須和雪里「花芽と狼」のネタバレ感想|心救われる仏教BL

小説

須和雪里先生「花芽と狼」を読みました!

登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨

登場人物とあらすじ


徳の高い阿闍梨(高僧)×心優しく美しき稚児 のお話。

<あらすじ>
時は平安のある冬の日、瑞調寺の阿闍梨・冬弦は修行僧時代に知り合った男、慈徳が連れてきた幼い子供を稚児として引き取った。
子供は潤んだ大きな瞳を持ち、愛らしい顔立ちをしていたので、すぐに僧たちの人気者になったが、子供がやってきてから、僧坊に妖しが出るようになる。
冬弦は、子供が人に見えない銀灰色の妖狼を連れていることに気づくが…。

 

こんな人におすすめ

  • 濡れ場が苦手
  • 心温まる感動系BLが読みたい
  • 樋口美沙緒先生、中庭みかな先生ら、内面描写に優れた先生の作品が好き

 

ネタバレ感想

①BL小説というより、「はじめての仏教入門 小説版」という感じの文学作品

最近のBL小説といえば、「攻めが受けを溺愛する」「1作品に2〜3回は濡れ場がある」のが普通ですが、本作品では濡れ場は匂わせ程度です。数行しかありません。

では作品のほとんどを何が占めているのかというと、「仏教における人生哲学」です。

キャラクターそれぞれのままならぬ悲喜交々の人生を描き、苦しみなさい、笑いなさい、それがあなたの地肉になるのです、と説いてくれます。

それも決して押しつけがましくなく、キャラクターたちの具体的なエピソードを通して自然と湧き上がる感情を「ありのまま感じればいい」と肯定してもらえて、読み終えた時驚くほど心が軽くなっているのです。

なので、本作はBL小説というよりも、「はじめての仏教入門 小説版」という感じでした。分かりやすいエピソードを交えて、仏教の真髄に触れられた気がします。

仏教の教えを解説する本というわけではありませんが、生きることに辛くなった時、迷った時、ふと本作を開きたくなるはずです。

そんな、そっと読者に寄り添って背中を押してくれる、優しい作品です。

 

②作り込まれた世界観と言葉選びに引き込まれる!のめり込む!

感動、泣く、女性、本

本作は1164の春先〜1165年の春先を舞台と想定して書かれた作品(あとがきより)らしいのですが、作品の世界観が本当にすごい。

須和先生がどれほどの量の文献にあたられてこの世界を構築されたかが読むほど伝わってきて、圧倒されます。

歴史的事実と創作をうまく絡めて、それが細部まで緻密に練り上げられていて、その丁寧な仕事ぶりに感動しました。

また、言葉選びもいわゆる古文に近い感じで、読んでいるだけではんなり雅やかな気持ちになります。

 

③須和先生の書かれる物語の振り幅の大きさに驚愕する

須和先生といえば私の中では「サミア」が殿堂入り作品なのですが、あれは罪人の宇宙人が自分を殺してくれる唯一の死刑執行人を探して宇宙を彷徨い、その死刑執行人に生まれて初めての恋をして死ぬお話でした。

その他にも「いつか地球が海になる日」では、男の泣き顔が好きという性癖を持つ男子高校生がなぜそんな性癖を持つに至ったのかというお話も書いてらっしゃいました。

今回読んだ「花芽と狼」は由緒正しい歴史小説という感じだったので、「サミア」や「いつか地球が海になる日」たちのような小説とはまた趣がまったく異なっていて…読んでみてあまりの違いに驚いてしまいました。まったく別人が書いた作品のようです。

奇天烈なSFもの、SMっぽいもの、古典もの…と須和先生が描かれる世界の幅の広さには驚愕させられます。本当にすごいです。

私も趣味で小説を書いているのですが、どうしたらこんなに振り幅の大きい、どんなジャンルでも自由自在に書ける作家になれるのだろう、来世でもなれる気がしない…と圧倒されます。自分で何か物を書いたり描いたりされている方ほど、須和先生の物語は読めば読むほど刺激を受けるかもしれません。

 

まとめ

最初は花芽が受けかと思ったのですが、花芽はストーリーテラーでしたね。高僧の冬玄と稚児の文殊丸の、嬉し恥ずかしな初恋物語でした。続編「文殊丸」、スピンオフ「弓張月 天桃山綺譚」もぜひとも読みたいです。

とはいえ、冬玄と文殊丸の恋はどちらかというとサイドストーリーで、メインストーリーは、人生のままならなさ、人間の辛苦、罪と罰にスポットライトが当てられていたように思います。

私は冬玄の「辛苦は、お前の血肉です。苦しんだ分、笑えるときには笑いなさいという言葉が大好きで、読後も何度もそのページを開いては読み返しています。この言葉を読むだけで涙が込み上げます。辛いことも苦しいことも無意味じゃないんだと励まされますよね。

樋口美沙緒先生や中庭みかな先生のような内面描写が丁寧な哲学系BL小説がお好きな方は絶対好きなので、ぜひとも読んでいただきたいです!!

電子書籍が売っておらず、中古本でしか手に入れられないのが玉に瑕なのですが、本当に素敵なご本(だし、続き物ですが一冊でも十分読み応えがある)なので手に入れる価値があります!ぜひ一読していただきたい名作です📖✨

花芽と狼
作者:須和雪里
時は平安のある冬の日、瑞調寺の阿闍梨・冬弦は修行僧時代に知り合った男、慈徳が連れてきた幼い子供を稚児として引き取った。子供は潤んだ大きな瞳を持ち、愛らしい顔立ちをしていたので、すぐに僧たちの人気者になったが、子供がやってきてから、僧坊に妖しが出るようになる。冬弦は、子供が人に見えない銀灰色の妖狼を連れていることに気づくが…。

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