葵居ゆゆ「とろけるまで縛って」のあらすじ・感想・レビュー・試し読み|SMプレイマスター×スレイブの屈折した純愛

小説

葵居ゆゆ「とろけるまで縛って」を読みました!

登場人物とあらすじ、どんな人にオススメなのかなど、ネタバレ感想とともにがっつりご紹介します!☺️✨

登場人物とあらすじ


憧れの上司,S×無邪気な会社員,M のお話。

<あらすじ>
思いがけず痛みで快感を得てしまった星卯は、憧れている職場の先輩・波留河に相談した。
すると、試してみようと尻を叩かれ、未知の愉悦に身悶えてしまった。
恋人が見つかるまで仮の主人となってもらうも、やがて波留河への恋心を自覚する。

 

こんな人におすすめ

  • SMプレイに興味がある👀
  • 臨場感ある濡れ場をたくさん読みたい🛌
  • 恋愛観の全く合わない二人が変わっていく様子を見つめたい❤️

 

ネタバレ感想

①「Mを疲弊させて壊すS」波留河の複雑な恋愛観(恋人≠スレイブ)

前提として、攻めの波留河は「服従することで恍惚とできる卑しい人間の愛など信じられるはずもない」と思っているので、スレイブがどんなに愛を語っても恋人に昇格することはありません。しかし同時に、「気がついたときには 普通には他人を愛せなかった(=SMプレイでしか愛を感じられない)」という矛盾を抱えています。

さらに、スレイブに対しては、「徹底して調教しなければ気がすまないのに、調教が終わって絶対服従するスレイブは信用ができない」とも語っており、調教できていないスレイブにも調教が完了したスレイブにも愛を感じられないと語っています。

しかも、「ある程度嗜好が一致する相手とパートナーになるけど だいたい七、八回もプレイしたら別れるよ。二桁ヤるまでパートナーでいたことはない」とも話しており、スレイブとは短期的な交際しかしないとも明言しています。

これらのことから、波留河にとっては恋人はスレイブでなければならないものの、どんなスレイブも気に入らないので、スレイブ=性欲処理としか考えていないことがうかがえます。

SMクラブでの波留河の友人・三嘉村も、「波留河は、Mを疲弊させて壊すSなんだ。ちょっとでも気に入ってるときのほうがきついんだ。相手ができないことをやらせておいて本気で冷めるわけ」と言っています。これは、波留河の自認する性質と合っていますね。

実際、波留河は受けの星卯が自分の命令をうまく遂行できなかったり(波留河の要求が高すぎる場合が多い)、星卯が無意識に恋人っぽい言動をしたり(波留河にとって恋人≠スレイブなので)すると、余計に冷たくしたり、侮蔑の言葉を投げかけたりして辛く当たっていました。

ただ、星卯は波留河のことが純粋に人間として好きなので恋人になりたいと思っているし、同時に、頑張って波留河の要求に答えれば「いいスレイブ」になれて、恋人=スレイブのいい関係になれるのではと考えているので、そこが波留河と決定的に違うところなんですよね。波留河はどんなスレイブでも満足することがないので、星卯がどんなに頑張ろうと無意味なんです。
とはいえ、楽観的な星卯は安易な気持ちで「波留河にとっていいスレイブであり恋人になりたい」と調教されることに踏み出してしまい…。

星卯が頑張れば頑張るほど、波留河が他人行儀になっていくさまは辛かったです。とはいえ、波留河も無邪気な星卯と接するうちに変わってくるのですが…。

 

②痛いのが気持ちいいM・星卯の「好き」の難しさ

もともと星卯はノーマルな性的嗜好しか持っておらず、28歳になるまで女性としか付き合ったことがありませんでした。
しかし、たまたま実家の階段から落ちた時に尻を強く打ち付けてしまい、そのはずみで勃起し、痛む尻を階段に押し付けてみたら思いの外気持ちよくて…というところから、「自分はMかも」と疑い始めたのでした。

星卯は痛いのが好きではあるものの、フラれた元カノから痛めつけられる想像をしても全く興奮しません。
そして、波留河と出会って、彼にSMプレイをしてもらうようになってからは、波留河のいないところでは萎えてしまったりと、「誰に痛めつけられるか」を重視するようになっていきます。

実はもともと星卯は波留河のことをとても好きで、そのせいで元カノに振られるほど(「星卯は波留河さんの話ばっかり!」と言われてフラれた)だったので、波留河のことは無自覚にLOVE寄りの気持ちを抱いていたんですね。

でも波留河からすれば、SMプレイを始めたら突然星卯が「好き」と言い始めたので、「SMプレイをしてくれる人なら誰でも好きだと言う節操の無い奴」のように見えてしまったんですね。

そう勘違いされてもなお、星卯は波留河を好きだと言い続け、波留河だからこそプレイをしてほしい、波留河に与えられる痛みだからこそ気持ちよくなれるのだと必死で主張するのですが…。

あまりにもガチガチに凝り固まった波留河の歪な恋愛観と、それとは相反する真っ直ぐすぎる星卯の恋愛観は、まさに水と油。
それでも星卯はめげずに波留河にアタックし続けます。

 

③息つく間もない濡れ場の連続!でも、エロだけではない心理戦がそこにある

本作はSの波留河の恋人兼スレイブにしてほしいと願う星卯のSM奮闘ラブストーリーであり、そのために、お話のほとんどの部分をSMプレイ(えっちなシーン)が占めています。

