さとむら緑「きみは藍色の夜に生まれた」のネタバレ感想|孤独に苦しむあなたに寄り添う一冊

小説

さとむら緑先生「きみは藍色の夜に生まれた」を読みました!

登場人物とあらすじ、どんな人におすすめなのかなど、ネタバレ感想とともにご紹介します。

登場人物とあらすじ


超絶美形な謎の男×生真面目な会社員 のお話。

<あらすじ>
ある夜、平凡なサラリーマン・神宮司智久の部屋の天井を突き破って王子様のような美形が落ちてきた。
美形の男…アパートの二階に住む桐生青衣(あおい)と智久は、天井の修理が終わるまで空き部屋で同居することになる。
だが青衣は能天気すぎる変人のうえに下半身がゆるく、セフレを部屋に連れ込んだあげく智久まで抱きたがる始末で…!?

 

こんな人におすすめ

  • 色彩豊かなBL小説が読みたい🎨✨
  • いつもなぜか孤独を感じる🚹🚺
  • 自分のルーツを知りたい🧑‍🧑‍🧒

 

ネタバレ感想

①大切なものを誰にも教えられなかった智久

業界中手のお堅い貿易会社で法務の仕事をする神宮寺智久(受け)は、社内恋愛の末に別れた彼女との別れのきっかけをずっと引きずっています。
それは、智久が幼い頃に離婚した父にもらった最後のプレゼントに関する問題でした。

父からもらったイルカのぬいぐるみに、智久は「ブルー」と名付け、毎晩一緒に眠っていたのです。
智久は母からは愛されて育ったようですが、それでも彼の中で何かが欠けている感覚はずっとあったのかもしれません。それを埋めるために、智久はブルーを抱いて寝ていたのではないかと思います。それだけではなく、智久は無意識のうちに青色を身の回りに集めていて、そこからも父を求める心情がなんとなく想像できます。

智久がブルーと一緒に寝る行為を、彼の元カノは「気持ち悪い」と吐き捨てました。それ以外にも理由はありましたが、それをきっかけに二人は破局。さらに、智久はあれだけ大切にしていたブルーを、元カノに気持ち悪いと言われたからという理由で、「大人の男が持っているべきじゃない」と捨ててしまいます。
そして、智久はブルーと一緒に寝ていたことを非難されたことで、「大切なものは簡単に他人に教えてはいけない」と固く誓うようになってしまいました。
もともと内向的だった智久は元カノとの別れ以降、さらに輪をかけて内向的に。そして、他人に自分の大切なものをなるべく見せないようにと固い殻を被って生きるようになってしまいます。

結局、智久が捨てたブルーは青衣が拾って保管しており、予想外の形で智久の手元に戻ってきます。智久は青衣にブルーを捨てたことを後悔していたと告白し、持って帰ってくれた青衣に感謝します。
智久は青衣のがらくた集めの癖を困ったものだと思いつつも、青衣が「僕はアリョーシャ(ブルーに青衣が別の名前をつけていた)を預かっただけ」とプレゼントしてくれた時に、さまざまな感情を抱きます。

青衣はブルーを大事にする智久のことを気味悪がることもなく、ブルーが帰ってきてよかったねと無邪気に喜んでくれます。
智久は「自分が大事にしているものを、簡単に人に教えてはいけないと思っていた。教えた結果、それが理解して貰えなかったときのダメージはとても大きいし、つらいから。けれどきっと、それは、臆病だっただけなのだ。大事なものを守る勇気も、それを持ち続けていく根気もなかっただけのこと。」と語っていましたが、元カノとは全く違う青衣の優しさが、智久に大切なものを隠さない勇気を教えてくれたのだと思います。

 

②孤独ゆえに、騙されてもいいから求められたいと居場所を渇望した青衣

青衣は大学時代に全身全霊で好きになった斑目という先輩(今は大学の助教授)に、「本当の名前を教えてしまったから、俺は使い魔だから、言うことを聞かないといけない」と言います。
実は、青衣は小学生の頃に、日本人以外の血が流れているであろう外見を理由に「悪魔」と呼ばれ、いじめられていました。斑目はそれを引用して、「悪魔は本名を教えた相手に絶対逆らえない」からと、青衣の本名を自分にだけ打ち明けさせ、絶対に自分に逆らわなければいつか養子にでもして俺の家族にしてやる、と約束していました。
実の両親に捨てられて施設で育ち、養子先の両親には愛されたものの早くに先立たれた青衣にとっては、「家族」という居場所は喉から手が出るほどほしいものでした。しかも、愛する斑目のパートナーにはなれなくても(斑目はノンケなので)養子にしてもらえるのなら、ずっと一緒にいられます。
それだけを胸に、バイトの微々たる賃金を吸い上げられても、タダ働きさせられても、論文や本のゴーストライターをさせられても、黙って耐えていたのでした。

