Guilt | Pleasure「FATHER FIGURE」を読みました!
本作は、コミック「In These Words」シリーズの番外編(時系列的には「In These Words」より随分前)のお話です。「In These Words」の主人公・浅野がNY市警にいた頃に手がけた事件のお話です。
In These Wordsシリーズのネタバレ感想はこちら⬇️
浅野がNY市警の刑事デビットと付き合っていた頃のお話「He Came, After You Left In These Words外伝」のネタバレ感想はこちら⬇️
浅野がデビットと別れるきっかけとなったと推測される事件のお話は、「EQUILIBRIUM -均衡-」に描かれています。ネタバレ感想はこちら⬇️
本記事では、「FATHER FIGURE」の登場人物とあらすじ、どんな人におすすめなのかなど、ネタバレ感想とともにご紹介します。
登場人物とあらすじ
生き別れの父を監禁・暴行する息子×バツイチ子持ちの父親 のお話。
<あらすじ>
警察官であるガブリエルは、ある男を監禁する計画を立てていた。
男のために職場を変え、家を引っ越した。男に脅迫状を送り、差出人不明の脅迫状に困惑する「相談に乗る」と近づいて…そして、真冬のある夜、監禁計画を実行した。
ガブリエルが男と過ごした1週間、一体何が起こったのか?
大人気BLコミック「In These Words」シリーズ(全4巻)の受け、精神分析医の浅野先生が手がけた過去の事件、という体で話が進められます。
「In These Words」シリーズの番外編小説なので、コミックを読んでいると「浅野先生ってこんな風に仕事をするんだな…」と理解が深まって面白いです。でも、本作単体でも読めます。
こんな人におすすめ
- ノワール小説が好き😈
- 生々しいミステリー・サスペンスものが好き🕵️♂️
- ガチ近親相姦ものが好き👨👩👦👦
ネタバレ感想
FATHER FIGURE
警察官のガブリエルは、亡き母が決して語らなかった父・ウリエルの情報を偶然にも見つけ、彼の居場所を特定します。始めは彼を遠くから観察するだけでしたが、ウリエルが家に女性を泊めたことに激怒したガブリエルは、彼を監禁しようと決意します。
あまりにも壮絶なメリバで、言葉がありません。
ただ一言言えるのは、これほど歪んだ愛の価値観を持つガブリエルの心境を、なぜこれほどまでに丁寧に追えるのかと恐れさえ感じるということです。「愛する人が自分のものにならないのなら殺す」と考えるサイコな殺人鬼像は割とありふれた設定のはずなのに、殺人鬼視点であたかもそれが当然のごとく、監禁やレイプの道理を懇切丁寧に説かれると、世の中にはこれほど自分が理解し得ない存在もいるのだと恐怖を覚えました。
本作から印象に残ったセリフを挙げるのは本当に難しくて…(あまりにも印象深いセリフが多すぎるからです😂)。
特にガブリエルのウリエルに対する考え方は、かなり興味深いです。ざっと物語の最初から彼の考え方の変遷を追っていきましょう。
まず、ガブリエルはウリエルの家に女がしばらく泊まっていったことをきっかけに、彼に対して「厳しい教訓を与え」よう(監禁の意味)と決めます。そして、監禁を始めて初期の段階で、「もしあんたをここから解放すれば他の誰かがいつでもあんたを独占する。そして俺はそういう連中を片っ端から排除しなくちゃいけない。もう二度と俺を捨てない父親にするために、あんたを殺さなきゃいけないなら…」と淡々と言います。ただ、この時点では明確にウリエルを殺す未来が見えていたわけではなかったように感じられます。
次に、ウリエルが逃げ出そうとしてガブリエルを殴打しますが、あえなく失敗。その報復としてガブリエルはウリエルをレイプしますが、その時にガブリエルは「こんなふうに彼を完全に俺のものにしたかったんだ」と恍惚としています。それ以降、特にガブリエルはウリエルに口淫させることを好み、ヘテロのウリエルはそれを極度に嫌がりますが、ガブリエルはそれに興奮しており、ウリエルに口淫させつつオナニーさせたりと、性的暴力が極端に増えていきます。
しかし、ウリエルの不在に不信感を抱いた息子のフィリップが捜索願いを出したことから、ウリエル失踪事件の捜査が進みます。自分に捜査の手が伸びそうだと思ったガブリエルは、「もしこの世界に他に何も存在しないなら幸せだったろうな。ただ俺とあんただけ他は何もいらない」とウリエルに泣きつきます。このあたりから、ガブリエルは精神的に不安定になっていったように感じます。それまでの「ウリエルを支配する快感」や「ウリエルと二人で隔絶された世界にいる喜び」よりも、「ウリエルを外に出さなくてはならない日が近い」「ウリエルが自分以外の人間のものに戻ってしまう」ことを恐れているようでした。
