人を愛せないサイコパスに芽生えた感情、注目の新シリーズ開幕!オンリー・ジェイムス「花にして蛇」シリーズを読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
サイコパス兄弟の末っ子・元スーパーモデル×攻めの被害者の息子 のお話。
<あらすじ>
子供時代何者かによって父親を殺されたノアは、苦労の末に犯人に辿り着いた。
その殺人者アダムは元モデルで、大富豪マルヴァニー家に集められた七人のサイコパス兄弟の一員だった。
アダムは父親の本当の姿をノアに伝える。
こんな人におすすめ
- 愛について深く考えてみたい💕
- 法で裁かれない、世に野放しの極悪人たちに強い憤りを覚える😡
- サイコパス/ソシオパスの言動に触れてみたい🤲
本作をもっとよく知るための小ネタ
①株式会社新書館は、欧米BL小説の翻訳専門レーベル「モノクローム・ロマンス文庫」内にサブレーベル「Deep Edge LINE」を立ち上げたことを発表し、2025年1月10日(金)には、初の単行本『花にして蛇シリーズ① アンヒンジ』が同サブレーベルから発売されました。
引用:欧米BL小説の翻訳専門レーベル「モノクローム・ロマンス文庫」にサブレーベルが登場! 欧米で人気の“M/M小説”をディープに楽しめる!! – eeo Media(イーオメディア)
②「Deep Edge LINE」とは、モノクローム・ロマンス文庫のなかでもキャラクター同士の関係性をより深く、より大胆に掘り下げた作品をラインナップしていくサブレーベルです。
ネタバレ感想
花にして蛇シリーズ(1)アンヒンジ
プロローグ
法で裁かれない極悪人たちを秘密裏に殺す、サイコパス兄弟の末っ子・アダムは、11年前に殺した児童虐待殺害犯・ホルトの息子を名乗るノアに拳銃を向けられる。アダムは一目でノアに特別な執着を感じ、彼を手に入れようと考えますが…。
本作の見どころは、なんといっても、ノアを始めとした当時10歳未満の子供たちに対する、組織的な性的暴行および殺害(さらにその様子を動画として残し、販売していた)をホルトとその友人たちが行っていたことに対する、アダムたちマルヴァニー兄弟の苛烈な制裁です。
ノアの脅威的な記憶力により、ホルトの共謀者たちが暴かれていく、華麗な過程。そして、マルヴァニー兄弟たちが、自分たちが正義の鉄槌を下す相手を慎重に吟味していく様子は、まるでライオン(マルヴァニー兄弟とノアの最強タッグ)が獲物の子鹿(ホルトとその仲間たち)を狩るために足音も立てずにゆっくりゆっくり近づいていくようで、興奮が掻き立てられます。
ホルトとその仲間たちが何十年にも渡り行ってきた、児童への性的虐待・殺害は、具体的に描写がないにも関わらず、そのグロテスクさがひしひしと伝わって来ます。彼らの所業の一端に触れるたびにノアはたびたび嘔吐するのですが、幼い彼の心と体をホルトたちは一体どのように壊したのかと思うと、自分の胃も裏返るような気持ちになります。
それほど非人道的な行いをしてきたホルトとその仲間たちだからこそ、マルヴァニー兄弟たちに血みどろの制裁を加えられるシーンでは、爽快感のあまり、ページをめくる手が止まりませんでした。読みながら、快感のあまり脳汁がぶしゃぶしゃ溢れ出ているのが分かったほどです🧠
さらに、本作ではサイコパスのアダムが主人公になっていますが、これがまた魅力的。
なぜなら、サイコパスは愛着を持っていないため、愛が分からないからです。
愛が分からない、けれど、ノアにだけは強烈な独占欲と執着を感じる…アダムは初めての体験に混乱しながらも、「ノアだけは何があっても絶対に手放さない」と周囲を威嚇します。そのさまは、アダムの養父であり、アダムを殺人マシーンに仕立て上げたトーマス曰く、「子猫にかまう子供のよう」。トーマスはアダムが愛を分からないことで、いずれノアを壊すまで執着し続けてしまうのではないかと心配していました。
アダム自身も自分の中に眠るその衝動は自覚しており、ノアにどう接すれば「愛している」「大切にしている」と思ってもらえるのかと逡巡するシーンがたびたび出てきます。(アダムはトーマスの教育の中で、あたかも愛着があるように振る舞うことはできるけれど、理解はしていません)
