さとむら緑「誘蜜リコリス婚姻譚」のネタバレ感想|俺様な製薬会社営業×妖怪を誘引する体質の研究員 複雑に絡み合った2人の恋心はどこへ向かうー?

小説

さとむら緑先生「誘蜜リコリス婚姻譚」を読みました!

一作目「いちご牛乳純情奇譚」、二作目「月夜ぎんいろ山犬異聞」と同じ世界観のお話になっています。それぞれのネタバレ感想はこちら⬇️

登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨

登場人物とあらすじ

無礼な製薬会社営業×妖怪を誘引する体質の研究員 のお話。

<あらすじ>
フェロモンで妖魔を誘う「人餌」体質の丹緒は、外に出ると襲われるため、兄が経営する製薬会社で平和に軟禁されつつ研究者として働いていた。
ある日、研究室に配属されてきた千加也が「あんたを自由にする代わりに、実兄を陥れろ」と取引を持ちかけてくる。
丹緒は断固拒否したが、千加也は毎日やってくる上に「甘い匂いがする」と丹緒を嗅ぎ始め…!?

 

こんな人におすすめ

  • 緻密に描かれる社内政治にドキドキしたい👔
  • 人外と人が共存する社会を楽しみたい👻
  • 人外と人の種族を超えた愛を噛み締めたい💕

 

ネタバレ感想

①人外と人が共存する社会が生々しく丁寧に描かれる

本作の面白さは、やはりなんといっても「人外と人が共存している」という前提条件です。

主人公の千眼寺丹緒(受け)が勤める大手製薬会社・千眼寺製薬も、人向けだけでなく人外向けに薬を創り、販売しています(しかも人外向けの薬の売上が割合多い)。さらには社員の中にも人外が多く含まれており、社員同士はそのことについて理解してはいないものの、人外の社員は人外に対して特殊な体質を持つ丹緒とともに研究を進めたり、丹緒を守るなどの役目を背負っています。

本作ではそういった人外の存在のことを基本的には「妖魔」と呼ぶのですが、この妖魔と人間との共存のあり方がとにかくリアルです。
実は今の日本にもこういった製薬会社が存在していて、妖魔たちが活躍しているのでは…と思わせるほど、社会で働いたり、逆に人に悪さをしたりするさまが生々しく、詳しく、描かれています。

また、人間と妖魔の間のような存在もおり、例えば丹緒の兄である正甫は「薬売り」といって、妖魔を捕まえられる存在です。人間に仕えている妖魔もおり、それは例えば山犬である、灰脊未知留(正甫の社内弁護士兼社長秘書)が挙げられます。

このように、社会の縮図である会社の中だけでもこれだけ、人間から妖魔までのグラデーションとなる人々が存在しており、特に妖魔に近い存在はお互いが妖魔であることを認識しながら過ごしているようです。
読み進めるほどに、もしかしたら自分の周りにも実は妖魔がいるのに、自分が気づいていないだけではないかと思えてきてワクワクさせられます。

 

②狼男と人餌の種族を超えた愛

主人公の丹緒は、妖魔を誘引するという特殊な体質を持っています。彼は「人餌」という存在であり、「薬売り」が妖魔を効率よく狩る(妖魔を狩って薬にするため。妖魔の毒は人には催淫効果などがあったため)ために作り出された存在です。「人餌」は230年近く前から存在しており、妖魔を誘引させるために使い捨てられる存在です。
妖魔は人餌を苗床にして繁殖したがる性質があるため、歴代の人餌たちはそのように犯し尽くされて死んだり、精神が錯乱して死んだりと、基本的には薬売りの妖魔狩りがあるたびに死の危険に晒されていました。
ただ、丹緒に関しては例外で、人餌、そもそも弟にそのような非人道的な扱いをしたくないと願った現薬売りである正甫のおかげで、彼は狩りとは無縁の生活を送れています。ただし、不用意に外に出れば妖魔に襲われるため、基本的には正甫の用意した研究室付きの特別な部屋の中で過ごす、外に出る時は身の回りを警護してくれる妖魔付き、という条件付きでしたが。

一方、丹緒の叔父である斎木専務の甥っ子、斎木千加也(攻め)は狼男です。ただしこちらは丹緒のように自分が何者であるかを知らされておらず、長い間、「持病の薬」と偽って狼男に変身しないように抑制剤を飲まされていました。

