風見香帆先生「愛しい傷にくちづけを」を読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
<あらすじ>
高校生のミナトは母親の再婚によって、血の繋がらない義兄の弘秋と暮らすことになった。
最初は、きっちりした性格の自分とは違う楽観的な弘秋の性格に、苛立ちを募らせていたが、お互いへの苛々をぶつけあったのがきっかけで仲良くなり、今では悩みを打ち明ける仲にまでなった。
そんなある日、弘秋から恋愛相談をされていたミナトは、彼から突然「キスをしてみないか」と言われ、執拗なキスをされる。
こんな人におすすめ
- 義兄弟ものが好き👬
- 正反対の攻めと受けが惹かれ合うさまを見たい🥺
- 頑固な真面目受けが好き👓
ネタバレ感想
本作には、表題作の「愛しい傷にくちづけを」と番外編「きみとここから」が収録されています。
各話感想を、以下書いていきます!
愛しい傷にくちづけを
序盤はすごく平和だったんです。生真面目な受け・ミナトが母の再婚相手の連れ子である、自由人な攻め・弘秋とちょこちょこ喧嘩しつつも、仲を深めていって…。
しかも弘秋はミナトに「仲良い奴はみんなやってるから」なんて嘘をついてまでキスをしようとしたりして。そんでもって、ミナトもキスされても意外と弘秋に嫌悪感を抱いてない自分に驚いたりして。
甘酸っぱい…!このまま学生時代に結ばれて、ずーっとラブラブなのかな?なんて思ってました。中盤に入るまでは。
中盤からはがらりと雰囲気が変わります。暗黒時代です。弘秋はそれはもう顔も性格も良いし老若男女問わずモテまくる男なんですが、唯一欠点があって、「自分にも他人にも素直すぎる」ところなんですよね。そのせいで、弘秋に振られた女子生徒が「あんたのせいで振られた」とミナトを逆恨みし、ゲイの不良仲間にミナトをレイプさせるんです。弘秋は彼女を振る時にミナトの名前を出してたんですね…なんてことだ…。
もうここからが本当に辛すぎる。ミナトのレイプシーンはかなりぼかして書いてあるので読んでてそこまで「痛い」「辛い」とは思わなかったんですが(レイプシーンの生々しい描写で言えば、木原音瀬先生や樋口美沙緒先生は相当エグいです)、レイプされた後のミナトがかなり痛々しいです。
性的暴行の被害者の方々を私は身近に知っているわけではありませんが、本当にこんなふうになるのではと思うほどリアルな描写がなされています。
ミナトはレイプをきっかけに外に出るとパニックを起こしてしまうようになり、大学に通えなくなります。医者にレイプの話をするのも辛く、治療を受けることもできません。どうにか6年間必死で自力でリハビリし、家の中(と、家に繋がっている父がシェフを務めるレストラン)にのみ顔を出せるようになります。
そして義父が倒れたことをきっかけに外国へ料理修行に出ていた弘秋が帰国し、ミナトが働くレストランで共に働くことになるんですが…そうなると「なぜミナトが家から出られないのか」を説明しなきゃいけないわけです。
でも、ミナトは弘秋が家族を深く愛していることを知っているから、自分が彼に片想いしていた少女をきっかけにレイプされたと言えば黙っていない…それどころか報復に向かうだろうと分かっているので、家から出られないこともその理由も言えないんです。けれど弘秋は何も知らないので、なぜ自分に隠し事をするんだとミナトを激しく非難するんですね…。ミナトはどんどん追い詰められます。
ミナトは徹頭徹尾本当に”良い子”で…懸命に我慢するんですよ。自分さえ我慢すればみんなが幸せでいられると信じきっていて、どんなに苦しくても絶対弱音を吐こうとしないんです。それが逆に彼を愛する家族を苦しめていると分からないんですね…。
そんな鈍さ、不器用さは、ミナトが母子家庭で育ち、「自分が弟の父代わりにならねば」という責任感から生まれたとのだと思うのですが、どんな罵詈雑言や孤独や苦しみにも一人で歯を食いしばり耐えるミナトを見ていると、「もっと周囲に甘えていんだよ」と抱きしめたくなります。辛い。
ミナトはかつて弘秋にキスされた時からずっと彼のことが好きなので、非難されるほど心がすり減って、食事も睡眠もろくにとれないくらい憔悴してしまうんです。
弘秋はそれにも気づかず、果てには自分の兄・涼司とミナトがデキていると勘違いしてミナトを突き放し家出しようとするんですが、ミナトが慌てて弘秋を追いかけようとして外に出た瞬間パニックを起こしたため、やっと全ての秘密が明らかになります。
