伊勢原ささら「ピノと、彼の初戀」のあらすじ・感想・レビュー・試し読み|切なく心揺さぶる「永遠の愛」のおとぎ話。

小説

伊勢原ささら先生「ピノと、彼の初戀」を読みました!

登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨

登場人物とあらすじ


天才人形師パオロの元弟子,送りびと×パオロが作った少年型の木の人形 のお話。

<あらすじ>
ピノは幼い男の子の姿をした木の人形。
心と魂を持ち、話したり動いたりできる。
突然姿を消した、父親代わりの天才人形師・パオロの帰りを1人で待っていた。

 

本作をもっとよく知るための小ネタ

①読みどころは、旅の中でピノがつらい運命を背負うことになりある決断をするシーン。

好きなシーンは、本編ラスト。結ばれた2人の笑顔のイラストは必見。

③思い入れのあるキャラクターはピノ。幼い頃から伊勢原先生はピノキオのお話が好きで、楽しくて無邪気な木の人形が家族だったらいいのにと思っていたそう。ピノは先生の憧れ、理想の人間像という感じ。パオロのように老後はピノと暮らしたい(笑)

引用:『ピノと、彼の初戀』発売記念 伊勢原ささら先生インタビュー&お試し読みページ|コミコミスタジオ

 

こんな人におすすめ

  • 絵本のような、優しくてあったかいBL小説が読みたい😭💕
  • yoco先生の絵でBLを楽しみたい🖼️✨
  • 伊勢原ささら先生作品が好き📚✨

 

ネタバレ感想

①人間以上に人間の優しさと愛に溢れた、木の人形・ピノ(受け)に心奪われる

ほっこり、男性、ハート

魂を持った木の人形(魔法人形)・ピノ。彼は底抜けに明るく、優しく、人への愛に溢れています。

例えば、ピノを作った人形師・パオロを探して尋ねてきた弟子のラウルは、「人形の魂を天に葬る」という能力を持っており、彼自身はそのことをひどく嫌がっていました。本当は師のように魅力的な人形を作りたいのに、自分は魂を奪うことしかできない。きっと人形師にも、人形たちにも、嫌われ、恨まれているだろう…と。しかし、ピノは

ねぇ、天国は人が亡くなったら行く所でしょう? 人形も行けるの? なんか嬉しいな。

そう言って、

おれは、ラウルが好きだから。これからもずーっと大好きだから。誰かに嫌われても、もう大丈夫だよ。

と笑うのです。ピノの言葉に、ひとりぼっちのラウルはどれほど救われたでしょう。

また、パオロを探す旅の途中で、ピノはアンジェロというパオロと親しかったらしい人間に出会います。アンジェロはパオロと会いたいと願いながらも、長い間、盗賊に攫われた後、慰み者になっていたことを恥じます。どうにか彼らの魔の手から逃げ延びたものの、穢された体をパオロはどう思うだろうかと、アンジェロはピノに不安を吐露するのです。
すると、ピノはこう言います。

アンジェロは大変な中で、ずっとその人を想い続けてきたんでしょう? アンジェロの心は綺麗なままだから、体もだよ。体より心のほうが大事だもの。

体が穢されても、パオロを一途に思い続けてきた心の方がずっと大事だと、アンジェロがパオロと会えるように背中を押してくれるのです。ずっと誰にもその秘密を打ち明けられず苦しんでいたアンジェロは、ピノの言葉に落涙します。

この2つのエピソードだけを聞いても、ピノがどれだけ思いやり深く、優しい、愛に溢れた人形かが分かると思います。

ラウルはのちに、

おまえは人間よりも人間らしい心を持ってる。そしてそれを、惜しまずに誰かに向けられる。おまえの存在に、アンジェロも俺も救われた。

とピノに感謝しています。あの意地っ張りで、人に感謝するのが苦手なラウルが!