愛が分からないために、ノアをどうしたら引き留め続けられるのかと不安を覚えるアダム。それでも、ノアにそばにいてほしいからと、彼は言葉と態度で懸命にノアに尽くします。ノアを尊重し、甘く優しい言葉をかけ、なんでもノアの望むようにと動き、ノアを少しでも傷つけられれば本人以上に怒り狂います。
物語の最後まで、アダムは愛が分からないと言いながらも、この気持ちが、この行動が、愛ではないかとずっと考え続けます。
「愛してる、かもしれない」とノアに伝え続けるアダムを見ていると、アダムこそ愛を知っているのではないかと私は感じました。愛が分からないと初めから自分に疑ってかかっているからこそ、相手に真摯に向き合えるし、言葉も尽くせる。その態度こそ愛でなくて何だろう?と思うのです。
むしろ、愛を知っていると当然のように思っているサイコパス以外の人間こそ、愛に対して傲慢なのではと感じるほどです。
愛とは、相手に対して、謙虚に、無償で、たたひたすらに、尽くしたい、慈しみたい、守りたいと思うことなのではないでしようか。それはアダムのノアに対する言動そのものですし、アダムの愛は間違っていないよと背中を押したい気持ちになります。
そして、アダムとノアの倒錯的なセックスについても触れなければなりません。
ノアは幼少期にホルトから性的虐待を受けていた記憶を、あまりにつらすぎるがあまり、無意識のうちに改竄してしまっていました。それでも、なぜか「魂に自分しか見えない汚れがこびりついている気がする」と、拭えない違和感を抱え、それを酒やドラッグで紛らわせていました。
しかしアダムに出会ってからは、その衝動を彼との激しいセックスで補うようになります。そのプレイの激しさはなかなかのもので、椅子に座るのがつらくなるほど尻を叩いてほしいとか、首を絞めてほしいとか、窒息寸前まで強引なフェラを命じてほしいとか、ほとんど慣らさずにちんこを挿入してほしいとか、頬を叩いてほしいとか…読んでいるだけでこちらまで痛みを感じるほどですが、ノアはアダムにそうして痛みを与えられて支配されるほど恍惚とするんですよね。アダムもまたそういった支配欲の強い男なので、普段は芯の強いノアがベッドの上でだけは従順なことに興奮します。
暴力要素の強いセックス描写がかなりの回数で入りますが、ノアがむしろそれでないと快感を得られないといった様子なので、「そういう趣向もあるんだなあ」となんだか勉強するような心地になります。痛い、怖いセックスこそが気持ちいいという感覚も未知で、それもまた面白いです。
エピローグ
ノアが自分のもとからしばらく留守にするたびに、彼にえっちなおしおきをするアダムのお話です。
ノアをベッドに拘束してえっちを楽しむアダム。ノアもアダムのそんな執着に触れて、「やれやれ」といった素ぶりをしながらも、実際のところはかなり興奮して歓喜しています。似たもの同士め!(褒め言葉)
そしてエピローグで初めて、ノアの実の母の現況が明かされます。ノアの母は離婚歴があるようで、今の夫とは未成年の子供3人をもうけて幸せに暮らしているようです。ノアも母も「感動の再会!」という感じではなく、淡々と事実を確認し、今は月に一回近況報告をする程度のよう。
実際、3歳の時に行方不明になってからもう18年が経っており、母としても新しい人生を歩み始めた以上、ノアのことばかりに構っていられないのが実情なのかもしれません。
そして、ノアにとって「マルヴァニー家の人々が家族」という認識なのが、個人的にすごく嬉しいポイントでした。
アダムを始めとして、マルヴァニー家の絶対的ボス・トーマスもノアのことをとても信頼して慈しんでいるし、これまで里親のもとを転々としてひとりぼっちだった悲しみを補うように、マルヴァニー家の人々にめいっぱい甘えてほしいです。
花にして蛇シリーズ(2)サイコ
プロローグ
アイビーリーグの物理学の終身在任教授であるオーガスト・マルヴァニーは、元FBIの行動分析班の捜査官である新任の犯罪心理学講師ルーカス・ブラックウェルとうっかり出会い頭にぶつかった際、過剰に怯えた反応をされます。ルーカスは透視能力があるという噂があり、オーガストは真実を確かめようとしますが…。
マルヴァニー兄弟イチ知的で、兄弟イチオタク、そして兄弟イチサイコパスな、オーガストのお話です!
