遠坂カナレ先生「江ノ島お忘れ処OHANA〜最期の夏を島カフェで〜」を読みました!
登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨
登場人物とあらすじ
腕を故障し自殺寸前のピアニストと、江ノ島でカフェを営む異父兄弟 のお話。
<あらすじ>
腕の故障でピアノが弾けなくなった音楽高校生の小鳥遊響希は、 死ぬために訪れた江ノ島で、ハワイアンカフェOHANAを営む四兄弟のハル・カイ・怜・翔太と出会う。
彼らはハワイの女神≪ペレ≫に仕える一族の末裔で、 怜は人の記憶を消すことができる不思議な力を持っていた。
昼は人気の島カフェ、夜は『お忘れ処』になるOHANAには、 今日も「消したい記憶」を抱えた人たちがやってくる―。
こんな人におすすめ
- 海辺・水辺の物語に心惹かれる🌊✨
- 国や年齢や性別や性嗜好…あらゆる垣根を越えた、人と人との心温まる物語が読みたい🥺🌈
- ハワイ料理に飯テロされたい🤤❤️
ネタバレ感想
①リベラルな視点と物語に感動
本作には「心は乙女で体は男性、好きになるのは女性」(MTF)のエイミーさんというキャラクターが登場します。
エイミーさんには女性の恋人がいますが、男の自分を愛しているであろう彼女に心の中の乙女の部分を見せることができないと苦しんでいました。
私はこのエイミーさんの物語を読みながら、カナレ先生によくぞ書いてくださった…!!と握手したい気持ちでした。
LGBTQ+や身体・精神的障害を持つ人々と健常者の間での法的平等が叫ばれる世の中で、なぜかこういったマイノリティの人々にスポットを当てたライトノベルは多くありません。
でも、私を含め最近の読者たちはこういった現実に即した鋭い視点・リアルな視点こそ求めていると思います。
各国で調査された全人口におけるLGBTQ+と性自認している人々の割合は、約3〜4%(10%前後という統計もある)と言われています。1クラス40人の学級があれば1〜2人は当てはまる人がいるでしょう。そう考えると、すごく身近な問題ですよね。
でも、世の中に溢れている物語はどれも健常者かつ異性愛者の人々のためのものばかり。
マイノリティに属する私はそういった物語を目にするにつけ、自分はその幸せな物語の一員ではないのだ、自分は一生幸せにはなれないのだと突きつけられているような気持ちになっていました。
自分はあらゆる物語の中で「社会に存在しないもの」として扱われていると感じ、創作物や社会、人間から遠ざかりたいという気持ちが強まっていきました。
でも本作ではエイミーさんと恋人は、お互いの生き方を理解して愛を深めています。
彼女たちが幸せになる姿を見て、私はマイノリティである自分も恋をしていいんだ、家族を作っていいんだ、幸せになっていいんだと、背中を押されたような気持ちになりました。
それが、本当に嬉しかった。生きていていいんだと、社会に、人に肯定されたような思いでした。
この一冊は間違いなく、10代・20代のミレニアル世代、マイノリティだと自認している人々、そして世界中の人が差別と偏見に苦しまず平等に過ごせるようにと願う人々に響くはずです。
エイミーさんの物語を生み出してくださったカナレ先生、GOサインを出した編集部の方々に大感謝です。
②ハワイ料理が美味しそう❤️
本作は「お休み処OHANA」という、江ノ島にある架空のカフェを舞台にお話が進んでいきます。
「お休み処OHANA」では、カラフルなシェイブアイス、レモン味のマラサダ、地魚を使った塩味のポケなど、さまざまなハワイ料理が提供されています。
作中で料理の描写が出るたびにごくりと唾を飲んでいたんですが、なんと巻末にメニュー+各キャラによる料理へのコメントが掲載されていて大歓喜〜!!🥳🎉
個人的には、翔太というキャラクターの好物であるグァバジェリーとバニラアイスを挟んだ熱々のマラサダが食べてみたいです。グァバってどんな味がするんでしょう?🤤💭
ぜひ再現してみたいです!
③共に支え合い、身を寄せ合って生きるものは、すべてOHANA
「お休み処OHANA」を経営するのは、父親が異なる4人の兄弟たち。
三男の怜は物言いがストレートで人付き合いが悪いのですが、実は情に厚い優しい青年。
彼は、志していたピアニストの道を絶たれ自殺しようとしていた主人公・響希に、物語の最後にこんなふうに語りかけます。
「OHANA(ハワイ語で「家族」)ってのは、血縁者に限らない。血の繋がりがなくても、共に支え合い、身を寄せ合って生きるものは、すべてOHANAと呼ぶんだ」
遠坂カナレ「江ノ島お忘れ処OHANA〜最期の夏を島カフェで〜」312ページ
「共に支え合い、身を寄せ合って生きるもの」という言葉の優しさに、思わず涙が溢れました。
身を寄せ合って生きているのであれば人間と動物でもいい、人間同士でもそれが社会的にどう定義された存在であろうと「OHANA」なんだ…と、「OHANA」という言葉の懐の深さに感動したんです。
怜は「お休み処OHANA」で働く(血が繋がっているわけではない)響希も自分たちのOHANAなんだとここで暗に言ってくれているわけですが、誰かに「あなたは私の家族だよ」と言ってもらえることってすっごく幸せなことだなあと、読みながら心がぽかぽか温かくなりました。
まとめ
国も歳も性別も性嗜好も全て無関係に、ただ人と人とが慈しみ合う優しいショートストーリーがたくさんつづられていました。
全編人間愛に溢れていて、読み進めるほど心が温まります。
ストレスフルなこの社会に、もしこんな楽しい「お休み処」「お忘れ処」があったなら…、「あなたは私のOHANAだよ」と言ってくれる人がいたなら…と、やさしい想像が膨らみます。
ハワイの潮風と美味しそうな料理たちの温度と香りが伝わってくる、爽やかで人情味溢れる名作です🌴🌈✨