さとむら緑先生「雨は悄然と降っている」のネタバレ感想です。
これまで出会ったBL小説の中でも、マイベスト5に入る素晴らしい作品でした。
BL小説好きなら、絶対絶対一度は読んでほしい名作です。
登場人物とあらすじ
無口な作家×お調子者の会社員 元高校同級生、親友同士のお話。
<あらすじ>
婚約者に家を追い出され、途方に暮れていた雄一朗(受け)は偶然、同級生で小説家になった守屋要(攻め)と再会する。
渡りに船、とばかりに守屋の家に転がり込み、そのまま居候生活を始めた雄一朗。
だが、何事にも無関心に生きている守屋を知り、いつしか昔のように彼から必要とされたいと思うようになって…。
こういう人におすすめ
①丁寧な心理描写・情景描写が好き
しっとりした情景描写がすばらしい作品です。
登場人物たちの細やかな心の動きと彼らの生きる世界の風景を、鮮やかに表現しています。
特に私が好きなのは雨の描写です。
タイトルに「雨」が入っているとおり、本作は雨の描写が頻繁に出てきます。
しとしとと降ったり、何もかもを洗い流すように激しく降ったり。
登場人物たちの心情を表すように降る雨は表情豊かで、読んでいるだけで雨の音・香り・湿度が伝わってくるようです。
②純文学、小説が好き
普段小説を読まない人でも分かりやすい、読みやすい。
難しい言葉を使わず、一文一文も長くないのでサクサク読めます。なのに、全く簡素に感じません。
整然とした構成、ドラマチックな見せ場、読みやすい言葉…名作と呼ばれる小説に必要なものすべてがぎゅっと詰まっている作品です。
普段小説を読み慣れていない人にも読みやすいし、普段小説を読み慣れている人はさらに、この作品の稀有さに感動するはずです。
③平凡な日常から、ふと非日常が始まるようなお話が好き
ある日突然王子様が目の前にあらわれる…そんな妄想を、一度はしたことがありませんか。
つらい現実を、まるごと全部ひっくり返してしまうような大事件が突然起きる…それってとっても魅力的で、ドキドキして、最高じゃないですか?
平凡でお人好しなサラリーマン、雄一朗の日々をがらりと変えた、守屋。
有名作家で、料理ができて、かっこよくて…でも、何か心に傷を抱えている昔の親友。
これだけでもドキドキしてきませんか?
本作を読んで、あなたの日常をがらりと変えてみませんか。
感想
デビュー作で…この完成度…あまりの才能に絶句しました。
お調子者の雄一朗は、誰かに必要とされなければ生きる意味がないという強迫観念を持っている。
一方、いつも一人で本を読んでいる守屋は、人の絆の脆さに、嫌気や恐怖を感じている。
読むほど、他人を信じ、愛し、共に生きることはこんなにも心揺さぶるものなのかと感動させられます。
整然とした文章の中で、愛に飢え、雨に濡れ、男たちが泥臭く生きていました。
言葉一つ一つから体温が感じられるようです。なんて素敵な文章だろうか…。
読後、雨上がりのような清々しさが四肢に染み渡るのを感じます。
日々の疲れで曇り淀んでいた心が雨に洗われ、虹がかかったような爽やかさに包まれます…。
BL小説を読んで、こんなに清々しい気持ちになったのは初めてです。
すばらしい名作。これぞ文学!!
まとめ
「誰かに必要とされないと自分は生きている意味がない」と思う人は多いですよね。
守屋のように「人を信じるのが怖い、孤独に慣れた方が楽だ」と思う人も、同じく多いのではないでしょうか。
どちらの弱さも、気持ちの変遷もわかるからこそ、読みながらとても苦しかったです。
2人は分かり合える日が来るのか、共に歩める日が来るのか、何が2人にとって幸せなのか分からなかったけど、守屋の一歩踏み出す決意が2人の未来を変えましたね。かっこいい、守屋。
雨の描写が印象的で、青っぽいあの雨の香りを想像しながら読むとたまらない気持ちになりました。
すばらしい。それ以外の言葉が見つかりません。
ぜひ、騙されたと思って読んでみてください。