私もですが、多くの読者はきっとこの長い長いミナトの苦しみにやっと終止符が打たれたと涙したはずです…😭
少なくとも私は、何も言わないミナトのことを理解しろというのは難しい、けれど、なぜ弘秋はミナトに正面からしかぶつかれないのか。ミナトが全てを抱え込んでしまう性格なのをあなたは知っているはずでしょう…とやきもきし続けました。ミナトが全てをさらけ出せると分かった時、自然と安堵のため息がこぼれました…。
以下、私の好きな、ミナトに真実を打ち明けられた時に弘秋が言ったセリフです。
お前に、俺の気持ちがわかるか。心配でたまらねぇのに、どうすることもできない。大事なものが壊れそうなのに、すぐ近くにいるのに見ていることしか許されない。それがどれだけ辛くて虚しいか、想像も出来ねぇんだろ。
お前の我慢が、必ず他人のためになると信じているなら、それは手前勝手な勘違いだ。俺だけじゃねえ。良いか、よく聞けよ。お前を頭から除外して、自分だけの幸せを満喫できる人間は、この家にはいねえんだよ。
弘秋の「大事なものが壊れそうなのに」という言葉には涙が溢れました。弘秋もずっと6年間ミナトに片想いし続けていたんですが、弘秋も、いつまで経っても自分や家族を頼ってくれないミナトに心の距離を感じて辛かったんですよね…。
「お前の我慢が必ず他人のためになると信じているなら、それは手前勝手な勘違いだ」と断言するのもカッコいいです。ミナトは自分さえ辛いのを我慢すればみんなが幸せになると思っている節があるから、こうやってガツンと真正面から言ってくれるのは本当にありがたい…。ミナトもこの弘秋の言葉でハッと目が覚めます。
最後は、弘秋の手を借りてどうにかミナトら治療を受けられるようになり、庭にまではでられるようになります。
庭の外に出るのはまだ難しいけれど、ミナトは最後に「自分たちの前に花々の咲き乱れる道がはるか遠くまで続いているように思える」と言います。
家の中で生涯を終えるのだと沈みゆく泥船のように自分の人生を捉えていたミナトが、そんなふうに未来を捉えられるようになったのかと、読みながら感涙しました…。弘秋とミナトの未来が明るいものであることを、願ってやみません😭💐
ちなみに、ミナトをレイプした男と少女たちはその後もあれこれ悪さを繰り返して刑務所や薬物更生施設に入っているようなので、ある意味罰は受けているのかもしれません。
きみとここから
弘秋が兄の涼司と、ミナトの弟の玲に自分たちの関係をカミングアウトするお話です。
ミナトは最初「せっかく仲の良い家族なのに関係を壊したくない」と怯えていましたが、「愛し合ってる家族だからこそこんな大事なことは打ち明けるべきだ」と弘秋に説得されて言うことに。
涼司も玲も驚きはしましたが、すんなりと二人のことを受け入れてくれます。特に玲は大好きな兄が取られたような気持ちになり拗ねつつも、「ちゃんとお祝いしたかったのに!なんで夕食がカレーライスの日に言うかなあ!」と冷蔵庫にある食材で懸命にお祝いの献立を考えてくれます。かわいいねえ🍛
玲の用意してくれた食前酒と簡単な前菜を前にいざ四人は食卓につき、乾杯します。
ミナトを幸せにする俺と、俺を幸せにするミナト、それから俺たちを幸せにするお前らの幸せを祈って
と高らかに杯を掲げる弘秋。ミナトの笑顔が輝きます。
四人の兄弟が互いの幸せを祈り食事をする姿は神聖ささえ感じられて、私はあまりの幸福感に涙を抑えられませんでした…。多幸感に溢れた番外編です。
まとめ
母の再婚で兄弟になった、破天荒で自由人な弘秋とどうにも反りが合わない、生真面目なミナト。けれど、二人は喧嘩を重ねつつも惹かれあっていきます。弘秋に片想いする少女が不良たちをけしかけ、ミナトをレイプさせるまでは…。
ミナトのおぞましい心の傷は長年癒えませんでしたが、弘秋との数々の衝突を経て全ての秘密が明らかになり、二人は心も体も結ばれます。
性的暴行被害者の心の傷を丁寧に描いた本作は、圧倒的ハピエンを求める読者には少し辛いかもしれません。
けれど、どれだけ心と体に修復不可能なほどの深い傷をつけられても、家族と恋人がありのままのミナトを愛し支えてくれることで、彼は少しずつ日々にささやかな幸福を見出せるようになり、立ち上がっていきます。
ミナトという一人の傷だらけの人間が立ち上がり輝く未来を見据えて歩いていくさまは、さまざまな傷を抱えた読者の私たちに勇気を与えてくれます。
心を奮い立たせたい時、未来を見つめる勇気が欲しい時、誰かに頑張れと背中を押してほしい時、あなたはありのままでいいんだと抱きしめてほしい時、ぜひ本作を読んでほしいです。