人間よりも人間らしい、人間以上に優しさと愛を持った人形・ピノ。彼の底抜けの明るさと無邪気さに触れるたび、心が洗われるような心地になります。

 

② ピノ(受け)だけでなく、ラウル(攻め)の成長物語でもある

この物語は、基本的には、人形師パオロに大事に育てられていた木の人形・ピノが、パオロの弟子・ラウルと、行方不明のパオロを探しながら成長していくお話です。
しかし、同時に、頑固で、後ろ向きで、冷淡なラウルの成長の物語でもあります。

身寄りのないラウルは、パオロのように人にそっくりな人形が作れるようになれば寂しくないと思い、人形作りを始めました。しかし、ラウルはひどく人形作りが下手で、それどころか、人形から魂を抜き取って天に葬るという「送りびと」としての才能に秀でていました。
人形たちに命を吹き込むどころか、命を奪うことしかできない。そんな自分を、ラウルは誰よりも嫌悪していました。

しかし、ピノと旅をする中で、ミケーレとジュリオという死にかけの人形に出会います。苦しみを取り除いてほしい。天に送ってほしいと願うミケーレは、今際の際にラウルに必死で伝えます。

ラウルがいてくれるから……みんな、安心できた……。パオロに守ってもらえなくなったら……ぼくたち、自分では天国に行くこと、できない……。でもラウルが、苦しいのを……終わりにしてくれるから……。

微笑みながら旅立つミケーレに、ラウルは衝撃を受けます。人形はみんな、自分を恨んでいる、憎んでいるはずだと思い込んでいたのです。

また、ピノが決死の思いで見つけ出した、恩師のパオロの日記には、

ラウルを私のそばに置いてくださった神に、心から感謝する。魂を天に送る彼の能力は、魔法人形たちにとって大いなる救いだ。彼がいなかったらすべての魔法人形は、終わりのない苦しみを恐れ続けなければならなかっただろう。私の愛しい弟子、ラウルの存在そのものが、神の恵みに違いない。

と書かれていました。ラウルはそれを読み、自分の仕事は世界の誰からも望まれていないと思うことを改めるのです。

人を避け、世界を嫌い、孤独の中にいたラウル。ピノと出会い、彼は自分が世界に、人形に必要とされているのだと気づき始めます。ピノに無条件に愛され、ラウルは愛されること、愛することの幸福にも気づいていきます。心の硬い殻を少しずつ破っていくラウルの様子は、まるで怯える雛が成長していくかのようで、深い感動を覚えます。

 

③わがままを言わないピノ(受け)の「お願い」に号泣

流れ星、お願い、星

ピノはいつも、誰かの幸せのために生きていました。元気なのも、明るいのも、誰かを幸せにするため。自分のためのわがままなんてなかなか言いません。けれど、ピノはラウルと心も体も結ばれて幸せだと思った時、ラウルにひとつだけお願いをするのです。

おれ、ラウルが最後に送るお人形になっていい?

きっとこれは、ピノなりの最大級の「愛してる」なのだと思いました。でも、どうしてそんなこというの、いつまでも2人で幸せに生きてほしい、という読者である自分の悲しみも押し寄せてきます。

人間も人形も、命にはいつか終わりが来る。でも、その最後に2人でいたい。あなたにとって最後の人形でありたいと願うピノのいじらしさ、愛に、私は何度でも嗚咽してしまいます。

 

まとめ

魂を持つ人形・ピノは、自分を作ってくれた恩人パオロを探すため、彼の弟子であるラウルとともに旅に出ます。
しかし、ラウルは人形の「送りびと」(人形の魂を天国に葬る人)であり、人形師からも人形から疎まれているようでした。
底抜けに明るいピノと、陰鬱なラウルの凸凹コンビは、旅の中でさまざまな出会いと時間に出会います。

パオロと山奥の小さな家の中で静かに日々を暮らしてきたピノは、ラウルと旅をする中でたくさんの情報を得て、ぐんぐんと心が豊かに成長していきます。
それと同時に、人形師からも人形からも疎まれていると信じきって孤独だったラウルも、ピノに影響されて少しずつ変化していきます。

ピノの一途で健気な愛。そして、それに応えるパオロの強さと優しさ。
まるでディズニー映画のような、愛と希望に満ちた物語に、読み進めるほど胸がいっぱいになり、涙が止まらなくなります。

優しい、あったかいBLが読みたい。BLに癒されたい。幸せな気持ちになりたい。
そんなあなたに、激推ししたい名作です。

ピノと、彼の初戀
作者:伊勢原ささら
ピノは幼い男の子の姿をした木の人形。心と魂を持ち、話したり動いたりできる。突然姿を消した、父親代わりの天才人形師・パオロの帰りを1人で待っていた。

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