さとむら緑「いちご牛乳純情奇譚」のネタバレ感想|純情可憐な吸血鬼の、小さな恋の物語

小説

さとむら緑先生「いちご牛乳純情奇譚」を読みました!

二作目「月夜ぎんいろ山犬異聞」、三作目「誘蜜リコリス婚姻譚」と同じ世界観のお話になっています。それぞれのネタバレ感想はこちら⬇️

登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨

登場人物とあらすじ

町の小児科医×実は吸血鬼の女装占い師 のお話。

<あらすじ>
人間の血の代わりにいちご牛乳だけを飲んで生きる人畜無害な吸血鬼のアキ(受け)は、妖怪仲間とともに占い師として生計を立てています。
ある夜、「薬売り」と呼ばれる妖怪退治屋に殺されかけたところを、近所に住む町医者の伊勢彦(攻め)に救われ、その後も何かと気にかけてくれます。
初めてできた「人間の友達」にアキは夢中になるけれど、なぜか彼からは甘い美味しそうな匂いがして…?

 

こんな人におすすめ

  • 性豊かなキャラがわいわいしている様子を見るのが好き🎵
  • 一途で健気なかわいい受けが好き❤️
  • 妖怪、ファンタジーという言葉にワクワクする!

 

感想

①あまりにも孤独で健気な、お人好し吸血鬼150年の人生

田舎から奉公に出された150年前に、海の向こうからやってきた吸血鬼に血を吸われて吸血鬼になった田中明こと、アキ(受け)。
吸血鬼になったアキは当然人間の血を吸いたい衝動に駆られますが、生来のお人好しな性格のためにそれができず、いちご牛乳という初めて味を感じられる食べ物に出会うまでは、残飯を漁ったりしてどうにか生きながらえていました。
生まれた村は数年前にダムの底に沈み、昔の自分を覚えている人など誰もいません。不老不死である自分を悟られないようになるべく人間に関わらないようにも生きていました。
しかし、アキはある日突然「薬売り」という、アキたちのような妖怪を殺しては薬にする人間に命を狙われます。その危機を救ってくれたのが、近所の小児科医である温海伊勢彦(攻め)でした。

吸血鬼になってからはなるべく人と関わらないように、妖怪の知り合いなどいるはずもなく、ただただ日本全国を転々としながら、日銭を稼いで生きていたアキ。
たまたま上野公園あたりをうろついていた時に、メデューサの末裔である夏目響に占い師としてスカウトされなければ、今もまだひとりぼっちのままだったでしょう。
アキは占い師仲間の妖怪たちにも、命の恩人である伊勢彦にも心を開いていますが、その実、彼らと寿命が絶対的に違うことも分かっていました。いつか来る、大好きな人たちが死んだ後の世界を一人で生きなければいけないこと。それこそが、アキの心に巣食う一番の悲しみであり、孤独でした。

毎日賑やかな仲間たちに囲まれながらも、アキは心の底からはしゃいでいないというか、文章からでさえも、どこか頼りなく、寂しそうに感じられました。
それはきっと、アキが心の奥底に「いつかお別れしなくてはいけなくなり、その後が辛くないように」と準備しているのをなんとなく感じ取れたからかもしれません。

たとえ妖怪同士だとしても、吸血鬼の寿命の長さは圧倒的。ほとんどの妖怪はいくら人外の仲間とはいえ、自分より早くに死んでしまう…そう考えると、誰と出会っても、誰と仲を深めても、余計な苦しみを生むだけだとも思えてしまいます。
なのにアキは響が繋いでくれた縁に感謝し、伊勢彦がかけてくれるささやかな好意に全身全霊喜んでいました。
それを見て、私は…自分がなんと短絡的な人間なのかと反省したのです。

アキは愛する人々との別れを予期して寂しさを感じはこそしても、人々と交わること、人々と交わることで得られる悲喜交々の出来事に決して絶望していなかったんです。
生きることに辛い時期(食べられるものがない、働く場所や寝る場所がない…など)もあったのに、それでも決して辛い辛いと誰かや自分を責めたりしない。誰かとの縁を一生懸命に大事にして、愛そうと努力するアキはなんて素晴らしく尊い存在なのだろうと感動したのでした。

 

②一途で健気な、アキから伊勢彦への愛に号泣

ほっこり、男性、ハート

アキの好意はあまりにもダダ漏れで、本人は気づかれていないと思っていましたが、伊勢彦にはバレバレだったようです。伊勢彦はアキに告白しますが、アキは種族の差や寿命の差を不安に思うあまり、伊勢彦の気持ちには応えられないと振ってしまいます。
しかし、伊勢彦はそれでも諦めきれず…アキに会いに行こうとしていた矢先、アキがかわいがっていた地域猫が車に轢かれそうになっているのを見てしまい、夢中で車の前に飛び出してしまいます。