そして、いよいよガブリエルの名前が被疑者として挙がり、捜査が激化。いよいよ逃げられないと悟ったガブリエルは、ウリエルを殺すための毒薬・シアン化ナトリウム(もともと監禁計画を企てる時に準備はしていたのですが)を用意し、ウリエルに飲むように迫ります。
「これは一つの終わりであって全ての終わりではない」と言い、ウリエルにシアン化ナトリウムを飲ませるガブリエル。しかし自分はというと、「あんたと一緒に行きたい。でも死んだら俺の中のあんたの思い出をすべて失ってしまう。俺は臆病者だ……」と、ウリエルとともに死ぬのは嫌だと駄々を捏ねます。ここがガブリエルの「子ども」の部分だなと感じたのですが、「痛いこと、怖いこと」は親に押し付け、自分は甘い汁だけを吸おうとするところがまさに子供ムーブですよね。思い出を失うから云々はただの言い訳にすぎず、ただ単に死ぬのが怖いのと、これ以上痛めつければ近いうちに敗血症などでウリエルが死ぬと看護師の友人からアドバイスを受けていたこともあり、「ウリエルが自分のせいで苦しんで死ぬ」という事実に耐えきれない(そもそもガブリエルのせいでウリエルは死ぬのですが)ため、死ぬ手段だけウリエルにちらつかせて、彼自身の手で死ぬように仕向けたのだと思います。
ガブリエルの名前の語源になったであろう、天使の方のガブリエルの役割は、「子どもの守護」だそうです。子どもである自分自身を守護することはできなかった彼への皮肉のような名前だと感じました。
そして、ウリエルの亡骸を前にして、「俺はある痛みと別の痛みを交換したが、胸を鷲掴みにするこの新しい痛みは、前よりもさらに苦しいものかどうか、ということを見極め切れずにいた」と、ウリエルが生きていれば他の誰かに彼を奪われるという苦しみと、ウリエルが死んでしまったという悲しみ、どちらの方が辛いかということを図りきれなかったとぼやきます。こうは言っていますが、ガブリエルはウリエルに自殺を勧めたくらいですから、実際のところはウリエルが自分のもとで、自分の指示で死んでくれたことで、彼は永遠に自分のものになったのだという安堵は確実にあったでしょうし、彼が死んだことは一過性の悲しみなだけで、やったこと自体には全く後悔はしていなさそうです。
ここからがガブリエルの異常性を感じるのですが、ウリエルの亡骸を秘密の場所に埋めると、ガブリエルは自宅からまたウリエルの自宅を観察し始めるのです。誰もいないと知っているのに覗き見をし続け、なにかの人影が見えた瞬間にウリエルの家に飛び込みます。「きっと──俺は自分自身に言い聞かせた──小さな望みに賭けた──この一週間の出来事はすべて嘘だったのだろう。恐ろしい悪夢でしかなく、父は死んでいなかったのだ……」とガブリエルは独白するのですが、数時間前に自分の手でウリエルを葬り去っておきながら、このセリフですよ…。あまりにも支離滅裂すぎて、最後の最後まで頭を掻きむしりたくなるほどの狂人っぷりでした。その「望み」を奪ったのはお前だろ!「恐ろしい悪夢」を作ったのはお前だろ!と言いたくなりますが、ガブリエルの中にはウリエルに保護されたい子どもの部分がずっとあって、「ウリエルを殺して永遠に自分だけのものにしたい」という思いと、「現実の怖いことや悲しいことの全部からウリエルに守ってほしい」という思いが同時に成り立っているんですよね。ウリエルは殺しても死なないと無邪気に信じている部分があるというか。ガブリエル、本当に厄介な人間です。
対してウリエルですが、彼は誘拐されてから死ぬまでの1週間以内の間に、かなり激しい心理変遷を経ています。ウリエルはガブリエルの母と2週間だけセックスをしましたが、それ以降は彼女と連絡が取れなくなり、彼女が妊娠・出産したことさえ全く知りませんでした。それをガブリエルに謝るも、焼石に水。それでも、「なぜこんな真似をするのか、理解はしている……お前にも自分の行動が引き起こす結果を十分に理解できれば、と願ってはいるがな」と理解を示そうと努力します。(この時のガブリエルの返事は「わかってるさ。だけど、そのことは考えないことにした」というもの。実はウリエルの伝えようとしたことが全く分からなかったようです)
そして最後にガブリエルからシアン化ナトリウムを飲むように指示されると、「ガブリエル、お前を愛してる」「お前を赦す……いつかお前も私を赦す方法を見つけることを願ってるよ」と言って死んでしまいます。
