったように思います。
そして最後は、ディリヤが記憶を失うという大変なことに…一体どうなるのか…。
はなれがたいけもの(6)キラキラのほん
「かわいいほん」と同じく、雑誌掲載作、ムーンライトノベルズやSNSで発表された短編、書き下ろしが収録されています。
目には見えぬ恋文を
雑誌掲載作
ユドハとディリヤが国内の視察に行き、お留守番中のアシュが頑張るお話です。
アシュのキラキラ
「アシュとユドハのふだあわせ」SNS発表作
「よく似た親子」SNS発表作
「ぐるぐるまきの仔狼」SNS発表作
「でも好きなものはいっしょ」SNS発表作
「どうぞやわらかな夢を」SNS発表作
「ごろごろどろどろ」SNS発表作
「三人でちょつとづつ」SNS発表作、ムーンライトノベルズ掲載作加筆修正
ディリヤのキラキラ
「幸せは驚きの連続」アニメイト特典
「愛しいものはすべてこの腕に」アニメイト特典
「これは狼のおとぎ話」コミコミスタジオ特典
「とりこ」SNS発表作
「かもしれない」SNS発表作
光と宝石
書き下ろし
ユドハの親友が赴任先から一時帰還するお話です。
どれが欠けてもきらめかぬ
書き下ろし
春の日にアシュがお湯遊びかるお話
はなれがたいけもの(7)想いは通う
ディリヤは実父に毒を盛られ、16才からの9年間の記憶を失ってしまう。混乱するディリヤは東の地へ向かい、ユドハは彼を追うが…というお話です。
記憶を失ったディリヤに根気強く付き合い愛を伝え続けるユドハに感動します。そして、記憶を取り戻したディリヤは記憶を失う前の彼より少し粗暴で、ある意味彼らしさを取り戻します。その素っ気なさがむしろ、「良い伴侶」「良い親」であろうと張り詰めていたディリヤから緊張を取ってくれたような感じがして好ましいです。
ディリヤの実父はなぜ息子に毒を盛ったのか、ディリヤが助けた兄弟はどうなるのか、まだまだ謎は深まるばかりです。
はなれがたいけもの(8)君に触れる
2〜3年後にアシュが就学予定の学舎検討の一環で学園都市パトラを訪れたディリヤ。今回アシュはシーラ学舎で楽しい生活を送るも、学舎を治めるクラマシラ家の令嬢が人間の間にもうけた隠し子・ユジュを偶然見つけてしまい…というお話です。
アシュの健やかな成長っぷりは威風堂々とした姿で群れを引っ張るユドハの姿に重なります。いつかはこうして金狼族の王様として人々の上に君臨するのかなと思うと、なんだかまだまだ赤ちゃんだったアシュがこんなに大きくなって…と感慨深くなってしまいます。
同時収録の「金屏風と銀屏風」は、なんと10年後のアシュとユジュのお話です。「今後も時折こんな雰囲気で、彼らの未来のお話を短編で見せたい」とせんせいがあとがきに書いておられたのですが、実際の未来とは違うのかな?
はなれがたいけもの(9)ふわふわなほん
「かわいいほん」「キラキラのほん」に続いて、「ふわふわ」をテーマにした短編集。本編の幕間的なお話を収録していて、同人誌やSNSで発表されたお話に加えて、書き下ろし新作も収録されています。
もうすぐ会えるね
ウルカ国の王都近くの湖水地方。夕暮れ時に幼児をあやしていた狼獣人の女性は、フードで顔を隠すディリヤに出会います。身重なディリヤに「行くところがないんじゃないの」と声をかけ、生姜湯を飲んでいけと世話を焼いてくれる女性。ディリヤは彼女をきっかけに村人に受け入れられていき…というお話です。
アシュの出産とユドハがディリヤを迎えに来るまでがつづられているんですが、たった一人で生き抜いてきたディリヤが人を頼るのはとても勇気がいっただろうな…と思うし、声をかけてくれた狼獣人の女性もまだ戦争からさほど時間が経っていなくて人間への不審感はあっただろうに声をかけてくれて優しいな…とも思うし、ディリヤが奇跡的に周りに恵まれてアシュを産んで育てられたことは改めてすごいことだったんだなと噛み締めます。
おまけのふわふわ
同人誌収録作
アシュが湖水地方の友人達と会うお話です。
おんなじにおい
書き下ろし
ユジュがともに暮らし始めて2か月後のお話です。
君とはじめる第一歩
短編6本です。
ひそやかにおおっぴら…書き下ろし
おんみつこうどう…SNSにて発表
アシュだだをこねる…SNSにて発表
ディリヤのつくろいもの…SNSにて発表
えどなちゃんと!…書き下ろし
エドナちゃんとお菓子作りするアシュは当然かわいいんですが、ユジュもララもジジも全員かわいい〜!!悶絶します。
たてがみのはなし2…SNSにて発表
コミカライズ版もあります♥️
はなれがたいけもの
原作小説と同じく、「はなれがたいけもの」をぎゅっと凝縮したコミカライズになっています。原作との違いは、小説よりもやや雰囲気が明るいこと。息が詰まるようなシリアスな場面が、闘争感を煽られるワクワクするような描き方になっていました。
原作通りアシュがとてもとてもかわいいのも嬉しいところでした☺️👍️✨️
はなれがたいけもの 恋を知る
原作のボリュームがかなりあるので、やや急いた印象を持たれた読者の方もおられたようです。たしかにやや内容は圧縮されていたのですが、原作の重要な部分をちゃんと取りこぼさず拾ってくださっているなと感じました。
原作挿絵の佐々木久美子先生の絵は一枚一枚に迫力がある感じですが、鳥海よう子先生の絵はしなやかで可愛らしい感じがします。だからか、ディリヤやアシュの柔らかい表情がすごく印象的でした。
今作で一番グッときたのは、原作と同じくアシュが人間と金狼族との寿命の違いについてユドハに教えてもらうシーンでした。
まとめ
王道獣人家族モノかと思いきや、巻を追うごとに他国、他部族との政争なども浮き彫りになってきます。ほんわか優しい家族パートと、血なまぐさいスリル溢れる戦いのパート。その2つがうまく融合しているのが「はなれがたいけもの」シリーズだと思います。
時折、読み聞かせのような短文の羅列が続く、面白い文体です。
八十庭先生の文章はとても魅力があり、かなり特徴的な文体です。時折、読み聞かせのような短文の羅列が続くので、最初は読みづらいと感じるかもしれません。しかし、読んでいくほどこれがクセになるんですね。
また、ファンタジーでありながらキャラクターの生き方がとてもリアルで、そこにも感情移入させられます。特にひとりで生きてきたディリヤの半生は、孤高の気高さと愛息アシュへの愛に満ちていて、読めば読むほど愛おしさが増します。
八十庭先生は、本作がデビュー作。いつまでも続いてほしい名シリーズです!📖✨️