今回の見どころは、愛が分からないオーガストがトライアンドエラーを繰り返して、不器用にルーカスに愛を囁くところ。そして、ルーカスを狙う連続殺人鬼・コーンとその仲間たちへマルヴァニー一家とルーカスが正義の鉄槌を下すところ、オーガストとルーカスの摩訶不思議で強烈なセックスです。
まずは、オーガストのルーカスへの愛情表現について。
これは1巻でもアダムについて触れましたが、彼らサイコパスはそもそも愛や愛着というものを感じることができません。理解をし、模倣することはできますが。
オーガストもまたアダムと同じく愛が分からない男ですが、それでも、ルーカスを一目見た瞬間に感じた「俺のものだ」という衝動、「守りたい」という渇望、「慈しみたい」という執着を、どうにか彼を怯えさせないように伝えたいと感じています。
そのために、IQ155という非現実的に天才的な頭脳を駆使して、恋愛本を読み漁り、ノアに実体験を聞いて、より良い方法でルーカスを愛そうと努めるのです。
オーガストがルーカスに愛を囁くシーンで一番好きなのは、オーガストが(彼なりの)冗談を言いながらにやりと笑みを浮かべた後、しゅんと落ち込むシーン。
どうしてそんなに落ち込むのかとルーカスに問われ、自分の笑顔は怖いと兄弟たちに言われた、ルーカスを怖がらせたくない、とオーガストが答えるのです。ルーカスは適切ではないところで笑うオーガストの不器用さを愛しているからこそ、その答えを聞いてときめいてしまうのですが、それを読みながら私も同じくらいキュンキュンしてしまいました。
ルーカスにいいところを見せたい、好かれたい、怖がらせたくない…まるで「美女と野獣」で、野獣がベルに愛されたいと願うがゆえに獰猛さを抑え、他人を憎んだり傷つけたりしないように努め、己と他人を許そうともがく姿を見ているようです。
いつでも容易く他人を殺す術を知っているからこそ、その牙でルーカスを傷つけたくない。その牙を少しでも見せてしまうことでルーカスを怯えさせたくない。ルーカスに安心して自分に守られてほしい。ルーカスにとって自分は敵ではないと分かってほしい。世界を敵に回してもルーカスを愛し抜きたい。そんなオーガストの懸命な愛が、その拙い「怖がらせたくない」という一言からひしひしと伝わってきて、ときめくと同時に、なんだか泣けてきてしまいます。
オーガストはサイコパスの特性ゆえか、駆け引きをしません。率直にしか話せません。だからこそ、オーガストの語る愛には重みがあります。
オーガストが守る、愛する、と言ったなら、それはもうオーガストが死ぬまでそうするという確固とした事実なのです。
愛が分からないからこそ、言葉と行動を尽くして愛を示そうとするオーガスト。アダムの時もそうでしたが、その無垢なまでの懸命さ、ひたむきさに、私は心奪われます。
次に、ルーカスを狙う連続殺人鬼・コーンとその仲間たちへマルヴァニー一家が正義の鉄槌を下す過程について。
1巻でマルヴァニー一家が始末した幼児への性的暴行・殺害事件の組織的犯罪の内容も反吐が出るほど凄惨なものでしたが、今回も負けず劣らずです。ルーカスを狙うのは、現職のFBI捜査官・コーン。裏の顔は、レイプ・拷問・人体切断・殺人が同意してない人間に対して行われており、課金すればそれを見物または参加できる「赤い部屋」という名の拷問ポルノの有料サイト運営者です。資金提供元はロシアの富豪、コーンとその仲間たちは実行者です。
ルーカスには触れたものに関する過去の情報を読み取ることができるという透視能力がありますが、コーンはそれを逆手にとって、ルーカスがじわじわと近づく死期(コーンに殺される未来)を悟って怯えるように、わざとルーカスの周辺人物に自分が来たことを知らせたり、ルーカスの部屋に押し入って殺人の残像をこびり付かせたメモだけを残していったりと、面白半分でルーカスを追い詰めます。
読めば読むほどじわじわと近づいてくるコーンへの恐ろしさも増しますが、それに加えてルーカスがコーンの残していったメモや遺留品などから被害者女性たちの痛みや苦しみの記憶を感じ取ってしまうのがあまりにも痛々しく、読んでいる自分までもが息苦しくなるほどでした。コーンのやり方は抜かりがなく、FBIの捜査網を持ってしても彼を捕まえることはできませんでした。だからこそ、マルヴァニー一家が彼とその仲間たちに苦しみを与えながら殺してくれた時は、これまで見せ物にされながら殺されてきた女性たちがやっとうかばれたかのような気持ちになりました。