狼男は、妖魔です。つまり、人餌である丹緒のフェロモンに当てられてしまう存在です。
千加也は斎木専務が千眼寺製薬を乗っ取る計画のために丹緒を引き込むように(最終目的としては番になるように)命じられており、丹緒に「外に出してやる」と甘い言葉を囁いたり、逆に「実の兄貴とできてるって噂は本当か」と煽ったりして、揺さぶりをかけます。しかし、正甫に人餌としての運命から救ってもらった恩がある丹緒は断固拒否。千加也の思惑は外れてしまいます。

しかしここからが丹緒の情に脆い(ちょろい)ところで、千加也が母子家庭で苦労しただとか同期からはぶられているという話を聞いたり、自分の作ったカレーを食べたいとねだられたりすると、急に彼に感情移入して好意を抱き始めてしまうんですね。
これは丹緒が妖魔を引きつけてしまうせいであまり多くの人間と関わってこられなかったせいかもしれません。
とはいえ、丹緒は千加也への同情から好意を抱き始め、さらに千加也の出す狼男のフェロモンに当てられ、発情してしまいます。千加也に抱いている好意はフェロモンによる本能的なものなのか、それとも人間としての愛情によるものなのかをわかりかねる丹緒でしたが、結果的には千加也を番にすると決心します。

千加也が斎木専務とどこまで結託しているのか分からない状態でも、彼を信じて駆け落ちしようとする丹緒。その無邪気で一途な愛は、痛々しいほどです。
彼の自分への愛は本能によるものかもしれないと思いながらも、自分の心に湧く愛を止められないから、千加也を信じて愛する。自分の心には嘘をつけないと、自分も他人もまっさらな心で信じる丹緒の美しい心に、心を打たれます。

 

③ 社内政治の緊迫感に息を呑む

千眼寺製薬の現社長は、正甫。しかし、正甫の兄弟である斎木専務は、ずっと社長の座を狙い続けています。
そして社長の座を射止めるためにとある計画をします。

まず、狼男である甥の千加也(長年自分から金を融通してもらっており、大恩があるため裏切られない確証がある)を人餌である丹緒のもとに送り込み、二人を番にする。そうして丹緒から「正甫に研究室に閉じ込められていた」と告発させ、その悪評で正甫を引き摺り下ろすつもりだったのです。
ただ、千加也と丹緒を番にさせるためには、千加也が狼男として覚醒し、丹緒の人餌のフェロモンに食いつかなければなりません。長年狼男の力を封じ込めていた千加也を覚醒させるためには妖魔をけしかけて刺激する必要があり、斎木専務は研究所にかけられた正甫の護符の威力を弱めて妖魔を呼び込み、千加也を狼男にすることに成功します。

とはいえ、妖魔が入り込んだことで斎木専務の工作がばれて正甫からお咎めを受けるのですが…ここで終わらないのが斎木専務。
今度は、人外の存在を知らない役員や株主たちに「正甫は研究室で人外の人体実験をしている」と噂を流し、彼を失脚させようとします。

こうして、正甫と斎木専務の激しい対立がたびたび描かれるのも本作の面白いポイントです。斎木専務はとにかく千眼寺製薬の社長という肩書きにこだわっており、そのためには妖魔も使うし買収もするしとあらゆる手を使ってきます。
あの手この手で正甫を妨害しようとしてくる斎木専務はうっとうしいのですが、同時に、次は一体どんな手を繰り出してくるのかと楽しみにもなります。

まとめ

妖魔を誘引してしまうという特殊体質のため、大手製薬会社・千眼寺製薬の特別な研究室で人外向けの薬の研究に励む千眼寺丹緒。しかしある日、彼の元に新人営業マン・斎木千加也がやってきて「お前を逃してやる」と甘く囁いてきますが…。

人外(妖魔)と人が共存する世界で起こった、妖魔と人との異種間恋愛。自分の好意は妖魔に刺激された本能としてのものなのか、それとも人間としての理性に基づいた愛情によるものなのかを悩む主人公の姿は、決して他人事ではなく、外見か内面かで悩んだり、理性か性欲かで悩むような私たち人間同士の恋愛と何ら変わるところはありません。

正解のない世界の中で、自分なりの正解の愛を見つける難しさを改めて教えてくれる作品です。
愛する人、大切な人との付き合い方に悩んだ時、ふと読み返したくなる一冊です📚✨

誘蜜リコリス婚姻譚
作者:さとむら緑
フェロモンで妖魔を誘う「人餌」体質の丹緒は、外に出ると襲われるため、兄が経営する製薬会社で平和に軟禁されつつ研究者として働いていた。ある日、研究室に配属されてきた千加也が「あんたを自由にする代わりに、実兄を陥れろ」と取引を持ちかけてくる。丹緒は断固拒否したが、千加也は毎日やってくる上に「甘い匂いがする」と丹緒を嗅ぎ始め…!?

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