そんなに濡れ場が多かったら飽きそう、と思う方もおられるかもしれません。ところがどっこい!!葵居先生の濡れ場はただの濡れ場じゃないんですよ。

「ムシシリーズ」や「パブリックスクールシリーズ」で有名なBL小説家の樋口美沙緒先生もお話しされていましたが、「濡れ場は心理描写」。つまり、濡れ場は攻めと受けの心の変化を描くシーン、セックスというお互いの一番弱くて脆い無防備な部分(心身ともに)に触れることで、よりお互いの正直な思いを曝け出すシーンであるということです。

葵居ゆゆ先生の濡れ場は本作に限らず全ての著作でそれが実行されているので、ただエロいだけではなくて、なぜそういうセックスをしたのか(プレイ内容、互いにかける言葉や態度の内容)、セックス中にお互いがどんな反応をしていたのか、特に主人公側(受けであることが多い)は快感を感じたか?感じたのであればどんな快感を感じたか?それはなぜ感じたのか?(性感帯に触れられたからというだけではなく、攻めのどんな言動に触れてその快感は引き出されたのか?)がつぶさに描かれているんです。

だから、一つ一つの濡れ場にめちゃめちゃ「意味」が込められてるんですよ。なので、濡れ場を読めば読むほど攻めと受けがそれぞれ何を考えているのかが見えてくるし、今回は体を重ねても心は離れたままだな、とか、むしろ心は遠かったな、とか、今回はすごく心が近づいたな、とか、毎回全然違う感情を得られるんですね。

それに、葵居ゆゆ先生はとにかく「快感」の描き方がうまい!!
私は昔から「葵居ゆゆ先生の濡れ場にはシズル感がある」と言い続けているんですが、これは、読者がその描写力に性欲を掻き立てられたり、まるで自分が主人公の快感を追体験しているかのように感じられるほど生々しく描いておられる、という意味で使っています。
本作でもその才能は遺憾無く発揮されています。

私は「痛い(タバコの火を押し付ける、刃物で切りつけるなど)」「汚い(スカトロ)」「怖い(脅すなど)」のプレイが苦手で、そういう作品を避けて読んできたんですが、星卯は「痛いことで快感を感じる」タイプのMなんですね。あらすじを読んで自分には合わないかもしれないと気弱になりながら読み始めたら、びっくり仰天。「痛み」の苦しさは一応描かれてはいるものの、それによる「快感」の歓びが丁寧に描かれているので、すごく楽しく読めたんです!!

どのプレイでもだいたい波留河が星卯を痛めつける(例えば乳首を抓る、背中を縄で叩く、強引にアナルに異物を捩じ込むなど)シーンはあるのですが、星卯が本当に気持ちよさそうで、その快感の素晴らしさが丁寧に描写されているので、「そんなに気持ちいいのか…!」と感動さえ感じるほどでした。

濡れ場が多い作品は苦手、という方でも、本作はセックス=心理描写的な側面が強いので楽しく読めるのではないかと思います。

 

まとめ

彼女にフラれて傷心の会社員・松上星卯は、うっかり階段から落ちた時に尻をしたたかに打ったその痛みで勃起してしまいます。痛みでしか反応しない自分は変態なのではないかと悩む星卯に、優しく尊敬できる上司の波留河希一は「SMプレイを試してみる?」と誘ってきて…。

主人公の星卯が「痛い=気持ちいい」というタイプのMなので、ムチで叩いたりするシーンはあるのですが、あくまで痛みよりも「気持ちいい」という快感を強く描写されているので、「痛いのは苦手」という方も楽しく読める作品です。

また、特に私が好きなポイントは、攻めの波留河の面倒臭い恋愛観。SMプレイがないと愛を感じられないので、恋人はスレイブ(SMパートナー)でないとダメ。なのに、躾きらないスレイブは許せないし、躾きったスレイブには興味がなくなってしまう。そんなわがままな人なので、当然恋人はおらず、SMプレイ相手のスレイブはお互いに性欲処理目当てというドライな関係です。
しかしそこに波留河を慕う、受けの星卯が突然現れ、波留河の恋人兼スレイブになりたいと立候補。波留河は星卯の真っ当な恋愛観に触れ、自分の凝り固まった恋愛観をめちゃくちゃにされていきます。その過程が、幸せでもあり、辛くもあり。とにかく波瀾万丈で面白いんです。

かなり偏屈な恋愛観を持っている攻め、特殊な性癖を持つ受け、そんな二人が出会って化学反応を起こす様を見たい!いろんなSMプレイを楽しむ二人を見たい!本当の意味での「SMプレイ」を垣間見たい!というあなたにぜひおすすめの作品です。

BL小説史上最高のSM作品であるといっても過言では無いでしょう!

とろけるまで縛って
作者:葵居ゆゆ
思いがけず痛みで快感を得てしまった星卯は、憧れている職場の先輩・波留河に相談した。すると、試してみようと尻を叩かれ、未知の愉悦に身悶えてしまった。恋人が見つかるまで仮の主人(マスター)となってもらうも、やがて波留河への恋心を自覚する。

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「とろけるまで縛って」の他同人誌情報

とろけるまで躾けて

同人誌「とろけるまで躾けて」は、遠距離恋愛中なのに星卯の機嫌がいいことを訝しみ、波留河がデート中にハードな調教するお話です。
波留河が星卯に(プレイで)当たり散らしてしまうシリアスなシーンもありますが、最後はラブラブなのでご心配なく❤️

「とろけるまで躾けて」のネタバレ感想はこちら⬇️

appreciation

同人誌「appreciation」は、「うさぎ」シリーズ、「とろけるまで縛って」、「愛されオメガ」シリーズ、「青の王と花ひらくオメガ」の番外編全4編を収録しています。
同じ臙脂色のネクタイをつけて写真を送り合う、調教(?)中のラブラブな二人のお話です。

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