智久はその事実を知って憤慨しますが、青衣はただ諦めたように斑目に従うだけでした。
斑目が教えた嘘のかわいそうな境遇の話も、青衣は嘘だと知っていたかもしれませんが、それでもあれは真実だと、先輩はかわいそうな人なんだと自分に言い聞かせて、斑目に従い続けているようでした。

あまりにも孤独がゆえにワンナイト的なセックスと斑目の使い走りでしか自分の存在証明ができず、自分の心身が磨耗し疲れ果てても、これは愛されるために必要なことなのだと無言で己に言い聞かせているような青衣の姿はあまりにも痛々しく哀れで、どうして誰も手を差し伸べないのかと頭を掻きむしりたくなるほどでした。

 

③正反対の二人なのに、だからこそ、そばにいて幸せだった

セックスはただ一人の特別な人とするべきであると頑なに信じる智久と、セックスは人恋しくなったら誰とでもする青衣。悲観的な智久と、楽観的な青衣。
全く正反対の二人は、青衣が大量の本を家に所蔵していたために、その重さに耐えきれなくなって床が抜けたため、下の階に住んでいた智久の世話になることから関係が始まります。

最初は青衣を股の緩いバカな貧乏男だと思っていた智久でしたが、一緒に過ごすうちに、青衣がどうしようもない深い孤独を抱えており、それを少しでも癒すためにセックスに走ったり、よくない男に薄給で使い走りをさせられていることを知っていきます。
それと同時に、青衣の真っ直ぐな優しさや素直さ、愛するものに限りなく大切に触れる繊細な心に触れ、平凡な人生を送る自分をつまらなく思い倦んでいたのは彼のような視点を失っていたからだと気づいていきます。
一方で青衣は、自分をテイのいい使い走りやセックスの相手としか扱ってもらえなかった自分が、なんだかんだで智久に甘やかし大切にしてもらっていることに幸せを感じていきます。

読めば読むほど、なぜこの二人でなければいけなかったのかが分かる、そして、この二人だからこそ愛しあえたのだと分かる物語だと思います。

 

まとめ

業界中手の貿易会社に勤めるサラリーマンの神宮寺智久は、平凡な毎日に飽き飽きしていました。しかし運勢が最悪だったある日、天井がぶち抜かれて一人の男が降ってきます。男の名は、桐生青衣。天井の修繕工事が完了するまでの数週間ほど、二人は空き部屋で共同生活を送ることになりますが…。

最後まで物語を読み終えた後にタイトルを見て、「そういうことか」と新たな涙が溢れてきます。
なぜ、誰が、「藍色の夜に生まれた」のか。智久と青衣にとっての藍色という色の特別さを言い表そうと思うと、感情が嵐のように押し寄せてきます。

孤独だと感じることは誰しもありますが、そんな時にどうその孤独と向き合い、やり過ごすか。あまりにも真正面から向き合えば、その闇の深さに飲み込まれて溺れてしまいます。けれど見て見ぬ振りをしてもまた、その闇に背後から取り込まれて、いつの間にか足を取られてしまいます。
孤独を飼い慣らすために必要なのは、自分はいつでもこの人に孤独を癒してもらえる、愛してもらえる、笑い飛ばしてもらえるのだと思える、避難所・居場所があることだと思います。
本作では青衣は孤独の闇に取り込まれて静かに溺死しそうになっていたところを、すんでのところで智久に救われます。また、智久もひたひたと忍び寄る孤独に静かに窒息死しそうになっていたところを、青衣に救われます。
二人が互いの居場所になり、己を塗り潰さんばかりの深い孤独を癒せたことを、かけがえなく思います。

孤独に苦しんだことがある方、自分の外見にコンプレックスを抱いたことがある方、愛すること・愛されることに悩んだことがある方…多くの人に読んでほしい、優しい愛の良作です📚✨

きみは藍色の夜に生まれた
作者:さとむら緑
ある夜、平凡なサラリーマン・神宮司智久の部屋の天井を突き破って王子様のような美形が落ちてきた。美形の男…アパートの二階に住む桐生青衣(あおい)と智久は、天井の修理が終わるまで空き部屋で同居することになる。だが青衣は能天気すぎる変人のうえに下半身がゆるく、セフレを部屋に連れ込んだあげく智久まで抱きたがる始末で…!?

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