車に轢かれて瀕死の伊勢彦を見つけたアキは、薬売りに、世界的にも貴重と言われる吸血鬼の心臓…つまり自分の心臓をあげるから、代わりに伊勢彦を助けてほしいと懇願します。薬売りに願いを聞き入れられた途端、アキの意識は混濁してしまいます。

アキにとって、伊勢彦は初めてづくしの相手でした。
吸血鬼になってから150年の間に初めてできた友だちであり、初めて優しくしてくれた人間であり、初めて好意を持った相手であり、初めて「美味しそうな血」だと思った相手であり、初めてキスをした相手であり、初めて…命を賭けても救いたいと思うほど愛した相手でした。
自分が薬売りに殺されると分かっていても、それでも伊勢彦を助けたい、伊勢彦が助かれば多くの人の命が救われるからとその身を投げ出すアキの覚悟に、私は涙が止まりませんでした。
アキは死を恐れていないわけではありません。薬売りに殺されることを、アキは何より恐れていました。それなのに、そんなに怖いことなのに、アキは伊勢彦を救うためならば、薬売りに殺されてもいいと思ったんです。それだけ、伊勢彦を愛していたんです…。

アキの伊勢彦への、海のごとく深くて強い愛情。「俺の心臓をあげるから、伊勢くんを助けて」と泣きじゃくるアキを見るたび、私の心はアキへの愛おしさで締め付けられます。

 

③個性豊かな脇役たちの活躍に大興奮

本作にはとにかく魅力的な脇役たちがたくさん登場します。

まずは、アキを占い師としてスカウトしてくれた、メデューサの末裔である夏目響。占い師仲間である稲荷十三郎(妖狐)と小南としえ(ぬりかべ)。3人はアキも妖怪だと知っているので、赤裸々な相談事に乗ってくれます。
そして、アキに懐いている地域猫のべっちん、びろうど、ゴールテン。彼らの名前は、アキが廻船問屋で丁稚奉公していたときに舶来の珍しい布を教えてもらったので、そこから名付けました。
他にも、伊勢彦の病院に勤める阿吽像のようないかめしい顔立ちの看護師・須藤と佐伯。頻繁に病院にお世話になっている松田ママと息子のヒロミチ。先代の院長(伊勢彦の父)と仲が良かったおばあちゃんのカヨ、などなど。

照れが優ってなかなか好意を伝えきれない伊勢彦の背中を押すように看護師や患者たちがアドバイスしたり、噂話をしてくれたり、伊勢彦とのさまざまな差を感じて踏み出せないアキを同僚たちが優しく抱きしめたりと、二人の恋を周りのみんなが全力で応援してくれるんです。
それぞれの存在が二人の恋路にとっての良いスパイスになっていて、読んでいて少しも飽きることがありませんでした!

 

まとめ

お人好しな吸血鬼の田中明ことアキは、人の血を吸えない代わりにいちご牛乳で生きながらえていました。しかしある日「人の血を奪っている」と「薬売り」に勘違いされて殺されかけますが、町医者の温海伊勢彦に助けられます。

初めて優しくしてくれた人間、そして初めてアキを友だちだと言ってくれた人…アキがどんどん伊勢彦に好意を抱き、それが恋慕へと変わってあたふたする様子を見ていると微笑ましく感じられます。
でも、伊勢彦は人間で、アキは吸血鬼。不老不死の吸血鬼が、人間と添い遂げられるはずもなく…。アキと伊勢彦がたがいに好意を抱きながらも、おたがいを想うがゆえに近づけず苦しむ姿は本当に辛かった…。
でも最後は、誰もが幸せになれる最高のエンドでした!!!

ピュアの極みのような一途で健気なお人好し吸血鬼と、そんな吸血鬼を放っておけずになにかと世話をしてしまう情に厚い兄貴肌の町医者の、甘くて切ない、優しいラブストーリー。
東京は上野の下町で繰り広げられる最高級の恋物語です。あなたもぜひ賑やかな彼らの一員になった気持ちで楽しんでみませんか?🍓🥛✨

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いちご牛乳純情奇譚
作者:さとむら緑
いちご牛乳だけを糧に生きる人畜無害な吸血鬼のアキは、妖怪仲間とともに占い師として生計を立てている。ある夜、「薬売り」と呼ばれる妖怪退治屋に殺されかけたところを、近所に住む町医者の伊勢彦に救われた。優しくて男気のある伊勢彦は、詳しい事情も訊かず怪我の手当をしてくれた上に、その後も何かと気にかけてくれる。

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