ウリエルはガブリエルにもガブリエルの母にも決して悪事を働いたわけではなく、何も赦しを乞う必要はなかったと思うのですが、「ガブリエルをこの歳になるまで一人にさせた」ことを詫びたかったのでしょう。ウリエルの最期があまりにもあっけなく、彼が理解ある人間だっただけに死を選ばなければならなかったことがただただ悲しいです。
ちなみに、ウリエルの名前の語源となったであろう天使の方のウリエルは、「人々を正しい道に導く存在」だそうです。最期までガブリエルを正しい人間に導こうと努め、彼の罪を赦し、死んでいったウリエルを表すのにふさわしい名前だと思いました。
post script
逮捕されたガブリエルが、公判を差し止めた精神科医・浅野克哉に父との出会いから語り始めるお話です。
ガブリエルはウリエルの遺体を葬った場所を決して言おうとせず、唯一大事そうに持っていたのは、ウリエルの結婚指輪だけ。しかしそれを警察側に取り上げられたために、ずっと水も食事も取らずに暴れ続けていました。
ウリエルの息子・フィリップは父の形見である指輪を絶対に返したくないと言い張りましたが、浅野は「この指輪が持つ意味は、あなたと彼にとってそれぞれに違います。あなたは、あなたのことを無条件に愛してくれた父親と素晴らしい二十二年間を過ごした。しかし、ウリエルとほんの数日間過ごしただけのガブリエルにとってこの指輪は、愛されたいと望むことしかできなかった父親と過ごした“年月”に匹敵するものなんです」とフィリップを説得。浅野に指輪を渡されたガブリエルは落ち着きを取り戻し、彼にウリエルとの出会いから話し始めたのでした。
ウリエルが敗血症で死にかけた原因となったのが、ガブリエルがウリエルの薬指から強引に結婚指輪を引き抜いたからなのですが、ウリエルが大事にしていたからか、なぜかガブリエルがそれに執着するのが奇妙だなと感じました。まあ、ウリエル本人はガブリエルが殺してしまったので、彼に繋がるものでガブリエルが手に入れられるものは指輪くらいしかなかったのでしょうが…。
それにしても、フィリップは「あいつ(ガブリエル)を赦さない」と言いながらも、浅野のアドバイスを聞いてガブリエルに指輪を渡してやったりと、やはりウリエルに育てられた子だなあと眩しく感じました。いくら血を分けた兄弟とはいえ、父を殺した本人を赦せないのは当然ですもの。
between the devil and the deep blue sea
事件から4年後、日本で非常勤講師となった浅野にフィリップがカウンセリングを依頼するお話です。
どうやらフィリップは日本のアメリカ軍基地に異動した模様。「あいつがどうやって親父を殺したのか知りたい。親父が苦しんだのかそれとも一瞬だったのか。死ぬ間際に俺のことを考えたのかどうか。何であいつがあんな真似をしたのか知りたいわけじゃない。理由はわかってる。俺はそれ以外のことを知りたいんだ……そうすれば少しは親父に近づける気がして」と、浅野にカウンセリングを依頼します。快く受け入れられ、喜ぶフィリップですが、どうもその喜び方が過剰です。浅野が飲み残したコーヒーの残りを飲んで間接キスだと反芻していたり、どうやら浅野に気がある?様子です。精神的にかなり参っていた時に浅野に寄り添ってもらった思い出があるからでしょうか。予想外のところでの恋模様に驚きました。
break down
ウリエルとガブリエルのさまざまなシーンのラフとそれに関するメモ書きまとめです。
小屋の中のレイアウトや、各挿絵の別案がいろいろと掲載されていました。
まとめ
母子家庭で育った警察官のガブリエルは、咽頭がんで死んだ母の遺品整理をしていたところ、母の口から一切聞いたことがなかった父・ウリエルの存在を偶然にも知ります。ウリエルの居場所を突き止めたガブリエルは異動願いを出すと、彼の住む町の警察官になり、彼の生活を覗き見するようになります。ある日、ウリエルが女を家に泊めたことをきっかけに、ガブリエルはウリエルを監禁して自分だけの父親にしようと計画し始めます。
押しも押されもせぬ、近親相姦BLの名作です。子×父(義理の親子ではなく血が繋がっている)という禁忌性の高さと、殺人犯×被害者という暴力性の高さは、類似する作品を見つけることができません。
愛に狂った殺人犯の心理がこれほどまでに理解できるBL作品は珍しいでしょう。
上質なメリバBLを読みたい、サイコパス殺人犯の心理が知りたい、「赦し」について考えたい、親子愛について考えたい…そんなあなたにおすすめな一冊です📚✨