最後に、オーガストとルーカスの摩訶不思議で強烈なセックスについて。
ルーカスは触れたものの過去と現在感じているものを読み取れる(自分自身が体験しているように感じられる)のですが、だからこそ普段は、「障壁」と呼ぶ心のシャッターのようなものを作り、外界から情報を得ないようにしています。
しかし、例えばセックス中にルーカスが障壁を上げる(心のシャッターを上げる)とどうなるのか。オーガストからアナルを犯されながら障壁を上げると、オーガストが感じているペニスへの快楽も、ルーカスは感じることができるのです。つまり、アナルを犯されながら、アナルを犯している感覚を得られる。2人で3Pをしているような快楽を得られるということです。
ルーカスに透視能力があると知った時は、捜査に役立ちそうだなあくらいにしか思わなかったので、まさかこんな使い方があるなんて!?とドキドキしてしまいました。
あとは、オーガストはナイフで傷つけられることに快楽を感じるタイプのようで、ルーカスが試しに彼の体を傷つけてみるシーンも衝撃的でした。仄暗い欲求を曝け出してくれとオーガストに誘われるがまま、ルーカスはオーガストの美しい背中に「MINE」と切り傷を入れるんです。あああああ!!!!常識人であろうとあがくルーカスの、オーガストに対する執着心!!たまりません!!
エピローグ
教授と生徒のロールプレイセックスをする、オーガストとルーカスのお話です。
ルーカスがオーガストを「教授」と呼ぶのも、メガネとやぼったい格好で学生コスプレをしているのももちろん最高なんですが、それ以上に最高だったのが、ルーカスが職場のこのロールプレイセックスをするために朝からアナルプラグを入れていたこと!!えっちすぎる!!
しかもルーカスがどうしてこのロールプレイセックスを企てたかというと、2人が付き合って七週目の記念日だからなんですよ。オーガストはルーカスと会って1〜2日目時点で「君と結婚する」と言って憚らなかったんですが、ルーカスは「まだ出会って2日なのに」「1週間なのに」と、オーガストを愛していると確信するにはまだ早いとずっと言い続けていたんですね。だから、オーガストが「時間というものにこだわりすぎだ。お前がぼくにとってのただ一人だとわかるまで、ぼくには七秒とかからなかった。もし時間の長さがお前にとってそこまで大事なら、ぼくは待とう。七週間かかろうと七ヵ月かかろうと、たとえ七年でも。ただ、時間のみを理由に、お互いともに求めているものを否定しないでくれ。ぼくらは誰の理解も必要とはしていないのだから」って言うんですよ。ルーカスはそれを覚えていて、七週間記念日を祝ったんですね。はあ〜尊い。ラブラブじゃないか!
ルーカスは最後に自分たちを「サイコとサイキック。俺たちはほかの相手とは絶対に合わないよ。永遠にセットだ」とふざけて言うんですが、まさに2人にぴったりの呼称じゃん!とウキウキしちゃいました。永遠にセットって、いい響きですよね。ああ〜2人の話をずっと読んでいたい!
まとめ
サイコパスの資質のある子供たちを集め、法から見逃された悪人たちを裁くサイコパス殺人兄弟を養育する億万長者トーマス・マルヴァニー。
「花にして蛇」シリーズでは、そのマルヴァニー家の7人兄弟たちの恋と殺人について語られます。
1巻では末っ子のアダム、2巻では次男のオーガストが主人公です。愛を理解できないサイコパスである2人が、どうやって恋を知り、愛を与えるのか?彼らの「仕事」はどのようにもたらされ、どのように解決されていくのか?
ロマンス溢れるラブストーリーと、身の毛もよだつ息詰まるサスペンスの両軸がフルスロットルで回転しながら進んでいきます。
息つく暇なし!退屈する暇なし!一文字も見落とせないくらい、ワクワクとドキドキに溢れた面白すぎる名シリーズです!
あなたも、マルヴァニー一家に溶け込んだ気持ちで、この世の悪を成敗しませんか。